4月2~7日、秋田県の医師不足の病院で勤務してきました。総合病院の病棟内科医がゼロになってしまい、応援の医師が勤務するまでのつなぎとして、院長から頼まれて行ってきました。
いなくなった内科医の穴をどう埋めるか、診療態勢が定まらぬ中だったので、思わぬ暇が出来たりして、読書の時間がもてたのは収穫でした。読んだ本をいくつか紹介したいと思います。
・ドクター夏井の外傷治療「裏」マニュアル―すぐに役立つHints&Tips
ここ 10年くらいで、外傷治療の常識が覆されています。外傷での消毒は意味がなく、組織を傷害するだけで却って有害であることが明らかになりました。秋田では内科外科問わず全科の患者さんの対応をしなければいけないので、こうした外科系の最新の知識も必須であると思い読みましたが、眼から鱗でした。
・ドクター夏井の熱傷治療裏マニュアル―すぐに役立つHints&Tips
熱傷の治療も、外傷治療同様、近年大きく変わってきています。以前は消毒をして乾燥させて・・・でしたが、最近では全く逆であることが常識になりつつあります。熱傷創にはサイトカインや組織栄養因子が存在し、それを乾かすのは培養細胞の入った培地を乾燥させるのに等しいそうです。湿潤を保ち皮膚の再生を促すことが治療への最善で、さらに消毒は有害 (菌を殺す効果がほとんどなく、組織を傷害する結果に終わる) であるというのは、知らないと患者さんに不利益を与えることになりますね。学生時代に習ったことと常識が 180度変わってしまっているのを感じながら読みました。
・帰してはいけない外来患者
救急をやっていると、「地雷」と呼ばれる症例にぶつかることがあります。例えば「喉が痛い」と来院した患者が心筋梗塞だった・・・など、通常の診断アルゴリズムでは予期できない疾患に遭遇するものです。もちろんほとんどの患者さんではこういうことがないのが、「地雷」たる所以で、全く意外なタイミングで、意外な疾患が隠れていたりします。それを見抜く目を養うのが本書の狙いです。第一章:外来で使える general rule、第二章:症候別 general rule、第三章:ケースブックとなっています。ケースブックではいくつかのケースで「これは見逃しそうだなぁ・・・」などと思いながら読みました。救急に従事する医師は一度眼を通しておいた方がよいかもしれません。
・ダ・ヴィンチのカルテ―Snap Diagnosisを鍛える99症例
Snap Diagnosisとは、「知っていれば一目」の診断ですが、知らないと正しい診断に辿り着くまでひどい遠回りになります。臨床の場での実践的な知識が身に付きますので、読んでおいて損のない本です。
・3分間 神経診察法 ―最も簡単で効率のよい考え方・進め方
3分間で読了しました。学生の知識の整理に丁度良いですが、臨床の場ではあまり実践的ではないかもしれません。
・手軽にとれる神経所見―カラーイラスト図解
薄い本ですが、かなり実践的な本です。研修医、救急医、プライマリ・ケア医などにオススメ出来ると思いました。
秋田では、上記の本を読んだほか、論文もいくつか読みました。機会があれば紹介したいと思います。
今回は早めに秋田入りしたので、4月1日に乗馬クラブに行くことが出来ました。乗馬クラブの名前は「エクセラ」です。非常に親切にして頂いたので、また行きたいと思いました。今回は巻乗り、半巻乗り、脚の使い方、尻鞭、馬装具の外し方・・・などを学びました。
「化学者の日誌 (朝比奈貞一、奥野久輝、水島三一郎著、学生出版)」を読み終えました。これまで「医学への道」「物理学者の心」「病院の窓から」「人体の語るもの」「医学の小景」と紹介してきた科学随筆文庫の一冊です。
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「ハカセといふ生物」という漫画を読みました。バイオ系研究者を題材にした四コマ漫画なのですが、結構私のツボでした。私は漫画を買って読みましたが、ネットでも一部読むことが出来ます。
ちなみに、私のお気に入りは第25話です。どーみてもゴルゴなんですが (笑)
第25話:伝説の男
バイオ系研究者の方は読んでみると楽しいと思います。
「石巻災害医療の全記録 (石井正著、講談社)」を読み終えました。著者は石巻赤十字病院で陣頭指揮を執った外科医です。
本書を読むと、石巻赤十字病院が修羅場のような被災地で如何に大きな存在であったかがわかります。しかし、これは周到な準備と、優れた指揮官、医療従事者や他業種の方々の尽力によるものでした。彼をサポートした災害医療の専門家達の力も大きかったようです。
