Lancet Neurology の総説

By , 2014年3月2日 10:43 AM

少し時間がとれたので過去 3年分くらいの Lancet neurology誌の総説をチェックしました。まずタイトルを見て、関心の湧いた論文をダウンロードして冒頭読んでみて、それで面白かったら通読しました。結構御薦め論文が多かったので、いくつか紹介しておきます。お気に入りには☆をつけました。

Huntington’s disease: from molecular pathogenesis to clinical treatment

Table 1に、ハンチントン病の症状別の治療薬と副作用の一覧表があって、見やすかったです。あと、CAGリピート数は発症年齢などを 50~70%しか説明しなくて、HAP1や GRIK2 (GLUR6), TCER1 (CA150) といった 修飾遺伝子が関与している可能性があるらしいということは初めて知りました。修飾遺伝子は、治療ターゲットとしても注目されているらしいです。疾患の詳細な分子メカニズムが後半解説されていましたが、あまりにマニアックすぎて、ここは読み飛ばしました。

Treatment of patients with essential tremor

本態性振戦の治療として、Drugs with established efficacy (level A) が Primidone (12.5~25 mgとごく少量で開始するのが一般的) と Propranolol, Drugs with probable efficacy (level B) が Atenolol, Sotalol, Alprazolam, Topiramate, Gabapentin monotherapy, Drugs with possible (level C) が Clonazepam, Clozapine, Nadolol, Nimodipine, Botulinum toxinとされていました。私は昔先輩に教わって Propranololや Primidone (保険適応外) が第一選択薬, 前者が喘息や徐脈性不整脈、後者が眠気などで使えない時に Topiramate (保険適応外) を検討・・・としてきましたが、この文献を読んで治療が間違っていなかったことを確認しました。

The pharmacological treatment of epilepsy in adults (☆)

この論文は掲載されてすぐに読み、以来私のてんかん診療に大きな影響を与えています。また、昔勉強した「てんかん診療のクリニカルクエスチョン194」という本は良い本でしたが、新規抗てんかん薬についてはあまり書いていなくて、それをこの論文が補ってくれました。てんかん診療をしている多くの医師に読んで欲しい総説です。直接この論文とは関係ありませんが、妊娠と抗てんかん薬については、Neurology誌の “Comparative safety of antiepileptic drugs during pregnancy.” という論文がわかりやすかったです。あと、まだざっとしか目を通していませんが、2014年2月28日に発表された、BMJの “Drug treatment of epilepsy in adults” という総説は素晴らしいと思います。

Emerging targets and treatments in amyotrophic lateral sclerosis

今のところ有効な根本的治療法のない筋萎縮性側索硬化症 (ALS) に対して、さまざまなアプローチが行われています。その治療ターゲットと、行われている臨床試験の一覧が Table.1に纏まっていました。いくつもの臨床試験が行われていますが、こういう表があると、わかりやすいです。

Postural deformities in Parkinson’s disease

パーキンソン病ではさまざまな姿勢の異常がみられます。腰曲がりや首下がり、Pisa症候群などの臨床的特徴や治療法などが解説されています。後半は、病態生理が解説されていました。例えば、中枢性メカニズムの項で、pallidotomyで Pisa症候群になることがあるとか、脳卒中で腰曲がりを発症した患者がいるとか、へーっと思いながら読みました。

Atypical presentations of acute cerebrovascular syndromes (☆)

急性期脳卒中で、非典型的な症状を呈することがあります。こうした症状の頻度や責任病巣をまとめた総説です。例えば、Limb-shaking transient ischaemic attacksとか、有名ですけど知らないと診断は難しいですよね。片麻痺だったら素人にでも診断できるけど、非典型的な症状を抑えておくのが、見逃しを防ぐのに役立つと思います。

Lambert–Eaton myasthenic syndrome: from clinical characteristics to therapeutic strategies

Lambert-Eaton myasthenic syndrome (LEMS) に関する一般的な総説。海外の治療アルゴリズムだと最初に用いることになる 3,4-diaminopyridineが日本で認可されていないのは残念ですね。

