野菜と長谷川式

By , 2013年9月16日 12:40 PM

認知機能のスクリーニング検査、「改訂長谷川式簡易知能評価スケール (HDS-R)」には、10種類の野菜を挙げてもらう「野菜語想起課題」があります。

検査をしていると、人参、きゅうり、たまねぎ、ピーマンなどメジャーな野菜じゃなくて、ズッキーニとかマニアックな野菜を挙げる人がいて、なかなか楽しいです。

ところが、野菜か果物か紛らわしいときがたまにあります。別にそれで HDS-Rが 1~2点違ってこようが、実際に大きな問題はないのですが、先日内輪で盛り上がりました。

すいか、メロン、いちごは野菜か果実か

◆回答◆イラスト

結論(けつろん)からからいうと、メロン、すいか、いちごは野菜に分類されます。
それはなぜでしょうか?
野菜と果実のちがいはどこにあるのでしょうか。
園芸関係の学会や報告文では、1年生及(およ)び多年生の草本(そうほん)になる実は野菜、永年生の樹木(じゅもく)になる実はくだものときめられています。
これからみると、すいか、メロンはウリ科の1年生果菜(野菜)で、いちごはバラ科の多年生果菜(野菜)です。
このように、分類上は野菜に分けられますが、青果市場で「すいか」「メロン」「いちご」はくだものとしてあつかわれています。市場の分け方は消費者の側にたって、消費される形態に合わせて分類しています。スーパーマーケットでも、デザートとしてたべるメロンやいちごは、くだもの売場に並(なら)びます。

メロン、すいか、いちごは野菜だったんですね。だから患者さんが野菜として答えても、減点してはダメです (^^)

Wikipediaでは、もう少し詳しく書かれています。

野菜

野菜は一般には食用の草本植物をいう[1]。ただし、野菜の明確な定義づけは難しい問題とされている[3][4]

園芸学上において野菜とは「副食物として利用する草本類の総称」[5]をいう。例えばイチゴスイカメロン園芸分野では野菜として扱われ[3][6]農林水産省「野菜生産出荷統計」でもイチゴ、スイカ、メロンは「果実的野菜」として野菜に分類されているが[5]、青果市場ではこれらは果物(果実部)として扱われ[6][7]厚生労働省の「国民栄養調査」[5]日本食品標準成分表でも「果実類」で扱われている[3][1]。また、日本食品標準成分表において「野菜類」とは別に「いも類」として扱われているもの(食品群としては「いも及びでん粉類」に分類)は一般には野菜として扱われている[1][5]。また、ゼンマイツクシといった山菜については野菜に含めて扱われることもあり[4][7]木本性の植物であるタラの芽サンショウの葉も野菜の仲間として扱われることがある[4]。さらに、日本食品標準成分表において種実類に分類されるヒシなども野菜として取り扱われる場合がある[1]

日本では慣用的に蔬菜(そさい)と同義語となっている[8][9][10]。ただし、「蔬菜」は明治時代に入ってから栽培作物を指して用いられるようになった語で[7][10]、本来は栽培されたものではない野菜や山菜などと厳密な区別があった[11]。しかし、その後、山菜等も栽培されるようになった結果としてこれらの厳密な区別が困難になったといわれ[11]、「野菜」と「蔬菜」は学問的にも全く同義語として扱われるようになっている[11]。そして、「蔬菜」の「蔬」の字が常用漢字外であることもあって一般には「野菜」の語が用いられている[12]。なお、野菜は青物(あおもの)とも呼ばれる[1]

分類する立場によって、色々変わってくるんですね。ややこしい・・・。

Wikipediaには「野菜の一覧」が載っているので、将来自分が検査を受けるようになったら、担当医が知らなさそうなマニアックな野菜の名前を挙げて、顔色を伺って遊ぼうかなと思います。一方で、果物の定義は下記のようになるようです。

果物

果物(くだもの)は、食用になる果実フルーツ: fruits)、水菓子(みずがし)[注釈 1]木菓子(きがし)ともいう。狭義には樹木になるもののみを指し、農林水産省でもこの定義を用いている。また、多年草の食用果実を果物と定義する場合もある。

