フンボルト協会 2015年度年次総会

By , 2015年6月14日 8:34 PM

2o15年6月13日 (土)、フンボルト協会 2015年度年次総会のため京都府立医科大学に行ってきました。

日本フンボルト協会

フンボルト協会は、ドイツに留学する研究者や学生に対して奨学金を交付しています。私は今のところ留学の予定はないのですが、フンボルト協会の奨学金でドイツ留学をしたことがある知り合いに誘われたので、聴きに行くことにしました。音楽家の診療について、憧れの研究者がドイツにいるので、ドイツに留学することが絶対にないとは言い切れませんしね。

この日は、目的とするドイツ研究留学説明会の後、安成哲三氏による「地球の未来と科学の役割」という講演 (地球温暖化などについて)、砂原悟氏のコンサート「6つのピアノ小品集 (ブラームス)」があり、最後に会員総会がありました。私は会員ではないので、会員総会の時は京都散策をしていました。

それが終わってから、京都府立医科大学附属病院外来診療棟 4階の「オリエンテ」での懇親会に参加しました。本当は、非会員は参加できないのですが、知り合いの同伴者として参加させて頂いたのです。

懇親会には、さまざまな専門の研究者が参加していたので、普段聴けない話をたくさん聴くことができました。例えば、某大学の法学部の教授からは、1800年代のドイツ法について話を聞きました。私は法学には疎いのですが、アルツハイマーの時代にはドイツの法律には精神病患者の扱いについて明記されていたとか、ヘンデルの父親がヘンデルを法律家にさせたがっていたとか、そんな小ネタを喋ってみました。すると、その方はクラシック音楽が大好きらしく、盛り上がりました。

懇親会が閉会してからは、知り合いが iPS細胞研究所 (CiRA) の研究員を呼び出してくれて、4人で飲みました。丁度、私が興味を持っている神経変性疾患の研究をしていて、非常にためになる話が聴けました。

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ドイツ精神医学の原点を読む

By , 2015年6月10日 6:26 AM

ドイツ精神医学の原典を読む (池村義明著, 医学書院)」を読み終えました。

精神医学と神経学は、医学の中ではかなり近い分野です。歴史的には、両者が統合されていた時代もあるくらいで、現代でもピック病やアルツハイマー病、てんかんなどは神経内科でも精神科でも診療しています。しかし、神経学が一般内科との関係を深めていくにつれて、両者の距離は遠くなっています。

神経内科でも精神科でも診療する疾患を、精神医学ではどう捉えてきたのか、興味があったので本書を読みました。

序章 ドイツ神経学・精神医学の原点を求めて

第1章 ピック病

第2章 アルツハイマー病

第3章 ヤーコプ・クロイツフェルト病

第4章 パラノイア

第5章 単一精神病論への反証

第6章 外因性精神病の成立

第7章 メスメリスムス

第8章 アスペルガー症候群

目次を見るとわかる通り、ピック病、アルツハイマー病、クロイツフェルト・ヤコブ病は普段神経内科で診療する疾患です。また、外因性精神病も、原因検索を依頼されることが多いです。こうした疾患の原著と歴史的背景が本書に詳述されていて勉強になりました。特にアルツハイマー病については、アルツハイマーの伝記を読んだばかりだったので、タイミングが良かったです。クロイツフェルト・ヤコブ病については、ヤコブがここまで詳細に疾患を記載していたことを初めて知りました。

以下備忘録。

・Rombergは Neurologie (神経学) という概念を提唱した最初の人であった。(9ページ)

・Psychiatrieという用語を最初に用いたのは J.C.Reilである。(14ページ)

・Griesingerはベルリン大学の招聘を受け、1865年4月1日から職務についた。その際、Rombergの講座を吸収することを認められた。この時、彼は精神病患者と神経内科の患者を 1つの科で診る精神・神経科 (精神神経科) という統合単科をベルリンに誕生させた。(21ページ)

・Pickは 1872-1874年まで、ヴィーン大学神経精神科部長であった Theodor Meynertの学生助手を務めた。そこには数年年長の Carl Wernickeもいて、2人とも Meynertの薫陶を受けた。(33ページ)

・アルツハイマーが診ていたアルツハイマー病の 2例目ヨハン・F。1907年12月8日の記載に「血中ならびに髄液中のワッセルマン反応陰性。脳脊髄液 1 cc中、細胞 1個」 (※アルツハイマーの時代には髄液検査は普通に行なわれていた) (79ページ)

・Creutzfeldtと Jakobは互いに関係なく、しかも偶然にもほとんど同時に症例に出会い観察をおこなった。両者ともアルツハイマーの弟子であった。ドイツの文献や医学辞典には Jakobが筆頭に来ている。専門誌掲載は Jakobが 1年後になっているが、彼は Creutzfeldtに先んじて専門学会発表しており、論文は前もって書き終えていた。(91ページ)

・一方の脚を針で指すと他方を引っ込める (Allästhesie: 知覚刺激の体側転倒のこと)。(96ページ)

・「患者は呼びかけや手を叩くと応じる。驚き体をピクッと動かす」 (96ページ) →驚愕反応が既に原著に記されている?

・Jakobは組織学的検討を含め、詳細に数例を纏め、81ページの論文にした。そして過去の類似症例を検討し、そこで Creutzfeldの症例に触れた。この疾患を一つの疾病単位と提唱したのは Jakobの業績である。(109ページ)

・外因性症状複合体という構想を引き出し、それを内因性と対置させた Bonhoefferは Wernickeの弟子であった。(196-197ページ)

・リエゾンという言葉が流行っているが、精神医学を医学的医療の中に統合するという思想はすでに 19世紀半ばから W. Griesingerが強く主張していた。(241ページ)

・訳者は Aspergerを読み始める前に、極めて不純な動機から症候群と犯罪との間に生臭い関係を予想していたが、期待はみごとに裏切られ、著作の全編を通じて、児童に対する Aspergerの愛情と擁護を感じたにすぎなかった。つまり、Aspergerはその原著の中では少年の犯罪傾向 (の有無) には一切触れていない (275~276ページ)。

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医療関係者の方はいませんか?

By , 2015年6月8日 5:26 AM

最近、通勤電車内で「医療関係者の方はいませんか?」という放送がありました。何事かと思って現場に駆けつけると、すでにナースが手当をしていました。診察してみるとそれほど重症ではなさそうで、大事に至ることなく、患者さんは救急車に乗って行きました。

電車を降りると同僚の姿。「何で行かなかったの?」と聞いたら、「だって、職業ばれるでしょ。先生、もう電車で酒飲めませんよ。電車で飲んでたら『あ、またあの医者酒飲んでる』って言われますよ」と言われました。確かに・・・。その矢先にこんなニュース。

「お客様の中でお医者様はいらっしゃいませんか」←なんと6割の医者が無視することが判明

医者の知り合いたちと Facebookで話題になったのですが、やはり電車の放送で出て行くのはリスクが高いですね。完全ボランティアだし、仮に出て行ってもできることは限られるし、訴訟で敗訴しても保険金が下りるかどうかよくわかりません。ヘタすると億単位の借金を背負うことになります。私も次からは出て行くかどうか微妙なところ・・・。

交通機関内ではある一定件数救急患者が発生するのだから、それを医師のボランティア精神にだけ委ねるというのは、どうかと思いますよ。医師は訴訟リスクを負っているわけですから。

そんな中、航空会社のルフトハンザは、このようなプログラムを用意しています。さすがと思います。ルフトハンザを使う機会があったら、これは契約しようかなと思いました。

「Doctor on board」プログラム

機内で医療援助が必要となった場合、「Doctor on board」プログラムにご登録の医師の方に援助をお願いいたします。ご登録いただいた皆様にはルフトハンザより謝礼を進呈いたします。

