「パリ医学散歩 (岩田誠著, 岩波書店)」を読み終えました。
私はヨーロッパ旅行をするときは、医学や音楽にまつわる史跡をできるだけ巡るようにしています。昨年パリ旅行をしたときは、「ペールラシェーズの医学者たち」を参考にしてペール・ラシェーズ墓地を訪れましたが、本書を読んで、まだまだパリに行くべき場所があるのを知りました。それにしても、岩田先生の本は外れがないです。
また、下記のような歴史的な事実は、本書で初めて知りました。医学史に興味がある方におすすめの本です。
・オテル・ディユーは長い間パリ市内唯一の病院だったため、いつも患者があふれていた。その結果、一つのベッドに何人もの患者が寝ているようなことは日常茶飯事であり、十六世紀頃の記録では、五〇〇床のベッドに対し、多い時には一五〇〇人もの入院患者がいたと記されている。一床一人の原則が確立したのは、ボナパルト時代であった。
・ヴュルピアンはシャルコーの友であり、デジェリンの師であった。彼は一八六六年にクリュヴェイエの後任としてパリ大学医学部の病理解剖学講座の主任教授となり、フランスの病理学に初めて顕微鏡を導入した。また、多発性硬化症という術語を最初に用いたのはシャルコーではなくヴュルピアンであった。
・旧シャリテ病院脇のジャコブ通り界隈には、シャリテ病院に縁のある医者たちが多く住んだ。ルイ一四世の筆頭外科医であったジョルジュ・マレシャル、失語症研究のポール・ブローカなどである。その通りの一四番地にはリヒャルト・ワーグナーが住み、四〇年後にそこに住んだのは神経学の巨匠ジュール・デジェリンだった。
・パストゥールの発見は、ビュルピアンらが支持したが反論も多かった。ある日、シャルコーはパストゥールの研究室を訪れ、弟子のルーに説明を求めた。彼はルーの話に一時間以上にわたってじっと耳を傾け、二、三の質問をした後、実験記録を見せてくれと要求した。その直後の一八八七年七月一二日の医学アカデミーでパストゥールを弁護した。そしてサルペトリエール病院神経病クリニックの中に微生物学研究室をつくろうとしたが、シャルコー急死のためこの計画は中止となった。
・クロード・ベルナールは一八六六年、病気のため実験室を去ってボージョレにある故郷の家で静養していたが、身の不運を嘆いてうつに陥っていた。パストゥールはベルナールを励ますため「世界事情」に「クロード・ベルナール:その研究、教育、方法論の意義」という記事を書いた。そこでベルナールの業績中もっとも重要なものとして肝臓におけるグリコーゲン産生の発見を取り上げた。そして「今、はからずも静養を余儀なくされているこの偉大な患者が、彼の思想と情熱を世に紹介するこの論文によって元気づけられ、彼の友人や同僚たちが、彼がまた研究にもどってくる日を待ち望んでいることを知って喜んでくれることを期待したい」と結んだ。この記事は、ベルナールがうつから立ち直るきっかけとなった。
・ベルナールは、「糖尿病患者が自分で摂取するでんぷんや糖などの炭水化物よりはるかに大量のブドウ糖を尿から排泄するのはなぜだろうか?」「糖尿病患者の糖尿が消失しないのはなぜか」ということに疑問をもった。そして、人体にはブドウ糖を産生する未知の機構があるのではないかと考えた。当時は、糖を産生できるのは植物だけであると信じられていた。しかし、ベルナールは「もし理論に合致しない事実が見出されたなら、どんなに権威のある常識的な理論であろうと、その理論を捨てて事実をとるべきである」という信条を持っていた。ベルナールは動物を肉だけで飼育し、門脈と肝静脈の血液をとって比較してみると、門脈中にはブドウ糖がないにもかかわらず、肝静脈中にはブドウ糖が大量に存在することがわかった。このことから、肝臓中にグリコーゲンを発見するに至った。
・セヴール通りにあるネッケール病院は「ひとつのベッドに一人の患者を」というモデル病院を作る計画に従い、一七七八年に開かれた。ラエネックは一八〇六年頃にネッケール病院に赴任した。ウィーンの医師アウエンブルッガーにより発見された打診法をフランスに広めたのはコルヴィサールであり、ラエネックはコルヴィサールの弟子であった。一八一六年、ルーヴル広場を通りかかったラエネックは、二人の子供が大きな材木をたたいて遊んでいるのに気づいた。ひとりの子供が材木の一方の端をトントンと叩くと、もう一人はもう一方の端に耳をつけてこれを聞いて遊んでいた。この様子をみたラエネックは自分の患者に応用してみた。ネッケール病院に戻ると、心臓病の少女にきつくまいた紙の筒の一方の端をあて、もう一方の端を自分のみみにあててみた。すると、直接胸に耳を押しあてて聴くのとは比べ物にならないほどはるかにはっきりと、患者の心臓の鼓動が聞こえた。彼はこの方法が、あらゆる種類の胸部疾患の診断に応用できることに気づいた。そして紙筒を木の筒に換え、これを「聴診器」と名づけた。一八二六年八月二三日、彼は肺結核で亡くなった。ネッケール病院の入口に隣り合う壁には「この病院でラエネックは聴診法を発見した」という石碑が掲げられている。
