緑の天啓

By , 2014年6月7日 6:00 PM

先日の神経学会総会で無料配布されていた「緑の天啓 SMON研究の思い出 (井上尚英著, 海鳥社)」を読み終えました。

SMON (Subacute Myelo-Optico-Neuropathy) は、キノホルム製剤により、亜急性に脊髄、視神経、末梢神経の障害や消化器症状が出現する疾患です。昭和 30~40年代に問題となった、我が国最大級の薬害でした。原因が薬の副作用だったにもかかわらず、それがわかるのに長い年月を必要としました。私は本書を読むまでは、「通常、薬剤内服歴はチェックするはずなのに、なぜそれがわからなかったのか」と疑問に思っていましたが、実はそれにはいくつも理由があったようです。

・薬剤を内服してから症状が出るまで、数週間のタイムラグがあった。

・量依存的に症状が出現するため、少量であれば飲んでも影響がなかった。「飲んでいても大丈夫」な患者がいたため、疑いにくかっった。

・キノホルムを含む整腸剤に副作用はなく無害だと思われていた (海外では投与量が制限されていたが、日本の説明書ではそこが省かれていた。安全だと信じこんで大量投与を行う医師がいて、その地域に患者が集中した事情があったらしい)。

・キノホルムを含有する薬剤は複数あり、単一の商品ではなかった。そのため商品名だけチェックしてもわかりにくかった。

・キノホルムが胃腸炎などで消化器症状を呈した患者に対する治療薬として使われため、内服後に副作用で消化器症状が出たとしても、もともとの病気の症状と判断されてしまった。

原因不明と思われた SMONは、日本中の神経内科医らがしのぎを削って研究し、最後はあっけなく原因が同定されました。研究の過程で登場するのは、豊倉先生、高須先生、黒岩先生、椿先生、井形先生など、そうそうたる神経内科医たちです。まさに叡智を結集してと言って良いです。

この薬害から改めて思うことは、「クスリはリスク」ということです。副作用のない薬はないと考え、必要ない薬は使わない、使うとしても用量をきちんと検討することが重要ですね。

本書を読みながら、薬害に苦しんだ患者や、良かれと思ってキノホルムを処方して薬害を作ってしまった医師たちの心中を考え、心が痛みました。

SMONの原因が同定されてから数十年が経ちます。私を含め、今の若い医師たちはあまりこの問題を知らないと思います。風化させてはいけないと思いますので、是非多くの方にこの本を読んで頂きたいです。

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ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2014

By , 2014年6月5日 7:58 AM

ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2014に参加してきました。ハズレの講演が一つもなく、非常に有意義な時間を過ごすことが出来ました。

 5月31日10:00~11:30 第1会場  「最新論文30選:忙しいあなたの ために」 平岡 栄治

<循環器・医学教育アップデート>

Vasopressin, Steroids, and Epinephrine and Neurologically Favorable Survival After In-Hospital Cardiac Arrest

院内心静止:VSEで神経予後良好 (Good: デザイン, ADL自立生存, ROSC, 全患者フォロー, 低体温治療 24%) (Bad: ギリシャ 3施設で少ない, ACLS 2005使用, VSEに慣れた施設, 院内 (院外は?), 同意は蘇生後, 組成前入院期間 2日 vs. 5日)

Comparison of the efficacy and safety of new oral anticoagulants with warfarin in patients with atrial fibrillation: a meta-analysis of randomised trials

NOACはワルファリンに比べての脳卒中、特に脳内出血の頻度を優位に減少させる。NOACはワルファリンに比べて死亡率、頭蓋内出血の頻度を減少させるが消化管出血の頻度を増加させる。低用量 (Dabigatran, Edoxaban) 群においては安全性が高まり死亡率の改善も高用量群同様維持される。(Good: 計 71683人と多い, 脳卒中・脳塞栓症減少, 死亡率低下 by 10%, INR治療域 >66%) (Bad: コスト約 10倍/月, エドキサバンは Afに未認可, 消化管出血増加, 新規抗凝固薬の直接比較不可)

Spironolactone for Heart Failure with Preserved Ejection Fraction

スピロノラクトンは心収縮能が維持されている心不全患者の心血管事故およびその既往、心不全入院の複合アウトカムを減少させないが心不全入院は減少させる。(Good: 多国間他施設?, BNP↑では利益, 心不全入院↓, フォロー期間十分, 重篤有害事象~), (Bad: BNP↑ or 過去一年間に心不全入院が対象, 心不全入院既往は本当に HFpEF? 再入院が少ない, 1/3で中断)

2014 Evidence-Based Guideline for the Management of High Blood Pressure in Adults

60歳以上の血圧ゴール 150/90以下, 60歳以下の拡張期血圧ゴール 90以下, 60歳以下の収縮期血圧ゴール 140以下,慢性腎不全患者の血圧ゴール 140/90以下, 糖尿病患者の血圧ゴール 140/90以下, 黒人以外の患者における降圧剤は CCB/Thiazide/ACE-I/ARBいずれかを選択する, 黒人患者には糖尿病患者を含め CCB/Thiazideを使用する, 慢性腎不全患者には人種をとわず ACE-I, ARBのいずれかが第一選択薬である, 血圧コントロール不良ならば現行の治療薬を増量するか他剤を追加する。(Good: IOMガイドライン基準, Do no harmの精神, エビデンスレベル明確, 利益背反があれば投票できない, 血圧がどのくらいで薬物療法開始, 降圧目標どのくらい, 降圧薬の優劣) (Bad: RCTのみで Meta解析なし, 低質の研究無視, 血圧正常研究除外, 狭い範囲 (推奨 9個のみ), 公のレビュー不十分, シニア筆者が離脱)

Next Accreditation System (NAS)

米国においては教育のシステムを進化させるべく New accreditation systemを開始ししている。より実社会のニーズに則したものをアウトカムとしている。本邦においても教育システムの構築が必要である。(Good: 教育機関の教育能力の質の保証, 患者中心・研修医主役, ACGME-Iに注目, アウトカムに基づく教育) (Bad: 研修医 1人に$280の費用, 日本でどのように活用?)

