Category: 読書

なぜ、無実の医師が逮捕されたのか

By , 2017年1月26日 5:43 PM

なぜ、無実の医師が逮捕されたのか: 医療事故裁判の歴史を変えた大野病院裁判 (安福謙二著、方丈社)」を読み終えました。

ここ数ヶ月で一番心に響いた本。熱い言葉がたくさん散りばめられていました。

私が都内の大学から福島県の病院に出張になっていたとき、大野病院事件は起こりました。当時はさまざまな医療系ブログが連日この事件を扱っていて、あの頃の独特な空気は今でも思い出します。加藤先生を救うための署名運動に、私も署名しました。

この事件は、ギリギリで頑張っていた医療従事者たちの心を折って、医療崩壊を顕在化させました。「たらい回し」報道が溢れたのも、この後です。

読んでいてどんどん引き込まれるドキュメントですが、現在の医療と司法制度の問題が、繰り返し深く考察されています。

本書を読むと、到底過失を問える案件ではないこと、医学に無知な検察が思い込み (患者家族に保険金が下りるようにという目的で作られた鑑定書に、医師に過失があったように記載する必要があり、それを元に医師に懲戒処分がくだったことなども影響したようでした) を押し通そうとして突っ走ったことがよくわかります。裁判では、検察の思い込みがことごとく論破されています。また、訴訟は勝つか負けるかを争うものであり、真実かどうかは関係ない、裁判に関係ない資料はたとえ真相究明に重要であっても無視される、ということがよく伝わってきました。

なお、先日、私は警察の取り調べを受けた病院関係者と話す機会がありましたが、「相手は何もわかっていないみたいでした。『これを聞かなくて良いの?』というのもあったけれど、聞かれなかったから答えませんでした」とのことでした。

この事件は医療関係者にとって大きな意味をもっています。是非、多くの人に読んで貰いたいです。被告側弁護人であった著者に、印税という形で感謝の気持ちを伝えたいという思いもあります。

最後に、いくつかメモしておきたい文章。

・だが、警察の拘束、監視下に何日も置かれ、非日常のなかで思いもつかないことを聞かれ続けると、頭の中を引っかき回されるような状態になる。相手がどういう意図や目的で聞いているのか、自分に不利なのか有利なのか、判断する力が奪われていく。答えても、自分が何を語っているのか判然としなくなってくる。その状態に人を追い込むことこそ、それが「日本における取調べ」であり、強制捜査 (逮捕、勾留) の目的の一つなのである。こんな取調べは、まともな先進国では許されない。しかし、これが、日本の刑事司法の現実である。(P17~18)

・年間の出産件数 224件!1年365日のなかで 224件のお産なら、一人で毎日のようにお産を扱っていることになる。1年365日オンコール状態だ。人間わざではない。毎日毎日、生死を分けるお産の現場に、1人で立ってきた。これは限界を越えている。医師の人権がここでも踏みにじられていた。心のどこかでカチンと小さな音がした。 (略) 懲戒処分を知って、しぼんでいた気持ちの風船が怒りでまた、ふくらみだした。気がついた時、私は電話を手に取っていた。やるしかない。(p25~26)

・会えた、加藤医師だ。傍聴の人々からなんともいえない押し殺した悲鳴があがった。佐藤教授は、加藤医師をじっと見たまま、滂沱の涙が流れるままのゆがんだ顔。医局の医師はみな、声を殺しすすり泣いている。加藤医師が法廷に進んでくると、「頑張れ」「みんながついているぞ」と、傍聴席から低い声があがった。(略) 帰り際、裁判所の廊下で、佐藤教授が語りかけた。「加藤先生をつれていった看守が、先生の弁論にもらい泣きしていましたよ」「えーっ」私は驚いた。加藤医師を退廷させる時に、さりげなく拘束を緩めて、加藤医師が振り返ることを許したあの人だろうか。「あれだけ理路整然と言っても、まだ、わかってもらえないどころか、まったく反応しない。裁判所は最初から勾留を認める、って決めていたんでしょうけれどね。裁判とは怖いものだねぇ。私は今日、身にしみてわかりました」と佐藤教授は唇を噛み締め、下を向かれた。よほど悔しい思いなのだろう。(p108~112)

