Category: 神経学

Fahr病の遺伝子

By , 2014年2月4日 5:56 AM

Fahr病特徴的な CT画像は、一度見ると忘れません。研修医の頃見たときは結構衝撃的でした。Movement disorders誌をパラパラ眺めていたら (とは言っても online siteですが)、 2014年1月3日付で Fahr病の新規遺伝子 PDGF-Bが HOT TOPICSとして紹介されていました。

A New Gene for Fahr’s Syndrome – PDGF-B

Fahr病 (Familial idiopathic basal ganglia calcification; IBGC) は、1850年に Delacourが最初に報告し、1930年が Fahrが病理学的に基底核を中心とした脳石灰化を記載しました。14q11.2 (IBGC1), 2q37 (IBGC2), 8p21.1-q11.13 (IBGC3), 5q32 (IBGC4) に遺伝子座が報告されています。

2013年1月、exome sequencingを用いて、IBGC4に platelet-derived growth factor receptor β (PDGF-Rβ) をコードする PDGFRB遺伝子が報告されました。さらに同年8月、PDGF-Bをコードする Pdgfb遺伝子 (22q13.1) のナンセンス及びミスセンス変異が報告され Pdgfbの低機能対立遺伝子を持つマウスで、脳石灰化が確認されました。面白いことに、PDGF-Bは PDGFRβの主要 ligandであるとのことです。

2013年2月に報告されたのが IBGC3の SLC20A2遺伝子です。家族性 IBGCの 41%に SLC20A2変異があるそうです。

気になるメカニズムですが、内皮の PDGF-B欠乏は周皮細胞と血液脳関門の異常を引き起こすとされています。また、SLC20A2はナトリウム依存性リン輸送体ファミリーであり、無機リン酸塩の局所的な凝集がリン酸カルシウム沈着の原因となるようです。両者のメカニズムは違っても、石灰化のパターンに違いはなさそうだということです。

私が研修医時代には原因不明であった疾患も、徐々に分子メカニズムが解明されてきていることを初めて知り、新鮮でした。

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olesoxime

By , 2014年2月3日 9:46 PM

2014年1月21日の European Journal of Neurology誌に、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) に対する olesoxime の phaes II-III試験の結果が発表されました。リルゾールに olesoximeもしくはプラセボを上乗せしたものですが、18ヶ月の観察期間で有効性を示せませんでした。olesoximeは神経保護作用が期待される薬剤だったようですが、う~ん残念。これまでのような方法論では難しいのでしょうね。

A phase II−III trial of olesoxime in subjects with amyotrophic lateral sclerosis

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ALSの長期生存

By , 2014年1月29日 6:10 AM

ALSは予後の厳しい疾患ですが、10年以上経過しても ADLや呼吸機能がある程度保たれる方がいます。例えば、作曲家のショスタコーヴィチも進行の遅い ALSであったと推測されています。しかし、どのくらいの割合の患者が長生きし、それがどういう特徴をもった患者なのかは、まだ未知の部分が大きいのが現状です。

2014年1月2日の Annals of neurology誌に ALS患者の生存期間に関するコホート研究が掲載されました。

 Long-term survival of amyotrophic lateral sclerosis. A population-based study

 人口 4947554人が住む北イタリアにおいて、コホート研究を行った。ALS患者は 1998年1月1日~2002年12月31日に登録され、亡くなるか、もしくは 2013年2月28日まで前向きに観察された。その結果、517名が登録され、重複などを除く 496名が対象となったが、13名は追跡できず、483名を解析した。 男性 280名、女性 203名、18~93歳、平均 63.9歳で、診断時の平均罹病期間は 10.6ヶ月だった。登録時、definite ALS 44.1%, probable ALS 26.9%, possible ALS 19.3%, suspected ALS 9.7%だった。経過期間中、motor neuron diseaseとして 2名が PMA、1名が PLS 1名であることが明らかになり、また27名は ALSでないことが明らかになった。

 診断時から見た累積生存率は、12ヶ月 76.2%, 3年 38.3%, 5年 23.4%, 10年 11.8%だった。初発症状出現時から見た累積生存率は、12ヶ月 92.1%, 5年 28.6%, 10年 13.3%だった。男性、若年、possible/suspected ALS, spinal onset、診断まで 12ヶ月以上である方が長期に生存した。観察期間終了後に生存していた 41名のうち、胃瘻、非侵襲的換気 (NIV), 気管切開などを行っていたのは 7名 (17%) だった。75歳以上の男性患者では、10年間の生存率は一般人と変わらなかった。

