Category: 医学一般

第 1回 Journal club

By , 2012年11月30日 8:17 AM

医局の後輩たちを集めて第 1回 Journal clubを行いました。後輩たちに英語を読むのに慣れてもらうのが目的で、医局主催の抄読会では読まないような論文を読むきっかけになればと思っています。資料は英語で書かれていれば、「Play Boy」以外何でも O.K. です。とにかくハードルは低く、低くです。この日の論文を極簡単に説明します。

さて、一人目の「ぶぶの助」先生は、シラミについての論文を読んできました。

Topical 0.5% ivermectin lotion for treatment of head lice.

治療抵抗性のアタマジラミに対して、疥癬治療薬 Ivermectin (商品名:ストロメクトール) を使用し、他の虫卵駆除剤と比較しました。この試験に参加したのは、生後 6ヶ月以上の患者でした。乾いた髪につけて、10分後に洗い流しました。シラミが検出されなかった割合は、Ivermectinとその他の虫卵駆除剤でそれぞれ、day 2 (94.9%, 31.3%), day 8 (85.2%, 20.8%), day 15 (73.8%, 17.6%) でした。副作用は、掻痒感、表皮剥離、紅斑でした。

ぶぶの助先生に何故この論文を選んだのか聞いたら、「もし女の子からシラミ貰っちゃったときにこの薬を使ったら、あそこの毛を剃らなくて済むかなと思って・・・」とのことでした。残念、この論文はアタマジラミ、女の子からプレゼントされるのはケジラミです。貰わなくて済むような日常を送りましょう。

二人目の先生は、脳卒中と非脳卒中をベッドサイドでどう見分けるかの論文です。

Distinguishing between stroke and mimic at the bedside: the brain attack study.

多変量解析の結果、脳卒中であることを最も示唆するのは NIHSS>10であることで、Odds比 7.23, 次に OCSP分類 (strokeを total anterior circulation, partial anterior circulation, posterior circulation, lacunar infarctionに分ける) が可能なことで、Odds比 5.09でした (Table 3) (※単変量解析の結果は Figure 1)。NIHSS>10だと 8割くらいの確率で脳卒中と言えます (Figure 2)。非脳卒中で多かったのは、てんかん、敗血症、代謝性などでした (Table 2)。

脳卒中を見慣れた専門医が迷うことは少ないと思いますが、わからなければとりあえず NIHSSをとってみるのは有用だということですね。この先生は、その日ベストプレゼンテーション賞を受賞し、景品の「ホワイトロリータ」を贈られたため、ニックネームが「ホワイトロリータ」になってしまいました (その先生はロリコンではありません)。

最後に、私が Jolt accentuationについて纏めました。髄膜炎の中には、見逃すと致死的なものが含まれます。診断のためには、腰椎レベルでの椎間から針を刺して脳脊髄液を取ってこないといけません。ところが、どんな患者さんにその検査をするには議論があるのです。例えば、風邪を引いて発熱し、頭痛がするだけで病院で脳脊髄液を取られたら、症状の軽い患者さんは「何故ここまでするのか?だったら受診しないで市販の風邪薬飲んでおくよ」と思うでしょう。さらに検査にかなり時間がかかるので、風邪の流行るシーズンには、数名しか診察できないことになってしまいます。

内原俊記先生は旭中央病院勤務時代に、このジレンマを解決する画期的な方法を見つけました。それは Jolt accentuationと呼ばれるものです。頭をイヤイヤと振ってみて、頭痛が悪くなるようなら髄膜炎の可能性が高くて脳脊髄液の検査が必要、悪くならなければ多分大丈夫・・・というものです。簡単で、感度が高いというので、あっという間に広まりました。ところが、2010年に海外から、まったく違った結論の論文が出てしまいました。Jolt accentuationは感度が低すぎて、陰性だからといって髄膜炎は否定できないというのです。ネットでも話題にしている方がいらっしゃいます。

Jolt Accentuationの追試まとめ

それぞれの患者背景、状況を把握しないと議論になりませんので、Excelで一覧表にしてみました  (※二次使用の際は、miguchi@miguchi.netまで御一報ください)。