HIV-associated opportunistic infections of the CNS

HIV患者において、CD4数別に考えるべき疾患、起こりうる疾患の診断/治療について概説されています。トキソプラズマやクリプトコッカス、サイトメガロウイルスや単純ヘルペスウイルスなどにおける、諸検査の感度が勉強になりました。

Neurological complications of dengue virus infection

デング熱について。以前、当ブログで内容をお伝えした通りです。

Axonal Guillain-Barré syndrome: concepts and controversies (☆)

千葉大学の桑原先生による非常にためになる総説。

Vasculitic neuropathies (☆)

原発性全身性血管炎 ( 顕微鏡的多発血管炎, 結節性多発動脈炎, Churg-Strauss症候群, Wegener肉芽腫など), 二次性全身性血管炎 (関節リウマチ、シェーグレン症候群, 全身性エリテマトーデスなど) について、末梢神経障害の頻度や特徴がわかりやすくまとめられていました。あと、非全身性血管炎である diabetic lumbosacral radiculoplexus neuropathy (DLPRN), non-diabetic lumbosacral radiculoplexus neuropathy (LRPN), diabetic cervical radiculoplexus neuropathy (DCPRN) などの解説があったのも良かったです。DLPRNは、以前電気生理診断学を専門にしている医師から鑑別として挙げられたことがありましたが、この総説を読んで勉強になりました。

Secondary stroke prevention (☆)

脳梗塞二次予防についての総説です。脳梗塞二次予防は、神経内科医だけでなく、プライマリ・ケアレベルでも必要とされますので、是非様々な方に読んで頂きたい総説です。抗血小板療法、新規抗凝固薬、血行再建術、リスク因子の管理について基本的な事柄がわかりやすくまとめられていました。当然のように、日本の製薬会社が力を入れて宣伝してきた、エビデンスに乏しいローカルドラッグについては見向きもされていません。

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神経免疫セミナー in 千葉

By , 2014年3月1日 10:09 PM

2014年2月27日、神経免疫セミナーを聴きに行ってきました。

神経免疫セミナー in 千葉

平成26年2月27日 (木) 18:50~20:30 ホテル ザ・マンハッタン

SESSION 1 CIDPの多様性:患者さんから教えて頂いたこと

千葉大学大学院医学研究院 神経内科学 三澤園子先生

SESSION 2 ヒステリーの症候学と MMT

帝京大学医学部 神経内科学 教授 園生雅弘先生

SESSION 1は、EFNS/PNS criteriaに基づいた typical CIDP, atypical CIDP (MADSAMなど) の一般的な臨床経過 (発症様式、治療反応性、寛解率など) が主な内容でした。演者の方は講演に非常に慣れている感じで、聴きやすかったです。

SESSION 2は、神経内科医にとって非常に大事なヒステリーの話でした。園生先生の新患外来患者の 1割くらいがヒステリー患者とのことで、過去の報告ともほぼ似た数字のようです。症候学のスペシャリストの話で、非常に勉強になりました。ただ、時間の都合で MMTの話は今回なしでした。残念・・・。

ヒステリーの診断において重要なのは、陽性徴候を見つけること (除外診断ではない) というのが強調され、ヒステリーでは拮抗筋や遠隔筋に必要以上力を入れる、わかりやすい運動が麻痺しやすい、giving-away weakness (ただし GBS/CIDPでも出現しうる) を呈する、筋力低下の分布が錐体路性と逆という話などがありました。ヒステリーで侵されやすい筋、侵されにくい筋を判断するためには、きちんと MMTがとれないといけませんね。それだけに、時間的に MMTの講演がなかったのが残念でした。最も勉強になったのが、synergyを利用した診察でした。口笛や広頚筋徴候、大腿躯幹屈曲運動は Babinskiの原著の翻訳で読んだことがありました。しかし、器質的疾患では大殿筋の筋力が落ちにくいため、大腿躯幹屈曲運動が実際には使いにくいというのは知りませんでした。そして、お馴染みの Hoover’s test、さらに園生先生が発見された Sonoo abductor testについて説明がありました。Sonoo abductor testは最近出版された園生先生の総説で読んだときは良く理解できませんでしたが、講演で提示された動画が非常にわかりやすかったです。

