Category: 医学/医療

脳の歴史

By , 2012年4月25日 8:24 AM

Neurology という blogで紹介されていた「脳の歴史」を読み終えました。

脳の歴史 ―脳はどのように視覚化されてきたか―

古典的な研究、最先端の技法が豊富な写真で紹介されており、眺めて楽しい本でした。解説の文章もコンパクトで非常に読みやすかったです。脳研究の基礎知識がなくても読むことの出来るお勧めの本です。

Post to Twitter


秋田

By , 2012年4月8日 3:14 PM

4月2~7日、秋田県の医師不足の病院で勤務してきました。総合病院の病棟内科医がゼロになってしまい、応援の医師が勤務するまでのつなぎとして、院長から頼まれて行ってきました。

いなくなった内科医の穴をどう埋めるか、診療態勢が定まらぬ中だったので、思わぬ暇が出来たりして、読書の時間がもてたのは収穫でした。読んだ本をいくつか紹介したいと思います。

ドクター夏井の外傷治療「裏」マニュアル―すぐに役立つHints&Tips

ここ 10年くらいで、外傷治療の常識が覆されています。外傷での消毒は意味がなく、組織を傷害するだけで却って有害であることが明らかになりました。秋田では内科外科問わず全科の患者さんの対応をしなければいけないので、こうした外科系の最新の知識も必須であると思い読みましたが、眼から鱗でした。

ドクター夏井の熱傷治療裏マニュアル―すぐに役立つHints&Tips

熱傷の治療も、外傷治療同様、近年大きく変わってきています。以前は消毒をして乾燥させて・・・でしたが、最近では全く逆であることが常識になりつつあります。熱傷創にはサイトカインや組織栄養因子が存在し、それを乾かすのは培養細胞の入った培地を乾燥させるのに等しいそうです。湿潤を保ち皮膚の再生を促すことが治療への最善で、さらに消毒は有害 (菌を殺す効果がほとんどなく、組織を傷害する結果に終わる) であるというのは、知らないと患者さんに不利益を与えることになりますね。学生時代に習ったことと常識が 180度変わってしまっているのを感じながら読みました。

帰してはいけない外来患者

救急をやっていると、「地雷」と呼ばれる症例にぶつかることがあります。例えば「喉が痛い」と来院した患者が心筋梗塞だった・・・など、通常の診断アルゴリズムでは予期できない疾患に遭遇するものです。もちろんほとんどの患者さんではこういうことがないのが、「地雷」たる所以で、全く意外なタイミングで、意外な疾患が隠れていたりします。それを見抜く目を養うのが本書の狙いです。第一章:外来で使える general rule、第二章:症候別 general rule、第三章:ケースブックとなっています。ケースブックではいくつかのケースで「これは見逃しそうだなぁ・・・」などと思いながら読みました。救急に従事する医師は一度眼を通しておいた方がよいかもしれません。

ダ・ヴィンチのカルテ―Snap Diagnosisを鍛える99症例

Snap Diagnosisとは、「知っていれば一目」の診断ですが、知らないと正しい診断に辿り着くまでひどい遠回りになります。臨床の場での実践的な知識が身に付きますので、読んでおいて損のない本です。

3分間 神経診察法 ―最も簡単で効率のよい考え方・進め方

3分間で読了しました。学生の知識の整理に丁度良いですが、臨床の場ではあまり実践的ではないかもしれません。

手軽にとれる神経所見―カラーイラスト図解

薄い本ですが、かなり実践的な本です。研修医、救急医、プライマリ・ケア医などにオススメ出来ると思いました。

秋田では、上記の本を読んだほか、論文もいくつか読みました。機会があれば紹介したいと思います。

今回は早めに秋田入りしたので、4月1日に乗馬クラブに行くことが出来ました。乗馬クラブの名前は「エクセラ」です。非常に親切にして頂いたので、また行きたいと思いました。今回は巻乗り、半巻乗り、脚の使い方、尻鞭、馬装具の外し方・・・などを学びました。

