Category: 神経学

Adult polyglucosan body disease

By , 2015年2月17日 5:48 AM

2014年2月9日の JAMA neurologyに adult polyglucosan body disease (APBD) の遺伝子について論文が掲載されていました。

Deep Intronic GBE1 Mutation in Manifesting Heterozygous Patients With Adult Polyglucosan Body Disease

APBDは 50歳以降に、脊髄障害や末梢神経障害に起因する進行性の錐体路性四肢麻痺、遠位優位の感覚障害、神経因性膀胱、歩行障害を呈する疾患である。多くの患者はアシュケナージ系ユダヤ人で、glycogen branching enzyme gene (GBE1) p.Y329Sのホモ接合変異がある。一部の患者では、p.Y329Sと p.L224Pのヘテロ接合変異を合併している。30%の患者では、p.Y329Sのヘテロ接合変異のみで発症する。なぜ、このヘテロ接合変異のみで発症するのか、著者らは遺伝学的検索を行った。

16名のヘテロ接合の APBD患者を調べたところ、全例でグリコーゲン分岐鎖酵素活性がホモ接合 APBD患者より低下していることがわかった。これは、正常なはずの対立遺伝子が機能していないことを示している。

著者らが GBE1の mRNAの解析を行ったところ、全ての患者に c.986A>Cのホモ接合変異があり、もう一方の対立遺伝子 (正常であるはずの対立遺伝子) では mRNAを完全に欠いていることがわかった。さらに詳しく調べると、その対立遺伝子のイントロン領域には GBE1-IVS15 + 5289_5297delGTGTGGTGGinsTGTTTTTTACATGACAGGT変異があり、これが遺伝子トラップを形成し、異所性の last exonを形成していることがわかった。このため、mRNA転写産物は exon16と 3’非翻訳領域が機能せず、異常な GBEをコードしてしまい、酵素活性が 18%から 8%に低下している。

今回の研究で、ヘテロ接合変異の患者が何故 APBDを発症するかわかり、ひと通り遺伝学的な説明がついたと言えます。この研究でもそうですが、神経疾患でイントロン領域というのはホットな分野ですね。ALSでの C9orf72とか、SCA36での NOP56とか、様々なことがわかってきています。

APBDはユダヤ人に多く、一生診ることのない疾患かもしれませんが、神経内科医の教養として知っておきたいと思います。臨床所見は、下記のブログがまとまっています。

Adult polyglucosan body disease という病気が、ある。

 

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Posterior Cortical Atrophy

By , 2015年2月14日 1:30 PM

Posterior Cortical Atrophy (PCA) は、私にとってある思い出の疾患です。というのも、初めて英語の紹介状を書いたのが、この疾患の患者さんだったからです。

英語の紹介状

最近の JAMA neurologyに、PCAの新規遺伝子変異が報告されました。 (2014.12.29 online published)。

Posterior Cortical Atrophy as an Extreme Phenotype of GRN Mutations

背景:PCAは、後頭葉視覚野、側頭後頭葉、両側頭頂葉が障害される、稀な神経変性症候群である。進行性の視覚や視覚運動の高度障害を呈する。背側路障害と腹側路障害のサブタイプがある。原因となる疾患はアルツハイマー病の亜型が多いが、レヴィー小体型認知症、皮質基底核変性症、プリオン病、皮質下グリオーシスも知られている。これまで、PSEN1, PRNP, IT15遺伝子の変異が報告されているが、遺伝学的な背景はよくわかっていない。

方法:症例は 58歳時に視力障害を発症した男性 (individual 004)。形態認知障害はあったが、色覚認知は正常であった。4年後、視覚認知障害優位であるものの、記憶障害も出現した。その後、アパシーや固執行動がみられるようになった。MRIでは、当初は後頭葉を中心とした萎縮が目立ったが、後には著明なびまん性脳萎縮がみられた。男性の兄弟の一人 (indivisual 005) は大脳皮質基底核症候群 (corticobasal syndrome) であり、片親はレヴィー小体型認知症だった (individual 001) (個人情報保護のため性別は伏せてある)。もう一人の親は非特異的な認知症だった。男性は、諸検査を経て、PCAと診断された。

