視神経脊髄炎 (Neuromyelitis Optica; NMO) は、視神経炎と脊髄の長大病変 (3椎体以上) を特徴とする疾患で、多くの場合抗AQP-4抗体が陽性となります。抗AQP-4抗体は陽性でありながら、視神経脊髄炎と診断できないような症例は、視神経脊髄炎スペクトラム疾患 (NMO spectrum disorders; NMOSD) などと呼ばれてきました。
2週間近く前に、その NMO/NMOSDの改訂診断基準が策定され、Neurology誌に掲載されています (2015.6.17 published online)。Open accessなのでどなたでも読めます。
じっくり読む時間が取れていなくて、まだ斜め読みですが、下記あたりがポイントと思います。
・NMOと NMOSDは同じ病態なので、統一して NMOSDと呼ぶことにする。NMOSDは、抗AQP-4抗体陽性と抗AQP-4抗体陰性/不明に分ける。診断基準 (Table 1)
・抗体測定法は cell-based assayが強く推奨される
・他疾患の除外が必要。特に Red flag (Table 2) に注意。
・画像検査の特徴 (Table 3)
・抗MOG抗体など抗 AQP-4抗体以外の抗体の役割についてはよくわかっていない (NMOSD with ◯◯ antibodyなどのように表現)。
(参考)
・第6回東京MS研究会
・抗MOG抗体と NMO/NMOSD
糖尿病診療では、ここ数年 DPP-4阻害薬が広く使われるようになりました (とはいっても、2型糖尿病の第一選択薬はメトホルミンです)。
DPP-4阻害薬は、数社から製剤が販売されていることもあり、製薬会社間での競争が激化しています。こうした中、DPP-4阻害薬シタグリプチン (ジャヌビア) の安全性を示した研究が、 New England Journal of Medicineに掲載されました (2015年6月8日 published online)。
この TECOS試験は、DPP-4阻害薬で心血管イベントが増えるのではないかという疑念に対して行なわれた臨床試験でした。シタグリプチンを内服している 14671名の患者を (中央値) 3年間 follow upしても、プラセボと比較して心血管イベントは増えないという結論でした。
しかし、この臨床試験を批判的に捉える研究者が多くいます。この薬で血糖値を下げても、心血管イベントは減らせなかったことが大きな原因です。中でも、マッシー池田先生の意見は鋭いと思いました。詳しくはリンク先を御覧ください。
私は以前、李啓充先生の「アメリカ医療の光と影」という連載のファンでした。ブログに紹介したこともあります。
その著者である李啓充先生が、なんと福島県の大原綜合病院にいらっしゃっているようです。
李 啓充(大原綜合病院内科)
(略)
かくして,私は,村川君との縁があっただけに,福島の状況に一層感情移入するようになった。やがて,「小さな子どもを持つ医師が放射能被害を危惧して福島を離れ,医師不足がさらに深刻化している」と聞いたとき,福島への感情移入が「子育て後の身の振り方」についての思案と合体することとなった。「もう人生の第4コーナーを回っているから少々放射能を浴びても影響は些少。私のような年寄りが行かなくて誰が行く」と思うようになったのである。
同じ福島県で働く医師として親近感があります。連載を通じて多くのことを教えてくださった先生ですし、どこかでお会いできるのを楽しみにしています。
脳血管性パーキンソニズム (Vascular Parkinsonism) という概念があります。パーキンソン症状を呈する疾患はパーキンソン病以外にも沢山あり、そのうち脳血管障害によりパーキンソン症状が出てしまうものを脳血管性パーキンソニズムと呼びます。一般的には下肢に強いパーキンソン症状があり、CT/MRIで白質病変が目立つと、他疾患を除外の上、脳血管性パーキンソニズムと呼ばれることが多いです。
しかし、この疾患概念が問題を抱えていることは事実です。そのことについて、ついて、 Movement disorders誌にわかりやすい総説が掲載されていました (2015年5月21日 published online)。
著者の意見によると、”definite” な脳血管性パーキンソニズムは、黒質ないしは黒質線条体経路の脳血管障害で起こるものです (線条体そのものや皮質、その間の白質によるものは除きます)。一方で、画像検査で白質病変が目立つことを診断根拠にしている症例では、白質病変が病理学的に必ずしも “vascular” とはいえず、パーキンソニズムをきたすとする根拠にはならないとしています。私も同意見です。白質病変の目立つ患者は、「脳血管性パーキンソニズム」というのがゴミ箱診断にされているなぁというのは実感するところです。この総説には、下肢に強いパーキンソニズムを来す疾患について、正常圧水頭症、進行性核上性麻痺、CADASILなど鑑別すべき疾患がいくつか提示されています。
もし日常診療で「脳血管性パーキンソニズム」という診断をよく下している医師がいれば、是非読んでみて頂きたい総説です。