一般的には、食用になる果実及び果実的野菜のうち、強い甘味を有し、調理せずそのまま食することが一般的であるものを「果物」「フルーツ」と呼ぶことが多い。

ちなみにアボカドは野菜ではなくて果物らしいので注意が必要です。

余談ですが、今回のエントリーを書いていて、岩田誠先生の「臨床医が語るしびれ・頭痛から認知症まで: 神経内科のかかり方」という本の一節を思い出しました。

 一方、一〇六歳で亡くなった物集高量 (もずめたかかず) さんという、辞書まで作った有名な方がおられました。九九歳くらいの時に東京都の養育院 (現在の健康長寿医療センター) の付属病院に入院されたことがあって、そこで認知症のテストをしました。長谷川式知能検査です。当時は今使っているのより少し前のバージョンなので、一番最初の問題が、「一年は何日ですか?」でした。物集さんは、「いやそれは一概には言えませんよ。一年といってもいろいろあるしね、うるう年もあるわけだから」と答えました。そうしたら医者もちょっとたじろぎました。すかさず物集さんが、「ときに君、うるうっていう字、書けますか?」と聞きました。その医者はすくんでしまって書けなかった。そうしたら、「門の下に王って書きますね」と、ちゃんと字を教えてくれて、なぜ門の下に王と書くとうるうになるのかという説明までしてくれたので、その医者は第二問以降の質問をすることができなくなった。未完の長谷川式テストという有名な話です。

その方はその七年後に一〇六歳で亡くなられて、脳を解剖させていただいたら、重量は一〇〇〇gでした。普通は一四〇〇gくらいですから、四〇〇g減っていました。三分の二まではいかないけれども、かなり減っています。でも、パフォーマンスとしての知能は抜群にあり、最後まで明晰なままで亡くなられました。ですから、小さい脳というのは決して萎縮ではありません。そんなわけで、画像の見方は非常に大事です。

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ライム病

By , 2013年9月13日 8:37 AM

神経内科専門医試験で「両側顔面麻痺」というキーワードを見たら、最初に思い浮かべる疾患はライム病 (神経ボレリア症) です。先日、福島県で働く知人の医師が「両側の顔面麻痺の患者さんが・・・」と話し始めたとき、それを聴いた神経内科医数人が反射的に「ライム病!」と指摘しました。もっとも、他にいくつか鑑別診断も挙がりましたが・・・。ちなみに日本とアメリカでは病原菌のタイプが微妙に違うので、アメリカの検査に出しても陰性になってしまうことがあります。その先生は国内の某大学農学部の先生に抗ボレリア抗体を調べて貰って陽性だったそうです。

ライム病を媒介するのはマダニですが、似たような姿のツツガムシはツツガムシ病を媒介します。ツツガムシについては印象に残った思い出があります。私が東北地方で全科当直をしていたときの話、ある患者さんが来院したという連絡がありました。主訴が「頭に虫がいる」というのです。連絡を受けた時は「精神病の患者さんかな?」とおもったのですが、実際に拝見すると、既に虫はいなかったものの、頭に刺し口がありました。そして、夫が来院前に携帯電話を使って撮影した写真をみせてくださり、そこにはツツガムシが写っていたのです。ミノサイクリンを処方して、後日再診としたのですが、ビックリしたのを覚えています。

話は脱線しましたが、今回紹介しようと思ったのはライム病についてのブログ記事です。下記のブログに教科書には書いていない話が沢山載っています。是非ご覧ください。

混迷するライム病論争

(参考)

IDWR: ライム病

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オープンジャーナルのあやしい世界

By , 2013年9月12日 6:20 AM

2013年4月15日のブログで、偽科学雑誌についてお伝えしました

最近、もう少し詳しく解説したブログ記事を見つけたので紹介します。後半部分がとても参考になります。

タダで読めるけど・・・-オープンジャーナルのあやしい世界

という訳で、日々怪しい雑誌社からメールが届きますが、騙されないように気をつけましょう。

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神経筋疾患における運動

By , 2013年9月10日 9:06 AM

患者さんから「運動した方が良いですか?それとも安静にした方が良いですか?」と聞かれることがよくあります。例えば、筋萎縮硬化症だと運動していると有病率が高かったり、神経細胞の興奮性が問題視されていたりするので、メカニズムを考えると「やって大丈夫かな?」なんて思ってしまいますが、こういうことは、臨床研究で明らかにすべき問題です。

今回、Muscle & Nerve誌に “Exercise in neuromuscular disease” という総説が掲載されました。多岐にわたる疾患について良く纏められていたので、ごく簡単に紹介します。

 Exercise in neuromuscular disease

・筋萎縮性側索硬化症 (ALS)

