Category: 神経学

ニューキノロン系抗菌薬と末梢神経障害

By , 2013年8月21日 10:48 PM

ニューキノロン系抗菌薬は広域なスペクトラムを持ち、感染症診療の現場ではかなりよく見かける薬剤です (過剰に使われている感もありますが・・・)。一方で、約 1-4%に見られるという中枢神経症状 (けいれんや精神症状、頭痛、浮動性めまい、意識障害など)、あるいは アキレス腱断裂といった副作用に注意する必要があります。

2013年8月16日の New England Journal of Medicineのニュースに、FDAがニューキノロン系抗菌薬による末梢神経障害を添付文書に記載するように求めていることが掲載されました。どうやら末梢神経障害は、経口薬と注射薬で問題になるようです。

Fluoroquinolone Labels Updated to Reflect Heightened Risk for Peripheral Neuropathy

By Kelly Young

The FDA is requiring that the labels of fluoroquinolone antibiotics warn of the drugs’ increased risk for peripheral neuropathy.

The risk has been observed with oral and injectable fluoroquinolones, but not topical agents. Patients could experience peripheral neuropathy any time during their treatment, and it could persist for months or years or be permanent.

Patients should contact their healthcare providers if they develop symptoms consistent with peripheral neuropathy in the arms and legs, including pain, burning, numbness, or weakness; change in sensation to touch, pain, or temperature; or change in the sense of body position.

Patients who develop these symptoms should stop taking the antibiotic and receive alternative therapies unless the benefit of the fluoroquinolone outweighs the risk.

Link(s):

FDA MedWatch safety alert (Free)

これだけ使われていて、経験ないけどなぁ・・・、どういうタイプの末梢神経障害を起こすのだろうと思って、いくつか論文をチェックしてみました。

まずは Lancet誌に掲載された初期の症例報告。

Peripheral neuropathy associated with fluoroquinolones.

37歳男性が化膿性脊椎炎のため pefloxacinで治療を受けた。Pefloxacinでの治療開始 5ヶ月に両下肢に手袋靴下型の錯感覚が出現し、続いて右下肢の筋力低下と歩行障害が出現した。総腓骨神経の神経伝導速度は 43 m/sだった。筋電図では前脛骨筋と長腓骨筋に脱神経電位と多相性運動単位電位を認めた。男性には Hodgikin病のため vincristine total 18 mgを含む、化学療法、放射線治療の既往があった。その他に末梢神経障害を起こしうる疾患はなかった。Pefloxacinを中止して 10日以内に末梢神経障害は著明に改善した。6ヶ月後に化膿性脊椎炎が再発したため、ofloxacinを開始したところ、15日以内に末梢神経障害が再発し、中止後 7日以内に改善した。Flucloxacillinは胃腸症状によりコンプライアンスが不良だったためか化膿性脊椎炎が再発したので、peflxacinを再投与したところ、15日以内に末梢神経障害が再燃した。Ciprofloxacinに変更したところ、2ヶ月間ごく軽い錯感覚が見られたのみだったが、その後これらの症状に耐えられなくなり、中止を余儀なくされた。総腓骨神経の伝導検査では伝導速度が 37 m/sで、短趾伸筋の針筋電図では脱神経電位を伴った多相性運動単位電位がみられ、toxic neuropathyに合致する所見だった。

Journal of Antimicrobial Chemotherapy誌には、スウェーデンからある程度まとまった報告がありました。

Peripheral sensory disturbances related to treatment with fluoroquinolones.

