Category: 神経学

MUSICOPHILIA

By , 2013年2月24日 10:19 AM

音楽嗜好症 (オリヴァー・サックス著、大田直子訳、早川書房)」を読み終えました。

オリヴァー・サックスの書いた本を読むのは初めてでしたが、彼は独特の研究スタイルを持っていると感じました。多くの科学者は、間違いないと確認されたことを足がかりに次のステップに進んでいきますが、彼の場合はとりあえず正確かどうかは二の次にして手に入る限りの情報を集めて、その中からエッセンスを抽出する方法を取っているようでした。そのため、所々「本当にそう言い切れるのかな?」と感じさせる部分はありましたが、独自の視点で音楽について論じることが出来ていました。

本書は、音楽に対して医学的にあらゆる角度からアプローチしています。症例が豊富ですし、論理を裏づけるために引用した科学論文も膨大な量です (末尾に文献集があります)。

特に印象に残ったのはパーキンソン病と音楽療法についてです。日本では林明人先生が「パーキンソン病に効く音楽療法CDブック」を出されていますが、L-Dopa登場前に既に行われていて、大きな効果を上げていたことは初めて知りました。

また「誘惑と無関心」と題された、失音楽に関する章でイザベル・ペレッツの名前を見た時は驚きました。メールのやり取りをしたことがある研究者だったからです。この業界では有名人なので、登場してもおかしくはないのですが。

それと、ウイリアムズ症候群の患者達がバンドを組んでデビューしている話も興味深かったです。Youtubeで動画が見られます。

The Williams Five

5足す 3が出来ないくらいの mental retardationがありながら、プロの音楽家として立派に活躍しているというのは、音楽がそういうことは別に存在していることを示しています。

このように興味深い話題が豊富なのですが、内容をすべては紹介できないので、代わりに目次を紹介しておきます。本書がどれだけ広範な角度から音楽にアプローチしているか、伝われば幸いです。

序章

第1部 音楽に憑かれて

第1章 青天の霹靂―突発性音楽嗜好症

第2章 妙に憶えがある感覚―音楽発作

第3章 音楽への恐怖―音楽誘発性癲癇

第4章 脳のなかの音楽―心象と想像

第5章 脳の虫、しつこい音楽、耳に残るメロディー

第6章 音楽幻聴

第2部 さまざまな音楽の才能

第7章 感覚と感性―さまざまな音楽の才能

第8章 ばらばらの世界―失音楽症と不調和

第9章 パパはソの音ではなをかむ―絶対音感

第10章 不完全な音感―蝸牛失音楽症

第11章 生きたステレオ装置―なぜ耳は二つあるのか

第12章 二〇〇〇曲のオペラ―音楽サヴァン症候群

第13章 聴覚の世界―音楽と視覚障害

第14章 鮮やかなグリーンの調―共感覚と音楽

第3部 記憶、行動、そして音楽

第15章 瞬間を生きる―音楽と記憶喪失

第16章 話すことと、歌うこと―失語症と音楽療法

第17章 偶然の祈り―運動障害と朗唱

第18章 団結―音楽とトゥレット症候群

第19章 拍子をとる―リズムと動き

第20章 運動メロディー―パーキンソン病と音楽療法

第21章 幻の指―片腕のピアニストの場合

第22章 小筋肉のアスリート―音楽家のジストニー

第4部 感情、アイデンティティ、そして音楽

第23章 目覚めと眠り―音楽の夢

第24章 誘惑と無関心

第25章 哀歌―音楽と狂喜と憂鬱

第26章 ハリー・Sの場合―音楽と感情

第27章 抑制不能―音楽と側頭葉

第28章 病的に音楽好きな人々―ウィリアムズ症候群

第29章 音楽とアイデンティティ―認知症と音楽療法

謝辞

訳者あとがき

参考文献

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RAB7L1と LRRK2

By , 2013年2月23日 8:50 AM

2013年2月6日の Neuron誌に興味深い論文が掲載されました。

RAB7L1 interacts with LRRK2 to modify intraneuronal protein sorting and Parkinson’s disease risk.

家族性パーキンソン病の原因遺伝子はこれまで 20近く同定されています。これらの遺伝子がコードするタンパク質には、協調して働いているものがあるらしいことが最近明らかになってきました。例えば、Parkin, PINK1は一つの系として、異常ミトコンドリアを検出し、ミトコンドリア外膜タンパク質をユビキチン-プロテアソーム系で分解したり、ミトコンドリアのオートファジーである mitophagyを誘導する役割を担っています。DJ-1もどうやらこの系に含まれるようです。

今回の Neuron誌の論文は、LRRK2, RAB7L1, VPS35が一つの系として細胞内輸送に関係しているらしいということを明らかにしました。この系の役割には未解明の部分が多いですが、今後研究が進んでいくものと思われます。

この論文は筆頭著者が日本人であり、FIRST AUTHOR’Sというブログにわかりやすく纏められていますので紹介しておきます。

 RAB7L1とLRRK2は協調してニューロンにおける細胞内輸送を制御するとともにパーキンソン病の発症リスクを決定する

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第 4回 Journal club

By , 2013年2月19日 5:30 PM

2月15日に第 4回 journal clubを開催しました。

兄やん先生は、細菌性髄膜炎におけるステロイドの投与について調べて来ました。

Dexamethasone and long-term survival in bacterial meningitis

301例の細菌性髄膜炎患者に対し、157例では抗菌薬投与前にデキサメタゾン 10 mg q6h (15-20分で drip) 4日間を開始し、144例ではデキサメタゾンの代わりにプラセボを使用しました。デキサメタゾン投与群では、8週間以内の死亡率が有意に低く、その後の生存曲線のスロープは両群間でほぼ同様でした。肺炎球菌による髄膜炎で、デキサメタゾンの効果はより明らかに見られました。

