日常診療で、患者さんに緑内障の既往がなければ、特に意識せずに緑内障禁忌の薬剤を処方しています。で、患者さんに緑内障の既往があれば、緑内障禁忌の薬剤は避けます。この当たり前のようなプラクティスは、本当に正しいのでしょうか?
眼科医の意見では・・・。
緑内障という診断名がついていても、大部分を占める正常眼圧緑内障は、緑内障禁忌の薬剤を使っても眼圧は上がらず問題ない。
閉塞隅角緑内障はヤバイけど、眼科にかかってさえいれば処置を受けているから、問題ない (ただし未処置の場合は要注意)。
ということのようです。眼科で緑内障と診断を受けている方が、眼科未受診で緑内障が隠れているよりも安全なのかもしれないのですね。目から鱗でした。
2016年2月17日の Neurology誌に抗菌薬関連脳症についての総説が掲載されていました。
入院患者でこうした脳症をきたしたとき、抗菌薬関連脳症の存在を知らないと、例えば精神症状をせん妄として治療してしまうかもしれません。診断が遅れないように知識として持っておく必要があります。
著者らによると、抗菌薬関連脳症 (AAE) は 3つのフェノタイプに分けられるそうです。以下に要点を示しておきます。
① Type I
薬剤開始後数日以内に痙攣発作やミオクローヌスをきたす脳症。頭部MRIは正常で脳波異常がみられる。セファロスポリンやペニシリン系に多い。セファロスポリン関連脳症は、腎不全で多く報告されている。数日以内に改善する。GABAを介した抑制系のシナプス伝達の障害による易興奮性が原因と考えられている。
② Type II
通常開始後数日以内に精神症状、まれに痙攣発作がみられる。脳波異常は稀 (あったとしても、てんかん性というよりむしろ非特異的な異常) で、頭部MRIは正常、数日以内に改善する。プロカインペニシリン、スルホンアミド、フルオロキノロン、マクロライドに多い。ドパミンD2受容体やNMDA型グルタミン酸受容体を介した効果を示す薬剤 (コカイン、アンフェタミン、フェンサイクリジン) との類似性が指摘されている。
③ Type III
メトロニダゾールのみで出現する。薬剤開始後数週間以内に、しばしば小脳失調、まれに痙攣発作がみられる。脳波異常はまれで非特異的である。可逆性の MRI異常が小脳歯状核、脳幹背側部、脳梁膨大部にみられ、血管原性浮腫、細胞障害性浮腫を示す。病因的には、フリーラジカル形成やチアミン (ビタミンB1) 代謝と関連があるといわれている。
抗菌薬関連脳症
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(参考)
・バンコマイシン誘発振戦
リバロキサバン (商品名:イグザレルト) の臨床試験 Rocket AFで用いられた INR測定用のデバイスは、患者の出血リスクを低く見積もる可能性が指摘され、2014年にリコールされました。その結果、ワルファリンとリバロキサバンの治療効果を比較した Rocket AFにおいては、ワルファリン群がきちんと目標治療域にコントロールされていなかった可能性が浮上しているようです。少し気になるニュースです。
2016年2月22日 (日本時間 23日) から敗血症の定義が改訂されるそうです。
すでに新しい定義を紹介したサイトが有ります。
SEPSIS: REDEFINED
改訂のポイントは下記のようです。
・感染に加えてSIRSの基準を満たすという文言が削られ、SIRSの代わりに簡易版SOFAスコアが用いられる。具体的には、敗血症は感染に加えて、収縮期血圧 100 mmHg以下, GCS≦13, 呼吸数≧22の頻呼吸のうち 2個以上。または SOFA 2点以上の上昇。
・重症敗血症という表現がなくなる
・敗血症性ショックの定義が、敗血症+平均血圧 65 mmHgを維持するためにバゾプレッシンを要する+Lactate > 2 mmol/Lを満たすもの (※適切な急速輸液の後) となる。
ガラッと変わるのでビックリです。用語を間違って使わないようにチェックが必要ですね。
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(2016.2.24追記)
JAMA誌に改訂された定義の詳細が掲載されていますので、論文にリンクを貼っておきます。無料で読むことが可能です。
・The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3)
・Assessment of Clinical Criteria for SepsisFor the Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3)
・Developing a New Definition and Assessing New Clinical Criteria for Septic ShockFor the Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3)
胃・十二指腸潰瘍や逆流性食道炎の予防や治療にプロトンポンプ阻害薬は効果的であり、臨床現場では頻繁に用いられています。実際に処方していて、副作用を経験することは非常に少なく、安心して使える薬というイメージがあります。ところが、ここ数年、いくつかの疾患リスクを高める報告が相次いでいます。