  • Miles & Moreの5,000アワードマイル
  • 「Handbook of Aviation Medicine: and In-Flight Medical Emergencies(航空医学・機内医療援助ハンドブック)」1冊
  • 今回より新しく追加: プログラム参加者用にデザインされた特製バッゲージタッグ「Doctor on Board」
  • 今回より新しく追加: 次回のフライト予約でご利用いただける50ユーロ分のプロモーションコードを1回分、および定期的なキャンペーン
  • 今回より新しく追加: ルフトハンザにてDeutsche Akademie für Flugmedizin(航空医学ドイツアカデミー)との提携による、ルフトハンザ医療サービスが提供するセミナー(有料)への参加。その際にはCME ポイントも取得できます。

賠償責任と保険

医療援助を行った医師の方は法的に保護されます。ルフトハンザ ドイツ航空がそのような事態に備え契約している責任保険の範囲で治療を受けた搭乗客からの賠償請求に対しては填補されますので、医師のお客様ご自身が責任を問われることはありません。ただし、故意による過失は除外されます。この免責は医師の方ならびに医療関係の援助者の方にも適用されます。

日本の交通機関も、こういう制度が出来ないものですかね。何かあっても、私はもう出て行きませんからね。(とかいって、また勢いで出て行ってしまうかもしれないなぁ・・・。)

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発熱

By , 2015年6月4日 6:55 AM

6月2日に再度発熱しましたが、それほど高熱にならず、1日で解熱しました。現在は咽頭痛のみ。

家族性地中海熱 (FMF) をモジッて、勝手に福島熱 (FukushiMa Fever; FMF) と呼んでいますが、もちろんネタです。

2月にも 1度発熱していて、今年は割と良く熱出しているなぁ・・・と。しばらくは、体調管理に努めます。

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ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2015 【1日目】

By , 2015年6月2日 5:06 AM

ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2015に参加してきました。

10:00~11:30 第1会場  明日から外来・病棟で実践できる エビデンスに基づく成人の予防医療 (八重樫牧人)

米国予防医学作業部会 (USPTF) は予防医学のエビデンスを統括している。2015年5月現在、成人で 12のカテゴリーと 94のトピックスを扱い、5年毎に改訂。批判的吟味がしっかりしている。日本の臨床に適用できるかは吟味が必要。iPhoneAndroidのアプリもある。

・USPSTFの推奨には、”A: Strongly recommended”, “B: Recommended”, “C: No recommendation”, “D: Not recommended”, “I: Insufficient evidence” がある。

・「がん検診は予後が 10年以上あると、早期発見→早期治療につながり利益がある」「無症状の時期に早期発見・治療をしても、それが末期がんとなるまで生きることが予測される患者でなければ利益がない」「癌の診断はついたけど根治術である手術はしないような患者にはがん検診を行わない」→USPSTFで検診対象年齢であったも、「利益をもたらさず」「やることが変わらない」場合には推奨しない。

・がんの Screeningについて、USPSTFの推奨度は以下の通り。「推奨度 A, B= 肺癌、乳癌、子宮頸癌、大腸癌」。「推奨度 C, D= 卵巣癌、膵臓癌、精巣癌、前立腺癌」。「推奨度 I= 膀胱癌、口腔内癌、皮膚癌」

肺癌 (2013年):55-80歳の 30 pack year (1日の箱数 x 喫煙年数)、かつ 15年以内に喫煙歴のある者に対して、毎年低線量 CTによる肺癌のスクリーニングを推奨 (USPSTF; B)

子宮頸癌 (2012年):21-65歳の女性に 3年毎に細胞診を勧めるか、期間を延長したい 30-60歳女性は 5年間毎に細胞診と HPV検査を推奨 (USPSTF; A), 21歳以下、65歳以上ではスクリーニングは勧めない (USPSTF; D), 子宮摘出の既往があり、高分化の前癌病変 (CIN 2-3) や子宮頸癌がなければスクリーニングは必要ない (USPSTF; D)

乳癌 (2009年):50-74歳の女性に 2年毎のマンモグラフィーによるスクリーニングを推奨 (USPSTF; B), 40-49歳のルーチンでのスクリーニングは推奨しない。個別化し、患者の背景を考慮 (USPSTF; C)→日本では発症ピークが 40歳代であることから、日本の乳癌検診ガイドラインでは 40歳以上から推奨される。ただし、たくさん検診しても、乳癌で死亡する患者がそれほど減らせないということもあり、スイスでは乳癌のスクリーニングが中止された。(参考:ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2014)

乳癌・卵巣癌 (2013年):乳癌、卵巣癌、卵管癌、腹膜癌の家族歴がある女性に、BRCA1/BRCA2の潜在的な遺伝子変異のリスクが高い家族歴を評価するツールでスクリーニングすることを推奨。スクリーニングが陽性の女性は遺伝子カウンセリングを受け、その後必要があれば BRCA遺伝子検査を受けることを推奨 (USPSTF; B) (本人の同意が得られる 18歳から。日本ではスクリーニング検査、予防的手術は保険適応外)

前立腺癌 (2012年):PSAをスクリーニングとして使用することを推奨しない (USPSTF; D)

大腸癌 (2008年):50-75歳の成人に、便潜血・大腸内視鏡を推奨 (USPSTF; A), 85歳以上には推奨しない (USPSTF; D), CT colonography, 便遺伝子検査は evidence不十分 (USPSTF; I)

胃癌 (2014年):胃 X線検査 50歳以上 (科学的根拠に基づくがん検診; B), 胃内視鏡検査 50歳以上 間隔 2-3年 (科学的根拠に基づくがん検診; B) (米国では罹患率が低いのでUSPSTFには推奨なし)

骨粗鬆症 (2011年):65歳以上の女性ないしは 64歳以下でも骨折リスクが高い女性ではスクリーンングを推奨 (USPSTF; B), 男性では十分な evidenceなし (USPSTF; C) (骨折リスク評価には FRAXがある)

転倒予防 (2012年):転倒リスクの高い 65歳以上に転倒予防として、運動療法とビタミン D投与を推奨 (USPSTF; B) (65歳以上の成人において 30-40%は 1年に 1回の頻度で転倒する。転倒した人のうち 5-10%は骨折・裂傷・頭部外傷を負う。転倒リスク評価は転倒の既往・移動能力の障害・Get-Up-and-Go test (椅子から立ち上がって 3 m先で反転して座る。10秒が目安) の低評価。The American Geriatrics Society (AGS) による 1日のビタミン D摂取量の目安は 4000単位。1000単位のビタミン D投与が推奨される。海外は天然型ビタミン D, 日本では活性型ビタミン D3製剤が用いられる。天然型ビタミン D 40 IU=天然型ビタミン D 1.0 μg, 活性型ビタミン Dは天然型の 7.5倍活性が強い。天然型ビタミンD 400 IU=天然型ビタミンD 10 μg=活性型ビタミンD 1.3 μg, 高齢者では少量から)

糖尿病 (2008年):血圧 >135/80 mmHgの無症状の成人で推奨 (USPSTF; B)。糖尿病、高血圧合併患者の適切な血圧コントロールは、心血管イベントを減少させる。

脂質異常症 (2008年):35歳の男性 (USPSTF; A), 20-35歳の冠動脈疾患リスクのある男性 (USPSTF; B), 45歳以上で冠動脈疾患リスクのある女性 (USPSTF; A), 20-45歳で冠動脈リスクのある女性 (USPSTF; B)

高血圧 (2007年):18歳以上の成人に血圧スクリーニングを推奨 (USPSTF; A)

栄養指導 (2003年):脂質異常症や他の心血管・食事関係の慢性疾患をもつ成人に栄養士による栄養指導を行うことを推奨 (USPSTF; B)

肥満症 (2012年):全ての成人に肥満症のスクリーニングを推奨。BMI 30を超える患者に対し、集中的で多様な行動学的介入を行うことを強く推奨 (USPSTF; B)

腹部大動脈 (2014年):100本以上の喫煙歴のある 65-75歳男性に、1回のみ腹部超音波を推奨 (USPSTF; B), 喫煙歴のない 65-75歳の男性は推奨なし (USPSTF; C), 喫煙歴のある 65-75歳女性は evidence不十分 (USPSTF; I), 喫煙歴のない女性には推奨しない (USPSTF; D)