1993年、スウェーデンの医薬品副作用委員会 (Swedish Adverse Drug Reactions Advisory Committee; SADRAC) に582例のニューキノロン系抗菌薬の副作用が報告され、37例が感覚性末梢神経障害だった。21例が男性で、15例が女性であり、平均年齢は 51歳だった (16~89歳)。症状の出現は、治療開始後 1時間~4ヶ月後の間だった。68%が投与開始後 1週間以内で、86%が 2週間以内だった。症状は錯感覚 (81%)、しびれ感/感覚低下 (51%)、疼痛/感覚過敏 (27%), 筋力低下 (11%) だった。投与をやめてから61%が1週間以内に、71%が2週間以内に改善した。発症までの期間と症状の持続期間には関連がなかった。症状出現の予測因子は、腎障害、糖尿病、リンパ悪性腫瘍、神経障害の原因となる他の薬剤の使用だった。末梢神経障害の正確なメカニズムはよくわからなかった。ある 1例では、筋電図で異常なく、神経伝導速度は正常だった (浮動性眩暈、疼痛、筋痙攣を呈した症例→疼痛、筋痙攣なので、small fiber neuropathyだったと考えれば、筋電図、神経伝導検査が正常だった説明はつくように思うが、その辺の記載なし)。

これを見ると、大体の臨床像のイメージがつかめます。投与を開始してから 2週間くらいまでに発症し、length dependencyのある sensory dominant neuropathyを呈し、投与をやめると多くは改善するようです。

ニューキノロン系抗菌薬を長期使用する患者さんを診る機会はあまりないけれど、注意しておこうと思いました。

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抗体検査の話

By , 2013年8月9日 7:16 AM

神経疾患の中には、診断に抗体検査が大きな役割を示すものがあります。ギラン・バレー症候群の抗ガングリオシド抗体、視神経脊髄炎の抗アクアポリン4抗体、Isaacs症候群/Morvan症候群/抗 VGKC抗体陽性辺縁系脳炎の抗 VGKC抗体、重症筋無力症 (sero-negative) の抗 MuSK抗体、Lambert-Eaton myasthenic syndrome (LEMS) の抗 VGCC抗体、抗 NMDA抗体辺縁系脳炎での抗 NMDA抗体、橋本脳症での抗α-enolase抗体、傍腫瘍症候群での抗 Hu/Yo/Ri/Ma・・・抗体など。抗体が検出されれば診断の大きな裏付けになります。しかし、これらの抗体の多くは商用サービスでは測定出来ません。例外的に、傍腫瘍症候群の抗体は SRLという検査会社で受け付けていますが、かなり高額になります (私が以前提出したとき、抗 Hu/Yo/Ri/Ma・・・抗体は一つ数万円)。また、シノテストでは抗ガングリオシド抗体を受け付けていますが、抗ガングリオシド抗体の中でも測定出来るのは抗 GM1抗体と抗 GQ1b抗体のみです。

こうした抗体を測定しないでもある程度診断は可能ですが、やはり少しでも証拠を揃えて診断精度を高めたいですし、学会報告や論文発表の場合には、必ず抗体が陽性だったかどうかは突っ込まれるので、少なくとも大学病院クラスでは必要性の高い検査です。また、抗体と臨床症状の比較から、新しい知見が得られる可能性もあります。

では、神経内科医はどうしているかというと、研究機関に送っているのです。口コミで、「○○抗体なら△△大学」という情報が、出回っています。研究機関側からすれば全国からサンプルが集まりますし、臨床医からすればほぼ無料で検査して頂けることで、Win-Winの関係が作られます。しかし、この方法には欠点があります。一つは、研究機関はあくまで検査を研究のためにしているので、結果がどのくらいで戻ってくるかわからなかったり、申し込みの手間が煩雑だったりします。それに、研究目的ということは、研究者が研究をやめてしまえば、検査が出来なくなる可能性があります。

そんな中、コスミックコーポレーションの受託測定が面白いことを始めています。

①マイナーな検査も受け付けている

抗アクアポリン4抗体、抗VGCC抗体、抗NMDA抗体といった、これまで各研究機関に送っていた検査が可能です。ただし、学問的には、抗体の測定法で陽性率や陽性の意義が変わってくることがありますので注意が必要です。

②とにかく安い

Neurolineのサービスを見ると、非常に安いです。傍腫瘍症候群の抗体とか、目が点になる安さです。筋炎の抗体検査も充実しています (※この検査がどうかは確認していませんが、知り合いの先生から、安かろう悪かろうの検査には注意しなければならないということを教わりました)。

 

抗体測定

抗体価格

 