よくわかっていない。疫学的には、発症前に身体活動性が高い方が、ALSの発症頻度が高いと言われている。

マウスモデルでは、たくさん泳がせると神経細胞死が遅れ、脊髄のアストロサイトやオリゴデンドロサイトに保存的に働く。ヒトでは、呼吸不全がある症例を含めウエイトトレーニングや有酸素運動を行ったランダム化研究が存在する。12名が非運動群、8名が ramp treadmill protocol (徐々にトレッドミルの抵抗が強くなる) を用いた有酸素運動群に割り付けられた。Functional Independent Mobility (FIM) score及び呼吸機能において、有酸素運動群で進行がゆるやかであった。

体重負荷運動では 3つの臨床試験がある。①25名の ALS患者を、日々適度な負荷をかけた群と通常の身体活動群に分けて、 1年間観察した。前者の方が、ALS Functional Rating Scale (ALSFRS) の悪化が遅かったが、筋力、QOL, 疼痛、倦怠感では有意差はなかった。②26例の歩行可能な ALS患者を管理された抵抗運動および固有受容性神経筋促通法 (proprioceptive neuromuscular facilitation; PNF) 群、家庭でのストレッチ及び可動域訓練群に分けて 8週間観察した。前者では機能的能力がより保たれ、短期ではあったが有意に筋力や関節制限が改善した。③ALS患者を抵抗運動群、通常ケア群に分けて 6ヶ月観察した。前者では ALSFRS及び SF-36 physical function subscale scoreが高く、下肢筋力が低下しにくかった。

現在、有酸素運動について行われている臨床試験には、FACTS-2-ALSと ENDURANCE (NCT01650818) の二つがある。

呼吸筋訓練を調べた臨床試験では、26名の呼吸機能正常な発症早期 ALS患者をターゲットとして、8ヶ月の呼吸筋訓練を施行した群と、4ヶ月のプラセボ訓練後 4ヶ月呼吸筋訓練をした群で比較した。ALSFRSに差はなかったが、各群で最大換気量、最大呼気流量、鼻腔吸引圧の一時的な改善が見られた。似たような研究が別にあり、9名のトレーニング患者と 10名の偽トレーニング患者を比較した。両群で呼吸筋筋力に改善があったが、両群間に有意差はなかった。

Kennedy病/球脊髄性筋萎縮症 (SBMA)

有酸素運動についての臨床試験が一つある。8名の患者に自転車エルゴメーターを用いて VO2 maxの 65%まで負荷をかけ、12週間観察した。最大作業能力が 18%, 筋クエン酸シンターゼ活性が 35%上昇したが、その他の評価項目 (VO2 max, ) は変化がなかった。現在、SBMA患者に対する機能的筋力訓練の効果を調べる臨床試験 (NCT01369901) が行われている。

脊髄性筋萎縮症 (SMA)

多くの動物実験が行われており、有酸素運動は運動ニューロンの生存を促進するとされている。SMAに対するエクササイズの効果を調べる臨床試験は、現在 2つ (NCT01233817, NCT1166022) 行われている。

それ以外に、水中運動療法 (aquatic therapy) についての臨床研究がある。50名の SMA2/SMA3患者に 2年間水中運動療法を行った。全ての SMA2患者と一部の SMA患者で筋力が安定化した。多くの患者では元々あった関節変形は進行したにも関わらず、Barthel ladder scale は改善した。3歳の女児に水中運動療法を行って Gross Motor Function Measureの改善を認めた症例報告が存在する。

 急性灰白髄炎/ポリオ (Poliomyelitis)

16週間の有酸素運動群 (70%の心拍反応 HRR, 10分間, 週 3回) とコントロール群を比較した 2つの研究では、有酸素運動群で酸素消費量、筋力、分時換気量、運動時間の改善を認めた。一方、6週間の有酸素運動 (最大心拍数の 55-70%) を行った先行研究では、心肺機能に変化はないという矛盾する結果だった。

現在、ポストポリオ症候群患者に対し、上肢でエルゴメーターを用いた有酸素運動に対する臨床試験 (NCT01271530) が行われている。

ポストポリオ症候群での筋力トレーニングについては過去にいくつかの報告がある。その多くで筋力の改善を認めた一方で、有害な結果だったものは一つもなかった。

Charcot-Marie-Tooth病 (CMT)