神経変性疾患には、α-synuclein病理を示す疾患がいくつかあり、まとめて “α-synucleinopathy” と呼ばれることがあります。いずれも α-synucleinが何らかの役割を果たしていると考えられていますが、なぜこんなに病気の表現型が違うのかはよくわかっていません。
2015年6月18日の Nature誌に、それを説明するような論文が掲載されました。
どうやらラットの脳に異なった形状の α-synucleinを注入すると、それぞれ異なった表現型を示すようです。この仮説が正しいかどうかは今後の検証を待たないといけませんが、凝集のもととなる α-synucleinの形状によって、パーキンソン病になったり、多系統萎縮症になったりすると考えると、これまで疑問が説明出来そうに思えます。興味深い研究です。
(参考)
Nature ハイライト:神経変性: シヌクレインのバリアントが異なる病態を引き起こす
「Fever 発熱について我々が語るべき幾つかの事柄 (大曲 貴夫, 忽那 賢志, 國松 淳和, 佐田 竜一, 狩野 俊和著, 金原出版)」を読み終えました。
「発熱」というコモンな症状から疾患を捉えた面白い本です。感染症や自己免疫疾患など、発熱を来す疾患のエキスパートたちが、どのような点に気をつけて診療すべきか、豊富な診療経験をもとに語ります。あまり教科書のように系統的ではなく、先輩医師が「こんなことに気をつけておいた方が良いよ」とか「こういうときにはこうしたら良いよ」と教えてくれるよう雰囲気を持った本でした。
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) や前頭側頭葉変性症の原因遺伝子の一つとして C9orf72の GGGGCC 6塩基反復配異常伸長が知られています。そのモデルマウスの作製に成功した話を 2015年5月28日のブログ記事で紹介しました。
逆に、C9orf72を神経細胞およびグリア細胞で選択的にノックアウトしたマウスの表現型を調べた論文が Annals of Neurology誌に掲載されました (2015年6月5日 published online)。
なんと、このマウスは体重減少はあったものの、ALSのような運動ニューロンの障害は見られず、生存期間も変わらなかったそうです。
この結果をみると、 C9orf72遺伝子異常は、loss of functionというより gain of function、もしくは RAN translationが原因となっているのではないかという印象を持ちます。
新規抗凝固薬 NOACsの解決すべき問題の一つとして、拮抗薬がないことが挙げられます。
Lancet誌に、dabigatranの効果を打ち消す薬剤 idarucizumabの第一相試験の結果が掲載されていました (2015年6月15日 published online)。 Idarucizumabは、Dabigatranに対する特異的抗体断片です。
Idaruciumabは安全であり、dabigatran投与後 2-12時間の効果曲線の解析から、dabigatranの効果をほぼ完全に打ち消せることがわかりました。
こうした 薬剤の開発で、NOACsが少しでも安全に使えるようになると良いですね。なお、この論文を読んで、以前紹介した PRT064445はどうなっているのかと調べたら、現在第二相試験であるようです。
普段聴き慣れたベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタも、古楽器奏法で演奏されるとまた異なった趣があります。
私が初めて聴いたのが、ヤープ・シュレーダー (Violin) / ジョス・ファン・インマゼール (Fortepiano) による全集でした。ただ、この録音は、技術的不安定さが目立ちましたり、細かなヴィブラートが時に耳障りに感じました。
次に聴いたのが、寺神戸亮 (Violin) / ボヤン・ボデニチャロフ (Fortepiano) の全集です。音楽的にも技術的にも満足いくものでした。ただ、モダン楽器の演奏に慣れすぎているせいか、クロイツェル・ソナタはイマイチ迫力不足な感じがしました。ベートーヴェンの時代には楽器も進化を続けており、後半のソナタになってくると古楽器だと楽器の性能的に不利なのかなと感じましたが、私の思い過ごしかもしれません。
数年前に聴いたのは、イザベル・ファウスト (Violin) / アレキサンダー・メルニコフ (Piano) による全集。モダン楽器に古楽器奏法を取り入れた演奏で、素晴らしい演奏効果をあげています。一時期はこの録音ばかり聴いていました。ファウストは、バッハの無伴奏ソナタ (CD1, CD2) や、シューベルトのヴァイオリン・ソナタなど、秀逸な録音が多いですね。
最近聴いたのが、ヒロ・クロサキ (Violin) / リンダ・ニコルソン (fortepiano) です。私は学生時代、このコンビでのモーツァルトのヴァイオリン・ソナタの録音を聴いてカルチャー・ショックを受けたのですが、今回の演奏も素晴らしいものでした。
ということで、興味のある方はイザベル・ファウストやヒロ・クロサキの演奏を是非聴いてみてください。この聴き慣れたソナタ達に違った世界が見える筈です。
(参考)
・ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