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フマル酸と PML

By , 2013年5月3日 7:58 AM

2013年4月25日の New England Journal of Medicine (NEJM) 誌に多発性硬化症の新規治療薬 BC-12 (フマル酸ジメチル) について懸念すべき 2例が報告されました。いずれもフマル酸内服中に進行性多巣性白質脳症 (progressive multifocal encephalopathy; PML) を発症しています。

PML in a Patient Treated with Fumaric Acid

74歳の女性が、乾癬治療のためフマル酸 (dimethyl fumarate <120 mg, monoethyl fumarate <95 mg) を 2007~2010年まで内服しました。2010年7月に感覚性失語が出現し、脳生検が行われました。髄液及び脳組織両者で JC-virus PCRが陽性でした。採血では grade 3のリンパ球減少がありました。骨髄穿刺では骨髄異形成症候群など血液疾患を疑わせる所見はありませんでした。2010年8月にフマル酸を中止し、mefloquineと mirtazapineが開始されました。免疫再構築症候群 (immune reconstitution inflammatory syndrome; IRIS) による一時的な臨床所見の悪化があり、methylprednisolone 500 mg 5日間を投与しました。状態は改善し、髄液及び血清 JC-virusは陰転化したものの、感覚性失語は残存しました。

PML in a Patient Treated with Dimethyl Fumarate from a Compounding Pharmacy

2012年5月に 42歳の女性が、進行性の右片麻痺を発症しました。患者は 9月に多発性硬化症を疑われ、ステロイドパルス療法を受けましたが、効果はありませんでした (その後、論文著者を second opinionとして受診)。彼女には乾癬の既往があり、2007年から Psorinovo 420 mg (腸溶剤徐放錠, dimethyl fumarateと グルコン酸銅を含有) を投与されていました頭部 MRI所見は PMLを示唆するもので、髄液 JC-virus陽性でした。採血ではリンパ球 200/ul とリンパ球減少がありました。血清学的に HIV陰性でした。PMLと診断し、Psorinovoの内服を中止し、mefloquineと mirtazapineで治療が行われました。免疫再構築症候群による増悪があり、 methylprednisoloneの静脈内投与を行いました。2013年1月31日には回復の兆しがみられました。

これら 2例はいずれもリンパ球減少症を伴っていたというのが重要かもしれません。IgG値などについては記載がありませんでした。製薬会社からのコメントがあります。

Manufacturer’s Response to Case Reports of PML

1例目の Fumaderm (Biogen Idec) には 4種類の成分があります (dimethyl fumarate and three monoethyl fumarates (calcium, magnesium, and zinc salts))。2例目の Psorinovo (Mierlo-Hout) はdimethyl fumarateの他に、copper monoethyl fumaric acidのような別の含有物があるかもしれません。

一方で、BG-12には成分として dimethyl fumarateしか含まれていません。フマル酸の成分によって異なった性質を持つことや、使用された状況などが PML発症に関与した可能性があります。BG-12の臨床試験では 2600人以上の患者を最長4年間まで観察しましたが、PML発症はありませんでした。

これまで得られた知見として、フマル酸を内服していてリンパ球の高度減少があると PML発症のリスクと言えそうです。内服を開始してから数年間安全に使用できたとしても、採血など、定期的なモニタリングは継続すべきですね。また一般論として、薬についての情報が増えるまでは、新薬は安易に使うべきではないという格言を思い出す必要があると思います。


(関連記事)

多発性硬化症の新薬

ライバルからのクレーム

BG-12承認

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最近の医学論文

By , 2016年9月21日 4:59 PM

不定期に論文のタイトルチェックはしているのですが、なかなか読む時間がとれず、月に 1日まとめて十数本斜め読みしています。例によっての備忘録。

A Randomized Trial of Focused Ultrasound Thalamotomy for Essential Tremor (2016.8.25 published online)

本態性振戦の第一選択薬はプロプラノロールとプリミドンです。日本だと β遮断薬のプロプラノロール (インデラル) が保険適用となっておらず、アロチノロールが保険適用となっています。同様に抗てんかん薬のプリミドンも保険適用となっていませんが、薬価が 30.7円/g程度なので、保険で切られても痛くはありません。プリミドンは錠剤で 250 mg使うと眠気がひどいので、散剤 25 mg程度から開始するのがミソです。その他に、いくつかの 2nd-lineの薬剤があります。第一選択薬になっている薬剤もそれほど効果があるわけではなく、30~50%の方では治療効果が期待できません。

