「モーツァルトを『造った』男 ケッヘルと同時代のウィーン (小宮正安著、講談社現代新書)」を読み終えました。モーツァルトを「造った」という表現がタイトルにありますが、モーツァルトが生きた時代にはモーツァルトよりハイドンの方が有名であり、モーツァルトは様々な政治的な要因があり、後世ウィーンの音楽の象徴となった訳です。もちろん音楽自体のすばらしさは言うまでもありませんが、ケッヘルがモーツァルトの楽譜を集め、散逸を防ぎ、ほとんどの作品を網羅した目録を作り上げていなければ、今日ここまでモーツァルトの楽曲は耳に出来なかったかもしれません。モーツァルトがいかにして今日の姿に造られたかは、是非本書を読んで頂ければと思います。
音楽の勉強をしていると、「時代背景を勉強しなさい」と言われますが、本書を読んでモーツァルトやケッヘルの置かれた時代の流れがとても勉強になりました。特にウィーン旅行を考えている方には、是非読んで頂きたい一冊です。
以下、備忘録。
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「コンピュータ VS プロ棋士 名人に勝つ日はいつか (岡嶋裕史著、PHP新書)」を読み終えました。
本書は渡辺竜王と将棋ソフト「ボナンザ」の対局風景から始まります。コンピューターが強さを発揮する筈の終盤で竜王に読み負け、89手目に勝ち手順 (正着は▲2七香、以後△2六金▲同香△2七歩▲3八金打△2八歩成▲同馬の展開が予想される) を逃して負けたシーンです。一応、棋譜へのリンクを貼っておきます。
棋譜「渡辺明竜王対 Bonanza」
この勝負は、コンピュータが苦手とする序中盤で竜王と互角に渡うという成果を見せた一方で、得意とする終盤でコンピュータが読み負けたという、予想を裏切る対局でした。ちなみに、将棋世界 2011年 3月号 165ページによると、最終盤に竜王が指した△3九龍 (96手目) の妙手を、あれから 4年進化したコンピュータソフトでもまだ見つけることが出来ないそうです。まだ人間もそう簡単にはソフトに土俵を割る状況にないようです。
第2章は「ディープブルーが勝利した日」です。様々なボードゲームをコンピューターで解析する試みが行われていますが、「人間のチャンピオンに勝つ」のと「ゲームを完全に解明する」のは違います。「ゲームを完全に解明する」というのは、全ての指し手の分岐を明らかにすることで、必勝法を知ることです。ちなみに、6×6マスのオセロでは後手勝ち (それより大きな盤では未解明)、チェッカーでは引き分けになることが解明されているそうです。
1997年 5月にチェスのチャンピオンであるカスパロフにコンピューター「ディープブルー」が 2勝 1敗 3引き分けで勝利しましたが、チェスにおいてもまだ「完全解明」は行われていません。このカスパロフとディープブルーの対戦にも後日談があり、IBMが対決直後にディープブルーを解体して再戦できなくしてしまったり、対局には人間が干渉する余地もあったことにカスパロフ自身が、疑問を呈していたそうです。それでも、カスパロフが負けたから人間がコンピューターにチェスで勝てなくなった事実はなく、あれから10年以上経っても人間とコンピューター両者の実力は拮抗しているようです。
その後、チェスでは、アドバンスド・チェスという、人間がコンピューターを使って対戦する楽しみ方が生まれました。コンピューターと人間がお互いに補う戦い方で、面白いことに、「アマチュア+パソコン」のペアが「グランドマスター+パソコン」を破ることもあるのだそうです。ソフトにも人間が補うべき弱点があり、それに精通することが非常に大事なのですね。
第 3章は「将棋ソフトが進歩してきた道」です。弱くて変な手ばかり指す時代から、どうやって進化してきたかが述べられています。初期のソフトでは強くするためのノウハウがわからず、色々試行錯誤が行われていました。爆笑したのが、「格言通りに指させる」というプログラムです。「玉飛接近するべからず」を守って、飛車を 1八に、玉を 9一に囲おうとして、飛車を 1筋に置いたまま玉が 8六に出たところを無惨に詰まされたソフトがあったそうです。その局面の図が本書に載っており、見た瞬間爆笑してしまいました。続く第 4章、第 5章では、強くするための技術的方法が述べられています。