CMT患者への筋力トレーニングの効果を調べた研究はたくさんあるが、多くは無作為化されておらず、さらにいくつかのタイプの CMT患者を纏めて解析している。全体的には、歩行速度や機能スケールの結果とは矛盾して、筋力については改善を認めた。興味深いことに、2つの臨床試験で機能の改善と筋線維のタイプを分析している。その結果、MHC1 (major histocompatibility complex 1) レベルが低く、MHC2筋線維が増加しており、type I線維径が増加していることと、椅子立ち上がり動作時間/階段登りの改善に関連がみられた。

有酸素運動については少数例での研究がいくつかある。一つの研究では 6分間歩行の一時的のみの改善があり、もう一つの研究では心拍変動の改善があり、残り一つの研究では心肺機能の有意な改善があった。

重症筋無力症 (MG)

MGでは永続的な機能障害のない筋力低下なので、エクササイズの効果を調べた研究はほとんどない。

11名の軽症~中等症 MG患者に抵抗訓練を行った臨床研究が一つあり、合併症は全くなかったものの、効果は訓練側の膝伸展筋力の 23%改善のみで、他の評価項目では改善はなかった。毎日 5グラムのクレアチン摂取と週 3回の抵抗訓練を行ったケースシリーズが一つあり、軽度の筋肉量増加や等速性運動での下肢筋力改善などを認めた。

6名の MG患者でトレッドミルを用いて有酸素運動を行った非ランダム化研究では、代謝仕事量は 4倍に増加した。250名の MG患者を調べた研究では、36名の MG患者が有酸素運動をしていた。これらの患者では倦怠感は有意差はなかったが、身体機能が高かった。

多くの研究では呼吸筋トレーニングは MG患者に有効である。27名の状態が安定した MG患者を呼吸筋訓練群とコントロール群に無作為に割りつけた研究では、呼吸筋訓練群では最大吸気圧、最大呼気圧、呼吸筋耐久力、胸郭運動性で改善を認めた。似たような非ランダム化研究でも同様の結果だった。

MG患者に筋力訓練、有酸素運動、呼吸訓練を行う臨床研究が (NCT01047761) が現在行われている。

Duchenne型筋ジストロフィー (DMD) / Becker型筋ジストロフィー (BMD)

DMDでは筋肉の脆弱性がある。このような脆弱性にも関わらず、筋ジストロフィーマウス (mdxマウス) は運動に耐えることができて、低強度の持久性訓練や筋力強化訓練においては有益でさえある。一方で、やり方によっては有害なものもある。

ヒトでの DMD患者への訓練の有効性については、矛盾した結果が出ている 。方法に問題がある研究も多い。例えば、軽症患者に対して、大腿四頭筋に対して週 5回、6ヶ月間の最大下筋力訓練を行った研究では、筋力の改善は見られたが、機能予後については測定されていない。

呼吸筋訓練についてはもう少し調べられている。DMD患者 8名をコントロール群と、最大吸気圧の 30%の呼吸をトレーニングした訓練群にランダム化した研究では、訓練群で6週間後に最大吸気圧で 46%長く呼吸できた。

ジストロフィン異常患者に対する低強度の持久力訓練では 1つの研究が行われた。BMD患者 11名を対照にした訓練では改善はあったが、心機能、CK値、筋組織には違いはみられなかった。

現在、DMD患者に対する低強度訓練としては、”No Use is Disuse trial” が行われている。

筋強直性ジストロフィー (myotonic dystrophy 1 (DM1) /myotonic dystrophy 2 (DM2))

大部分の研究は DM1に対して行われている。

筋力強化訓練は 2つの研究が行われている。①33名の DM1患者に対し、膝の屈曲/伸展、臀部の屈曲/外転に対する最大下のウエートトレーニングを週 3回 24週間行った。筋力、易疲労感、機能的パフォーマンスの改善はなかった。②9名の患者に対して 12週間の膝屈筋に対する高負荷訓練を行ったところ、筋力や筋肉肥大の改善が推測されたが、病理組織学的な異常や筋肉量、MRIでの異常信号の改善は見られなかった。

有酸素運動は、筋力強化訓練とは異なり効果があった。エルゴメーターを使った低強度の有酸素運動を 12週間続けたところ、最大酸素摂取量が 14%、最大仕事負荷量が 11%上昇し、筋線維径も有意に増加した。興味深いことに、MRIで筋肉量、MRSでミトコンドリア機能も改善しており、最大酸素摂取量の上昇に貢献している可能性がある。しかし、有酸素運動の効果は、きちんと管理されたトライアルでのみ効果があるのかもしれない。35名の患者をランダム化してコントロール群、商用の運動プログラムに割り振った試験では、6分間歩行、SF-36 Health Survey, Epworth Sleeping Scaleで有意差を認めなかった。

