teriflunomideと cladribine

By , 2014年2月14日 6:10 AM

2014年1月23日、Lancet neurology誌に、以前紹介した多発性硬化症 (MS) の経口薬 teriflunomideの第三相試験の結果が出たようです。

Oral teriflunomide for patients with relapsing multiple sclerosis (TOWER): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial

 18~55歳、EDSS 5.5以下の再発寛解型多発性硬化症患者 1169名に対して、placebo, teriflunomide 7 mg, 14 mgをそれぞれ割付け、主要エンドポイントを年間再発率として評価しました。年間再発率はプラセボ群 (0.50) の方が、teriflunomide群 (14 mg 0.32, 7 mg 0.39) より高いという結果でした。二次エンドポイントである障害の蓄積は、teriflunomide 14 mgでリスク減少がみられましたが、 7 mg群では placebo群と比較してリスク減少効果はみられませんでした。最も多い副作用は肝機能障害、脱毛、頭痛でした。4名の死亡がありましたが、薬剤との関連はないと判断されました。

 個人的には、teriflunomide 14 mg群で腸結核を発症した患者がいること、 teriflunomide 14 mg群での死因が自殺、敗血症であること (論文では薬剤との因果関係はないと結論づけられている) ことは少し引っかかります。この手の薬は沢山開発されていて、どれも効果は大差ないように思うので、できるだけ副作用のない薬を選びたいものです。

2014年2月4日の Lancet neurology誌には、多発性硬化症の経口薬 cladribineの第三相試験の結果も出ていました。とはいっても、clinically isolated syndromeの段階での介入試験のようです。

Effect of oral cladribine on time to conversion to clinically definite multiple sclerosis in patients with a first demyelinating event (ORACLE MS): a phase 3 randomised trial

18~55歳、最初の脱髄イベントから 75日以内で、かつ臨床的に無症候性の病変 (3 mm以上) が 2個以上ある、EDSS 5点以下の患者 616名が対象でした。患者はそれぞれ cladribine 5.25 mg/kg, 3.5 mg/kg, placeboに割り付けられました。主要エンドポイントは 96週後に臨床的に確実な多発性硬化症 (clinically definite MS) になっているかどうかとしました。cladribineによるリスク減少 (ハザード比) は、cladribine 5.25 mg/kgで 0.38, 3.5 mg/kgで 0.33でした。副作用としては、cladribine群で placebo群と比較してリンパ球減少症がみられました。

 多発性硬化症の経口薬は次から次へと開発が進んでいて、もう把握しきれないくらいです。いくつかの薬剤は、近いうちに日本に入ってくるものと思われます。患者さんにとって BESTの選択ができるように、論文を批判的にチェックしながら、使用可能になる日を待ちたいと思います。

Post to Twitter


血液ガスをめぐる物語

By , 2014年2月13日 7:55 AM

血液ガスをめぐる物語 (諏訪邦夫著、中外医学社)」を読み終えました。諏訪邦夫の血液ガス博物館というサイトをベースにした本です。

体内の酸素をいかに測定するか?古くはクロード・ベルナールが、 1851年に、一酸化炭素が血液と結合して、酸素運搬能を失わせて動物を殺す作用を発見し、この事実を用いて血液から酸素を遊離させて測定する方法を提案したことがあるそうです。しかし実際に測定できるようになるには多くの研究が必要でした。フィック (拡散の法則)、ボーア (ボーア効果: 酸素解離曲線への二酸化炭素の影響)、ヒル (酸素解離曲線)、クロー (マイクロトノメター)、ヴァン=ストライク (酸素と二酸化炭素の含量測定法)、ライリー (気泡法 PO2測定)、ホールデン (ホールデン効果:二酸化炭素解離曲線への酸素の影響) らが研究を繰り広げました。この頃は、遊離させた酸素や二酸化炭素を抽出して含量を測定する方法などがとられていました。

