Category: 臨床現場
病院を受診するときに
外来をしていて、困ることがあります。他院かかりつけの患者が、情報無く来院したときです。半分近くの患者が、内服薬を答えられず、治療に難渋します。併用禁忌の薬を処方すると医師の責任が問われるので、実質、薬を処方できません。更に、ジェネリック医薬品ブームで、同じ薬でも病院毎に商品名が違う場合があります。このようなケースでは、患者が気付かず、2倍量の薬を飲んでしまう可能性もあります。自分の病名を答えられない患者も何割かいる印象です。
そのため、一般人向けに、受診する上での最低限の常識、裏話を記載してみたいと思います。
1. どの病院を受診するのか?-大病院のメリット・デメリット-
専門的治療が必要な場合は、大病院が望ましいと思います。専門的な医師が充実し、検査を含め専門的な医療が行えるメリットがあります。また、急を要する病態に成り得る疾患の場合、入院ベッドがある病院の方が良いでしょう。とはいえ、政府の医療費抑制政策のおかげでベッドが足りず、かかりつけでも大病院に入院できないケースは、いくらでもあるので注意が必要です(注意しようもないのですけど)。
よく知られたことですが、大病院では、待ち時間が長くなります (需要と供給のバランスの不均衡が原因ではないかと思います)。新患で受診する場合は特にです。新患は予約の合間に診察する場合が多いのですが、病院に余力があれば、新患担当医を設けている場合もあります。予約診療の場合、だいたい一人当たり 5-10分で枠がとられています。そのため、全員が余り込み入った話はしにくいのですが、病態の悪化や、癌や難病の告知で時間を要する患者がいた場合、病態の落ち着いた患者の診察時間を短めにして時間を作ります。
色々相談したいといった場合、開業医の方が地域にも密着していますし、良いでしょう。大病院では、せっかく医師と信頼関係を築けたとしても、医師の異動が激しい現実があります。
待ち時間を考えた場合、風邪で大病院を受診するメリットはありません。風邪薬は多くの場合気休めですし、どうせ同じ薬を貰うなら、待ち時間の少ない診療所の方が良いでしょう。実は、病院で貰う薬と全く同じ薬のいくつかは薬局で普通に買うことができ、胃薬のガスターなどが有名です。その場合は保険はききませんが。
大学病院などではモルモットにされるという神話が昔あったようですが、都市伝説に近いものだと思います。ただ、医療は万能ではないので、ある程度の try and errorというプロセスは、不可欠の方法論です。大学病院で治療手段のない患者に対して、エビデンスの確立していない治療を行う場合が多々ありますが、十分なインフォームド・コンセントがなされるのが普通です (このインフォームド・コンセントって無料なんですよね。飲み屋の女性ですら話すだけで高い金を取るっていうのに!)。研究に関して言えば、医療崩壊に伴って、日本の病院では研究に時間を割く医師が激減しています。先の暗い話です。
2. 病院間の医師の質の違い
開業する場合、ある程度診療経験を持ってから開業するのが普通なので、大病院の外来医より開業医の方が診療経験が豊富な場合が多々あります。大病院の診療科長レベルまで勤め上げ、多くの医師を指導してきた実力ある医師が開業するケースもあります。医院やクリニックなどでは、ネットで医師の略歴を掲載してある場合もあるので、その医師の専門も含めて参考になると思います。
3. 新しい病院にかかるとき
他にかかっている病院があるときには、紹介状を持って受診しましょう。正確な医学病名、既往歴、臨床経過、内服薬は重要です。昔は、「よろしく」としか書いていない紹介状を持たせる医師もみかけましたが、病診連携が進み、改善されてきています。
4. いざ受診して
「いつからどのような症状があるのか」をわかりやすく伝えましょう。出来るだけ自己判断を事実に含めないようにしましょう。医師が得る情報で、最も重要なのは患者の話です。何が必要で何が必要でないかは難しいところですが、それを聞き出すのも医師の腕です。一方、診療に関係のない話を長々とするのはやめましょう。あなたの後にも多くの患者が待っています。
医師の習性として、自分の眼で見たものしか信じないというのがあります。紹介状の内容も疑ってかかっていますし、患者の話も無批判に受け入れている訳ではありません。これは誤診を防ぐために必要なことなので、感情を害さないようにしてください。もちろん医師の側も出来るだけ悟られないようにはしますが。
5. 時間外で受診する
時間外診療は医師のボランティアです (大学病院での当直の私の時給は約 200円です。食事代 (出前) が別途自己負担です)。当直医は、当直の日の朝から働いていて、夜の当直も徹夜で働いて、次の日も通常通り夜まで働きます。時間外診療の増加も医療崩壊の原因の一つと言われています。
緊急性のある疾患を対象としている外来ですので、日中の外来とは質が異なります。緊急性のない場合は、日中の外来を受診しましょう。もちろん緊急性のある疾患の疑いがあると思ったら、遠慮無く受診しましょう。受診前には病院に電話して、受診が可能か、受診の必要がありそうか聞くのも良いと思います。