 Jolt accentuation一覧表

こうして見ると、意識障害のない軽症そうな症例では rule outのために Jolt accentuationを行なって不要な髄液検査を省き、意識障害や神経学的異常所見があれば Jolt accentuationの有無にかかわらず髄液検査をすべき、というのが落とし所な気がします。

細菌性髄膜炎の自験例では、「自宅では頭が痛くて動かせなかった」患者さんが、来院時には Jolt accentuation陰性となっていたケースがあり、所見を取るタイミングなども関係してくるのかもしれません。

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IgG4関連疾患

By , 2012年11月16日 7:36 AM

11月13日に、第14回ニューロトピックス21 「IgG4関連疾患」という講演を聴きに行きました (神経内科領域だと、肥厚性硬膜炎が IgG4関連疾患として有名です)。梅原教授の話に、滅茶苦茶感動しました。内科学会誌に総説が載ると言われていたので、メモは取らなかったのですが、取っておけばよかったと後で後悔。覚えている範囲で紹介します。

第14回ニューロトピックス21

「温故知新~『IgG4関連疾患』 ―21世紀に日本で発見された新たな疾患概念―」

金沢医科大学血液免疫内科学 梅原久範教授

まずは掴みの二つのギャグ。梅原教授は、慶應義塾大学医学部を卒業し、地元の京都大学病院で研修をしました。京都大学病院に初出勤の日、「慶応ボーイが来る」ということで、ナースが数十人病棟に列を作っていたそうです。ところが、梅原教授の顔を見るや、「なーんだ」とみんな解散したのだとか。また、金沢医科大学に教授として赴任してしばらくして、大雪が降った時のこと。朝降った雪で、車が埋まり、みんなどうするのかと思って見ていたら、「マイ・スコップ」で器用に道を作って車の除雪をしていました。ところが、車の除雪をしていた人が、車を間違えたことに気付き、わざわざ雪を元に戻している姿を見て、「大変なところに来てしまったなぁ」と思ったそうです。

さて、肝心の IgG4関連疾患について。話は「ミクリッツ」から始まります (ミクリッツは、過去にこのブログでも登場しました , )。ミクリッツは「唾液腺が腫脹する疾患」を「ミクリッツ病」として報告しました。ところが、癌などでも唾液腺が腫脹することがあるので、原因がはっきりしているものをミクリッツ症候群、特発性のものをミクリッツ病とすることで、一応のコンセンサスが得られました。その後、眼科医シェーグレンが眼と唾液腺に異常を来たす疾患を報告し、「シェーグレン症候群」として纏めたのですが、欧米では「ミクリッツ病はシェーグレン症候群の一部」という理解が進み、「ミクリッツ病」という概念が姿を消していってしまったのです。(この辺りの歴史をわかりやすく記したサイトが存在します)

ところが、日本の医師たちは、「ミクリッツ病」と「シェーグレン症候群」が別々の病気だと理解していました。そして、ミクリッツ病で得られた唾液腺に抗 IgG抗体を当てると IgGの集簇が確認され、さらに IgGのサブクラスを調べるため抗 IgG4抗体で免疫染色してみると、綺麗に染まりました。その軽鎖に対して、抗κ染色、抗λ染色をしてみると、monoclonarityはなく、悪性リンパ腫などの原因による IgG4陽性細胞の腫瘍性増殖ではないことが確認できました。IgG4は血中でも高値を示しました。一方で、シェーグレン症候群ではこのような現象は見られませんでした。

面白いことに、他の様々な臓器の病変で IgG4で染色されることが報告されてきました。例えば、自己免疫性膵炎、硬化性胆管炎、尿細管間質性腎炎・・・などです。それでこれらの疾患をまとめようではないかという話が出てきたのです。