・一三四八年にパリにペストが流行し、フランソア一世はペスト患者専門の収容病院をパリ市街に建設しようと計画したが、宗教戦争等で実現しなかった。一六〇六年に再度ペストが流行したため、計画はようやく実行に移された。当時は西風が病毒を運ぶと考えられていたため、パリ東北に病院の建設地が定められた。サン・ルイ病院は一六一一年に完成し、一六一八年に開院された。当初は感染性疾患のセンターであったが、当時皮膚感染症が多かったため、そのうちこの病院は皮膚科専門の病院になっていった。フランス人の名前を冠せれた皮膚疾患は多いが、ほとんどはこの病院に足跡を残した人々の名前である。ここに勉強に来たのが太田正雄 (作家としてのペンネームは木下杢太郎) である。木下杢太郎はサブロー寒天培地に名前を残したサブロー教授の研究室で真菌症の研究を始め、白癬菌の新しい分類体系を確立した。また、日本に戻ってからは太田母斑 (眼上顎褐青色母斑) を世界に先駆けて記載した。
・ピネルは一九九三年にビセートル病院の内科医師となり、まずここで男性精神病患者を鎖から解き放った後、一七九五年にラ・サルペトリエールに赴任し、今度は女性患者を解放した。サルペトリエール病院の門の前にはピネルの像が立ち、サルペトリエール病院神経病クリニックにとなり合うシャルコー図書館の入り口には、ピネルが患者を鎖から解放している絵が掲げられている。
・ ブローカの墓は、モンパルナス墓地にある。墓石にはブローカの名前が刻んであるのみで、墓石には彼の生前の業績を讃える何の言葉も見出せず、ほとんど訪れる人もない。
一部の神経疾患において、神経伝導検査や針筋電図といった電気生理学的検査は極めて有用な検査です。一般人への知名度は低いものの、この検査がなければ診断がつかないというケースは珍しくありません。一方で、神経伝導検査で四肢に電流を流すと聞いて不安感を持つ方がいますし、針筋電図は針 (といっても注射針よりは細いです) を筋肉に刺すわけなので、多少の痛みがあります。
検査中に音楽をかけたら苦痛が軽減するかという研究が、2014年5月16日に Muscle & Nerve誌に受理されたようです。
神経伝導検査や針筋電図を行う患者をスピーカーから流れる音楽を聴く群と、通常通りに静かな環境で検査を受ける群に分けます。音楽を聴く群には、クラシック音楽、インストルメンタル、ロックのどれにするかを選んで貰います。そして、検査者への質問紙法や、被検者への VAS (visual analog scales) などで効果を評価しました。その結果、VASでは不安や疼痛を有意差に減少させなかったものの、患者は検査中に音楽が流れている方を好むという結果でした。
針筋電図を怖がる患者さんもいるので、面白い研究だなと思いました。音楽で不安が軽減できていたら尚のこと良かったのですが・・・。
第55回日本神経学会学術大会から戻ってきました。
5月21日 (水)
岩田誠先生の御講演「それは祈りから始まった」を聴きました。以前聴いた「音楽と脳-音楽って何」「描画の神経学」を融合したような内容の、素晴らしい講演でした。新人類以降、解剖学的な制約から開放されて、母音をいくつも含む言葉を喋るようになってから、ヒトは知能モジュールを連結させるようになっていったそうです。言語の発達と描画の発達は個体レベルでみると時期が一致するらしいですが、ヒトの進化の歴史にも同じことが言えるようです。最終的に、集団としての祈りのなかで芸術は生まれたとする岩田先生の説でした。感動しました。