・この母親の死を無駄にしない方法は、裁判ではない。調査、検証による徹底した究明、それにもとづいた再発防止の徹底しかない。いつまで、「医師逮捕」に象徴される愚かしい制度を続けるんだ。怒りすら沸き起こってくる。(P239)

・私の担当医であった若い医師がある時、「逮捕されないためにはどうすればいいですか」と聞いてきた。その真剣な目つきに、返す言葉を失った。要するに業務上過失致死罪によって逮捕されないためには、どのような注意をし、対応したならばよいのかと言う質問だった。同じ業務上過失致死罪に問われる業務の一つで言えば、自動車などの運転業務であれば、逮捕されない方法は、弁護士に聞くまでもなく、ほぼ誰にでも明らかなのではないだろうか。(略) しかし、これが、医療現場における医療者の場合は、そのようなわかりやすい方法はない。何故ならば、大野病院判決が述べた通り「医療行為が身体に対する侵襲行為を伴うものである以上、患者の生命や身体に対する危険性があることは自明であるし、そもそも医療行為の結果を正確に予測することは困難である。過失なき医療行為をもってしても避けられなかった結果 (死) と言わざるを得ない」のである。にもかかわらず、大野病院事件では逮捕された。要するに逮捕される理由が見当たらない。言い換えれば、逮捕されない方法が見当たらない。単に、結果の責任を問われただけである。しかもその結果は、過失なき診療行為をもってもたらされた。(P269~270)

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DJキンさまの感染ラジオ!

By , 2016年9月14日 4:44 PM

DJキンさまの感染ラジオ! Season 1 感染・免疫・微生物編 (金井信一郎監修、リーダムハウス)」を献本いただきました。散りばめられたギャグの数々が面白くて、一気に通読してしまいました。

本書は細菌であるアシネトバクテロビブリオテウス・エンテロクレブシェリキア 3世がオネェ言葉で感染症についてラジオで語るという斬新な企画。感染とはなにか、免疫にはどのようなものがあるか、グラム染色が意味するものは・・・といった基本的なことから、わかりやすく解説してあります。グラム染色で何故青く染まるか、赤く染まるかが即答できない方、代表的な DNAウイルスや RNAウイルスが答えられない方は、この本を読んどいた方が良いんじゃないかしら~、あら~オネェ言葉が移っちゃったわ、あはは~のは~

新人ナースから、学生時代の知識が遠い過去になってしまったオジサン医師まで楽しめる、肩の凝らない感染対策入門書です。

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メキメキ上達する 頭痛のみかた

By , 2016年8月30日 4:00 PM

メキメキ上達する 頭痛のみかた (Elizabeth W. Loder / Rebecca C. Burch / Paul B. Rizzoli著, 金城光代/金城紀与史訳、メディカルサイエンスインターナショナル)」を献本頂きました。

この本は、国際頭痛分類第3版β版に準拠しています。従って、国際頭痛分類第3版β版でどのように頭痛が分類されているか知っていると読みやすいです。下記のサイトで、予め分類をざっと眺めておくと良いでしょう。

日本頭痛学会:国際頭痛分類第3版beta版日本語版

一般的な頭痛の入門書では、患者の多い一次頭痛 (緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛のような機能性頭痛) の内容が厚い反面、二次性頭痛 (多くは器質的疾患が原因の頭痛) の記載は少ない傾向にあります。一方で、救急の教科書ではくも膜下出血や髄膜炎を中心とした二次性頭痛についての記載は多いですが、どうしても緊急性の高い二次性頭痛が主体となってしまいます。本書は一次性頭痛はもちろんのこと、頭痛の入門書や救急の教科書であまり扱わないような二次性頭痛まで網羅的に扱っているので、頭痛診療の穴をなくす意味でとても役に立つと思います。私は届いた時にざっと目を通しましたが、もう一度精読したいと思っています。