バランス訓練と低負荷有酸素運動を組み合わせた後ろ向き研究では、Berg  Balance scale, 歩行速度、訓練した筋肉の最大トルクの有意な改善を認めた。

肢帯型筋ジストロフィー (LGMD)

筋力強化訓練についてのきちんとしたトライアルは行われていない。

有酸素運動については LGMD type 2I患者 9名を対照にした研究がひとつだけあり、VO2 maxの 65%のトレーニングを 12週間続けた。筋肉の形態や血漿乳酸レベルの変化はなく、最大仕事負荷量と酸素摂取量の改善を認めた。

 顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー (FSHD)

筋力強化訓練では、さまざまな結果が混在している。①9名の FSHD患者に対して、上下肢近位筋の筋力訓練と、神経筋電気刺激を 5ヶ月間行った研究では、全ての筋で徒手筋力テストの改善が 10~15%みられた。肩関節伸展、外転の最大容量等尺性収縮は 40~45%、6分間歩行でも軽度の改善を認めた。疼痛や倦怠感の改善はなかった。②66名の FSHD患者に対するランダム化研究では、1年間、肘関節伸展、足関節背屈の筋力強化を行ったが、最大容量等尺性収縮、倦怠感、疼痛、機能的状態の改善はなかった。

有酸素運動では、8名の FSHD患者と 7名のコントロール群に対して12週間の自宅訓練をした研究がある。それぞれの群で 13~16%の VO2 max改善と、13~17%の最大仕事負荷量の改善を認めたが、各群間で有意差はなかった。

現在、FACTS-2-FSHDと NCT01116570の二つの臨床研究が行われている。

炎症性筋疾患 (皮膚筋炎 DM, 多発筋炎 PM, 封入体筋炎 IBM)

エクササイズは主に皮膚筋炎、多発筋炎に対して調べられている。しかし、他の神経疾患同様、スタディーには対象患者が少なかったり、ブラインド化されていなかったり、選択バイアスがかかっているなどの制約がある。

皮膚筋炎や多発筋炎に対して、筋力強化訓練の有益な効果を示した研究は沢山ある。筋力の強化は、炎症性遺伝子および線維化遺伝子ネットワークの遺伝子発現低下によると考えられている。EN-4および IL-1 Ra陽性細胞の減少を示した研究もあり、エクササイズによる炎症活動の低下が示唆されている。筋力の強化はまた、筋線維の平均面積増加や筋持久力の改善とともに type I筋線維の増加によるものかもしれない。

炎症性筋疾患に対する有酸素運動も有効である。

筋力強化と有酸素運動の組み合わせは、皮膚筋炎および多発筋炎において機能的状態の改善に役立つ。CKや  MRIなど評価で増悪を示した研究はひとつもない。

封入体筋炎でのエクササイズについては、よくわかっていない。筋力強化と有酸素運動を組み合わせて 12週間行った研究では、有酸素運動能、機能的能力 (階段を昇ったり、30分の歩行) や、一部の筋群の筋力などが改善した。別の研究では、筋力強化や、筋力強化と有酸素運動の組み合わせで筋力は強化されなかったが、害もなかった。

代謝性筋疾患

・ミトコンドリア筋症

ミトコンドリア筋症では、ミトコンドリア遺伝子異常によるミトコンドリア機能障害、酸化能力低下、運動耐容能力低下がある。

少人数のミトコンドリア筋症患者に対して、自転車漕ぎを用いた 12-14週間の最大下持続トレーニングでは、VO2 max, 作業能力、骨格筋酸素抽出は 20~30%増加した。ミトコンドリア体積の 50%増加に伴い、呼吸鎖酵素は 25~67%増加した。血清 CK値の上昇や筋生検での形態学的な所見を伴わず、生活の質や最大運動に対する耐性は改善した。これら全ての効果は脱トレーニングの間に失われ、12ヶ月間訓練を継続することにより維持することが可能であった。4名のミトコンドリア筋症患者を対象とした似たような研究があり、合併症なしに酸化能力、運動能力が 23%改善した。持久力訓練は、疲労感も軽減させる。これはミトコンドリア酵素活性や筋線維の呼吸基質の酸化能の上昇と強く相関している。