続いて、「音楽療法:科学的視点から」を聴きました。前半は阿比留睦美先生による音楽療法の話。パーキンソン病、片麻痺や失調による歩行障害に対し、音楽療法を用いた歩行訓練の動画を見ることが出来ました。音楽療法について書かれた論文を読む機会はありますが、実際にどうやっているかは知らなかったので、面白かったです。運動性失語に対しての melodic introduction therapyでは、言葉は喋れなくてもメロディーをつけて歌えば言葉が出てきたり、その他半側空間無視の患者の健側に鉄琴で音階を叩かせ、無視側に誘導して注意を向けさせる方法など、興味深い話がいくつもあって引き込まれました。その後の三重大学の佐藤正之先生の講演は、認知症と音楽療法についてでした。色々な論文の紹介は出てくるのですが、認知症患者に実際どのようにして音楽療法を行っているかの説明がほとんどなく、残念ながらイメージが湧きませんでした。
これらの講演を聴いてからはポスターを見に行きました。ポスターは玉石混交という感じでしたが、一番面白かったのは、信州大学からの HPVワクチンの副作用の話。起立性低血圧を呈する症例があり、皮膚生検でも自律神経の障害を示唆する所見があるとのことでした。自己免疫性機序が想定されているようですが、抗nAChR受容体抗体は陰性らしいです。質疑応答では、「治癒した後も登校しなくなってしまう学生」の存在が問題視されていました。余談ですが、抗HPVワクチンは子宮頸がんだけを予防するわけではないので、演題にあった「子宮頸がんワクチン」という用語は使わないほうが良いと思いました。
それから講堂に戻り、偶然お会いした内原俊記先生と、jolt accentuationについての意見交換。
夜は、神経病理学の教授や先輩らと 4人でしずくに行きました。酒、肴とも最高でした。その日聴いた演題の情報交換をしたのですが、「髄液の産生・吸収機構の新しい概念と特発性正常圧水頭症の診断・治療の進歩」というシンポジウムが素晴らしかったと聞きました。髄液が脈絡叢で産生されてくも膜顆粒で吸収されるという従来の概念は、髄液の循環の中でも高圧時にバックアップ的に働く系らしく、メインではないそうです。メインの系としては、他にいくつかの仮説が唱えられています。学生には理解しやすい従来の説を教えているけど、試験には出せないという話がされたと聞いて、聴衆の間で話題になっていたらしいです。相当インパクトのある講演だったらしいので、もし今回の学会が終わった後、講演の動画が視聴可能になったら、是非見ておきたいです。それ以外には、ANCA関連肥厚性硬膜炎の話が面白かったと聞きました。
24時まで飲んだ後、先輩と 2人で「夜の博多スタディー」と称して午前 4時まで中洲を練り歩きました (^^;
5月22日 (木)
午前 8時から「私シリーズ 私と神経症候学」で、田代先生の話でした。以前このブログで紹介した「神経症候学の夢を追いつづけて」という本とほぼ同じ内容の話でした。午前 9時からは症候学や電気生理診断学で有名な柴崎浩先生の講演を聴きました。
それが終わってからは、博多港から水上バスによって天神に移動し、そこから柳橋連合市場に移動して食事。海の幸を食べましたが、思ったほどではありませんでした。また、市場で土産を買おうと思ったのですが、生鮮品が多く断念。学会場に戻りました。
学会場に戻ってからは、ポスター発表を見ました。外勤先の部長を見かけて、一緒に空港に向かいました。空港で焼酎をたっぷり飲んでから、19時過ぎの飛行機で東京に戻りました。
近年、かつて急性汎自律神経異常症 (acute pandysautonomia; APD) と呼ばれていた疾患に抗ニコチン作動性アセチルコリン受容体 (自律神経節 nAChR) 抗体みつかり、自己免疫性自律神経性ガングリオノパチー (autoimmune autonomic ganglionopathy; AAG) という用語が用いられるようになりました。たまに見かける疾患なので、こうした知見について、知識のアップデートが必要です。
この疾患は、下記の総説によく纏まっています。
①急性汎自律神経異常症とニコチン作動性アセチルコリン受容体抗体
②The spectrum of immune-mediated autonomic neuropathies: insights from the clinicopathological features
国内では、長崎川棚医療センターで抗体測定をしていただけるようです。
最近 AAGと診断をつけた症例があり、実際に抗nAChR抗体を測定して頂いたら、2週間で結果が戻ってきました。思っていたより早く結果が出て、助かりました。返信は、症例へのコメントも書いてある丁寧なレポートでした。