 我々神経内科医が ALS患者に予後を説明するときなど、非常に役立つ研究だと思います。

今回の研究では遺伝子検索はしていませんが、例外を除き遺伝子型と表現型は相関がはっきりしないそうです。しかし、進行の遅い ALS患者で見られたという EPHA変異があるかどうかとか、個人的には遺伝学的背景も気になるところです。

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musician’s dystoniaとARSG

By , 2014年1月28日 5:32 AM

音楽家のジストニアに関する本を過去に紹介したことがありました。私が興味を持っている分野の一つです。

音楽家の 1~2%に、楽器演奏に使用する身体の部分 (ヴァイオリン奏者/ピアノ奏者/ギター奏者などの手や、管楽器奏者の口唇など) を思い通りに動かせなくなる症状がみられ、”musician’s dystonia” とか “musician’s cramp” と呼ばれます。特に若い男性に多く、発症した多くの患者は、プロの演奏家としての道を諦めることを余儀なくされます。ロベルト・シューマンがそのせいでピアニストとしてのキャリアを諦め、作曲家になったことはあまりに有名です。また、”musician’s dystonia” で右手の自由を失い、左手だけで演奏を続けたフライシャーのようなピアニストもいます。

原因は不明とされてますが、2013年11月の JAMA neurologyでは、「遺伝性の要素と、環境因子 (長時間の練習など) の両方が関与している」という論文が掲載されています。

Challenges of Making Music: What Causes Musician’s Dystonia?

遺伝性の要素の詳細はこれまでベールに包まれていましたが、2013年12月26日付 (first online) で Movement Disorders誌に genome-wide association study (GWAS) の結果が報告されました。

Genome-wide association study in musician’s dystonia: A risk variant at the arylsulfatase G locus?

Using a genome-wide approach with an independent replication and validation in other forms of dystonia, we identified the intronic variant rs11655081 in the ARSG gene as the first possible genetic risk factor for MD with genome-wide significance.(略)

ARSG is located on chromosome 17q24.2 and belongs to family of sulfate genes whose gene products hydrolyze sulfate esters. These proteins are involved in cell signaling, protein degradation, and hormone biosynthesis.

どうやら、ARSG遺伝子の多型により、musician’s dystoniaの発症リスクが高まるようです。この遺伝子多型は、書痙患者に対する GWASでも関連が示唆されました。実際、musician’s dystonia患者の 44%に、書痙など他のタイプのジストニアを合併することが知られているそうです。

遺伝子多型が一つわかっただけで musician’s dystoniaの原因が明らかになったわけではありませんが、これまで未知であった遺伝学的背景の解明にむけて、最初の一歩です。

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抗MOG抗体と NMO/NMOSD

By , 2014年1月27日 6:07 AM

2014年1月13日の JAMA neurologyに、視神経脊髄炎 (NMO)/視神経脊髄炎スペクトラム疾患 (NMOSD) における抗 aquaporin-4 (AQP4) 抗体陽性例と抗 myelin-oligodendrocyte glycoprotein (MOG) 抗体陽性例の臨床像を比較した研究が掲載されていました。

Neuromyelitis Optica Spectrum Disorders With Aquaporin-4 and Myelin-Oligodendrocyte Glycoprotein Antibodies

A Comparative Study

NMO/NMOSD患者の多くは抗 AQP4抗体陽性と考えられています。しかし数年前から、抗 AQP-4抗体陰性例に抗 MOG抗体が検出されることが報告されるようになりました。そこで著者らは、2010年1月1日~2013年4月1日に初回の脱髄イベントを起こした、抗 AQP-4抗体もしくは抗 MOG抗体陽性患者について調べました。

Table1

Table1

その結果、明らかになった臨床的特徴は下記。

・抗 AQP4抗体と抗 MOG抗体が両方陽性の患者はいなかった

・抗 MOG抗体陽性患者は、抗 AQP-4患者と比較して、男性に多い、若年という特徴が見られた。

・抗 MOG抗体陽性患者は、視神経炎と横断性脊髄炎を併発もしくは 1ヶ月以内に続発することが多かった。抗 AQP4患者では同時発症はみられなかった。

・44%の抗 MOG抗体陽性患者は、発症時に視神経脊髄炎の診断基準を満たした。抗 AQP-4抗体では発症時に視神経脊髄炎の診断基準を満たした患者はいなかった。

・最重症時の EDSSは両群間で差はなかったが、抗 MOG抗体陽性患者の方が、EDSS、運動障害、MRI画像とも改善が大きかった。抗 AQP4抗体陽性例と異なり、抗 MOG抗体陽性例では観察期間中に再発した患者はいなかった (単相性)。

