Category: 神経学

脳卒中一次予防ガイドライン

By , 2014年11月3日 11:23 AM

AHA/ASAによる脳卒中一次予防ガイドラインが改訂されました。無料公開されています (2014年10月28日 online published)。

Guidelines for the Primary Prevention of Stroke

脳卒中診療に携わる医師はチェックしておく必要がありますね。脳卒中診療に関わる医師のみならず、プライマリ・ケア医も是非読むべきと思います。

PDFの 81ページから要約が、87ページから、今回改訂された点のまとめがあります。

(参考)

Stroke Rounds: New Prevention Guidelines Favor Mediterranean Diet

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脳卒中急性期の降圧

By , 2014年10月30日 7:53 AM

Lancet誌に、脳卒中急性期患者に対するニトログリセリン貼付薬の効果と安全性に関する ENOS研究が掲載されました (2014年10月22日 published online)。同じ研究で、脳卒中急性期に、それまで飲んでいた降圧薬を中止すべきかどうかも調べています。

Efficacy of nitric oxide, with or without continuing antihypertensive treatment, for management of high blood pressure in acute stroke (ENOS): a partial-factorial randomised controlled trial

興味深い論文だったので、簡単にまとめてみました。

背景:

高血圧は、急性期脳梗塞や脳出血の 70%にみられる。このような患者では、急性期再発率や死亡率が高い。そのため、急性期に血圧を下げようという試みがあり、降圧の有効性と安全性を調べた大規模研究がいくつかある。

・良くない:SCAST, IMAGES

・良くも悪くもない:CATIS,

・どちかというと良い:INTERACT2 (ただし、脳出血が対象の研究)

一酸化窒素 (NO) は、前臨床研究で梗塞巣を小さくし、局所の血流や機能予後を改善することが示されている (※ニトログリセリンは分解されて NOとなる)。ニトログリセリンに関しては、パイロット研究を含め 5つの小規模研究があり、安全性は確認されている。

発症までに飲んでいた降圧薬を急性期に継続した方が良いかどうかは、COSSACS研究ではどちらも差がなかったが、よくわかっていない。

方法:

国際多施設共同、プラセボ対照、並行群間比較試験を行った。患者とアウトカム評価者には盲検化が行われた。患者は 7日間ニトログリセリン貼付薬 (5 mg) を使用する群と、それを使用しない群にランダムに振り分けられた。さらに、降圧薬を内服していた患者は、継続するかどうかを無作為に振り分けられた。

対象は、臨床的な脳卒中症候群として入院した 18歳以上で、四肢のいずれかに麻痺があり、収縮期血圧 140-220 mmHg, かつ 48時間以内に治療が始められた患者とした。診断は、CTもしくは MRIで行われた。次の患者は除外した:血栓溶解療法などで降圧薬を絶対開始する必要がある、降圧薬を絶対に続ける必要がある、降圧薬を絶対に中止する必要がある、ニトログリセリンを必要とする、ニトログリセリンに副作用がある、昏睡 (GCS<8), 純感覚脳卒中、失語症、元々の modified Rankin Scale (mRS) 3-5点、神経ないし精神疾患の併存、脳卒中と紛らわしい病態 (低血糖や Todd麻痺など)、肝障害、腎障害、内科疾患の合併、妊娠ないし授乳中、過去の ENOS研究への参加、外科的介入が予定されている、2週間以内の別の研究への参加。

ニトログリセリン貼付薬は患者に見えないように覆った。降圧薬の内服ができない患者には、経鼻胃管から投与した。薬剤投与の 7日間が過ぎた後は、脳卒中二次予防のため、降圧薬、抗凝固薬、脂質異常症治療薬の投与が推奨された。

一次エンドポイントは試験開始 90日後の機能予後 (mRSで評価) とした。二次エンドポイントは、Barthel indexで評価された ADL、電話を用いてスケーリングされた認知機能、EQ-5Dで評価された QOL, short Zungうつ評価で評価された感情とした。安全性は、全ての死亡、初期の神経学的悪化、7日以内の脳卒中再発、7日目までの治療介入を必要とする高血圧/低血圧、重篤な副作用を評価した。

結果:

4011名がエントリーした。2097名 (52%)が発症前に降圧薬を内服しており、1053名が降圧薬継続群、1044名が降圧薬中止群に割り当てられた。3995名 (>99%) で 90日後までフォローアップすることができた。ベースラインの血圧の平均値は 167/90 mmHgであった。ニトログリセリン貼付薬の初回投与後、貼付群は非貼付群に比べて血圧が 7.0/3.5 mmHg低くかったが、この差は 3日目に消失した。