細菌性髄膜炎のステロイド投与については諸説あり、投与法も人によって様々ですが、今後参考になるスタディーなのではないかと思いました。

ホワイトロリータ先生は、バレンタインデーに因んで、チョコレートと頭痛について調べていました。

A Double-Blind Provocative Study of Chocolate As A Trigger of Headache

チョコレートが頭痛の誘発因子になるかどうか調べた論文です。チョコレートと同じ味でカフェイン等が含まれないキャロブという菓子をプラセボに用いました。その結果、片頭痛においても、緊張型頭痛においても、あるいは両者の混合した頭痛においても、頭痛の誘発因子にはならないことがわかりました。ちなみに、この研究は “Raymond and Elizabeth Bloch Educational and Charitable Foundation” と “American Cocoa Research Institute” から grantを得て行われています。

チョコレートは片頭痛の誘発因子になるとこれまで言われてきましたが、私は経験的に「チョコレートを食べると片頭痛が起こる」という患者さんを診たことがこれまでありませんでした。ひょっとするとあまり関係ないのかもしれませんね。

長友先生 (顔がサッカーの長友選手に似ているので勝手に命名) は、チョコレート摂取と脳卒中リスクについて調べてきました。

Chocolate consumption and risk of stroke: A prospective cohort of men and meta-analysis

スウェーデン人男性 37103名を 10.2年に渡り調査した研究です。チョコレート 62.9 g/week摂取している男性では、脳卒中が少なかった (相対リスク 0.83) そうです。ネットで調べたところ市販の板チョコは 1枚 70 gくらいらしいです。この研究ではメタアナリシスも行なっており、チョコレート摂取による脳卒中の相対リスクを 0.81としてます。その原因として、チョコレートに含まれるフラボノイドなどの成分を挙げています。

ということで、愛する男性にはチョコレートを贈りましょう。

続いて、下半身ネタ大好きな「ぶぶのすけ」先生は 巷で噂になっているアノ研究を読んできました。

Duodenal infusion of donor feces for recurrent Clostridium difficile.

難治性の偽膜性腸炎患者の消化管に鼻からチューブを入れて他人の便流し込むという治療はこれまで報告があり、そのインパクトにより多くの医者に知られてはいました。しかし、今回は天下の New England Journal of Medicineに論文が掲載され話題になりました。内容について、まとまったサイトがあるので紹介しておきます (というか、まとまったサイト多すぎwww みんなこういうネタ好きなんですね)。

ドナーの便の十二指腸注入による再発性C. difficile感染治療

バンコマイシン継続より効いたというのが凄いですね。そのうち、どんな便が良く効くかとか調べられるんでしょうか?より有効そうな便の持ち主のところに依頼が殺到して、本人もより効果的な便を出すための食生活とか考えちゃったりして・・・。

さて、最後に私が 2013年 1月 31日号のNatureから非常にインパクトのあった論文を紹介しました。

ミトコンドリア脳筋症は母系遺伝をする病気で、ミトコンドリア機能障害のために、特に脳や筋肉に異常を来たします。また糖尿病の原因になることも知られています。しかし、妊娠を諦める以外にこれらの遺伝を回避する方法はありません。私は、母親がこの疾患であることを知った娘が将来自分も発症する可能性があることを悲観して自殺を図った症例を知っています。子孫に疾患を伝えることなく子供を持てる方法はないものでしょうか?

この問いに答えるような画期的な論文を今回紹介しました。どうやら筆頭著者は日本人のようです。

Towards germline gene therapy of inherited mitochondrial diseases.

著者らは、紡錘体移植 (spindle transfer; ST) によって、卵母細胞ミトコンドリア DNA (mtDNA) を置換することを試みました。106個のヒト卵母細胞のうち、65個で相互に STを行い、33個は対照群としました。

Figure 1aには実験の方法が書いてあります。ドナー1の卵母細胞から紡錘体を取り出し、ドナー2の卵母細胞の紡錘体と入れ替えます (=紡錘体移植; ST)。その後、人工授精させると、前核形成を経て、胚盤胞となります。今回の実験ではそこから胚性幹細胞株を樹立しました。両群間で受精率は同等でした (Figure 1b)。

figure1

Figure. 1

ところが、ST受精卵では、52%が前核の数の異常によって診断される異常受精を示しました (Figure 2a)。この原因は卵母細胞が Metaphase IIでとどまらないといけない時期に、Anaphase IIに移行してしまう “premature activation” という現象のせいではないかと推測されました。

figure2

Figure. 2

Figure 3では、ドナー1の卵母細胞由来の胚性幹細胞は、ミトコンドリア DNAがドナー1の遺伝子で、核の DNAがドナー2の遺伝子であることが確認されました。

figure3

Figure. 3

Table1では更に詳細な解析をしています。得られたそれぞれの胚性幹細胞の核型は 46XXないし 47 XYでしたが、唯一異常受精により前核形成が 1前核 3極体 (正常は 2前核 2極体) だった卵母細胞由来の胚性幹細胞では、69XXXという核型を示しました。また、紡錘体移植の際に、少量のミトコンドリアが紡錘体と一緒に移植されていないか (mtDNA carry over) を調べました。Restriction-fragment length polymorphism (RFLP) 法では、紡錘体と一緒に移植された mtDNAは検出されませんでしたが、より感度の高い ARMS-qPCRでは、少量検出されました (max 1.70%)。

