先日の当直では、インフルエンザ A型患者が 5人くらい、その翌日の当直ではインフルエンザ A型患者が 10人で、うち看護師が 4人。本格的な流行に入ったといえるかしれません。病院での集団感染もニュースとして珍しくなくなると思います。
そんな中で、重症化する症例の報告が増えています。
8月24日22時17分配信 時事通信
沖縄県は24日、新型インフルエンザに感染した県内在住の男性(47)と男児(8)、10カ月の乳児の計3人が重症になったと発表した。男児は回復の兆しを見せているが、男性は肺炎を併発し意識不明で、脳症の疑いもあるという。乳児は男の子で肺炎を起こし、症状は悪化しているという。
県によると、男性は重度の慢性腎不全で、男児は過去に軽い脳性まひを起こしたことがあったが、乳児には基礎疾患はなかった。
男性と乳児は家族や周囲にA型インフルエンザの患者がいたが、男児の感染源は不明。3人はいずれも渡航歴はない。
感染者数が多くなると、その分重症化する患者も増えますね。分母が増えるので分子が増えるとも言えます。
青木先生のブログで、新型インフルエンザに関して、いくつも興味深い記事がありました。
・どんどんずれていく新型インフル議論
・リレンザの注射剤で救命したswine flu症例(オーストラリア)
・免疫抑制療法下でのタミフル耐性遺伝子H1N1感染(米国)
・新ワクチンとGBS(ギランバレー症候群)
海外では、リレンザの注射薬があるのですね。神経内科医にとって注目しないといけないのは、新ワクチンと GBSについてです。
青木先生のブログは、生きた情報がたくさんあるので、勉強させて頂いています。みなさんも定期的に閲覧されると良いかもしれません。
8月 1日当直中に、何か寒気がして救急外来へ。体温を測ると 38℃ちょっとありました。
その他の症状は、2-3回の下痢と、関節痛と咳。何らかのウイルス感染として典型的な症状です。
まさか、新型インフルエンザじゃないだろうなぁ・・・。
「○○大学医師、新型インフルエンザ」「医師から院内感染」という記事の大きな見出しが瞼に浮かびました。
恐る恐るインフルエンザ検査を受けると、陰性でした。
ほっと一安心。私がインフルエンザで仕事を休むと、今週 3つの病院で外来に穴が空いてしまいます。
まだ少し熱はあるのですが、仕事には行けそうです。
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(2010.1.9追記)
Pandemic fluに対するキットの感度は低いこと (10-70%)、多くの患者と接触しながらその後発症しなかったことから、このときの発熱は、Pandemic fluだったものと思います。
感染症診療の大御所として、医師が最も最初に名前を思い出すのが、青木眞先生だと思います。青木先生が著した「レジデントのための感染症診療マニュアル」は名著で、感染症診療を志す医師の殆どが読んでいる筈です。本書には、幅広い感染症に対して、エビデンスに基づく抗菌薬の使用法、投与量が書いてあり、我々はそれを元に診療を行っています。
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7月3日0時26分配信 時事通信
厚生労働省は2日、大阪府内に住む新型インフルエンザ患者から、抗インフルエンザ治療薬「タミフル」に耐性を示すウイルスを検出したと発表した。新型インフルエンザで耐性ウイルスが明らかとなったのは国内で初めてで、世界2例目。同省は「重篤度に直接影響を及ぼすものではない」としている。
同省や大阪府によると、耐性ウイルスが見つかったのは、5月29日に新型インフルエンザに感染していると診断され、現在は回復した患者。
府公衆衛生研究所でウイルスの遺伝子配列を調べたところ、6月18日にタミフル耐性を示す遺伝子の変異が確認された。
時間の問題ではありましたが、タミフル耐性の新型インフルエンザウイルスが国内で検出されました。リレンザの耐性ウイルスが発見される日も近いでしょう。
この冬の大流行は不可避でしょうが、感染者数が多くなりすぎると新型かどうかは検査できなくなるかもしれません。通常のインフルエンザと同様の対応をすれば良いという意見もありますが、致死率が上がっているとの意見もあり、もう少し情報が欲しいところです。致死率が上がったというのは、ウイルスが変異して毒性が強くなったのからでしょうか、それとも重篤化した症例しか検査しなくなったので見かけ上致死率が高く見えただけなのでしょうか?