・脊髄病変の長さは両群間で差はなかったが、抗 MOG抗体陽性例では脊髄円錐が侵されやすかった。また、抗 MOG抗体陽性例では、脳 MRIで白質病変が一般的に見られた (ADEM-like)。

・髄液所見は両群間で差がなかった。

・回復後の抗体陰転化は、抗 MOG抗体 (56%) の方が抗 AQP4抗体 (15%) よりも一般的に見られた。

・多発性硬化症 (MS) 患者において抗 MOG抗体をスクリーニングしてみたが、陽性例はなかった。別の研究では一部患者で陽性だったと報告しており、抗体のアッセイ系の違いが原因と推測される。

 この論文を読むと、NMO/NMOSDにおいて、抗 MOG抗体陽性例と抗 AQP4抗体陽性例では、臨床像がかなり異なるようです。、読みながら、「あっ、そういえば、昔診たあの患者さんがそうだった」と思いながら読みました。しかし、抗 MOG抗体陽性 NMO/NMOSDを疑ったとして、一般の病院では検査することは難しいですね。ググると、すでにキットも販売されていますし、測定して報告している大学が国内にいくつかあるので、そういうところに依頼することになるのでしょうか。

あと、2014年1月20日の JAMA neurologyでは、NMOにおける免疫抑制療法の比較が掲載されていました。

Comparison of Relapse and Treatment Failure Rates Among Patients With Neuromyelitis OpticaMulticenter Study of Treatment Efficacy

Results  Rituximab reduced the relapse rate up to 88.2%, with 2 in 3 patients achieving complete remission. Mycophenolate reduced the relapse rate by up to 87.4%, with a 36% failure rate. Azathioprine reduced the relapse rate by 72.1% but had a 53% failure rate despite concurrent use of prednisone.

アザチオプリンは、ステロイド併用していても約半数で治療失敗がみられるんですね。

薬価を見ると、アザチオプリン 100~200 mg/day (2~3 mg/kg/day) で 306.2~612.4円/日、ミコフェノール酸モフェチル 1000~2000 mg/dayで 1304.8~2609.6円/日、リツキシマブ 1000 mg 初回投与及び 2週間後投与併せて 856640円。3剤の中で最も安いアザチオプリンの治療失敗が最も多いとは・・・残念です。

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HPVワクチン

By , 2014年1月23日 7:57 AM

HPVワクチンの後に見られた副反応に対する評価、妥当な判断だと思います。

子宮頸がんワクチン、心身の反応が慢性化-安全性判断は次回へ、副反応検討部会

医療介護CBニュース 1月20日(月)22時11分配信

子宮頸がんワクチン、心身の反応が慢性化-安全性判断は次回へ、副反応検討部会

接種後の重い副反応が相次ぎ報告されている子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)に関し、厚生科学審議会の検討部会は20日、慢性的な痛みといった副反応症例について、接種に伴う痛みや緊張などが身体の不調として現われた「心身の反応」の慢性化したものとする評価をまとめた。ワクチンの安全性については、次回会合で最終的に議論することとし、昨年6月以来中止している接種勧奨を再開するかどうかの判断も持ち越された。【烏美紀子】

この日の部会では、これまでの論点を整理した。副反応として報告されている症例が、▽接種から発症までの期間や症状の持続期間が一定していない▽リハビリや心のケアにより改善している症例もある-などの特徴から、接種後の局所の疼痛などが「心身の反応」を引き起こし、慢性の疼痛や運動障害として現われたと考えられると評価した。その場合、接種後1か月以上経過してからの発症は、接種との因果関係に乏しいなどとし、「身体的アプローチと心理的アプローチの双方を用いた治療」が重要だとした。

神経システムの異常による疾患や薬剤による中毒症状、免疫反応による可能性は、「これまでの知見からは考えにくい」とした。また、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの診断が付いている症例とワクチンとの因果関係は否定した。

この日の議論を基に報告書案をまとめ、次回会合で最終的な議論を行う予定。

私はこのワクチンの副反応を起こした方を実際に診たことはありません。しかし随分前に、ニュースである被害者の映像を見たことが印象に残っています。両下肢の不随意運動という訴えだったのですが、映像を見ると「不随意運動としては一般に見られないタイプの運動である」「肢位によって運動の周波数が変化する」「随意運動の最中には不随意運動が消失する」など、心因性 (いわゆるヒステリー) を疑わせる証拠がいくつかありました。その方の場合は、母親に疾病利得もありそうでした。こういう患者さんは神経内科医の診察を受けるべきだとブログに書こうかと思ったのですが、どのニュースかわかると個人が特定出来る状況だったので、当時は触れませんでした。