table1

Table. 1

紡錘体移植は技術的に可能であることがわかったのですが、臨床応用するにはまだ大きな問題があります。一つには、卵巣周期が異なる二人から、同日に卵子を得ることが困難なことです。よって、紡錘体移植するためにはどちらかの卵母細胞を凍結する必要が出てきます。著者らはサルの卵母細胞を用いてこの問題について実験しました。ミトコンドリアのドナーとなる卵母細胞を凍結し、新鮮な卵母細胞から紡錘体を取り出して移植しても胚盤胞はほとんど形成されなかったのに対し、紡錘体のドナーとなる卵母細胞を凍結し、新鮮な卵母細胞に移植すると問題なく胚盤胞が形成されることがわかりました。(Table 2)

table2

Table. 2

最後に、紡錘体移植により出生したサルを 3年間観察しました。血算、生化学、血液ガス分析といった採血項目ではコントロール群とくらべて差がありませんでした。体重もコントロール群と差はありませんでした。皮膚線維芽細胞を採取して調べた ATPレベルやミトコンドリア膜電位といった評価項目も正常でした。また、紡錘体移植の際に一緒に移植されてしまった mtDNAについても変化はありませんでした。

 この研究を臨床応用していくには倫理的な問題を含めていくつかクリアしなければならない問題がありますが、実用化されれば次のように移植が行われるようになるでしょう。

まず、ミトコンドリア病の Aさんの卵母細胞を凍結保存しておきます。次に健常者の Bさんから新鮮な卵母細胞を採取して紡錘体を除去した後、Aさんの卵母細胞から取り出した紡錘体を Bさんの卵母細胞に移植します。そして試験管内で受精させ、Aさんに戻します。生まれてくる子供は、Aさん (と夫) の核 DNAと、Bさんのミトコンドリア DNAを持つ筈です。Aさんのもつ病気のミトコンドリア DNAは子供に伝わらないことになります。ただし紡錘体移植にともなって、Aさん由来のミトコンドリアも少しは混入してしまいます。しかし、同じく 2013年 1月 31日号の Natureに掲載された “Nuclear genome transfer in human oocytes eliminates mitochondrial DNA variants.” という論文では、ゲノム移植によって別の卵母細胞に一緒に伝わってしまったミトコンドリア DNAは、最初 1%弱検出されるようですが、徐々に検出されなくなっていくということなので、実際にはおそらく問題にならないのではないかと想像されます。

過去の Journal club

第 1回 Journal club

第 2回 Journal club

第 3回 Journal club

 

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Alemtuzumab

By , 2013年2月10日 12:08 PM

多発性硬化症に対する治療薬 Alemtuzumab (Lemtrada) が FDAに承認申請され、受理されました。Sanofi社は、今年下半期までに承認されることを期待しているようです。

Sanofi expects FDA decision on Lemtrada in H2

PARIS | Wed Jan 30, 2013 5:31am EST

(Reuters) – Sanofi expects the U.S. Food and Drug Administration to rule on its application for multiple sclerosis treatment Lemtrada by the second half of this year.

The injectable drug, chemically known as alemtuzumab, is one of the new products the French drug maker is betting on to restore growth after losing several blockbusters to generic rivals.

The drug, which late-stage trials have shown helps people who have not responded to other multiple sclerosis treatments, has already been submitted for review by the European Medicines Agency.

In a statement, the French drugmaker also said that an expert committee at the EMA was expected to give its opinion on the medicine in the second quarter of 2013.

Sanofi’s biotech subsidiary Genzyme developed Lemtrada, which was sold until September 2012 under the name Campath as treatment for leukemia and given more frequently at a higher dosage. Sanofi withdrew it from the market while it seeks to get it approved as a treatment for MS, although it remains available free of charge to leukemia patients.

Analysts said the move would allow the company to adjust the price to match that of rival MS drugs on the market.

(This story has been corrected to show that it is the European Medicines Agency that is due to give an opinion in the second quarter)

(Reporting by Leila Abboud; Editing Dominique Vidalon and Helen Massy-Beresford)

Alemtuzumabは、CD52に対するモノクローナル抗体で、Bリンパ球及び Tリンパ球の消失、再生を通じて獲得免疫の長期に渡る変化を引き起こします。臨床試験では、再発寛解型多発性硬化症患者において、インターフェロンβ1aと比較してかなり良好な成績を残していますが、副作用が多岐にわたり、気になる所です。また、効果が長いので、副作用があったときに、薬を中断しても薬の効果が続いてしまう恐れもありそうです。

多発性硬化症は治療薬がどんどん増えてきていて、もし承認されれば治療薬の使い分けにさらに頭を悩ませる時代が来そうです。

下に簡単に過去の臨床試験の結果を紹介しておきます。いくつか試験がありますが、患者背景によってデータが結構変わっていますね。

Alemtuzumab versus interferon beta 1a as first-line treatment for patients with relapsing-remitting multiple sclerosis: a randomised controlled phase 3 trial

[背景] 再発寛解型多発性硬化症に対して、第一選択薬としてのアレムツズマブの有効性と安全性を調べた第三相臨床試験

[方法] 過去に治療されたことのない 18-50歳の再発寛解型多発性硬化症患者を 24ヶ月間観察 (無作為化試験)

アレムツズマブ群 (376名):最初に 12 mg/dayを 5日間静脈内投与、12ヶ月後に 3日間再投与

インターフェロン群 (187名):インターフェロンβ1a 44μgを週 3回皮下注射

[結果]

再発率 (2年間):インターフェロン群 40% (122 events), アレムツズマブ群 22% (119 events) (アレムツズマブはインターフェロンに対して 54.9%の再発抑制効果)