第 6章では、清水市代女流王将と「あから 2010」の対局が扱われていました。実際の棋譜を振り返りながら、局面の解説をしています。さらに、その局面でのコンピューターの評価、どのような経緯を経てその指し手を選択したかについても詳しい解説をしています。棋譜からはわからないことを知ることが出来て非常に興味深かったです。
第 7章は「名人に勝つ日」です。コンピュータ将棋の課題、今後期待される方法などが述べられています。
本書はコンピュータ将棋の歴史や現状を俯瞰するのに適した本で、将棋好きの方には是非お勧めです。
「マンガでわかる有機化学 (齋藤勝裕著、SoftBank Creative)」を読み終えました。左側のページが講義、右側のページがマンガになっている本です。Amazonで高評価を得ていたので購入しました。
私の出身高校は、ほとんどの学生が就職する高校だったので、学校側の配慮からか理科は 1科目しか習うことができませんでした。私は物理選択だったため、理科 2科目求められる医学部を受験するため、化学は独学で勉強しました。
有機化学は最初は全く意味不明だったのですが、段々わかると楽しくなってきて、化学の中では好きな分野になりました。でも、今回 15年ぶりくらいにこの分野の本を読むと、あまりの知識の抜けっぷりに笑ってしまいました。「エーテルって何だっけ」「カルボニル?カルボキシル?」ってな感じで、「アルコールの一級は一級酒のことですか?という有様。
でも、本書を読んでいく毎に、だんだん色々思い出してきて楽しかったです。高校で一度勉強したけれど、ほとんど記憶が残っていない・・・という方にお薦めの本だと思います。
「遺伝子工学の基礎 (野島博著、東京化学同人)」を読み終えました。
大学 1年生の時に授業使うため買った本ですが、当時は「医者になったら臨床しかやらないからいいや」と思って本棚に眠らせていました。まさか、15年も経って読むことになるとは思いませんでした。
読んでみると内容は凄く面白かったです。今行っている実験の意味が本を読んで初めて理解出来る部分がありました。予備知識がないと難解な部分もありましたが、その辺はググると解決できました。便利な世の中になったものです。
特に興味深かったのが、グルタミン酸の RNA編集。1996年のこの教科書に「脳のグルタミン酸受容体 (GluR) の一種である非 NMDA受容体とよばれるものの構成サブユニットは AMPA選択性の 4種類 (GluR1~4) とカイニン酸選択性の二つのサブユニット (Glu5, 6) が知られている。約 900アミノ酸残基からなるこれらサブユニットは四つの膜貫通領域 (TMI~IV) をもつが、その TMII領域で遺伝上はグルタミンのコドン (CAG) しか見当たらないのに、GluR2や GluR5, 6でアルギニン (CGG) に変化しているものが見つかった。転写後に A→Gなる RNA編集が起こったと解釈されている」と書いてあります。ALSでのグルタミン酸 RNA編集異常が報告される 8年前の教科書で このように RNA編集が注目されていて、面白いと思いました。
「棋士と扇子 (山田史夫著、里文出版)」を読み終えました。棋士の揮毫した扇子を集めた写真集です。座右の銘として持っておきたい格好良い言葉がたくさん揮毫されています。
この本について、とても面白く纏めたサイトがありますので紹介しておきます。デビューしたての頃の下手な字とか、「感性」という字の揮毫など、爆笑すること請け合いですので、是非ごらんください。
棋士たちの「とめはね!」
また、揮毫された語の一覧を紹介したサイトもあります。
「棋士と扇子」 収録揮毫一覧(棋士名アイウエオ順)
「ペニシリンはクシャミが生んだ大発見 (百島祐貴著、平凡社)」を読み終えました。百島先生は神経放射線を専門としており、私も学生時代、教科書を読んだことがあります。まさか医史学に精通された方とは知りませんでした。
本書は非常に読みやすく書かれていますが、医学の広い分野を扱っており、私が知らなかったことばかり。楽しませて頂きました。備忘録をかねて、特に面白かった部分を抜粋して紹介します。ここに記したのは極一部ですので、興味を持った方は是非本書を買って読んでみてください。
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「歴史の中の「眼」を診る 眼に効く眼の話(安達惠美子著、小学館)」を読み終えました。
