Category: 神経学

Fingolimodと脳出血

By , 2014年10月3日 6:18 AM

多発性硬化症の治療薬にフィンゴリモド (FTY-720, ジレニア) という経口薬があります。JAMA neurologyに、この薬剤を脳出血の治療に用いた臨床研究が発表されました (2014年6月7日 online published)。

Fingolimod for the Treatment of Intracerebral HemorrhageA 2-Arm Proof-of-Concept Study

フィンゴリモドは脳出血での脳浮腫や神経脱落症状の軽減に効果があったという結果でした。近年、ライバルとなる多発性硬化症の経口治療薬がたくさん開発されているので、もし新しい市場が生まれれば、フィンゴリモドにとっては嬉しい事でしょうね。

しかし、この研究は open-label試験 (更に end-pointに主観が入りやすい) なのでバイアスが気になりますし、論文を読んでもいまいち機序がよくわかりません。実際に効果があるのかどうかは、今後の研究を待つ必要があります。

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Parkinson病と末梢神経障害

By , 2014年9月29日 1:12 AM

Journal of Neurology Neurosurgery Psychiatry (JNNP) 誌に興味深い総説が掲載されました (2014年8月28日 online published)。Parkinson病治療薬である L-dopaの十二指腸持続投与と末梢神経障害についてです。

Polyneuropathy associated with duodenal infusion of levodopa in Parkinson’s disease: features, pathogenesis and management

背景:過去いくつかの研究で、Parkinson病患者にはポリニューロパチー (多発神経障害; polyneuropathy)  が多いとされている。ポリニューロパチーを有する割合は、パーキンソン病患者で 38-55%と、コントロール群 8-9%に比べて多く、年齢、ビタミンB12低値、高ホモシステイン血症、メチルマロン酸レベルに比例する。ポリニューロパチーは L-dopa投与を受けていないパーキンソン病患者でも 5-12%に見られるが、マイスナー小体の脱落は治療患者にしかみられない。最近の研究では、病期の長さや重症度ではなく、L-dopaの投与期間においてポリニューロパチーとの強い関連が示唆されている。これまでの研究は、主に中等量の L-dopa摂取による慢性、軽度、感覚優位の神経障害を中心に行なわれてきた。一方で、L-dopaの十二指腸持続投与を受けた患者において、Guillain-Barre症候群に似た重篤な急性/亜急性ポリニューロパチーが報告されている。

方法:文献を検索し、レビューした。急性は 4週間以内、亜急性は 4~8週間以内に障害のピークがあるものと定義した。

結果:全体として、L-dopa十二指腸持続投与を受けた 14名が急性ポリニューロパチー、21名が亜急性ポリニューロパチーを発症した。少なくとも 9名の患者を含む研究では、急性ないし亜急性のポリニューロパチーの平均発症頻度は 13.6%だった。1名を除き、L-Dopa投与前に全員神経障害の症状はなかった。L-Dopa投与量は 1100-3800 mg/dayであり、発症までの治療期間は数週間から 29ヶ月の間だった。

【先行感染】急性ポリニューロパチーの 4名、亜急性ポリニューロパチーの 14名では先行感染は明確になかったと記されている。

【臨床的特徴】 Guillain-Barre症候群、急性炎症性ニューロパチー、急性感覚運動性ポリニューロパチーとして矛盾しないように思われる。

【検査所見】急性ポリニューロパチーの患者では、7名中 2名でビタミンB12, 6名中 5名で葉酸が低下し、9名中 6名でホモシステイン, 2名中 2名でメチルマロン酸が高値であった。亜急性ポリニューロパチーの患者では、10名中 3名でビタミンB12, 3名中 2名で葉酸、7名中 7名でビタミン B6が低下し、6名中 5例でホモシステイン, 3名中 1名でメチルマロン酸が高値であった。急性ポリニューロパチー 5名、亜急性ポリニューロパチー 4名では、抗ガングリオシド抗体は陰性であった。亜急性ポリニューロパチーの 2名では抗ガングリオシド抗体が陽性であったが、Ig isotypeや抗体価は示されていない。

