Category: 医学一般
ゲノム
40万円でヒトゲノム解読 米企業が新技術
ヒトのDNAのすべての遺伝情報(ゲノム)を、一人分わずか40万円で解読できる新技術を米企業の研究者らが開発し、5日付の科学誌サイエンス(電子版)に発表した。これまで報告がある中で最も安価だった400万円余の10分の1。個人が自分のゲノムを調べ、病気の予防や健康作りに役立てる「パーソナルゲノム」の時代が間もなく到来しそうだ。
ヒトのDNAの遺伝情報は4種類の塩基が対になった塩基対の配列で記され、すべて合わせると30億塩基対ある。米カリフォルニア州のコンプリートゲノミクス社などのチームは、DNAの短い断片をコピーしてつなげて「DNAナノボール」という固まりを作る技術などを開発、男女計3人分のゲノムを機械で一気に読み取った。誤読は塩基10万対あたり一つ程度という精度の高さだ。
ゲノムには、特定の病気のなりやすさや薬の効きやすさ、酒酔いのしやすさなどの体質に関する情報が含まれており、ゲノムを一度調べればそれらが網羅的にわかると期待される。個人のゲノム解読にかかる時間と費用は、03年に終了したヒトゲノム計画時にはおよそ10年、1千億円以上ともいわれたが、技術進歩で近い将来、15分、1千ドル(約10万円)程度にできると予測する企業もある。
ただ、ゲノムは「究極の個人情報」とも呼ばれる。実用化に向けては倫理面の配慮や情報管理をより慎重に行う必要性もある。(小堀龍之)
次世代シークエンサの進歩によるものですね。
人のゲノムは iPodに全部納めることが出来るくらいの情報量なので、将来自分のゲノムを持ち運ぶことも可能になるかもしれません。
ただ、自分の遺伝子を知りたいかというと、難しい問題ですね。遺伝子異常が明らかになって、将来何歳くらいで不治の病を発症するか明らかになったとしたら、相当つらいものがあります。
何人かの遺伝異常を持つ方を診ましたが、発症していないにも関わらず、遺伝子異常を持っていると知っただけで自殺を図った方もいます。
安易な商業化は避けるべきだとも思うのですが。
タンパク質科学イラストレイテッド
「蛋白質科学イラストレイテッド (竹縄忠臣著編集, 羊土社)」を読み終えました。今年の春から読み始めたので、半年くらいかかってしまいました。その間に他の本も色々と読みましたが。
前半は、蛋白質の基礎的な話や品質管理の話を中心としていて、非常に読みやすかったのですが、蛋白質修飾の話からだんだん難しくなり、続く蛋白質機能の辺りはちんぷんかんぷんでした。ここを理解するためには、もう少し基本的な本を読まないといけません。
本書の最後は、疾患が具体例に示され、神経変性疾患や分子標的治療薬の標的部位の話などが登場し、臨床に近かったので楽しめました。
全体的には難解だったのですが、神経変性疾患を克服するには、こうした基礎の話が非常に重要な訳で、読んでいて得ることの多い本でした。普段の臨床から少し距離を置いた本も新鮮なものですね。
蛋白質科学イラストレイテッド
第1章 タンパク質の基礎知識 【末次志郎】
第2章 タンパク質動態の基本
1 タンパク質の合成 【姫野俵太】
2 タンパク質の構造 【神田大輔】
3 分子シャペロンとタンパク質のフォールディング 【寺澤和哉,南 道子,南 康文】
4 タンパク質分解【八代田 英樹,小松雅明】
5 タンパク質輸送と局在【谷 佳津子,多賀谷 光男】第3章 タンパク質修飾
1 セリン・スレオニンホスファターゼ 【後藤英仁,稲垣昌樹】
2 チロシンキナーぜ 【小谷武徳,伊東文祥,岡田雅人】
3 哺乳動物細胞のプロテインセリン・スレオニンホスファターゼ 【田村眞理,佐々木 雅人,小林孝安】
4 チロシンホスファターゼ 【大西浩史,的崎 尚】
5 アセチル化,脱アセチル化 【六代 範,北林一生】
6 タンパク質の脂質修飾 【内海俊彦】
7 ポリADP-リボシル化 【三輪正直,金居正幸,内田真啓,花井修次】
8 糖鎖修飾 【佐野琴音,小川温子】第4章 タンパク質機能
1 細胞骨格タンパク質 【馬渕一誠,池辺光男,伊藤知彦,豊島陽子】
2 受容体 【橋本祐一,芳賀達也】
3 情報伝達関連タンパク質 【尾崎惠一,河野通明】
4 転写調節複合体 【吉田 均,北林一生】
5 アポトーシス関連タンパク質 【高澤涼子,酒井潤一,須永 賢,田沼靖一】
6 細胞周期関連タンパク質 【野島 博】第5章 タンパク質分析法
1 タンパク質の分離と精製 【長野光司】
2 マススペクトロメトリーとプロテオミクス解析 【長野光司】
3 タンパク質の発現系 【本庄 栄二郎,黒木良太】第6章 タンパク質と疾患
1 タンパク質分解異常と疾患 -神経変性疾患を中心に- 【荒木陽一,鈴木利治】
2 フォールディング異常と疾患 【大橋 祐美子,内木宏延】