結果:血清プログラニューリンは、患者男性 (individual 004) 29 μg/l, 兄弟の一人 (individual 005) 39 μg/l, 親 (individual 001) 47 μg/lだった (正常値 100~300 μg/l)。3名 (individual 001, 004, 005) ともheterozygous c.328C>T GRN変異があった。APOEは ε3/ε3であった。

考察:GRN変異は、前頭側頭葉変性症の広い範囲の表現型に関連がある。多くの変異キャリアは、行動型前頭側頭葉変性症 (visual variant)、進行性非流暢性失語症、大脳皮質基底核症候群、レヴィー小体型認知症類似の表現型を呈する。本症例はアルツハイマー病合併の可能性が除外できないが、ε4 alleを欠いたことから、GRN spectrumの表現型と考えられる。

結語:特に障害が脳の前方領域まで進行し認知症の家族歴があるような PCA症例では、GRN遺伝子を調べるべきである。

PCAの診療経験はそれほど多くないのですが、この論文のように進行が比較的早く、前方領域まで及ぶような症例を経験したときには、GRN遺伝子を調べてみようと思いました (もっと進行が早い時はプリオン病の鑑別も必要になってくると思います)。

こういう遺伝子関係の論文というのが直接臨床に役立つことは少ないのですが、知っておくと良いことが稀にあります。

数年前のことですが、末梢神経障害の患者さんが私の外来を受診し、病歴や身体所見から Charcot-Marie-Tooth病が強く疑われました。詳細不明ではあるものの腎臓病の既往があったので、初診のカルテに “Charcot-Marie-Tooth病 (INF2変異疑い)” と記載して精査としました。その後、腎臓病が実際には巣状分節性糸球体硬化症 (focal segmental glomerulosclerosis; FSGS) であったことが判明し、調べれば調べるほど INF2変異の Charcot-Marie-Tooth病のようであることがわかりました。この変異を初診で疑えたのは、下記の New England Journal of Medicine論文を読んで覚えていたからです。この時は、勉強していて良かったなと思いました。

INF2 Mutations in Charcot–Marie–Tooth Disease with Glomerulopathy (日本語版)

ちなみに、INF2変異を伴った Charcot-Marie-Tooth病に関しては既に日本国内から報告が出ているようです。

INF2 mutations in Charcot-Marie-Tooth disease complicated with focal segmental glomerulosclerosis.

その他に、INF2変異が同定された FSGSの国内報告があります。この症例で Charcot-Marie-Tooth病の合併がなかったか、興味があります。

フォルミンINF2変異が同定された腎移植希望の家族性巣状糸球体硬化症(FSGS)の1例

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脳卒中の血管内治療

By , 2015年2月12日 7:55 AM

2015年2月11日の New England Journal of Medicine (NEJM) に、脳梗塞の血管内治療に関する論文が 2報同時に載りました。

Endovascular Therapy for Ischemic Stroke with Perfusion-Imaging Selection

発症 4.5時間以内の内頚動脈/中大脳動脈閉塞で、Perfusion CTでの虚血コアが 70 ml以下の患者を selectionして、Alteplase単独と Alteplase +  Solitaire FR (Flow Restoration) stent retrieverを比較。後者の有効性が示された。

Randomized Assessment of Rapid Endovascular Treatment of Ischemic Stroke

発症 12時間以内の頭蓋内動脈起始部閉塞を対象とし、虚血巣が大きい患者と CT angiographyで側副血行路が不良な患者を除外した。有効な血栓除去デヴァイスを用いて血管内治療した群 (77%が Solitaire stent を用いていた) と、通常の治療のみであった群を比較し、前者の有効性が示された。

Merciや Penumbraといった第一世代のデヴァイスを用いた血管内治療は、臨床試験で有効性を示すのが難しかったですが、Solitaireなどの新しいデヴァイスは期待できそうですね。2015年1月7日に published onlineになった NEJM論文 “A Randomized Trial of Intraarterial Treatment for Acute Ischemic Stroke” でも血管内治療の有効性が示されています。

これだけ脳卒中診療に特殊なスキルが求められるようになってくると、脳卒中は独立した診療科が診ることにした方が良いのではないかと個人的に思っています。神経内科医が、他の神経疾患を診ながら・・・という時代ではなくなっていくように思います。

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感覚性ニューロパチーと抗FGFR3抗体

By , 2015年2月11日 3:52 PM

Journal of Neurology Neurosurgery Psychiatry (JNNP) 誌に、非常に興味深い論文が掲載されました (2015年1月27日 online published)。

Antifibroblast growth factor receptor 3 antibodies identify a subgroup of patients with sensory neuropathy.