基本的に、最低限の検査しかできません。また、内服も1日分しか処方されないことを知っておく必要があります。これは、緊急性のある疾患の診断・治療が主体であるためです。夜間外来の受診抑制の意味合いもあるかもしれません。
6. 人として最低限のマナー
医師と患者は、患者の病気を治す、苦痛をとるという共通の目的を持っています。そのためには良好な関係が不可欠です。医師の側も努力が必要ですが、患者側にもそういう意識を持っておいて欲しいものです。医師も人間ですし、感情を持った生き物ですからね。
(番外編)
・セカンドオピニオン
大学病院で精密検査を受けているのなら、多くの場合必要ありません。実際にセカンドオピニオン外来の医師も、そう考えながら診療しています。多くの場合、納得へのプロセスという意味合いが強いと思います。
・標榜科
医師は基本的にどの科でも名乗れます。診療所で、多数にわたる科を標榜している場合、医師が一人ならば、その医師が本当は何が専門なのかを知る必要があります。風邪程度での受診なら関係ありませんが。
・外勤
大学病院などから、外来のみ近郊の病院に医師を派遣することです。時間契約です。従って、外来時間が終わると、また大学病院などに働きに戻ります。そのため、診療終了時間ぎりぎりで受診したとき、診療時間内に外来が終わらない可能性があると、他の医師に申し送りがされます。少しゆとりをもって受診すると良いでしょう (スーパーの生鮮品売り場とは違いますね)。
外勤という制度には、派遣する病院、される病院にメリットがあります。派遣する病院は、他院で外来をしている時間を休みとして扱っているので、医師のみかけの労働時間が減らせるのです。派遣される病院のメリットは、医師の確保です。
大学病院
私の科では、研修医は何名かいますが、直接患者を持たない指導医を除くと、医局員は病棟に2人しかいません。医師-患者関係がこじれた症例や、VIP、暴○団関係者などは研修医に持たせられないため、基本的に私ともう一人の医師でみることになります。学問的に困難な症例を持つことも多いのですが、何故か一般的な症例の筈が、入院後、症例報告ものであることが多くてびっくりしています。他の先生が主治医になるとそんなことはないのに、珍しい病気が集まる星の下に生まれているのでしょうか?
郡山時代の症例を論文にするのと並行して、大学での症例も学会発表、論文報告しないとなりません。珍しい症例は、情報がないので、次にその症例に遭遇する医師のためにも、論文にするのは医師の義務と思います。
私が研修したころと、大学病院もかなり変わっていて、自宅に病棟から電話がかかってくることがめっきり少なくなりました。研修医に経験をつませるためか、「脱水症の老人」とか、場末の病院のような入院も増えました。大学病院の機能について考えるところもあります。
研修制度が変わってから、大学からの給料が上がりました。月20万円くらい貰っています。当直は月3回(うち1回は土日)で、その手当はtotalで2万円(時給270円前後)です。一方で、大学病院では、退職金やボーナスを払わなくて済むように、定期的に出張に出して、短期労働者扱いにしているトリックがあります。
出来るだけ自宅に電話しないとか、給料のアップに関しては、おそらく、研修医を集められない病院は、淘汰されていくので、待遇の改善が始まったのではないかと感じています。昔は大学病院の月給は、3-5万円が相場でしたし、毎日のように、看護師から問い合わせの電話がありました。検体を手術室から検査室に運ぶためだけに、深夜に病院に呼び出された研修医もいたと聞いたことがあります。研修医の奪い合いと並行して、看護師の奪い合いも大変みたいです
魔の金曜日
うちの大学病院には、教授の回診日には人がどこからともなく湧いて出て来ますが、金曜日には、病棟は研修医と極少数の指導医を除くと私一人です。そのため、救急対応は全て私がします。急患の度に外来棟に呼ばれ、他科からの依頼に他科病棟に呼ばれます。同時に、点滴が入らないと研修医からの電話が入ったりします。外来棟と病棟が非常に離れていて、道路を渡らなければならず、移動に時間がかかるのが痛いところです。
少し前には、VIP、脳梗塞新規発症、髄膜炎疑いの他科依頼2人を同時に診察する必要に迫られました。VIPの診察時は、当初、海外の要人の家族で日本語が話せないと聞いていましたが、偶然私の下で働いていた研修医の父が通訳として付いてきていて、非常に助かりました。誤診してたら国際問題に発展していたかも・・・。
といったことで、昨日も私一人しか病棟にいなかったため、普段の業務に加えて、以前紹介したエルサルバドル人医師にマンツーマンで、相手する必要がありました。しかも英語。なかなか伝わらず、文法的に支離滅裂な英語を話しましたが、最終的には気に入ってもらえて、メールアドレスを聞かれました。お互いにコミュニケーションを取ろうとする努力があれば、伝わるものです。日本の女性の方がよっぽど伝わらない・・・?