Aspirin予防投与 (2009年):45-79歳の男性に心筋梗塞現象の利益が消化管出血のリスクを上回るとき (USPSTF; A), 55-79歳の女性に脳梗塞の利益が消化管出血のリスクを上回るとき (USPSTF; A), 80歳以上では evidence不十分 (USPSTF; I), 45歳未満の男性の心筋梗塞予防、55歳未満の女性の脳梗塞予防には推奨されない (USPSTF; D)→日本人には推奨されない(JPPP trial)。

クラミジア感染症 (2014年), 淋菌感染症 (2014年):24歳以下の sexually activeな女性、またはリスクの高い 25歳以上の女性 (USPSTF; B), 男性は十分な evidenceなし (USPSTF; I) (ハイリスク= 新しい/複数の sex partner, partnerに複数の partnerがいる, partnerが STIに罹患している, 互いに monogamousではない partnerとコンドームを常には使わない, 過去あるいは現在 STIである, Commercial sex worker)

HIV感染症 (2013年):15-65歳の全ての人に HIVのスクリーニングを推奨、他の年齢領域であっても、リスクがあれば推奨 (USPSTF; A), 全ての妊婦に対して推奨 (USPSTF; A)→日本では全員へのスクリーニングは推奨されない (スクリーニングするのは HIV感染の有病率が 0.1%以上の集団、日本では有病率 0.02%なのでターゲットを絞るのはよい、リスク因子=MSM, 静注違法薬物利用者, 多数のパートナーとの無防備な性交渉, commercial sex worker, 他の STI感染者)

梅毒感染症 (2004):感染のリスクがある者に梅毒感染のスクリーニングを行うことを強く推奨 (USPSTF; A), 全ての妊婦に梅毒感染のスクリーニングを行うことを強く推奨 (USPSTF; A), 症状のないリスクのない人には推奨しない (USPSTF; D)

B型肝炎ウイルス (2014):リスクの高い人には B型肝炎のスクリーニングを推奨 (USPSTF; B) (リスク因子=有病率>2%の地域, HIV感染者, 静注薬物使用者, MSM, HBV感染者の家人や sex partnerがいる)

C型肝炎ウイルス (2013年):リスクの高い人、または 1945-1965年生まれのアメリカ人にスクリーニングを推奨 (USPSTF; B) (理由は不明だが、アメリカの C型肝炎の患者の 4分の 3は 1945-1965年生まれである。) (リスク因子=薬物注射使用者, 薬物注射使用者との性交渉歴, 1992年以前の輸血歴)

ヒトパピローマウイルス:サーバリックス (2価) またはガーダシル (4価) を接種。男性はガーダシルのみ (CDC), 日本では中学 1年-高校 1年生の女性に接種。

肺炎球菌ワクチン:ニューモバックス (PPSV 23) は髄膜炎、菌血症、侵襲性肺炎球菌感染症の予防に効果的。プレベナー (PCV) は 65歳以上の高齢者の肺炎球菌性肺炎の予防効果がある (CDC)。両方打つのが望ましいが、日本では自治体毎にカバー範囲が異なるので確認が必要。5年間隔をあける根拠は、金がかかるという政治的な理由。接種の仕方にはガイドラインがある。

・インフルエンザワクチン:流行株が近ければ、健康な学童・健康成人で 50-80%のインフルエンザ予防効果が期待できる。対象は出生後 6ヶ月以上のすべての人、妊婦も (CDC)。10-12月に接種。

B型肝炎ウイルスワクチン:ワクチン接種が推奨される対象者:HBV感染者と同居している人, HBV感染者と性交渉のある人, 2人以上の Sex partnerがいる人, 性感染症の検査や治療を受けた人, MSM, 血液汚染のリスクのある職業についている人, 血液汚染のリスクのある職業に就いている人, 慢性肝疾患, 慢性腎臓病, 糖尿病

帯状疱疹ワクチン:ACIPでは帯状疱疹予防のため ZOSTAVAXを 60歳以上の全ての高齢者に推奨 (CDC) (50%の人が 85歳までに帯状疱疹を発症。一生のうちに帯状疱疹になるリスクは 32%, ZOSTAVAXは帯状疱疹リスクを 60歳以上で 51%, 50-59歳で 69.8%減少する)→日本には ZOSTAVAXはない

水痘ワクチン:日本では水痘ワクチン (ウイルス量 42000-67000 PFU) を用いる。米国では小児の水痘予防に VARIVAX (ウイルス量 1350 PFU), 帯状疱疹予防に ZOSTAVAX (ウイルス量 19400 PFU) を用いる。→日本の水痘ワクチンは ZOSTAVAXに匹敵する。ただし、帯状疱疹に対する保険適応がない。

喫煙 (2009年):全ての成人に喫煙歴を尋ね、喫煙者には禁煙介入を行う (USPSTF; A), 全ての妊婦に喫煙歴を尋ね、喫煙者には強く妊娠に関連させたカウンセリングを行う (USPSTF; A), 学齢児童や若者に対し、喫煙開始を予防するため教育とカウンセリングを推奨 (USPSTF; B)

問題飲酒 (2013):18歳以上の問題飲酒を減らすため、スクリーニングと行動カンセリングを推奨 (USPSTF; B) (絵s都度ある飲酒は 20 g/日, ビール中瓶 500 ml=20 g, 清酒1合 180 ml= 22 g, 焼酎 (35度) 1合 180 ml= 50 g, ワイン 1杯 120 ml= 12 g, ウイスキー・ブランデー 60 ml= 2o g)

うつ病 (2009年):正確な診断・効果的な治療とフォローアップのためのケアが可能なとき、成人にうつ病のスクリーニングを行うことを推奨 (USPSTF; B) (スクリーニング (どちらか一方でも可 ①この 1ヶ月、落ち着いたり、抑うつになったあり、絶望したりすることは多かったですか。②この 1ヶ月、何かするときに興味や楽しい感情が湧かないことは多かったですか)

暴力 (2013年):妊娠可能な女性のパートナーからの暴力をスクリーニングし、陽性となった女性を介入サービスに委ねることを推奨 (USPSTF; B) (米国では、女性の 31%, 男性の 26%が生涯で家庭内暴力を経験している)

葉酸 (2009年):妊娠を予定しているないしは妊娠可能な女性は、毎日葉酸 0.4-0.8 mgを補充することを推奨 (USPSTF; A)。 (約 1000妊娠に 1例で 2分脊椎がうまれるが、葉酸には予防効果がある) (妊娠が発覚してから内服しても遅いので、子作りするときに既に内服を始めておく)

・上記全てを一回の外来でこなすことは出来ないので、一回の外来で一つずつ実施していく。

普段狭い領域の診療をしていると、神経内科医領域以外の予防医学関連の知識のアップデートは遅れがちになりやすいので、こうして纏めて講義して頂けて、非常に為になりました。USPSTFのアプリは早速インストールしました。明日からの臨床に活かしたいと思います。

11:45~12:45 第4会場  Antimicrobial stewardshipと感染症診療 (細川直登)

Antimicrobial stewardship: “Antimicrobial stewardship includes not only limiting inappropriate use but also optimizing antimicrobial selection, dosing, route, and duration of therapy to maximize clinical cure or prevention of infection while limiting the unintended consequences, such as the emergence of resistance, adverse drug events, and cost. Given the emergence of multidrug-resistant pathogens and their impact on clinical care, appropriate use of antimicrobial agents has become a focus of patient safety and quality assurance along with medication errors, allergy identification, and drug-drug interactions. The ultimate goal of antimicrobial stewardship is to improve patient care and health care outcomes.