そこで著者らは薬剤 2剤以上に抵抗性の中等度~高度本態性振戦に対して MRI下での超音波視床破壊術の RCTを行いました。3ヶ月後の手の振戦スコアの改善は、実治療群で 18.1→9.6, sham刺激群で 16.0→15.8%でした。実治療群では合併症として歩行障害と感覚障害 (異常感覚) が 36%, 38%に生じました。12月後において残存していたのは、それぞれ 9%, 14%でした。

確かに効果のありそうな治療ですが、合併症もそれなりなので、職業上の理由などでよっぽど困った場合、積極的には行わないかなと思いました。研究の limitationにも、破壊は片側性で同側には効かない、頭頸部、声といった軸方向の振戦には効果が弱いというのがありましたが、その辺もネックになってくると思います。

そういえば、昔、その筋の方で本態性振戦で困っている患者さんを診療していましたが、薬が効かなくて凄みが半減していてかわいそうだったのを思い出しました。

Antiviral Agents Added to Corticosteroids for Early Treatment of AdultsWith Acute Idiopathic Facial Nerve Paralysis (Bell Palsy) (2016.8.23 published online)

特発性顔面神経麻痺 (Bell麻痺) を診たとき、急性期であればステロイド投与が標準的治療となっています。それに抗ウイルス薬 (抗ヘルペス薬) を追加するかは、議論があるところです。

今回のメタアナリシスでは、ステロイド+抗ウイルス薬の方がステロイド単独よりも効果があり、3~12ヶ月後の完全回復をアウトカムとした NNTは 19でした。一方で、抗ウイルス薬単独のみでの投与は、プラセボと比較して有意差はありませんでした。

Bell麻痺と抗ウイルス薬

Bell麻痺と抗ウイルス薬

Zika Virus and the Guillain-Barré SyndromeCase Series from Seven Countries. (2016.8.31 published online)

ジカウイルスに 1000人に感染して 0.24人の Guillain-Barre症候群が生じるという試算があるようですが、実際に 7カ国でジカウイルス流行により Guillain-Barre症候群が増えたという報告です。ジカ熱は若い女性に多いけれど、Guillain-Barre症候群は年齢ととも発症リスクが高くなり、さらに男性の発症率は女性の 1.28倍 (rate ratio, 1.28; 95% CI, 1.09 to 1.50) だったらしいです。

zika-and-guillain-barre-syndrome

Zika-and-guillain-barre-syndrome

Gluconorm (repaglinide) New Contraindication for Concomitant Use with Clopidogrel (2015.7.31 update)

レパグリニド (商品名:シュアポスト) とクロピドグレルの併用で、低血糖リスクが高まり、カナダでは併用禁忌に指定されているようです。以下、Healthy Canadianのサイトから転載。

  • Co-administration of repaglinide and clopidogrel (a CYP2C8 inhibitor) may lead to a significant decrease in blood glucose levels due to a drug-drug interaction.
  • The concomitant use of repaglinide and clopidogrel is now contraindicated.
  • The prescriber information for GLUCONORM (repaglinide) has been updated. The prescriber information for PLAVIX (clopidogrel) is currently being updated. The prescriber information for the generic products will be updated (see Products affected).

神経内科では、脳卒中の二次予防にクロピドグレルを用いることがあるので、他科からレパグリニドが処方されていないかはチェックしておかないといけないと思います。日本では併用注意扱いですが、もう少し注意しておいた方が良いのかもしれません。

Association Between MRI Exposure During Pregnancy and Fetal and Childhood Outcomes (2016.9.6 published online)

妊娠の第2期 (second trimester; 14週0日~27週6日)、第3期 (third trimester; 28週0日以降) の MRIは安全性と考えられているようですが、最もこうした影響に感受性の高いと思われる第 1期 (first trimester; 0週~13週6日) が安全かはわかっていませんでした。そこで著者らは後ろ向きコホート研究を行いました。対象は 2003年4月27日~2015年3月4日までに出産ないし死産した母子です。16歳未満、50歳以上、20週以前の出産は除外されました。1576631の母子ペアが対象となり、うち 152526ペア (9.7%) が除外されました。その結果、第1期のどの時期においても、MRIの曝露により死産や新生児死亡、胎児危険、悪性新生物、視力低下、聴力低下は増えませんでした。一方で、ガドリニウム造影は、どの時期に行ってもリウマチ性、炎症性、浸潤性の皮膚障害や死産、新生児死亡が増加しました。