再発のなかった患者の割合 (2年間):インターフェロン群 59%, アレムツズマブ群 78%

機能障害の継続:インターフェロン群 11%, アレムツズマブ群 8%

副作用:

アレムツズマブでは 90%に静脈注射に関連した副作用が見られた。頻度の多いものとして、頭痛 43%, 皮疹 41%, 発熱 33%, 吐き気 14%, 蕁麻疹 11%, 顔面紅潮 11%, 悪寒 10%があった。静脈注射における重篤な副作用は 3%に見られ、心房細動、血圧低下、徐脈、頻脈などであった。

感染症はインターフェロン群の 45%, アレムツズマブ群の 67%でみられた。特にヘルペス感染はインターフェロン群 2%, アレムツズマブ群 16%であり、アレムツズマブ群に多かった。

甲状腺関連の副作用はインターフェロンの 6%、アレムツズマブ群の 18%で見られた。アレムツズマブ群の 2例では、甲状腺乳頭癌を発症した。

アレムツズマブ群のみで、1%に自己免疫性血小板減少症が見られた。

 

Alemtuzumab for patients with relapsing multiple sclerosis after disease-modifying therapy: a randomised controlled phase 3 trial

[背景] 他薬での治療にも関わらず再発した、再発寛解型多発性硬化症に対して、有効性と安全性を調べた第三相臨床試験

[方法] インターフェロンβあるいは glatiramerで治療中に、少なくとも一回以上再発した 18-55歳の再発寛解型多発性硬化症患者を 24ヶ月間観察 (無作為化試験)

アレムツズマブ高容量群 (426名):最初に 24 mg/dayを 5日間静脈内投与、12ヶ月後に 3日間再投与→中止となったが安全性情報の解析にはデータを使用した

アレムツズマブ通常容量群 (170名):最初に 12 mg/dayを 5日間静脈内投与、12ヶ月後に 3日間再投与

インターフェロン群 (202名):インターフェロンβ1a 44μgを週 3回皮下注射

[結果]

再発率 (2年間):インターフェロン群 51% (201 events), アレムツズマブ群 35% (236 events) (アレムツズマブはインターフェロンに対して 49.4%の再発抑制効果)

再発のなかった患者の割合 (2年間):インターフェロン群 47%, アレムツズマブ群 65%

機能障害の継続:インターフェロン群 20%, アレムツズマブ群 13%

副作用:

アレムツズマブでは 90/97% (通常用量/高容量) に静脈注射に関連した副作用が見られた。頻度の多いものとして、頭痛 43/57%, 皮疹 39/53%, 発熱 16/20%, 吐き気 17/24%, 蕁麻疹 15/24%, 不眠 10/11%, 倦怠感 9/13%, 悪寒 7/14%, 胸部不快感 6/14%, 呼吸苦 6/11%, 筋痛 6/11%があった。

静脈注射における重篤な副作用は 3/3%に見られた (多岐に渡るが、不整脈はなかった)。

感染症はインターフェロン群の 66%, アレムツズマブ群の 77/83%でみられた。特にヘルペス感染はインターフェロン群 4%, アレムツズマブ群 16/16%であり、アレムツズマブ群に多かった。

甲状腺関連の副作用はインターフェロンの 5%、アレムツズマブ群の 16/19%で見られた。アレムツズマブ群の 2例では、甲状腺乳頭癌を発症した。

アレムツズマブ群のみで、1/1%に自己免疫性血小板減少症が見られた。

 

Alemtuzumab vs. interferon beta-1a in early multiple sclerosis.

[背景] 未治療で初期の再発寛解型多発性硬化症に対する第二相臨床試験

[方法] 未治療で、発症 3年以内、EDSS 3点以下の再発寛解型多発性硬化症を 36ヶ月間観察 (無作為化試験)

アレムツズマブ高容量群 (110名):最初に 24 mg/dayを 5日間静脈内投与、12ヶ月後に 3日間再投与→中止となったが安全性情報の解析にはデータを使用した

アレムツズマブ通常容量群 (112名):最初に 12 mg/dayを 5日間静脈内投与、12ヶ月後に 3日間再投与

インターフェロン群 (111名):インターフェロンβ1a 44μgを週 3回皮下注射

[結果]

年間再発率:インターフェロン群 36%, アレムツズマブ高容量群 8%, アレムツズマブ通常用量群 11%

再発のなかった患者の割合:インターフェロン群 51.6%, アレムツズマブ高容量群 83.5%, アレムツズマブ通常用量群 77%

EDSSの変化:インターフェロン群 +0.38, アレムツズマブ高容量群 -0.45, アレムツズマブ通常用量群 -0.32

MRIで測定した脳の容積 (3年間): インターフェロン群 -1.8%, アレムツズマブ高容量群 0%, アレムツズマブ通常用量群 -0.9%

副作用:

アレムツズマブでは 99.1/98.1% (通常用量/高容量) に静脈注射に関連した副作用が見られた。頻度の多いものとして、頭痛 66.7/55.6%, 皮疹 99.1/98.1%, 発熱 38.9/36.1%などがあった。

静脈注射における重篤な副作用は 1.9/0.9%に見られた。

感染症はインターフェロン群の 46.7%, アレムツズマブ群の 65.7/65.7%でみられた。特にヘルペス感染はインターフェロン群 2.8%, アレムツズマブ群 8.3/8.3%であり、アレムツズマブ群に多かった。

