Category: 将棋

コンピュータ VS プロ棋士

By , 2011年2月15日 7:51 AM

「コンピュータ VS プロ棋士 名人に勝つ日はいつか (岡嶋裕史著、PHP新書)」を読み終えました。

本書は渡辺竜王と将棋ソフト「ボナンザ」の対局風景から始まります。コンピューターが強さを発揮する筈の終盤で竜王に読み負け、89手目に勝ち手順 (正着は▲2七香、以後△2六金▲同香△2七歩▲3八金打△2八歩成▲同馬の展開が予想される) を逃して負けたシーンです。一応、棋譜へのリンクを貼っておきます。

棋譜「渡辺明竜王対 Bonanza」

この勝負は、コンピュータが苦手とする序中盤で竜王と互角に渡うという成果を見せた一方で、得意とする終盤でコンピュータが読み負けたという、予想を裏切る対局でした。ちなみに、将棋世界 2011年 3月号 165ページによると、最終盤に竜王が指した△3九龍 (96手目) の妙手を、あれから 4年進化したコンピュータソフトでもまだ見つけることが出来ないそうです。まだ人間もそう簡単にはソフトに土俵を割る状況にないようです。

第2章は「ディープブルーが勝利した日」です。様々なボードゲームをコンピューターで解析する試みが行われていますが、「人間のチャンピオンに勝つ」のと「ゲームを完全に解明する」のは違います。「ゲームを完全に解明する」というのは、全ての指し手の分岐を明らかにすることで、必勝法を知ることです。ちなみに、6×6マスのオセロでは後手勝ち (それより大きな盤では未解明)、チェッカーでは引き分けになることが解明されているそうです。

1997年 5月にチェスのチャンピオンであるカスパロフにコンピューター「ディープブルー」が 2勝 1敗 3引き分けで勝利しましたが、チェスにおいてもまだ「完全解明」は行われていません。このカスパロフとディープブルーの対戦にも後日談があり、IBMが対決直後にディープブルーを解体して再戦できなくしてしまったり、対局には人間が干渉する余地もあったことにカスパロフ自身が、疑問を呈していたそうです。それでも、カスパロフが負けたから人間がコンピューターにチェスで勝てなくなった事実はなく、あれから10年以上経っても人間とコンピューター両者の実力は拮抗しているようです。

その後、チェスでは、アドバンスド・チェスという、人間がコンピューターを使って対戦する楽しみ方が生まれました。コンピューターと人間がお互いに補う戦い方で、面白いことに、「アマチュア+パソコン」のペアが「グランドマスター+パソコン」を破ることもあるのだそうです。ソフトにも人間が補うべき弱点があり、それに精通することが非常に大事なのですね。

第 3章は「将棋ソフトが進歩してきた道」です。弱くて変な手ばかり指す時代から、どうやって進化してきたかが述べられています。初期のソフトでは強くするためのノウハウがわからず、色々試行錯誤が行われていました。爆笑したのが、「格言通りに指させる」というプログラムです。「玉飛接近するべからず」を守って、飛車を 1八に、玉を 9一に囲おうとして、飛車を 1筋に置いたまま玉が 8六に出たところを無惨に詰まされたソフトがあったそうです。その局面の図が本書に載っており、見た瞬間爆笑してしまいました。続く第 4章、第 5章では、強くするための技術的方法が述べられています。

第 6章では、清水市代女流王将と「あから 2010」の対局が扱われていました。実際の棋譜を振り返りながら、局面の解説をしています。さらに、その局面でのコンピューターの評価、どのような経緯を経てその指し手を選択したかについても詳しい解説をしています。棋譜からはわからないことを知ることが出来て非常に興味深かったです。

第 7章は「名人に勝つ日」です。コンピュータ将棋の課題、今後期待される方法などが述べられています。

本書はコンピュータ将棋の歴史や現状を俯瞰するのに適した本で、将棋好きの方には是非お勧めです。

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棋士と扇子

By , 2011年1月25日 6:06 AM

「棋士と扇子 (山田史夫著、里文出版)」を読み終えました。棋士の揮毫した扇子を集めた写真集です。座右の銘として持っておきたい格好良い言葉がたくさん揮毫されています。

この本について、とても面白く纏めたサイトがありますので紹介しておきます。デビューしたての頃の下手な字とか、「感性」という字の揮毫など、爆笑すること請け合いですので、是非ごらんください。

棋士たちの「とめはね!」

また、揮毫された語の一覧を紹介したサイトもあります。

「棋士と扇子」 収録揮毫一覧(棋士名アイウエオ順)

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どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?