もともと、震災が高確率で起こると予想されていた宮城県では、いくつもの対策がなされました。例えば、2006年5月に内陸部に移転した石巻赤十字病院は、免震構造であり、ヘリポートや被災者診療用の広いスペースを備えていました。石巻市では、2010年 1月 22日に石巻地域災害医療実務担当者ネットワーク協議会が立ち上がりました。さらに 2011年 2月 12日に著者の石井正先生が宮城県で 6人目となる「宮城県災害医療コーディネーター」に委託され、震災対策を次々と進めていました。こうした準備が、被災後に生きました。
本書には、震災に対する準備、発災直後の対応、トリアージタグ・疾患名・患者数の内訳など貴重なデータが満載です。また、「想定外」が多発したときにどのように対応していったかの詳細な記録が残されています。私は「自分だったらどうしていたか」をシュミレーションしながら読みましたが、考えさせられるところが多かったです。
本書は堅い話ばかりではなく、こんなイイ話もありました。著者には酒飲み友達のネットワークというものがあり、震災直後に NTTドコモショップ石巻店の店長が衛星携帯電話 2台、それらに優先的につながる携帯電話 10台を病院に持ってきてくれ、頼むとすぐに中継局を病院に作ってくれたそうです。積水ハウス仙台支店は被災後速やかにテントを病院の玄関前に設置してくれたとのことでした。
また、それ以外にも医療関係者以外の支援が大きかったことを感じさせるエピソードがありました。Googleの幹部クラスが病院を訪れてきて、何か出来ることはないかと言われ、結果として、避難所データの閲覧・検索ソフトを作ってくださったそうです。それも「Googleは社会貢献を旨としている会社です。支援活動で金を稼ごうなんて考えていません。金は別のところで稼げと社長にも言われていますし、それが社の理念でもありますから、ご心配なく」という言葉を残して、無料で。そして、Google社員のこの言葉に感銘を受けました。
どんな情報でも構いませんから、とにかく集めることができる情報はすべて集めてください。『これは必要ではないな』と思う情報でも構いませんし、『何が必要か』などと気にする必要もまったくありません。集まった情報を ”料理” するのはわれわれ専門家の仕事ですので、ありとあらゆる情報を集め、あとはおまかせください
石井正先生の母校の東北大学も石巻赤十字病院を支えました。石井先生は、東北大学病院の病院長から次のようなメールを受け取ったそうです。
石巻日赤からの大学病院への入院受け取りについては、従来通り対策本部一括で受け取ります。これまで同様にどのような疾患の患者が何人いるかを連絡していただければ、各科に個別に交渉する必要はありません。割り振りはこちらで行います。日赤の負担をできるだけ少なくすることが、今、大学病院にできる最大の貢献であるとの認識で一致していますから、どうぞ遠慮なく困ったときは一報入れてください。
実際、東北大学は専門に関係なく多数の患者を受け入れ、肺炎患者を泌尿器科で診ることもあったそうです。
いくつもの感動的なエピソードに、読んでいて何度も涙ぐみました。医学的知識が全く無くて読める本ですので、医療関係者はもとより、それ以外の方にも是非読んで頂きたい一冊です。
「東日本大震災秘録 自衛隊かく闘えり (井上和彦著、双葉社)」を読み終えました。自衛隊が震災後どのような活動をしてきたかが記してありました。初期の救出活動、それに引き続く復興への活動、原発事故対応、米軍との共同作戦・・・それぞれの現場で起こった感動的なエピソードが満載でした。
また、自衛隊の災害時の初動対処について書いてあったのがとても参考になりました。当該の部分を引用します。
現在、自衛隊は震度 5以上の地震が発生した場合、速やかに航空機などで情報収集することになっている。
たとえば、陸上自衛隊は、全国 157の駐屯地などを基盤として、出動命令の受領後 1時間を基準に出動できる即応体制を取っている。また海上自衛隊では、各地方総監部で初動対応艦 1隻指定しているほか、各航空基地では哨戒機および救難期機を待機させている。もちろん航空自衛隊も、救難機や輸送機を常に待機させるなど、発災と同時に即応できる万全の態勢をとっているのだ。
また、首都直下型震災の場合は、全国の部隊を迅速に首都に集中させるようになっている。
具体的には、陸上自衛隊は最大約 11万人、海上自衛隊は艦艇最大約 60隻と航空機最大約 50機、そして航空自衛隊は輸送機最大約 30機と救難機最大 25機、加えて偵察機最大 15機が集中投入されることになっているのだ。