このように被害を訴える方の中には、心因性の要素の強そうな方が混ざっているのは事実だと思います。今回の副反応部会の結論は、「心身の反応」という表現でそこに言及しており、心因性としての治療のチャンスを逃さないためにも、評価出来るものだと思います。 (今回は心因性の症状についてのみ書きましたが、もし器質的な障害を伴う副反応が存在するならば、そこはそこで議論が必要です)

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ALSとテンシロン

By , 2014年1月21日 10:25 PM

以前の抄読会に関するブログ記事で触れたことがある通り、ALSの患者さんでは、反復刺激試験で waningが見られることがあります。ある年配の先生に聞いたら、「そうだよ。おれ昔重症筋無力症と間違えたことあるもん(´・ω・`)」とおっしゃっていました。さすがにそれは針筋電図をしっかりやればわかりそうなものですが・・・ (^^;

第2回抄読会

ALSの患者の下痢にワゴスチグミンが有効であった経験や、ALSの電気生理検査でしばしば疲労現象が見られることから、テンシロンテストを行って呼吸機能を評価したらどうなるだろうか?などと議論が盛り上がりました。

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の患者さんで、たまに「疲れやすい」という訴える人がおり、こうした知見から考えると、神経筋接合部異常が易疲労感の原因なのかなと推測されます。でも、私自身、実際に易疲労感を訴える ALS患者で反復刺激試験をしてみたことがないので、実際のところはよくわかりません。

ALSでの反復刺激試験の異常が何故起こるか、最近 “Electromyography and Neuromuscular Disorders Clinical-Electrophysiologic Correlations Third Edition (David C. Preston, Barbara E. Shapiro)” を読んでいたら 60ページに解説がありました。

Other Disorders that may Show a Decrement on RNS

A decremental response with RNS occurs predominantly in primary disorders of the NMJ. However, a decrement also may be seen in other disorders, especially in severe denervation disorders (e.g., motor neuron disease). In any condition in which there is prominent denervation and reinnervation, newly formed NMJs, which occurs as denervated fibers are reinnervated , are immature and unstable. These immature and unstable NMJs may show a decrement in response to RNS. In addition to denervating disorders, some myopathic conditions, including the myotonic disorders and the metabolic myopathies (e.g., McArdle’s disease), may show a decrement in reponse to RNS. This underscores that RNS should not be performed in isolation.For every patient, a clinical history and directed neurologic examination, as well as routine nerve conduction studies and needle EMG, must be performed so that any decremental response during RNS can be interpreted correctly.

神経再支配が起こる時、新生した神経終末が幼若で不安定であるのが原因のようです。2004年の Neurology論文を見ると、”The decrement is probably a result of neuromuscular transmission failure caused by reduced readily available quantal stores in nerve terminals” とか “The most likely explanation for the reduction in SMUP size with a small increase in stimulus frequency is failure of neuromuscular transmission because of inability of the nerve terminal to release sufficient quanta of acetylcholine to evoke an endplate potential above the muscle fiber membrane threshold.” と書いてあり、新生された神経終末が幼若で不安定で十分量のアセチルコリンが放出されないということですね。

そして、かねてより疑問だった 「ALSの患者にテンシロンテスト (edrophonium test) を行ったらどうなるか」というも論文を見つけました。1994年に Muscle & Nerve誌に掲載された論文です。導入部に “Decremental motor responses to repetitive nerve stimulation (RNS) was originally reported in a case of amyotrophic lateral sclerosis (ALS) by Mulder, Lambert, and Eaton in 1959.” とあり、ALS患者での疲労現象を最初に報告したのがLambertや Eatonら (Lambert-Eaton myasthenic syndromeを報告した人たちですね) であったことを知り、ちょっとびっくり。余談はともかく、考察に “Excercise alone and edrophonium alone had no significant effect on the baseline decrement but in combination the two had a small effect on reducing the decrement.” とあります。テンシロンテストや運動負荷単独では効果なく、テンシロンテスト+運動負荷を行った場合のみ、少しだけ効果が見られたようです。強い効果はなさそうということですね。長年の疑問が氷解しました。