全コンサルと症例及び血液培養陽性症例に感染症科医が介入し、症例ごとに最大の治療効果と最小のスペクトラムの抗菌薬を持つ最適の抗菌薬を提案。目の前の患者に最適の治療効果を与えるとともに、次の患者のための耐性菌抑制を行う。亀田総合病院ではこれを行い、イミペネム耐性緑膿菌が 40→5%まで減少、MRSAが 50→20%台、MDRP 0となった。ただしこれを行っても診療報酬加算がつかないことで、どこの病院でもできるとはいかない。

問題点として、全ての抗菌薬の使用症例を感染症科が把握できない、外来での抗菌薬使用を把握できないこと。そんため薬剤部と連携して ASPチームを作ることを検討している。

経口セフェム薬には問題がある。例えば点滴でセフェム系抗菌薬を使うときは「◯◯ g」の単位だが、経口薬だと「100 mg」程度。さらに、消化管での吸収が 20%程度なので、20 mg程度を点滴するのと効果が同等と予想される。耐性菌出現の原因となりうる。

質問者から「カルバペネムの使用を制限しても、多剤耐性緑膿菌を減らせなかった。原因として何が考えられるか?」→①他院からの持ち込みの可能性:入院してきた時に調べて統計をとればわかる。②院内伝播:医療従事者などを介して患者間で伝播する。手洗い等、感染管理が大事になる。

感染症科医の介入による抗菌薬の適正な選択で、ここまで耐性菌が減ることに驚きました。診療報酬はクリアしなければいけない問題と思いました。あと、私は数年間処方していませんが、経口セフェムは害が大きいのですね。勉強になるランチョンセミナーでした。

13:00~14:30 第1会場  最新論文 30選 2015年度版:忙しいあなたのために (平岡英治)

<循環器アップデート>

Angiotensin-neprilysin inhibition versus enalapril in heart failure.

LCZ696 (ネプリライシン+ARB合剤) はエナラプリルと比較して死亡および心不全による入院のリスクを低下させる。Limitationは製薬会社スポンサー、価格不明、長期副作用不明。死亡率低下が証明されている収縮能低下性心不全 (HFrEF) の治療は、ACE阻害薬 (ARBは ACEに非劣性)、β遮断薬、アルドステロン阻害薬、心臓再同期療法 (QRS≧120のみ), 植込み型除細動器, ネプリライシン阻害薬 (New)。 (※ネプリライシン+ACE阻害薬の合剤は、ブラジキニン蓄積に伴う深刻な血管浮腫が報告されたため、ネプリライシン+ARB合剤となっている)

Fractional flow reserve-guided PCI for stable coronary artery disease.

前提:不安定狭心症 or 心筋梗塞疑いは CAGを行う→それ以外で心筋負荷試験で虚血がある場合は安定狭心症の診断で診断・治療→高リスク病変の疑いの場合は左冠動脈主幹部/3枝病変等なら CAGとする。安定狭心症の患者ではまず薬物療法を行い、それでも狭心症状がある場合は PCIとなる。安定狭心症の患者に対する PCIは、狭心痛の頻度が減るが、死亡率は不変、術後短期間の心筋梗塞は増えることが知られている。

安定狭心症患者において FFRガイド下の PCI (FFR=狭窄部位遠位圧力/狭窄部位近位圧力 <0.8) は薬物療法のみと比較して良好な転機をもたらす。FFR>0.8群においては薬物療法のみで良好な結果が得られた。

Digoxin-associated mortality: a systematic review and meta-analysis of the literature.

メタ解析の結果、 ジゴキシン使用により死亡率が増加することが示唆される。→ジゴキシンは過去の薬 (慢性心不全でも心房細動でも)。心房細動なら第一選択薬 (β遮断薬やカルシウム拮抗薬 (ジルチアゼム、ベラパミル) でレートコントロール)

Duration of dual antiplatelet therapy after drug-eluting stent implantation: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials.

薬剤溶出ステント (DES) を留置された症例に対し、短期間 DAPT使用群および長期間 DAPT使用群を比較した RCTを抽出してメタ解析を行った。短期間 DAPTは長期間 DAPTに比べて出血率は少なかったがステント血栓症は多かった。ただし、第二世代ステントの使用によりステント血栓症のリスクは減弱する。→第二世代ステントの DES患者では、DAPT内服は 3-6ヶ月と短くて良いかもしれない。Antibiotic treatment strategies for community-acquired pneumonia in adults.

Should atrial fibrillation patients with 1 additional risk factor of the CHA2DS2-VASc score (beyond sex) receive oral anticoagulation?

CHA2DS2-VAScスコアで 1点 (女性は 2点) においても脳梗塞のリスクは有意に増加するため抗凝固療法を検討する必要がある。→ESCガイドラインのように、CHA2DS2-VAScスコアで 1点 (女性は 2点) の心房細動患者に抗凝固を推奨しても良いかもしれない。レートコントロール、リズムコントロール (オプション) も忘れずに。

<呼吸器・集中治療・周術期>

Lower versus higher hemoglobin threshold for transfusion in septic shock.

敗血症患者における輸血閾値は、Hb 7 g/dlと Hb 9 g/dlで 90日間の死亡率に差を認めなかった。→Limitationとして、評価者のみ盲検化で患者・治療者にはオープン。注意事項として、1単位ずつの輸血は日本では 2単位ずつに相当。これらの輸血閾値は AMI, 大量出血や ECMOの患者は除く。7 g/dlより更に低くても安全かは知られていない

Withdrawal of inhaled glucocorticoids and exacerbations of COPD.

チオトロピウムとサルメテロールを併用している重症 COPD患者において、ステロイド中止群と継続群で、中等度あるいは重度の増悪は同様であった。→Limitationとして、吸入ステロイド離脱群で 43 mlの 1秒量低下があった。また、喘息合併の COPD患者を除外している。スポンサーが雇用した medical writerが関与。→長時間持続型β刺激薬 LABAと長時間持続型ムスカリン受容体拮抗薬 LAMAの両方を吸入していれば、吸入ステロイドが安全に taperできるとするには、時期尚早かも。

Goaldirected resuscitation for patients with early septic shock.

初期の敗血症性ショックを呈する救急受診患者において、EGDTは 90日死亡率を改善しなかった (この論文の背景として、EGDT 2001に対する反論がある。例えば、筆頭著者がカテーテルの特許を持っていたが利益相反の記載がない、デバイスが高い、対照群の死亡率が高すぎ、単施設研究・・・など)。→Limitationとして、抗菌薬投与が EGDTの 6時間より短く約 70分など。→敗血症性ショックに EGDTは不要。でも、「抗菌薬を 1時間以内に投与 (培養提出後)」「初期輸液は 6時間で 1.7 L以上」「CV挿入&昇圧剤投与 (ノルアドレナリン)」は重要。

Antibiotic treatment strategies for community-acquired pneumonia in adults.

非 ICU入院肺炎患者において、βラクタム単剤療法は、βラクタム+マクロライド or キノロン併用療法と 90日死亡率において劣ってはいなかった。→Limitationとして、非定型病原体 (レジオネラ、マイコプラズマ、クラミドフィラ) は 2%のみ、25%が割付から逸脱など→良質の痰が得られない場合かつ軽症なら非定型カバーなしで βラクタム単剤も選択肢。曝露歴・シックコンタクト等も考慮して抗菌薬を決める。

Efficacy and safety of nintedanib in idiopathic pulmonary fibrosis.

IPF患者でニンテダニブは FVCの低下を抑制した。下痢が多く認められた。→Limitationとして、軽症患者が対象で重症患者でのデータ不明。長期データ不明。下痢 60%, MI 約 1.5%, コスト不明, FVC低下は代替アウトカムに過ぎない。

<消化器・老年医学>

Sofosbuvir and ribavirin in HCV genotypes 2 and 3.