興味深いことに、筋力強化訓練は持久力訓練よりさらに、変異 DNAの割合を減少させ、野生型 DNAを回復させる。

筋力強化訓練と有酸素運動の組み合わせも効果がある。20名の患者をコントロール群と訓練群に分けたスタディーでは、最大酸素摂取量が増加し、仕事量、持続運動能、末梢の筋力、生活の質、臨床症状に改善がみられた。

・糖原病

ポンペ病 (Pompe disease) はヒトリコンビナントGAAの補充療法が劇的に奏功するので、この疾患の患者において最もエクササイズの効果がありそうである。筋力強化や治療的エクササイズの確立したガイドラインはないが、多くのエキスパートは穏やかで最大下負荷の有酸素運動を勧めている。

最もよく知られた研究は、非ランダム化観察研究で、34名のポンペ病患者が低炭水化物食と最大下負荷 (VO2 maxの 60%) の有酸素運動を 2~10年間続けた。エクササイズに適合した 22名は適合しなかった患者と比べて、筋力低下が緩徐であった。酵素補充療法を受けている late-onsetのポンペ病患者 5名に、最大下負荷で筋力トレーニングと有酸素運動を組み合わせて 20週間観察した研究では、一部の筋力の有意な改善を認め、6分間歩行も成績が良かった。しかし、筋力の改善と 6分間歩行の結果には相関がなかった。そのため機能的な利得は、心肺機能の改善によるものであると推測されている。酵素補充療法を受けている late-onsetポンペ病患者に対する観察研究のサブグループ解析では、エルゴメーター訓練で 6分間歩行が改善した。ポンペ病に対する呼吸筋訓練を行った研究もあり、呼吸筋筋力に改善を認めたが、被検者はわずか 2名のみであり、結果の解釈には注意が必要である。

McArdle病では、”second wind” 現象を呈する代謝性筋疾患である。この現象は、持続可能な低強度の運動を数分間をやったあとに出現し、別の筋外のエネルギー源 (肝臓グルコース、脂肪組織脂肪酸など) を利用するためとされている。運動 30-45分前に経口スクロースを摂取すると、運動への耐性が著明に改善する。

McArdle病に対する筋力強化訓練の研究はされていないが、持久力訓練 (有酸素運動) では 3つのスタディーがなされている。そのうち 2つでは酸化能力および運動能力の有意な改善があった。

こうしてみると、ほぼ全ての神経筋疾患において、トレーニングが有害に働くことはなくて、それなりに効果もあるようです。もちろん、過去のスタディーで対象にされた患者と目の前の患者の病状が違えばそのまま当てはめることは出来ませんが、参考にはなると思います。

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臨床医が語るしびれ・頭痛から認知症まで: 神経内科のかかり方

By , 2013年9月8日 10:23 AM

臨床医が語るしびれ・頭痛から認知症まで: 神経内科のかかり方 (岩田誠著、日本評論社)」を読み終えました。一般の方向けに書かれた本です。

書店の健康本コーナーに行くと、「よくぞここまで嘘八百並べられたものだ」と思うものが多いのですが、この本は自信を持ってお薦めできます。さまざまな症状について考えるべき病態が解説されていて、またどう対処すべきかが書かれています。著者は日本の臨床神経学を牽引してこられた先生で、臨床医の視点がそこにはあります。

神経内科医にとっても、「そう説明すればわかりやすいな」とか、「こういう解釈をすれば患者さんも前向きになれるだろうな」と、はっとさせられて、非常にためになりました。

内容の豊富さに比べて、良心的な価格の本でもありますし、是非多くの方々に読んで頂きたいです。

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音楽家たちに囲まれて

By , 2013年9月5日 7:14 AM

9月1日に、ヴァイオリニストの成田達輝さん、作曲家の酒井健治さん達と数人で、リヨン料理の店で飲みました。

なんとその日、酒井健治さんは芥川作曲賞授賞が決定し、レセプションに参加してから駆けつけることになったのでした。

芥川作曲賞:酒井健治さんに決まる

毎日新聞 2013年09月01日 19時49分

 第23回芥川作曲賞(サントリー芸術財団制定)の公開演奏・選考会が1日、東京都港区のサントリーホールで開かれ、酒井健治さん(36)の「ヴァイオリンとオーケストラのための協奏曲」に決まった。同賞は国内外で昨年初演された若手の管弦楽作品を対象とし、最終候補3曲を大井剛史さんの指揮で新日本フィルが演奏。酒井作品は審査員の伊藤弘之ら3氏により「完成度の高さと芸術性の豊かさ」が評価された。同曲はエリザベート王妃国際コンクール作曲部門でもグランプリに輝いている。酒井さんは大阪府出身で、武満徹作曲賞第1位など受賞多数。