By , 2010年12月12日 4:38 PM

「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか? (梅田望夫著、中央公論社)」を読み終えました。羽生名人の最近の将棋の観戦記と、対局者へのインタビューを綴った本です。この本、巷では「どう羽生」と呼ばれているそうです (^^)

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将棋と脳科学

By , 2010年7月18日 8:57 PM

「将棋と脳科学 (NPO法人 脳の世紀推進会議編, クバプロ)」を読み終えました。2009年 9月 30日に行われた第17回「脳の世紀」シンポジウムでの公演を収録した本です。

最初は羽生善治名人による「脳の可能性」という特別講演。定跡がデータベース化されていく中どのようにデータを扱うかや、現代将棋の特徴などについて、長考しているときの心理状態についてなどをわかりやすく講演しました。

棋士が一手に数時間長考しているとき、何を考えているかに興味がありますが、実は選択肢が選べなくて迷っている場合も多いらしく、羽生名人は「ここはこのように進めようって割り切れるときが、非常に調子のよいときになります」と述べられていました。

また目隠し将棋にも触れています。私も先日研修医と目隠し将棋をして何とか勝ちましたが、頭の中だけで一局駒を動かすのはなかなか大変な作業です。羽生名人は盤面を頭の中で4分割して覚えると話していましたが、私が指したときにも無意識のうちにそうしていました。ただ、私の場合、4分割した盤を統合しようとしても一つにくっつかないんですよね。佐藤康光九段はいっぺんに3人とか5人と目隠し対局出来るそうで、びっくりしました。

次の講演は中谷裕教氏の「将棋棋士の直感を脳活動から探る」でした。中谷氏は私が理化学研究所を訪れたとき話し込んだ研究者です。そのときの様子をブログ記事に書いたことがあります。今回の講演では、思考の小脳仮説について述べられていました。運動のモデルが小脳に蓄えられているとする考え方はかなり確立したものです。運動では手や足を動かしますが、思考ではイメージや概念を操作します。両者は学習効果や「何かを操作する」という点など共通する点が多いので、思考も運動と同じように小脳で扱われるのではないかというのが小脳仮説です。そこで直感について考えてみると、直感は「熟練者が無意識で自動的に、なおかつ素早く正確に」考えられた結果ですので、小脳が大きく関与しているのではないかと考えられます。中谷氏らの講演は、プロ棋士に脳波や fMRIを用いて行った実験などがふんだんに織り込まれていてとても面白いので、是非本書を読んでみてください。

近山隆氏はコンピューター将棋について講演をしました。人間は直感的に次に指す手、ないし数手先の局面を思いつき、それを検証していきますが、コンピューターには直感という方法がとれません。ルールで許される手を全て検証していくしかないのですが、一局最後までルール上可能な手を全部挙げると、全宇宙の素粒子数を上回るほどの可能性があるとも言われるくらいで、全部を検討するのは現実的には不可能です。そこで絞り込みが行われます。ミニ・マックス探索とか静的評価関数などといった方法がとられるのですが、こうした技法について初めて読んだのでとても新鮮でした。

笠井清登氏は統合失調症の脳病態について講演されました。将棋には直接関係ありませんでしたが、光トポグラフィーなど最近のトピックスを勉強することができました。

最後の講演は鍋倉淳一氏の「発達期の神経回路の再編成」でした。未熟期や脳損傷後の脳では大雑把な神経支配しかされていないので、大きな動きしかすることができません。例えば、赤ちゃんはチョキができないそうです。しかし、成長、あるいは神経損傷の回復に伴い余剰シナプスを除去することで、より選択制の高い運動ができるようになります。

GABAは神経細胞に対して通常抑制的に働きます。すなわちGABAによって Clチャネルが開くと、細胞内に Clが流入してきて細胞電位が下がるのです。しかし、未熟期では細胞内の Cl濃度の方が高いため、GABAによって Clチャネルが開くと細胞内から Clが流出し、細胞内電位は高くなります。すなわち GABAが興奮性に働くのです。これは非常に面白い現象だと思いました。脳損傷後の脳も、未熟期の脳と同じように GABAの抑制作用が減弱しているそうで、しばらくして徐々に GABAのはたらきが回復してくるそうです。未熟期からの脳の発達と、神経損傷の回復の共通点が見られて興味深いですね。