3 タンパク質変異と疾患 -癌にかかわるタンパク質- 【鎌田 徹】
4 癌治療の分子標的タンパク質 【丸 義朗】
StaGen
StaGen情報解析研究所長の鎌谷直之先生の講演を聞きました。SNP (single nucleotide polymorphism) に関する話が主体でした。
以前、「遺伝子解析超基本講座」のエントリーで紹介しましたが、次世代シークエンサはゲノム・リーディングの速度が飛躍的に上昇していて、フル・ゲノムを読むことが現実的になりました。こうしたゲノム・リーディングが簡単にできるようになり、それらの遺伝子を比較することで新たな知見を得られるようになりました(人のフル・ゲノムは、30万塩基対あるとはいっても、iPodに入るくらいの情報量らしいです)。
これまでの臨床研究では、大規模研究が最も信頼される研究手法であった面はあると思います。しかし、関節リウマチで大規模スタディを組んだとしても、バリアンスの問題で、患者の 3%くらいしかデザインにマッチしないというような問題がありました。そして、選ばれた患者が全患者を代表しているかどうかは不明でした。そうしたスタディで知見が得られても、目の前の患者にそれが当てはまるかはわかりません。
そこで注目を集めているのが、SNPです。SNPはどんな患者でも調べることができます。それは目の前の患者個人の情報です。上記の大規模スタディの問題点を克服していると言えます。
そして、一塩基多型で薬の効果はかなり違うことがわかってきました。つまり、SNPを調べれば、それに応じた薬の使い方ができるので、テーラーメイド医療が可能になるということです。また、高尿酸血症にSNPが関与していることなど、病気の発症に関する情報も得られるケースが出てきました。研究のトピックスでもあって、Pubmedで「single nucleotide polymorphism」というキーワードと何らかの疾患のキーワードで検索すると、かなりの件数がヒットしますね。
これからの時代は、ゲノム・リーディングをして SNPの情報を得て、それに応じた薬の選択がなされるようになるのではないかと思います。
ただ、SNPで病因がわかるわけではないので、従来の研究手法も重要で、研究のオプションが一つ加わったと解釈するのが良いのではないかと思います。
遺伝子解析超基本講座
6月 13日に学際企画による遺伝子解析超基本講座に参加してきました。10時から 16時までみっちり講義で、結構疲れました。
場所は信濃町の東医保険会館。信濃町駅には初めて行ったのですが、怪しい教団施設が乱立していました。宗教って金になるんですね。
今回は超基本講座でしたが、PCR法の原理程度の内容は知っていることが前提で、実際に行うにあたってという話が主体でした。簡単に内容を書いておきます。
遺伝子解析超基本講座1. 遺伝子解析実験を上手く運ぶための基礎知識
2. DNA解析実験の立ち上げ入門
3. DNA・RNAの抽出
4. PCRによる断片の増幅
5. 電気泳動
6. 変異・多型解析
7. シークエンシング
最初の方は基本的な内容でしたが、特に PCRにおけるプライマーの設計は勉強になりました。プライマーの長さだとか、GC含量だとか、Tm値の計算なんてのは、実際にまだ実験をしたことがない者にとっては、新鮮でした。
シークエンシングの話も面白かったです。所謂、古典的な方法だと Sanger法を用いていたのですが、ヒト DNA 30万塩基を 1回読むのにかかる時間は、1996年の機械で約 5000年、2002年の機械で約 5年。ところが 2006年に超高速シークエンサーが登場し、2006年に約 15日、2007年に約 6日と飛躍的に時間が短縮されました。数年以内には、何時間かで読むことが出来るようになりそうです。技術の進歩は凄いですね。
講師の大藤道衛先生は著書をたくさん執筆されていて、話が整理されていました。また、実践的でした。講習が終わってから、質問コーナーには実験ノートを持った研究生達が集まりました。大藤先生は、その結果を見ながら、どうして上手くいかないかを的確に指摘し、失敗を回避する方法を指導されていました。私は、Nested PCRについて質問しました。「神経内科の分野では、髄液からの結核菌の検出には Nested PCRを用いるべきだと良く言われるのですが、かなり感度が違うのでしょうか?」と質問したのですが、大藤先生によると、Nested PCRは古い方法だし、Real time PCRでも感度が十分なので、無理に Nested PCRにこだわる必要はないのではないかとの話でした。
散々勉強して、頭から湯気が出ていたため、練馬の「海峡」で一杯飲んで帰りました。鮎の塩焼きが美味しかったし、「田酒」「司牡丹」も最高でした。
リアルタイムPCR手技 完全マスター 実技講習会