<呼吸器・集中治療・周術期>

Short-term vs Conventional Glucocorticoid Therapy in Acute Exacerbations of Chronic Obstructive Pulmonary Disease

COPD急性増悪患者における副腎皮質ステロイド全身投与患者は、5日間と 14日間で、6ヶ月間の急性増悪再発率に差を認めなかった。(Good: GOLD2013ガイドラインでは 10~14日→治療を変える, ステロイド用量 65%減少も, 比較的重症患者, 非劣性試験) (Bad: 肺炎患者除外, 全患者で抗菌薬, 28%は感染症あり)

Oral Apixaban for the Treatment of Acute Venous Thromboembolism

急性静脈血栓塞栓症の治療において、固定用量のアピキサバン単独のレジメンは、従来の治療法に対して非劣性で、出血率が有意に少なかった。(Good: 非劣性試験, 有症状の近位 DVTか PE, ダブルプラセボ, 再発/関連死減少, 重大な出血少ない, 活用すれば入院減らせる) (Bad: 死亡率有意差なし, 日本未認可の薬剤, 75歳より高齢だと大出血増加, 脳出血増加)

 Fibrinolysis for Patients with Intermediate-Risk Pulmonary Embolism

中等度リスクの肺塞栓症症患者において、血栓溶解療法は血行動態破綻を予防するが、重篤な出血と脳卒中リスクを増加させた。→中等症の肺塞栓に血栓溶解療法を解説者は推奨しない。血圧低下時のレスキュー血栓溶解療法で十分。

Prone Positioning in Severe Acute Respiratory Distress Syndrome

早期の腹臥位療法は、重症 ADRS患者の 28日, 90日死亡率を低下させる。(Good: 死亡率低下, 安定期 12~24時間改善患者除外, 1日>16時間, 低1回換気量と PEEP (ARDS net), 離脱プロトコール, 発症<36時間, 酸素化↑) (Bad: 腹臥位に超慣れている施設, 抜管少ない (慣れている施設のため), ARDSの少数派)

A Randomized Trial of Protocol-Based Care for Early Septic Shock

プロトコールに基づく蘇生は、敗血症ショックを呈する救急患者の生存アウトカムを改善しなかった。さらに、筆頭著者 Riversはカテーテルの特許を持っていたが利益背反の記載なし、Edwards Lifescience社より $404000+α, プリセップカテーテルが高い、対照群の死亡率が高過ぎる (46.5%), 288名→263となっており 25名はどこに?、単施設→ARISE研究/ProMISe研究 (Good: 多施設研究, Surviving Sepsis Campaignガイドラインに反論, 3時間以内に抗菌薬 76%, 早期診断・治療) (Bad: 輸液量、重症度、死亡率)

<消化器・老年医学>

Transfusion Strategies for Acute Upper Gastrointestinal Bleeding

急性期上部消化管出血では、輸血閾値を Hb 7以下にした方が、Hb 9以下にするより 45日後の全死亡率・再出血率・合併症率を改善する。(ただし、除外基準に大量出血や 90日以内の急性冠症候群があるので、そういう患者には適応できない)

Vascular and upper gastrointestinal effects of non-steroidal anti-inflammatory drugs: meta-analyses of individual participant data from randomised trials

プラセボと比較して COX2阻害薬は心血管イベント・上部消化管イベント・心不全での入院率・死亡率を増加させる。NSAIDsは心血管と上部消化管イベント・心不全での入院率を増加させるが、ナプロキセンだけは心血管イベントを増加させない可能性がある。低用量でもこの結果が適用されるかは不明である。→ナプロキセンは心血管イベントリスクの点からは最も安全、消化管出血リスクが高い症例には Coxib or ジクロフェナクがまだまし

Proton Pump Inhibitors and Risk of 1-Year Mortality and Rehospitalization in Older Patients Discharged From Acute Care Hospitals 

高齢者に対する PPIの長期投与は再入院率は増加させなかったが、死亡率の増加に関与している可能性が示された。高齢者に PPIを長期投与する際はそのメリット・デメリットをよく考慮し、投与中であれば中止可能か常に検討すべきである。→PPI一般論として肺炎のリスクや C.difficile腸炎のリスク、長期投与で骨粗しょう症のリスクを高め、今回の論文では 1年後の死亡率すら高める可能性がある。

Lactobacilli and bifidobacteria in the prevention of antibiotic-associated diarrhoea and Clostridium difficile diarrhoea in older inpatients (PLACIDE): a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial

PLACIDE studyでは probioticsの AADに対する予防効果は証明されなかった。CDDについても有意差なしであったが、AADの 60%にしか CDDの検査がされておらず、発症率も平均より低いため、probioticsの効果なしとは評価しづらい。PLACIDE studyは研究デザインの整った probioticsでは過去最大の多施設 RCTであり、この結果は無視できない。現時点では probioticsの使用についてはそのメリットやコストなどを考慮し個別化して対応すべきである。

Glucose Levels and Risk of Dementia

糖尿病のありなしにかかわらず、高血糖は認知症のリスク因子である可能性が示された。糖尿病患者においても平均血糖 160に比し平均血糖 190ではハザード比 1.4で認知症発症のリスクが上昇する。これは高齢の糖尿病患者においても血糖コントロールの必要性を示唆している。

<腎・内分泌>

Combined Angiotensin Inhibition for the Treatment of Diabetic Nephropathy

蛋白尿を伴う糖尿病性腎症に対して ACE阻害薬と ARBの併用は有害。Limitationとして、退役軍人を対象としており、99%が男性である。→JNC8の推奨でも ACE-Iと ARBを併用してはいけないと記載あり。併用している患者がいたら中止を推奨。