もう一つ勉強になったのが、ヒステリーという用語についてです。語源的に女性の子宮に由来する語であり、ヒステリーは男性にも起こるので好ましくない用語であるとして、精神医学の DSM分類では別の用語が用いられています。しかし園生先生は、DSM分類での呼び名が版によって変わる問題点を指摘し、ヒステリーという呼び名を用いることは仕方がないのではないかとおっしゃっていました。私も同感です。コロコロ呼び名が変わる方が混乱の元ですよね。ヒステリーの語は歴史的にも長く使用されてきたものですし、今更変更する必要性も感じません。

懇親会では、園生先生と、もう一人の先生と三人でずっと語っていました。もう一人の先生が誰かわからなくて、帰りに別の人に聞いたら、「桑原先生ですよ」と。尊敬する、雲の上の存在だったのに、知らずにベラベラと “文学部唯野教授” のように喋っていました。ごめんなさい、ごめんなさい。この日は、桑原先生は園生先生の講演で座長をされていたのですが、初対面の人を覚えるのが苦手なのです・・・ (T_T)

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エミール・ギレリス

By , 2014年2月28日 6:06 AM

エミール・ギレリス もうひとつのロシア・ピアニズム (グリゴーリー・ガルドン著、森松皓子訳、音楽之友社)」を読み終えました。翻訳者が知人の医師のお母様で、その医師の家に遊びに行った時にこの本を見つけたら、そのままくださったのです。翻訳には、その医師の意見も反映されているのだとか。

私はロシアのピアニストとして、スヴャトスラフ・リヒテルの CDはたまに聴きますが、ギレリスの演奏をこれまで聴くことがあまりありませんでした。しかし、この本を読み、これまでギレリスがいかに不当な評価を受けてきたか良くわかりました。

今は、Youtubeでギレリスの録音を色々とチェックしています。気に入った演奏の CDを買おうと思います。

いくつか動画へのリンクを貼っておきますが、演奏を聴いてギレリスに興味の湧いた方は、是非この本を読んでみてください。

・GILELS plays Chopin – Polonaise in A flat major ( As – Dur ) Op. 53

・Beethoven – Piano sonata nº21 in C major op_53 (Gilels)__480.flv

・Emil Gilels – Tchaikovsky – Piano Concerto No 1, Op 23 – Cluytens

・Gilels plays Brahms: Paganini Variations Book 1 (1/2)

・Gilels plays Brahms: Paganini Variations Book 1 (2/2)

・Beethoven / Gilels / Szell, 1968: Piano Concerto No. 4 in G major, Op. 58 – Complete

・Emil Gilels plays Stravinsky “Pétrouchka” (1/2)

・Emil Gilels plays Stravinsky “Pétrouchka” (2/2)

 

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第15回ホテルオークラ音楽賞

By , 2014年2月27日 5:13 PM

2014年2月26日、「第15回ホテルオークラ音楽賞授賞式・受賞記念演奏会」に行って来ました。ホテルオークラ賞を受賞された成田達輝氏が招待してくださったためです。

第 15回ホテルオークラ音楽賞

2014年2月26日 (水) 18:00~ ホテルオークラ東京 本館 1階「曙の間」

成田達輝 (ヴァイオリン), テオ・フシュヌレ (ピアノ)

ショパン/サラサーテ:ノクターン第 2番

アルベニス/クライスラー:タンゴ

サン・サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ

三浦文彰 (ヴァイオリン), 小森谷裕子 (ピアノ)

ヴィエニアフスキ:華麗なるポロネーズ

チャイコフスキー:メロディ

チャイコフスキー:ワルツ・スケルツォ

成田達輝・三浦文彰 (ヴァイオリン), 小森谷裕子 (ピアノ)

ショスタコーヴィチ:5つの小品

その日は、仕事で打ちひしがれた気分になっていました。厳しい状態のなか治療を続けていた、ある患者さんの脳が不可逆な障害を受けていることが判明したからです。妹と同じくらいの年齢で、幼子がいて、何度も妹を診ているような気分にされた患者さんでした。

