ルツェルン旅行(2005年9月13日〜8月19日)

ルツェルン第2日目

 窓の前を路面電車が走る音で5時に目覚めた。見ると既に数人の人が乗っている。 列を作って待っている人もいる。こんなに早く目が覚めて、他にすることもなく、 ガイドブックを読んだ後、早々とシャワーを浴びて朝食へ。 朝食は、ハム、サラダ、スモークサーモン、ウィンナー、パンといった、 一般的なヨーロッパの朝食。

 朝食後、コンセルジュに「診察道具が欲しい。どこで売っているのか?」と聞いたが、 通じず。絵を描いて説明すると、「Apotheke」に行くように言われた。 荷物を預かってもらって、早速「Apotheke」へ。

 「Bahnhof通り」を駅と反対方向に歩き、 迷うことなく「Apotheke」という看板のある店にたどり着いた。 途中「チューリッヒは日本を歓迎します」と日本語で書かれた 本屋を発見。 「Apotheke」に入ると、薬の瓶がいくつか並んでいる。 店員に「診察道具が欲しい」と話しかけると、 「それはここにはない。」と言われ、「Mr. Hausmannの店に行くように」 と言われた。

 「Bahnhof通り」を駅方向に戻り、「Urania通り」をLimmat川の 方向に右折して、「Mr.Hausmann」の店に着いた。 何階建てかの建物で、それ以外の階にも店が入っているようだ。 階段を上ってみると、2階にある店のドアの横に、非常に洗練された作りの車椅子を発見。 なんと座ったまま用が足せるようになっているのだ。 しかし、店はまだシャッターがしまっている。時間をつぶさないといけない。

 Limmat川の畔を散策。川には様々な大きさの魚が泳いでいる。15分くらい眺めて 9時になったところで、再び「Mr.hausmann」に戻った。

 店の中は、様々な介護用品や、体重計、血圧計などが置かれていて、 医療・介護用品専門店といった感じだ。 店員に「神経内科医なのですが、ハンマーと聴診器をください。」 と伝えると、まず「Litmann」の聴診器を出してくれた。 「Littmannのは持ってるから他のタイプのをください。」と 伝えると、「Welch Allyn」書かれた聴診器を出してくれた。早速購入。 次はハンマーだ。「いろんなタイプのを見せて欲しい」と言ったら、 10種類くらいのハンマーを見せてくれた。いろいろな形のものがある。 そのうちいくつかは、ハンマーにピンや筆が付いていて、 腱反射だけでなく、感覚についての診察も出来るようになっている。 7種類くらい購入して、更に日本の上司、部下達への土産として 6本購入した。おかげで全部で1038CHFと、かなり高い買い物となった。 眼底鏡も欲しかったが、使用する電池が日本で手に入らなさそうなので 泣く泣く諦めた。高額の買い物のためか、店の人が ナイフを2つおまけでくれた。さすがにこれだけの買い物を する人はあまりいないだろう。帰り際に商品を渡されるとき、 「飛行機では手荷物にしないで」と言われた。 昨年、そうしてテロに間違われたことを思い出して 苦笑い。診察道具のハンマーも、形は武器と一緒だから・・・。

 街中に熊の人形が立っていて、それを見て回る。 旅行ガイドブックで読んだのだが、 スイスの首都は「ベルン」という都市で、これは熊(Ba(ウムラウト)r)に 由来している。「ベルン」を統治したベルヒトルト5世が、町の名前を決めるのに、 狩猟の最初の獲物を当てることを決め、それが熊だったから名付けたそうだ。 そういったことから、ベルンのみならずスイス全体で熊がシンボルとされているのではないかと 勝手に推測。 ピンクの熊、宇宙服を着た熊、青と白の斑な熊、山登りの格好をした熊、 アイスを持った熊、正装した熊、玉乗りをした熊、SOSと書かれた熊・・・。

 さて、ホテルに戻って荷物を受け取ると、チューリッヒ駅に向かい、 ルツェルン行きの電車を探す。駅構内のエレベーターの上にも 熊の人形が乗っているのを見つけ、思わず笑ってしまった。。

 チケットを購入した後、時刻表を見て乗り場に行き、電車に乗る。 綺麗な電車だ。電車は川沿い、湖、山中と走る。牧場もあり、 牛や馬が放牧されている。かすかにかかる靄が幻想的だ。