(参考) Wikipedia-IgG4関連疾患

主に以下の疾患の重複概念として提唱されている

  • ミクリッツ病(Mikulicz disease)
  • 自己免疫性膵炎(AIP)
  • IgG4関連硬化性胆管炎
  • IgG4関連腎症
  • IgG4関連肺病変
  • 後腹膜線維症の一部
  • Kuttner腫瘍
  • 下垂体炎の一部(IgG4関連下垂体炎)
  • リーデル甲状腺炎
  • 慢性前立腺炎の一部(IgG4関連前立腺炎)

梅原先生は、病理学や消化器、眼科、腎臓内科など幅広い分野からメンバーを集め、最後、班会議の申請期限ギリギリに岡崎先生に電話しました。午後 11時くらいの話でした。ところが何度電話しても電話中でした。何度目か、やっとつながって「おい、何を長電話をしているんだよ?」と言ったら、「お前こそ何を長電話しているんだ?」と返されました。ふたりとも班会議を作ろうとしていて、お互いに同時に電話して相手を誘おうとしたので繋がらなかったらしいのです。結局、梅原班と岡崎班を作って、どちらかが落ちたら合流しようという話にまとまり、両方申請が通りました。

会議が出来て、まずやらなければならなかったことは、名称の統一でした。それまでは、研究者毎にさまざまな名称で報告されていたのです。結局、”IgG4-related systemic disease” と “IgG4-related disease”が最後に残り、多数決で “IgG4-related disease (IgG4関連疾患)” に決定しました。

ところが、マサチューセッツ総合病院 (MGH) で IgG4関連疾患のシンポジウムが開かれた時、プログラムが “IgG4-related systemic disease” になっていたのです。そして、日本からの “IgG4-related disease” に関する演題名も、全て “IgG4-related systemic disease” に書き換えられていました。梅原教授は猛抗議し、メールで「もし “IgG4-related systemic disease” という語にするのだったら、日本人の演者は全員ボイコットする」ことを伝えました。結局相手は折れて、「そこまで名前には拘っていないんだ」と返してきて、”IgG4-related disease” の名前を用いることが決まりました。国際的にも、日本発のこの名前を用いることとなり、大きな意義のある出来事でした。

さて、次は診断基準です。研究班がこだわったのは、「専門家でなくても診断できる」ことでした。そのため、3項目しかない簡単な基準が出来上がりました。

IgG4関連疾患診断基準

1. 臓器病変

2. 血清IgG4>135 mg/dl

3. 組織学的にIgG4陽性細胞の浸潤がみられる

この 3つを満たせば確定診断になります。IgG4は商業ベースで測れます。3番目に 病理基準を入れたのには理由があります。実はアトピー性皮膚炎や類天疱瘡などでも IgG4はある程度増えることが知られています。これらを混ぜてしまうと、疾患概念が曖昧になってしまうのです。ということで、他の疾患が混ざりにくいように少しハードルを上げたという意味合いがあります。

ただ、自己免疫性膵炎のように、組織を取りにくい場所に病変があると、組織診断ができませんので、その場合は “IgG4-related disease” という名前ではなく、”IgG4-related 組織別病名” と名付けることにしました。例えば、”IgG4 related pancreatitis” といった感じです。この疾患では一つの臓器に限らず病変をつくることがありますが、その場合には PET検査が病変の検出に有用であるようです。

この診断基準には裏話があります。”Modern Rheumatology” という雑誌に掲載されたのですが、本来なら受理されてから掲載まで 1年くらい待たされる筈でした。しかし、早く発表しなければいけないということで、Editorと掛けあって、12ヶ月飛び越して 2012年 1月に掲載してもらったとのことでした。雑誌社もフットワークが軽いですね。好感の持てるエピソードです。

ところで、この疾患の発症メカニズムはよくわかっていません。しかし、いくつかの知見を講演で聴くことが出来ました。IgG4が他の IgGサブクラスと決定的に違うのは、二量体を形成するのに S-S結合を欠くことです。そのため、二量体がバラけて単量体になりやすいことが知られています。そしてその単量体が他の単量体とヘテロ二量体を形成すると、より多くの抗原に反応しやすくなるのではないかと推測されます。また、IgG4関連疾患では、Th2 shiftが起きていることが、サイトカインの解析からわかっています。その結果として、自然免疫の異常もきたすそうです。現在では、患者血清と健常者の血清をそれぞれラベリングして 2次元電気泳動し、患者血清のみが形成するタンパク質のバンドを MS解析したり、治療の前後で発現パターンの変わる遺伝子を探したり、様々な研究がされているようです。

