最近の医学ニュース
最近出た医学論文や医学ニュースは、新聞を読む感覚でサラッとチェックだけしていますが、メモしておかないと忘れてしまうので、備忘録として記録しておきます。
①United States Health Care Reform
なんと、オバマ大統領が JAMAに投稿した論文。オバマケアで無保険者が減ったと言っています。一人で書いたとは思えないのになぜか単著論文で、かなりの部分貢献したと思われる人は、”Additional Contributions: I thank Matthew Fiedler, PhD, and Jeanne Lambrew, PhD, who assisted with planning, writing, and data analysis. I also thank Kristie Canegallo, MA; Katie Hill, BA; Cody Keenan, MPP; Jesse Lee, BA; and Shailagh Murray, MS, who assisted with editing the manuscript. All of the individuals who assisted with the preparation of the manuscript are employed by the Executive Office of the President.” と書かれています。計画者、書いた人、データ解析した人がちゃんといるみたいですね。また、COIに関しては、ホワイトハウスのサイトを見てくれとか、こっちも面白いです。友人と、「査読者が、プーチン、習近平、金正恩だったらどうする?」とか盛り上がりました。安倍総理が査読だと、そのままアクセプトされそうですね。トランプだったらどうなんでしょう (^^;
ちなみに、日本では天皇陛下が Akihitoの著者名で Science誌に投稿されています。
(2016.7.21追記)
実は、オバマ大統領はこれまでも一流誌にたくさん論文を発表していたらしいです。
意識消失を伴う外傷性脳損傷は、Lewy小体の蓄積、パーキンソニズムとパーキンソン病のリスクと関連がありましたが、認知症、アルツハイマー病、老人斑、神経原線維変化とはありませんでした (先行研究ではアルツハイマー病との関連が指摘されています)。
なお、頭部外傷を繰り返すと chronic traumatic encephalopathy (CTE) を発症することは以前から問題視されており、ルー・ゲーリックも ALSではなくて CTEだったのではないかと言われています。こちらは、病理学的に TDP-43と tauが蓄積するようです。
頭部の外傷と神経変性疾患というテーマは、注目を集める分野となっているようです。
③Traumatic brain injury history is associated with earlier age of onset of frontotemporal dementia
頭部外傷と前頭側頭葉変性症との関連を調べた研究。前頭側頭葉変性症を発症する 1年以上前に後遺症を伴わない外傷性意識消失のあった患者となかった患者を比較したところ、前者では症状出現が 2.8歳、診断が 3.2歳早かったとのことです。これだけで関連があるかどうかはなんとも言えないところでしょうが、頭部外傷と神経変性疾患の関連は本当に注目されてますね。
ミオクローヌスと巣状分節性糸球体硬化症 (FGFS) を合併する action myoclonus renal failure syndrome (AMRFS) の症例。SCARB2変異が検出されたとのこと。FGFSと神経疾患の合併ですぐ思い出すのは、INF2変異を伴う Charcot-Marie-Tooth病です。昔、SNAP diagnosisしたことがあります。なぜ、FGFSが神経疾患を合併するのか、分子メカニズムはどうなっているんでしょうねぇ・・・。
⑤Unmasking Alzheimer’s risk in young adults
最近の研究によると、アルツハイマー病のリスクを下げるために「色々なことができる」と考えられているようです。それは例えば、魚介類をきちんと摂取することだったり、きちんと運動や睡眠をとることだったりします。
⑥Transplantation of spinal cord-derived neural stem cells for ALS: Analysis of phase 1 and 2 trials.
脊髄由来神経幹細胞の ALSに対する第1/2相試験の結果が発表されました。安全性は確認できましたが、残念ながら進行抑制効果は示されませんでした。間葉系幹細胞治療の方に期待したいです。
ALSに対する間葉系幹細胞治療についてこれまで 2回ほど紹介してきました。
ついに、2016年7月18日に第1/2相試験の結果が発表されたようです。記事によると、安全性と忍容性についての基準を達成し、 ALS-FRS-R rating scaleと CSF biomarkersで良い結果を示しました。
第三相試験がとても楽しみです。
⑧Association of Environmental Toxins With Amyotrophic Lateral Sclerosis
ALSと環境汚染物質について調べたケースコントロール研究。Organochlorine
pesticides (OCPs), polychlorinated biphenyls (PCBs), brominated flame retardants
(BFRs) などの環境汚染物質の血中濃度をガスクロマトグラフィーで測定しました。その結果、ALS患者で OCP 2種類 (penthachlorobenzene; OR 2.21, cis-chlordane; OR 5.74), PCB 2種類 (PCB175; OR 1.81, PCB202; OR 2.11), BFR 1種類 (polybrominated diphenyl ether 47; OR 2.69) の血中濃度が有意に高いことがわかりました。環境汚染物質は、改善可能な ALSの危険因子かもしれないと著者らは述べています。
⑨Meta-analysis of 375,000 individuals identifies 38 susceptibility loci for migraine
約 375000人 (患者 59674人, 対照 316078人) を対象としたメタアナリシスで、38個の遺伝子座に片頭痛リスクと関連した 44の SNPsが見つかりました。38個の遺伝子座のうち、28個は過去に報告されていなかったもので、1個は初めて Chromosome Xに同定されたものでした。引き続いてのコンピューター分析で、同定された遺伝子座は血管および平滑筋に発現している遺伝子が豊富であることがわかりました。このことは、片頭痛の血管説が優位であることと一致した結果でした。
2012年に紹介した論文と同じ雑誌に掲載されていますが、その研究と共通した著者の多い研究ですね。血管説とすると、以前から注目を集めている CSDはどう説明することになるのでしょうか。
著者らは、脳卒中の 90%と関連する修正可能な 10個の危険因子を同定しました。この論文を紹介した CBS Newsの記事では、それぞれの危険因子を改善するとどのくらい脳卒中のリスクが下がるかをまとめています。
- Blood pressure: 48 percent
- Physical inactivity: 36 percent
- Poor diet: 23 percent
- Obesity: 19 percent
- Smoking: 12 percent
- Heart causes: 9 percent
- Diabetes: 4 percent
- Alcohol use: 6 percent
- Stress: 6 percent
- Lipids (blood fats): 27 percent
これらは、論文の figure 2, 3を抜き出したものですが、論文では地域別になっており、人種差がありそうなことがわかります。私は一般人向けの脳卒中予防の講演を頼まれているのですが、このようにまとめたものがあると、喋りやすいですね。
⑪治らない病気を抱えながら、なお社会で人として生きるとは、いかなることであるのか 第1回 難治性疾患の患者として生きるということ
難病を抱えていらっしゃる方の書かれた文章です。素晴らしいので、是非読んでみてください。