MRIと奇形リスク

MRIと奇形リスク

ガドリニウム造影剤とリスク

ガドリニウム造影剤とリスク

ということで、妊娠どの時期に MRIを行っても大丈夫そうではあるけれども、可能な限りガドリニウム造影剤は避けるべき・・・というのが結論になりそうです。ガドリニウム造影剤での奇形リスクは絶対的なものではないので、造影剤で検査しなければ診断がつかなくて生命が危険、という場合はメリットがリスクを上回る可能性がありますが、非常にデリケートな臨床的判断になりそうです。

Autoimmune Glial Fibrillary Acidic Protein Astrocytopathy: A Novel Meningoencephalomyelitis. (2016.9.12 published online)

自己免疫性髄膜脳炎の原因となる新しい自己抗体がメイヨークリニックから報告されました。アストロサイトに対する自己抗体です。

抗 glial fibrillary acidic protein (GFAP) 抗体による脳脊髄炎 16例の特徴として、

・発症年齢の中央値は 42歳 (21-73歳)

・性差はない

・頭部MRIでは脳室周囲に血管に沿った線状の造影効果 (linear perivascular enhancement) がみられる。

・頭痛、亜急性脳症、視神経乳頭炎、脊髄炎、姿勢時振戦、小脳失調が主な臨床症状

・髄液での炎症性変化が 93%にみられる

・悪性腫瘍が 3年以内に 38%にみつかる。内訳は前立腺及び胃食道の腺癌、骨髄腫、メラノーマ、消化管カルチノイド、耳下腺多形性腺腫、奇形腫であった。

・高用量ステロイドに反応するが、長期の免疫抑制なしでは再発しやすい傾向にある

というのがあるそうです。頻度としては抗 Yo抗体と同じくらい検出されるそうですから、決しては少なくないですね。MRIでの脳室周囲の線状の造影効果は lymphomatoid granulomatosisなどを思い起こさせますが、この髄膜脳脊髄炎も鑑別に挙げなければいけないというのは覚えておこうと思います。

Cheyne-Stokes Respiration, Chemoreflex, and TicagrelorRelated Dyspnea. (2016.9.8 published online)

Ticagrelorを脳卒中の急性期治療で用いた場合、呼吸苦での内服中断が 1.4%にみられるという論文を以前紹介したことがあります

今回著者らは、心臓収縮能・拡張能が保たれ、呼吸機能が正常で動脈血ガス分析が正常であったにも関わらず、ticagrelor (商品名ブリリンタ) 内服で持続する呼吸苦を訴えた患者に 24時間心肺モニタリングをした結果チェーン・ストークス呼吸が検出された症例を報告しました。Ticagrelorを clopidogrelに変更後、呼吸苦は消失し、呼吸パターンも正常化しました。同様の症例はほかに 3例あったそうです。

ticagrelorと心肺モニタリング

ticagrelorと心肺モニタリング

呼吸機能検査や血液ガス分析で異常が見つからないというのは怖いですね。Ticagrelor内服中の方が呼吸苦を訴えた場合の鑑別として、知っておかなければいけないと思いました。

Development of Interstitial Lung Disease after Initiation of Apixaban Anticoagulation Therapy (2016.4.15 published online)

NOACs内服中の間質性肺炎の報告はいくつかあります。国立循環器病研究センターから、アピキサバン内服中の間質性肺炎のサーベイランスについて報告されました。約 870名内服して 4名 (約 0.45%) が間質性肺炎を発症したそうです。発症者は全例高齢で腎機能障害のある日本人男性で、非弁膜症性心房細動のため内服していました。4名中 3名は喫煙者で、3名には肺疾患の既往がありました。呼吸苦は 3名では薬剤開始 1週間のうちに始まり、1名は 90日で始まりました。全例 mPSLパルス療法を受け、3名は人工呼吸器を要しました。2名は改善しましたが、2名は呼吸不全で死亡しました。1名は血中濃度が測定されており、390 ng/ml (健常者では ~130 ng/ml) でした。著者らは、高齢でハイリスクの患者にアピキサバンを開始するときは、呼吸機能を慎重にモニターする必要があるとしています。

考察に、日本のサーベイランスでは、2016年2月時点でアピキサバン 49名、リバロキサバン 100名、ダビガトラン 68名に間質性肺炎が報告されているそうです。いずれも処方機会の多い薬剤ですので、気をつけようと思いました。

The antibody aducanumab reducesplaques in Alzheimer’s disease. (2016.8.31 published online)

とても話題になった論文。アルツハイマー病のアミロイドβに対する治療は行き詰まっている中で、aducanumabが用量依存的にアミロイドβを減らし、進行を遅らせたというのは、画期的な結果でした。これまでアミロイドβに対するモノクローナル抗体が失敗続きだったことについて、著者らは抗体が脳の標的蛋白質に結合する能力が不足していたことや、患者選択が悪かったからではないかと推測しています。論文内容自体は、2015年3月の国際会議で発表されたのとほぼ同じだと思うので、それを纏めたブログを御覧ください。