【電気生理学的所見】急性ポリニューロパチー患者 6名で重篤な軸索性感覚運動障害が示された。4名では、軸索性と脱髄性の混合パターンだった。亜急性ポリニューロパチーでは、16名に軽度から重度の軸索性感覚運動ポリニューロパチーがみられた。2名では軸索性と脱髄性の混合パターンだった。1名に伝導ブロックがみられた。

【神経生検】急性ポリニューロパチー患者 2名のうち 1名では軽度の炎症浸潤を伴った軸索変性がみられた。亜急性ポリニューロパチー患者 2名では、有髄線維密度の減少と神経内膜浮腫がみられたが、炎症細胞浸潤や炎症性ニューロパチーを示唆する所見はなかった。

【治療と予後】急性ポリニューロパチー患者の大部分は、L-dopa十二指腸持続投与が中止された。7名が血漿交換、IVIgないしステロイドで治療され、2名で何らかの効果があった。4名はビタミン投与のみが行なわれ、1名は急速に改善、1名は何らかの効果があり、2名はそれ以上悪化しなかった。3-6ヶ月後に 2名が死亡した。亜急性ポリニューロパチー患者のうちビタミンB12/ホモシステイン/葉酸異常があった 10名はビタミン投与のみが行なわれ、大部分は 3ヶ月以内に改善した。5名の患者では、ビタミン投与を行いながら L-Dopa十二指腸持続投与を続たが、症状は改善するか横這いかであり、悪化はなかった。抗ガングリオシド抗体陽性の亜急性ポリニューロパチー患者 2名に対する IVIgや血漿交換は、効果がなかった。これらの患者では、L-dopa十二指腸持続投与中止後に、改善がみられた。1名の患者では、ビタミンB12投与がされていたにも関わらず、亜急性ポリニューロパチーを発症した。ビタミンB12値は正常範囲内だったが、ホモシステインやメチルマロン酸は測定されていなかった。

【L-Dopa経口投与中の急性ポリニューロパチー】

L-dopa高用量内服中の急性感覚失調性ニューロパチーが 2名報告されている。両者ともビタミンB12は正常範囲内だったが、ホモシステインやメチルマロン酸は測定されていない。1名に対して行なわれた IVIgは効果がなかった。1名は特別な治療を受けず、9年以上かけて悪化した。

【L-dopa十二指腸持続投与中の慢性ポリニューロパチー】L-dopa十二指腸持続投与を受けた 15名のうち11名に軽度から中等度の遠位部感覚低下があり、6名は日常生活に支障のある強い神経痛がみられた。電気生理学的な異常は、L-dopa投与量および治療開始からの体重減少に相関があった。

考察:L-dopa十二指腸持続投与で末梢神経障害が起きる理由は完全にはわかっていないが、著者らは 1-carbon pathwayの関与を疑っている (論文 Figure 1)。

(1) L-Dopaから Dopamineと 3-O-methyldopaが作られる過程で CH3が必要になる。これには、S-adenosyl-methionineから S-adenosyl-homocysteineが生成される過程で生じる CH3が使われる。

(2) 上記 S-adenosyl-methionine→ S-adenosyl-homocysteineの生成は “Methionie→S-adenosyl-methionine→S-adenosyl-homosysteine→Homocysteiene→Methionine” という経路の一部である。このうち、Homocysteine→Methionineでは、ビタミンB12が消費される。加えて、Homocysteineから Cysteineと Methylmalonic acid (メチルマロン酸) を生成する経路があり、ここでビタミンB6が消費される。

(3) L-dopaの代謝で CH3をたくさん必要とすれば、それだけ (2) の回路が多く回るので、ビタミンB12やビタミンB6の消費は多くなる。その結果、ビタミンB12欠乏やビタミンB6欠乏が起こり、末梢神経障害の原因となる。

この論文を読んで、L-dopaの十二指腸持続投与により Guillain-Barre症候群に似た末梢神経障害が生じるというのは初めて知りました。約 13.6%というのは結構な頻度だと思います。L-dopaとビタミンB12/B6の関係についても、非常に勉強になりました。