マイナー科(内科や外科以外の科は業界でそう呼ばれることがあります)の本ですと、「人の魂は皮膚にあるのか(小野友道著,主婦の友社)」なんていう本を紹介したことがありましたが、専門分野を離れて読む本はなかなか楽しいものです。
本書は一般人が読んでもわかりやすく書いてあります。特に個人的に興味を持った部分をいくつか紹介します。
・わが国に眼鏡が伝来したのは1549年で、かのフランシスコ・ザビエルが周防の大名の大内義隆に送った老眼鏡と言われている。
・徳川家康の眼鏡の度や寸法を実測して、「日本眼科学会雑誌」を創刊した大西克知氏が報告した。レンズの度は大きい眼鏡が 1.5 D, 小さい眼鏡が 2.0Dの凸レンズであった。両方とも老眼鏡と思われる。
・キュリー夫人は放射線を浴びて白内障になって、4度も手術を受けた。治療はモラックス博士とプチ博士が行ったが、モラックス博士は眼科のクロード・モネの白内障の診断もしている。
・ドン・ペリニョンは盲目の修道僧であった。ローマ時代に忘れられていたコルク栓を復活させたことで、シャンパンの二次発酵を可能にし、天然の発泡酒という銘酒を生み出した。
・ホルス神は古代エジプトの天空神で、頭が鷹、体が人、右眼が太陽、左眼が月を表している。ホルスが眼病で見えなくなったところをトート神に癒され治癒した伝承がある。ホルスは眼の守護神とされている。ホルスの眼の形はアルファベットのRと似ており、薬の処方のときに使われる Recipe (Rp) の語源につながっている。
・メリメ作カルメンの主人公は斜視だった。しかし、ビゼーのオペラでは触れられていない。
・ジェームス・ジョイスは緑内障のような症状で、計11回も手術を受けた。一説によると、かの有名なアルフレッド・フォークトを頼っている。
・クロード・モネは白内障を患っていた。晩年の色遣いに白内障の影響が表れている。フランスの首相クレマンソーの勧めで右眼の手術を受けると、黄色っぽく見えていた風景が青色っぽく見え、片眼ずつの異なった見え方を「バラ園からみた家」に表現した。
・バッハの失明原因について。手術をしているので、白内障の可能性がある。また、糖尿病ではないかと推測されていて、網膜症の可能性もある。更に脳卒中で亡くなったことを考えると、基礎疾患に高血圧があって、高血圧眼底だった可能性もある。
・フロイトは、彼女の愛を得るために研究に励んでいた。そしてコカインにモルヒネ中毒の禁断症状を止める作用があることを発見した。しかし、同年、同じ病院のコラーがコカインの鎮痛作用に注目して白内障手術に用いた。フロイトはコカインの麻酔作用に気付かなかったことに意気消沈し、精神病理学者としての研究を積むことにした。
・第九の歌詞で有名なシラーには「ヴィルヘルム・テル」という代表作がある。その中に「眼の光」の尊さをうたった一節があり、この句がアルブレヒト・フォン・グレーフェの記念碑に刻まれている。
・検眼鏡を開発したのは、ドイツの生理学者、物理学者のヘルムホルツである。ヘルムホルツは、以前紹介したヘルツの師。
12月11日のブログで、映画「愛の調べ」の感想として、「実際にロベルト・シューマン、クララ・シューマン、ブラームスの間に三角関係はあったのか?その根拠は何なのか?」と書きました。手許にある本にいくつかその根拠が載っていたので順次紹介していきます。実はシューマンの英語の伝記も数冊持っているのですが、今回は読む暇がなかったので、また今度 (その機会は来ないかもしれませんが・・・(^^; )。
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「さらば脳ブーム (川島隆太著、新潮新書)」を読み終えました。際どい話が一杯で面白かったです。川島氏は脳トレの開発者です。ブームには反動があるのが付きもので、彼は一時週刊誌などでかなり叩かれたことがあります。今回の話にはその反論と反省の内容も織り込まれています。面白かった部分を簡単に紹介します。
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「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか? (梅田望夫著、中央公論社)」を読み終えました。羽生名人の最近の将棋の観戦記と、対局者へのインタビューを綴った本です。この本、巷では「どう羽生」と呼ばれているそうです (^^)
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