この論文は画期的ではありますが私は 2点ほど懸念しています。一つは副作用で、10 mg/kg群では、32人中 10人 (31%) が副作用で治療を中断しています (プラセボ群では 10%)。最も多かったのは ARIA (血管原性脳浮腫 (アミロイド関連造影異常、amyloid-related imaging abnormality)) , 次いで頭痛です。ARIAは 10 mg/kg群の 47%でみられました。

もう一つは、データそのものについてです。Aducanumabがアミロイドβを排除してくれる抗体なので、用量依存的にアミロイドプラークが減少するという figure 2 a-cの結果は納得できます。しかし、認知機能を評価する CDR-SB (figure 3a) の変化については違和感があります。Aducanumabの用量が増えるに従って、認知機能の低下が直線的に抑制されるということはありうるのでしょうか。認知機能には多数の要因が関与してくるので、もっと複雑な振る舞いをするのではないかという気がしますけれど・・・。あと、MMSEのデータ (figure 3b) で、 52週後の MMSEの変化はプラセボ -3点、aducanumab 6 mg/kg群で -2点程度なのですが、臨床的に MMSEが 1点違うのは誤差のようなもので、ほとんど効果は実感できないと思います。

figure 2

figure 2

figure 3

figure 3

ということで、期待はしているけれど、第 3相試験の結果を見るまでは、手放しでは喜べないなと思っています。

Worldwide Thyroid-Cancer Epidemic? The Increasing Impact of Overdiagnosis (2016.8.18)

検査法の進歩に伴うと推測される甲状腺癌の過剰診断が近年問題となっています。この論文の図を見ると、ここ 20年間でいかに甲状腺癌が増えているか良くわかります (特に韓国)。ただ、甲状腺癌と診断された数が著増しても、死亡自体は増えておらず、見つける必要のなかった癌 (放置してもほとんど進行しない癌) を見つけている可能性があります。論文では 2ヶ所福島に触れられた部分があり、特に結語の “Finally, the enormous increase in thyroid-cancer incidence in South Korea subsequent to opportunistic ultrasonography-based screening sends a strong warning about data interpretation in the context of large-scale after radiation exposure from exceptional events like the nuclear accident in Fukushima.” というメッセージは重要だと思います。

thyroid-cancer

thyroid-cancer

原発事故後の福島でのスクリーニング検査についてですが、検査法の進歩のため甲状腺癌自体が過剰診断されるようになってきている中、過去との比較すると著増してしまうのが目にみえてしまうので、原発事故と関係ない地域との比較が大事なんですが、実際そうされていないのでなかなか解釈が難しいですね。

この論文とは関係ありませんが、甲状腺疾患についてのまとまった総説が 2016年8月29日に出ていて勉強になります。

MRI criteria differentiating asymptomatic PML from new MS lesions during natalizumab pharmacovigilance  (2016.8.16 published online)

多発性硬化症に対する免疫抑制療法の進歩に伴い、副作用としての進行性多巣性白質脳症 (PML) が問題となってきています。特にリスクの高い薬剤がナタリズマブです。PMLは多発性硬化症と同じく白質を主座とする疾患なので、発見が遅れがちです。

そこで、著者らは多発性硬化症と PMLを鑑別するための MRI基準を作成しました。点状の T2病変、皮質灰白質病変、傍皮質 (juxtacortical)白質病変、灰白質と白質に隣接し向かう不明瞭あるいは混在した病変、病巣サイズ 3 cm以上、造影増強効果あり、は 全て PMLを示唆しました。局所様病変 (local lesion appearance)、脳室周囲の病変は多発性硬化症の新規病巣を示唆しました。多変量モデルでは、点状の T2病変、皮質灰白質病変で PML、局所様病変、脳室周囲の病変で多発性硬化症の新規病巣とすると、感度 100%, 特異度 80.6%でした。

PMLと多発性硬化症の鑑別

PMLと多発性硬化症の鑑別

Discontinuing disease-modifying therapy in MS after a prolonged relapse-free period: a propensity score-matched study. (2016.6.13 published online)

多発性硬化症では、再発を抑えるためインターフェロン製剤などの疾患修飾薬を用います。しかし長期間再発がない患者で、疾患修飾薬を中止して良いかはよくわかっていません。