長崎川棚医療センターのサイトを見ると、重症筋無力症の抗MuSK抗体や抗LRP4抗体まで測定して頂けるようです。色々お世話になる機会が増えそうです。
2014年5月号の Muscle & Nerve誌の invited reviewは、disialosyl抗体に伴う失調性ニューロパチーでした。結城先生が書かれていて、非常によく纏まっていました。
総説では、disialosyl抗体に伴う失調性ニューロパチーを「急性」と「慢性」に分けて解説してありました。
急性失調性ニューロパチーには、Fisher syndrome (FS), ataxic Guillain-Barre syndrome (ataxic GBS), acute sensory ataxic neuropathy (ASAN) があります。FSは抗GQ1b-IgG抗体 (抗GT1a抗体と cross react) が 83%で陽性になり、抗GD1b抗体が 2%で陽性になります。責任病巣はよくわかっていませんが、node/paranodeの障害 (可逆的な伝導障害)、軸索変性、Ia遠心性線維の障害 (→proprioceptive afferent systemの機能障害がおきる) などが想定されています。Ataxic GBSも抗GQ1b-IgG抗体が陽性になります。ASANは抗GD1b-IgG抗体やそれに組み合わせて抗GD3抗体、抗GT1a抗体、抗GT1b抗体、抗GQ1b抗体などが陽性になります。
慢性失調性ニューロパチーには、CANOMAD (chronic ataxic neuropathy, ophthalmoplegia, IgM paraprotein, cold agglutinins, and disianosyl antibodies) があります。臨床症状は病名の通りです。しかし、外眼筋麻痺を欠く症例があることなどから、最近では CANDA (chronic ataxic neuropathy with disalosyl antibodies) と呼ばれるのが一般的であるようです。CANDAでは、GD1bや GQ1bに対する IgM paraproteinが陽性になるとのことでした。機序としては、慢性例では dorsal root ganglionopathyが、再発寛解を繰り返す症例では神経内の Bリンパ球から分泌される抗体の存在が関与しているのではないかと推測されていました。
CANDAについては良く知らなかったので、非常に勉強になる総説でした。
本邦で行われた遺伝性パーキンソン病についての研究が 2014年4月30日の Nature誌に掲載され、ニュースになっています。過去に話題になった研究の続報です。
毎日新聞 5月7日(水)20時49分配信
神経難病「パーキンソン病」の原因となる細胞内の異常を除去する際に作り出される物質を突き止めたと、東京都医学総合研究所の田中啓二所長、松田憲之プロジェクトリーダーらの研究チームが、7日発表した。この物質の増加を検査で確認できれば、パーキンソン病を早期発見できる可能性がある。論文は英科学誌ネイチャー電子版に掲載された。
チームは、マウスやヒトの細胞を使い、環境や生活習慣と関係なく家族内で発症する遺伝性パーキンソン病(全体の1~2割)を調べた。遺伝性パーキンソン病は、二つの遺伝子「ピンク1」と「パーキン」が働かず、細胞内の小器官「ミトコンドリア」の不良品が蓄積し、神経細胞が失われて発病する。
今回、二つの遺伝子が異常ミトコンドリアを除去する詳細な仕組みが分かった。ピンク1が異常ミトコンドリアを見つけると、「ユビキチン」というたんぱく質にリン酸を結び付ける。この結合が合図となってパーキンが働き始め、異常ミトコンドリアの分解を促していた。遺伝性でないパーキンソン病でも同様の仕組みが働いている可能性があるという。
松田さんは「パーキンが働かない場合、もしくはピンク1やパーキンの処理能力を超える異常ミトコンドリアが生じた場合は、リン酸と結びついたユビキチンが急増し、パーキンソン病を発病する。このユビキチンを測定すれば早期発見できるようになるかもしれない」と話す。【永山悦子】
記事を読んでもこの研究の意義があまり伝わってこないかもしれないので、何故 Natrureに載るような研究だったのか、簡単に解説したいと思います。