[Introduction]

感覚性の末梢神経障害は、感覚神経の細胞体が障害される、ないしはその軸索が障害されることが特徴である。細胞体 (後根神経節) が標的となる場合 “sensory neuronopathy (SNN)” と呼ぶ。SNNは、傍腫瘍症候群、HIV, シェーグレン症候群などに合併することから、免疫介在性の一群があると考えられてきた。しかし、傍腫瘍症候群の一部では抗体が見つかっているものの、それを除くとバイオマーカーとして信頼に足るものはない。

[Methods]

純粋感覚性ニューロパチー患者 106名のうち、72名が SNNの診断基準を満たした (※論文では “SSN” 診断基準と表記されていますが恐らく誤植)。SNN診断基準を満たす感覚性ニューロパチー患者の内訳は、傍腫瘍性 6名、中毒性 10名、遺伝性/家族性 4名、免疫性 (dysimmune context) 20名、特発性 32名であった。SNN診断基準を満たさない感覚性ニューロパチーの内訳は、特発性 14名、免疫性 18名、中毒性 2名 (化学療法) であった (※「免疫性 (immune context)」にはシェーグレン症候群, SLE, ループスアンチコアグラント陽性, 単クローン性免疫グロブリン血症, 炎症性リウマチ, 炎症性腸疾患が含まれる)。コントロール群は、運動感覚ニューロパチー 41名、他の神経疾患 59名、全身性自己免疫性疾患 51名、健常人 65名であった。

Protein arrays: 血清を希釈し、ProtoArray V.4.2を用いて解析した。この arrayには、Alexa Fluor 647でラベルした抗ヒト IgG抗体が結合されており、適度な波長のレーザー光で励起するようになっている。また、この arrrayは、Sf9 insect cellに発現した、GST-tagのついた 8000種類のヒト蛋白質を含んでいる。

ELISA: 組換蛋白質である FGFR3の細胞内ドメイン、全長 FGFR1, FGFR2を固相化した。サンプルを一晩反応させた後、horseradish peroxidaseでラベルした抗ヒト IgG抗体を加えた。

Cell-based assay: 全長 FGFR3, FGFR3 細胞外ドメインである TRK1, TRK2, FGFR3 細胞内ドメインにそれぞれ EGFPタグを付け、HEK293細胞に transfectionし、患者血清と反応させた。TRITCラベルした抗ヒト抗体で検出した。

Immunocytochemical study on sensory neuron: 培養したラットの後根神経節細胞 (DRG) を FGFR3細胞内ドメインないし CRMP5と反応する抗体と反応させた。

[results]

Protein  arrays: SNN群では、非傍腫瘍性 SNN 16名中 7名で、FGFR3の細胞内ドメインに結合する抗体が検出されたが、コントロール群では検出されなかった。

ELISA: 抗FGFR3抗体は、感覚性ニューロパチー 106名中 16名で検出され、コントロール群 211名中 1名で検出された。Protein arrayで陽性だった 7名は、全て ELISAでも陽性だった。SNN診断基準を満たす純粋感覚性ニューロパチー患者のうち抗 FGFR3抗体陽性は 72名中 9名であった。SNN診断基準を満たさない純粋感覚性ニューロパチー患者のうち FGFR3抗体陽性は 34名中 7名であった。感覚性ニューロパチー 106名のうち、免疫性 38名中 11名、特発性ニューロパチー 46名中 5名、その他の神経疾患 22名中 0名が抗 FGFR3抗体が陽性だった。コントロール群で唯一抗 FGFR3抗体陽性となったのは SLE患者だった。抗 FGFR3抗体の感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率は、それぞれ 19%, 99.6%, 94.1%, 77.3%であった。