治療は、ステロイド、免疫抑制剤、リツキシマブが効くとされています。梅原先生らは、まずステロイドを 0.6 mg/kgで開始し、漸減する方法を推奨しています。自己免疫性膵炎で行われていた治療を応用して、この投与量に決めたそうです。この疾患は、ステロイドへの反応が良好です。従って、もしきちんと診断されればステロイドの内服だけで良くなるのに、疾患を知らないがために腫瘍として手術されてしまう症例が出てきます。こうした事態を避けるために、疾患の啓蒙活動が必要なのだと思います。

推定患者数は、約 20000人と言われています。金沢大学、金沢医科大学で診断された患者数と、石川県の人口から人数を推定したそうですが、自己免疫性膵炎から推定した数字とそれほど大きな開きはないようです。

(参考)

呼吸器内科医 -IgG4関連疾患-

日本発の新たな疾患概念  IgG4関連疾患の潮流

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FIRST AUTHOR’S

By , 2012年11月11日 8:45 AM

FIRST AUTHOR’Sというブログを見つけました。日本人の論文著者が、自身の論文を要約したものをまとめたサイトのようです。そのせいか、論文の内容がかなり詳細に記述されています。

FIRST AUTHOR’S

読もうと思っていた、球脊髄性筋萎縮症に対するナラトリプタンの効果を示した論文の要約もありました。

ナラトリプタンはCGRP1の発現抑制を介し球脊髄性筋萎縮症を抑止する

専門外で内容が難しい論文も多いけれど、自分の専門分野の論文もたまに登場するので、定期的にチェックしていきたいと思います。

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祝!ノーベル医学生理学賞

By , 2012年10月10日 8:23 AM

10月8日、ラボでノーベル賞のサイトを見ていて、山中伸弥教授がノーベル医学生理学賞を受賞したことを知りました。彼の業績については今更説明の必要はないでしょう。

ノーベル賞のサイトの Press releaseを見ると、key publicationsは、この論文になっています。雑誌の購読契約をしていなくても、無料でアクセス出来るみたいですね。

 Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defined Factors

Youtubeでは、 2010年に NIHで山中先生が行った講義を見ることができます。当初、APOBEC1の研究をされていたみたいです。それから ES細胞の研究をされていたと話しています。ES細胞の研究の後は、奈良先端科学技術大学院大学での iPS細胞の研究の話です。

・Induction of Pluripotency by Defined Factors

ギャグが面白いですね。英語が苦手で、ヒヤリング全くダメな私でも、引きこまれて聞いてしまいました。例として、前半部分のギャグを挙げると・・・

①当時はもっと髪がありました (6:00)

②テクニシャンが言ってきたのです。マウスが妊娠している。でも、オスのマウスなんだ!(8:35)

③APOBEC1が癌遺伝子だとわかった。だからこの遺伝子は遺伝子治療に使えない。(9:30) (※妊娠したと思っていたのは腫瘍化した肝臓だった)

④(3つのことがわかった) 一番重要なこと、「ボスの仮説を信じちゃいけない」 (10:15)

⑤日本に戻って、 私は PADっていう心の病気になりました。PADというのは私が名付けた病気で、”Post America Depression (アメリカ後鬱)” です。 (16:16) (※このあと、金もテクニシャンもなく、自分で数百匹のマウスを世話していたことを語る)

といった感じです。

47分10秒からの、「iPS細胞バンクを作る資金を獲得しようとしたけど、新しい政権 (民主党) は、我々に friendlyじゃない」っていうトークには笑いました。多分、「京大・山中教授「希望奪わないで」事業仕分けの科学予算削減で」とか「最先端研究:支援プログラムの配分額 18~50億円に減」っていう記事と関係がありますね。