ちなみに、十二指腸持続投与に用いる薬剤 (ABT-SLV187) は、ヨーロッパではすでに発売されているようです。そして、clinical trials.govでチェックすると、日本と台湾で第三相試験が行なわれるところのようです (, )。いずれ日本でも発売されるようになるでしょうし、そうすれば目にかかることがありそうですので、知っておかないといけませんね。

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Babinski反射の診断特性

By , 2014年9月10日 8:17 AM

Babinski反射は、神経内科医にとって最も興味をそそる身体所見の一つです。Babinskiが最初の報告をしてから 100年以上経過しますが、今なお謎に包まれた部分があり、近年においても多くの研究がなされています。

その中には面白い研究が多く、例えば脳死患者では、何故か Babinski反射が出ないそうです。

Absence of the Babinski sign in brain death: a prospective study of 144 cases. (Journal of Neurology, 2005)

脳死では、Babinski反射陽性の患者はいなかった。足底反応としては、約半数が無反応型で、約半数が底屈型。

また、完全な脊損状態においても、Babinski反射が出るのは半分くらいらしいです (この論文は、昔医局の抄読会で紹介しました)。

The Occurrence of the Babinski sign in complete spinal cord injury (Journal of Neurology, 2010)

①脊髄が完全損傷された患者では、Babinski反射は半数くらい陽性になる

②Babinski反射と筋緊張の亢進には密接な関係がある

③バクロフェンの髄腔内投与により Babinski反射は抑制され筋緊張は低下する

④Babinski反射の消失は、筋緊張低下がなければ末梢神経障害が疑わしい。

上記 2つの研究のように、Babinski反射は出そうな病態でも結構出ないものだというのは神経内科医の肌感覚と合うものでして、多くの神経内科医は「器質的疾患で出ないこともあるけど、出れば異常」と捉えていると思います。

そして、2014年8月15日に Journal of Neurological Sciences誌に報告された研究はそれを裏付けるものでした。

Accuracy of the Babinski sign in the identification of pyramidal tract dysfunction (Journal of Neurological Sciences, 2014)

錐体路障害に対する Babinski反射の感度は 50.8%で、特異度は 99%である

これは Babinski反射の診断特性を明らかにした素晴らしい研究だと思います。やはり、Babinski反射は感度はそれほど高くないけど特異度は非常に高いのですね。陰性でも錐体路障害を起こすような疾患の存在は否定できないものの、もし陽性であればそのような疾患を探すことが重要になります。

ただしこうした研究は、どういう状況でどういう患者を対象とするかで診断特性が大きく変わってくることが知られているので、その点は留意する必要があります。この研究が対象としているのは急性期の入院患者です。慢性期の患者ではもう少し感度が良くなるのではないかという印象を持ちますが、今後さまざまな clinical settingでの研究が出てくることを期待しています。

(参考)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (1)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (2)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (3)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (4)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (5)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (6)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (6)

神経学の源流 1 ババンスキーとともに― (7)

反射の検査

ナジャ

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多発性硬化症と塩分

By , 2014年9月9日 4:25 AM

JNNPに、塩分摂取量と多発性硬化症の活動性悪化には相関があるのではないかという論文が掲載されました (2014年8月28日 published online)。

Sodium intake is associated with increased disease activity in multiple sclerosis

塩分摂取量を尿中 Naなどから推定し、患者を少量摂取 (2 g/日 5 g/日未満)、中等量摂取 (2~4.8 g/日 5~12 g/日)、多量摂取 (4.8 g/日以上 12 g以上) にわけました。ビタミンDなど、影響を与えうる要因で多変量解析し、塩分摂取量が多量群では、少量群に比べ増悪率が 2.75~3.95倍になるという結果でした。著者らは、塩分が Th17細胞の分化を調節しているという実験結果がこの結果を説明するのではないかと推測しているようです。

ただ、日本で塩分摂取 2 g/day未満って、まず不可能ですよね・・・。塩分摂取の多い日本人で多発性硬化症の増悪が特に多いという印象はないので、この結果に再現性があるのか、追試を待ちたいと思います。