その後は、溶液に電流を流して性質を推定する方法を用いて、pH, 酸素、二酸化炭素の測定が行われました (例えば、電流変化は酸素分圧変化にほぼ比例するため、これにより分圧測定が広まることにもなりました)。そのためには電極が重要で、「分極を防ぐ」「較正可能にする」ことに努力が注がれたようです。最初は水素電極や水素ガス/プラチナ電極など、最終的には酸素電極、二酸化炭素電極が開発されました。信頼出来る二酸化炭素電極の開発には時間がかかり、それまでもっぱらアストラップ法が用いられていました。こうして電極が揃ってきて、セブリングハウスらにより、血液ガス分析装置が完成しました。その機械は、現在ワシントンにあるアメリカ自然博物館の地階に展示されているそうです (商品化へはまだ道のりあり)。

また、忘れてはいけないのがパルスオキシメーターです。この機械は、酸素飽和度を持続的にモニターするものですが、日本人が開発したことを知る人はあまりいないかもしれません。1970年、日本光電の青柳卓雄氏は色素希釈法による心拍出量測定装置の開発で、色素の拍動に悩まされたのがきっかけで、パルスオキシメーターの原理に思い至り、特許を申請しました(青柳氏本人による開発秘話)。日本光電の試作機は、耳朶で信号を得るものでした。ミノルタの山西昭夫氏は、指尖容積脈波の波高値の物理的意味の考察から同様の着想に達し、1ヶ月遅れで類似特許を申請し、こちらは国際特許のみ成立しました。ミノルタの商品は、指先で信号を得るものでした。麻酔科医のニュー氏は、この装置の有用性に気付き、麻酔科医の立場を放棄して、ネルコア社を立ち上げ、装置の普及に尽力しました。著者は、この何万人もの命を救ってきた装置の開発と普及に対し、青柳氏とニュー氏にノーベル賞を与えるべきだと考えているようです。

ざっと血液ガス測定の歴史を紹介しましたが、本書にはもっともっと詳しく書いてあります。著者が歴史的論文の多くを読み込んでいることに感服しました。本書には 1870年のフィックの論文の全訳など、他ではお目にかかれないものも収載されています。麻酔科医など、血液ガス分析に関心のある方は是非読んでみてください。

以下、備忘録

・ボーアの死腔に関する論文は有名だが、ボーアの意図は違って、死腔を予め解剖学的に計測しておいて、それを逆に使って肺胞気組成を出そうとした。

・ヘンダーソン (ヘンダーソンーハッセルバルフ式でお馴染み) が動物小屋を研究室に改造して運営するのに 5000ドルくらい必要だった時、ヴァン=ストライクがロックフェラー二世に無心したら、「5000ドル程度ならヘンダーソン教授が自分で何とかするさ。もし 500万ドル必要というのなら考えよう」と答えたらしい。

・ホールデンは酸素療法を開始した人としても評価されている。ホールデンは戦時中の 1917年に毒ガスに対する酸素療法の有効性を唱え、実行した。

・pHという単位を提唱したソーレンセンは、水素電極を用いて体液の水素イオン濃度を測定して、50 x 10-9モルという値をだした。この数値は、pH 7.3に相当する。

・ハーバーが開発したハーバー法により、窒素肥料が手に入りやすくなり農業に大きな影響を与えた。そのハーバーがガラス電極を開発し、水素電極にとってかわった。ハーバーは毒ガスの研究にも携わり、反対した妻を自殺で失った。ノーベル賞の受賞講演では「戦争に勝者はいない。犠牲者だけが残る」という言葉を残している。

・セブリングハウスは、第二次大戦中は MITでレーダーの研究を行っていて、原爆投下を機会に医師になる最終決断をした。コロンビア大学医学部の学生時代に、横隔神経刺激装置を製作して数台販売した。