甲状腺関連の副作用はインターフェロンの 2.8%、アレムツズマブ群の 19.6/25.9%で見られた。

インターフェロン群の 0.9%, アレムツズマブ群の、3.7/1.9%に免疫性血小板減少性紫斑病が見られた。

(追記)

Reuterから訂正記事が出ていましたが、内容に大きな変更はありません。

CORRECTED-Sanofi expects FDA decision on Lemtrada in H2 2013

 

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ハンセン病

By , 2013年2月3日 5:51 PM

1月 17日の Cell誌に、ハンセン病について興味深い論文が掲載されました。

Reprogramming Adult Schwann Cells to Stem Cell-like Cells by Leprosy Bacilli Promotes Dissemination of Infection

Cell, Volume 152, Issue 1, 51-67, 17 January 2013
Copyright © 2013 Elsevier Inc. All rights reserved.
10.1016/j.cell.2012.12.014

Referred to by: Mighty Bugs: Leprosy Bacteria Turn Schwa…

Authors

  • Highlights
  • Leprosy bacteria reprogram adult Schwann cells by altering host-gene expression
  • Bacterially reprogrammed cells resemble progenitor/stem-like cells (pSLC) of mesenchymal trait
  • pSLC promote bacterial spread to mesenchymal tissues by redifferentiation
  • pSLC secrete immune factors, recruit macrophages, transfer bacteria, form granulomas, and disseminate infection

Summary

Differentiated cells possess a remarkable genomic plasticity that can be manipulated to reverse or change developmental commitments. Here, we show that the leprosy bacterium hijacks this property to reprogram adult Schwann cells, its preferred host niche, to a stage of progenitor/stem-like cells (pSLC) of mesenchymal trait by downregulating Schwann cell lineage/differentiation-associated genes and upregulating genes mostly of mesoderm development. Reprogramming accompanies epigenetic changes and renders infected cells highly plastic, migratory, and immunomodulatory. We provide evidence that acquisition of these properties by pSLC promotes bacterial spread by two distinct mechanisms: direct differentiation to mesenchymal tissues, including skeletal and smooth muscles, and formation of granuloma-like structures and subsequent release of bacteria-laden macrophages. These findings support a model of host cell reprogramming in which a bacterial pathogen uses the plasticity of its cellular niche for promoting dissemination of infection and provide an unexpected link between cellular reprogramming and host-pathogen interaction.

ハンセン病で、らい菌 (Mycobacterium leprae; ML) がどうやって広まるかを明らかにした論文です。筆頭著者は日本人のようです。反響の大きな論文で、Cell誌の Leading Edgeに “Mighty Bugs: Leprosy Bacteria Turn Schwann Cells into Stem Cells” として扱われていますし、Nature Newsでも “Leprosy bug turns adult cells into stem cells” として紹介されました。ハンセン病は神経内科医としても興味ある疾患ですので、論文を読んでみました。非常に専門的かつボリュームのある論文でしたので、ごく簡単に内容を記します。

らい菌は末梢神経を覆うシュワン細胞を侵しますが、著者らはらい菌が感染したシュワン細胞の核から Sox10が失われていることを発見しました。Sox10は成熟したシュワン細胞に発現しており、細胞のホメオスターシスやミエリンの維持などに関与している大事な因子です。感染したらい菌の量が少ない時は問題ありませんが、らい菌の量が多くなると、シュワン細胞の核から Sox10が除去され、Mpzを含む遺伝子群のダウンレギュレーションが起こります。このようなシュワン細胞では、細胞のリプログラミングが起こり、前駆/幹様細胞 (progenitor/stem-like cells; pSLC) としての性質を持ちます。FACSでの解析から、pSLCではミエリンのマーカーである p75や Sox10が消失している一方で、Sox2が維持されていることが明らかになりました。Sox2は山中の 4因子の一つで、分化多能性維持に働く転写因子です。同じマイコバクテリウムであっても、Mycobacterium smegmatisではこのようなリプログラミングは起こりません。 

pSLCまでリプログラミングされた細胞は、中胚葉、特に筋肉に分化することが可能になります。実際に、らい菌に感染した pSLCは、骨格筋や平滑筋に移動し、そこで筋肉に分化し、感染を拡大します。

さらに、pSLCは筋肉から筋周膜の結合組織を経て骨格筋皮膚間に移動します。そこで、らい菌の感染は pSLCからマクロファージに広がります。また筋肉の炎症によっても、pSLCから炎症部位に集まったマクロファージにらい菌がうつります。一旦マクロファージが感染すると、感染していなかったマクロファージにも感染が広がって行きます。pSLCは骨格筋皮膚間でマクロファージとともに肉芽腫様構造物を作りますが、ここから感染したマクロファージが放出されることで、さらに感染が拡大します。

もっと簡略化して説明すると次のようになります。論文の Figure. 7Fの図がとてもわかりやすいです。

多くのらい菌がシュワン細胞に感染すると、シュワン細胞は前駆/幹様細胞までリプログラミングされます。前駆/幹様細胞は筋肉に移動して、らい菌を含んだまま筋肉に分化して感染を拡大します。また、前駆/幹細胞にいるらい菌がマクロファージに移ることでも感染は拡大します。前駆/幹細胞がマクロファージとともに形成する肉芽腫様構造物は、そこから感染したマクロファージを放出することで感染の拡大に貢献します。

Figure. 7F

感想ですが、同じマイコバクテリウム属の結核菌や非定型抗酸菌でこのようなリプログラミングが起きているのかどうかが、気になりました。

上に示した Nature newsの記事は、アルツハイマー病などでの再生医療につながる可能性についても、最後の一文のみではありますが、ちらりと触れています。

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ゴルフコースとパーキンソニズム

By , 2013年2月1日 7:53 AM

Annals of Neurology誌に興味深い Letterが寄せられていました。

Is living downwind of a golf course a risk factor for parkinsonism?