そこで、著者らは 5年以上再発がない患者を対象として propensity score-matchingを用いて研究を行いました。その結果、薬剤を中止した患者と継続した患者では、再発するまでの期間に有意差はありませんでしたが、障害 (disability) が進行するまでの期間は、中止者で有意に短いという結果でした。

Intensive Blood-Pressure Lowering in Patients with Acute Cerebral Hemorrhage (2016.6.8 published online)

脳梗塞急性期は脳循環を保つため血圧はあまり下げないように治療します。一方で、脳出血の場合は複雑です。血圧が高いほうが脳循環は維持されるでしょうが、その分出血には悪影響になるかもしれません。どのくらいの血圧で管理するかは議論があります。

著者らは、血腫の容積 60 cm3未満、GCS 5点以上の患者 1000名を対象に、収縮期血圧を 140~179 mmHgで管理した通常治療群と、収縮期血圧 110~139 mmHgで管理した強化治療群に分けて評価しました。ベースラインの収縮期血圧は約 200 mmHgでした。その結果、90日後の死亡や後遺症は両群間で差はありませんでした。患者振り分け 72時間以内に起こった治療に関連した有害事象は、通常治療群 1.2%, 強化治療群 1.6%でした。振り分け 7日以内の腎有害事象は、通常治療群 4.0%, 強化治療群 9.0%でした。

90日後のmRS

90日後のmRS

脳出血急性期に血圧を下げるのは、それほどガチにならなくても良さそうということですね。

Efficacy of Folic Acid Therapy on the Progression of Chronic Kidney Disease (2016.8.22 published online)

慢性腎臓病 (CKD) の治療は RAS系を主体とした降圧療法が一般的ですが、十分に効果があるとは言えません。高ホモシステイン血症が悪影響とされますが、ビタミンB12と葉酸を内服したスタディーでは効果がないばかりかむしろ有害でした。著者らはビタミンB12なしで葉酸のみだったらどうかということを考えました。

そこで著者らは 150104名の中国人 (平均 60歳) をエナラプリル 10 mg/日のみ内服した群と、エナラプリル 10 mg/日と葉酸 0.8 mg/日を内服した群に分け、RCTを行いました。中央値 4.4年間追跡した結果、葉酸を追加した群では、腎障害の進行が有意に抑制されました。

この研究のみで結論を出すのは早計ですので、今後の追試の結果を待ちたいと思います。

Comparison of sensitivity and specificity among 15 criteria for chronic inflammatory demyelinatingpolyneuropathy. (2013.12.11 published online)

慢性炎症性脱髄性多発根神経炎の診断基準はたくさんありますが、どの精度が最も良いか直接比較した研究はありません。そこで著者らはレトロスペクティブにカルテを用いて比較を行いました。その結果、最も感度・特異度が良かったのは EFNS・PNS診断基準でした。感度/特異度は、EFNS・PNS definiteで 73.2/90.8%, EFNS・PNS probableで 78.5/86.8%, EFNS・PNS possibleで 87.5/68.4%でした。

Drugs That May Cause or Exacerbate Heart Failure: A Scientific Statement From the American Heart Association. (2016.9.11 published online)

心不全を増悪させる原因となりうる薬剤の一覧表が、AHAから論文化されています。神経疾患に用いる薬としては、カルバマゼピン、プレガバリン、三環系抗うつ薬、ブロモクリプチン、ペルゴリド、プラミペキソール、エルゴタミン (現在では既に使わない薬ですが・・・) などがリストアップされていました。

Unilateral Gottron Papules in a Patient Following a Stroke: Clinical Insights Into the Disease Mechanisms and Pathophysiology of Cutaneous Dermatomyositis (2016.9.1 published online)

症例は 60歳代の皮膚筋炎の女性。脳卒中のため右片麻痺だったのですが、その 2年後に左手にだけ Gottron徴候が出現しました。自己炎症で働く接着分子の CD44v7は、機械的な伸展で誘導され、osteopontinとともに皮膚筋炎の皮膚に Gottron徴候を生み出すそうです。著者らは、麻痺のため右側を使わなかったので、右手には Gottron徴候がなかったのではないかと推測しています。

興味深い仮説とそれを支持する症例報告ですね。

Patient outcomes up to 15years after stroke: survival, disability, quality of life, cognition and mental health. (2016.7.22 published online)

脳卒中後、15年後までの予後についての報告です。2625名の患者のうち、15年後まで生存していたのは、21%でした。生存者の 61%が男性で、脳卒中発症年齢の中央値は 58歳、33.8%が自宅で生活していました。15年目の時点で、認知機能障害が 30%、鬱が 39.1%、易怒性が 34.9%にみられました。