Post to Twitter


細胞夜話

By , 2011年11月23日 12:13 PM

「細胞夜話 (藤元宏和著、mag2libro)」を読み終えました。培養細胞の開発秘話、名前の由来、研究のこぼれ話など、非常に興味深かったです。

この本は、GEヘルスケアジャパンのバイオダイレクトメールに記されていた内容をまとめたものです。私は本の方が読みやすいので本で読みましたが、同じ内容が webでも公開されています。

細胞夜話 バックナンバー

専門的な知識をそれほど必要としない読み物です。興味のあるかたは上記リンクからどうぞ。

Post to Twitter


不死細胞ヒーラ

By , 2011年11月8日 9:55 PM

「不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックス」の永遠なる人生 (レベッカ・スクルート著、中里京子訳、講談社)」を読み終えました。

Continue reading '不死細胞ヒーラ'»

Post to Twitter


石巻赤十字病院、気仙沼市立病院、東北大学病院が救った命

By , 2011年9月4日 5:48 PM

「石巻赤十字病院、気仙沼市立病院、東北大学病院が救った命 (久志本茂樹監修、アスペクト)」を読み終えました。ボランティアで本吉、渡波を訪れたときのことを思い出しながら、胸を熱くして読みました。各病院の震災直後の様子に一つずつ章を立ててあり、「崩壊した医療システムを、どうやって機能させたのか」を独立した章として扱っていました。

 最終章、「”そのとき”を知らない人へ、”そのとき”を知る人からの言葉」には、地震直後を乗り切り震災後半年が近づく中、大切なことが記されていました。

 復興とは遠い現実を、知ってほしい

こういう状況で、しかも存在すら忘れられたとなると、自暴自棄になりかねない。私がもっとも心配しているのは、これから自殺者が増えるのではないかということです。心のサポートは、精神科や心療内科の先生がしていますが、単純に精神を病んでいるのではないのです。仕事さえあれば彼らは立ち直れる。そのためには、まだまだ復興段階に入っていないこと、仕事がないということが、どれだけ被災者を苦しめているかということを伝えてほしい。そして、仕事を宮城県に持ってきてほしい。医師である私にはそこまではできない。ただこのままでは、本当に、せっかく助かった命なのに・・・

あとがきには、「私の街には、気仙沼市立病院の成田先生も、石巻赤十字病院の石井先生、小林先生、石橋先生も、また久志本先生もいません。でも、みなさんの経験を記録として残すことで、それを学んだ各地の医師が、先生たちと同じようになってくれるんですね」とあります。震災直後の現地を僕らは知らないし、医療現場でどのようなことが起きていたかも知りません。しかし、本書などでその時のことを知り、個々の医療従事者が起こりうることを想定しておくことで、次にこのような災害が起きたときに被害を最低限にくいとめることができるのではないかと思います。

Post to Twitter


遺伝子工学の基礎

By , 2011年2月1日 7:50 AM

遺伝子工学の基礎 (野島博著、東京化学同人)」を読み終えました。

大学 1年生の時に授業使うため買った本ですが、当時は「医者になったら臨床しかやらないからいいや」と思って本棚に眠らせていました。まさか、15年も経って読むことになるとは思いませんでした。

読んでみると内容は凄く面白かったです。今行っている実験の意味が本を読んで初めて理解出来る部分がありました。予備知識がないと難解な部分もありましたが、その辺はググると解決できました。便利な世の中になったものです。

特に興味深かったのが、グルタミン酸の RNA編集。1996年のこの教科書に「脳のグルタミン酸受容体 (GluR) の一種である非 NMDA受容体とよばれるものの構成サブユニットは AMPA選択性の 4種類 (GluR1~4) とカイニン酸選択性の二つのサブユニット (Glu5, 6) が知られている。約 900アミノ酸残基からなるこれらサブユニットは四つの膜貫通領域 (TMI~IV) をもつが、その TMII領域で遺伝上はグルタミンのコドン (CAG) しか見当たらないのに、GluR2や GluR5, 6でアルギニン (CGG) に変化しているものが見つかった。転写後に A→Gなる RNA編集が起こったと解釈されている」と書いてあります。ALSでのグルタミン酸 RNA編集異常が報告される 8年前の教科書で このように RNA編集が注目されていて、面白いと思いました。

