いよいよ明日、ヨーロッパに旅立ちます。今回はルツェルン音楽祭を楽しんだ後、ウィーンに寄ってから日本に戻ります。
タイトルは、ナタン・ミルシテインの「ロシアから西欧へ」という本から。ミルシテインは俺の大好きな演奏家で、解釈の一つ一つにきちんとした理由があります。
この本には、彼の親友のホロヴィッツ、ピアティゴルスキーとの思い出、他に、イザイ、エリザベート王妃、クライスラー、ストラヴィンスキー、トスカニーニ、バランシン、あるいはピカソ達との思い出まで記されています。当時激動のソ連にあって、歴史に名を起こす人たちとの交流を含めて、自分の芸術のあり方を追い求めた生き方には、読んでいて引き込まれました。
彼のようにはなれないとはしても、自分にとって何か成長出来るような旅にしたいと思います。
「脳と音楽 (岩田誠著、メディカルレビュー社)」は、私が神経内科医を志すことになるきっかけとなった本です。脳が音楽をどのように認識しているかや、ラヴェルが「緩徐進行性失語症」という病気に如何に苦しめられていたかなど、興味深い内容について、豊富な資料から医学的考証が加えられています。
私も、まだ目を通してはないけれど、資料はかなり集めています。時間が出来たら、こうした分野の研究をしたいです。その前に、一般的な神経内科の勉強をしなければ・・・。
盛岡での発表は無事に終了しました。9月9日に盛岡について、研究会に参加して夜はメトロポリタン盛岡で打ち上げ。翌日が発表でした。胃腸の具合があまり良くなかったため、わんこ蕎麦は回避して、同じく名物の冷麺を「ぴょんぴょん舎」で食べて郡山に帰りました。
時間があったので、岩手医科大学の近くで、本を購入。
①決断力(羽生善治、角川oneテーマ21)
②世界を救った医師-SARSと闘い死んだカルロ・ウルバニの27日-(カルロ・ウルバニ取材班, NHK出版)
③ジプシー(アンガス・フレーザー、平凡社)
④医療倫理1, 2(グレゴリー・E・ペンス、みすず書房)
①は帰りの新幹線で読みました。一流の人の言葉には説得力があります。将棋の技術的な話は書いてありませんが、普段あるべき姿勢について勉強になりました。
②も今日読みましたが、久しぶりに本を読んで泣きました。彼がいなければSARSのWHOの初期対応は1ヶ月遅れていたといわれ、日本でアウトブレイクが起こったとすれば、ひょっとしたら私も病院で感染していたかも知れません。命を賭して情報を世界に発信した唯一の医者でした。医学的な考証もしっかりしていますし、専門用語がほとんど使われていないので、一般人も普通に読める本です。私も知らなかったSARSの臨床経過をこの本を通じて知ることができました。
他の本については、ゆっくり読んでいきます。
最近、「見る脳・描く脳(岩田誠著)」を買いました。あまり絵に造詣が深くないため、なかなか読まずにいたのですが、眼から鱗が落ちる思いでした。
第1章は、人間が如何にして視覚情報を認識しているかについて。
第2章は描くこと。つまり、脳の何処が障害されたら、どのように絵が描けなくなるか。
第3章は脳から見た絵画の進化です。最初の時代は、心像絵画といって、神だとか、そういったものを描いていた時代です。想像の世界なので、3次元のものとして表現されています。次が網膜絵画といって、見えたままの世界。人間は、物体の裏側など見えない部分があるので、2+1/2次元しか認識出来ず、また自分が見たように表現するために、陰影法や遠近法を使用します。最後が脳の絵画。脳のどの部位かの作業を強調したり、弱めたりして認識されたものを表現しています。例えば、色彩について強調してみたり、運動視を強調してみた作品が知られています。
それぞれ例を挙げて説明してあり、例えば「3人の楽士たち(ピカソ)」という絵は、3人の楽士が描かれていますが、誰が手前にいて誰が奥にいるのかわからないように描かれています。視覚認識の腹側経路が障害されたことにより、形態の認識が出来ても、位置関係がわからない人が認識する世界と同じことを表現してあるというのです。絵画には、そのような見方があるのだと非常に勉強になりました。みなさんも是非読んでみてください。
郡山に来てから毎朝5時に勝手に目が醒めるようになりました。とはいえ、夜も早く寝るようになってますが。
さて、今日のタイトルはダニエル・メイスン著の小説からです。著者は1998年にハーバード大学を首席(生物学専攻)で卒業し、その後カルフォルニア大学医学部を2003年に卒業という経歴を持ちます。
本の内容は、イギリスのミャンマーへの侵略戦争が舞台です。戦況思わしくない中、ただ一人軍医であるキャロルは、音楽と医学で血を流さずミャンマーを平定していきます。その軍医からの要望でエラールのピアノが戦地に送られるのです。しかし、高温多湿な地域でピアノの調整が必要となり、調律師である主人公(イギリス人)が現地に派遣されるというストーリーです。落ちは少し弱いですが、途中の文章が酔わせます。女性の描き方がとても魅力的で、また日本語訳が非常に上手な小説だと思います。