エルサルバドル
今日は教授の誕生日。医局でみんなでケーキを食べました。教授の回診をみていると、考え方の根本から次元が違うことを痛感させられます。例えば、「てんかんは皮質から神経線維を伝って不随意運動が起こるけれど、多発性硬化症などの白質病変があると、異常な興奮が伝わらなくなって、てんかんは改善するのでしょうか?皆さんでそういった報告を知っている人はいますか?てんかんの研究家達が言うように、皮質には横走線維があるのでしょうか?」「パーキンソン病の人に、右手で手回内回外試験、左手で指タップをした後、手を逆にしてやってもらうと、右手で手回内回外試験をしながら右手で指タップをする。これは一種の保続ではないでしょうか?」常に疑問を提示され、如何に自分たちがわかっていないことをわかったつもりでいるか痛感させられます。論文や教科書では得られない知識が多く、勉強になります。しかし、教授回診の際は20人以上の医師が周りをとりかこみ、教授の側に近寄ることも非常に困難な状況です。
エルサルバドルから当科に勉強しにきている内科医がいます。いくつかの症例を英語で説明してあげていますが、なかなか難しいものです。一方、自分で英語で説明したことが、通じた瞬間はとてもうれしく感じます。同僚に、アメリカの大学を出て、日本の医学部を卒業した医師がいるので、普段は彼が付き添って教えています。通訳もしてくれます。
エルサルバドルでは、MRIの検査が困難で、髄液検査の際も、日本のように頭部CTを撮影せず、眼底チェックのみで済ませるなど、国による医療の違いを教えてもらいました。
ジェネリック医薬品
さて、テレビではジェネリック医薬品(後発品)のCMが盛んに行われています。高騰する医療費を抑制するためには、薬価を下げるという面で非常に効果的と思われます。
ジェネリック医薬品というのは、ある薬剤が認可されて数年経った後、同じ成分の薬剤を真似して作ることで、開発費をかからなくして、安く売ろうとする薬剤のことです。
しかし、メリット(安価である)を強調する一方、デメリットはほとんど知られていません。デメリットとしては、まず先発品と全く同一ではないということが挙げられます。つまり、薬剤としての成分は先発品と同じなのですが、添加剤などが異なるため、体内での薬物動態が異なる可能性があるのです。アメリカでは、体内での薬物動態(PK/PD)を調べることなく後発品を販売することが出来ます。従って、効果が同じという保証はありません。
次に、品質管理についてです。先発品を開発する大手の製薬会社よりも、新興のジェネリック医薬品会社は品質管理が甘い可能性があります。私の勤務する大学病院では、点滴で用いる薬剤に不良品があり、採用中止となりました。
最後に、名前が紛らわしいという問題があります。私が担当していた患者は、A医院から○○という薬を処方され、B病院から△△という後発品を処方されていました。調べてみたら同じ薬でした。名前が違うため、本人が気づかなかったのです。結果としては倍量投与です。私も外来をしていて、後発品の名前はほとんどわからないので、いちいち薬の名前を調べるのが大変で、仕事のスピードが大幅ダウンです。
こうした問題点について、厚生労働省はしばらく様子を見て、副作用とかの報告が増えるようだったら対応するというスタンスのようです。
これらの情報を知った上で、ジェネリック医薬品を用いるかどうか検討して頂きたいと思います。
ロシア・フランス
ロシアやフランスのそこそこの大病院で、脳梗塞治療を受けてきた患者に遭遇しました。
現時点での日本での診断のスタンダードは、
①病歴・診察所見で脳卒中(脳出血・脳梗塞など)を疑う
②CTで出血が除外出来れば、梗塞を疑って治療を開始する
③後日MRIを施行する(可能なだけ早期)
といったものです。
ロシアから来た患者は、CTもMRIもなく、脳梗塞として治療されていました(脳出血と脳梗塞は、正反対の治療です)。脳梗塞と脳出血は、画像検査を行わないと区別出来ないとされていますので、要は必要な検査を行わず、イチかバチかの治療だった訳です。CT1枚とれれば、危ない橋を渡らずに済んだわけですが、それがロシアのスタンダードの医療なのでしょう。彼が持って来た紹介状は英語でした。