話は変わりますが、最初に紹介した、Electromyography and Neuromuscular Disorders Clinical-Electrophysiologic Correlations Third Edition (David C. Preston, Barbara E. Shapiro)という本、眺めていると色々面白いです。例えば、Guillain-Barre症候群の神経伝導検査で、初期にしばしば腓腹神経 (sural nerve) が保たれ “sural sparing” と呼ばれますが、393~394ページに、その仮説も紹介されていました。腓腹神経が感覚神経としては他の神経より大径なので、炎症/脱髄に強いのが理由と推測されているようです。へぇ~と思いました。

Why sural sparing occurs is not completely unknown, but it is likely related to preferential, early involvement of smaller myelinated fibers in AIDP.
Although it is not intuitively obvious, the recorded sural sensory fibers are actually larger, and accordingly have more myelin, than the median and ulnar sensory fibers. The routine median and ulnar sensory potentials are recorded distally over the fingers, where the nerve diameters are more tapered than those of the sural nerve. The sural nerve actually has larger-diameter myelinated fibers where it is stimulated and recorded in the lower calf. These larger-diameter fibers presumably are relatively more resistant to the early inflammatory, demyelinating attack.

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ゴルゴ13とギラン・バレー症候群

By , 2014年1月18日 11:02 PM

ゴルゴ13を読んでいたら、ゴルゴが髄液検査をするシーンに遭遇しました。ギラン・バレー症候群の診断を受けるシーンです。おー、ゴルゴが医者に背中を向けている (゚д゚)!

ゴルゴ13

ゴルゴ13

でも、このシーン、医学的におかしなことのオンパレードなんですね。

まず髄液検査が腹臥位になっている!普通は、側臥位ですし、どうしても難しい場合でも座位です。腹臥位で出来る検査ではないです。

そして、特異度の低い髄液検査での「蛋白細胞解離」を根拠に、診断を下してしまっています。症状がギラン・バレー症候群としては極めて非典型的 (手が突然しびれて、力が入らなくなって、数分後には症状が消失する) なので、電気生理検査や抗体検査 (ただし、この時代には抗体検査は出来なかったと思われる) などで詰めていかないと誤診の元です。こういう医者に身を任せるとは、ゴルゴにしては見る目がなかったものです。

ゴルゴオタクの先生にこの話をした所、「ゴルゴがギラン・バレー症候群だという描写は、他に数度出てくる (女工作員の話、台湾の漢方薬で治そうとする話、フィリピンの話)」と教えてくれました。基本的に、ギラン・バレー症候群は単相性の経過なので、再発を繰り返すのも不自然ですね。

この漫画は有名な某神経内科医が監修するようになったという噂で、2012年頃の連載で、「修験道の最奥の修行を完成して症状を克服し,結果的に心因であったと結論づけた」そうです (※私は連載を読んでいないので、確認したわけではありません)。

数十年に渡る誤診にも、やっとケリがついたと言えます。

さて、2013年12月の Lancet Neurologyの総説が、”axonal Guillain-Barre syndrome“でした。千葉大学の桑原先生の書かれた総説ですが、非常によく纏まっていて、神経内科医必読だと思います。あと、2012年に結城先生が New England Journal of Medicineに書かれた総説 “Guillain-Barre syndrome” も併せてお勧めしておきます。

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デング熱

By , 2014年1月12日 8:05 AM

日本から帰国したドイツ人がデング熱を発症したとニュースになっていました。

ドイツ人女性がデング熱に、日本旅行中に感染の可能性も

TBS系(JNN) 1月10日(金)21時9分配信

60年ぶりに、国内でデング熱ウィルスに感染した可能性です。

熱帯を中心に流行し40度を超える熱などを引き起こす「デング熱」に、日本を旅行で訪れていたドイツ人の女性(51)が感染していたことが分かりました。

女性は、去年8月に山梨県内で蚊に数回刺されたと話していて、厚労省は海外から持ち込まれた「デング熱」のウイルスを日本の蚊が媒介し、感染を引き起こした可能性もあるとしています。

「デング熱」の国内感染は60年以上報告されていません。(10日19:59)

丁度 2013年の Lancet Neurologyに “Neurological complication of dengue virus infection” という総説を見つけて「おぉっ」と思いました。これだけ世界が近くなっている時代ですから、いつか診療する機会があるかもしれませんし、デング熱の神経合併症を勉強したことはなかったので、ざっと読んでみました。

