シューマンの手<2>
以前、シューマンの手<1>と題し、Henson氏らによる後骨間神経麻痺説を元に、長々とシューマンの手の障害の検討をしました。
実は、その後、1991年の Annals of Hand and Upper Limb Surgery という雑誌にシューマンの右手についての論文が掲載されました。Henson氏らの論文とは別の視点から検討しています。
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以前、シューマンの手<1>と題し、Henson氏らによる後骨間神経麻痺説を元に、長々とシューマンの手の障害の検討をしました。
実は、その後、1991年の Annals of Hand and Upper Limb Surgery という雑誌にシューマンの右手についての論文が掲載されました。Henson氏らの論文とは別の視点から検討しています。
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「脳と音楽(岩田誠著、メディカルレビュー社)」という本に、ウィルヘルム・ヒスが書いた「バッハの墓所の発掘調査」という報告書の日本語訳が収載されています。その報告書には、バッハの頭蓋骨の詳細などが書かれています。著者のウィルヘルム・ヒスは、心臓のヒス束を見つけた医師の父親で、親子で同じ名前なので、ウィルヘルム・ヒス(父)と記載されることが多いようです。
さて、少し古い記事なのですが、産経新聞にバッハの顔復元との記事がありました。最近復元されたバッハの顔は・・・。
「本物」のバッハの顔再現 独で公開 法医学技術を駆使
2008.2.29 09:19
ドイツの音楽家ヨハン・セバスチャン・バッハ(1685-1750)の「本当の顔」を最新の法医学技術を利用して再現する作業が終了し、3月21日からドイツ・アイゼナハの博物館「バッハの家」で樹脂像が公開されることになった。博物館関係者が28日までに明らかにした。
遺骨をもとにした初の胸像が1894年に作られた後、この胸像をもとに1908年にライプチヒのトーマス教会前に全身像が完成、これがバッハの姿だと思われてきた。しかし、同博物館はこれらの像の顔が以前からあった肖像画に大きく影響されたとみて、所蔵するバッハの頭蓋(ずがい)骨の複製から科学的に頭部を再現することにした。
エジプトのラムセス2世の顔を復元したことで知られる英ダンディー大学の学者らが犯罪捜査に使われる法医学の手法を駆使して完成させた。だが、「本物」の顔も肖像画や像と似ているようにも見える。
3月21日はバッハの誕生日で、今年は全身像完成から100年となる。(共同)
元記事に当たって頂ければ、写真が見られますが、お世辞にもイケメンとは・・・。
以前、このブログでショパンの死因について検討したことがありました。
そこで、ショパンが「Cystic fibrosis」に罹患していたと紹介しました。それについて、最近興味深いニュースを見つけました。
数々の名曲を残したロベルト・シューマン。
彼は最初はピアニストを目指していたのですが、手の障害のために、その夢を断念せざるを得ませんでした。しかし、彼の手の障害に関する詳細には不明な点が多くあります。彼の病歴に対する医学的アプローチも、ほとんどが精神疾患に対するものです。
実は、「Shumannn’s hand injury」という論文が、1978年の British medical journal (BMJ) という雑誌の 4月 8日号に登場し、以後論争が誌上で繰り広げられています。その論争を紹介しつつ、ピアニストとしての道を絶った「手の障害」について考えてみたいと思います。長くなりそうなので、何回かに分けます(これでも、十分長いですけど)。
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普段、勉強させて頂いている「Neurology」という blogで、「Parkinson病の音楽療法」が取り上げられていました。
Parkinson病の方には「内的リズム形成障害」があるという考えは、Parkinson病の研究会では、毎回必ずと言って良いほど議題になります。この考えを支持する現象として、Parkinson病の方の歩行に合わせて「1,2,1,2」とかけ声をかけてあげると歩きが良くなることがあります。
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2月26日に紹介した音楽療法のネタ。当該の論文を読み終えました。
Särkämö T, et al. Music listening enhances cognitive recovery and mood after middle cerebral artery stroke. Brain 131: 866-76, 2008
[Introduction]
脳梗塞を発症して最初の数週間~数ヶ月には、環境からの刺激を反映した劇的な変化が脳に起こっています。運動刺激や感覚刺激、電気的皮質刺激や末梢刺激は運動の改善を促します。聴覚的、視覚的、嗅覚的な刺激が運動刺激に組み合わせると、運動刺激単独より、運動や認知の改善が良くなります。音楽は、イライラや気分の落ち込み、痛みを和らげる作用が知られています。最近の研究では、音楽は注意、学習、コミュニケーション、記憶など、様々な認知機能に影響を与えるかも知れないと考えられています。それは、健康な人であっても、失読、自閉症、統合失調症、多発性硬化症、冠動脈疾患、Dementia (いわゆる認知症) などの病気であってもいえることです。