<訂正 (2014年11月5日)>

論文にある sodiumはナトリウムです。ナトリウムは食塩 NaClの 40%なので、塩分で議論するには 2.5をかけなければいけません。勘違いしていました。訂正致します。

 

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パーキンソン病ワクチン

By , 2014年8月13日 6:06 AM

パーキンソン病の患者さんに、よく「進行を止められませんか?」と聞かれますが、残念ながら現在の医学では難しいと答えざるをえません。そんな中、ある研究で期待させる結果がでました。それは、α-シヌクレインに対するワクチン治療です。

First Clinical Data of Therapeutic Parkinson’s Disease Vaccine Encourages Continued Development

概要:ワクチンの認容性を調べるための第一相試験 [AFF008]。PD01A 15 µg および 75 µg群、各12名で 12ヶ月間観察した。被検者は、1ヶ月間隔で 4回のワクチン接種を受け、全員が完遂した。結果、一次エンドポイントである安全性と認容性が確認された。また、二次エンドポイントは α-シヌクレイン特異的抗体の産生であったが、半数の患者で血清に抗体が確認された。加えて、髄液でも抗体は検出できた。臨床経過の解析では、ワクチン接種群はコントロール群と比べて、機能的な進行の抑制がみられた。

孤発性パーキンソン病は、凝集した α-シヌクレインが神経死を引き起こすことが、原因として有力とされる仮説です。まだ第一相試験なので情報は不十分ですが、このワクチンは機序的には十分期待できます。その他にも、α-シヌクレインが関係していると考えられるLewy小体病、多系統萎縮症といった α-synucleinopathyといわれる疾患群にも効果があるのかどうか、夢が膨らみます。

ちなみに、このワクチンが FDAに認可されるのには、あと 6~8年かかる見込みだそうです。

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クロイツフェルト・ヤコブ病の新しい検査

By , 2014年8月11日 6:12 AM

プリオン病の一つであるクロイツフェルト・ヤコブ病は、急速に進行する認知症症状やミオクローヌスの存在、あるいは頭部MRIでの拡散強調像高信号域、脳波での周期性同期性放電などが診断根拠になります。診断精度を高めるために、髄液 14-3-3蛋白なども測定します。しかし、髄液は高い感染性があることが知られています。医療スタッフへの感染を防ぐため、できることなら避けたいところです。

2014年8月7日の New England Journal of Medicineに、それを解決する 2本の検査法が報告されました。

A Test for Creutzfeldt–Jakob Disease Using Nasal Brushings

Prions in the Urine of Patients with Variant Creutzfeldt–Jakob Disease

1本目の論文は、鼻腔擦過標本を用いて RT-QuIC法 (リアルタイム撹拌変換法) を行うものです。少量の異常プリオン蛋白 (PrPCJD) に組み換えプリオン蛋白 (rPrPSen) を加えると、アミロイド線維を形成し、それが thioflavin T蛍光で検出できるそうです。髄液を用いた先行研究では、感度 80~90%, 特異度 99~100%でした。今回、著者らが安全で簡単に行える、鼻腔擦過検体で解析を行ったところ、感度 97%, 特異度 100%でした。

2本目の論文は、尿中の微量プリオンを PMCA (protein misfolding cyclic amplification) 法を用いて増幅するものです。尿を遠心分離し、得られた沈殿を transgenic mouseの 10%脳ホモジネート液に混ぜます。そして PMCA法で増幅した後、western blotを行います。この検査では、感度 92.9%, 特異度 100%でした。

こうした手法が、臨床現場に出てくるのはいつになるでしょうか、待ち遠しいです。

(参考) Novel Ways to Detect Creutzfeld-Jacob Disease?