Genotype 2と 3の HCV感染に対する Sofosbuvir+リバビリン併用療法では、Type  2への 12週間投与で SVR (sustained virologic response (HCV-RNAが 3ヶ月後も検出感度以下)) 93%, Type 3への 24週間投与で SVR (85%) であった。副作用による治療中断は 1%→画期的な C型肝炎治療薬, ソホスブビルは 2015年 5月に日本でも発売予定。日本では 100~150万人が HCV感染に気付いていないので、そこを拾う努力を。

Helicobacter pylori eradication therapy to prevent gastric cancer in healthy asymptomatic infected individuals: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials.

胃癌に対する H.pylori除菌の NNT= 124 (95% CI: 78-843), 各国の胃癌の lifetime liskと合わせて考えると、除菌による胃癌発生率低下の NNTは、日本人男性 15.3, 日本人女性 23.0, 米国人男性 163.4, 米国人女性 245.1

Appropriate and timely antimicrobial therapy in cirrhotic patients with spontaneous bacterial peritonitis-associated septic shock: a retrospective cohort study.

肝硬変患者の SBP (spontaneous bacterial peritonitis) による敗血症性ショックでは、院内死亡率は 80%と高率である。院内死亡率に影響する独立因子は、適切な抗菌薬開始までの時間、APACHE IIスコア、乳酸値であった。血圧低下後、抗菌薬投与が 1時間遅れる毎に院内死亡率が平均 1.86倍上昇する (肝硬変で腹水貯留症例に置ける腹水穿刺の一般論として、入院症例は (穿刺できる量があって禁忌がなければ) 全て腹水穿刺の適応。SBP症例は、肝性脳症のゲシュタルト 50%, 腹痛 60%, 熱発 70%, 下痢 30%, 無症状 25%)

Low-dose aspirin for primary prevention of cardiovascular events in Japanese patients 60 years or older withatherosclerotic risk factors: a randomized clinical trial.

60歳以上の心血管リスク (高血圧、高脂血症または糖尿病) のある日本人に 1次予防目的に 100 mg/日の低用量アスピリンを投与すると、心血管系関連死亡・非致死的な心筋梗塞、非致死的な脳血管疾患の複合を改善しないが、消化管出血の有害事象は明らかなに増加する。→アスピリンは 1次予防としては投与しない

Antipsychotics, other psychotropics, and the risk of death in patients with dementia: number needed to harm.

認知症に対する抗精神病薬・抗鬱薬などの投薬は死亡率を上昇させる可能性があり、そのリスクは以前考えられていたより高い。それぞれの薬剤の NNHは (1名死亡に対して) 、ハロペリドール 26, オランザピン 40, クエチアピン 50, リスペリドン 27, 抗鬱薬 166であった。→抗精神薬の使用は可能なら短期間に。継続する場合も減量可能か検討。入院中は入れ歯、メガネ、補聴器、カレンダー、時計等が取り上げられるせいで “Reorient patient” となる可能性があるので注意。

<腎・内分泌>

Blood pressure-lowering treatment based on cardiovascular risk: a meta-analysis of individual patient data.

心血管リスクの高い症例ほど降圧治療が心血管イベントを減らす。RRRはほぼ変わらないが、5年主要 CVDリスクが 11%未満の時 NNT 71, 21%以上なら NNT 26となる。→CVDハイリスクからでも降圧効果は十分あるので、降圧薬内服を。もちろん CVD低リスクの方にも降圧管理を。

Follow-up of blood-pressure lowering and glucose control in type 2 diabetes.

糖尿病に対する降圧療法は、長期的に心血管イベントを抑制する。長期罹患患者に対する厳格な血糖管理は、心血管イベントを抑制せず、腎不全進行は減らす。

Comparison of weight loss among named diet programs in overweight and obese adults: a meta-analysis.

どのダイエット法も減量効果あり、継続できる方法を選ぶ。→ただし、Atkins diet (を含む low carb diet) は、体重減少効果も大きいが、副作用も多い (便秘・下痢・こむら返り・頭痛・脱力感・口臭)

Co-trimoxazole and sudden death in patients receiving inhibitors of renin-angiotensin system: population based study.

ACE-I/ARB使用中の高齢者に ST合剤を併用すると突然死が増える (1000人に使用すると 14日以内の突然死が 3人増える)。高 K血症が誘因かもしれない。CPFXの併用も突然死は増える。→膀胱炎の外来治療選択肢の引き出しを。Sanford 2015における、acute uncomplicated cystitis in womenでの治療選択肢は、ST合剤、Nitrofurantoni, Fosfomycin, キノロン, AMPC/CVA, 第 1世代セフェム (セファレキシン), 第 2世代セフェム (セファクロル)

Ultrasonography versus computed tomography for suspected nephrolithiasis.

最初にエコー検査をしても害を認めない。救急医エコーの 4割で CTを追加するが総被曝量は減る。→腎結石症を疑ったら、まず腹部超音波検査、それから必要なら CT検査。

<神経内科・感染症編>

Hemicraniectomy in older patients with extensive middle-cerebral-artery stroke.

高齢の急性期広範囲脳梗塞患者における開頭減圧術は、死亡率を減少させるが、生存者に多くの中等度以上の障害が残存する。→寝たきりは不効果?”Disability paradox (長期間経過するとたとえ高度障害が残ってもそれを受け入れ QOLを高く評価することがある)” という概念がある。植物状態、少しだけ意識がある状態ではどうか?

Atrial fibrillation in patients with cryptogenic stroke.

原因不明の脳梗塞患者に長期間モニタリングを行うことで、心房細動の検出率があがる。→イベント・モニター (日本でも売っている) は体にリードを貼らなくても良い。数週間くらい記録できる。Implantable loop recorderは皮下に埋め込む。最長 2年くらい記録できる。

A randomized trial of intraarterial treatment for acute ischemic stroke.

頭蓋内主要血管閉塞における急性期脳梗塞患者への血管内治療は、t-PA単独治療に比べて予後を改善した。→SWIFT PRIME, EXTENDED IA, ESCAPE, MR CLEANの mRS 0-2の NNTは、それぞれ 4, 3.2, 4.1, 7.6

Timing of antiretroviral therapy after diagnosis of cryptococcal meningitis.

クリプトコッカス髄膜炎を有する HIV患者では、髄膜炎治療開始から 2週間以内の ART開始で死亡率上昇。最適な ART開始のタイミングは不明だが、ARTの導入は遅らせた方がよい。→日和見感染ありの AIDS患者への HAARTは、早めに開始 (結核は 2週間以内に)。クリプトコッカス髄膜炎は遅い目に開始。個別化が大切であり、専門家と相談。

Influenza vaccination of pregnant women and protection of their infants.

妊婦へのインフルエンザワクチンでは、HIV非感染妊婦では母児ともにインフルエンザが減少し、HIV感染妊婦では母体のインフルエンザが減少した。流産、低出生体重には影響なかった。→妊婦へのインフルエンザワクチンは、母、子供に対して予防効果あり!!, ただし (打っても打たなくても) 一定の割合で流産があるので、十分説明してからワクチンを。

<血液腫瘍・膠原病>

Platelet transfusion: a clinical practice guideline from the AABB.

化学療法・放射線治療時は、血小板数 1万以下ならアフェレーシス血小板 1単位 (=日本の濃厚血小板 15単位) を輸血 (strong recommendation, moderate quality evidence)。低浸襲手技時、中心静脈穿刺では血小板 2万以下なら血小板輸血、腰椎穿刺では 5万以下なら血小板輸血をする (weak recommendation, low quality evidence)。手術 (神経以外) の時、血小板 5万以下なら血小板輸血、心臓手術 (人工心肺あり) では出血+血小板低下したら血小板輸血 (weak recommendation, very low quality evidence), 抗血小板薬+脳出血時は血小板輸血は推奨も否定もできない (Uncertain recommendation, very low quality evidence)。→血小板は 77000円/10単位、大事に使う

Chimeric antigen receptor T cells for sustained remissions in leukemia.