コンサートに行くか、コンサートをキャンセルして自宅に引きこもって布団に包まるか悩みましたが、ネガティブな感情が持続すると良くないので、そういう気分ではなかったけれどコンサート会場に向かいました。コンサート会場に向かう電車の中では、情緒がかなり不安定になっていて、これまでの治療経過を思い出し、涙ぐみそうになりました。

招待された私の席は前から 3列目中央で、近くにヴァイオリニストの藤原浜雄氏、徳永二男氏、チェリストの堤剛氏、指揮者の大友直人氏、それに成田達揮さんのお母様などがいました。

一曲目のショパンの冒頭は沁み入るような演奏で、心が洗われる思いがしました。二曲目のタンゴは、優しく癒してくれるような演奏でした。三曲目の序奏とロンド・カプリチオーソは成田さんの十八番。様々な表情を見せるこの曲に合わせて、自分の感情も揺れ動き、余計なことを考えることなく音楽に没頭できました。ふと左斜め前を見ると、藤原浜雄氏が演奏するように呼吸をしたり首を動かしたりしており、気が付くと私も同じようなことをしていました。演奏が終わった後、近くの席から「音が柔らかいわね~」という声が聞こえてきました。それぞれの曲を知らない方のために、Youtubeから曲の動画をリンクしておきます。

・Ruggiero RICCI @ CHOPIN/SARASATE Nocturne No.2 Op.9/2 – 1989

・Albeniz/Kreisler Tango – Daniel Bell, violin and Akemi Masuko, piano

・Camille Saint Saëns: Introduction and Rondo Capriccioso performed by Tanja Sonc

成田達輝さんの演奏に引き続いて、三浦文彰さんの演奏がありました。

演奏姿勢、ふとした表情の付け方に、ハイフェッツのような格好良さがありました。演奏した曲が丁度ハイフェッツが好んで演奏した曲だったから、余計に印象がかぶったのかもしれません。成田達輝さんとはスタイルが全然違っていて、柔の成田達輝さんに対し、剛の三浦文彰さんという印象を受けました。成田達輝さんとともに、テクニック的にも、音楽的にも完璧な演奏だったと思います。

その後、成田達輝さん、三浦文彰さんのデュオで、ショスタコーヴィチの「5つの小品」が演奏されました。息のぴったりあったデュオで、タイプの違う二人だからこそ、完璧に融け合いながら綺麗なコントラストがついていました。1楽章は楽譜を持っていて、遊びで合わせることはありましたが、ここまでこの曲が美しくなるのかと思いました。あまり知られてはいませんが、素晴らしい曲です。

・Five Pieces Shostakovich

演奏会を聴き終えて、来てよかったと思いました。不安定だった精神も落ち着きを取り戻し、音楽に救われるとはまさにこの事でした。

コンサートが終わってからは、懇親会場に行きました。押し出される形で最前列のテーブルへ・・・ (汗)。正装した、日本の音楽界を代表するような偉い人たちがいる中、ほぼ普段着の私が最前列・・・。ビデオカメラが回っているし、カメラマンが写真をたくさん撮っているし・・・。しかし、その居心地の悪さも、お酒が入るまででした (^^;

成田達輝さんが、「ショスタコーヴィチの最後の部分、テンポを上げたのは私のアイデアなんですよ~」と話しかけてきました。実は、演奏があまりに自然だったので、私はテンポを上げたのが意図的だったとは気付きませんでした。もともと楽譜にそう書いてあるのかと思ったくらいです。

会の途中で、成田達輝さんのお母様から、「いつもブログ見ています」とご挨拶されて、冷や汗をかきました。

それから、一緒にいた某神経病院の神経内科医が、三浦文彰さんと色々話していたのに加わり、いくつか話をしました。その神経内科医は、三浦文彰さんと知り合いだったようです。もう一人一緒にいた某集中治療医 H先生は、ピアニストのテオさんと英語で会話をしていました。テオさんはその日が誕生日だったそうです。

あと、ジャパン・アーツの方がいたので、私のプロモーションをしておきました・・・冗談です。会の終了間際は、ジャパン・アーツの方とずっと音楽談義をしていました。

最後に、御招待くださり、素晴らしい演奏を聴かせてくださった成田達輝さんに感謝したいと思います。音楽って本当に素晴らしいものですね。

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Daclizumabの副作用

By , 2014年2月26日 6:08 AM

2013年4月14日に多発性硬化症治療薬 Daclizumabについてお伝えしました。その際、「時に重篤な感染症がネックになってくるかもしれません」と書きましたが、2014年2月14日、Neurology誌に Johns Hopkins MS Clinicから別の副作用について報告がありました。

Daclizumab-induced adverse events in multiple organ systems in multiple sclerosis.