Blood Pressure and Mortality in U.S. Veterans With Chronic Kidney DiseaseA Cohort Study

CKD患者で最適な血圧は 130-159/70-89 mmHgの組み合わせ。下げ過ぎには注意。Limitationとして後ろ向きコホート、退役軍人医療機関での研究、99%男性、9割白人。

Comparison of survival analysis and palliative care involvement in patients aged over 70 years choosing conservative management or renal replacement therapy in advanced chronic kidney disease

高齢者の CKD患者でも、透析により長生きする。ただし、80歳以上/併存症増加/performance status低下のいずれか該当で透析のメリットはなくなる。透析導入の選択は慎重に。

2013 ACC/AHA Guideline on the Treatment of Blood Cholesterol to Reduce Atherosclerotic Cardiovascular Risk in Adults: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines

ASCVDあり→高用量スタチン、LDL-C≧190→高用量スタチン、 糖尿病/ASCVD 10年リスク≧7.5%→高用量スタチン、糖尿病/ASCVD 10年リスク<7.5%→中等量スタチン。ストロングスタチンは LDL-C値を約 50%以上低下、中等度スタチンは LDL-C値を約 30~50%低下。数値目標はない。

Repeat Bone Mineral Density Screening and Prediction of Hip and Major Osteoporotic Fracture

BMD測定は一回で十分。一回目の骨密度測定 (BMD) で薬物療法の適応でない患者では、4年後に BMDを行っても方針はほとんど変わらない。骨粗しょう症マネジメントでは、栄養指導 (カルシウム摂取)、禁煙指導、不必要な PPIの中止、荷重のかかる運動など。

<血液・腫瘍・膠原病>

Twenty five year follow-up for breast cancer incidence and mortality of the Canadian National Breast Screening Study: randomised screening trial

マンモグラフィーは乳癌による死亡率を減らさない。マンモグラフィーは小さな癌を見つけるが、424人に 1人は over-diagnosis (一生顕在化しない)。スイス医学会では、マンモグラムを新たに導入しないように勧告している。

Parenteral Hydration in Patients With Advanced Cancer: A Multicenter, Double-Blind, Placebo-Controlled Randomized Trial

末期癌患者への生食 1 L輸液は脱水症状、QOL, 生存期間いずれも改善しない。

Phase II Randomized Study of Trastuzumab Emtansine Versus Trastuzumab Plus Docetaxel in Patients With Human Epidermal Growth Factor Receptor 2–Positive Metastatic Breast Cancer

トラスツズマブ・エムタンシンは、トラスツズマブ+ドセタキセルに比べて、無増悪生存期間、安全性が勝る。

Therapies for Active Rheumatoid Arthritis after Methotrexate Failure

関節リウマチ MTXでコントロール不良例では、Triple Tx (MTX+スルファサラジン+ヒドロキシクロロキン) はエタネルセプト+MTXに非劣性である。

Efficacy of Remission-Induction Regimens for ANCA-Associated Vasculitis

重症 ANCA関連血管炎に対してリツキサンは寛解導入、寛解維持療法とも従来の免疫抑制剤 (シクロホスファミド 2 mg/kgで寛解導入→アザチオプリン 2 mg/kgで維持) に対して非劣性であった。

<神経内科・感染症>

Effects of Immediate Blood Pressure Reduction on Death and Major Disability in Patients With Acute Ischemic Stroke

脳梗塞急性期の積極的降圧は死亡や身体障害の改善に寄与しなかった。

Endovascular Therapy after Intravenous t-PA versus t-PA Alone for Stroke

血管内治療追加は t-PAと比較し予後を改善しなかった。ただし、有意差はないが、NIHSS>20以上だと血管内治療を追加した方が mRS 0-2 (自立した生活) の割合が高い可能性がある。今回の研究では、先行研究より血管内治療の開始が 32分遅れていることが関与している可能性がある。

Clopidogrel with Aspirin in Acute Minor Stroke or Transient Ischemic Attack

対象患者は高リスク TIA (ABCSD2 >4点), Minor stroke (NIHSS score ≦3点), 感覚障害のみ/視野障害のみ/めまいのみ/MRI正常を除外。介入群:初日クロピドグレル 300 mg+アスピリン 75~300 mg, 2~21日クロピドグレル 75 mg+アスピリン 75 mg, 22~90 日 クロピドグレル 75 mg, コントロール群:初日アスピリン 75~300 mg, 2~90日アスピリン 75 mgとしたところ、介入群で脳卒中再発は減少したが、出血性イベントは増えなかった。ただし、すべての脳梗塞患者には一般化できない。また、先行研究の結果から、長期にわたって 2剤を併用すべきではない。

Association Between Influenza Vaccination and Cardiovascular Outcomes in High-Risk PatientsA Meta-analysis

インフルエンザワクチン接種と心血管イベントの低下には関連性がある。特に活動性の心血管疾患を持つ高リスク患者には強い治療効果がみられる。ただし、この研究では primary endpointが複合エンドポイントであり、エンドポイントで 1次2次予防が混合している。ちなみに、AHA/ACCF冠動脈疾患 2次予防ガイドラインでは、心血管疾患がある人は毎年インフルエンザワクチンを接種することを推奨している (Class I)安定虚血性心疾患患者に対して PCIをしても生命予後改善は示されておらず、短期間心筋梗塞を増加させる可能性があり、長期経過において急性心筋梗塞を減少させないが、インフルエンザワクチンは心血管死、心筋梗塞を減少させる。

A New Strategy for Healthcare-Associated Pneumonia: A 2-Year Prospective Multicenter Cohort Study Using Risk Factors for Multidrug-Resistant Pathogens to Select Initial Empiric Therapy