まだまだ面白い話はたくさんあるのですが、紹介しきれないので簡単に概要を紹介するに留めました。脳科学や将棋に興味がある方は是非読んでみてください。

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将棋を用いた脳研究

By , 2010年1月29日 6:53 AM

日本将棋連盟のサイトにリンクがあり、理化学研究所で行われている将棋思考プロセス研究の被験者に応募してみました。

将棋を用いた脳研究:脳研究協力棋士 募集

2週間前に Web応募して以降、まだ連絡はないのですが、将棋にも脳科学にも興味があるので是非研究に協力したいと思っています。興味有る方は、応募してみてください。

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シリコンバレーから将棋を観る

By , 2009年12月31日 9:58 AM

「シリコンバレーから将棋を観る 羽生善治と現代将棋 (梅田望夫著、中央公論新社)」を読み終えました。

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棋士羽生善治

By , 2009年7月7日 7:18 AM

「棋士羽生善治(弦巻勝、双葉社)」を読みました。写真集なので眺めたという方が適切かもしれませんが、対談や寄稿など文字情報が非常に多く、「読んだ」という印象です。

巻頭の辞は米長邦雄氏。現将棋連盟会長ですが、羽生善治氏と「人生、惚れてこそ」という対談集を出版されたことがあります。その対談集では、「羽生善治氏をお手本にして49歳で名人位を取ること事が出来た」と米長氏が述べていたのを読んだ記憶があります。

渡辺淳一氏との異質の対談も収載されていて、何故か「性」をテーマに深い話をされています。

梅田望夫氏は本書に「現代版・考える人」というタイトルで寄稿しています。氏は「ウェブ進化論」という本が有名ですが、将棋のタイトル戦(竜王戦)などでの観戦記には、高い評価があります。

最後は団鬼六氏による将棋随筆。団鬼六氏は官能小説で有名な方のようですが、将棋にも造詣が深く、六段の腕前を持っています。「真剣師 小池重明」という将棋小説を書いていますが、「今回を最後に、将棋については書かない」と宣言しました。

そんな彼の文章で、笑ったのが団氏が羽生善治名人につけてもらった指導対局の逸話。上手く負けてもらったそうですが、升田幸三氏だとそうはいかない。升田氏との指導対局(飛車落ち)について書かれています。

 名人今昔

これが升田式講評だと私は将棋雑誌に発表したことがある。

団「どうも最近、私も年の故か、ミスが多いんです。どこが悪かったんでしょう」

升田「いや、序盤はあんたの方が絶対的優勢じゃった」

団「へえぇ、どの辺りですか」

升田「駒を並べた所ですな。あんたには飛車があるのにワシの方には飛車がない。すでに飛車損になっておる」

団「?」

升田「ワッハハハ」

団「敗因はどこらあたりですか」

升田「あんたが駒を動かしたのが敗因ということになります」

団「?」

小児期から現在までの羽生善治名人の「進化」の過程が写真で楽しめますし、掲載されている文章も読み応えがありますので、是非読んでみてください。

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勝ち続ける力

By , 2009年6月15日 7:53 AM

「勝ち続ける力(羽生善治+柳瀬尚紀、新潮社)」を読み終えました。羽生善治と柳瀬尚紀氏の対談をまとめた本です。柳瀬氏は難解で知られるジョイスの翻訳で有名です。

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第67期名人戦第1局

By , 2009年4月11日 7:06 AM

名人戦で珍事がありました。

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イメージと読みの将棋観

By , 2009年1月11日 12:02 PM

「イメージと読みの将棋観(鈴木宏彦著、日本将棋連盟)」を読み終えました。

この本は、「羽生善治、谷川浩司、渡辺明、佐藤康光、森内俊之、藤井猛」という6名のトッププロが、ある局面を分析し、自分なりの応手や先手勝利確率を述べる内容となっています。プロ共通の認識というのははっきりとありますが、棋士によって有利不利の判断が分かれたり、候補にあげる最善手が異なったり、個性を感じて非常に面白かったです。それぞれのトッププロが判断した根拠も詳しく書いてあります。

過去の名局から出題したものが多かったのですが、漠然とした質問として「初手の戦略は」「2手目△3二飛の奇手」「2手目6二銀は通用するか?」などもあり、飽きさせませんでした。江戸時代の棋譜から次の一手を出題したものもありました。

また、2日制の勝負のとき、1日目の最後に行う「封じ手」についての質問では、羽生善治氏「どちらでもいい」、森内俊之氏「相手にしてもらった方が気楽」、佐藤康光氏「自分で封じちゃったほうがすっきりする」、谷川浩司氏「してもらった方が楽」、渡辺明氏「選択肢が多い局面では自分で封じようとする」、藤井猛氏「基本的に封じる方が有利です」とかなり意見が分かれました。こうした質問を複数のトッププロをぶつけたのは初めての試みかも知れません。

定跡を覚えるための本ではありませんが、ある局面においてプロがどのようなプロセスを経て考えているか、どのような候補手を挙げて選択しているかなど、非常に興味深く読みました。

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