 と、車掌が車内を回ってきて切符を確認。「切符が違う」と指摘を受ける。 切符には「2.KL.」と書かれており、俺のいるところは1等席だという。 足りない分のお金を払うと、許してもらえた。 「2.KL.」というのは、「2nd class」なのかと、初めて納得。

 ルツェルン駅に着くと、目の前がすぐ湖になっていて、右手が 音楽祭の会場、左手がホテルだ。予約した「ヴァルドシュテッターホフ」に行き、 フロントに声をかける。チェックインが12時ということで、午後6時くらいに 戻る旨を伝え、荷物を預け、散策に出かける。

 まずは、駅の正面に広がる湖へ。湖畔には白鳥がたくさんいて、 観光客とキスをするくらい顔を近づけたりしている。 寄っていっても全然逃げない。そういった風景をみながら、 湖にかかる橋を渡って、対岸に渡る。偶然発見した「Musikhaus」という店で CDを購入。今年のルツェルン音楽祭で、クリスチャン・テツラフが招待されている とのことで、彼のCDがたくさんあった。残念ながら、日程が合わなくて、 彼の演奏は聴けなかったが、普段手に入らないCDをたくさん購入。 「ダニエル・レーン」という演奏家のCDもあり、購入したが、 これは以前ウィーンで購入した「エーリッヒ・レーン」の孫だと 後でCDを聴いてから知った。そのほか、音楽をネタにしたユニークな 挿絵を土産として購入。

 湖畔を駅とは逆方向に歩いて、「ウィルヘルム・テル」というレストランに入る。 これは、船の形をしたレストランで、湖の上に浮いている。 ルツェルンと題されたメニューを注文して、日差しの中湖を眺める。 白鳥が近くを泳いでいる。ビールはスイスの地ビールと思うが、この眺めの中で 非常に美味しい。読書をしている若い人や、語り合う老夫婦など、 みんなそれぞれこの雰囲気を楽しんでいる。

 食事が終わって、駅前まで戻る。この町は、全体としてザルツブルグより 更に小さく、町のほとんどを徒歩で移動できる。 駅前で遊覧船に乗る。湖を3/4周くらいして、「Tribschen」の船着き場で 降りた。ここにはワーグナーの住んでいた家がある。

 芝生に覆われた丘の上に彼の家があって、中に入る。 ワーグナーゆかりの品々が1階に置かれていて、2階は古楽器がいくつか置いてある。 個人的には、ワーグナーにそれほど興味は持っていないが、 ここの建物が置かれた風景の綺麗さに心を奪われた。

 建物を出ると、建物の前に置かれた椅子に数人が腰掛けており、 その周りに2匹の大きな犬が走り回っていた。 犬が可愛くて、すこし撫でさせて貰った。なぜか犬がビショビショに濡れている。

 犬を触ったせいで「あー、手を洗いたい」と思いながら、ワーグナー邸を後にする。 芝生の中を下っていると、可愛い女性と、子犬を発見。目が合ったので、女性に 「可愛い犬ですね」と声をかけると、凄まじい勢いで犬が吠えてきた。 「あなたのご主人様に危害を加えるつもりはありませんよ」というジェスチャーを しながら立ち去ろうとするが、犬がどこまでもついてくる。 そして、女性もそれを止めようとする気配がないのだ。

 その鳴き声につられたか、さっきワーグナー邸の前であった2匹の大きな犬が 凄い勢いで走ってきて、子犬を追い払った。 ほっとして俺が立ち去ろうとすると、大きな犬達が誇らしげに近づいてきて、 俺を子犬のところに連れて行こうとする。 そして、俺とその犬達が子犬のところに行くと、子犬を追いかけ回すのだ。 子犬が降参すると、大きな犬は誇らしげに俺の方を見る。 「ありがとう、もういいよ」ってジェスチャーをして船着き場に向かった。