HCAPでも層別化すると 50%程度が CAPとして治療しうる

この講演では、最新論文が 30本紹介されました。しかし、ただ紹介されたのではなく、論文が PICOで示され、批判的吟味もなされていました。非常に勉強になりました。

5月31日11:40-12:40  第3会場  「風邪の診かた」 岸田 直樹

岸田先生が書かれた「 誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた」という本に沿った内容でした。本自体は読んだことがありましたが、トークが絶妙で、会場が何度も笑いに包まれていました。

5月31日13:00-14:30  第5会場  「誰も教えてくれなかった診断学・中級編」~複雑な症例に挑戦する~ 野口 善令

large B cell lymhomaの骨病変に伴う高 Ca血症のケースが、診断名を伏せて示され、グループでディスカッションをして診断をしていくプロセスを学習しました。

野口先生の講演が終わってから、ポスター発表を見て、ホテルで休んでから赤垣屋に出かけ、演者の先生らと数名で食事をしました。非常に有意義な意見交換が出来ました。

6月1日10:10-11:40  第2会場  「Snapdiagnosis ver. 2」 須藤 博

身体所見は手から (British style)。

<手>

自身の爪の伸びる長さを William B. Beanが数十年に渡り調べている。32歳 0.123 mm/day, 61歳 0.100 mm/day, 67歳 0.095 mm/day

1. Terry’s nail: 肝硬変, 2型糖尿病, 慢性心不全, 慢性腎不全, 加齢

2. Mee’s Line: 重症の全身性疾患, ヒ素中毒

3. Beau’s Line: 1本だけなら外傷の既往を考える (棒線と覚える)

4. Muehcke Line (BMJ, 1956): 重症の低アルブミン血症

5. 手の皮疹: PHSと覚える。P=掌蹠膿疱症, H=手足口病, S=梅毒。ほかに Osler結節, 多形滲出性紅斑など。

6. 手の腫脹: RS3PE症候群, 早期の関節リウマチ, リウマチ性多発筋痛症 (PMR) 遠位型

7. Achenbach症候群: 急に指がズキッと傷んだ→血腫形成。明らかな誘因なし。治療適応なし。

<頸動脈>

8. 頸動脈怒張: CVP推定, 右心系の血行動態の推定。座位で鎖骨上に頸静脈の拍動が見えたら、中心静脈圧の上昇を意味する (例外=心タンポナーデ, 上大静脈症候群, 緊張性気胸)。仰臥位で全く見えなかったら、静脈系の虚脱を意味する (例外=太った人)。(その他、CVPの推定についての動画あり)

9. 傍胸骨拍動: 右室圧の上昇を意味する。

10. 心尖拍動: 鎖骨中線より外側や直径が 500円玉より大きいときは心拡大を示唆する。鎖骨中線より外側のときは EFも低下している。

<喉>

11. 亜急性甲状腺炎: 喉の痛い場所が移動する。赤沈高値が特徴。頸部に紙を置くと汗で貼り付く。頸部正中で心音を聴取することがある。

12. Hypothyroidism: Hypothyroid speechは 構音障害と間違えられることがある。Yellow palm, ATR弛緩相の遅延。

<腹部>

臍の直下には大動脈分岐部がある。臍の位置は剣状突起と恥骨結合の中点±1cm, 腹水や肝腫大で下方に移動する。

13. 腹部下半分の腫脹: 卵巣腫瘍, 妊娠, 尿閉

14. 簡単な尿閉の見方: 恥骨結合の上に聴診器を置いて、頭側から打診すると急に音が大きくなる場所がある。それが聴診器から 8 cm以上頭側にあれば尿閉。

15. 「持続的」な腹痛: 血管性の痛み, 膵炎, 胆石発作, 腹膜炎, 腎結石 (急性水腎症では、立ち上がるときに腎が引っ張られ疼痛でることもある), 小腸アニサキス

16.  虫垂炎: 個々の症状よりも、症状の順番が大事 (=march of events)。Pain→Anorexia→Tenderness→Fever→Leukocytosis

17. 腹膜炎: 頼みもしないのに膝を曲げている。

<その他>

18. PMR: 起き上がるとき疼痛のため特徴的な姿勢をとる。呼びかけても頚部痛ですぐに振り向かない。「全ての両側性の疾患は片側から始まる (ティアニー)」

19. PMRと思ったけれど実は・・・:環軸関節偽痛風 (Crowned dens syndrome: コップの水が飲めない, 首が回らない, 目薬させない→NSAIDs著効), Occult breast cancerの骨転移, 咽後膿瘍, ペースメーカーリード感染

20. Marcus Gunn pupil: swinging light test

21. 伝染性紅斑: 成人では net-like lace, 浮腫・関節炎症状。パルボウイルスを見たら、必ず SLEを考える。SLEを見たらパルボウイルスを考える。高齢者の全身痛は PMR, 30~40歳の全身痛は伝染性紅斑を考える。

22: けいれん: 頭部回旋, 舌の咬傷, 尿失禁・・・

23. 指導医へのオススメ論文: The clinical approach to the patient

24: 身体所見のオススメ本: 身体診察のアートとサイエンス

2013年の時と共通する内容がいくつかあり、良い復習になりました。また、新しく勉強になったことがいくつもありました。

6月1日12:45-13:45  第6会場  Meet the expert 「医学古書のすすめ」 清田 雅智

清田先生とは 2013年の ACP日本支部年次総会の時、一緒に飲みに行って意気投合し、私のことを覚えていてくださいました。今回は Sister Mary Joseph’s noduleの歴史について、1時間語られました。Sister Mary Joseph’s nodule (Pants-button umbilicus) は、腫瘍の臍転移を示す所見ですが、その命名に紆余曲折があったようです。講演のあと、私から清田先生に「神経学の原著」シリーズの論文コピーを御渡ししました。