Trial Reporting in ClinicalTrials.gov — The Final Rule (2016.9.16 published online)

臨床研究は ClinicalTrials.govに登録して行うのが国際的に一般的です。その最終ルールが公開されたようです。

University of Tokyo to investigate data manipulation charges against six prominent research groups (2016.9.20)

東京大学での研究不正疑惑。Science誌でもニュースとして取り上げられました。

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フィンゴリモド

By , 2013年8月3日 10:11 PM

多発性硬化症の治療薬にフィンゴリモド (商品名ジレニア) という薬剤があります。治験に関わった医師には “FTY720” という方がしっくりくるかもしれません。FREEDOMS試験TRANSFORM試験といった臨床試験で、有効性が示された薬剤です。

導入時に徐脈になったり、ヘルペスウイルス感染症が重篤化したり、白人でメラノーマが増えたりといった副作用は懸念されますが、自己注射が必要なインターフェロンと異なり経口薬というのが大きなウリです。

ところが、2013年7月30日の Reuter誌で、フィンゴリモドによると推測される進行性白質脳症 (PML) の症例が報道されてしまいました。

Patient taking Novartis MS pill developed rare disease

Tue Jul 30, 2013 5:18am EDT
* Patient took Novartis’ Gilenya MS pill

* Developed progressive viral disease

* First incidence in 71,000 patients

* Gilenya facing competition from Biogen’s Tecfidera

ZURICH, July 30 (Reuters) – A patient taking Novartis’ multiple sclerosis pill Gilenya developed a rare and potentially fatal viral disease, the Swiss drugmaker said on Tuesday, an unexpected setback as it faces growing competition from new oral treatments.

Gilenya is one of Novartis’ big new drug hopes, growing 66 percent in the second quarter to $468 million. But the drug faces competition from new medicines such as Biogen Idec’s Tecfidera.

Novartis said it had been informed of a case of progressive multifocal leukoencephalopathy (PML) in a patient who had been taking Gilenya for MS for seven months.

It said it was working with the reporting physician to understand all possible contributing factors, including those beyond treatment, given several atypical features of the case.

“The course of the underlying neurological disease was rapid with some atypical findings for MS on the MRI scans of the brain and spinal cord, as well as some unusual clinical features,” Novartis said in a statement.

Novartis said all previously reported cases of PML among the approximately 71,000 patients treated with Gilenya thus far had been attributed to prior treatment with Biogen Idec’s Tysabri, which bears a known risk of PML.

Deutsche bank analyst Tim Race said the case may provoke some concerns about Gilenya’s future growth potential. But he noted the incidence of reported PML cases for Gilenya has so far been extremely low.

“By the time there was a similar level of patient experience with Tysabri there had been 298 cases reported. Thus, even if the risk proves to be real it is likely to be of a very different order of magnitude,” Race said in a note.

販売元のノバルティス社は、これまでフィンゴリモド内服中に発症した PMLは全て、過去に使用されていた Natalizumab (タイサブリ) に起因するものだったとしています。しかし、今回の症例はフィンゴリモドが原因と認めざるを得ないようです。おそらく稀とはいえ、フィンゴリモドで PMLを発症することがあるとすれば、使用するハードルはこれまでより高くなりますね。記事では、患者が 7ヶ月間内服していたという情報以外書かれていないので、今後詳細な症例報告が出てくるのを待ちたいです。

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タイサブリに関する教訓的症例

By , 2013年1月27日 7:33 AM

2013年 1月 18日に多発性硬化症治療薬 Natalizumab (タイサブリ) についてお伝えしました。現在、多発性硬化症の第一選択薬として FDAと European Medicines Agencyで審査されている薬剤です。その時、私は下記のようなコメントをしました。

タイサブリ

JC virusが検出限界以下のコピー数だった患者さんが、薬の使用のせいでウイルスが増殖して PMLを発症することがあるかどうかの知見は未知数だと思いますが、現実的には meritと riskを天秤にかけて判断されるべきことでしょう。

何というタイミングか、2013年 1月 21日の Archives of Neurology誌に教訓的な症例が掲載されました。

Lessons Learned From Fatal Progressive Multifocal Leukoencephalopathy in a Patient With Multiple Sclerosis Treated With Natalizumab

Objective  To describe the clinical, radiological, and histopathological features of a fatal case of progressive multifocal leukoencephalopathy (PML) in a patient with multiple sclerosis treated with natalizumab. We will use this case to review PML risk stratification and diagnosis.

Design  Case report.

Setting  Tertiary referral center hospitalized care.

Patient  A 55-year-old, JC virus (JCV) antibody–positive patient with multiple sclerosis who died of PML after receiving 45 infusions of natalizumab.