研究用なので診断に用いないでくださいとか、保険請求しないでくださいとは書いてありますが、そうではあっても神経内科医にとってかなり便利なサービスだと思います。(とはいえ、まだ使用したことがないので、実際に使用した方から意見が伺えると嬉しいです)

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PiB PET

By , 2013年8月8日 7:12 AM

アルツハイマー病の原因は良くわかっていませんが、β-アミロイドが毒性を持って神経を傷害するという β-アミロイド仮説が有力な仮説として支持されています。実際にアルツハイマー病の脳組織には β-アミロイドが沈着しており、β-アミロイドに結合するリガンドを放射性同位元素でラベリングすれば、PETを用いて早期から β-アミロイドを検出することができます。そして Carbon11 ([11C])-labeled Pittsburgh Compound B (PiB) PETが、近年研究に広く用いられるようになってきています。アルツハイマー病に対する感度 95%、軽度認知障害 mild cognitive impairment (MCI) での感度 60%と、他の検査法に比べてかなり高い感度を誇ります。

ところが、アミロイドが蓄積する疾患はアルツハイマー病だけはありません。Archives of Neurologyに、興味深い症例報告が掲載されました。

Does a Positive Pittsburgh Compound B Scan in a Patient With Dementia Equal Alzheimer Disease?

Simon Ducharme, MD, MSc1,2; Marie-Christine Guiot, MD, FRCPC3; James Nikelski, PhD4; Howard Chertkow, MD, FRCPC3,4

JAMA Neurol. 2013;70(7):912-914. doi:10.1001/jamaneurol.2013.420.

Importance The clinical role of amyloid brain positron emission tomographic imaging in the diagnosis of Alzheimer disease is currently being formulated. The specificity of a positive amyloid scan is a matter of contention.

Observations An 83-year-old Canadian man presented with a 5-year history of predominantly short-term memory loss and functional impairment. Clinical evaluation revealed significant, gradually progressive short-term memory loss in the absence of any history of strokes or other neuropsychiatric symptoms. The patient met clinical criteria for probable Alzheimer disease but had a higher than expected burden of white matter disease on magnetic resonance imaging. A positron emission tomographic Pittsburgh Compound B scan was highly positive in typical Alzheimer disease distribution. The patient died of an intracerebral hemorrhage 6 months after the assessment. Autopsy revealed cerebral amyloid angiopathy in the complete absence of amyloid plaques or neurofibrillary tangles.

Conclusions and Relevance This patient demonstrates that a positive Pittsburgh Compound B scan in a patient with clinical dementia meeting criteria for probable Alzheimer disease is not proof of an Alzheimer disease pathophysiological process. A positive Pittsburgh Compound B scan in typical Alzheimer disease distribution in a patient with dementia can be secondary to cerebral amyloid angiopathy alone.

78歳頃から徐々に進行する記憶障害を持つ男性が 83歳で受診し、診察時の認知機能検査 MMSEで 23点 (満点は 30点) と低下を認めました。頭部MRIでは側脳室周囲の白質病変が目立ちましたが、脳梗塞や微小出血を示唆する所見はありませんでした。PiB PETは陽性で、β -アミロイドの分布は典型的なアルツハイマー病の所見でした。6ヶ月後に、患者は脳出血で死亡しました。病理解剖では、アルツハイマー病を示唆する所見は一切ありませんでしたが、皮質やくも膜下の多くの血管は β-アミロイド陽性であり、アミロイドアンギオパチーと診断されました。著者らは、アミロイドアンギオパチーによって PiB PETでアルツハイマー病のような所見を呈することがあると伝えています。

PiB PETは特許の関係もあり非常に高額ですが、信頼性の高い検査とされています。それでも、アルツハイマー病以外にアミロイドアンギオパチーのアミロイドを認識してしまう可能性については、肝に命じておく必要があると思います。なかなか教訓的な症例でした。

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フィンゴリモド

By , 2013年8月3日 10:11 PM

多発性硬化症の治療薬にフィンゴリモド (商品名ジレニア) という薬剤があります。治験に関わった医師には “FTY720” という方がしっくりくるかもしれません。FREEDOMS試験TRANSFORM試験といった臨床試験で、有効性が示された薬剤です。