・急性に CO2が上昇する場合、PCO2 10 mmHgあたり [HCO3-] 1 mEq/l上昇すると概算できる。ここから大きく外れていたら、非呼吸性の要素が加わっていると解釈する。慢性に CO2が上昇する場合、PCO2 10 mmHgあたり [HCO3-] 4 mEq/lの上昇と概算できる。[HCO3-] の上昇の 3 mEq/l分は腎臓が働いたと解釈できる。

・1987年の昭和天皇の手術の際、東京大学病院の手術室にはパルスオキシメーターが 4台しかなく、それを持ち出すのは躊躇されて手術時には使わなかったが、結局術後に必要と判断して 1台を宮内庁病院に移動した。

Post to Twitter


発熱

By , 2014年2月12日 10:47 PM

2月4日から咽頭痛・発熱があり、数日間 40℃前後の発熱が持続していました (max 40.2℃)。どうせインフルエンザだろうし、数日寝ていれば治るだろうと思って、勤務先に連絡し、しばらく外来と当直が出来ない旨を伝えて、自宅療養していました。経過中、麻黄湯を使ったのですが、使い方を間違えて死にそうな思いをしたのは御愛嬌 (あれは炎症をドライブさせて短期決着させるらしいのですが、体力を消耗しきってから使うのは禁忌です・・・)。食事は、コンビニの麺類を total 2食とれたのみで、あとはひたすら飲み物かゼリーでつないでました。途中、筋痛・関節痛、左耳痛があったものの、自制内でした。

2月8日くらいから、少しずつ熱が下がり始めてましたが、2月9日夜に再び 39.6℃の発熱があって、あまりに治りが悪いので 2月10日に所属先の大学病院を受診しました。迅速検査でインフルエンザウイルス、溶連菌は陰性でしたが、CRP 8程度の炎症反応上昇がありました。また、脱水による軽度の腎障害がありました。私がぐったりしていたためか、外来担当医 (先輩) から「こんなので帰ってもしょうがないから、入院しな。ベッドも空いているし」と言われて、入院しました。入院した日が治りはじめの日だったらしく、その日は 38℃くらい、翌日は解熱し、2月12日退院しました。

2月13日から仕事に復帰します。1週間臥床生活が続いたので体力が落ちていると思いますが、徐々に戻していきます。

Post to Twitter


Fahr病の遺伝子

By , 2014年2月4日 5:56 AM

Fahr病特徴的な CT画像は、一度見ると忘れません。研修医の頃見たときは結構衝撃的でした。Movement disorders誌をパラパラ眺めていたら (とは言っても online siteですが)、 2014年1月3日付で Fahr病の新規遺伝子 PDGF-Bが HOT TOPICSとして紹介されていました。

A New Gene for Fahr’s Syndrome – PDGF-B

Fahr病 (Familial idiopathic basal ganglia calcification; IBGC) は、1850年に Delacourが最初に報告し、1930年が Fahrが病理学的に基底核を中心とした脳石灰化を記載しました。14q11.2 (IBGC1), 2q37 (IBGC2), 8p21.1-q11.13 (IBGC3), 5q32 (IBGC4) に遺伝子座が報告されています。

2013年1月、exome sequencingを用いて、IBGC4に platelet-derived growth factor receptor β (PDGF-Rβ) をコードする PDGFRB遺伝子が報告されました。さらに同年8月、PDGF-Bをコードする Pdgfb遺伝子 (22q13.1) のナンセンス及びミスセンス変異が報告され Pdgfbの低機能対立遺伝子を持つマウスで、脳石灰化が確認されました。面白いことに、PDGF-Bは PDGFRβの主要 ligandであるとのことです。

2013年2月に報告されたのが IBGC3の SLC20A2遺伝子です。家族性 IBGCの 41%に SLC20A2変異があるそうです。

気になるメカニズムですが、内皮の PDGF-B欠乏は周皮細胞と血液脳関門の異常を引き起こすとされています。また、SLC20A2はナトリウム依存性リン輸送体ファミリーであり、無機リン酸塩の局所的な凝集がリン酸カルシウム沈着の原因となるようです。両者のメカニズムは違っても、石灰化のパターンに違いはなさそうだということです。