一次エンドポイントである 90日後の機能予後は、ニトログリセリン貼付群は非貼付群に対して、降圧薬継続群は非継続群に対して、いずれも差がなかった。サブグループ解析の結果、ニトログリセリン貼付群は発症 6時間以内に開始した場合もしくは女性において、非貼付群と比較して有意に機能予後が良かった (出血/梗塞、OCSP分類では差がなかった)。サブグループ解析の評価項目全てで、降圧剤継続群と降圧薬中止群の間に有意差はなかった。また、サブグループ解析の結果、頸動脈狭窄患者で降圧による悪影響は検出されなかったが、サンプルサイズが小さいことを考慮する必要がある。

二次エンドポイントにおいて、ニトログリセリン貼付群は非貼付群と全ての評価項目で差がなかった。降圧剤継続群は非継続群と比較して死亡率はほぼ同じであったが、病院での死亡や施設への退院が多く、寝たきりが多い傾向にあった。また、認知機能スコアも降圧薬中止群に比べて低かった。降圧薬継続群は、降圧薬中止群に比べて重症高血圧となる割合は少なかった。有害事象の発生総数は降圧薬継続の有無で差がなかったが、肺炎は降圧薬継続群で有意に多かった。肺炎は、多くは嚥下障害がある患者で、降圧薬を飲むときに起きていた。その他の二次エンドポイントは降圧薬継続群と中止群で差がなかった。

安全性評価では、ニトログリセリン貼付薬投与群では非投与群群と比べて頭痛と低血圧が多い傾向にあった。

考察:

ニトログリセリン貼付薬による急性期の降圧も、発症前の降圧薬の内服継続も、有効性を示せなかった。その理由として、①降圧不十分、②脳出血のみ降圧が有効、③薬剤を開始するタイミングが遅すぎた、④数日でニトログリセリンへの耐性が生じて効果が不十分だった、という可能性があるのかもしれない。

降圧薬継続群で、二次エンドポイントの評価項目いくつかで悪化がみられたが、真の結果か偶然の効果かはわからなかった。

読んだ感想・・・。

脳梗塞について、

①過去の研究とこの研究を併せてみて、多分脳梗塞急性期の降圧は効果がないか、あってもわずか、さらには有害である可能性もあるのだから、急性期は降圧しなくて良いのでは。薬は、副作用の観点から、また経済的にも少ないほうが良いし。

②脳梗塞急性期に高血圧である患者の予後が悪いのは、ひょっとしたら高血圧が原因ではないのかもしれません。例えば、より脳循環が悪くて、血流を改善しようとして代償的に血圧をあげているのであれば、高血圧となっている患者の方が条件が悪いと予想されます。降圧すると、もっと条件が悪くなるかもしれません (血圧を下げた方が予後が悪いという研究結果に合致)。また、脳梗塞などのイベントで血圧が高くなりやすい患者というのは、もともと血圧の変動が大きく、脳血管の動脈硬化が進んでいた可能性も否定できません。

③脳梗塞急性期に血圧が放置できないくらい高くなる患者さんがいて、我々は慣習的にニトログリセリン貼付薬 (ニトロダームテープなど) を使ってきました。理由として、キレの良い薬を使って急激に血圧が下がり過ぎると脳循環を悪くしそうだけど、ニトログリセリン貼付薬ならマイルドな降圧効果が得られるからというのが一点、貼り薬なので嚥下障害があっても使えるのが一点です。この研究結果は、慣習的なプラクティスで重篤な副作用がないことを再確認させてくれました。

この話に関連して、Clinical neuroscience誌の 10月号に、脳卒中関連の RCTが多数批判的吟味されていて、降圧関連の臨床研究もいくつか含まれていました。まとめて読めるので、結構オススメと思います。

Clinical Neuroscience Vol.32 (14年) 10月号 脳卒中EBMカタログII

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ALSと陰性徴候

By , 2014年10月26日 9:35 AM

感覚障害、 膀胱・直腸障害、眼球運動障害、褥瘡は “ALSの陰性徴候” と呼ばれ、ALS患者では何故かこの症状がみられません。その理由はメジャーな症候学の教科書を読んでも書いておらず、私は知らなかったのですが、2014年10月16日付の Scientific Americanに凄く興味深い記事が載っていました。

Why Do Eye Muscles Function in ALS as Other Muscles Waste Away?