導入時に徐脈になったり、ヘルペスウイルス感染症が重篤化したり、白人でメラノーマが増えたりといった副作用は懸念されますが、自己注射が必要なインターフェロンと異なり経口薬というのが大きなウリです。

ところが、2013年7月30日の Reuter誌で、フィンゴリモドによると推測される進行性白質脳症 (PML) の症例が報道されてしまいました。

Patient taking Novartis MS pill developed rare disease

Tue Jul 30, 2013 5:18am EDT
* Patient took Novartis’ Gilenya MS pill

* Developed progressive viral disease

* First incidence in 71,000 patients

* Gilenya facing competition from Biogen’s Tecfidera

ZURICH, July 30 (Reuters) – A patient taking Novartis’ multiple sclerosis pill Gilenya developed a rare and potentially fatal viral disease, the Swiss drugmaker said on Tuesday, an unexpected setback as it faces growing competition from new oral treatments.

Gilenya is one of Novartis’ big new drug hopes, growing 66 percent in the second quarter to $468 million. But the drug faces competition from new medicines such as Biogen Idec’s Tecfidera.

Novartis said it had been informed of a case of progressive multifocal leukoencephalopathy (PML) in a patient who had been taking Gilenya for MS for seven months.

It said it was working with the reporting physician to understand all possible contributing factors, including those beyond treatment, given several atypical features of the case.

“The course of the underlying neurological disease was rapid with some atypical findings for MS on the MRI scans of the brain and spinal cord, as well as some unusual clinical features,” Novartis said in a statement.

Novartis said all previously reported cases of PML among the approximately 71,000 patients treated with Gilenya thus far had been attributed to prior treatment with Biogen Idec’s Tysabri, which bears a known risk of PML.

Deutsche bank analyst Tim Race said the case may provoke some concerns about Gilenya’s future growth potential. But he noted the incidence of reported PML cases for Gilenya has so far been extremely low.

“By the time there was a similar level of patient experience with Tysabri there had been 298 cases reported. Thus, even if the risk proves to be real it is likely to be of a very different order of magnitude,” Race said in a note.

販売元のノバルティス社は、これまでフィンゴリモド内服中に発症した PMLは全て、過去に使用されていた Natalizumab (タイサブリ) に起因するものだったとしています。しかし、今回の症例はフィンゴリモドが原因と認めざるを得ないようです。おそらく稀とはいえ、フィンゴリモドで PMLを発症することがあるとすれば、使用するハードルはこれまでより高くなりますね。記事では、患者が 7ヶ月間内服していたという情報以外書かれていないので、今後詳細な症例報告が出てくるのを待ちたいです。

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SCIWORA

By , 2013年7月25日 8:02 AM

最近、外傷後の頸髄損傷の方を診療する機会がありました。珍しいことに、その患者さんは明らかに両上肢の筋力低下があるにも関わらず、頚髄 MRIでは脊柱管狭窄も髄内異常信号もありませんでした。念のため針筋電図を検査すると、軽度の神経原性変化がみられ、神経再支配が始まったばかりと解釈すると損傷からの時期 (2~3週間) と一致する所見でした。神経伝導検査では障害部位に一致して CMAP amplitudeの低下がありました。病歴や電気生理検査の所見を踏まえると、脊髄損傷が神経症状の原因であることは明らかです。MRIで異常がないことが矛盾しないのか少し調べてみると、2ヶ月くらい前に面白い論文が出ていました (というか、知り合いの整形外科の先生から教えて頂きました)。

Early magnetic resonance imaging in spinal cord injury without radiological abnormality in adults: a retrospective study.

J Trauma Acute Care Surg. 2013 Mar;74(3):845-8. doi: 10.1097/TA.0b013e31828272e9.
Boese CK, Nerlich M, Klein SM, Wirries A, Ruchholtz S, Lechler P.Source
Department of Trauma, University Hospital Giessen and Marburg, Marburg, Germany.