さて、体細胞を一気に多能性幹細胞まで戻せる “山中の 4因子” ですが、化学物質を使うことで、4因子の数を減らす試みがされています。我々神経内科医にとってお馴染みのバルプロ酸という抗てんかん薬を使えば、Oct4遺伝子とSox2遺伝子だけで iPS細胞が作れるらしいです。資本が集中投資されているだけあって、凄い勢いで研究が進んでいます。

一方で、この技術、悪用しようと思うと色々できちゃいます。早速色々妄想してる方々がいらっしゃいます (^^;

(追記)

下記のサイトから、山中伸弥教授に寄付が続々と寄せられているようです。

JustGivingJapan

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EBM

By , 2012年9月26日 12:42 AM

Evidence Based Medicine (EBM)」は、現代医療を象徴する言葉の一つです。日本語では「根拠に基づいた医療」と訳します。

一方で、「EBM」という言葉を誤解して振りかざす人を時々みかけます。

先日、知り合いの先生のサイトを覗いたら、「EBMに対する誤解」について、凄く面白いことが書いてあったので、紹介します。こうした誤解に陥らないように気をつけないといけませんね。

EBMに対する誤解
誤解1:「EBMに基づいた医療」なる医療がある という誤解
誤解2:研究結果に統計学的有意差があれば,治療効果はあり,患者にその治療をすべきである という誤解
誤解3:EBMを実践することと,エビデンスを患者に当てはめることは同じことである という誤解
誤解4:EBMとは,エビデンスを偏重する行動様式であり,医療者の臨床経験を否定するものである という誤解
誤解5:最強のエビデンスはRCTである(RCTがなければエビデンスはない) という誤解
誤解6:エビデンスがなければ,EBMは実践できない という誤解

上記リンク先で詳しい説明がされています。是非様々な医療従事者に読んで欲しいです。

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Google Scholar

By , 2012年9月21日 12:40 PM

Googleが “Google Scholar” という論文検索システムを提供しています。 その “My Citations” 機能を使うと、自分の論文を誰が引用したかがわかるのでやってみました。

Google Schalorの機能を使って自分の論文の引用状況を調べる

すると、私の書いた日本語論文 (abstractは英語) が、ロシア語や中国語の論文に引用されていてびっくりしました。「本当に読んで引用したのかな???」と思って引用論文を読もうとしたら、当然意味不明でした。中国語は漢字でニュアンスが通じるけれど、ロシア語難しすぎますね。

励みになるので、被引用状況は今後ちょこちょこチェックしていこうと思います。

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President

By , 2012年9月9日 1:38 PM

オバマ大統領の検診結果が whitehouseのサイトで公開されているのを知りました。2010年2月28日付のレポートです。結果が正常だったので、強い大統領をアピールしたかったのでしょうか。「アメリカの大統領って、こうした結果が公開になるんだなぁ・・・」と思いました

Release of the President’s Medical Exam (実際のレポートはPDF参照)

検診に必要なのか科学的に疑問視される項目もいくつかありますが、金の心配がなければ、色々測ってしまって文句は出ないのでしょう (でも、PSAはもし異常値を示した場合、必要のない検査/治療がなされる危険性が指摘されていますが・・・)。下部消化管の検査は、内視鏡ではなく、CTによるバーチャル内視鏡で行ったようです (参考:医療ガバナンス学会:オバマ大統領はなぜ内視鏡ではなくCTで大腸検査を受けたのか?)。

上記リリースでは、

Dr. Kulhman recommends his next physical take place when he turns 50 in August 2011.

