楽しかった旅行も残り僅かだ。このホテルは 3泊目になるが、未だにシャワーのお湯の出し方がわからず、10分くらい試行錯誤を繰り返す。「脳を鍛えるホテル」とでも名づけようか。シャワーが終わるとすぐにチェックアウト。受付の女性の雰囲気が実に良い。
ミュンヘン中央駅に向かう途中、救急車の音。日本だとサイレンは「シ (H) - ソ (G)」の音程だが、ミュンヘンでは「ラ (A) - レ (D)」だった。A =430-440Hzくらいで、Dはその 4度上だ。日本のサイレンだと下降形の音程で 3度、ドイツのサイレンだと上行形 4度というのが面白いと思った。
朝食をホテルで取らなかったので、駅に着いてすぐホットドッグとビールを買って立ち飲み。日本の新聞にも目を通す。日本にいるときは、買ってまで新聞を読まないので、不思議な気分だ。
電車内では、車内販売のコーヒーを片手に読書。景色と本を交互に眺め、シューマンの著した「音楽と音楽家」を読み終えた。
フランクフルトに着くとまず、ホテルに向かった。今度のホテルは、直線距離は駅からそんなに離れていないが、大きな道路を渡らなければいけない。地下の通路を通ると簡単なのだが、スーツケースがあって階段が大変なので、迂回して信号を探した。
ホテルは「インターコンチネンタル」という高級ホテル。最終日だったので、リッチに過ごすことにした。このホテルはマイン川側とシティ側に部屋が分かれる。密かにマイン川側を希望していたが、残念ながらシティ側だった。でも、ホテル側の都合で、予約した部屋より高級な部屋を用意された。どんなに高級でも一人で使う分には、喜びは限られてはいるのだが。
荷物を置いたらすぐに散策だ。予定はシュテーデル美術館。一番心に残ったのはモネの『朝食 (Das Fruhstuck)』という絵だ。瞬きすると次の瞬間登場人物が動いているような錯覚に陥る。風景がなのに凄く時間軸を感じさせる絵で感動した。ネットでも絵は見られるが、実際に見ると全然違う。他に、ピカソやムンクの絵もあった。広すぎず、気軽に見学しやすい美術館なので、この文章を読んでいる方はフランクフルトを訪れるときには、是非見学して欲しい。
美術館見学を終えると、夕食をどこで摂ろうか悩んだが、コンサートの時間が迫っていたので、ホテルで摂ることにした。ワイン、ステーキとも最高!ドイツに来てから、最も美味しい食事だった。
コンサートはロリン・マゼール指揮、フィルハーモニー管弦楽団。当初はリッカルド・ムーティー指揮、イスラエル交響楽団の予定だったのだが、急遽変更になったのだ。マゼールは 79歳と高齢で昔の躍動感はなく、動きが少なかった。指揮台には掴まるための柵があった。
一曲目はベートーヴェンのエグモント序曲。いきなり崩壊しかかったのでヒヤヒヤした。出だしは管楽器が早めのテンポをとり、弦楽器が遅めのテンポだったので、ずれてしまったのだ。でも、マゼールは慌てることなく、管楽器を十分謳わせることでテンポを落ち着けていった。
二曲目はベートーヴェンの交響曲第 3番「英雄」である。あまり大きな傷はなかったが、少し盛り上がりに欠けた。その他に気になった点は、外声は綺麗なのだが内声が弱かったことだ。マゼールは元ヴァイオリニストだから、第 1ヴァイオリンなどに旋律ばかりを謳わせているからなのか、それとも柵を掴んで右か左を向いて指揮をしているから、第 1ヴァイオリンとチェロばかり目が合うようになるのか・・・まさかまさか・・・そんな冗談みたいなはなし・・・なんて考えてもみたが、考えすぎだ。多分的が外れている。外声を大切にするのが、マゼールの個性なのだろう。
最後は、ブラームスの交響曲第 1番。こちらは盛り上がりが凄かった。ベートーヴェンの時は、クライマックスでも最低限の動きしかしていなかったが、ブラームスになってからは全身を使って若い指揮者のように指揮していた。音楽は人を若返られるのだろうかと思った。マゼールにとっては、ベートーヴェンよりブラームスの方が、明らかに指揮しやすそうだった。
演奏会の休憩時間にいくらかワインを飲んでいたことも手伝って、壁の厚いホテルでは熟眠できた。