30-50歳台を中心とした約 2%の症例が急速進行性に予後の悪い肺炎を合併しているという知見を聞くと、免疫がしっかりした若者にもタミフルを処方せざるを得ないのかなぁという気もするし、そうするとますますウイルスの耐性化に拍車がかかる気がしています。
6月22日23時50分配信 毎日新聞
さいたま市立病院(同市緑区)は22日、臨床研修医の女性(24)が新型インフルエンザに感染したと発表した。海外渡航歴はなく、既に判明している感染者との接触もなかったが、18日夕~19日朝、救急外来の当直を担当した際、簡易検査でA型陽性が出た女性患者を診察していた。村山晃院長は「診察時に感染した可能性がある」と話している。埼玉県内の感染者は17人目。
研修医は20日からのどが痛み始め、21日午後に39度の発熱があった。22日夜に遺伝子検査で感染が確認され、入院した。研修医は20、21日に計3回、担当する内科の入院患者計6人を回診している。病院は、研修医と接触したとみられる職員と患者計24人に予防的にタミフルを投与した。A型陽性だった女性患者も追跡調査している。
勤務医は病棟担当医でありつつ外来や当直をしているので、インフルエンザに罹患してしまうと病棟中に広めるリスクがあります。かといって、日常診療をしないわけにはいかないですし、難しいですね。
この冬には新型インフルエンザ流行がほぼ確実視されています。医療従事者の感染や、感染した患者家族の面会を考えると、院内感染を防ぐのは甚だ困難な気がします。潜伏期間があるので、初期には隔離できないですからね。
その時にどんな論調で報道されるかに、興味があります。
最近、研修医向けに感染症診療の手引きを作って配布しました。わかりやすくまとめたつもりです。日本での使用が許された抗菌薬の量は、国際的に使用される量よりかなり少ないのです。最も効果的に使用すると、かなり保険で切られて赤字になってしまいます。
とはいっても、学問的な抗菌薬の使い方は大切ですので、研修医レベルで読んでおくと良い本を紹介しておきます。
<推薦図書>
① レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版, 青木眞著, 医学書院
定番です。辞書的にも使えますので、必ず持っておくようにしましょう。私の手引きもほとんどこの本を参考にしていますし、困ったケースでは、この本が必ず使える筈です。
② 抗菌薬の考え方、使い方 Ver. 2, 岩田健太郎/宮入烈著, 中外医学社
「レジデントのための感染症診療マニュアル」より簡単に書かれています。
③ 結核診療プラクティカルガイドブック, 伊藤邦彦, 南江堂
結核のことなら、ほぼ何でも書いてあります。
<推薦サイト>
感染症ブログ:感染症診療の手引きが公開されています。
<推薦メーリングリスト>
Idaten:日々、感染症専門医からのメールが届くので、読むだけで勉強出来ます。
最近見つけたのですが、大野先生の「レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー」が結構面白いです。大野先生は、Idatenで積極的に発言されていて、勉強させて頂いています。
豚の方は落ち着いてきましたが、懸念されるのは鳥インフルエンザ。致死率が高すぎます。
国立感染症研究所の高病原性鳥インフルエンザ情報を見ていると、中国、ベトナムに続いてエジプトで流行が見られるのがわかります。
かなり心配して見ていたのですが、いなか小児科医様のブログで、興味深いニュースが紹介されていました。
『鳥インフルエンザウイルスにとってヒトの鼻腔は寒すぎる
鳥インフルエンザ(H5N1)ウイルスにとって、ヒトの鼻腔内は温度が低すぎることが明らかにされた。このウイルス株がこれまでヒトの間で拡大しにくかったのはそのためではないかと科学者らが報告している。
英インペリアル・カレッジ・ロンドンおよび米ノースカロライナ大学の研究グループによると、鳥インフルエンザウイルスは40℃前後の鳥の消化管内で増殖するが、通常ヒトへの最初の感染部位である鼻腔内の温度は約32℃である。実験の結果、この低温の環境では鳥インフルエンザ株は成長および増殖することができず、近辺の細胞を効率的に死滅させることもできないことが示されたという。
また、研究チームがヒトインフルエンザウイルスに鳥インフルエンザ株由来の蛋白(たんぱく)を追加して特殊な突然変異ウイルスを作製したところ、この株も32℃では生存および成長が困難であった。このことから、鳥インフルエンザウイルスがヒトの鼻腔に容易に感染するには少なくとも2回以上の変異が必要であることが示されるという。この知見は、オンライン医学誌「PLoS Pathogens(病原体)」5月15日号に掲載された。
当面、鳥インフルエンザの日本での流行はなさそうですが、その前に準備しておかないといけませんね。
タミフルやリレンザの備蓄(鳥インフルエンザにどこまで効果があるかわからないけど)、トリインフルエンザ・ワクチンの量産の準備、豚インフルエンザで露呈した対策の不備の修正など、やらなければならないことがたくさんあるはずです。
インフルエンザ騒動で、どこでもマスクが品切れなのだそうです。
Idatenという感染症メーリングリストで知ったのですが、WHOがマスク使用に関するアドバイスを出しています。一部紹介しておきます。
Advice on the use of masks1 in the community setting in Influenza A (H1N1) outbreaks
Advice on the use of masks in health-care settings is accompanied by information on additional measures that may
have impact on its effectiveness, such as training on correct use, regular supplies and proper disposal facilities. In the community, however, the benefits of wearing masks has not been established, especially in open areas, as opposed to enclosed spaces while in close contact with a person with influenza-like symptoms.
Nonetheless, many individuals may wish to wear masks in the home or community setting, particularly if they are in close contact with a person with influenza-like symptoms, for example while providing care to family members. Furthermore, using a mask can enable an individual with influenza-like symptoms to cover their mouth and nose to help contain respiratory droplets, a measure that is part of cough etiquette.
Using a mask incorrectly however, may actually increase the risk of transmission, rather than reduce it. If masks are to be used, this measure should be combined with other general measures to help prevent the human-to-human transmission of influenza, training on the correct use of masks and consideration of cultural and personal values.
医療環境下ではマスクの使用で感染を減らすことが出来るようですが、町中でマスクをつけても感染を減らすことが出来るという根拠はないようです。更に、不適切な使用で感染が増えることがあります (不適切な使用が具体的に何なのか明記はされていませんが、インフルエンザウイルスの付いた手でマスクの口の部分を触ってしまったりなどと推測します)。
1ヶ月くらい前、先輩の子どもがインフルエンザに罹患しました。弟が罹患したので、兄と弟にマスクを付けていたら、途中で兄が弟のマスクを付けていたのに気付いたのだとか・・・。幸い、兄は罹患しなかったそうですが。
このアドバイスの中で、WHOは人混みを出来るだけ避けることを推奨していますが、東京のサラリーマン、勤務医はそうはいきませんね。満員電車でぎゅうぎゅうに押し込まれて身動きもままになりませんし、冬は関東で新型インフルエンザが大流行するかもしれません。
昨日、ついに豚インフルエンザが Phase 5となりました。パンデミックを意味する Phase 6も視野に入ってきました。
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