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脳卒中と偽痛風

By , 2014年8月10日 10:25 AM

少し前の経験から。

症例は心原性脳塞栓症の 80歳代男性です。突然発症の右上肢の運動・感覚障害で来院しました。MRIがとれない理由があり、頭部CTは来院時正常、翌日左中大脳動脈領域に脳梗塞巣が確認されました。

入院 2日後から夕方の発熱が続くようになり、入院 5日後から頸部痛を訴えました。入院 1週間後の採血では白血球 8000 /μl, CRP 19 mg/dl, 赤沈 (60分) 123 mmでした。症状から crowned dens syndromeを疑い、頸椎CTを施行したところ、軸椎歯突起周囲にはっきりと石灰化が見られ、すぐに診断となりました。NSAIDsを開始し、速やかに症状は改善しました。

Crowned dens syndromeは、軸椎歯突起周囲にピロリン酸カルシウムが沈着する偽痛風の一種です。そういえば、脳卒中患者は偽痛風が多い気がするなと思って、少し調べてみたら、2008年の臨床神経学に報告が出ていました。

脳卒中急性期に合併する偽痛風の検討

これを見ると、脳卒中 181例中 10例で偽痛風を発症し、2例が crowned dens syndromeだったそうです。自分が市中病院にいた頃は、病棟で担当していた脳卒中患者は年間 70人くらいだったので、そう考えると結構な数字ですね。NSAIDsが効くので、診断がつかないまま発熱や疼痛に処方されて、気付かれずに良くなってしまう症例も結構あるのではないかと思いました。ちなみに、この症例では、研修医が診断をつけられなくて困っていて、私がひと目で診断つけたので、「ひょっとして惚れるかな」と思って鼻の下を伸ばしていたら、何事もなかったかのように流されました orz

話は逸れますが、赤沈が 100 mmを超える疾患は結構限られていて、確か Cunha BAの論文だったと思いますが、10疾患ほど挙げられています。列挙すると、成人スティル病、リウマチ性多発筋痛章/側頭動脈炎、腎細胞癌、亜急性感染性心内膜炎 (SBE)、薬剤熱、リンパ腫、Carcinoma、骨髄増殖性疾患 (MPD), 膿瘍、骨髄炎です。Crowned dens syndromeでも赤沈 100 mmを超えるのにはびっくりしました。

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反射の検査

By , 2014年8月1日 7:58 PM

反射の検査 (ロバート・ワルテンベルグ著、佐野圭司訳、医学書院)」を読み終えました。古い症候学の本ですが、内容に圧倒されました。

腱反射の検査は、神経症候学の初学者たちにとって高いハードルとなっています。覚えなければならない反射がたくさんあり、かつ判定が難しく、さらに解釈に頭を悩ませることも少なくありません。ワルテンベルグは、(深部) 腱反射を「筋肉が急激な伸展に反応して収縮すること」という原則で捉え、様々な研究者がまちまちに名付けた膨大な数の反射を整理しました。引用文献数 465 (英語、ドイツ語、フランス語などを含む) が示す通り、内容は極めて網羅的ですが、読みやすくまとめられています。神経内科医は一度は読んでおきたい本です。

佐野圭司先生は同じ本で、さらにワルテンベルグの論文 2本を訳出しています。その一本が、”Babinski反射の 50年” で、ワルテンベルグが 1947年の JAMAに “The Babinski reflex after fifty years” というタイトルで書いた論文です。ワルテンベルグは Babinskiの弟子でした。もう一本が、”Brudzinski徴候と Kernig徴候” です。どちらも素晴らしい論文でした。

本書を読んで、ワルテンベルグの才能は、「本質を見抜くこと」にあると思いました。(深部) 腱反射は、「筋肉が急激な伸展に反応して収縮すること」という原則で全てを整理しました (腱を打腱器で叩くと筋肉は伸展する)。Babinski反射は「同側集団屈曲反射の一部で、よじ登る運動の過程の痕跡的な表れ」であり、Babinski変法も全てこれで説明できます。Brudzinski徴候や Kernig徴候は、「脊髄や神経根の伸展で生じる疼痛 (脊髄や神経根の自由な運動が炎症や疾病で妨げられると出現する) を逃れるため、伸展を最小にする姿勢をとる」ことが本質です。