私が研修医時代には原因不明であった疾患も、徐々に分子メカニズムが解明されてきていることを初めて知り、新鮮でした。

Post to Twitter


olesoxime

By , 2014年2月3日 9:46 PM

2014年1月21日の European Journal of Neurology誌に、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) に対する olesoxime の phaes II-III試験の結果が発表されました。リルゾールに olesoximeもしくはプラセボを上乗せしたものですが、18ヶ月の観察期間で有効性を示せませんでした。olesoximeは神経保護作用が期待される薬剤だったようですが、う~ん残念。これまでのような方法論では難しいのでしょうね。

A phase II−III trial of olesoxime in subjects with amyotrophic lateral sclerosis

Post to Twitter


STAP

By , 2014年2月2日 9:14 AM

2014年1月29日のこと・・・。ふと「神経疾患についての iPS細胞の研究の現状を調べてみようかな」と思い、「まずは山中先生の研究からだろう」と考えて、2006年の Cell論文を読み始めました (実はまだ読んでなかった (^_^;))。

Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defined Factors

門外漢にとっては難解過ぎたので、”iPS細胞って何?” というブログ記事と照らし合わせながら読みました。如何にして 24因子から 4因子に絞り込んでいったかという話が、面白かったです。読んでいてワクワクする論文でした。

そして、翌1月30日。STAP (stimulus-triggered acquisition of pluripotency) の Nature論文が大きなニュースになっていて驚きました。

Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency

Bidirectional developmental potential in reprogrammed cells with acquired pluripotency

こちらも難解だったので、”体細胞の多能性への刺激惹起性運命変換” というブログ記事を参考にしました。弱酸性, 37℃, 30分だけが話題になっていますが、生後 1ヶ月のマウス細胞、DMEM/F12培地による数日間の浮遊培養という前処理という点には注意ですね。我々が弱酸性の石鹸で体を洗おうが、弱酸性の温泉に入ろうが、細胞の多能性が誘導されるわけではありません。

ハーバード大でサルで実験中との報告もありますので、論文の内容の信憑性は高いでしょう (※再現性のとれない科学研究も多々あるので注意が必要)。

新万能細胞、サルの治療で実験中…ハーバード大

【ワシントン=中島達雄】細胞に強い刺激を与えただけで作製できる新たな万能細胞「STAP(スタップ)細胞」の開発に理化学研究所と共にかかわった米ハーバード大の研究チームが、脊髄損傷で下半身が不自由になったサルを治療する実験を進めていることを30日明らかにした。

研究チームの同大医学部・小島宏司医師によると、脊髄損傷で足や尾が動かなくなったサルの細胞を採取し、STAP細胞を作製、これをサルの背中に移植したところ、サルが足や尾を動かせるようになったという。

現在、データを整理して学術論文にまとめている段階だという。研究チームは、人間の赤ちゃんの皮膚からSTAP細胞を作る実験にも着手。得られた細胞の能力はまだ確認中だが、形や色はマウスから得たSTAP細胞によく似ているという。

(2014年1月30日14時37分  読売新聞)

すでに特許も出願中のようです。この点は抜かりありません。

発明者に小保方さんの名も、既に国際特許出願

「STAP細胞」の作製に成功した理化学研究所などが国際特許をすでに出願していることが30日、わかった。

今後、再生医療への応用などを目指した国際的な知財競争が激化することが予想され、今回の特許がどのような形で認定されるかが注目される。

国際特許は、理研と東京女子医科大、米ハーバード大の関連病院であるブリガム・アンド・ウィメンズ病院の3施設が合同で米当局に出願。2012年4月から手続きを始め、昨年4月に出願した。発明者には、小保方おぼかた晴子・理研ユニットリーダー(30)ら7人が名前を連ねている。