再発性、難治性 ALL患者に対し、CD19特異的キメラ抗原受容体 (CTL019) 導入 T細胞療法を行った所、1ヶ月時点で 90%が寛解、フォローアップ時点 (中央値 7ヶ月) で 63%が寛解維持、 23%が死亡であった。6ヶ月無増悪 67%, 6ヶ月生存 78%, CTL019の発現は最長 11ヶ月まで持続した。キメラ抗原受容体を用いた T細胞療法は再発難治 ALLに対し有効である。→T細胞の活性化には、抗原提示細胞が MHC peptideを発現して T細胞の T cell receptorがそれを認識すること (シグナル1)、抗原提示細胞の CD80, 26と T細胞の CD28が結合すること (シグナル2) が必要。腫瘍細胞はシグナル 1と 2を両方抑え、免疫系から逃れている。そこで、シグナル1と 2両方が活性化する抗 CD19抗体を作成 (患者から T細胞を採取し、遺伝子を注入して培養増殖) し、患者に投与する。→腫瘍細胞を攻撃できるようになる

Multitarget therapy for induction treatment of lupus nephritis: a randomized trial.

ループス腎炎患者に対する「ステロイド (mPSL 0.5 g x 3 days, PSL 0.6 mg/kg/day) + ミコフェノール酸モフェチル (1 g/day) + タクロリムス (4 mg/day)」は、「ステロイド (mPSL 0.5 g x 3 days, PSL 0.6 mg/kg/day) + シクロフォスファミド静注 (0.5~1.0 g/m2 4週間毎 6ヶ月)」に比べ、24週での寛解率が良く、有害事象は同程度だった。→今回されたのは寛解導入のレジメの比較で、3剤にした方が寛解率が改善 (45% vs 25%) した。しかし、長期予後は controversialであり、今のところ 2012年 ACRガイドラインが基本。

Overall Survival and Long-Term Safety of Nivolumab (Anti-Programmed Death 1 Antibody, BMS-936558, ONO-4538) in Patients With Previously Treated Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer.

濃厚治療歴のある非小細胞肺癌に対し、ノボルマブは生存期間中央値を 10ヶ月延長し、有害事象は許容範囲であった。→腫瘍は PD-L1, 2を発現させ、CD28陽性 T細胞の PD-1と結合することで免疫抑制させ、攻撃から逃れる。ニボルマブは PD-1を阻害する。(T細胞が活性化されないため存在する抑制系=チェックポイント)

Barriers to goals of care discussions with seriously ill hospitalized patients and their families: a multicenter survey of clinicians.

治療のゴールに関する話し合いの障壁。医師へのアンケート調査で、患者と「ケアのゴール設定」を議論できない理由は、患者および家族に関することが多い (e.g. 家族が予後不良を受け入れられない、家族が生命維持装置の不利益を理解できない、家族間で治療のゴールに合意形成できない、患者が生命維持装置の不利益を理解できない・・・)。

私は有名誌は定期的にチェックしているのですが、知らない論文も多く、随分と選り好みしていたんだなぁと思いました。論文の背景がしっかりと説明されていたので、神経内科領域以外で、特に勉強になりました。あとこの講義は、多くの論文で批判的吟味もしっかりされていたのが、良いですね。来年も受講したいです。

夜は、赤垣屋に行きました。12名の参加者のうち、5名が医学書の著者という豪華メンバーでした (今回の学会で講演をしたのも 5名)。博学なメンバーが多く、医学史の話など盛り上がりました。色々と刺激を受けました。

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懲戒

By , 2015年5月31日 7:32 PM

詳細がわからないのでコメントは避けますが、こんなこともあるんですなぁ・・・。

50代教授がパワハラで懲戒 自治医大神経内科 医師の退職・異動相次ぐ

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指定難病追加

By , 2015年5月30日 4:43 PM

2015年 7月 1日から、指定難病が追加されます。新しく難病に指定される疾患には、筋ジストロフィーとか、前頭側頭葉変性症とか、神経内科領域が多く含まれています。神経内科医はチェックが必要ですね。

平成27年7月1日施行の指定難病(新規)

ちなみに、従来指定されていた疾患はこちら。

平成27年1月1日施行の指定難病(新規)

平成27年1月1日施行の指定難病(更新)

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ALSモデルマウス

By , 2015年5月28日 6:25 AM

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の研究には、SOD1変異マウスが用いられることが多いのですが、SOD1変異患者は孤発性 ALSと病理が異なるなど、本当にこのマウスが孤発性 ALSを代表しているのかどうかには議論があります。一方で、C9orf72のGGGGCC 6塩基反復配列伸長は、遺伝子変異が検出された ALS患者の中で最多を占め (ただし、日本人では稀)、更に孤発性ALSのほぼ全ての患者でみられる TDP-43病理を示します。そのため、孤発性 ALSの研究対象として非常に注目が集まっています。

2015年5月24日の Science誌に、C90rf72のGGGGCC 6塩基反復配列伸長を持つモデルマウスの作成に成功したという論文が掲載されました。

C9ORF72 repeat expansions in mice cause TDP-43 pathology, neuronal loss, and behavioral deficits

このマウスは、RAN translationにより生じるジペプチドリピート蛋白の封入体があり、TDP-43病理を示しました。また、前頭側頭葉変性症 (※しばしば ALSと同じ遺伝子が原因となり、ALSに合併することもある) でみられるような精神症状がみられました。

このモデルマウスにより、ALS研究が進むことを期待したいと思います。SOD1変異マウスで試した治療薬をこのマウスで試すとどうなるかなど、興味があります。

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HIV治療とミトコンドリア障害

By , 2015年5月27日 7:59 AM

HIV治療薬を組み合わせた HAART療法ではミトコンドリア障害による乳酸アシドーシス、脂肪肝などが起きうることが知られています。今回、JAMA Neurology誌に、HIV治療薬によるミトコンドリア障害で、ミトコンドリア筋症のような臨床所見を呈したという論文が掲載されていました (2015年5月1日 online published)。

Clinical and Pathological Features of Mitochondrial DNA Deletion Disease Following Antiretroviral Treatment

HIV

HIVとミトコンドリア障害

HIV治療薬を長期内服している方に筋力低下や CK上昇を見た場合、この副作用を頭の片隅に置いておく必要がありそうですね。ただ、この論文を知人の HIV専門家に話題にしたら、最近の HIV治療薬はミトコンドリアへの負担が軽減しているとのことでした。

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第 56回日本神経学会学術大会

By , 2015年5月24日 9:34 AM

第 56回日本神経学会学術大会に行ってきました。久しぶりに楽しい総会でした。忘れないうちにメモを残しておきます。

5月21日(木)

昼頃に学会場に到着しました。チェックインをして、まずは腹ごしらえ。朱鷺メッセから 10分程歩いた所にある港食堂に決めました。ちょうど食事時で混んでいたのですが、近くに巨大テントがあって、そこに机と椅子がたくさんあったので、空くまで読書をして暇を潰しました。食事をしてから、学会場に向かいました。

学会では、Neurology in Asiaを聴きました。本当は「自己免疫が関与する内科・神経疾患の診断と治療」も聴きたかったのですが、同時刻だったので無理。普段聴けない話をと思って、こちらを参加しました。全て英語でのセッションでした。

Asian Neurology Forum 1

1. Nipah virus encephalitis

・マレーシアでのアウトブレイクを演者の Tan先生が報告した論文。豚から感染する。Fatal encephalitis due to Nipah virus among pig-farmers in Malaysia.

ニパウイルスはパラミクソウイルスの一種。Nipah virus: a recently emergent deadly paramyxovirus.

・疫学的には、symptomatic:subclinical=3.4:1

・臨床所見についての論文。Clinical features of Nipah virus encephalitis among pig farmers in Malaysia.

・抗体検査法について。Second generation of pseudotype-based serum neutralization assay for Nipah virus antibodies: sensitive and high-throughput analysis utilizing secreted alkaline phosphatase.

・MRI所見について。Nipah viral encephalitis or Japanese encephalitis? MR findings in a new zoonotic disease.