Neurological complications of dengue virus infection

<Introduction>

蚊媒介の感染症で 2番目に多く、毎年 100万人くらいの症候性デングが発生する。重症デングでの死亡率は 0.2~5%である。

<Epidemiology, virus, and vectors>

ネッタイシマカ、ヒトスジシマカが主な媒介生物である。ほとんど熱帯および亜熱帯に特有である。最も発生率が高いのが、アジアと中央・南アメリカだが、アフリカでの報告が増加している。タイやカンボジアでは、小児の症候性デングは、小児 1000人当たり 20人にのぼる。

<Clinical findings>

ほとんどが無症候。症候性の感染は、従来、原因不明の発熱、デング熱、デング出血熱、デングショック症候群に分類されていた。

発熱、前頭および眼球後部の頭痛、筋・骨・関節痛、腹痛、吐き気、嘔吐が一般的な症状である。軽度の一過性の皮疹が見られ、半数の患者では 3~4日後に丘疹や猩紅熱様皮疹がみられる。

デング出血熱は 4つの基準の存在で定義される。①発熱、②出血、③血小板減少症 (10万/uL未満), ④血管透過性亢進による血漿漏出の証拠、である。

デングショック症候群はデング出血熱と同じ特徴に加えて、循環不全、低血圧、ショックを呈する。

しかし、数十年使われたこれらの分類は適応が難しく、重症例がスタディーから漏れることもあったため、2009年分類では「警戒徴候 (腹痛や腹部圧痛、持続する嘔吐・・・) のないもの」「警戒徴候のあるもの」「重症デング」に分類された。

<Neurological complications>

・Dengue encephalopathy

もっとも一般的な神経合併症である。 遷延するショック、低酸素、脳浮腫、代謝異常 (低Na血症など)、全身もしくは脳出血、急性肝不全、腎不全などの複数の要因によって起きうる意識障害を含む。髄液細胞数、蛋白は一般的に正常である。デング熱の数%にデング脳症を認める。症状は意識障害や痙攣である。髄液検査でウイルス特異的 IgM抗体やウイルス RNAは検出されない。予後はばらつきがあり、原因となった要因 (肝不全、電解質異常、ショックなど) による。支持療法が行われなければ、死亡率は高い。

・Encephalitis

髄液細胞数増多がみられ、髄液からウイルス抗体、ウイルスRNAが検出されるが、そうではない症例もあり得る。臨床的にデング脳症との鑑別は難しい。症状は、意識障害、頭痛、浮動性めまい、見当識障害、けいれん、行動異常など。重症例では四肢麻痺を来すこともある。予後は報告によりばらつきがある。

・Post-dengue immune-mediated syndromes

Post-dengue immune-mediated syndromeとして、急性横断性脊髄炎、急性散在性脳脊髄炎 (ADEM), Guillain-Barre症候群などが起こる。稀に、視神経脊髄炎 (NMO), Miller-Fisher症候群や、横隔神経麻痺、長胸神経障害、Bell麻痺、外転神経麻痺、動眼神経麻痺のような単ニューロパチーが報告されている。ポストデング症候群は通常数週間から数ヶ月で改善する。

①急性横断性脊髄炎

ウイルスの直接浸潤は傍感染期に起こるが、感染後脊髄炎は免疫介在性である。傍感染性脊髄炎は感染 1週間以内に起こるが、感染後免疫介在性脊髄炎は初発症状の 1~2週間後に起こる。デング脊髄炎では、ウイルス特異的 IgG抗体が髄液から検出される。MRIでは T2強調像高信号となる。下部頚髄~上部腰髄まで高信号を呈する症例もある。

②急性散在性脳脊髄炎

デング熱やデング出血熱の回復期に発症する。髄液蛋白の軽度上昇と、細胞数増多がみられる。頭部MRIでは、T2強調像高信号で、T1強調像ではガドリニウム造影効果を伴う。(論文に掲載されている写真では、両側レンズ核に対称性の異常信号が確認できる)

③Guillain-Barre症候群

デング発症  1週間後に、四肢の麻痺や腱反射消失がみられる。デングウイルス感染後の急性軸索性運動感覚障害も報告されている。髄液では蛋白細胞解離がみられる。Guillain-Barre症候群は、症状に乏しいデングウイルス感染でも報告されている。

・Cerebrovascular complications

デングの回復期での脳内出血が過去に報告されてきた。デング関連脳血管合併症の頻度はよくわかっていない (どうやら 1%以下で稀らしい) が、梗塞より出血性脳卒中の方が多いようだ。多くは、発熱の 1週間後の脳内出血である。急性脳内出血は、他の出血徴候を伴わないこともある。基底核の脳出血や脳葉の多発脳出血などが報告されている。より頻度の少ない脳内出血として、浮腫を伴った両側小脳出血や、閉塞性水頭症、橋出血、急性硬膜下血腫、多発急性硬膜下血腫、一過性血小板減少症を伴った限局性クモ膜下出血がある。脳梗塞としては、分水嶺梗塞、小皮質梗塞、放線冠と被殻梗塞による dysarthria clumsy-hand 症候群が報告されている。