Daclizumabによる治療を受けた 20名のうち、3名に daclizumabによると推測される副作用として皮疹、脱毛、びまん性リンパ節腫脹、乳房結節がみられました (Zenapax 1 mg/kg monthly IV, 平均治療期間 20ヶ月, いずれも臨床試験外の患者)。2名の患者ではリンパ節、乳房結節に、組織学的に CD56発現細胞を伴ったリンパ球浸潤が見られました (※DaclizumabはIL-2受容体のサブユニット CD25に対するモノクローナル抗体であり、CD25の減少は免疫調節性 CD56 bright ナチュラルキラー細胞の増殖を起こすことが知られています)。Daclizumabを中止することで、皮疹、脱毛、びまん性リンパ節腫脹は改善しましたが、乳房結節は残存しました。

他に代替薬がないなら別ですが、副作用という観点から、臨床的に daclizumabは使いづらいのではないかという印象を持ちました。

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KIR4.1

By , 2014年2月25日 5:50 AM

2012年7月12日の New England Journal of Medicine誌に、多発性硬化症の患者血清中に存在する抗体を検索し、抗 KIR4.1抗体が同定されたという論文が掲載されました。

Potassium Channel KIR4.1 as an Immune Target in Multiple Sclerosis

この抗体は、調べた多発性硬化症患者の 46.9% (397名中 186名) で検出されるという驚きの結果でした。多発性硬化症の原因についてはこれまで議論のあるところでしたが、その解明に大きな影響を与える研究であることは間違いありません。

そして 2014年2月21日に、アメリカ神経学会のサイトにプレスリリースが掲載されました。

Antibody May Be Detectable in Blood Years Before MS Symptoms Appear

なんと、多発性硬化症を後に発症する患者では、臨床症状が出現する数年前から抗 KIR 4.1抗体の抗体価が上昇しているそうです。この研究は 2014年4月26日~5月3日にフィラデルフィアで行われる第 66回アメリカ神経学会年次総会で発表される予定とのことです。

多発性硬化症の治療薬は開発ラッシュが続いていますが、病因研究においても breakthroughが来ているのかなと思います。

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STAP続報

By , 2014年2月24日 5:43 AM

2014年1月30日に発表されて衝撃を与えた STAP細胞論文。色々疑惑が取りざたされているようです。簡単に作れるのがウリだったのに、共著者も含め誰も再現性実験に成功できず・・・。画像の使い回し疑惑も指摘されました。小保方氏は沈黙・・・。

論文が掲載された Nature誌は、疑惑を報じるとともに調査に乗り出しているようです (日本語要約記事)。小保方氏が所属する理研も調査を開始しています。また、ある幹細胞研究者は、10の疑惑を指摘しています

そんな中、2月23日、AASJの西川伸一氏らが、ニコニコ生放送で論文解説を行いました。放送は 1週間の間、タイムシフト視聴が可能です。

「STAP論文徹底解説」 (番組ID:lv168190337)

実際に視聴しましたが、難易度の高い内容。幹細胞研究をしている人でないと分からない専門用語が説明なく用いられることが多く、誰を対象に説明をしているのかよくわかりませんでした。限られた放送時間なので、生物学的な基礎を一から説明しろとは言いませんが、幹細胞研究の基礎知識がない人でもわかるような配慮が欲しかったです。ただし、コメント欄で視聴者がリアルタイムで解説をつけていて、そこはニコ生の長所が発揮されたと思います。また、残念なことに、西川氏らが視聴者からの疑惑の指摘に直接答えることはありませんでした。ニコ生は双方向性がウリなので、視聴者との対話があれば良かったのですが・・・。論文の疑惑への言及は多少ありましたが、歯切れの悪い印象でした。