初学者には少しハードルが高いかもしれませんが、「片頭痛の診断なら大体自信を持って出来る」というくらいのレベルの方にとてもお勧めの本です。

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沖縄美ら海水族館が日本一になった理由

By , 2016年7月21日 8:24 AM

沖縄美ら海水族館が日本一になった理由 (内田詮三著, 光文社新書)」を読み終えました。

著者がこれまで働いてきた水族館について、それらの経験を活かして美ら海水族館はどのように工夫されているか、水族館の意義はなにか、などの話がメインでしたが、私のツボを刺激する話が沢山載っていました。

まずは、イルカの治療の話。

治療には、抗菌剤や副腎皮質ステロイド剤なども使っていた。イルカの場合は、特に呼吸器系の疾患が多い。体温や血沈値の上昇、白血球値から感染症が明らかになると、自分たちで抗菌薬やステロイドを投与していた。だが、こうした薬剤は両刃の剣で、起因菌が分からないで闇雲に打つと、回復するどころか悪化させてしまうこともある。抗菌剤で広範囲の菌を叩いたら、今度は感受性のない緑膿菌感染が出てしまい、これを叩くのに苦労したこともあった。(p. 99)

抗菌薬のイタチごっこはいけない、そのためには起因菌を想定し、培養を提出して治療しないといけないというのは、ヒトもイルカも同じだなぁと思いました。そして、イタチごっこで問題となる菌も当然ながら人間の場合と同じですね。

次は、ヒトの病院と連携してイルカやマナティーを治療した話。

 また、イルカを県立北部病院のレントゲン室に運び込んで、X線写真を撮ってもらったこともあった。イルカは呼吸器系の病気にかかりやすく、血液検査でどうやら肺炎にかかっている様子だったが、水族館でははっきりとは分からなかったのだ。

当時、人間を診る大病院で水族館の飼育動物の検査・診断を行い、治療に協力してもらうなどということは、通常では考えられないことだった。それでも私たちの無理なお願いを受け入れてくださり、協力が得られたのは、南国・沖縄のおおらかさのおかげといえるかもしれない。

県立北部病院とは、その後も疾病治療などに関する指導をお願いしたり、ときには緊急に必要な薬品を貸していただいたり、病理検査を依頼するなど、いろいろな面でご協力いただいた。そのなかでも特に記憶に残っているのは、マナティーの疾病治療にお力をお借りしたときのことだ。

沖縄記念公園水族館にメキシコ大統領から日本に寄贈されたマナティー (アメリカマナティー) がやって来たのは、1978年のことだった。オスは「ユカタン」、メスは「メヒコ」と名付けられ、沖縄国際海洋博覧会でジュゴンを展示した水槽を改修して、飼育を開始した。「メヒコ」は 1996年に死亡 (推定年齢 25歳) するまで 4回出産している。

その 2回目の出産 (1998年) のときだ。残念ながら新生児はわずか 8時間ほどで死んでしまったが、このとき母獣も産後の肥立ちが悪く、体調不良が続いた。いろいろと検査を行った結果、細菌感染症が見つかり、子宮内膜炎を発症していることが推測された。水族館では子宮洗浄を行ったり、筋肉注射・静脈注射で抗菌剤を投与したものの、太い血管をうまくとらえることができず、薬剤が効果的に効かない状態だった。体温は上昇し、餌も全く食べることができず、このままでは「メヒコ」の命が危ないというところまできていた。

そんなとき、この話を聞きつけた県立北部病院の石島英郎院長が協力を申し出てくださった。

病院ではすぐに「マナティー治療チーム」が血清され、小児科医の小堂欣弥医師を中心に産婦人科・内科・外科の医師 4人に加えて検査技師 1人、看護師 2人という、これ以上ないと思えぬほどの強力な体制で検査や治療に当たっていただけることになった。

あらためて詳しい検査を行った結果、炎症を抑えるために薬剤の腹腔内投与を行うことがきまった。薬剤を速やかにかつ効果的に体内に投与するにはこの方法が最良との判断だった。マナティーの体内をエコーで確認しながら、慎重に針を刺して大量の抗菌剤が投与された。5日間の腹腔内投与による治療が行われた結果、「メヒコ」の病状は劇的に改善し、すぐに元気になった。(p. 101-103)