受賞作品を成田達輝さんがエリザベートコンクールで演奏したときの動画が Youtubeで見られます。「あるシンプルなメロディーがオーケストラに伝播していき、形を変えて戻ってきて、それがハーモニーになる」というのが一つのコンセプトらしいです。

・Tatsuki Narita | Sakai Kenji Violin Concerto | Queen Elisabeth Competition | 2012

私はこの手の現代音楽をほとんど聴かないので、色々初歩的な質問をぶつけたのですが、酒井健治氏は色々丁寧に教えてくださいました。現代音楽におけるオクターブの位置づけや、微分音についてなど興味深かったです。彼は、「バッハも好きだしベートーヴェンも好きだし、こうした曲もよく聴くけれど、たまたま今の自分の表現したいことを伝えているのが、こういうスタイルなんだ」みたいなことをおっしゃっていました。同席した医師は、「作曲する上で、リズム、ハーモニー、メロディーの中で何を最も重視するか?」などとマニアックな質問をしていましたが、酒井氏は「ハーモニーだと思う。メロディーはあまり重要じゃなくて、出てきても断片的」と答えていました。他にもマニアックなトークたっぷりの、充実した飲み会でした。サインを御願いしたところ、即興で私のために作曲したものを書いてくださいました。多分、歴史的に貴重なサインです (^^)

成田達輝さんとは、10月にパリで会う予定で、その旅行中に酒井健治さんとベルギーで会えるように日程調整中です。

彼らはこれからはクラシック音楽業界をリードすること確実な、というか既にリードしている、日本人若手音楽家達です。クラシック音楽マニアじゃなくても、いずれ名前をよく耳にする時代がくるでしょう。

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π^{0}p

By , 2013年9月1日 3:38 PM

論文タイトルを見て、「π^{0}p」が顔文字が見える私は、ネットに毒されているに違いない。

Accurate Test of Chiral Dynamics in the γ[over →]p→π^{0}p Reaction.

さらに、アブストラクトにあるこれも絵文字っぽく見えて仕方ない・・・orz

Σ≡(dσ_{⊥}-dσ_{∥})/(dσ_{⊥}+dσ_{∥})

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誕生日

By , 2013年8月30日 11:59 PM

誕生日を迎えました。

特に祝う訳でもなく、午前、午後大学外来をして、夜は若手医師セミナーを最後まで聴いて一日が終わりました。

ちなみに、37歳って、こんなイメージらしい。37歳独身ねぇ・・・。

Yahoo!Japan

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ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム

By , 2013年8月24日 6:46 PM

ピアニストの脳を科学する 超絶技巧のメカニズム (古屋晋一著、春秋社)」を読み終えました。

私は、演奏家がどうやって音楽を認識しているかや、音楽家の病気などに興味があり、たまに論文を読んでは過去にブログで紹介してきました。しかし、それらは断片的な知識の寄せ集めで、イマイチこの分野の研究の全体像が見えにくいところがありました。ところが、本書は最新の知見を織り交ぜつつ、体系的にこの分野を網羅して書かれています。きちんと文中に引用文献が示され、巻末には引用文献リストがついています。

一般に音楽認知のメカニズムに対するアプローチとしては、functional MRI, PET、脳波などが知られていますが、著者はこれらの方法を使った研究を広く解説しつつ、工学畑出身の人間であることを生かし、様々な機器を使ったアプローチを紹介しています。また、著者はピアノ演奏をされるそうで、ピアニストの視点がそこにはあります。私もヴァイオリン弾きとして、「あー、これは演奏する人間だったら実感できるな」なんて思いながら読みました。

内容は高度ですが、一般人向けに平易に書かれており、音楽好きの方に、今一番勧めたい本です。

(上記リンク先、アマゾンの書評も御覧ください)

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ニューキノロン系抗菌薬と末梢神経障害

By , 2013年8月21日 10:48 PM

ニューキノロン系抗菌薬は広域なスペクトラムを持ち、感染症診療の現場ではかなりよく見かける薬剤です (過剰に使われている感もありますが・・・)。一方で、約 1-4%に見られるという中枢神経症状 (けいれんや精神症状、頭痛、浮動性めまい、意識障害など)、あるいは アキレス腱断裂といった副作用に注意する必要があります。

2013年8月16日の New England Journal of Medicineのニュースに、FDAがニューキノロン系抗菌薬による末梢神経障害を添付文書に記載するように求めていることが掲載されました。どうやら末梢神経障害は、経口薬と注射薬で問題になるようです。

Fluoroquinolone Labels Updated to Reflect Heightened Risk for Peripheral Neuropathy

By Kelly Young

The FDA is requiring that the labels of fluoroquinolone antibiotics warn of the drugs’ increased risk for peripheral neuropathy.