STAP細胞の再現性実験がうまくいかないことについて、理研は幹細胞 (STAP細胞) のもっと詳しい作成法を公開する予定のようです。

Japanese Scientists to Offer More Details on Stem-Cell Work

Feb. 21, 2014 4:38 a.m. ET
TOKYO—A leading Japanese research institute said Friday that it was preparing to release a more-detailed description of the method its scientists used to create stem cells after the credibility of their work was questioned.A spokeswoman at the Riken Center for Developmental Biology said detailed procedural methods for the studies led by Riken biologist Haruko Obokata “will be open to the public when preparations are…

STAP細胞が作れるとすれば、医療の分野への応用が期待されるだけに、もし捏造などがないのであれば、早く疑惑を晴らして欲しいです。

(参考)

小保方晴子のSTAP細胞論文の疑惑

もう一つの小保方論文のストーリー

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多系統萎縮症とリファンピシン

By , 2014年2月23日 4:14 PM

多系統萎縮症 (multiple system atrophy; MSA) は、神経内科外来ではそれほど珍しくない、進行性の神経変性疾患です。

根本的な治療法はありませんが、MSAモデルマウスに抗菌薬リファンピシンを用いた実験で、この疾患と関係の深い α-synuclein fibrilsの形成を抑制されることが示され、臨床試験が行われました。2014年2月5日、Lancet neurology誌の online版に論文が公開されています。

Efficacy and safety of rifampicin for multiple system atrophy: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial

結果は・・・残念。進行抑制効果は示せませんでした。続く研究に期待します。

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Restless legs syndrome

By , 2014年2月22日 7:55 AM

Restless legs syndrome (下肢静止不能症候群, むずむず脚症候群) は、下記診断基準にあるような特徴を有する疾患です。さまざまな媒体で話題になり、その臨床的特徴とインパクトのある名称で、現在ではかなり一般に知られた疾患になっていると思います。

Table 1 診断基準
1. 脚を動かしたいという強い欲求が存在し,また通常その欲求
が,不快な下肢の異常感覚に伴って生じる
2.静かに横になったり座ったりしている状態で出現,増悪する
3.歩いたり下肢を伸ばすなどの運動によって改善する
4.日中より夕方・夜間に増強する

治療には pramipexole (ビ・シフロール) や L-Dopa製剤などが用いられますが、2014年2月13日の New England Journal of Medicine誌に、Pregabalin (リリカ) と pramipexoleの比較試験が掲載されていました。

Comparison of Pregabalin with Pramipexole for Restless Legs Syndrome

Patients were randomly assigned to receive 52 weeks of treatment with pregabalin at a dose of 300 mg per day or pramipexole at a dose of 0.25 mg or 0.5 mg per day or 12 weeks of placebo followed by 40 weeks of randomly assigned active treatment. (略)

A total of 719 participants received daily treatment, 182 with 300 mg of pregabalin, 178 with 0.25 mg of pramipexole, 180 with 0.5 mg of pramipexole, and 179 with placebo. Over a period of 12 weeks, the improvement (reduction) in mean scores on the IRLS scale was greater, by 4.5 points, among participants receiving pregabalin than among those receiving placebo (P<0.001), and the proportion of patients with symptoms that were very much improved or much improved was also greater with pregabalin than with placebo (71.4% vs. 46.8%, P<0.001). The rate of augmentation over a period of 40 or 52 weeks was significantly lower with pregabalin than with pramipexole at a dose of 0.5 mg (2.1% vs. 7.7%, P=0.001) but not at a dose of 0.25 mg (2.1% vs. 5.3%, P=0.08).(略)

最初の 12週間はプラセボ群、pramipexole 0.25 mg群, pramipexole 0.5 mg群, pregabalin 300 mg群にランダムに割付け、その後プラセボ群を抜き出してランダムに薬剤を割付けるという試験デザインでした。Primary endpointは、12週の時点での pregabalinとプラセボの比較と、40ないし 52週時点での pregabalinと pramipexoleの比較でした。