・治療について。リバビリンで死亡率が 54%から 32%にまで減少する。Treatment of acute Nipah encephalitis with ribavirin.

・モノクローナル抗体による治療も開発途中である。A neutralizing human monoclonal antibody protects against lethal disease in a new ferret model of acute nipahvirus infection.

・再発や遅発性発症のこともある。Relapsed and late-onset Nipah encephalitis.

・バングラデシュやインドなどでアウトブレイクを繰り返している。Nipah virus encephalitis.

・樹液を回収する桶を設置→コウモリが夜に飲みに来て汚染→人が回収して飲む、コウモリ→馬→人→人という感染経路もあるかも。

・Nipah virusと Hendra virusは、両者ともパラミクソウイルスの中の Henipavirusである。そのため似ている点がある。両者とも、Pteropusや他のコウモリがウイルスのリザーバーである、脳と肺を侵し致死率が高い、ヒト―ヒト感染する・・・など。

2. Leprosy (ハンセン病): An old disease with new horizons

・鑑別診断から漏れることが多く、診断がつくまで平均 1.8年かかる。68%の患者が disabilityを伴う神経ダメージを受けている。

・超音波検査で肥厚した神経が見えることがある。

・疫学的には、ブラジルやスーダンで罹病率が高い。インドも人口が多いので患者数が多い。

・多発単神経炎、びまん性の対称性末梢神経障害、無症候性のものがある (多発単神経炎が大事)。

・疾患スペクトラムは、innate T cell immunityによる。免疫が良ければ TT型、悪ければ LL型。

・表在する四肢の神経は全て侵されうる。

・通常、皮膚と神経は共に侵される。

・感覚脱失を伴った hypo or hyper pigmented rash、神経肥厚、皮膚スメアで acid fast bacilliの存在の 3徴は、感度・特異度 97~98%くらいととても高い。

・Geneticには、10p13に感受性の locusがある、HLA allels DR2, DR3などが関連。

・治療は、Rifampicine, Dapsone, Clifazimine, steroidなどの併用療法。

3. Human rabies (狂犬病): neuropathogenesis, diagnosis, and management

・犬では筋に達する傷、コウモリでは引っかき傷から感染しやすい。

・犬の場合は運動ニューロン、コウモリの場合は感覚ニューロンから感染?

・incubation period (20-60 days to year)→prodorome (1-2 days)→acute neuron phase (1-2 days)→coma (1-7 days)→death

・prodrome phaseで既に brain MRIに異常がみられる。造影MRIで前角細胞の障害が観察される。

・ウイルスの分布について。Human rabies: neuropathogenesis, diagnosis, and management.

・機序として、ミトコンドリアの障害が指摘されている。

・1972-2014年で10人生存者がいた。彼らの間では早期に抗体ができていた。

・”Prevention is the best”

4. Lipid storage myopathy caused by MADD in China

・Lipid storage myopathy (LSM) の原著について。Myopathy associated with abnormal lipid metabolism in skeletal muscle.

・筋生検に占める LSMの割合は、日本 (国立精神神経センター) 0.5%, 中国 3.6~10%程度。中国では多い。

・LSMには ①primary carnitine deficiency, ②neutral lipid storage disease with myopathy (NLSDM), ③multiple acyl-CoA dehydrogenation deficiency (MADD) がある。

・MADDは、①central nerve system involvement, ②episodic metabolic crisis, ③lipid storage myopathyを特徴とする。

・MADDの中には、リボフラビンに反応する患者がいる (Riboflavin responsive MADD; RR-MADD)。供覧した動画では、支えられて立っていた患者が、1か月後にはジャンプしていた。筋病理も改善。

・MADDの発症は 5~63歳。家族歴があるのは 1割未満。10-20%の患者では肝臓の adipose tissue infiltrationがある。37%では末梢神経障害がある。

・中国の RR-MADDの多く (86%) は ETFDH変異による。日本では 8.5%程度。

・ヨーロッパの MADDは中枢神経浸潤が多いが、中国ではスペアされる。

この後、ポスター発表を見てから、知人とで日本酒を飲みました。学会参加者の姿がちらほら見えました。

5月22日(金)

午前 8時からは運動ニューロン疾患の講演を聴きに行きました。。

運動ニューロン疾患の分子病態・治療法開発の最先端

1. 運動ニューロン死の共通機構

・glial cellから SOD1変異を取り除くと疾患の進行が遅れる。

・Astrocyteや microgliaは進行を規定、motor neuronは発症を規定、Oligodendrocyteは発症と進行を規定。

・TGF-βは細胞の成長や免疫に関係している。孤発性ALSでは TGF-β1が上昇している。TGF-β1が上昇すると IFN-γも上昇している。TGF-βはバイオマーカーになるかもしれない。

・TGF-β1阻害をすると SOD1G93Aマウスが長生きする。

2. TDP-43の病原構造の決定と抗体を用いた分子標的治療

・従来は、TDP-43の mislocalizationが pathogenic misfoldingの原因になると考えられていたが、最近では pathogenic misfoldingが mislocalizationの原因になると考えられている。

・TDP-43に圧をかけると立体構造が変わるので、それを NMR解析した。通常では立体構造が変わっても元に戻るが、戻れなくなる立体構造をとることがあるので MS解析した。結果、RNA recognition motif (RRM) 1, 2を同定した。そこから RRM2のダイマー形成に関与する部位に対する 3B12A抗体を作成し、実験を行った。

3. 筋萎縮性側索硬化症におけるオプチニューリンの役割

・血族婚の関与した ALS患者を対象に Homozygosity Mappingを行った。世代を経る毎に遺伝子の組換えが起きるため、ホモ接合の範囲は狭くなっていく。調べた患者のうち、一部でオーバーラップする領域があり、そこに含まれる遺伝子の一つが Optineurin (OPTN) だった。

・Optineurinは linear 及び K63 Ubiquitinと interactする。

・2015年3月に掲載された Science論文で、ALS患者に対する Kxome sequenceの結果が掲載された。サンプルサイズの大きい研究で、TBK1など 50個くらいの原因遺伝子が検出された。Exome sequencing in amyotrophic lateral sclerosis identifies risk genes and pathways.

・TBK1のハプロ不全は、ALS発症の原因となる (Haploinsufficiency of TBK1 causes familial ALS and fronto-temporal dementia.)。TBK1は Optineurinと interactionできなくなることが、発症に関与する。TBK1や OPTNの変異で、運動ニューロン疾患を伴わない前頭側頭葉変性症を発症することがある (Whole-genome sequencing reveals important role for TBK1 and OPTN mutations in frontotemporal lobar degeneration without motor neuron disease.)。

・TBK1は緑内障にも関連している (※OPTNは変異部位によっては閉塞隅角緑内障の原因遺伝子である)。

4. FUSの質的機能喪失による ALS/FTLDの病態機構

・Large fractionの FUSで免疫沈降させると、RNA結合タンパクである SFPQとの interactionと共沈した。

・ALS/FTLDでは、SFPQと FUSの共局在が減少していた。

・FUS変異があると、tauを codeする Mapt Exon 10のスプライシングができなくなる。FUSは核内で Maptの pre mRNAに結合している。

・FUSと SFPQを海馬でノックアウトさせたマウスでは、不安行動や社会性低下 (脱抑制) が見られるようになる。

・FUSと SFPQをノックアウトすると、adult neurogenesisが抑制されるが、RD4 (4 repeat tau) を抑制するとレスキューされる。

5. Evidence of link between TDP-43 and dipeptide repeat protein in c9FTD/ALS

・C9ORF72がどのようにして ALS発症に関連しているか、3つの仮説がある。①Haploinsufficiency, ②RNA toxity, ③Dipeptide repeat protein (Dipeptide repeat proteinについては、以前ブログで紹介したことがあります。著者らが引用していたのは、2013年の Science論文。)

・今回は dipeptide repeat proteinについて解析した。そのうち、いくつかの dipeptide repeat proteinは難溶性であった。