An important clue may lie in the wiring of the motor neurons. Those vulnerable to ALS connect to specialized sensory neurons and “receive continuous excitation from other neurons that release glutamate,” an important neurotransmitter that excites motor neurons and triggers muscle movement, explains neuroscientist George Mentis of the Center for Motor Neuron Biology and Disease at Columbia University.

Eye and sphincter motor neurons, however, do not receive synaptic connections from these specialized sensory neurons and instead get their signals from different neurons. They also “receive less glutamate from yet different sources, ultimately triggering muscle movement in a different way,” Mentis says. Specifically, the ALS-resistant neurons  receive more discrete, specific bursts of the chemical instead of a continuous flow. Sustained exposure to glutamate may cause an over-accumulation of calcium, which harms cells.

つまり、ALSで膀胱直腸障害や眼球運動障害が起きないのは、眼筋や括約筋を支配する神経が、他の運動神経と異なった特徴を持つ神経回路を形成しており、グルタミン酸が関与した持続的な興奮入力を受けにくいことで説明できそうです。グルタミン酸が関与した持続的な興奮入力は、過剰なカルシウム流入を介して細胞毒性をきたす可能性があると考えられています。上記に書いてはありませんが、感覚神経が障害されないのも、運動神経のようにこのような持続的興奮入力を受けないことで説明できるのかもしれません。長年頭を悩ませてきた疑問が、少し解けた気になりました。

余談ですが、グルタミン酸受容体のなかで AMPA受容体と ALSの関係について最近多くの論文が発表されています。そんな中、2014年10月20日に、AMPA受容体拮抗薬 “Perampanel” が抗てんかん薬として FDAから承認されました。この薬が、ALSでの AMPA受容体が関与した細胞毒性を抑えてくれることはないのか・・・ふと思いました。論文検索してみても誰も研究していないみたいですし、何の根拠もない全くの妄想ですけれど・・・(^^; (開示すべき COIはありません)

全く話は変わりますが、ALSに対してセフトリアキソンは有効性を示せなかったという第三相試験の結果が、Lancet Neurologyに掲載されました (2014年10月6日 online published)。うーん、残念。

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TUBA4A

By , 2014年10月25日 8:08 AM

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の原因遺伝子がまた新たに同定されました。2014年10月22日の Neuron誌に論文が掲載されています。

Exome-wide Rare Variant Analysis Identifies TUBA4A Mutations Associated with Familial ALS

著者らは、Exome-wide rare variant analysisという手法を用い、363例の家族性 ALS患者を調べました。そして、チューブリン Alpha 4Aをコードする TUBA4Aを原因遺伝子として同定しました。TUBA4Aの変異部位は、G43V, T145P, R215C, R320C/H, A383T, W407X, K430Nでした。TUBA4Aの変異は、微小管ネットワークを不安定化させ、再重合能を低下させるそうです。微小管というと、国立精神神経センターなどが研究している軸索輸送などにも関わってくる話でしょうか。

今回の論文は、患者検体を用いた遺伝子解析と、生化学的な機能解析のみが記載されています。今後 TUBA4A変異がある ALS患者の臨床像を記した論文が出てくるのを楽しみに待ちたいと思います。

なお、TUBA4Aのように細胞骨格に関連した ALS原因遺伝子だと、以前紹介した ARHGEF28を思い出します。現在、ALS研究では RNA代謝の話題がホットですが、こちらの方面での研究も加熱しそうです。

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頭部画像ツール

By , 2014年10月22日 5:14 AM

以前紹介した「遠隔画像診断.jp」を運営されている方が、頭部画像診断ツールを開発されました。頭部MRIでの正常解剖をわかりやすく見ることができます。専門医には当たり前の知識かもしれませんが、初学者にはありがたいツールだと思います。

画像診断cafe

(参考)

遠隔画像診断.JP (妊婦の CT検査による胎児への影響)

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静脈ガスは動脈ガスの代わりになるか?

By , 2014年10月20日 9:19 PM

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 患者では、いつの間にか進行した CO2貯留が問題になることがあるので、たまにそのチェックが必要になります。しかし通常の外来で数カ月ごとに動脈血採血を繰り返すのは大変なので、便宜上静脈血採血で経過を見たりします。便宜上とは言え、動脈血で行うべき検査を静脈血で代用することの科学的根拠について気にしたことは、これまであまりありませんでした。

そんな中、全く別の件で見ていたファイルに面白いことが書いてありました。

静脈血ガスは動脈血ガスの代わりになるか?