この研究の目的は、中大脳動脈領域脳梗塞の後、1ヶ月間音楽を聴くことで、認知機能や気分の改善をもたらすかどうか調べることです。音楽の処理に関わる脳の領域は、主として中大脳動脈に環流されているため、著者らは次のような仮説を立てました。
「音楽鑑賞は、この亜急性の回復期に、興奮性と順応性を増した病巣辺縁や健康な脳の領域に刺激を与え、その結果、回復過程の程度を高め、速度を速めるのではないだろうか?」
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学生時代、音楽と医学両方に触れながら生きていけないかとあれこれ考えていました。
そんな中、音楽療法の存在を知ったのです。早速興味を持ち、当時の文献を大量に調べました。しかし、患者に対するアンケートによる評価が中心で、客観的評価に乏しい印象を持ちました。尤も、「患者の精神にアプローチしているのだから、患者がどう感じたかが一番大事なんだ」という意見もあり、それはそれで説得力はありましたが。
学生ながら、あまりサイエンスっぽくないなと考え、その後興味を失っていました。
そんな中、所属する電気生理のメーリングリストで、音楽療法に関する次の記事が紹介されていました。言語記憶力を評価するというのは、ある意味客観的な評価法です。
以前、ヴァイオリン製作と喘息について書きました。ヴァイオリン制作者を襲う疾患として、今回は「アレルギー性接触性皮膚炎」を取り上げます。
以下、学会の症例報告風に紹介します。論文タイトルの邦訳は、「ヴァイオリン制作者におけるプロポリスに対するアレルギー性接触性皮膚炎」です。プロポリスは、ミツバチが産生する蜜蝋です。
症例:69歳男性
既往歴:10年前 mycosis fungoides (菌状息肉症), 発症時期不詳 気道過敏性疾患。前者の治療に mechlorethamine HCL (nitrogen mustard), PUVA療法、UVB療法、局所ステロイド投与が行われたが、著変なかった。
家族歴:アトピーなし
生活歴:楽器修理工。木工やニス(ニスはプロポリスを含む)などを用いて仕上げる。また、弓の修理も行う。自分でもヴァイオリンを演奏する。
現病歴: 5年前から灼熱感、掻痒感のある皮疹が、眼瞼、左耳、前腕、手に出現した。ニューヨーク大学医療センターの皮膚科アレルギー部門に紹介される 1ヶ月前に皮膚炎の再燃に気づいた。局所ステロイド塗布や抗ヒスタミン薬内服での改善は認めなかった。
身体所見:上眼瞼、下眼瞼に鱗屑を伴った紅斑あり。前腕と手に境界明瞭で軽度の紅斑状、鱗状パッチあり。
検査所見:一般的なアレルゲン、その他(紫檀、黒檀、ペルナンブーコ、馬の毛)に対するパッチテストを施行し、コロホニウム、アビエチン酸、プロポリスで陽性。RAST法では、ラテックスと種々の樹は陰性。
診断:アレルギー性接触性皮膚炎
経過:抗原の隔離と cetirizine内服、中力価ステロイド局所投与にて軽快した。
考察
・コロホニウム (アビエチン酸の酸化物を含み、ニス、松のおがくず、ワニス、弓の毛に塗る松ヤニなどに存在する) に対するアレルギー性接触性皮膚炎の報告は良く知られているが、音楽家でプロポリスに対して発症した報告はほとんどない。
・従来、プロポリスに対するアレルギー性接触性皮膚炎は、養蜂家で見られることが多かったが、バイオ化粧品使用者で見られることが増えている。また、HIV陽性患者で、プロポリスを含むサプリメントを摂取していて、口唇炎、口内炎を起こした症例も報告されている。
・ヴァイオリニストや弦楽器制作者で難治性の慢性湿疹性皮膚炎を認める時は、プロポリスに対するアレルギー性接触性皮膚炎を鑑別に考える必要がある。
要約すると、上記の如くになります。弦楽器製作の工程を考えると、木の削りカスによる喘息症状も起こりますし、ニスなど化学物質に対するアレルギーも起こりますね。今回は、ニスに含まれるプロポリスに対するアレルギーが指摘されています (コロホニウムに対するアレルギーも検査では陽性)。指摘されると「なるほど」と思いますが、なかなか普通思い至らないものだと思います。
プロポリスに関しては、楽器演奏者以外にも、アレルギーの報告があることを初めて知りました。極めて稀なことなので、まずそういう患者を診ることはないでしょうが、知っておいて損はないかもしれませんね。まぁ、アレルギーなんて、何ででも起こるとも言えるのですが。
今回取り上げるのは、職業性喘息についてです。実は、フランス語の論文のため、私はabstractしか読んでいません。フランス語が読める方は、是非全文読んでみて下さい。
Rev Mal Respir. 1992;9(4):470-1.Links
[Occupational asthma caused by ebony wood][Article in French]Kopferschmitt-Kubler MC, Bachez P, Bessot JC, Pauli G.