・Dengue muscle dysfunction

血清学的にデング感染が確認された約 9割で CK上昇が見られたとする報告がある。臨床的には、CK上昇、筋痛、近位筋筋力低下などがみられる。重症例では横紋筋融解を呈したり、呼吸筋麻痺を起こして死因となったりする。従来は筋炎と言われたが、良性で自然治癒することから、最近ではデング関連一過性筋障害と言われる。熱帯地方では、小児の良性の急性ウイルス性筋炎の主な原因の一つとされ、”myalgia cruris epidemica” とも呼ばれる。CKは平均 837 IU/lだが、100000 IU/l以上になることもある。

筋電図では、early recruitmentがみられ、安静時活動電位を欠く (いわゆる non-necrotizing myopathyのパターンといえる)。最大干渉で、polyphasic MUPが観察されることがありうる。

筋生検では、軽度から中等度の血管周囲の単核球浸潤、筋壊死を伴った間質内出血、脂質の凝集がみられる。

多くの場合、1~2週間で自然に回復が始まる。まれに重症劇症筋炎やステロイド抵抗性筋炎が報告されている。鑑別は細菌性筋炎やレプトスピラ症である。

神経伝導検査が正常であることや、蛋白細胞解離がないことが、Guillain-Barre症候群との鑑別に役立つ。

・Neuro-ophthalmic complications

神経眼科的症状は、典型的には後眼部に起こる。後眼部に異常がない前部ぶどう膜炎はまれであり、進行性視力低下と関係している可能性がある。眼合併症は、デング黄斑症、網膜浮腫、網膜出血、視神経乳頭浮腫、視神経炎、硝子体炎を含む。これらはしばしば過小評価されている。眼合併症は通常回復期に発症し、デング入院患者の 10~40%程度にみられると推測される。多くの患者は特別な治療を要せず、約1~3ヶ月で視力が回復する。

<Pathogenesis of neurological features of dengue>

(略)

<Diagnosis>

多くの症状は非特異的なので、臨床的に疑うことが重要である。最初の数日は、ウイルスは血中にいるので、NS1抗原や RT-PCRやウイルス培養が推奨される。デングウイルス特異的 IgM抗体は、発症 3~10日間血清サンプルに存在する。IgM capture (MAC)-ELISAが最も広く用いられる血清学的検査である。抗体価は、他のフラビウイルス感染所うにより擬陽性を呈しうる。

流行国やそこを旅行してから 14日以内で発熱や神経症状を呈する患者では、デングの除外が必要である。可能であれば髄液検査を行い、髄液の異常やウイルス特異的抗体、NS1抗原、ウイルスRNAの検査がされるべきである。発熱性脳症の鑑別診断は、マラリア、結核、レプトスピラ症、リケッチア症、局所の疫学に応じたその他の細菌やウイルス感染 (日本脳炎、ウエストナイル熱、ヘルペスウイルス) である。

にもかかわらず、血清学的診断の感度は低い。ウイルス特異的 IgMの髄液における感度は 22~33%である。また、血清に比べて髄液での virus RT-PCRの感度は低い。また、デング脳炎の約半数で髄液が正常であったとする報告もある。したがって、髄液が正常でもデング脳炎は否定できない。

脳波で異常がみられることもあるが、特異性には乏しい。

<Management>

有効な抗ウイルス薬は存在しない。軽症例では、解熱剤や水分摂取が有用である。アセチルサリチル酸や他の NSAIDsは避けるべきである。出血性合併症に対しては、初期には保存的に対応すべきである。正確な輸液管理が必要であり、輸血や血小板輸血は重症出血例でのみ必要とされる。

重症デングで、血漿漏出の徴候がある場合、輸液過多にならないようにヘマトクリット値の緊密なモニタリングを行うとともに、急速輸液が必須である。輸液は、等張晶質液を用いるべきである。そして、深刻なショックや、初期の等張晶質液に反応がないショックに対して等張膠質液を用意するべきである。急性期のステロイド経口投与による、ショックや他の合併症の減少効果は示されていない。