Ann Neurol. 2012 Dec;72(6):984. doi: 10.1002/ana.23782.

Parrish MLGardner RENorth Carolina Department of Health and Human Services, Raleigh, NC.

著者らの元に集まったパーキンソニズムのある患者 26例のうち 19例が、あるゴルフ場の 2マイル (1.6 km) 以内に住んでいました。そして、そのうち 16例は風下 160度方向に住んでいました。著者らは、ゴルフ場近くに住むことと、パーキンソニズム発症の関連を疑っています。

論文では触れられていませんが、真っ先に思い浮かぶ原因が農薬です。パラコートやロテノンといった農薬はパーキンソン病リスクを高めるといわれていて、また培養細胞によるパーキンソン病研究でも、パラコートやロテノンはしばしば使用されます。このゴルフ場で使われていた農薬が何なのか明らかになれば、パーキンソン病発症のメカニズム研究に、新たな知見をもたらすことになるかもしれません。

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第 3回 Journal club

By , 2013年1月31日 7:10 AM

1月29日に第 3回 Journal clubを行いました。

兄やん先生は、抗てんかん薬 zonisamideが徐放性 carbamazepineに対し、部分発作で非劣性を証明した論文を読んできました。

Efficacy and tolerability of zonisamide versus controlled-release carbamazepine for newly diagnosed partial epilepsy: a phase 3, randomised, double-blind, non-inferiority trial.

ただし、この研究は、zonisamideを販売するエーザイから資金提供を受けているのを考慮する必要があります。

ホワイトロリータ先生は、輸液の留置針を換えるタイミングについての論文を読んできました。色々な所で話題になっていた論文です。

Routine versus clinically indicated replacement of peripheral intravenous catheters: a randomised controlled equivalence trial.

留置針は 72-96時間で交換することが推奨されていますが、定期的に交換するのと、詰まるなどして必要になったときに交換するのだと、どちらが良いか調べた研究です。ブログにまとめている方がいましたので、リンクを貼っておきます。

定期的 vs 臨床指示下の末梢静脈カテーテルの再留置:無作為対照同等性試験

ちなみに、定期的に交換する群では 48-96時間で、臨床的に必要になった時に交換する群では 48-561時間で交換していたそうです。

ちょび髭王子は、てんかんと性機能についての論文を読んできました。何故こんな論文にしたかというと、「何を読んだら良いかわかりません。時間がないので長い論文は無理です。」と、み○のすけ氏に相談したら、これを勧められたからです。

Sexual dysfunction and epilepsy: The reasons beyond medications.

てんかんおよび抗てんかん薬が原因で性機能低下が見られることがあるという論文です。てんかんによる性機能低下は、動物実験では発作後時間とともに改善したと記されていました。

最後に、私は高齢者における一過性身震い様不随意運動についての論文を紹介しました。この疾患は、知っているとひと目で診断出来るのですが、知らないと相当ビックリします。救急をやっている先生から相談されることが多いですね。

Transient myoclonic state with asterixis in elderly patients: a new syndrome?

高齢者における一過性身震い様不随意運動について

断片的に全般化して数日続く、明らかな代謝的あるいは器質的異常を伴わない高齢者の急性ミオクローヌスおよび羽ばたき振戦について報告する。同様の症状は、過去に 1986年に水谷らが報告した「臨床神経学」誌の ”Recurrent myoclonus associated with Epstein-Barr virus infection in an elderly patient“ という論文にのみ見られる。

この論文では、奈良県の天理よろづ相談所病院かかりつけで、震えを主訴に神経内科に紹介された 7例の患者 (78歳女性, 79歳女性, 63歳男性, 64歳男性, 82歳男性, 71歳男性, 69歳女性) について、ビデオ撮影、表面筋電図、脳波、体性感覚誘発電位 (SEP) を用いて評価した。

その結果、以下の臨床的特徴が明らかになった。

①    高齢者および慢性疾患保持者に起こりやすかった

②    意識レベルはほぼ正常もしくは軽度に障害されていた

③    ミオクローヌス反射は自発的に起こり、動作によりわずかに増強した。全身広範に出現するが、主に頸部、肩帯、上肢に見られた。前頭筋、眼輪筋、腹筋群は侵されにくかった。オプソクローヌスは見られなかった。

④    いくらか声の震えがあった

⑤    感覚刺激でミオクローヌス反射は誘発されなかった

⑥    羽ばたき振戦はミオクローヌス反射の出現部位に出現した。羽ばたき振戦様の運動が提舌で見られた。

⑦    ミオクローヌス及び羽ばたき振戦以外の神経学的異常所見はなかった

⑧    脳波では、非特異的徐波ないし不規則性が見られたが、てんかん波はなかった

⑨    発症はかなり急であったが、数時間かけて更に顕著になった

⑩    ミオクローヌスと羽ばたき振戦は 2-3日間のジアゼパム投与で消失した。一旦症状が消失すると、更なる治療は必要なかった。

⑪    後遺症はなかったが、再発を起こす傾向にあった

著者らの行った median SEPでは 7例中 2例で振幅増加が見られた。しかし、P27に比較して N20の振幅が大きかった。これはミオクローヌスで出現するいわゆる Giant SEP (ミオクローヌスで有名な所見) とは異なり、高齢者でたまに非特異的に経験される所見であった (著者の私見)。