パーキンソン病の約 9割は孤発性ですが、1割が遺伝性とされています。遺伝性の中で、常染色体劣性若年性パーキンソニズムの原因遺伝子として parkin, PINK1, DJ-1というのが知られています。遺伝性パーキンソン病の中で最も多く見られるのは、parkin変異です。Parkin遺伝子は parkin蛋白をコードし、ユビキチンという物質を不良蛋白質にくっつけるユビキチン・リガーゼとして働きます。ユビキチンがくっついた蛋白質は、プロテアソームという装置で分解されます。一方で、PINK1遺伝子は PINK1蛋白をコードし、特定の蛋白質にリン酸基を付加するキナーゼとして働きます。なぜこれらの異常で常染色体劣性若年性パーキンソニズムを発症するのかはよくわかっていませんでした。
2006年、ショウジョウバエを用いた研究で、parkinと PINK1が共通の経路にあり、かつ parkinが PINK1の下流に存在することが明らかになりました。そして 2010年、上記の記事に登場する松田氏らの研究により、PINK1が膜電位の保たれた健常なミトコンドリアでは速やかに分解され、膜電位が低下するとミトコンドリア外膜に集積し、parkinを誘導することがわかりました。つまり膜電位を維持できない不良ミトコンドリアの分解に、parkin/PINK1は大きな役割を果たしているといえます。2012年、同じ研究グループにより PINK1同士が互いにリン酸化をしていること、次いで PINK1が parkin S65をリン酸化することなどが明らかになってきましたが、それだけでは解決できない問題 (parkin S65に偽リン酸化変異を入れても、やはり PINK1を必要とすることなど) が残っており、PINK1のキナーゼとしての真の基質を探して研究が続けられていました。そして発表されたのが今回の論文です。
今回の Nature論文のキモは次の 2点です。
①PINK1のキナーゼとしての真の基質がユビキチンであることがわかった。言い換えれば、修飾因子であるはずのユビキチンが、リン酸化という修飾を受けることがわかった
②parkinがユビキチン・リガーゼとして活性化するためには、parkin S65のリン酸化に加えて、リン酸化ユビキチンが必要なことがわかった。 逆に、parkinは S65にリン酸化修飾を受け、周囲にリン酸化ユビキチンさえあれば、active formになることができることもわかった。
特に、ユビキチンは生体内でさまざまな役割を果たしていることがわかっていて、Pubmedで調べると 40000件ヒットします (2014年5月8日現在)。今回初めて明らかになった “リン酸化ユビキチン” という概念は、様々な分野に飛び火していくのではないかと思います。
ちなみにこの研究とほぼ同時に、Richard Youleらにより同様の事実が明らかにされ、独立したグループから再現性があることは確認されています。
(2014.5.10 追記)
プレスリリースを見つけました。
2014年 4月 22日号の JAMAが神経特集でした。面白かったのが、Parkinson病の運動症状、非運動症状の治療薬についての総説でした。
運動症状の治療薬選択について、日本の診療ガイドラインでは高齢者を「70~75歳以上」としていましたが、この総説では 60歳で区切っていたのが印象的でした。
Parkinson病の認知機能障害にリバスチグミン (イクセロンパッチ)、ドネペジル (アリセプト)、ガランタミン (レミニール) は良さそうだけど、メマンチン (メマリー) は効かなさそうだとか、L-dopaにアマンタジン (シンメトレル) を追加したら病的賭博が出現した症例があったとか、勉強になりました。また、Parkinson病の患者で流涎を訴える方がたまにいて、どう治療するか悩むのですが、アトロピン、グリコピロレート (ロビナール) 内服、ボツリヌス治療と書かれていました。残念ながら、ロビナールは日本では 1999年8月に発売中止されているようですね。
わりと網羅的に書かれていますので、神経内科医は読んでおくと良いと思います。特に Table.5の、非運動症状と治療薬の一覧表が纏まっています。
この論文とは別に、Health Agencies Updateというコーナーでは、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の話が取り上げられていました。