出願内容は「ストレスを与えることで、多能性細胞を作製する手法」。iPS細胞(人工多能性幹細胞)のように、外部から遺伝子を導入したり、たんぱく質などを加えたりしなくても、皮膚のような体細胞が、多能性細胞に変化することを示した。ただ、最終的に特許当局にどこまで権利範囲が認められるかは分からない。

(2014年1月30日16時02分  読売新聞)

しかし困ったことに、報道が過熱し、小保方氏は細胞リプログラミングユニットのサイトで、”報道関係者の皆様へのお願い”  を出すことになりました。論文が出た瞬間、世界中の研究者が追試をして、競争が激化します。小保方氏を追い回して足を引っ張るのではなく、研究に専念させてあげるのが重要だと思います。研究者にとって最も大事なのは、”研究資金” と “研究のための時間” です。

最後に、みぐのすけと知人医師達のゲスなやりとり (完全にネタです)。
みぐのすけ:膣の中って、37℃、酸性でしょ?STAP細胞できるんじゃね?
A医師:何言ってるんですか、STAPどころか一切の培養操作なしで人体丸ごと発生しますよ。
みぐのすけ:すげー、natureに報告しようかな!
A医師:何言ってるんですか、報告も何もnatureの摂理ですよ。
B医師:ねーちゃんと報告してください。親に。
お後がよろしいようで・・・。
(参考)

Post to Twitter


おっぱいの科学

By , 2014年1月30日 8:01 AM

おっぱいの科学 (フローレンス・ウィリアムズ著, 梶山あゆみ訳, 東洋書林)」を読み終えました

この本を読もうと思ったきっかけは、仲野徹先生の書評を読んだことです。

『おっぱいの科学』にクラクラっ…

仲野徹先生は「なかのとおるの生命科学者の伝記を読む」という本を出されていて、以前ブログで紹介したことがあります。仲野先生推薦の本ならばと思って読みました。

実際、非常に面白い本でした。「おっぱいは誰のためにあるのか」という議論から導入し、豊胸術の話題を経て、環境中の有害物質の話になります。おっぱいの大部分は脂肪であり、そこに有害物質が貯めこまれていること、実際に母乳から有害物質が検出されるようになってきている事実が示されます (とはいえ、授乳の大切さも強調される)。それから、乳癌の危険因子一つ一つについて、早期発見の方法についてなど詳細にわかりやすく述べられます。

乳癌のリスクを向い合って生きる女性の方や、将来の授乳を考えている方に是非読んで欲しいです。

表紙カバーがおっぱいの絵だったので、私は裏返して通勤の電車内で読んでいました。女性研修医に貸すときに、表に戻して貸そうとしたら、「裏返してください」と怒られてしまいました (^^;

Post to Twitter


ALSの長期生存

By , 2014年1月29日 6:10 AM

ALSは予後の厳しい疾患ですが、10年以上経過しても ADLや呼吸機能がある程度保たれる方がいます。例えば、作曲家のショスタコーヴィチも進行の遅い ALSであったと推測されています。しかし、どのくらいの割合の患者が長生きし、それがどういう特徴をもった患者なのかは、まだ未知の部分が大きいのが現状です。

2014年1月2日の Annals of neurology誌に ALS患者の生存期間に関するコホート研究が掲載されました。

 Long-term survival of amyotrophic lateral sclerosis. A population-based study

 人口 4947554人が住む北イタリアにおいて、コホート研究を行った。ALS患者は 1998年1月1日~2002年12月31日に登録され、亡くなるか、もしくは 2013年2月28日まで前向きに観察された。その結果、517名が登録され、重複などを除く 496名が対象となったが、13名は追跡できず、483名を解析した。 男性 280名、女性 203名、18~93歳、平均 63.9歳で、診断時の平均罹病期間は 10.6ヶ月だった。登録時、definite ALS 44.1%, probable ALS 26.9%, possible ALS 19.3%, suspected ALS 9.7%だった。経過期間中、motor neuron diseaseとして 2名が PMA、1名が PLS 1名であることが明らかになり、また27名は ALSでないことが明らかになった。