6月1日14:00-15:30  第2会場  「Unsuspected killer in ED!  alive or dead」 林 寛之

1. Walk inの 0.2~0.7%が重症疾患である

2. 心筋梗塞は診断が難しく、訴訟になることが最も多い

3. 下壁梗塞では迷走神経症状として、消化器症状がみられる

4. 心筋梗塞を示唆する症状として冷汗は LR+ 4.6, 放散痛は LR 7.1 (右側に多いらしい)。ニトロや制酸薬が効くかどうかはあてにならない。胸痛パターンでは除外できない。

5. 冷汗は心筋梗塞, 低血糖, 有機リン中毒で見られる

6. 痛みのない心筋梗塞が 22~35%を占める

7. 心筋梗塞では、受診後 10分位内に心電図, First Medical Consultから 120分位内に心カテを目標とする。そのため、ナースの権限で心電図を取れるように院内の規定を整える必要がある。

8. 心筋梗塞に対する心電図の感度は 13~69%とされている。3~4時間後に再検することで 96%つかまえることができる。8~12時間後に follow up ECGならほぼ必ずつかまる。

9. 心筋梗塞に対する心筋逸脱酵素の感度 50%, 特異度 85%とされている。発症 1時間以内だと感度 10~45%だが、8時間以上で感度 90%以上になる。発症の時間をチェックしておくことが大事。

10. 心筋梗塞に対する心臓超音波検査の感度は 93%, 特異度は 66%である。心電図などの情報をみてから検査しないとわかりにくい。

11. 心筋梗塞の 6~52%は非典型的。女性では急性冠症候群の 43%に胸痛がない (女性の胸ばかり見ていてはいけない)。女性では、嘔気・嘔吐、息切れ (58%), 倦怠感 (53%)、放散痛を訴えることが多い。85歳以上で最も多い症状は息切れ。

12. Vancouver chest pain ruleはあるが、感度 100%ではない。

13. Wellens syndromeは、左冠動脈の虚血を示唆し、心電図で前胸部誘導で 2相性 T波または陰性 T波がみられる。放置すると 75%が数週間以内に心筋梗塞を発症する。左室肥大があるときは異常とはとらない。

14. 新規出現の左脚ブロックのみでは慌てなくてもよい。例外は、ショック、心不全、Sgarbossa criteriaを満たすとき。

15. 心電図で giant negative Tは中枢性疾患を示唆する。クモ膜下出血などの検索。

16. くも膜下出血について。Ottawa SAH ruleなど。

私自身、心筋梗塞についての知識は最近アップデートされていなかったので、非常に勉強になりました。救急当直をしている医師にとって、このような知識はとても価値があります。また、林先生はプレゼンテーションが上手で、スライドの作り方を含む、講演の技術という面でも勉強になりました。

(参考)

ACP日本支部年次総会 2013

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パリ医学散歩

By , 2014年5月31日 8:04 AM

パリ医学散歩 (岩田誠著, 岩波書店)」を読み終えました。

私はヨーロッパ旅行をするときは、医学や音楽にまつわる史跡をできるだけ巡るようにしています。昨年パリ旅行をしたときは、「ペールラシェーズの医学者たち」を参考にしてペール・ラシェーズ墓地を訪れましたが、本書を読んで、まだまだパリに行くべき場所があるのを知りました。それにしても、岩田先生の本は外れがないです。

また、下記のような歴史的な事実は、本書で初めて知りました。医学史に興味がある方におすすめの本です。

・オテル・ディユーは長い間パリ市内唯一の病院だったため、いつも患者があふれていた。その結果、一つのベッドに何人もの患者が寝ているようなことは日常茶飯事であり、十六世紀頃の記録では、五〇〇床のベッドに対し、多い時には一五〇〇人もの入院患者がいたと記されている。一床一人の原則が確立したのは、ボナパルト時代であった。

・ヴュルピアンはシャルコーの友であり、デジェリンの師であった。彼は一八六六年にクリュヴェイエの後任としてパリ大学医学部の病理解剖学講座の主任教授となり、フランスの病理学に初めて顕微鏡を導入した。また、多発性硬化症という術語を最初に用いたのはシャルコーではなくヴュルピアンであった。

・旧シャリテ病院脇のジャコブ通り界隈には、シャリテ病院に縁のある医者たちが多く住んだ。ルイ一四世の筆頭外科医であったジョルジュ・マレシャル、失語症研究のポール・ブローカなどである。その通りの一四番地にはリヒャルト・ワーグナーが住み、四〇年後にそこに住んだのは神経学の巨匠ジュール・デジェリンだった。

・パストゥールの発見は、ビュルピアンらが支持したが反論も多かった。ある日、シャルコーはパストゥールの研究室を訪れ、弟子のルーに説明を求めた。彼はルーの話に一時間以上にわたってじっと耳を傾け、二、三の質問をした後、実験記録を見せてくれと要求した。その直後の一八八七年七月一二日の医学アカデミーでパストゥールを弁護した。そしてサルペトリエール病院神経病クリニックの中に微生物学研究室をつくろうとしたが、シャルコー急死のためこの計画は中止となった。

・クロード・ベルナールは一八六六年、病気のため実験室を去ってボージョレにある故郷の家で静養していたが、身の不運を嘆いてうつに陥っていた。パストゥールはベルナールを励ますため「世界事情」に「クロード・ベルナール:その研究、教育、方法論の意義」という記事を書いた。そこでベルナールの業績中もっとも重要なものとして肝臓におけるグリコーゲン産生の発見を取り上げた。そして「今、はからずも静養を余儀なくされているこの偉大な患者が、彼の思想と情熱を世に紹介するこの論文によって元気づけられ、彼の友人や同僚たちが、彼がまた研究にもどってくる日を待ち望んでいることを知って喜んでくれることを期待したい」と結んだ。この記事は、ベルナールがうつから立ち直るきっかけとなった。