Service de Pneumologie, Pavillon Laennec, CHRU, Strasbourg.A case of occupational asthma to ebony wood dust is described in a violin and stringed instrument maker, who was sanding and filing ebony to make the finger boards of violins and cellos. The diagnosis was confirmed using a realistic provocation test; after sanding and smoothing the ebony for 20 minutes the patient developed bronchial spasm with fall of the force expired volume in one second (VMS) of 45% which was reversible following the inhalation of beta 2 agonists. A delayed reaction was seen at 3 hours and 6 hours and at 20 hours after the test. The observations of occupational asthma or rhinitis to ebony wood are very rare. To our knowledge there are two publications at the present time. It has been recognised as an occupational disease (see table 47 of occupational diseases) and an exclusion order has been effected.
PMID: 1509193 [PubMed – indexed for MEDLINE]
ヴァイオリン、楽器製作者は、ヴァイオリンやチェロの指板を研磨したり、削ったりしますが、指板に用いられる黒檀の粉塵に対する喘息の一例が本論文では取り上げられています。
診断には誘発試験が用いられます。実際には、20分間黒檀を研磨するなどの作業をした後、患者が気管支の spasm (攣縮) を起こし、1秒率 (force expired volume in one second; VMS) が 45%低下したことから、気道の過敏性を証明し、β2刺激薬吸入を行って可逆性を証明しています(喘息の確定診断には、気道の過敏性や可逆性の証明が大切です)。遅発性反応が、3時間、6時間、20時間後に見られています。
黒檀に対する職業性喘息、鼻炎の知見はとても珍しいのだそうです。
楽器作りも、こんな辛い発作を乗り越えて行っている職人がいるのですね。
趣味を楽しみながら、日々過ごせると良いな・・・と常日頃思っています。趣味を仕事にするのも一つの方法かもしれませんが、そうすると趣味としての楽しみを失うことになるかもしれません。私の叔父は読響の奏者だったので、私の母が私を音楽家にしようかと相談したとき、「仕事にしてしまうと、音楽が楽しめなくなる」と反対だったそうです。そのこともあり幸せなことに音楽を趣味のままにしておくことが出来ました。私の母は、その後、別の医師をしている叔父に私を医師にしたいと相談し、またもや反対されたそうです。「これからは医師にとって過酷な時代になるから」というのが理由だったそうですが、紆余曲折があり、私は自分で医師になる道を選びました。
実際に医師になって思うのですが、多忙のため実際趣味を楽しんでいる医師は少数だと思います。仕事一筋という姿勢は、格好良いとは思います。ただ、趣味を楽しんでいる医師にも、仕事一筋の医師にもそれぞれ素晴らしい方がいますので、どちらが良いとは言えません。また、趣味を楽しんでいる医師から趣味を取り上げたら、仕事のパフォーマンスも落ちることは確実でしょう。
という前振りは、あるヴァイオリン製作者の論文を紹介するためのものです。Franjo Kresnikというヴァイオリン製作者がおり、何とその人は医師であったというのです。
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