病院と水族館の連携なんて、読んでいてワクワクしますね。

ちなみに、私が鯨やイルカに興味を持つようになったのは、小川鼎三先生の本を読んでからです。以前にブログで紹介したことがあります。

鯨の話

小川鼎三先生の本には、次のような内容が書かれています。

小川鼎三先生は三津の水族館でシャチを生きたままで飼育しているのを聞きつけた。水族館を訪れると明らかにシャチではないので、看板を書きかえるように経営者に忠告した。しかし、日本名を問われ当惑して「トゥルシオップス」という学名のまま答えておいた。後日、小川鼎三先生はトゥルシオップスの和名を「ハンドウイルカ」とする考えを発表した。(鯨の研究)

なんと、同じエピソードが本書にも描かれているのです。以下引用します。

日本で初めてイルカが飼育されたのは、1930年、静岡・三津で開業した中之島水族館 (現在の伊豆・三津シーパラダイス) だった。

当時、入り江を網で仕切った生け簀型のプールでバンドウイルカ (ハンドウイルカ) が飼育されていた。ところが、当初この水族館の看板には「シャチ」と書かれていたらしい。シャチが飼育されていると聞いて、脳比較解剖学の大家であり、日本の鯨学のパイオニアである小川鼎三博士 (写真 4-1) が三津へ足を運び、これがバンドウイルカであることを確認した。ところが当時はまだ和名がなかったことから、看板をその属名 (学名) である「トルシオップス (Tursiops)」に書き直させたという逸話が残っている (7年後、小川博士は『本邦産歯鯨目録』において、これをハンドウイルカとして正式に発表した)。 (p. 121)

この逸話は、鯨学の業界では有名なんですね。

また、本書の著者と小川鼎三先生は実際に交流があったようです。

私が “水族館屋” としての人生を歩むきっかけをつくってくださったといってもよいくらい大きな刺激を受けた、日本のイルカ・クジラ研究の権威である東京大学・西脇昌治教授、鯨類研究所の木村秀雄博士、さらには鯨類比較解剖学の大家である東京大学・小川鼎三教授などは、まさにそうした水族館の素晴らしき理解者であった。 (p. 202-203)

日本の鯨学のパイオニアから、最先端の研究が行われている美ら海水族館まで、一本の線がつながったように感じました。。

本書を読んで、小川鼎三先生の「鯨の話」を読んだ時のことを思い出し、鯨 (イルカを含む) 熱が再燃しました。夏休みは、美ら海水族館に行こうと思っています。その他、鯨類の展示された水族館にもちょくちょく行ってみようと思います。

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極論で語る感染症内科

By , 2016年5月3日 10:05 AM

極論で語る感染症内科 (岩田健太郎著, 丸善出版)」を読み終えました。

「極論」とは言っても、第一版から青木本を読んで育ってきた我々世代にとっては、感染症診療の原則そのものが書いてあるなぁ・・・という印象でした。最終章の HIV/AIDSは少しマニアックな感じがしましたけれども。

神経内科医としては、髄膜炎の章は是非読んでおくべきでしょう。細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014ではカルバペネムが推奨されるシチュエーションが多いですが、私は基本的に、岩田健太郎先生が書いているのと同じように、第三世代セフェム+バンコマイシン±アンピシリンで治療しています。カルバペネムの温存と、肺炎球菌のカルバペネムへの耐性化が進んでいることが理由です。本書には、JANISのデータで、5%弱の肺炎球菌がカルバペネム耐性であること、髄液検体だと 10%以上は感性でないことなどが書かれており、そこまで耐性化が進んでいるのかと思いました。あと、細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014では、MICの縦読みがされていることを私は気にしているのですが、そのことへの言及はありませんでした。実際、どうなんでしょうね。感染症の専門家の意見が聞きたいです。

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気管支喘息バイブル

By , 2016年5月3日 9:42 AM

気管支喘息バイブル (倉原優著、日本医事新報社)」を読み終えました。

研修医時代は、天気の変わり目の当直といえば喘息発作が列をなしていて、ひたすら気管支拡張薬の吸入やステロイドの点滴を使っていた印象が強く残っていますが、近年ではそういう患者を見かけることもめっきり減りました。おそらく、吸入薬の進歩によるものでしょう。