・ベルナールは、「糖尿病患者が自分で摂取するでんぷんや糖などの炭水化物よりはるかに大量のブドウ糖を尿から排泄するのはなぜだろうか?」「糖尿病患者の糖尿が消失しないのはなぜか」ということに疑問をもった。そして、人体にはブドウ糖を産生する未知の機構があるのではないかと考えた。当時は、糖を産生できるのは植物だけであると信じられていた。しかし、ベルナールは「もし理論に合致しない事実が見出されたなら、どんなに権威のある常識的な理論であろうと、その理論を捨てて事実をとるべきである」という信条を持っていた。ベルナールは動物を肉だけで飼育し、門脈と肝静脈の血液をとって比較してみると、門脈中にはブドウ糖がないにもかかわらず、肝静脈中にはブドウ糖が大量に存在することがわかった。このことから、肝臓中にグリコーゲンを発見するに至った。

・セヴール通りにあるネッケール病院は「ひとつのベッドに一人の患者を」というモデル病院を作る計画に従い、一七七八年に開かれた。ラエネックは一八〇六年頃にネッケール病院に赴任した。ウィーンの医師アウエンブルッガーにより発見された打診法をフランスに広めたのはコルヴィサールであり、ラエネックはコルヴィサールの弟子であった。一八一六年、ルーヴル広場を通りかかったラエネックは、二人の子供が大きな材木をたたいて遊んでいるのに気づいた。ひとりの子供が材木の一方の端をトントンと叩くと、もう一人はもう一方の端に耳をつけてこれを聞いて遊んでいた。この様子をみたラエネックは自分の患者に応用してみた。ネッケール病院に戻ると、心臓病の少女にきつくまいた紙の筒の一方の端をあて、もう一方の端を自分のみみにあててみた。すると、直接胸に耳を押しあてて聴くのとは比べ物にならないほどはるかにはっきりと、患者の心臓の鼓動が聞こえた。彼はこの方法が、あらゆる種類の胸部疾患の診断に応用できることに気づいた。そして紙筒を木の筒に換え、これを「聴診器」と名づけた。一八二六年八月二三日、彼は肺結核で亡くなった。ネッケール病院の入口に隣り合う壁には「この病院でラエネックは聴診法を発見した」という石碑が掲げられている。

・一三四八年にパリにペストが流行し、フランソア一世はペスト患者専門の収容病院をパリ市街に建設しようと計画したが、宗教戦争等で実現しなかった。一六〇六年に再度ペストが流行したため、計画はようやく実行に移された。当時は西風が病毒を運ぶと考えられていたため、パリ東北に病院の建設地が定められた。サン・ルイ病院は一六一一年に完成し、一六一八年に開院された。当初は感染性疾患のセンターであったが、当時皮膚感染症が多かったため、そのうちこの病院は皮膚科専門の病院になっていった。フランス人の名前を冠せれた皮膚疾患は多いが、ほとんどはこの病院に足跡を残した人々の名前である。ここに勉強に来たのが太田正雄 (作家としてのペンネームは木下杢太郎) である。木下杢太郎はサブロー寒天培地に名前を残したサブロー教授の研究室で真菌症の研究を始め、白癬菌の新しい分類体系を確立した。また、日本に戻ってからは太田母斑 (眼上顎褐青色母斑) を世界に先駆けて記載した。

・ピネルは一九九三年にビセートル病院の内科医師となり、まずここで男性精神病患者を鎖から解き放った後、一七九五年にラ・サルペトリエールに赴任し、今度は女性患者を解放した。サルペトリエール病院の門の前にはピネルの像が立ち、サルペトリエール病院神経病クリニックにとなり合うシャルコー図書館の入り口には、ピネルが患者を鎖から解放している絵が掲げられている。

・ ブローカの墓は、モンパルナス墓地にある。墓石にはブローカの名前が刻んであるのみで、墓石には彼の生前の業績を讃える何の言葉も見出せず、ほとんど訪れる人もない。

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アルテミス・カルテット

By , 2014年5月30日 10:30 PM

アルテミス・カルテットのコンサートに行ってきました。アルテミス弦楽四重奏団は、現在非常に評価の高いカルテットです。知り合いの集中治療医から声をかけていただき、当日券で聴くことが出来ました。

クァルテットの饗宴 2014

アルテミス・カルテット (ヴィネタ・サレイカ, グレゴール・ジーグル, フリーデマン・ヴァイグレ, エッカート・ルンゲ)

2014年5月27日 (火) 午後 7時 紀尾井ホール

ブラームス:弦楽四重奏曲第1番 ハ短調 Op.51-1

クルターグ:小オフィチウム アンドレーエ・セルヴァーンスキーを追悼して Op.28

ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第 14番 嬰ハ短調 Op.131

まず一曲目はブラームス。洗練されていて、一つのスタイルとして完成されていました。しかし表現がやや抑制的であり、もう少し情熱的に盛り上がる方が、ブラームスの演奏としては私の好みでした。

クルターグは 15の短い部分から出来上がっていて、色々と音楽的な仕掛けのある曲です。あまり演奏が素晴らしかったので、うっとりと聴き入ってしまい、分析的に聴くことができませんでした。楽譜を見ながら何度か聴きたいと思いました。

ベートーヴェンは、私が最も好きな作曲家で、弦楽四重奏曲は普段から好んで聴くので楽しみにしていました。アルテミス・カルテットの演奏は、細部まで疎かにせず、練りに練っているのがよくわかりました。工夫が見えて楽しい演奏でした。また、この弦楽四重奏団はセカンドヴァイオリンのレベルがすごく高くて、表現力はファーストヴァイオリンと比べて遜色がありません。そのため、掛け合いなどでは、眼を閉じるとどちらが弾いているかわからないくらいバランスが良いのが、印象に残りました。