となっていますが、whitehouseのサイトを探しても、現時点では 2010年2月28日より新しいレポートは見つかりませんでした。忙しいのか、強い大統領をアピールする必要がなくなったのか、何か公表できない事情があるのか・・・ちょっと勘ぐってしまいます (^^;

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論文不正に関わるあれこれ

By , 2012年8月26日 9:19 AM

論文というのは、研究者にとって最大の評価対象です。ポストや生活がかかっているだけに、捏造など不正を試みる研究者も、わずかですが存在します。

最近、海外で斬新な手口での論文不正が立て続けに明らかになりました。

まずは中国から・・・。

「史上最強のねつ造教授」、同姓同名の著名学者の論文を勝手に自分の経歴に―中国

2012年7月28日、中国・北京化工大学の陸駿(ルー・ジュン)教授が同姓同名の学者が書いた複数の論文をすべて自分のものと偽り、経歴をねつ造していたことが発覚した。京華時報が伝えた。

論文盗作や経歴詐称の摘発で有名な方舟子(ファンジョウズ)氏が告発した。発覚のきっかけは陸教授の「助手募集広告」。そこに書かれていた経歴と代表的な7本の論文に矛盾が存在することをネットユーザーが発見した。例えば、そのうちの1本はイェール大学の「ルー・ジュン博士」が書いたものと全く同じだったが、ルー博士はボストン大学卒であるのに対し、陸教授はトロント大学卒。2人の写真を照合しても、似ても似つかない別人だった。

7本の論文はいずれも欧米の一流学術誌に発表されている。方舟子氏によると、「これほどの論文が書けるなら、世界トップクラスの大学で教授になれる」というほど輝かしいもの。だが、実は「ルー・ジュン」という同姓同名の3人の学者の論文を寄せ集め、すべて自分のものと称して経歴に載せていただけだったようだ。

告発後、北京化工大学のウェブサイト上の陸教授に関する経歴がすべて削除されていることから、方舟氏は「学歴も含め、経歴はすべてウソだったのでは」との見方を示している。ネット上では陸教授の新たな詐称手口に「史上最強のねつ造教授」と非難ごうごう。方舟子氏も「同姓同名の学者に目を付けるとは。よく考えたものだ。思わず感心してしまう」と話している。

騒ぎを受け、同大では陸教授の経歴ねつ造疑惑に対する調査を開始した、と声明を発表。ねつ造が事実であれば、厳しい処分を下すとしている。中国ではアモイ大学医学院教授の学歴詐称が発覚し、物議を醸したばかり。(翻訳・編集/NN)

データの使い回しや多重投稿といった手口での論文不正は時々見ますが、想像の斜め上を行く手口ですね。

次は韓国から。

これも思いもつかない手口です。 “Acknowledgments: I thank Google for free e-mail address to pretend I am someone else.” という一文が論文に記載してあったとかなかったとか・・・ 。冗談です (^^;

一方、日本でもいくつも論文不正が疑われる事例があり、それを扱ったブログが存在します。

論文不正

同じ管理者の関連ブログ、「東京大学 分子細胞生物学研究所 の論文捏造・改ざん・不正疑惑」でやり玉に上げられた東大分生研の加藤教授について、Twitter経由で近況が伝わって来ました。

一般に、研究分野でネガティブ・イメージがつくと研究者生命は絶たれますが、これだけの人物をそのまま埋もれさせるのはもったいないと思っていました。加藤先生がこういう形で被災地で尽力されていると知り、ちょっと安心しました。


(関連)

論文捏造疑惑 

 

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内科学会誌

By , 2012年8月20日 9:02 PM

日本内科学会のサイトにアクセスすると、会員は「日本内科学会アーカイブ」で過去の内科学会誌を全てオンラインで読めることに気づきました。

記念すべき第一号第一頁は、腎臓病という論文です。

論説

腎臓病

第十回日本内科學會総會宿題報告

醫學博士 佐々木 隆興述

我ハ昨年五月下旬頃前會長ヨリノ御命令ニヨリ、本年ノ内科學會宿題腎盂炎ニ就ヲ御報告致スハ光栄ニ存ジマス

このような冒頭で始まります。1913年の文章なのですが、時代を感じますね。

第一号の二本目の論文は、周期性四肢麻痺についてです。1913年当時、国内での報告は 7-8例であったことがわかります。

定期性四肢麻痺ニ就テ

醫學士 北村 勝藏述

或ハ發作性麻痺トモ云フ Schachnowicz, Westphal等ガ獨立ノ疾患トシテ報告セシ以来西洋ニ於テハ可ナリ多クノ報告出テ日本ニ於テモ既に七八例報告セラル、然レドモ猶ホ未ダ稀有ナル疾患に属スルモノナレバ吾人ガ經驗セシ三例ヲ上グベシ