Post to Twitter


ペニシリンはクシャミが生んだ大発見

By , 2011年1月22日 10:58 AM

「ペニシリンはクシャミが生んだ大発見 (百島祐貴著、平凡社)」を読み終えました。百島先生は神経放射線を専門としており、私も学生時代、教科書を読んだことがあります。まさか医史学に精通された方とは知りませんでした。

本書は非常に読みやすく書かれていますが、医学の広い分野を扱っており、私が知らなかったことばかり。楽しませて頂きました。備忘録をかねて、特に面白かった部分を抜粋して紹介します。ここに記したのは極一部ですので、興味を持った方は是非本書を買って読んでみてください。

Continue reading 'ペニシリンはクシャミが生んだ大発見'»

Post to Twitter


眼に効く眼の話

By , 2011年1月4日 8:05 AM

「歴史の中の「眼」を診る 眼に効く眼の話(安達惠美子著、小学館)」を読み終えました。

マイナー科(内科や外科以外の科は業界でそう呼ばれることがあります)の本ですと、「人の魂は皮膚にあるのか(小野友道著,主婦の友社)」なんていう本を紹介したことがありましたが、専門分野を離れて読む本はなかなか楽しいものです。

本書は一般人が読んでもわかりやすく書いてあります。特に個人的に興味を持った部分をいくつか紹介します。

・わが国に眼鏡が伝来したのは1549年で、かのフランシスコ・ザビエルが周防の大名の大内義隆に送った老眼鏡と言われている。

・徳川家康の眼鏡の度や寸法を実測して、「日本眼科学会雑誌」を創刊した大西克知氏が報告した。レンズの度は大きい眼鏡が 1.5 D, 小さい眼鏡が 2.0Dの凸レンズであった。両方とも老眼鏡と思われる。

・キュリー夫人は放射線を浴びて白内障になって、4度も手術を受けた。治療はモラックス博士とプチ博士が行ったが、モラックス博士は眼科のクロード・モネの白内障の診断もしている。

・ドン・ペリニョンは盲目の修道僧であった。ローマ時代に忘れられていたコルク栓を復活させたことで、シャンパンの二次発酵を可能にし、天然の発泡酒という銘酒を生み出した。

・ホルス神は古代エジプトの天空神で、頭が鷹、体が人、右眼が太陽、左眼が月を表している。ホルスが眼病で見えなくなったところをトート神に癒され治癒した伝承がある。ホルスは眼の守護神とされている。ホルスの眼の形はアルファベットのRと似ており、薬の処方のときに使われる Recipe (Rp) の語源につながっている。

・メリメ作カルメンの主人公は斜視だった。しかし、ビゼーのオペラでは触れられていない。

・ジェームス・ジョイスは緑内障のような症状で、計11回も手術を受けた。一説によると、かの有名なアルフレッド・フォークトを頼っている。

・クロード・モネは白内障を患っていた。晩年の色遣いに白内障の影響が表れている。フランスの首相クレマンソーの勧めで右眼の手術を受けると、黄色っぽく見えていた風景が青色っぽく見え、片眼ずつの異なった見え方を「バラ園からみた家」に表現した。

・バッハの失明原因について。手術をしているので、白内障の可能性がある。また、糖尿病ではないかと推測されていて、網膜症の可能性もある。更に脳卒中で亡くなったことを考えると、基礎疾患に高血圧があって、高血圧眼底だった可能性もある。

・フロイトは、彼女の愛を得るために研究に励んでいた。そしてコカインにモルヒネ中毒の禁断症状を止める作用があることを発見した。しかし、同年、同じ病院のコラーがコカインの鎮痛作用に注目して白内障手術に用いた。フロイトはコカインの麻酔作用に気付かなかったことに意気消沈し、精神病理学者としての研究を積むことにした。