残念だったのは、感動的なエピソードの羅列ばかりとなっていて、災害時の救助活動のノウハウがほとんど記載されていなかった点です。また、感動的なエピソードの後に「だから自衛隊は素晴らしい」というニュアンスの宣伝がくっついていたのが、押しつけがましくてやや興醒めでした。そんな宣伝つけなくても、自衛隊が如何に被災地で活躍していたかは、みんな知っているというのに・・・。
「ブラック・ジャック創作秘話」という漫画を読みました。
手塚治虫氏の漫画に賭ける執念が伝わってきました。作品が生み出された裏に色々なエピソードがあり、もう一度ブラック・ジャックを読み直したくなりました。
ブラック・ジャックを読んだことのある方にはオススメです。ブラック・ジャックを読んだことのない方は、まずブラック・ジャックを読んでみてください。
「細胞夜話 (藤元宏和著、mag2libro)」を読み終えました。培養細胞の開発秘話、名前の由来、研究のこぼれ話など、非常に興味深かったです。
この本は、GEヘルスケアジャパンのバイオダイレクトメールに記されていた内容をまとめたものです。私は本の方が読みやすいので本で読みましたが、同じ内容が webでも公開されています。
細胞夜話 バックナンバー
専門的な知識をそれほど必要としない読み物です。興味のあるかたは上記リンクからどうぞ。
「不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックス」の永遠なる人生 (レベッカ・スクルート著、中里京子訳、講談社)」を読み終えました。
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先日紹介した「クロネコヤマトの DNA」という記事を読んでこの本「経営学(小倉昌男著、日経BP社)」を知り、早速読み終えました。
じり貧であったヤマト運輸を引き継いだ小倉昌男氏が「クロネコヤマトの宅急便」というサービスを開始し、日本最大手の企業に成長させるまでの話を扱っています。
経営を教える学校は多くあれど、「考えること」の大切さを思い知らされました。
クロネコヤマトの配送車の話も面白かったです。色々な工夫がされています。運転席から車の来ない左側のドアに移動して降りられたり、運転席から直接荷物室に入れたり、中で立って作業できる高さになっていたり・・・。多くの自動車メーカーが開発に協力的でなかった中、取引のなかったトヨタ自動車が手を挙げたのだそうです。この本を読んだ後、クロネコヤマトの配送車をマジマジと見てしまいました。
「クロネコの DNA」という記事を読んでこの会社に興味を持った方、是非読んでみてください。
「石巻赤十字病院、気仙沼市立病院、東北大学病院が救った命 (久志本茂樹監修、アスペクト)」を読み終えました。ボランティアで本吉、渡波を訪れたときのことを思い出しながら、胸を熱くして読みました。各病院の震災直後の様子に一つずつ章を立ててあり、「崩壊した医療システムを、どうやって機能させたのか」を独立した章として扱っていました。
最終章、「”そのとき”を知らない人へ、”そのとき”を知る人からの言葉」には、地震直後を乗り切り震災後半年が近づく中、大切なことが記されていました。
復興とは遠い現実を、知ってほしい
こういう状況で、しかも存在すら忘れられたとなると、自暴自棄になりかねない。私がもっとも心配しているのは、これから自殺者が増えるのではないかということです。心のサポートは、精神科や心療内科の先生がしていますが、単純に精神を病んでいるのではないのです。仕事さえあれば彼らは立ち直れる。そのためには、まだまだ復興段階に入っていないこと、仕事がないということが、どれだけ被災者を苦しめているかということを伝えてほしい。そして、仕事を宮城県に持ってきてほしい。医師である私にはそこまではできない。ただこのままでは、本当に、せっかく助かった命なのに・・・
あとがきには、「私の街には、気仙沼市立病院の成田先生も、石巻赤十字病院の石井先生、小林先生、石橋先生も、また久志本先生もいません。でも、みなさんの経験を記録として残すことで、それを学んだ各地の医師が、先生たちと同じようになってくれるんですね」とあります。震災直後の現地を僕らは知らないし、医療現場でどのようなことが起きていたかも知りません。しかし、本書などでその時のことを知り、個々の医療従事者が起こりうることを想定しておくことで、次にこのような災害が起きたときに被害を最低限にくいとめることができるのではないかと思います。