一方、神経学の総本山フランスで治療を受けた患者は、CTを施行されていましたが、MRIは施行されていませんでした。神経内科医が数ヶ月に1度程度遭遇する程度の非典型例の脳血管障害は、見逃して良いということでしょうか。紹介状は何故かフランス語(苦笑)。さっぱりわかりませんでした。日本語で返信してみましょうか・・・。
遭難事故
先日、ニュースを賑わした遭難事故に私も巻き込まれたことがありました。それは、私がかなりハードな当直をしていた日のことでした。
救急隊から要請が入り、遭難者が4名いるとのこと。16時くらいに要請が入りましたが、まず駆けつけたのはマスコミ。その後、19時半くらいに救急隊が到着しました。男性3名と女性1名だったので、2部屋続いた救急室を仕切って、男性と女性に分けました。後は、より症状の重そうな人から順に診察していきました。マスコミ対策は警察が手際よくやってくれ、マスコミも度を越した取材は無かったように思います。最後に警察から、病状を教えて欲しいと聞かれたので、「プライバシーのことがあるので、患者様が話して良いという範囲でのみ話します」と伝えました。「患者が疲労している」「プライバシーの問題がある」と強調したため、結局代表者1名のみによる短いインタビューで取材は終了したみたいです。
ニュースでも報道され、翌日の新聞でも取り上げられていましたが、渦中にいる人間には、そういった情報は入らないものだなと思いました。内科当直は私一人だったため、責任者として対応しましたが、無事問題なく解決し、ほっとしています。
ノロウイルス
今、ノロウイルスが猛威を振るっています。急性胃腸炎を起こすウイルスです。
丁度一ヶ月前の日曜日に当直した病院では、外来患者40人中20人が急性胃腸炎でした。今回の当直では、午前9時から午前5時まで断続的に受診があり、50人以上来院した患者の8割くらいが急性胃腸炎でした。診療中に整腸剤の在庫が病院からなくなるくらいの、かなりハードな当直でした。ほとんど一睡もせず働き、さらに連続して埼玉で外来後、大学病院で夜まで働き、疲労のため免疫力が著しく低下していそうな私ですが、これ程感染力が強いと言いながら、その当直では伝染ることなくすみました。
ノロウイルスは風邪同様、ウイルスなので抗菌薬が効きません。整腸剤を処方し、食事や水分が経口摂取が出来ない例には、点滴、場合によっては入院が必要になります。急性胃腸炎は私も何度か患ったことがありますが、非常につらい症状です。
診療する側から恐いのは、大量におしよせる腹痛患者の中に、1-2人違う腹痛が紛れていること。卵巣癌が虫垂を巻き込み腹痛を起こしていたり、消化管穿孔であったりといった腹痛をここ1ヶ月で経験しています。ほぼ全員が急性胃腸炎だと、つい「また、急性胃腸炎?ノロウイルス?」と診療してしまいますので、気持ちを引き締めています。
rt-PA
昨日の午後から訪問診療に行ってきました。毎月2、3回行っているのですが、山の方のお宅を訪ねると、すでに雪が舞っていて、びっくりしました。
患者さんから聞いた話ですが、以前家の軒先に燕が巣を作っていたそうです。しかし、ある日あまりに鳴き声がうるさいので行ってみると、蛇が巣に進入して雛を食べていて、親鳥が周りを飛び回って鳴いているようなのです。訪問診療を受けるような、あまり元気でないおじいさんですが、棒を使ってなんとか蛇を追い払ったそうです。以後、時々親燕が家の中に挨拶しにくるとおっしゃっていました。なかなかの美談ですね。
昨日の夜は、福島県立医科大学に新薬の講習を聞きに行ってきました。脳梗塞超急性期(発症3時間以内)に使用できる新薬(rt-PA;商品名アルテプラーゼ、グルトパ)の講習です。使用するための条件が厳しく、適応が限られる薬剤ですが、臨床試験では使用した37%の人がほとんど後遺症なく回復しています。しかし、致死性の出血性梗塞に移行する可能性も2.9%(使用しない場合0.3%)存在します。いずれにしても、治療の選択肢が広がっていくことは確かです。