 診断時から見た累積生存率は、12ヶ月 76.2%, 3年 38.3%, 5年 23.4%, 10年 11.8%だった。初発症状出現時から見た累積生存率は、12ヶ月 92.1%, 5年 28.6%, 10年 13.3%だった。男性、若年、possible/suspected ALS, spinal onset、診断まで 12ヶ月以上である方が長期に生存した。観察期間終了後に生存していた 41名のうち、胃瘻、非侵襲的換気 (NIV), 気管切開などを行っていたのは 7名 (17%) だった。75歳以上の男性患者では、10年間の生存率は一般人と変わらなかった。

 我々神経内科医が ALS患者に予後を説明するときなど、非常に役立つ研究だと思います。

今回の研究では遺伝子検索はしていませんが、例外を除き遺伝子型と表現型は相関がはっきりしないそうです。しかし、進行の遅い ALS患者で見られたという EPHA変異があるかどうかとか、個人的には遺伝学的背景も気になるところです。

Post to Twitter


musician’s dystoniaとARSG

By , 2014年1月28日 5:32 AM

音楽家のジストニアに関する本を過去に紹介したことがありました。私が興味を持っている分野の一つです。

音楽家の 1~2%に、楽器演奏に使用する身体の部分 (ヴァイオリン奏者/ピアノ奏者/ギター奏者などの手や、管楽器奏者の口唇など) を思い通りに動かせなくなる症状がみられ、”musician’s dystonia” とか “musician’s cramp” と呼ばれます。特に若い男性に多く、発症した多くの患者は、プロの演奏家としての道を諦めることを余儀なくされます。ロベルト・シューマンがそのせいでピアニストとしてのキャリアを諦め、作曲家になったことはあまりに有名です。また、”musician’s dystonia” で右手の自由を失い、左手だけで演奏を続けたフライシャーのようなピアニストもいます。

原因は不明とされてますが、2013年11月の JAMA neurologyでは、「遺伝性の要素と、環境因子 (長時間の練習など) の両方が関与している」という論文が掲載されています。

Challenges of Making Music: What Causes Musician’s Dystonia?

遺伝性の要素の詳細はこれまでベールに包まれていましたが、2013年12月26日付 (first online) で Movement Disorders誌に genome-wide association study (GWAS) の結果が報告されました。

Genome-wide association study in musician’s dystonia: A risk variant at the arylsulfatase G locus?

Using a genome-wide approach with an independent replication and validation in other forms of dystonia, we identified the intronic variant rs11655081 in the ARSG gene as the first possible genetic risk factor for MD with genome-wide significance.(略)

ARSG is located on chromosome 17q24.2 and belongs to family of sulfate genes whose gene products hydrolyze sulfate esters. These proteins are involved in cell signaling, protein degradation, and hormone biosynthesis.

どうやら、ARSG遺伝子の多型により、musician’s dystoniaの発症リスクが高まるようです。この遺伝子多型は、書痙患者に対する GWASでも関連が示唆されました。実際、musician’s dystonia患者の 44%に、書痙など他のタイプのジストニアを合併することが知られているそうです。

遺伝子多型が一つわかっただけで musician’s dystoniaの原因が明らかになったわけではありませんが、これまで未知であった遺伝学的背景の解明にむけて、最初の一歩です。

Post to Twitter


抗MOG抗体と NMO/NMOSD

By , 2014年1月27日 6:07 AM

2014年1月13日の JAMA neurologyに、視神経脊髄炎 (NMO)/視神経脊髄炎スペクトラム疾患 (NMOSD) における抗 aquaporin-4 (AQP4) 抗体陽性例と抗 myelin-oligodendrocyte glycoprotein (MOG) 抗体陽性例の臨床像を比較した研究が掲載されていました。