・第九の歌詞で有名なシラーには「ヴィルヘルム・テル」という代表作がある。その中に「眼の光」の尊さをうたった一節があり、この句がアルブレヒト・フォン・グレーフェの記念碑に刻まれている。

・検眼鏡を開発したのは、ドイツの生理学者、物理学者のヘルムホルツである。ヘルムホルツは、以前紹介したヘルツの師。

Post to Twitter


医学の小景

By , 2010年12月11日 9:10 AM

「医学の小景 (小川鼎三、勝木保次、本川弘一著、学生出版)」を読み終えました。科学随筆文庫の一冊です。

Continue reading '医学の小景'»

Post to Twitter


街を歩く神経心理学

By , 2010年10月9日 8:35 AM

「街を歩く神経心理学 (高橋伸佳著、医学書院)」を読み終えました。神経心理学コレクションの中の一冊です。

本書では、地理的障害について詳細な検討を行っています。まず概論を述べた後に、脳血管障害などでの脳損傷症例、次いで functional MRIなど機能画像検査を通して、機能局在その他を明らかにします。高次脳機能の領域では、オーソドックスな検討の仕方ですが、その実際のプロセスを興味深く読ませて頂きました。

地理的失認の分類法はいくつかありますが、本書は「街並失認」「道順障害」に分けます。

①街並失認
街並失認は、熟知した街並 (建物・風景) の同定障害です。右紡錘状回前部~舌状回が責任病巣と考えられています。また、新規の街並の記憶には海馬傍回後部が関与しているようです。この部位が傷されると記銘の障害によって新規の場所での街並失認が起こるかも知れません。
街並の記憶は右側頭葉前下部に蓄えられ、視覚情報と記憶の照合は右側頭極で行われるのではないかと推測されています。
相貌失認の責任病巣は紡錘状回後部~舌状回にかけてで、街並失認の病巣のやや後方ですが隣接しているので、両者は合併することがあります。
街並失認の原因は、後大脳動脈領域の脳梗塞が多く、障害は半年~数年続くことが多いようです。

②道順障害
道順障害は熟知した地域内の2地点間の方角定位障害で、視空間失認の一型です。
責任病巣は主として右側の脳梁膨大後皮質 (Brodmann 29, 30野)、後帯状皮質 (Brodmann 23, 31野) 後部、楔前部下部にあり、新規の場所での道順障害の出現では帯状回峡部の役割が重要であるそうです。道順の記憶がどこに蓄えられるかは、コンセンサスが得られていません。著者らは、海馬を含む頭頂葉内側部は新たな記憶の形成には関与するが遠隔記憶の再生には重要ではなく、頭頂葉内側部が重要なのではないかと考えているようです。
線維連絡の考察からは、脳梁膨大後皮質は記憶そのものに関係し、後帯状皮質は認知された視空間情報を記憶に結びつける処理に関係しているのではないかと推測されています。
道順失認の原因は、脳梗塞、脳出血が多いようです。障害の持続期間は街並失認と比べて短く、数ヶ月~半年くらいが多く、病巣が両側性だと症状は持続性です。

脳梗塞などで地理的障害が生じるのは圧倒的に男性が多いのですが、男性では女性に比べてこの能力が発達しているため、脳のある部分に機能を集中して効率良く処理させている可能性があります。そのため、その部位の損傷で障害が生じるようになるのかもしれません。

本書には「アルツハイマー病患者はなぜ道に迷うのか 」(道順失認の要素が大きい) や「ロンドンのタクシードライバー」といった面白いコラムもあります。興味を持った方は是非読んでみて下さい。方向音痴への対策としては「交差点など方向を決めるポイントとなる場所にあるランドマークに注目し、それと進むべき方角と結びつけて記憶すること」が有効であるなど、実生活で役に立つ話も書いてあります。

Post to Twitter


Panorama Theme by Themocracy