同じ号で腱反射についての記述がなされているのが、神経内科にとっては興味深いところです。

 反射作用ノ臨牀的意義

第十回日本内科學會総會演説

金澤醫學専門学校  那谷 與一述

反射作用ガ疾病ノ診断ニ對シテ大ナル意味ヲ有スル事ハ論ヲ待タザル所ニシテ、殊ニ神經系統ノ疾病ノ診斷上甚ダ重要ナル價値アルヲ認ム。

この論文には、ヒステリーの話がよく出てきました。 Babinskiが「器質性片麻痺とヒステリー性片麻痺の鑑別診断」という論文を書いたのが 1900年ですから、時代的には非常に近いですね。

一方で、第一号には、びっくりするようなタイトルの論文があるのです。それは「血中ニ注入セラレタル墨汁ノ運命」という論文。本文を読むと、家兎を用いた動物実験の話でした。

1916年は梅毒に関する報告が多く、「「サルワルサン」及免疫血性注射試驗ヲ經タル海〓臟器内ノ黄疸出血性「スピロヘータ」ノ所見 附血清療法ヲ施セル黄疸出血性「スピロヘータ」病患者ノ解剖例ノ病原「スピロヘータ」ノ所見ニ就テ」という論文も書かれていました。

このように古い論文のタイトルをパラパラ眺めていると、歴史を肌で感じることができます。医学史好きの内科学会の会員の先生にはオススメです。

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BLOWIN’

By , 2012年7月16日 8:37 AM

川崎病の原因について、非常に面白い論文が、2011年11月に出ました。

Association of Kawasaki disease with tropospheric wind patterns

論文の Figure 4が凄いと思うのですが、日本での中央アジアからの北西の風、あるいはサンディエゴやハワイでの東西風 (pacific zonal wind) の強さと川崎病の発生率が綺麗に相関しているのです。風に乗って何らかの病原体が運ばれてきて、それに対する免疫応答で川崎病を発症するのではないかという推測が成り立ちます。

それに関連して、Nature 2012年4月5日号の News Featureに興味深い記事が掲載されました。

Infectious disease: Blowing in the wind

この記事の本題は病原体が何なのかの犯人探しです。

2011年3月上旬、汚染を防ぐための防護服を装着したスペインのエンジニアが、Barcelonaの Rondoのラボで作られたフィルターを乗せて飛行機で飛び立ちました。飛行機はリアルタイムの風データを用いて進路を取りました。飛行機が戻ってきた時にサンプルはドライアイスに梱包され、コロンビアにある Lipkinのラボに送られました。Lipkinはフィルターに引っかかった DNAを網羅的に解析しました (metagenomics)。

タイミング的にはある意味幸運でした。なぜなら、サンプル回収のため飛行機が飛んだルートは福島を横切っており、もし 1週間遅ければ福島の原発事故があり、風に放射能が紛れてしまっただろうからです。

コロンビアでの解析はゆっくりと進んでいます。高高度の大気中で採取された DNAは極めて微量だからです。まだ論文になっていないため Lipkinは詳細を語りませんが、既に Kawasaki病の原因候補がいくつか見つかってきており、今後は免疫学的検定が行われるのではないかと考えられています。候補 DNAへの抗体を作成し、川崎病患者の血清に加えて、もしコントロールより強く免疫応答が起これば、候補 DNAの信憑性が高くなります。次のステップは、患者からの血液サンプル中に、air filterから見つかったのと同じ DNAを探すことです。

このように川崎病の犯人探しはかなり容疑者が絞られてきているようです。もう少し捜査が進めば犯人が捕まるかもしれません。

記事の最後には、インフルエンザウイルスなど、他にもこのように風で運ばれてくる病原体があるのではないかという台湾の研究者のコメントを載せています。

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