そこでは、C9ORF72遺伝子の六塩基反復の伸長がある患者では C9ORF72の立体構造がおかしくなり、核の機能が障害され、細胞が脆弱になるという 2014年3月5日に公開された Nature論文が紹介されていました。C9orf72の分子メカニズムも徐々に明らかになってきているようですね。
2014年4月号の JAMA neurologyを見ていたら、びっくりするような画像が載っていました (契約していなくても、下記リンクで画像は見られます)。
敗血症により DIC (播種性血管内凝固症候群) を起こした患者に、脳MRIの磁化率強調画像 (SWI) を撮像したところ、多発する微小出血が確認されたとする症例報告です。その患者には鎌状赤血球症があったそうですが、論文の記載を見ると、そのことは影響していなさそうでした。ちなみに、この症例は四肢麻痺などの神経症状がみられたものの回復良く、リハビリ施設に転院していったそうです。
SWIは出血性病変を評価するのに優れた撮像法です。敗血症→DICでみられる神経症状は、ついつい「循環障害や低酸素のせいではないか」と考えてしまいがちですが、こうした画像を見ると、多発する微小脳出血が原因となっている症例も混ざっているのかもしれません。一方で本症例は神経症状の原因が別にあり、たまたま微小脳出血が併存していた可能性も否定はできません。DICでの多発する微小脳出血と神経症状の関連は、今後の臨床研究で評価していく必要があると思います 。
American Heart Association (AHA)/American Stroke Association (ASA) から最新の脳卒中予防ガイドラインが出ました。”Published online before print May 1, 2014,” となっていて、雑誌の出版前 5月1日にオンライン公開です。紙の雑誌では、7月号になるらしいです。
さっそく Recommendationsすべてと、抗血小板薬の部分全てを通読しました。ざっと読んだ感じでは、網羅的で非常に実践的です。各項に太字で Recommendationsが記されており、前回のガイドラインから変更があった部分には “Revised recommendation”, 追加があった部分には “New recommendation” と記されています。
抗血小板薬については、aspirinや clopidogrel の nonresponderに触れられていました (38ページ)。また、一時期話題になった、clopidogrelとプロトンポンプ阻害薬 (PPI) の併用による clopidogrelの効果減弱については、実際には効果減弱ではなく、単に PPIが脳卒中リスクを高めていたかもしれないことが明記されていました (36ページ)。
新規抗凝固薬 (NOACs) に関しては、弁膜症のない心房細動による再発性脳梗塞で apixaban, dabigatranの使用が class Iになっていて、rivaroxabanが class IIaになっていました。Edoxabanについては、ガイドライン作成までに臨床試験の結果が出ていなかったためか、記載はありませんでした。ただし、この分野は臨床研究が盛んになされており、次回のガイドラインではまた少し変わる可能性がありますね。
このガイドラインは非常に優れているので、脳卒中診療に関わる医師は必読だと思います。英文 77ページとややボリュームがあるので、各項の Recommendationsをまず読んで、Table1か、付録の executive summaryを常に見られるようにしておくのが良いと思います。ちなみにこのガイドラインは無料公開されていて、だれでもアクセスできます。
2014年3月24日にプラスグレルの製造販売が日本でも認可されたようです。チエノピリジン系薬剤では、チクロピジン (パナルジン)、クロピドグレル (プラビックス) に続いて 3剤目ですね。
今回の適応は「経皮的冠動脈形成術(PCI)が適用される虚血性心疾患(急性冠症候群、安定狭心症、陳旧性心筋梗塞)」のようですが、薬効的には、おそらく将来脳梗塞の治療にも用いられるようになるのでしょう。今回はプラスグレルでしたが、チカグレロルがいつ日本で認可されるかも気になります。