Abstract
BACKGROUND:
The purpose of this study was to describe the clinical and imaging characteristics of patients experiencing blunt spinal trauma without radiological abnormalities but transient or persistent neurological deficits.
METHODS:
This retrospective study analyzed plain radiographs, computed tomographic scans, and magnetic resonance images of patients with spinal cord injury without radiological abnormality (SCIWORA) who were admitted to a Level I trauma center. Neurologic status, Frankel grade, and short-term patient outcome were assessed.
RESULTS:
Of 1,604 patients experiencing blunt spinal trauma, 21 (12 men and 9 women) with a mean age of 35.5 years (range, 16.2-70.9 years) presented with a clinicoradiographic mismatch. Magnetic resonance imaging (MRI) was available in 15 patients. In seven patients (46.6%), MRI revealed either neural (n = 2, 13.3%) or extraneural (n = 5, 33.3%) spinal abnormalities. Importantly, in eight patients (53.3%), no spinal abnormalities were visible on MRI. Furthermore, subgroup analysis revealed no prognostic value regarding the presence or absence of detectable spinal injuries.
CONCLUSION:
Spinal abnormalities were not detected on MRI in a substantial proportion of patients presenting with SCIWORA. The prognostic value of MRI findings in SCIWORA needs to be validated by future studies.
LEVEL OF EVIDENCE:
Epidemiological study, level V.

2005~2011年にレベル1外傷センターで鈍的脊髄外傷と診断された1604例を対象としました。神経学的所見を有するものの、X線及び単純 CTで脊髄損傷を示唆する所見がない患者 (SCIWORA) は 21例 (男性 12例、女性 9例, 16.2~20.9歳 (平均 35.5歳)) で、交通外傷が 10例、スポーツ外傷が 7例、転倒が 4例でした。21例のうち 15例で、24時間以内に全脊髄 MRI (1.5T) を施行したところ、8例では異常がなく (real SCIWORA)、2例では脊髄に異常所見があり、5例では脊髄以外に異常所見がありました。退院時、MRIで異常がなかった 8例のうち 5例は完全に改善しましたが、3例で神経学的後遺症が残りました。脊髄に浮腫性変化が検出された 2例では、1例が完全に回復し、残りの 1例では一時的な感覚障害のみが見られました。頸椎椎間板に変性があるものの脊柱管狭窄や神経圧迫の所見がなかった 5例では、3例で完全に改善しましたが、残りの 2例では回復が不完全でした。MRIを施行しなかった 6例では、24時間以内に完全に神経学的な改善がありました。

 神経内科では外傷を診療する経験は少ないですが、「MRIで異常がないから外傷による神経障害は考えにくくて、他の神経疾患がないか診て欲しい」という依頼を受けることはあり、MRI正常の脊髄損傷は存在しうるという論文を知っておく価値は高いのかなと思いました。

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Brainbow

By , 2013年7月21日 8:50 AM

以前紹介した、「脳の歴史」という本に、脳細胞に蛍光蛋白質を発現させて撮像する “Brainbow” の写真が載っていました。脳を意味する “Brain” と、虹を意味する “Rainbow” を掛けあわせた言葉ですね。

最近、科学雑誌に Cellに、Brainbowの写真が載っているのを見つけました。とても綺麗な写真です。無料で公開されています。

 Cell -Brainbow-

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ミトコンドリア置換、臨床応用に向けて

By , 2013年7月1日 7:47 AM

2013年2月19日のブログで生まれてくる赤ちゃんからミトコンドリア病の遺伝子を排除出来る方法があることをお伝えしました。2013年1月31日の Natureに掲載された紡錘体移植の論文です。イギリスでは、臨床応用に向けて着々に進んでいるようです。今年末に草案が作られ、早ければ 2年以内に手続きが制定されると BBCが報じています。

UK government backs three-person IVF

The UK looks set to become the first country to allow the creation of babies using DNA from three people, after the government backed the IVF technique.

It will produce draft regulations later this year and the procedure could be offered within two years.

Experts say three-person IVF could eliminate debilitating and potentially fatal mitochondrial diseases that are passed on from mother to child.

(略)

‘Designer baby’

“It is a disaster that the decision to cross the line that will eventually lead to a eugenic designer baby market should be taken on the basis of an utterly biased and inadequate consultation.”