ALSの講演の後は、inflammatory myopathiesの口演を聞いて、食事に出かけました。この日の昼食は、前日に昼食を取った店の隣にある弁慶でした。午後は、 “Neuroscience Frontier Symposium2, Molecular mechanisms of Parkinson’s disease: what do we know and where are we headed?” に参加しました。全て英語のセッションでした。”PINK1と Parkinの関わる家族性 Parkinson病の分子病態” を発表された松田憲之氏は、前日の毎日新聞に記事が載っていて、「何とタイムリーな」と思いました。それが終わってからポスター発表を見に行きました。興味深かったのが、”脳梁膨大部に一過性異常信号を認めた新規遺伝子変異の X連鎖性 Charcot-Marie-Tooth病” でした。知り合いの医者に聞いたのですが、「末梢神経障害がある」という情報を聞いて読影した放射線科医の柳下章先生が、画像を見ただけで「Charcot-Marie-Tooth病だよ」と診断を当てたというのです。過去にいくつか報告はあるようなのですが、神のような診断技術だと思いました。

夕食は、蒲原銀次に行きました。炙り焼きの店ですね。その後は、ヨークシャテリアというバーへ。「響 30年」は、1杯 10000円なので手が出ませんでしたが、色々と美味しいウイスキー、カクテルを頂きました。ジン・トニックはキングスバリーのビクトリアン・バットという樽熟成させたジンを使っていたり、マスターが得意とするギムレットはオーセンティックなバージョンと、ライムが手に入らなかった時代のバージョンの 2種類があったり、こだわりを感じました。また、「南アルプスの天然水」は、白州というウイスキーの蒸留所で作っているので、白州を「南アルプスの天然水」で割ると相性が良いなんて話も聞きました。マスターに教えて頂いた蕎麦屋 (孫四郎を紹介されたのだけど、孫四郎だったかな・・・記憶が曖昧) に流れ、蕎麦とうどんを 1枚ずつ頼むという暴挙に出た後、記憶をなくしました。

5月23日 (土)

午前 8時から、 iPSの講演を聴きに行きました。

幹細胞研究最前線

1. パーキンソン病に対する iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞移植

・L-dopaはドパミン・ニューロンでドパミンに変換されて効くので、ドパミン・ニューロンがいなくなると効かない。ドパミン・ニューロンには、①produce and storage dopamine, ②convert L-dopa to dopamineの役割がある。

・細胞移植をすると薬が効きやすくなる。

・細胞移植のため、Hostの環境をどう良くするのが良いか?①既存の薬:バルプロ酸、ゾニサミド、エストラジオール (E2) を用いると、マウスでもヒト iPS細胞でも細胞生着が良くなる。特にゾニサミドが良い。②新薬を探す:NXPH3が support factorかもしれない。脳バンクのサンプルでは、パーキンソン病患者の線条体で NXPH3が減少している。NXPH3は neuroexophilinを codingし、シナプス安定化に関与している。

・パーキンソン病患者に対する iPS細胞を用いた臨床試験について、年内、早ければ 6月にも倫理委員会に研究計画を提出しようとしている。臨床試験の手順は、パーキンソン病患者からの採血→iPS細胞樹立→ドパミン・ニューロンに分化→自家移植というもので、現時点で対象患者として考えているのは、①孤発性、②70歳未満、発症 5年以上, ③H-Y分類 III or IV, ④L-dopaに反応性がある患者。まず 2年間 follow upし、primary endpointとして画像評価などで安全性を評価する。Secondary endpointは UPDRSなどでの効果判定。

2. iPS細胞を用いた網膜細胞治療

高橋政代氏による講演。

・現状では、加齢性黄斑変性症では、抗 VEGF薬の眼球注射をずっと続けなければいけない。

・手順は、fibroblast→iPS→Differentiation ((網膜色素上皮細胞なので) 色がついているのがミソ)→pure PRE cells→基底膜ができてくるのでシート状にして移植

・シートの変化は移植後 12週間で止まった。安全性として、拒絶反応や腫瘍化はしなかった。手術の合併症は minimumだった。視力は変わらなかったが、抗VEGF薬の注射をやめても進行しなくなった。ただし、手術で悪い血管が抜去されたためなのか、iPS細胞の効果なのかは判断できなかった。そのため、今後もう少し状態の良い患者で行うことが必要。

・現在は、Photoreceptor transplantationに力を入れている。笹井先生の方法を応用したもので、視神経の再生を目指しているという話。Time windowが大事になってくるようだ。

3. 微小小血管活性化による神経疾患に対する治療法開発

・心原性脳塞栓症患者で、骨髄穿刺をして、造血幹細胞を投与した。対象が重症な心原性塞栓症だったにも関わらず、11例中 9例が歩行可能になった。特に合併症はなかった。

4. iPSを用いた神経疾患研究

・Parkin変異 (パーキンソン病)、LRRK2変異 (パーキンソン病)、SCN1A変異 (Dravet 症候群)、PLP1変異 (Pelizaeus-Melzbacher病) などに対して、iPS細胞を用いて研究している。例えば、iPS細胞にミトコンドリア脱共役剤 CCCP (ミトコンドリアの膜電位が維持できなくなる) で処理すると、健常者由来の iPS細胞では異常なミトコンドリアがすぐに除去されるのに対し、parkin変異患者ではそうならない。

5. 社会とともに考える iPS細胞研究

・iPS細胞での研究と共に、新たな倫理的な問題が出てきている。例えば、ヒト由来の iPS使って実験をしていて、まだ発症していない病気を見つけてしまうことがあり得る。本人に伝えるべきかどうか。

・マスコミは科学ニュースをセンセーショナルに報道してしまう。誰が原因なのか?それを調べた BMJ論文がある。大きな原因としてプレスリリースが誇張した表現となっている。さらにマスコミも話を膨らませてしまう。

・iPS細胞に過剰な期待をしている人達がいて、そこにつけ込んだ怪しいビジネスがネット上でいくつもみられる。

iPS細胞については、非常に関心がある反面、私自身の知識が疎いところもあったので、非常に勉強になりました。この後は、ALSの遺伝子・病態解析についての口演を聞いて、同僚たちと日航ホテルにあるセリーナというレストランで昼食をとりました。

午後は、「ボツリヌス毒素療法」についてのハンズオンに行きました。エコーを使った筋肉の同定がとてもためになりました。

ボツリヌス毒素療法

・パーキンソン病の首下がりは、最近では頭板状筋の stretch injuryではないかと言われている (抗重力筋は障害されるけれど、すぐ近くにある非抗重力筋は障害されないため)。

・痙性斜頸では、歩行させると症状が誘発されやすいので、その場で足踏みをさせてマジックで必要な筋肉に印をつけていく。稀に臥位や書字で誘発される患者もいるので、それに応じた誘発を行う。

・アーテンは最初の 1週間に副作用が出やすいが、そこを乗り越えれば大丈夫なことが多い。少量で 1ヶ月頑張って頂く。その後は増量しても大丈夫。

・眼瞼痙攣は原則両側性だが、片側の眼の周囲だけ痙攣がある患者では、顔面痙攣と眼瞼痙攣の鑑別が問題になる。光が眩しいようなら眼瞼痙攣。左右で量に差をつけてボツリヌス注射を行う。

・橈側手根屈筋 (FCR) は、肘と手首を 1:4くらいにわけた場所にプローベを当てる。三角形に描出される。近くに正中神経が見えることがある。

・長母指外転筋は、血管が近くにあるので超音波検査が有用。FCRを見た位置よりやや遠位にプローベを置き、親指を動かすと筋収縮が観察される。

・下頭斜筋 (OCI) は、耳の下やや正中寄りで、犬の糞のように描出される。

・ボツリヌス注射後、筋収縮させると良い。

・注射をするとき、EMLAクリームを用いる疼痛が緩和される。

ハンズオンが終わってから、ぽんしゅ館に寄って、酔って帰りました。でも、日本酒は福島の酒の方が好きだなぁ・・・。

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