吸入薬の進歩はめざましく、近年では様々な製剤が出ています。私はせいぜい ICS/LABAとしてアドエアくらいしか使ってこなかったのですが、ICSおよび ICS/LABAの使い分け、ステップアップやステップダウンの方法など、とても勉強になりました。

また、気管支喘息と ACOS (気管支喘息+COPD)、咳喘息、アトピー喘息の鑑別法もとても丁寧に書いてありました。気道過敏性と気道感受性の違いも、本書で初めて知りました。

クリニックなどで一般外来をしていると、「夜になると咳が止まらない」等の主訴でいらっしゃる喘息患者はたまにいらっしゃいます。そういう時に、本書はとても役立ちます。

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Dr.須藤の酸塩基平衡と水・電解質

By , 2016年4月19日 6:35 AM

Dr.須藤の酸塩基平衡と水・電解質 (須藤博, 中山書店)」を読み終えました。著者の須藤先生とは、米国内科学会日本支部総会で数度一緒に飲んだことがあります。

要点だけをまとめたコンパクトな本なのでポケットサイズになっていて、持ち歩くことも可能ですが、私はその中でも特に大事な部分を抜き出して、iPhoneのメモアプリに入れてあります。これまで輸液・電解質はあまり得意ではなかったのですが、本書を読んで知識がかなり整理されました。

前半は水と電解質の評価の話。高Na血症は Na過剰なのではなく水欠乏が本態である、とか、Na過剰でおきるのが浮腫である (浮腫の側からみると他にも鑑別はありますが・・・) など、病態の本質がクリアカットに解説されていました。それによって選択する輸液と量が決まってきます。

後半は酸塩基平衡の話。予想 PCO2で、winters formula, magic numberなどの式は初めて聞きました。

巻末に症例問題が付いています。”pH 7.45, PCO2 40, PaO2 100, HCO3- 25, Na 145, K 4.0, Cl 100″ を見て、「非常に重症」と思えない人は、是非本書で勉強しておいた方が良いと思います (解答は本書 p153)。

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医師もMRも幸せにする患者のための情報吟味

By , 2016年4月6日 8:54 AM

医師もMRも幸せにする患者のための情報吟味 ディオバン事件以降の臨床研究リテラシー (山崎力, SCICUS)」を読み終えました。

「”spin (ねじ曲げられた報告)” をどう見ぬくか、読み解くか」「製薬会社とのつきあい方」などがテーマです。過去に山崎先生の本を読んで面白かったことや、彼の講演に感銘を受けたことがあり購入しました。素晴らしい本でした。

まず、本書ではさまざまな実例を使い、spinの見破り方をわかりやすく解説しています。これは、論文や MRからの情報提供をきちんと精査し、患者さんに最大限の利益をもたらすために知っておくべき知識だと思います。

後半は、製薬会社とのつきあい方についてです。大規模臨床研究には膨大な資金が必要ですが、日本では製薬会社以外から資金援助を受けることがほとんどできません。そのため、製薬会社といかに協力して研究を進めていくかが大事になってきます。本書には、win-winの関係を築き、研究結果の中立性を保つためのノウハウが書いてあります。

巻末は対談です。特に問題と感じたのが、データ入力のエラー率についてです。なんと、単純な手入力で 1万回打ち込めば平均 960回 (9.6%) 間違うというデータがあるそうです。研究の精度を高めるために、エラーを減らすいくつかの方法が紹介されています。年金記録で行われているのはおそらくシングルエントリーで、ある研究によると 1万回入力すると平均 26回間違うとのことでした。年金記録の管理は、この点からも難しい問題なのだと思いました。

最後に、本書とは関係ありませんが、”Association of American Medical Colleges (AAMC)” が作成した、医療関連企業による医学教育への資金提供に関する文章の日本語訳を付記しておきます。「この翻訳プロジェクトは、一般臨床、医学教育の場における利益相反の議論を、今後、我が国で広く展開していくための参考資料とすることを目的としている」そうです。

“医療関連企業による医学教育への資金提供 AAMC作業部会の報告書” 