症候性の痙攣は、肝毒性のない抗てんかん薬で治療するべきである。

デングの免疫介在性中枢神経障害に対してステロイドパルス療法を提唱する医師もいるが、脊髄炎や急性散在性脳脊髄炎で有効性を示した RCTは存在しない。ポストデング Guillain-Barre症候群に対する IVIgは有効である。筋障害に対しては、輸液や鎮痛剤が用いられる。コルチコステロイドの有効性は示されていない。

神経眼科的症状に対して確立した治療法はない。過去にステロイドは用いられてきたが、RCTは行われていない。前部ぶどう膜炎に対して局所ステロイドが用いられてきた。一方、ステロイドパルスやステロイド経口投与は、進展する網膜の血管炎に適応があるかもしれない。

デング予防に対する有効なワクチンはないが、現在いくつかのワクチン候補が開発中である。

当初想像していたより、多彩な神経症状が報告されていて、びっくりしました。筋障害も興味深い症状ですね。

深刻なショックに対しての記載で一点疑問。Surviving Sepsis Campaign 2012では、「重症の敗血症および敗血症性ショックの患者に HESを用いない (Against the use of hydroxyethyl starches for fluid resuscitation of severe sepsis and septic shock (grade 1B), 596ページ)」となっていますが、デングショックの重症例では晶質液も検討することになっています。敗血症性ショックとは別の扱いなんでしょうか?ショックに対する晶質液の使用については議論があるところで、この辺は集中治療医と相談しながらになりそうです。

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ウェクスラー家の選択

By , 2014年1月11日 3:06 PM

ウェクスラー家の選択 (アリス・ウェクスラー著, 武藤香織・額賀淑郎訳, 新潮社)」を読み終えました。アリス・ウェクスラーはハンチントン舞踏病の家系に生まれました。母親の疾患が進行した時に、初めてその事実を知りました。その時から、ウェクスラー家とハンチントン舞踏病の闘いが始まりました。父は患者家族や研究者らによる団体を作り、資金を集めるとともに研究を支援しました。また、妹のナンシー・ウェクスラーは、患者が密集するヴェネズエラの集落で DNAサンプルを集めるとともに、家系図を作成しました。最終的に、これらの努力は実を結び、遺伝子同定までこぎつけます。そして、高い精度で発症を予測できることが出来るようになりました。本書には家族の奮闘と、ハンチントン舞踏病研究の歴史が描かれています。検査法が開発された後、患者家系の中には、検査を受けた人も、受けなかった人もいます。発症リスクとどう向き合うか、検査を受けるか受けないかをどう決めるか、内面的な描写が素晴らしく、遺伝性疾患を診療する医療関係者は、読むべき本だと思いました。検査を受けるかどうかについては、著者自身の選択も示されています。

本書のあらすじを詳しくまとめたサイトがあるので、紹介しておきます。

アリス・ウェクスラー 『ウェクスラー家の選択 遺伝子診断と向き合った家族』 新潮社

後半は連鎖解析の話が大きなウエイトを占めますので、予めそれが何かくらいは知っておいた方が読みやすいと思います。知らない方には、Wikipediaの「遺伝的連鎖」の項などでの予習を御薦めします。

一点残念だったのは、科学用語の翻訳です。例えば、”Demyelinating, Atrophic and Dementing Disorders” は「末梢神経脱髄性・萎縮性・痴呆疾患」と訳されています (p231) が、単に “Demyelinating” だと、中枢の脱髄も、末梢の脱髄も両方ありえるし、”Demyelinating”  自体に「末梢神経」というニュアンスはありません。このように読んでいて引っかかる点がいくつかありました (翻訳者らは、科学者による校正を受けるべきだったと思います)。

以下、本筋に関係ないところで、2点ほど。

①以前紹介したハロルド・クローアンズの本で、ハンチントン舞踏病の患者に L-ドパを大量服薬させ発症リスクを推測したことが誇らしげに登場するのですが、本書で倫理的な問題が指摘されていました (p204)。「一時的な舞踏様症状を経験した人々はいつか苦しむかもしれないし、苦しまないかもしれない、といった症状の恐ろしい記憶を消せないまま、ただ時間の経過のなかに取り残されてしまうのだ。それに、実験的に投与された L-ドパそのものが病気の引き金になってしまうかどうかも、誰もわかっていなかった」のが理由のようです。

②「その先生は、ハンチントン病のリスクが、鎌状赤血球症、筋ジストロフィー、インスリン依存性糖尿病、そしてエイズのように、保険会社が無条件に医療保険での支払いを拒否できる病気の一つだということを知らなかったのだろうか? (p308)」という記載があり、アメリカの保険会社の闇の部分を見た気がしました。

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