結果ですが、12週の時点で、pregabalin 300 mg群は、プラセボ群と比較して、IRLS score並びに CGI-evaluationを有意に改善を示しました。一方で、pramipexole 0.25 mg群では有意な改善はなく、pramipexole 0.5 mg群で改善を認めました。非劣性評価において、12週及び 52週時点での IRLS scoreは、pramipexole 0.25 mg群ないし 0.5 mg群と比較して、pregabalin 300 mg群で大きな改善を認めました。

40週ないし 52週の時点における augmentation (薬剤内服中の症状の増悪) は、pregabalin 300 mg群で pramipexole 0.5 mg群とくらべて有意に優れていましたが、pramipexole 0.25 mg群と比較すると有意差はありませんでした。

副作用は、pramipexole 0.25 mg群の 18.5%, 0.5 mg群の 23.9%、pregabain 300 mg群の 27.5%で見られました。pregabalin 300 mg群の一般的な副作用は、浮動性めまい、眠気、倦怠感、頭痛であり、pramipexole群の一般的な副作用は頭痛、吐き気、倦怠感でした。

上記のような論文の記載を見ると、効果及び augmentationの予防において、pregabalinの方が優れた治療法に思えます。

但し注意が必要で、この臨床研究は、pregabalinを発売するファイザー社がスポンサーです。

もう一点気になるのが投与量です。高齢者に pregabalin 300 mgという量は、副作用を起こしやすいと多いと思います。何故このような投与量なのか?実は 2010年の neurology誌に載ったプラセボ対照試験は、”flexible-dose schedule” という容量設定で行われ、治療効果は平均 139 mg/dayから既に認められたものの、322.50 mg/day (±98.77) という量が最も効果的であったそうです。こうしたこともあり、このような投与量で臨床試験がなされたのではないかと思います。ちなみに Neurology論文については、物言いが付いており、“量が多くて副作用が出やすいから、もっと少ない量で検討すべき (The mean effective dose was 337.5 (105.6) mg/day, which is high and could result in sedation, weight gain, and ataxia. A lower dose should have been considered)” と letterが寄せられていました。余談ですが、その letterには、”Level A evidence is available for cabergoline, levodopa, transdermal rotigotine, and gabapentin. Level B evidence is available for pramipexole, bromocriptine, valproate, carbamazepine, clonidine, oxycodone, and clonazepam.” と治療薬のエビデンスレベルが簡単に紹介されています。

さて、 話が脱線しますが、pregabalinは最近では神経障害性疼痛のみならず、てんかん治療薬としても臨床研究が行われ、2014年2月18日に neurology誌に掲載された論文でも、それなりの成績を残しているようです。もともと神経障害性疼痛に用いられていたカルバマゼピン (テグレトール)、ガバペンチン (ガバペン)も抗てんかん薬であったことを考えると、さもありなんという感じです。

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東京シティフィル 第277回定期演奏会

By , 2014年2月21日 5:43 AM

2014年2月14日、成田達揮さんのコンサートを聴きに行きました。

東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

第 277回定期演奏会

2014年2月14日金曜日 7:00 pm 東京オペラシティコンサートホール

1. ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト

歌劇「イドメネオ」のためのバレエ音楽 K. 367

2. ニコロ・パガニーニ

ヴァイオリン協奏曲 第 1番 ニ長調 作品 6

3. ロベルト・シューマン

交響曲 第 2番 ハ長調 作品 61

指揮:ロッセン・ミラノフ ヴァイオリン:成田達揮 コンサートマスター:戸澤哲夫

この日は大雪。都内の交通が麻痺していました。

東京地方に大雪警報、ひと冬に2回発表は16年ぶり

2014年2月14日 23時15分

14日午後10時半過ぎに、東京23区に大雪警報が発表された。先週の8日に続き、東京地方に大雪警報が発表されるのは今季で2回目。ひと冬で2回大雪警報が発表されるのは、1998年以来で16年ぶりのことだ。関東は15日の明け方にかけて大雪に警戒が必要で、気象庁は大雪による交通障害に警戒を呼びかけている。(日本気象協会)

横浜は16年ぶりに積雪20センチ以上の大雪

14日午後11時の積雪は、東京都心は13センチ、千葉市は13センチ、熊谷市は32センチ。横浜市は22センチと、1998年以来16年ぶりに積雪が20センチを超えた。記録的な大雪となっている甲府は積雪76センチ。関東甲信は15日の明け方にかけて大雪に警戒が必要だ。