Neuromyelitis Optica Spectrum Disorders With Aquaporin-4 and Myelin-Oligodendrocyte Glycoprotein Antibodies

A Comparative Study

NMO/NMOSD患者の多くは抗 AQP4抗体陽性と考えられています。しかし数年前から、抗 AQP-4抗体陰性例に抗 MOG抗体が検出されることが報告されるようになりました。そこで著者らは、2010年1月1日~2013年4月1日に初回の脱髄イベントを起こした、抗 AQP-4抗体もしくは抗 MOG抗体陽性患者について調べました。

Table1

Table1

その結果、明らかになった臨床的特徴は下記。

・抗 AQP4抗体と抗 MOG抗体が両方陽性の患者はいなかった

・抗 MOG抗体陽性患者は、抗 AQP-4患者と比較して、男性に多い、若年という特徴が見られた。

・抗 MOG抗体陽性患者は、視神経炎と横断性脊髄炎を併発もしくは 1ヶ月以内に続発することが多かった。抗 AQP4患者では同時発症はみられなかった。

・44%の抗 MOG抗体陽性患者は、発症時に視神経脊髄炎の診断基準を満たした。抗 AQP-4抗体では発症時に視神経脊髄炎の診断基準を満たした患者はいなかった。

・最重症時の EDSSは両群間で差はなかったが、抗 MOG抗体陽性患者の方が、EDSS、運動障害、MRI画像とも改善が大きかった。抗 AQP4抗体陽性例と異なり、抗 MOG抗体陽性例では観察期間中に再発した患者はいなかった (単相性)。

・脊髄病変の長さは両群間で差はなかったが、抗 MOG抗体陽性例では脊髄円錐が侵されやすかった。また、抗 MOG抗体陽性例では、脳 MRIで白質病変が一般的に見られた (ADEM-like)。

・髄液所見は両群間で差がなかった。

・回復後の抗体陰転化は、抗 MOG抗体 (56%) の方が抗 AQP4抗体 (15%) よりも一般的に見られた。

・多発性硬化症 (MS) 患者において抗 MOG抗体をスクリーニングしてみたが、陽性例はなかった。別の研究では一部患者で陽性だったと報告しており、抗体のアッセイ系の違いが原因と推測される。

 この論文を読むと、NMO/NMOSDにおいて、抗 MOG抗体陽性例と抗 AQP4抗体陽性例では、臨床像がかなり異なるようです。、読みながら、「あっ、そういえば、昔診たあの患者さんがそうだった」と思いながら読みました。しかし、抗 MOG抗体陽性 NMO/NMOSDを疑ったとして、一般の病院では検査することは難しいですね。ググると、すでにキットも販売されていますし、測定して報告している大学が国内にいくつかあるので、そういうところに依頼することになるのでしょうか。

あと、2014年1月20日の JAMA neurologyでは、NMOにおける免疫抑制療法の比較が掲載されていました。

Comparison of Relapse and Treatment Failure Rates Among Patients With Neuromyelitis OpticaMulticenter Study of Treatment Efficacy

Results  Rituximab reduced the relapse rate up to 88.2%, with 2 in 3 patients achieving complete remission. Mycophenolate reduced the relapse rate by up to 87.4%, with a 36% failure rate. Azathioprine reduced the relapse rate by 72.1% but had a 53% failure rate despite concurrent use of prednisone.

アザチオプリンは、ステロイド併用していても約半数で治療失敗がみられるんですね。

薬価を見ると、アザチオプリン 100~200 mg/day (2~3 mg/kg/day) で 306.2~612.4円/日、ミコフェノール酸モフェチル 1000~2000 mg/dayで 1304.8~2609.6円/日、リツキシマブ 1000 mg 初回投与及び 2週間後投与併せて 856640円。3剤の中で最も安いアザチオプリンの治療失敗が最も多いとは・・・残念です。

Post to Twitter


Panorama Theme by Themocracy