神経症候学に関する本を読んだのは久しぶりでしたが、とても良い刺激を受けました。こういう本を読むと、診察が楽しくなります。

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Dabigatranと情報の隠蔽

By , 2014年7月26日 9:23 PM

心房細動のある患者の脳梗塞予防には、以前はワーファリンが使用されていました。というか、内服での抗凝固療法では、他に選択肢がありませんでした。しかし、採血で INRを測定しながら用量調節する必要があり、薬剤相互作用や食品の影響を受けるなど使いにくく、効きすぎて出血したり、効かなさすぎて脳梗塞を発症したりということもよく見かけました。 そこで登場したのが、新規抗凝固薬 (NOACs) です。用量調節が簡単で、薬剤相互作用や食品の影響を受けにくい、効果発現が速い、やめると速やかに効果が切れる、ワルファリンと効果がほぼ同等で出血性合併症が少ない、などの理由で急速に普及しました。その先陣を切った薬剤が dabigatran, 商品名プラザキサです。その後、rivaroxaban (イグザレルト)、apixaban (エリキュース) が発売されました。腎障害、高齢、低体重などで出血性合併症のリスクが高くはなるものの、その点を留意して選択すれば、ワルファリンに比べて圧倒的に使いやすい薬剤です。

NOACsは市場が大きいため、製薬会社による販売活動が非常な盛んな分野です。少しでも他社製品に差をつけようと、各社しのぎを削っています。そんな中、2014年7月23日の British Medical Journal (BMJ) に衝撃的な特集記事が組まれました。

Dabigatran: how the drug company withheld important analyses

Concerns over data in key dabigatran trial

Dabigatran, bleeding, and the regulators

The trouble with dabigatran

BMJの言い分は、「もし採血で薬剤の血漿レベルを監視して使用することにしていれば、もっと出血性合併症を減らせたのに、製薬会社がその事実を隠していた (dabigatranの血中濃度が 200 ng/mlを超えると危険らしい)」というものです。Boehringer社は、「ワルファリンと違って採血不要」を宣伝文句にしていました。販売戦略のために、副作用を軽減しうる投与法を隠していた可能性が指摘されています。また、pahse IIIの RE-LY試験が open labelだったことが、バイアスにつながっている可能性にも触れられていました。

個人的な使用経験や臨床試験の結果を見た感じでは、dabigatranをこれまでどおり使用しても、少なくともワルファリンより効果や安全性が劣ることはないとは思います。しかし、最善の使用法が製薬会社により意図的に隠されていたことで、dabigatranのイメージダウンは免れません。

少数例ではあっても rivaroxabanで間質性肺炎が問題になっていること (ただし稀)、AHA/ASAによる stroke guidelineで示された evidence level、今回の BMJの特集記事から、NOACsの中では apixabanが選ばれやすくなっているのかもしれません。

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Autoimmune aquaporin-4 myopathy

By , 2014年6月11日 7:04 PM

2014年6月9日の JAMA neurologyに、興味深い論文が掲載されていました。

Autoimmune Aquaporin-4 Myopathy in Neuromyelitis Optica Spectrum

抗AQP4抗体陽性の視神経脊髄炎関連疾患 (NMO spectrum disorder; NMOSD) の患者で CK (Creatine Kinase) 上昇が見られ、筋生検をしてみたら、”autoimmune AQP4 myopathy” だったという論文です。筋生検では、筋壊死が見られなかったにも関わらず、CKが 63000 U/L以上の高値だったことについて、sarcolemmal membraneの破綻のために CKが血中に出て行きやすかったためではないかと考察されています。

抗AQP4抗体って、myopathyまでも起こしうるんですね。びっくりしました。

一つ残念だったのが、針筋電図の記載です。論文では “Electromyographic findings were consistent with myopathy” としか書かれていませんでした。病理で壊死がないと書いてあるので、いわゆる “non-necrotizing myopathy” として脱神経電位は出なかったのではないかと推測するのですが、実際どうだったかは記載して欲しかったです。

今後、NMOや NMOSDの患者の採血を評価する場合には、CKも測定項目に含めておくべきかなと思いました。この論文の症例は、おそらく非常に稀なパターンではあるでしょうけれども。

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