(2014年2月14日 23時15分)

コンサート 30分前に会場に着けるように病院を出たのですが、雪で電車が遅れまくり、着いたのは 1曲目の終わりでした。しかし、成田達輝さんのソロ曲には何とか間に合いました。

パガニーニは、成田さんの十八番。この難曲を余裕を持って演奏していたのはさすがでした。でも、指揮者との相性はあまり良くなかったようで・・。しかし、どうやってでも聴かせる演奏にできるところが、ソリストの力量でしょう。第一楽章のカデンツァは、特に美しかったです。アンコールは、パガニーニのカプリス第 1番、そして浜辺の歌 (成田為三作曲)でした。パガニーニのカプリスは成田さんの得意曲です。浜辺の歌は派手な曲の後にシンミリときました。

演奏会の半分が終わって休憩の時に、成田達輝さんのお父様に挨拶をされて、「いつもブログを見ています」と言われて恐縮しました。

パガニーニのプログラムで指揮者の力量を少し疑ったのですが、後半のシューマンは、素晴らしい出来でした。この指揮者、パガニーニはイケてなかったけど、シューマンの演奏を聴くと実力はあるのでしょうね。

演奏会が終わってから、某病院集中治療部の H先生らと楽屋に遊びに行きました。まず、コンサートマスターの戸澤さんに挨拶。H先生と同じ中学校・高校の 1学年違いで、意気投合していました。その後、シティ・フィル事務局長の新井さんと挨拶しましたが、H先生と新井さんは一緒に食事をしたことがあるようでした。

その後、成田さんの楽屋に入って、準備が終わってから食事会に行きました。タクシーがつかまらず、電車での移動。新宿駅に着いて、何とかタクシーを捕まえました。かなり雪が積もっていて、成田さんが楽器を持って転ばないかヒヤヒヤしました。持っているのが高価な楽器ですし、そして手を怪我したら、演奏活動にも影響しますしね。

食事会は、新宿ワシントンホテルの六角。数人で、すき焼きを楽しみました。成田さんが中学生の頃、パガニーニのカプリスの楽譜を手に入れて、あまりの嬉しさに 1日で全曲通して弾いてみたと聞いた時はビックリしました。天才は違いますね。

パリで一緒に食事したときは、シゲティ著の「ベートーヴェンのヴァイオリン作品―演奏家と聴衆のために」という本を差し上げたのですが、今回は Mx Rostal著の “Beethoven: The Sonatas for Piano and Violin”  という本を差し上げたら、喜んで頂けました。Rostalは、以前私がお貸しした CDに収録されていた演奏家です。

食事中、私が one bow staccatoが苦手だと話をしたら、あまりの雪で他に客が居なくて、さらに個室だったので、サイレンサーをつけて、軽く弾いてみてくださいました。彼がうまく弾けなかった頃、師匠の藤原浜雄先生から、きちんと弓で弦を捕まえるように、”bite!” と指導されたそうです。

その後、Bazziniの「妖精の踊り」のボウイングの話になりました。下記動画で 55秒くらいからのボウイングがうまくいかないと私が話したら、「アップボウでは腕自体を引き上げる感じ」「特に上腕の筋肉に力は入れていない」と実際に弾いてみせてくれました。こちらはアドヴァイスを聞いて自宅で練習したら、ある程度弾けるようになりました。何と贅沢な指導・・・。

そして、成田さんに Bazziniの曲を演奏会でアンコールとして弾いてくださるようにリクエストしたら、検討して頂けるとのことでした。楽しみです。成田さんの華麗なボウイングとの相性が良いと思うのですよね。

・Bazzini – La ronde des lutins (bazzini)

その食事会では、話しませんでしたが、アンコール・ピースとして個人的に期待したいのは下記のような曲達・・・ (^^;

・Gil Shaham – Sarasate, Zapateado

・Scherzo-Tarantelle

・Nathan Milstein plays Kreisler Praeludium and Allegro in the Style of Pugnani

・Scott Joplin – Easy Winners (Itzhak Perlman / Andre Previn)

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