One of the main concerns raised in the HFEA’s public consultation was of a “slippery slope” which could lead to other forms of genetic modification.

Draft regulations will be produced this year with a final version expected to be debated and voted on in Parliament during 2014.

(略)

ミトコンドリア病を持つ方にとっては朗報です。日本でこのような治療が出来るようになるのはいつになるのでしょうか。

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第6回上肢の神経機能回復セミナー

By , 2013年6月23日 12:14 PM

2013年6月21~22日に開催された第 6回上肢の神経機能回復セミナーに参加してきました。

脳神経外科、神経内科、リハビリテーション科や、機械工学の専門家などが集まり、科の垣根を越えて活発な議論が行われました。田舎の一都市で開かれた小さな会にも関わらず、例年通り米国脳卒中学会の理事 Goldestein先生 (DUKE大学教授)、日本脳卒中学会の前会長篠原幸人など錚々たるメンバーが集まりました。

6月21日 (金) の演題で個人的に興味深かったのは、塚本浩先生が講演された「上肢の末梢神経エコー」でした。末梢神経エコーは一昔前にブームがあったのですが、いつしか下火になっています。しかし、ここ 10年くらいで probeが改良され、腕神経叢や神経根まではっきりと見ることができるそうです。交通外傷での引き抜き損傷なども非常に評価がしやすいとのことでした。私は過去に、往診で診療していた関節リウマチ末期の患者さんが正中神経領域の感覚障害/筋力低下・筋萎縮を呈した症例を経験しました。診察所見上も神経伝導検査からも典型的な手根管症候群だと思ったのですが、レントゲンを撮ってみると、手関節の亜脱臼による正中神経圧迫でビックリしました。末梢神経エコーだと、こういう症例も一発で見抜けるのでしょうね。川平和美先生の「促通反復療法の併用療法による麻痺改善促進」も面白い講演でした。いわゆる川平法に電気刺激や経頭蓋磁気刺激を併用し、素晴らしい成績を残しておられました。

この日の夜の打ち上げでは、この会恒例となった Everlyの演奏が聴けました。最近では、川平慈英氏や V6? というメンバーの誰か (芸能情報疎くてすみません) でやっているミュージカルなどとジョイントして活躍しているそうです。

その後少人数で飲んだ時、隣の席が福島県立医大の宇川義一教授でした。気さくに話してくださって、オフレコトークを散々楽しみました。震災の話題も結構しました。寝たきりの患者さんを大勢転送しなければならないときに、途中で誰が誰だかわからなくなってしまう可能性があるそうです。そういうときに、トライアスロンで使用するペンで患者さんに名前やカルテ番号を書いておけば、皮膚が欠損しない限りは取り違えがないという話を聞いて、なるほどと思いました。

最後に、ホテルで某先生と飲みました。彼はローマの 1000床くらいの病院に留学中で、イタリアの医療について色々と教えてくれました。

・イタリア人はとにかくずさん。Infection control doctor以外、病院で感染防護の手洗いを励行している職員を見たことがない。医療の内容も結構アバウト。

・何をしているかわからない職員がかなりいる。食堂に入るためのネームカードを発行してもらいに事務所に行くと、10:00~12:00しか開いていない。10時に行ってみたけれど開いていない。11時 30分くらいに行ってみると開いていたけれど、そのままコーヒーを飲みに出かけるところだったそう。

・患者さんがカルテコピーを持って自分の健康情報を管理している。

・医療費は高くないが、金を惜しむ人が多い。検査をしているときに、「検査する神経を一本減らしてくれ」と言ってきたり、「レポートを作ってもらう金がないから、口頭で所見を教えてくれ」なんて言ってくることもあるそう。