例えば、2013年4月の JAMA Internal Medicineには、高齢の退院患者の 1年後死亡率上昇と相関している可能性が指摘されていますし、2016年1月の JAMA Internal Medicineではプロトンポンプ阻害薬が、慢性/急性腎臓病、急性間質性腎炎、低マグネシウム血症、クロストリジウム腸炎、市中肺炎、骨折のリスクを高める可能性がまとめて紹介されています。
そんな中、2016年2月15日の JAMA Neurologyにプロトンポンプ阻害薬の使用が認知症のリスクと相関する (hazard ratio, 1.44 [95% CI, 1.36-1.52]; P < .001) という論文が掲載されました。
タイトルだけ見たときはプロトンポンプ阻害薬はビタミンB12欠乏の原因になりうるので、それを介して認知機能低下をきたしている可能性はないのかなと思ったのですが、考察ではその可能性に触れつつ、動物実験でプロトンポンプ阻害薬が脳の βアミロイドレベルを高めることなども紹介しています。
抗血小板薬による消化管出血の予防など、神経内科領域でもお世話になることの多い薬ですが、こうしたリスクを頭の片隅に置いて使っていきたいと思います。ただ漫然と使用するのは避けないといけません。
近年、学術雑誌の高騰化が進み、研究機関の予算を大きく圧迫しています。かのハーバード大学ですら四苦八苦しているほどです。
契約する科学雑誌数を絞って対策している研究機関も少なくないでしょう。そんな中、「takのアメブロ 薬理学などなど。というブログで、Sci-Hubという海賊サイトの存在を知りました。なんと 4700万件の研究論文にフリーアクセスできてしまうサイトなのだそうです。
使い方としては、Pubmedで検索したときに表示される DOIなどを上記リンクに入力すると、論文にフリーアクセスできます。自分の論文で試してみたら、実際に PDFファイルが表示されました。途中で表示される文字を見ると、ロシアのサイトなのでしょうかね。
もちろん違法ですが、学術雑誌へのアクセスが困難になってきている研究者で手を出す人は結構いるのかもしれません。
東日本大震災から 5年ということで、学術出版社 Wileyが関連する学術論文の無料公開を期間限定で開始しました。
東日本大震災3.11から5年 学術論文集
今年も3月11日が近付いてきました。5年前のあの日に発生し、日本各地に甚大な被害をもたらした東日本大震災の記憶は、多くの人々の心に強く刻まれています。
今なお不自由な生活を強いられている被災者の方々が少なくありませんが、被災地は復興への道を着実に歩んでいます。復興へ向けての取り組みと並行して、この5年間でさまざまな分野の科学者や医療従事者たちが、震災とその後の事象を基にした研究を進めてきたことも見逃せません。来る節目の日を前に、科学・医学・社会科学分野において世界的な学術出版社である私どもWileyは、東日本大震災に関する論文123報を選びました。これらの論文は、Wileyが出版する約1600の論文誌に掲載されたもので、それら論文誌の多くは900の学協会との提携により出版されています。
各論文が扱う主題は、地震・津波に関する地球科学的研究、防災・減災のための科学と技術、震災と原発事故が被災地の医療や人々の心理・社会に与えた影響、原発事故が環境やエネルギー政策にもたらした影響など多岐にわたります。Wileyは、これらの論文が、痛ましい被害を生んだ震災から得られた教訓を将来に伝え、また新たな研究の発展を促すのに役立つことを願っています。これらの論文コレクションはWiley Online Library にて2016年4月30日まで無料公開いたします。
米国糖尿病学会の糖尿病診療指針 2016年版が公開されています。日本語でまとめている先生がいらっしゃるので、サイトを紹介しておきます。
最近、アンチエイジングなどで抗酸化治療が一部の人達にもてはやされています。ところが、こんなニュースが出ました。
とはいっても、数年前から話題になっていることです。例えば、2014年には nature newsで触れられています (リンクは日本語の紹介ブログ)。
2013年の日経サイエンスでも、フリーラジカルは悪玉とは限らないということが紹介されています。
昔、Charcot-Marie-Tooth病 1A型の臨床研究でビタミンCを投与したとき、女性の患者さんから「化粧ののりが良くなりました」と言われたことがあるので、ひょっとすると美容には良いのかもしれません。しかし、未知の部分が多いことも事実で、抗酸化治療を無批判にもてはやすことは危険なのかもしれません。
糖尿病の新規治療薬のエンパグリフロジン(商品名ジャディアンス) の臨床試験の結果が 2015年9月17日の NEJMで発表されました。心血管イベントを抑制するというので、話題になりました。しかし、EBMに詳しい医師達からは、様々なツッコミが入っています。特に、マッシー池田先生の批判は鋭いです。糖尿病患者を診る機会のある医師は一読することをお勧めします。
「歴史に残る」子供だまし-NEJMは「死んだふりしたブラック企業」-
(2015年11月21日追記)
EBMの専門家による批判的吟味はこちら。