Main Outcome Measures  Brain magnetic resonance imaging and cerebrospinal fluid JCV DNA polymerase chain reaction results.

Results  The patient developed subacute onset of bilateral blindness following his 44th dose of natalizumab. Ophthalmologic examination was normal, the brain magnetic resonance imaging was not suggestive of PML, and cerebrospinal fluid analysis did not reveal the presence of JCV DNA. The patient was subsequently treated for a presumed multiple sclerosis relapse with high-dose corticosteroids. Two weeks after his 45th dose of natalizumab, he developed hemiplegia that evolved into quadriparesis. Repeated magnetic resonance imaging and cerebrospinal fluid studies were diagnostic for PML. Postmortem histopathological analysis demonstrated PML-associated white matter and cortical demyelination.

Conclusions  The risks and benefits of natalizumab must be reassessed with continued therapy duration. When there is high clinical suspicion for PML in the setting of negative test results, close clinical vigilance is indicated, natalizumab treatment should be suspended, and JCV polymerase chain reaction testing and brain magnetic resonance imaging scans should be repeated.

症例は 49歳の男性です。多発性硬化症の再発予防に対し、当初は Interferon-beta Iaを使用していましたが、忍容性の問題で、natalizumab治療に変更しました。抗 JCV抗体が陽性であることが判明した後も、彼は natalizumabによる治療を選びました。第 44回目の natalizumab投与後、彼は視力障害を訴えましたが、頭部 MRI所見は 1年前と変化なく、JC virus DNA-PCRも陰性でした。眼科医による診察でも異常はありませんでした。そこで、ステロイドの静脈投与及び 45回目の natalizumab治療が行われました。しかし視覚症状の改善はなく、3週間後に新たに右片麻痺が出現しました。入院して血漿交換が行われましたが増悪し、更に脳症及び四肢麻痺を発症しました。その時点で施行された MRI検査で PMLに合致した所見があり、髄液の JC virus DNA-PCRは陽性となっていました。入院 5日後に患者は死亡しました。剖検による診断も PMLとされました。レトロスペクティブに視覚症状出現直後の頭部 MRIを見ると、PMLに合致した病巣が確認されました。

本症例で教訓的なのは、JC virus DNA-PCRが陰性でも PMLの可能性は残り、またMRIでの PML病巣は経験を積んだ神経放射線科医でも見逃され得るということです。

Natalizumabによる PML発症リスクは最初の 12回まででは 1000人に対して 0.04人なので稀であることがわかります。治療 1~24回目まででは 1000人に対して 1人以下ですが、24回目以降では 1000人に対して 2.5人と上昇することが知られています。元々患者の状態が良く (EDSS 2点), 再発も少なかったため、24回以上 natalizumabを投与するのは、benefitより riskの方が高かったのではないかと著者らは指摘しています。

この報告は、FDAと European Medicines Agencyでの審査に影響を与えるかもしれません。効果は優れた薬剤ですが、こうした報告を読むと、第一選択薬で使用するのには躊躇します。症例を選んで使用すべきだと思います。

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タイサブリ

By , 2013年1月18日 8:06 AM

2013年1月16日、Natalizumab (Tysabri; タイサブリ) が多発性硬化症の first-line therapyとして FDAと European Medicines Agencyに申請されました。

Biogen, Elan seek okay for first-line Tysabri use in MS

LONDON | Wed Jan 16, 2013 5:12am EST

(Reuters) – Biogen Idec and Elan have filed for approval to sell their drug Tysabri as a first-line treatment for multiple sclerosis, a move that could boost sales of the drug.

Demand for Tysabri has been curtailed due to concerns over its association with a potentially fatal infection known as progressive multifocal leukoencephalopathy, or PML, which is caused by the JC virus.

Now, however, there is a test for the virus to predict if patients are at risk of developing PML, opening the possibility that Tysabri could be used more widely and at an earlier stage of treatment.

Biogen and Elan said on Wednesday they had submitted applications to the U.S. Food and Drug Administration and the European Medicines Agency seeking approval for first-line use in patients with relapsing forms of multiple sclerosis (MS) who have tested negative for antibodies to the JC virus.

The JC virus is generally harmless, but in people with weakened immune systems, such as those using immune system-suppressing drugs like Tysabri, it can lead to an increased chance of developing PML.

Tysabri use is currently limited to between 10 and 12 percent of treated MS patients, due to the risk of PML, and analysts said the hoped-for wider approval would improve uptake and send a positive signal to doctors.