・研究目的の検査はタダなので、基本的にみんな喜んで受ける。研究で検査がしたくなったら、医者が患者宅に電話すると、断られることはほとんどないらしい。

6月22日 (土) は前日と会場が変わっていたのを把握していなくて、前日の会場に行って、少し遅刻してしまいました。最初は宇川義一先生の「QPS (quadripulse stimulation)」でした。QPSは、 4台の刺激装置を用いて、4連発の単相性磁気刺激を一単位とし、これを 5秒間隔で 30分行うものです。5 ms間隔での 4連発 QPS5, 50 ms間隔での4連発 QPS50では、運動野に与える効果がかなり違い、彼らはこれを用いて脳の可塑性を調べる研究を精力的に行なっていました。また、とある神経疾患で、治療薬投与後では QPS後の LTP/LTDが改善したデータを提示され、興味深く拝見しました。QPS50に因んで、48 ms間隔で 4連発刺激をする QPS48という名前のユニット (AKB48風) を組んで売り出したら、磁気刺激の知名度も上がるのではないかというアホなことを思いついたのですが、口に出すと関係者から殴られそうなので、ここだけのネタにしておきます (^^;

大島秀規先生は「神経機能障害に対する神経刺激療法:その現状とリハビリテーションへの応用の試み」という講演をされました。Spinal cord stimulation (SCS) による難治性疼痛の治療などの話が興味深かったです。講演が終わって、パーキンソン病のジストニアについて質問すると、「neuromodulationで腰曲がりは良くなるけれど、首下がりと Pisa症候群は良くならない」という返事でした。

Goldstein先生は、「Update on Reperfusion Therapy for Acute Ischemic Stroke」と題して、rt-PA及び血管内治療について講演されました。SYNTHESIS Expantion Trial, IMS-III,MR-RESCUEの結果から見ると、急性期の血管内治療はなかなか思わしい成績ではないようです。

知り合いの医師達が最もインパクトを受けていたのは岸拓弥先生の「脳をターゲットにした循環器治療」という講演でした。彼らは本来の圧受容器反射と同様に機能するバイオニック圧受容器システムを組み込むことで圧受容器不全ラットの圧受容器機能を代替し、ラットの起立性低血圧を改善しました (何と、ラットに tilt試験!)。また、ラットの頸動脈洞を隔離し、頸動脈洞圧に定常圧を入力することで圧受容器反射異常モデルを作り上げ、圧受容器反射が左心房の容量不耐性に大きく関与していることを突き止めました。圧受容器が具体的にどのように生体に影響を与えているかはよく知らなかったのですが、この発表を聞いて唸らされました。

この日の打ち上げが終わった後、東京医科歯科大学血管内治療学分野の根本繁教授、日本大学の大島秀規先生達と飲みに行きました。脳卒中の話などを中心に、グデングデンに酔っ払うまで語り合って楽しかったです。また来年のこの会が楽しみです☆

(参考)

上肢の機能回復セミナー1 (2009年)

上肢の機能回復セミナー2 (2009年)

上肢の機能回復セミナー3 (2009年)

第3回上肢の機能回復セミナー1 (2010年)

第3回上肢の機能回復セミナー2 (2010年)

第4回上肢の機能回復セミナー (2011年)

第5回上肢の機能回復セミナー (2012年)

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ALS trio

By , 2013年6月6日 6:50 AM

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) で話題になっていた論文を医局の抄読会で読みました。

Exome sequencing to identify de novo mutations in sporadic ALS trios

Nature Neuroscience (2013) doi:10.1038/nn.3412
Received 05 March 2013 Accepted 01 May 2013 Published online 26 May 2013

Source

Department of Genetics, Stanford University School of Medicine, Stanford, California, USA.

Abstract

Amyotrophic lateral sclerosis (ALS) is a devastating neurodegenerative disease whose causes are still poorly understood. To identify additional genetic risk factors, we assessed the role of de novo mutations in ALS by sequencing the exomes of 47 ALS patients and both of their unaffected parents (n = 141 exomes). We found that amino acid-altering de novo mutations were enriched in genes encoding chromatin regulators, including the neuronal chromatin remodeling complex (nBAF) component SS18L1 (also known as CREST). CREST mutations inhibited activity-dependent neurite outgrowth in primary neurons, and CREST associated with the ALS protein FUS. These findings expand our understanding of the ALS genetic landscape and provide a resource for future studies into the pathogenic mechanisms contributing to sporadic ALS.