水谷らによる同様の症状の報告では EB virus IgGが高値だった。しかし、これらの 7例で抗体価が有意に上昇していた患者はいなかった。

臨床所見については、まさにこの通りです。気になったのは median SEPの解釈についてです。私は某基幹病院で外来をやった帰りに、技師さんが行った SEPのレポートを作成していますが、年に数件くらいミオクローヌスのない症例で、この論文に見られるような Giant SEP様の所見を認めます。著者らは高齢者でたまに非特異的に見られる所見としていますが、その臨床的意義は何なのだろうと思いました。今度電気生理検査に詳しい先生に会う機会があったら、聞いてみようと思います。

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失語の国のオペラ指揮者

By , 2013年1月30日 7:29 AM

「失語の国のオペラ指揮者 神経科医が明かす脳の不思議な働き (ハロルド・クローアンズ著、吉田利子訳、早川書房)」を読み終えました。以前紹介した、「医師が裁かれるとき」という本と同じ著者です。

教科書では読めないような、神経学に関する話題が満載でした。どの話も面白かったのですが、「音楽は続く、いつまでも」というエッセイを読んだときには、電車内であったにも関わらず、「あっ」と声を上げました。なぜなら、「脳梗塞と音楽能力」でエントリーで紹介した患者のことが書かれていたからです。この本では患者は論文と別の名前になっていますが、明らかに同一人物です。著者は、担当医による紹介を経て患者に実際会っており、そのときのエピソードが綴られています。論文には記されていない裏話が満載です。

もう一つ紹介しておきたいのが「シーフ・リヴァー・フォールズの隠者 病気の名祖との最初の対面」というエッセイです。末梢神経障害、運動失調、網膜炎を症状とする患者を診療する機会があり、一年目の研修医であった著者は Refsum病と診断しました。そして、なんと名付け親となった Refsum教授が症例検討会に参加することになりました。Refsum病は、本来「heredopathia atactica polyneuritiformis (遺伝性失調性多発神経炎)」というラテン語名が正式名称です。Refsum教授は一度も “Refsum病” と口にしたことはなく、正式名称で呼んでいたそうですが、著者は「もし、新しい病気を発見して名前をつけることがあれば、正確ではあってもややこしいラテン語の名前をつけよう。そうすれば、すぐに名祖になれる。病名として名が残れば、十五分で忘れ去られることはない」と冗談めかして書いています。Refsum教授は巧みな問診で患者の生活歴を暴き、治療方針を立てました。Refsum氏が指示した治療、フィタン酸を多く含む木の実の摂取制限は有効だったそうです。

このエッセイ「シーフ・リヴァー・フォールズの隠者 病気の名祖との最初の対面」は、Sigvald Refsumが Georg Herman Monrad-Krohnと編集した教科書についてのエピソードで結ばれています。その教科書に掲載されている気脳図 (CTや MRIがなかった時代は、髄腔から空気を入れてレントゲンを撮り、空気が入った脳室の形を見て判断することがあったが、激烈な頭痛を伴い、しばしば命を落とす侵襲的な検査だった) は、ある有名政治家、ナチスに協力したクヴィスリンクのものらしいです。第二次大戦後、クヴィスリンクの異常な行為が疾患のせいではないことを確かめるため気脳図を撮られ、正常であることを確認後に銃殺されたそうです。どうやらその時の写真が正常像として教科書に使われたらしいのです。

余談ですが、ノルウェーがドイツに占領されていた時期、食料がドイツに送られ、国民が菜食を強いられました。そのため、Refsum病の原因となるフィタン酸が蓄積しやすい状況が作られました。Refsum教授が Refsum病を発見したのには、このような時代背景のため Refsum病の患者が増加していた事情があったようです。

私が師匠に Refsum教授の話をすると、師匠は彼が来日した際、講演を聞いて話をしたことがあると仰っていました。Refsum教授は素晴らしい紳士で、風格のある方だったらしいです。そして、Sigvald Refsumと Georg Herman Monrad-Krohnが纏めた教科書は素晴らしく、Parkinson病患者の表情の情動的不全麻痺の記載には感銘を受けたと仰っていました。

ちなみに、Refsumと Monrad-Krohnが編集した教科書は「神経疾患検査法 (医博 稲永和豊訳, 医歯薬出版)」として邦訳されています。邦訳版を手に入れたので、掲載されていた気脳図の写真を下に示しておきます。クローアンズの言うとおりなら、クヴィスリンクのものかもしれません。

あおむけの姿勢でとられた正常な気脳撮影写真

うつむけの姿勢でとった正常な気脳撮影像

正常気脳撮影写真側面像

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音楽を習い始めるタイミング

By , 2013年1月29日 7:33 AM

2013年 1月 13日の The Journal of Neuroscience誌に、音楽を始める時期についての論文が掲載されていました。人間のいくつかの能力には “sensitive period” というものがあり、ある時期までに始めないと高度には身につかないものがあります。外国語の勉強をする時などに身に沁みて感じます。

音楽についても “sensitive period” は当然存在すると考えられています。優れたソリストのほとんどが、子供の頃から楽器を始めていることを考えれば感覚的にわかると思います。

Early Musical Training and White-Matter Plasticity in the Corpus Callosum: Evidence for a Sensitive Period

Training during a sensitive period in development may have greater effects on brain structure and behavior than training later in life. Musicians are an excellent model for investigating sensitive periods because training starts early and can be quantified. Previous studies suggested that early training might be related to greater amounts of white matter in the corpus callosum, but did not control for length of training or identify behavioral correlates of structural change. The current study compared white-matter organization using diffusion tensor imaging in early- and late-trained musicians matched for years of training and experience. We found that early-trained musicians had greater connectivity in the posterior midbody/isthmus of the corpus callosum and that fractional anisotropy in this region was related to age of onset of training and sensorimotor synchronization performance. We propose that training before the age of 7 years results in changes in white-matter connectivity that may serve as a scaffold upon which ongoing experience can build.