このファイルにある「PCO2: 静脈血が 45mmHg以下であれば動脈血は 50mmHg以下」という tipsは、ひょっとしたら静脈血で ALS患者の CO2貯留をスクリーニングすることに科学的根拠を与えてくれるのではないかと感じました。ただし厳密には、クリニカルセッティングが異なる研究を適用するのには注意が必要です。

ちなみに、静脈血CO2から動脈血CO2の値を正確に推測することは難しいとされているそうです。

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NEFL

By , 2014年10月16日 9:41 PM

一つの遺伝子が様々な表現型をとることがあり、神経疾患だと、VCP, SQSTM1, DCTN1などが有名です。

JAMA neurologyに、Charcot-Marie-Tooth病 (CMT) の原因遺伝子の一つである NEFL (novel neurofilament light polypeptide) がミオパチーの原因遺伝子でもあることが報告されました (2014年9月29日 online published)。

Expanding the Phenotype Associated With the NEFL Mutation

もともと NEFL自体が面白い遺伝子です。NEFL変異は、脱髄型である CMT1Fを引き起こすこともあるし、軸索型である CMT2Eを引き起こすこともあるからです (神経内科ハンドブック第 4版には、CMT1Eと CMT2Eと記載されていますが・・・)。いずれも常染色体優性遺伝です。

今回の報告では、NEFL c.1261C>T; p.R421X変異により、1家系内 4名の患者が発症しました。4名とも生下時発症で、2名はネマリンミオパチー、1名は非特異的先天性ミオパチー、1名はミオパチーの特徴を伴った神経原性萎縮でした。

同じ変異部位でこれだけ表現型多彩なのですね。その点が興味深かったです。

余談ですが、ネマリンミオパチーの原因遺伝子は、今回の NEFL以外に、これまで TPM3, NEB, ACTA1, TNNT1, TPM2, CFL2, KBTBD13, KLHL40, KLHL41が知られているそうです。

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CRMCC

By , 2014年10月14日 4:59 AM

JAMA neurologyに勉強になる症例が報告されていました (2014.9.29 published online)。

A case of early-onset rapidly progressive dementia

症例は 62歳弾性で、2ヶ月間で急速に認知機能低下が進行しました。最終的に 3年後に亡くなりました。病理学的には、大脳、小脳、橋に様々な大きさの多発壊死巣があり、多くは著明な石灰化を伴っていました。壊死巣は白質に多かったものの、灰白質にも病変はありました。また、全ての壊死巣で微小血管病変が目立ちました。Tau、β-アミロイド、α-シヌクレインは免疫染色で陰性でした。

本症例の特徴は下記の 6点になります。

1. 早期発症 (early-onset)

2. 急速な進行

3. 頭部MRIで石灰化と造影効果 (この症例では頸髄MRIや胸髄MRIでも造影効果あり)

4. 病理所見では、感染や炎症、血管炎の所見がなく、微小血管の肥厚がある。

5. 検査所見 (採血、髄液など) で異常がない

6. 全身性の症状がない

著者らが考えた鑑別診断は次の通りでした。

Brain calcinosis syndrome (BCS) (石灰化は基底核優位)

・Familial BCS with calcium, phosphorus, and parathyroid hormone (PTH) metabolism abnormalities: familial isolated hypoparathyroidism, autoimmune polyglandular syndrome type I, pseudohypoparathyroidism→カルシウム、リン、PTH代謝異常なく否定的

・Familial BCS without calcium, phosphorus, and PTH metabolism abnormalities: Aicardi-Coutieres syndrome, dihydropteridine reductase deficiency, Cockayne syndrome→発症年齢、民族性、臨床所見より否定的

Fahr disease: 脊髄病変の存在や中枢神経系での造影効果より否定的

Diffuse neurofibrillary tangles with calcification→病理所見で neurofibrillary tangleがなかったので考えにくい

Cerebroretinal microangiopathy with calcifications and cysts (CRMCC) (≒Coats plus syndrome, leukoencephalopathy with calcifications and cysts (LCC))→本症例に合致

頭蓋内の石灰化を伴う早発性認知機能障害は、このように鑑別を進めて行くと良いのですね。Fahr病や diffuse neurofibrillary tangles with calcificationはたまに疑うことがありますが、CRMCCという疾患概念はこの論文で初めて知りました。