まず抄読会での配布資料 (PDF file) を下にアップします。

抄読会 ALS

内容を簡単に要約すると、「孤発性 ALSで de novo mutationを起こした遺伝子を調べるため、47 人の患者とその健常な両親の遺伝子解析をした結果、SS18L1 (CREST) を同定した。CRESTは、FUSとも関係がありそうだ」ということになります。Figure 2dの免沈の結果の解釈など、少し理解が難しいところはありますが、大筋としては納得できる内容でした。

今回の解析では、SRCAPにも de novo mutationがみられました。SRCAPも CREST同様 CBP-interaction transcriptional co-activatorであり、考察では ALSにおけるヒストンアセチル化蛋白 CBPを介した転写制御の重要性が指摘されています。実際、FUSも CBPを介して転写制御を行なっているそうです。

ちなみに FUSは BAF複合体 (CRESTはこの複合体を形成するサブユニットの一つ) の表面と結合していることが推測されていますが、BAF複合体 15のサブユニットのうち、8つの変異で Coffin-Sirisという先天性奇形 (発達障害、精神発達遅滞、小脳症、coarse facial features、てんかん、形態異常) が起こるそうです。

著者らは、今回のようなアプローチ法 (「健常な両親と病気の子供の組み合わせ=trio」 を解析することで、de novoの変異を探す方法) がパーキンソン病やアルツハイマー病でも応用出来るのでないかとしています。

最後に、本研究で私が特に興味深かった点を列挙しておきます。

①ALSの原因として今回見つかった遺伝子 CRESTが転写制御に関与していること

ALS原因遺伝子の多くが RNA代謝に関与していることが知られています。そのため、ALS研究のなかで現在最もアツく研究されている領域の一つが RNA代謝で、「RNA代謝」という概念には転写制御が含まれます。今回転写制御に関する遺伝子 CRESTが同定され、さらに別の ALS原因遺伝子 (※RNA代謝に関係することが知られている) である FUSと関係しているというのは、重要な意義があると思います。

②CRESTが prion-like domainを有すること

ALSの原因遺伝子のいくつかが prion-like domainを持ち、プリオンのように凝集しやすいことが指摘されています。どうやら CRESTも prion-like domainを持つようです。逆に考えると、prion-like domainを持つ遺伝子を網羅的に解析すれば、ALSを含む変性疾患の原因遺伝子がたくさん同定できるのかもしれない・・・という妄想が湧いてきます。

③trioを解析するという手法

著者らが指摘しているように、原因不明の様々な疾患で、この手法が応用できる可能性があります。

(参考)

TDP-43とFUS/TLS

hnRNPA2B1とhnRNPA1

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鼻の先から尻尾まで

By , 2013年5月28日 8:00 AM

鼻の先から尻尾まで 神経内科医の生物学 (岩田誠著、中山書店)」を読み終えました。

「チンパンジーとヒトの嚥下の違い」とか、「4億年前のケファラスピス (Cephalaspis) からヒトの頭はどのように進化を遂げたか」という視点で人体を考えたことがなかった私にとっては非常に衝撃的な内容でした。様々な表現型が提示されながら、ゲーテが言う所の『』が解き明かされていくのを読みながら、感動を覚えました。こういう眼でヒトが見られれば、日々の臨床がもっと楽しくなることは間違いないと思います。

著者が主張するのは観察すること、体験することの重要性です。

私がこんなお遊びのようなことを教室で行ったのは、自分の身体機能の観察こそが臨床観察の基本だということを、学生たちに知ってほしかったからであり、患者さんの診察に入る前に、まずは自分の体はどうなっているのか、自分の体の働きはどうなっているかを、とことん観察する習慣を持ってほしいと思ったからである。物事をじっと観察すると、いくらでも面白い事実に気づくことが出来る。教科書に書かれている知識としてではなく、自らが体験した事実としての知識を身につけるような教育を行わなくては、良医は育てられないというのが、私の教育の信条だ。

本書は各項数ページの読みやすいエッセイ集です。多少の医学的、生物学的知識は必要ですが、理解できる範囲で読んでも、楽しめると思います。読むと「神経内科ってこんな面白いものを見ているんだ」と感じて頂けると思います。お薦めの一冊です。

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