 船着き場で湖をぼーっと眺める。時間の感覚がなくなる。 空を見上げると飛行船が丁度頭上で方向を変え、引き返していくのが見えた。

 その時、雰囲気にそぐわない老婦人が2人声をかけてきた。 「中国人ですか?」と聞かれ「日本人です」と答える。 するとタイトルが日本語で書かれた、冊子を出してきた。 どうやら、募金をして欲しいらしい。冊子には昔エホバの勧誘の人が見せたような、 ライオンとシマウマが仲良くしたような絵が描かれている。 「シマウマ食べないと、ライオンは餓死してしまうじゃないか・・・」など 暢気なことを考えながら、一方では凄く腹立たしくて、 「No God!」と怒鳴りつけた。「God died!」と付け加えようとも思ったけど、やめた。 彼らが信じているものを否定するのまではやりすぎだ。

 場所を変えて湖を見ていると、先ほどの2匹の大きな犬が湖に飛び込んで上陸する 遊びを繰り返している。・・・そうか。そのせいで濡れていたのか。 手を拭くのに、さっきの冊子を貰っておけば良かったかな。

 そうこうしているうちに、船が到着した。ここに乗ってきたときと同じ船員だ。 乗船して、湖からワーグナー邸が遠ざかっていくのをずっと見ていた。

 と、突然ドイツ語で話しかけられた。「英語でお願いします」と言うと、 「Japanese, O.K.?」と言われ、「日本人ですか?」と日本語で話しかけられた。 俺の楽器を指さして、「弾きに来たの?」と言われたので、 「I am not a professional player, as a hobby.」と答えると、 「音大生ですか?」言われ、再び否定。

 何故か俺が英語で、彼が日本語でしばらく会話。 驚いたことに、俺が話す英語より、彼の話す日本語の方が通じるのだ。 俺も英語での表現が難しいときは日本語を使うとわかってもらえる。 俺が会った中で最も日本語が上手な外国人だ。 ヨーロッパでは、たいがいのことは英語で伝えられたつもりだが、 彼の日本語はそれ以上のはずだ。 「どこかオーケストラ入ってますか?」と聞かれたので、 「東京でカルテットとかを楽しんでいて、オーケストラはやっていない」 と答えると、彼は「私は、シカゴ交響楽団の団員です」と自己紹介 してくれた。俺も「実は、医者をしていて、ホテルでこっそり 弾こうと思ってヴァイオリンを持ってきただけなんです」と 伝えた。 彼が「明日本番だから、暇だったら来てくれるか?」と言ったので、 「チケットが取れたら行くよ」と答えた。そうこうしているうちに、 船はルツェルン駅前の船着き場に到着。「旅の一期一会とはこういったことかな 」と勝手に思ってみたりして、特に名前を聞いたりはしなかった。

 船着き場では、灰色の白鳥を発見。おそらくまだ若いから灰色なだけで、 これから白くなるのかもしれないが、「白鳥は白いから白鳥な訳で、 白くないときはなんて呼べば良いのか」などと馬鹿なことを考えてみたりした。

 次はピカソハウスを見に行くことにする。今日行った、「Musikhaus」のすぐ 近くにある。ここにはピカソの描いた絵と彼を撮った写真がある。

 中にはほとんど人がいなくて、貸し切り状態だ。 ピカソを撮った写真が廊下に飾られており、ピカソが裸で浴槽に入っている写真なども あり、飽きることはなかった。途中、犬をつれている人もいて、 ピカソの絵の横を犬が通りすぎるという、日本では考えられない 光景を目にした。

 美術館を楽しむと、入り口で「3人の楽師たち」などの載った美術本を購入。 ホテルに戻ることとした。ホテルの部屋でテレビのチャンネルを回していると、 「Euro Sports」というチャンネルで大相撲を放送していた。 久しぶりに日本のことを思い出す。

 夕食に「シュタットケラー」という店に向かった。ここはヨーデルを 聴きながら食事が出来るレストランで、店の外まで音楽が聞こえてきた。 ドアを開けると、舞台では踊っている人も見えた。 しかし、満席。残念だがしかたがない。

 ホテルに戻って食事をしようとしたが、ホテルのレストランは「コースのみです」と 断られた。仕方ないので、「AIDA」と描かれた駅前のレストランへ。 この町は日本人観光客が多いからか、店員に日本語で挨拶され、席に案内された。 食事とワインを注文。とても美味しかった。 ワインをおそらく1本分くらい飲んだところで、「check, please.」と店員を呼び、 会計を済ませて、ホテルに戻った。


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