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この失神、どう診るか

By , 2016年3月26日 1:32 PM

神経内科では、失神患者をしばしば診療します。「てんかん疑い」という病名で紹介されることが多いです (失神患者を診るたびに「TIA疑い」と紹介して来る医師もたまにいますが、「意識消失のみ」の TIAはないと言えるくらい稀です)。しかし、失神の原因は血管迷走神経性と起立性が併せて約 3割で、心原性が約 1割、てんかんは 5%程度といわれています。また、予後が最も悪いのは心原性です。てんかんは頻度がそれほど高くなく、初回発作では治療適応とならないことが多い (※ただし状況による) ことを考えると、失神は循環器科的な対応が最も求められるといえます。実際、失神のガイドラインは循環器学会などが主体となって出しています。失神患者が紹介されたとき、私は神経内科医であっても脳波検査より Holter心電図の方がオーダー件数が多いです。

ところが、失神を多数紹介される神経内科医は、心原性の失神についてトレーニングを受ける機会がないのが現状です。私もしっかりとしたトレーニングを受けないまま、なんとなく診療してきました。「失神患者の初期対応は循環器科が行う」としている施設もありますが、少数派だと思います。そうすると、治療が必要性が高い心原性の失神を見逃してしまうリスクがありますね。

最近非常に勉強になる本に出会いました。

この失神、どう診るか?

循環器科医の目線から、失神の原因、治療についてわかりやすく解説しています。私はこの本を読んで、失神診療における植え込み型ループ式心電図計 (implantable loop recorder: ILR) の有用性を初めて知りました。普段失神患者の診療をする機会の多い神経内科医は、必読の本だと思います。

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解体新書展

By , 2016年3月24日 10:53 PM

2016年3月20日秋田県での当直を終えて、そのまま東京に向かい、東京文庫ミュージアムで解体新書展を見てきました。

解体新書展

解体新書はマイブームです。それは、最近岩田誠先生のコラムを読んだからです。

・骨ケ原刑場跡と観臓記念碑

・杉田玄白の足跡

これらのコラムを読んで、いくつかの本を買って読みました。なかでも感銘を受けたのは小川鼎三が著された「解体新書 蘭学をおこした人々」です。小川鼎三先生は、ターフェルアナトミアの原著と杉田玄白らの「解体新書」の読み比べをしているんですね。例えば、下記のようなことは、読み比べをして初めてわかるものです。

蘭学事始にはその次に鼻がフルヘッヘンドしているという文にぶつかり、皆がたいへん苦労してフルヘッヘンドの意味をつかもうとしたことが載っている。良沢が長崎で入手してきた簡略な小冊子を参考にして、やっとその訳をウズタカシ(堆)ときめた。その着想を玄白が言いだして皆がそれに賛成した。「その時の嬉しさは、何にたとへんかたもなく、連城の玉をも得し心地せり」と玄白は述懐している。

むつかしい語を解いたときの愉快は大きかったであろう。ただ今日ターヘル・アナトミアの鼻のところをみても、フルヘッヘンドとかいう語 (verheffendeか) がない。「突出している」の意味では vooruitsteekendの語がそこでは用いられている。あるいは玄白の記憶ちがいかと思う。なにしろ蘭学事始を書いたときの元伯は八十三歳で、四十年あまり前の思い出を述べているのだからまちがいも起るだろう。

小川鼎三先生の著書では、解体新書の扉絵がどこに由来するか調べていたり、解体新書の翻訳に関わった人たちのその後について詳細に述べていたり、その研究の深さに驚かされます。

さて、今回の解体新書展、解体新書についての展示はそれほど多くありませんでしたが、古事記から解体新書前後までの日本の医学史を俯瞰することができ、とても勉強になりました。展示は 4月10日までですので、興味のある方はお早めにどうぞ。ちなみに、向かいの六義園は桜が咲き始めでした。今週末あたりは花見が楽しめるのではないでしょうか。

(追記)

2014年12月28日、「形影夜話」が入手できないかと書きましたが、入手することができました。「日本の名著22」に杉田玄白の書いた「蘭学事始」「後見草」「野叟独語」「犬解嘲笑」「形影夜話」「玉味噌」「耄耋独語」などが収載されています。

(参考)

津山洋学

医学用語の起り

医は忍術 (違

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