CRMCCは稀な疾患であり、病因や発症頻度はよくわかっていません。常染色体劣性遺伝という意見もありますが、確実なものではないようです。ただし、2012年、晩期発症型の CRMCC 3名のうち 1名で、CTC1 (conserved telomere maintenance component 1) 遺伝子の変異が報告されています。本症のように脳内広範に石灰化が散在する所見にはインパクトがあるので、そのような画像を見たらこの疾患が鑑別として思い浮かぶようにしておきたいところです。

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むずむず性器症候群

By , 2014年10月13日 11:21 AM

近年、むずむず脚症候群という疾患は巷でも広く知られるようになりました。

2014年10月6日に、JAMA neurologyに興味深い論文が published onlineとなりました。Parkinson病における Restless genital syndromeについてです。

Restless Genital Syndrome in Parkinson Disease

“Restless leg syndrome” が「むずむず脚症候群」だとすると、”Restless genital syndrome (RGS)” をそのまま訳すると「むずむず性器症候群」になります。私は初耳でしたが、論文の backgroundの部分に、命名の経緯が書いてありました。

2001年、Parkinson病ではない患者で持続性性喚起症 (syndrome of persistent sexual arousal) が報告されました。診断基準は、不本意な性的興奮が長期間 (数時間~数ヶ月) 続き、何度か絶頂に達しても解放されず、性的欲求とは関係なく起こり、煩わしくて迷惑で、ひどい苦痛と関連しているものです。2009年、18名の患者のうち 12名にむずむず脚症候群が先行/合併していることがわかり、”restless genital syndrome” という用語が用いられるようになりました。これまでクロナゼパム、オキサゼパム、トラマドール、抗鬱薬、エストロゲン、心理療法、経皮的神経刺激法、クリトリス切除術などが用いられましたが、治療成績は不良でした。

今回著者らが報告した症例は、過去にアカシジア、知覚過敏症、神経障害性疼痛、持続性性喚起症と診断されていました。著者らは、明らかな日内変動がある点、安静で症状が出現し動かすと楽になる点などから、むずむず性器症候群と診断しました。デュロキセチンは症状を悪化させ、オキサゼパムは一時的に有効でした。試しに、プラミペキソール 0.25 mgを夜間に使用したところ、症状は改善しました。著者らは、むずむず性器症候群がむずむず脚症候群の表現型の一つなのではないかと考えています。

なお、Vulvodiniaもむずむず性器症候群と根本的プロセスが同じであると推測され、むずむず性器症候群の用語に統一しようという提案がなされているそうです。

患者さんにとっては非常に辛い症状のようですが、プラミペキソールを試すと効く可能性があるというのは、朗報なのではないかと思います。ただし、プラミペキソールは性欲亢進の副作用が問題になる場合があるので、そこには注意が必要ですね。

ちなみに、プラミペキソールの性欲亢進については印象深い論文を読んだことがあります。ある男性がプラミペキソールを飲み始めてから性欲亢進を起こしてしまい、連日妻を押し倒すようになったそうです。しばらく御無沙汰だったため最初は喜んでいた妻も、次第に相手しきれなくなり、拒むようになったのですが、夫は「なしてや、なしてや」と求めてきます。そこで、妻は主治医に相談して内服をやめました。ところが、今度は妻の方が「味気ない」と訴え、自分で丁度良い投与量を決めるようになった・・・という話です。相当昔に読んだ論文なので、細部は忘れましたが、確か「神経内科」という雑誌の、2006年3月号かその付近の別の号だったと思います。

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ALSに対する間葉系幹細胞治療がfast-track指定

By , 2014年10月10日 8:15 PM

2014年1月8日のブログ記事で、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) に対する間葉系幹細胞治療の症例報告を紹介しました。

間葉系幹細胞治療と ALS

この治療法は、muscle & nerve誌の Editorialでも取り上げられました。期待を集めている治療法です。

ただ、少し心配な点があります。第1/2相臨床試験は 2013年3月に終了しているのですが、残念なことに結果がまだ公開されていません。私は非常に期待しているので、ヤキモキしています。

ところが、最近動きがありました。なんと、2014年10月7日の報道を見ると、FDAから fast-track 指定を得たらしいのです。

BrainStorm gets FDA fast-track status for ALS stem cell therapy (Reuter)

この治療法が、有効性・安全性を正しく評価された後、一刻も早く認可されることを祈っています。

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