「完璧すぎるのが欠点」とまで言われたアルバン・ベルク弦楽四重奏団の後継者と目されているのが理解できる、素晴らしい弦楽四重奏団でした。

コンサートを終えて、いつもの如く Tizianoで軽く飲んで帰宅しました。

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臨床研究の道標

By , 2014年5月27日 6:07 AM

「臨床研究の道標 (福原俊一著, 健康医療評価研究機構)」を読み終えました。1年前に購入して「読む本リスト」に入っていたのですが、臨床研究をやりたいという医師に相談を受けた時に推薦書として貸したら戻ってこなくなり、再度購入したのです。

冒頭で「医者の過重労働が診療に影響を与えているのではないか」という clinical questionが提示され、それを元に主人公の Oliveが臨床研究をデザインする様子を描いた本です。どのようなプロセスを経て研究デザインが組まれるのか、実際の例を通じて解説されるため、非常に理解しやすいです。教科書っぽくなく、読みやすかったです。

読みやすい一方で、内容のレベルは決して低くなく、「線形性の確認をしないで連続変数で解析することの危険性」「リスク・発生割合 (一定期間のアウトカム新規発生割合) と発生率 (アウトカム新規発生の速さ, 分母が総人年などになる) の違い」「propensity scoreは、測定可能な交絡因子のみで調整する多変量解析による調整と変わりがないことが明らかになってきていること」「点推定+区間推定を用いず p値を用いることの問題点」「p値関数」などについては、本書で初めて知りました。

そして、医師主導型臨床研究についての記述は、まさに私が考えていることと同じでした。

一方、治験以外の臨床試験として、近年増えている「医師主導型臨床試験」はどうでしょうか?これはあたかも、医師や研究者が、独自あるいは公的研究費を財源として、製薬企業と関係なく研究を行っているように聞こえますが、すべてはそうではありません。多くの「医師主導型臨床試験」が、特定あるいは複数の製薬企業からの委託や寄付によって研究費の一部あるいは、全部が賄われている可能性があります (詳細なデータは公開されてないことが少なくありません)。この種の研究に対して、規制や監視は行われていないのが現状です。筆者は、利益相反が問題となり得るのは、治験よりも、この「医師 (研究者) 主導型臨床試験」の方ではないかと見ています。 (248ページ)

臨床疫学の勉強を始めたい方に、「医学的研究のデザイン」と並んで薦めたい本です。

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電気生理検査と音楽

By , 2014年5月26日 6:05 AM

一部の神経疾患において、神経伝導検査や針筋電図といった電気生理学的検査は極めて有用な検査です。一般人への知名度は低いものの、この検査がなければ診断がつかないというケースは珍しくありません。一方で、神経伝導検査で四肢に電流を流すと聞いて不安感を持つ方がいますし、針筋電図は針 (といっても注射針よりは細いです) を筋肉に刺すわけなので、多少の痛みがあります。

検査中に音楽をかけたら苦痛が軽減するかという研究が、2014年5月16日に Muscle & Nerve誌に受理されたようです。

Listening to music during EMG does not influence the examinee’s anxiety and pain levels

神経伝導検査や針筋電図を行う患者をスピーカーから流れる音楽を聴く群と、通常通りに静かな環境で検査を受ける群に分けます。音楽を聴く群には、クラシック音楽、インストルメンタル、ロックのどれにするかを選んで貰います。そして、検査者への質問紙法や、被検者への VAS (visual analog scales) などで効果を評価しました。その結果、VASでは不安や疼痛を有意差に減少させなかったものの、患者は検査中に音楽が流れている方を好むという結果でした。

針筋電図を怖がる患者さんもいるので、面白い研究だなと思いました。音楽で不安が軽減できていたら尚のこと良かったのですが・・・。

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インドにおけるレイプ事件被害者への診察

By , 2014年5月25日 8:39 PM

少し前、インドでのレイプ事件が大きなニュースとなりました。

2012年インド集団強姦事件

その後も、悲惨な事件は続いているようです。

レイプ事件の被害者に対し、インドでは医療機関で “re-rape” のような診察が行われていることが、2014年5月16日の British Medical Journalで取り上げられていました。著者の所属は “medical student, Faculty of Medicine, University of Southampton” となっていて、医学生でしょうか。

India’s two finger test after rape violates women and should be eliminated from medical practice

その診察法とは “two finger test” と呼ばれるものです。レイプ被害者の女性器に指を入れて、1本何とか入れば処女だった、2本入れば普段から性行為をしていると判断します。しかし、この診察法に医学的根拠はなく、単に女性に苦痛を与えるだけであることが問題視されています。さらに、女性が普段から性行為をしていると判定された場合、レイプを受け入れたと判断される危険性もあるそうです (何じゃそりゃ!)。たちの悪いことに、”two finger test” はインドの医学書に書かれていたりするらしいのです。

しかし、2014年3月、インドの保健省は公式に性的被害者に対する医学的検査のガイドラインやプロトコルを定めました。そのガイドラインやプロトコルは WHOのガイドラインに沿っていて、すべての医療施設で “two finger test” の使用を中止するようになっています。効果は期待されていますが、浸透するまでにまだまだ時間がかかりそうです。

インドのレイプ問題はニュースで知ってはいましたが、この論文を読むまで被害者の診察でこのような問題が起きていることは知りませんでした。British Medical Journalは、よくぞこの問題を取り上げてくれたと思います。

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PC購入

By , 2014年5月24日 5:57 AM

前回、2012年6月7日に Panasonicの Let’s note CF-SX1を購入して使っていましたが、動作が重くなったり、ボタンが一部壊れかけてきていたので、昨日新しく買い直しました。大きな出費ですが、来月は頭痛の講演を 2件依頼されているので、PCトラブルは避けたいところです。