5月 17日 (日) に「リアルタイムPCR手技 完全マスター 実技講習会」に参加してきました。学際企画のセミナーで、講師は防衛医大法医学の高田雄三先生でした。池袋駅から近く、開始も 10時とやや余裕があったので、当直先から参加することが出来ました。
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横田敏勝先生
偶然、滋賀医科大学名誉教授の横田敏勝氏のサイトを知りました。私は以前、シューマンの手についてこのブログに書いたことがありますが、横田氏も「芸術の中の痛み」という連載など、私の興味ある分野で色々書かれているようです(氏の「音楽家の “使いすぎ症候群”」というエントリーでは、シューマンにも触れています)。
氏の「痛みの世界史」というコラムを読むにつけて、一度お話したかったとの念を強くしました。しかし、残念。平成 17年 2月 14日に、腎臓がんで急逝されたそうです。ただ、幸いなことに横田先生の書かれた文章を読むことが出来ますので、紹介しておきます。
鍼治療
針治療後に血圧が低下して脳梗塞を起こしたり、カイロプラクティック後に椎骨動脈解離(頚部を急激に回旋するため)を起こして来院した症例の経験があります。前者は非常に特殊な症例なので、ほとんど報告はないかもしれませんが。
あらゆる治療には、それなりの合併症が存在することは免れないので、そのこと自体をとやかくいうつもりはありません。しかし、治療に関する情報を把握して、メリット・デメリットを勘案して選択するべきだと思います。
あるサイトに鍼治療に関する合併症の報告がまとめられていたので、紹介しておきます。
医療従事者にとっても、「鍼治療を受けた後症状が出て・・・」という訴えで来院された方に、上記のような知識があると対応しやすいかもしれません。
疲労
慈恵医大の先生が、良いお仕事をされたようです。
疲労感じる原因たんぱく質を発見 慈恵医大教授ら
2008年9月4日3時0分
疲れを感じる原因となるたんぱく質を、東京慈恵会医科大がマウスを使った研究で突き止めた。このたんぱく質は、徹夜や運動の直後に心臓や肝臓、脳などで急激に増え、休むと減る。元気なマウスに注射すると、急に疲れた。疲労の謎を解く鍵として、科学的な疲労回復法の開発につながりそうだ。沖縄県名護市で開かれている国際疲労学会で4日、発表する。
近藤一博教授と大学院生の小林伸行さんは、人が疲れると体内で増殖するヘルペスウイルスに関係するたんぱく質に注目、疲労因子を意味する英語からFFと名付けた。水があると眠れないマウスを、底に1センチほど水を張った水槽に一晩入れて徹夜状態にし、その直後に臓器を取り出し、FFの量を調べた。
その結果、睡眠をとったマウスに比べ、徹夜マウスでは、FFが脳、膵臓(すいぞう)、血液で3~5倍、心臓と肝臓では10倍以上も増えていた。2時間泳がせた場合も、同様に変化した。どちらも休息後は平常値に戻った。
さらに、FFを元気なマウスに注射すると、大好きな車輪回し運動をほとんどしなくなった。疲れの程度に応じて増減し、かつ、外から与えると疲れが出現するという「疲労原因物質」の二つの条件を満たした。
FFは、細胞に対する毒性が強い。心臓、肝臓で特に増えるため、過労に陥ると心不全や肝障害が起きやすくなる、という現象に関係している可能性が高い。
人が疲れを感じる仕組みは、まだ十分解明されていない。運動疲労の原因とされていた乳酸は、運動すると筋肉中に増えるが、疲労の程度とは関係せず、筋肉に注射しても疲れが出現しないため、原因物質ではないことが数年前に実証されている。
近藤教授は「FFは、疲労が起きるとすぐに反応するため、疲労に対し最初に働く回路だろう。正確な疲労の測定装置や、科学的な疲労回復法の開発につながる」と話す。(編集委員・中村通子)
「FF」だけだとなんの略かわかりません。Final Fantasyじゃないだろうし。でも、多分「Fatigue (疲労)」「Factor (因子)」なんだろーなーと考えて、文献検索してみました。上の研究は、まだ論文にはなっていないようですね。
血液でも FFは上昇するようですね。これが検査出来るようになったら、過労死のメカニズムの研究が進むでしょう。疲労を定量できるようになる可能性があり、疲労と作業効率の関係も証明されるかもしれません。
疲労を改善する薬も開発競争が起こるのかも知れませんが、疲労は人間の体を守るための警告なのだと考えれば、安易に使用しない方がよいのかもしれません。
個人的には、疲労とうつ病発症の関係、各種神経疾患 (筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症など) や精神疾患 (うつ病など) での易疲労性の原因、慢性疲労症候群の病態の解明などに役立つことを期待しています。