この論文では、被験者を 7歳までにトレーニングを開始した音楽家、7歳以降にトレーニングを開始した音楽家、非音楽家に分けて評価しました。その結果、7歳までにトレーニングを始めると脳梁 (特に posterior midbody/isthmus) の発達が良いことが確認されました。またこの部位において、拡散テンソル画像で調べた異方性度 (fractional anisotropy; FA, 白質の変化を反映) は、トレーニング開始年齢と感覚運動同期パフォーマンスに関連していることがわかりました。

小さい頃から音楽を始めることが高度に能力に発達させるために大事であることは様々な研究で示されていますが、この研究によると、 7歳までに音楽を始めることで、それに対応して脳梁の白質線維連絡が強化するようです。おそらく、これは高度な音楽能力に貢献しているのでしょう。

ということで、私も自分の子供が 7歳になるまでに音楽トレーニングを開始しようと思いました。問題は、子供の母親が私と出会っていなくて、従ってまだ生まれてくる見込みがないことです (^^;

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タイサブリに関する教訓的症例

By , 2013年1月27日 7:33 AM

2013年 1月 18日に多発性硬化症治療薬 Natalizumab (タイサブリ) についてお伝えしました。現在、多発性硬化症の第一選択薬として FDAと European Medicines Agencyで審査されている薬剤です。その時、私は下記のようなコメントをしました。

タイサブリ

JC virusが検出限界以下のコピー数だった患者さんが、薬の使用のせいでウイルスが増殖して PMLを発症することがあるかどうかの知見は未知数だと思いますが、現実的には meritと riskを天秤にかけて判断されるべきことでしょう。

何というタイミングか、2013年 1月 21日の Archives of Neurology誌に教訓的な症例が掲載されました。

Lessons Learned From Fatal Progressive Multifocal Leukoencephalopathy in a Patient With Multiple Sclerosis Treated With Natalizumab

Objective  To describe the clinical, radiological, and histopathological features of a fatal case of progressive multifocal leukoencephalopathy (PML) in a patient with multiple sclerosis treated with natalizumab. We will use this case to review PML risk stratification and diagnosis.

Design  Case report.

Setting  Tertiary referral center hospitalized care.

Patient  A 55-year-old, JC virus (JCV) antibody–positive patient with multiple sclerosis who died of PML after receiving 45 infusions of natalizumab.

Main Outcome Measures  Brain magnetic resonance imaging and cerebrospinal fluid JCV DNA polymerase chain reaction results.

Results  The patient developed subacute onset of bilateral blindness following his 44th dose of natalizumab. Ophthalmologic examination was normal, the brain magnetic resonance imaging was not suggestive of PML, and cerebrospinal fluid analysis did not reveal the presence of JCV DNA. The patient was subsequently treated for a presumed multiple sclerosis relapse with high-dose corticosteroids. Two weeks after his 45th dose of natalizumab, he developed hemiplegia that evolved into quadriparesis. Repeated magnetic resonance imaging and cerebrospinal fluid studies were diagnostic for PML. Postmortem histopathological analysis demonstrated PML-associated white matter and cortical demyelination.

Conclusions  The risks and benefits of natalizumab must be reassessed with continued therapy duration. When there is high clinical suspicion for PML in the setting of negative test results, close clinical vigilance is indicated, natalizumab treatment should be suspended, and JCV polymerase chain reaction testing and brain magnetic resonance imaging scans should be repeated.

症例は 49歳の男性です。多発性硬化症の再発予防に対し、当初は Interferon-beta Iaを使用していましたが、忍容性の問題で、natalizumab治療に変更しました。抗 JCV抗体が陽性であることが判明した後も、彼は natalizumabによる治療を選びました。第 44回目の natalizumab投与後、彼は視力障害を訴えましたが、頭部 MRI所見は 1年前と変化なく、JC virus DNA-PCRも陰性でした。眼科医による診察でも異常はありませんでした。そこで、ステロイドの静脈投与及び 45回目の natalizumab治療が行われました。しかし視覚症状の改善はなく、3週間後に新たに右片麻痺が出現しました。入院して血漿交換が行われましたが増悪し、更に脳症及び四肢麻痺を発症しました。その時点で施行された MRI検査で PMLに合致した所見があり、髄液の JC virus DNA-PCRは陽性となっていました。入院 5日後に患者は死亡しました。剖検による診断も PMLとされました。レトロスペクティブに視覚症状出現直後の頭部 MRIを見ると、PMLに合致した病巣が確認されました。

本症例で教訓的なのは、JC virus DNA-PCRが陰性でも PMLの可能性は残り、またMRIでの PML病巣は経験を積んだ神経放射線科医でも見逃され得るということです。

Natalizumabによる PML発症リスクは最初の 12回まででは 1000人に対して 0.04人なので稀であることがわかります。治療 1~24回目まででは 1000人に対して 1人以下ですが、24回目以降では 1000人に対して 2.5人と上昇することが知られています。元々患者の状態が良く (EDSS 2点), 再発も少なかったため、24回以上 natalizumabを投与するのは、benefitより riskの方が高かったのではないかと著者らは指摘しています。

この報告は、FDAと European Medicines Agencyでの審査に影響を与えるかもしれません。効果は優れた薬剤ですが、こうした報告を読むと、第一選択薬で使用するのには躊躇します。症例を選んで使用すべきだと思います。

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