今回は、Let’s note CF-SX3TEYWRにしました。発売日での購入です。初めて HDではなくて SSDにしてみたところ、アプリケーションの起動が早く快適です。ただし容量が 250 GBしかないので、一杯にならないように注意が必要です。とはいえ、音楽 CDだけで既に数十 GBを占めてしまっています (^^;

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第55回日本神経学会学術大会

By , 2014年5月23日 9:25 PM

第55回日本神経学会学術大会から戻ってきました。

5月21日 (水)

岩田誠先生の御講演「それは祈りから始まった」を聴きました。以前聴いた「音楽と脳-音楽って何」「描画の神経学」を融合したような内容の、素晴らしい講演でした。新人類以降、解剖学的な制約から開放されて、母音をいくつも含む言葉を喋るようになってから、ヒトは知能モジュールを連結させるようになっていったそうです。言語の発達と描画の発達は個体レベルでみると時期が一致するらしいですが、ヒトの進化の歴史にも同じことが言えるようです。最終的に、集団としての祈りのなかで芸術は生まれたとする岩田先生の説でした。感動しました。

続いて、「音楽療法:科学的視点から」を聴きました。前半は阿比留睦美先生による音楽療法の話。パーキンソン病、片麻痺や失調による歩行障害に対し、音楽療法を用いた歩行訓練の動画を見ることが出来ました。音楽療法について書かれた論文を読む機会はありますが、実際にどうやっているかは知らなかったので、面白かったです。運動性失語に対しての melodic introduction therapyでは、言葉は喋れなくてもメロディーをつけて歌えば言葉が出てきたり、その他半側空間無視の患者の健側に鉄琴で音階を叩かせ、無視側に誘導して注意を向けさせる方法など、興味深い話がいくつもあって引き込まれました。その後の三重大学の佐藤正之先生の講演は、認知症と音楽療法についてでした。色々な論文の紹介は出てくるのですが、認知症患者に実際どのようにして音楽療法を行っているかの説明がほとんどなく、残念ながらイメージが湧きませんでした。

これらの講演を聴いてからはポスターを見に行きました。ポスターは玉石混交という感じでしたが、一番面白かったのは、信州大学からの HPVワクチンの副作用の話。起立性低血圧を呈する症例があり、皮膚生検でも自律神経の障害を示唆する所見があるとのことでした。自己免疫性機序が想定されているようですが、抗nAChR受容体抗体は陰性らしいです。質疑応答では、「治癒した後も登校しなくなってしまう学生」の存在が問題視されていました。余談ですが、抗HPVワクチンは子宮頸がんだけを予防するわけではないので、演題にあった「子宮頸がんワクチン」という用語は使わないほうが良いと思いました。

それから講堂に戻り、偶然お会いした内原俊記先生と、jolt accentuationについての意見交換。

夜は、神経病理学の教授や先輩らと 4人でしずくに行きました。酒、肴とも最高でした。その日聴いた演題の情報交換をしたのですが、「髄液の産生・吸収機構の新しい概念と特発性正常圧水頭症の診断・治療の進歩」というシンポジウムが素晴らしかったと聞きました。髄液が脈絡叢で産生されてくも膜顆粒で吸収されるという従来の概念は、髄液の循環の中でも高圧時にバックアップ的に働く系らしく、メインではないそうです。メインの系としては、他にいくつかの仮説が唱えられています。学生には理解しやすい従来の説を教えているけど、試験には出せないという話がされたと聞いて、聴衆の間で話題になっていたらしいです。相当インパクトのある講演だったらしいので、もし今回の学会が終わった後、講演の動画が視聴可能になったら、是非見ておきたいです。それ以外には、ANCA関連肥厚性硬膜炎の話が面白かったと聞きました。

24時まで飲んだ後、先輩と 2人で「夜の博多スタディー」と称して午前 4時まで中洲を練り歩きました (^^;

5月22日 (木)

午前 8時から「私シリーズ 私と神経症候学」で、田代先生の話でした。以前このブログで紹介した「神経症候学の夢を追いつづけて」という本とほぼ同じ内容の話でした。午前 9時からは症候学や電気生理診断学で有名な柴崎浩先生の講演を聴きました。

それが終わってからは、博多港から水上バスによって天神に移動し、そこから柳橋連合市場に移動して食事。海の幸を食べましたが、思ったほどではありませんでした。また、市場で土産を買おうと思ったのですが、生鮮品が多く断念。学会場に戻りました。

学会場に戻ってからは、ポスター発表を見ました。外勤先の部長を見かけて、一緒に空港に向かいました。空港で焼酎をたっぷり飲んでから、19時過ぎの飛行機で東京に戻りました。

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第55回日本神経学会学術大会

By , 2014年5月19日 9:21 PM

第55回日本神経学会学術大会が、2014年5月21~24日に福岡で行われます。私は、仕事の都合で 21~22日のみ参加します。

第55回日本神経学会学術大会

21日には、「関連分野融合 2 F-02 音楽療法:科学的視点から」というプログラムなどがあり、今から楽しみです。

博多は美味しい料理屋が多いと聞きますし、夜の飲み会も期待しています。私は、21日に「しずく」という店に行こうと思います。プロ棋士のハッシーが豊川七段から教えて貰った店で、滅茶苦茶サバが美味しいらしいです。その他、博多の名店を探している方は、私の知り合いの神経内科医の知人が作っているという、口福倶楽部というサイトで店を探すと便利のようです。あとは、口コミで「やま中」という店が美味しいと聞きました。

21日は、「しずく」で飲んだ後に時間があれば、「ピアノバー ステラ」という Barに行ってみたいです。

また、おみやげ購入には、柳橋連合市場がオススメらしいです。

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