The risk has been observed with oral and injectable fluoroquinolones, but not topical agents. Patients could experience peripheral neuropathy any time during their treatment, and it could persist for months or years or be permanent.

Patients should contact their healthcare providers if they develop symptoms consistent with peripheral neuropathy in the arms and legs, including pain, burning, numbness, or weakness; change in sensation to touch, pain, or temperature; or change in the sense of body position.

Patients who develop these symptoms should stop taking the antibiotic and receive alternative therapies unless the benefit of the fluoroquinolone outweighs the risk.

Link(s):

FDA MedWatch safety alert (Free)

これだけ使われていて、経験ないけどなぁ・・・、どういうタイプの末梢神経障害を起こすのだろうと思って、いくつか論文をチェックしてみました。

まずは Lancet誌に掲載された初期の症例報告。

Peripheral neuropathy associated with fluoroquinolones.

37歳男性が化膿性脊椎炎のため pefloxacinで治療を受けた。Pefloxacinでの治療開始 5ヶ月に両下肢に手袋靴下型の錯感覚が出現し、続いて右下肢の筋力低下と歩行障害が出現した。総腓骨神経の神経伝導速度は 43 m/sだった。筋電図では前脛骨筋と長腓骨筋に脱神経電位と多相性運動単位電位を認めた。男性には Hodgikin病のため vincristine total 18 mgを含む、化学療法、放射線治療の既往があった。その他に末梢神経障害を起こしうる疾患はなかった。Pefloxacinを中止して 10日以内に末梢神経障害は著明に改善した。6ヶ月後に化膿性脊椎炎が再発したため、ofloxacinを開始したところ、15日以内に末梢神経障害が再発し、中止後 7日以内に改善した。Flucloxacillinは胃腸症状によりコンプライアンスが不良だったためか化膿性脊椎炎が再発したので、peflxacinを再投与したところ、15日以内に末梢神経障害が再燃した。Ciprofloxacinに変更したところ、2ヶ月間ごく軽い錯感覚が見られたのみだったが、その後これらの症状に耐えられなくなり、中止を余儀なくされた。総腓骨神経の伝導検査では伝導速度が 37 m/sで、短趾伸筋の針筋電図では脱神経電位を伴った多相性運動単位電位がみられ、toxic neuropathyに合致する所見だった。

Journal of Antimicrobial Chemotherapy誌には、スウェーデンからある程度まとまった報告がありました。

Peripheral sensory disturbances related to treatment with fluoroquinolones.

1993年、スウェーデンの医薬品副作用委員会 (Swedish Adverse Drug Reactions Advisory Committee; SADRAC) に582例のニューキノロン系抗菌薬の副作用が報告され、37例が感覚性末梢神経障害だった。21例が男性で、15例が女性であり、平均年齢は 51歳だった (16~89歳)。症状の出現は、治療開始後 1時間~4ヶ月後の間だった。68%が投与開始後 1週間以内で、86%が 2週間以内だった。症状は錯感覚 (81%)、しびれ感/感覚低下 (51%)、疼痛/感覚過敏 (27%), 筋力低下 (11%) だった。投与をやめてから61%が1週間以内に、71%が2週間以内に改善した。発症までの期間と症状の持続期間には関連がなかった。症状出現の予測因子は、腎障害、糖尿病、リンパ悪性腫瘍、神経障害の原因となる他の薬剤の使用だった。末梢神経障害の正確なメカニズムはよくわからなかった。ある 1例では、筋電図で異常なく、神経伝導速度は正常だった (浮動性眩暈、疼痛、筋痙攣を呈した症例→疼痛、筋痙攣なので、small fiber neuropathyだったと考えれば、筋電図、神経伝導検査が正常だった説明はつくように思うが、その辺の記載なし)。

これを見ると、大体の臨床像のイメージがつかめます。投与を開始してから 2週間くらいまでに発症し、length dependencyのある sensory dominant neuropathyを呈し、投与をやめると多くは改善するようです。

ニューキノロン系抗菌薬を長期使用する患者さんを診る機会はあまりないけれど、注意しておこうと思いました。

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