Berenberg analysts said Tysabri’s share of the MS market could increase to about 15 percent by 2015, representing sales of $2.9 billion, while today’s share price for Elan implied peak sales of only some $2 billion.

Tysabri was briefly pulled from the market over PML concerns – but it was considered to be so effective, compared with other available treatments, that MS patients argued the risk was worth taking and demanded its return.

Health regulators bowed to the pressure and allowed the drug’s relaunch with restrictions.

“A first-line approval would allow people with MS access to a highly efficacious treatment earlier in the course of the disease, potentially leading to better outcomes,” said Alfred Sandrock, Biogen’s chief medical officer.

“This is an important consideration for people with MS who may want or need more efficacy.”

Both the U.S. and European regulators are expected to decide on the applications for first-line use later this year.

(Reporting by Ben Hirschler; Editing by Louise Heavens)

タイサブリは、AFFIRM trialSENTINEL tiralなどで高い有効性が示されている薬剤です。一方で稀ながら進行性多巣性白質脳症 (PML) の副作用が指摘されています。PMLは免疫抑制による JC virusの増殖が原因で起こる疾患です (AIDS及び免疫抑制剤使用により発症した患者をそれぞれ担当したことがあります)。

これらのジレンマを解決するため、JC virusを検査して陰性であれば、タイサブリを第一選択薬として使っても良いのではないかというのは自然な考え方だと思います。JC virusが検出限界以下のコピー数だった患者さんが、薬の使用のせいでウイルスが増殖して PMLを発症することがあるかどうかの知見は未知数だと思いますが、現実的には meritと riskを天秤にかけて判断されるべきことでしょう。

なお、日本では 2010年2月から治験がされています。国内においても、多発性硬化症の治療選択肢は今後どんどん増えていきそうです。

(参考)

下記のサイトに、多発性硬化症の新薬が紹介されています。多発性硬化症については、様々な新薬が登場し混乱しそうですが、すっきりと纏められています。

関西多発性硬化症 (MS) センター 治療

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レッスン

By , 2010年12月12日 6:18 PM

昨日 12月 11日に、発熱をおして、久々にヴァイオリンのレッスンに行ってきました。前回のレッスンは 2008年 10月の Tomoの結婚式で演奏するために行ったときでしたから、本当に久々でしたね。レッスンを受けたのは、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番3楽章。アゴーギクの付け方は間違ってないと言われましたが、色々課題が見えました。

・Bach – Sonata III for solo violin in C Major, BWV 1005 – 3. Largo

(レッスン内容) この曲の楽譜をお持ちでない方は、バッハ自筆譜PDFの 34ページを参照してください。

・第2楽章のハ長調の長大な Fugaの後にこの Largoを置いた意味を考えること。べったりと重く弾かない (単品として弾くときは別)。
・3楽章の一つの鍵は調性。調の概念が確立し、それに基づいて作曲するようになったのはもう少し後の時代だが、曲の雰囲気という意味では参考になる。3楽章はヘ短調であり、調としては「荘厳だが宗教的ではない」などの意味がある。他の楽章は全てハ長調で書かれている。
・フレーズが短くなりすぎないように。低音の声部がフレーズの目印となる。たとえば、低音部に注目すれば、最初から 2小節目の3拍目の終わりまでが一つのフレーズ。次のフレーズは 4小節目の3拍目の終わりまで。
・6小節目の 2拍目からどんどん前へ。低音の声部も上向形。
・7小節目は終止形であることを意識。その前で遅くしない。
・12~13小節目は一つのクライマックス。盛り上がる。
・曲としては17小節目で終わり。あとはコーダ。付け足しの部分と考えて、くどく弾かない。
・20小節目の 3拍目は非常に大事。急に調が変わる。それを強調するために、わざと大事な Asは低く、Hは高くとる (ここで Asが登場することが驚きなのだ!)。2拍目最後の G (3の指) にくっつけて As (4の指) と、それに幅狭く F (2の指) を押さえ、最後に 3の指をずらせて Dを取ると弾きやすい。
・21小節目終わりのC→Fはしっかり響かせる。16分音符の Fを弾いたら、軽く弓を浮かせて引き直して良い。
・最後は Dominant→Tonicなので、「緊張→弛緩」を意識して伝える。

レッスンが終わってから、音楽界のことや、教育について色々話し込みました。私が大学医学部の教員で、師が音大の講師ということもあって、「最近の学生がやたら真面目で、単位や与えられた課題をこなすことばかり気にしている」という風潮に、「遊んで視野を広げることも大事」、「言われた勉強をこなすだけでは幅の狭い人間になっちゃうよ」と盛り上がりました。

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