Cell-based assay: ELISAで抗 FGFR3抗体陽性となった 17名のうち 12名 (5名分はこれまでの実験で全て使ってしまったため使えなかった) の血清と、抗体陰性患者 10名の血清を解析した。その結果、ELISAで陽性になった 12名のうち 5名で免疫反応性を認めたが、ELISA陰性であった患者で免疫反応性を認めたものはいなかった。このことから、ELISAは cell-based assayに比べて感度が良く、特異度は同等と言える。次に FGFR3の各ドメインに対しても検索した。健常者の血清で FGFR3の全長及び各ドメインに反応を示したものはなかった。ELISAと cell-based assayで抗 FGFR3抗体が陽性であった患者 4名の血清を用いた解析では、4名ともFGFR3細胞内ドメインへの免疫反応性を認めた。全長 FGFR3への反応は 4名中 3名で確認された。FGFR3の細胞外ドメインである TRK1, TRK2への反応性を示したのは 4名中 1名であった。さらに、FGFR3以外の FGFRファミリーついて検索した。FGFR4は protein assayのキットに含まれていた蛋白質であったが、抗 FGFR3抗体陽性 SNN患者の血清であっても、反応を示したものはなかった。組換 FGFR1と FGFR2を用いた ELISAでは、FGFR1との反応はみられなかったが、FGFR2は抗 FGFR3抗体陽性患者 10名のうち 2名で cross-reactが見られた。コントロール群での cross-reactはなかった。

Immunocytochemical study on sensory neuron: 抗 FGFR抗体が、ラットの感覚神経、後根神経節細胞、三叉神経に結合することがわかった。FGFR3は、大径および小径の感覚神経に発現していた。抗FGFR3抗体陽性患者の IgGは感覚神経の細胞質で抗 CRMP5抗体と共局在した。FGFR3は核と細胞質に局在しているが、核には到達していないと推測される。

Clinical pattern of SN in patients with anti-FGFR3 Abs: 抗 FGFR3抗体が検出された 17名のうち 16名に感覚性ニューロパチーを認めた。残りの 1名は SLE患者だったが、本当に末梢神経障害がないか、著者が直接確認したわけではない。16名中 10名が女性で、6名が男性だった。年齢は 18~73歳 (中央値 47歳) だった。発症は急性が 2名、亜急性が 4名、進行性が 10名だった。神経障害は 15名中 13名が “non-length-dependent (手袋靴下型ではない分布)” であり、SNN診断基準を満たしたのは 11名中 9名だった。7名に疼痛が存在し、5名で顕著だった。9名に失調がみられた。12名に自律神経障害がみられた。髄液は 9名中 5名で異常だった。電気生理学的検査では、11名中 10名で SNNに合致したもので、small fiber neuropathyを呈した 1名のみ正常だった。6名での神経生検では、中等度~高度の髄鞘線維脱落があったが、クラスター化はなかった。16名のうち 10名では、明らかな全身性免疫疾患はなく、抗核抗体、抗 SS-A抗体、抗 SS-B抗体は認めなかった。1名は HIV感染があった。10名中 3名では、数ヶ月~数年後に全身性免疫疾患を発症した。そのため、最終的に全身性免疫疾患に合併したのは 16名中 9名となる。

[conclusions]

後根や三叉神経が侵される感覚性ニューロパチーには抗 FGFR3抗体が検出される一群が存在する。

“Sensory  neuronopathy” は、悪性腫瘍や自己免疫疾患に合併するため、何らかの免疫学的異常が関与しているとは思っていましたが、ついに傍腫瘍症候群以外で抗体が検出されたのですね。画期的な論文だと思います。今後は、他にも抗体がいくつか見つかってくるのではないかと思います。抗 FGFR3抗体は特異度や陽性的中率が高いという特徴があり、診断に役立ちそうなので、早く商業ベースで検査できるようになって欲しいものです。

ちなみに、”Sensory neuronopathy (Sensory dorsal ganglionopathy)” については、2011年の New England Journal of Medicine (NEJM) に掲載された、MGHの case recordsが良く纏まっています。神経内科医必読と思います。

Case 14-2011 — A Woman with Asymmetric Sensory Loss and Paresthesias

話は変わりますが、ごく最近の NEJMの MGH case recordsで、”Case 3-2015 — A 60-Year-Old Woman with Abdominal Pain, Dyspnea, and Diplopia” が面白かったです。MGH case recordsではありませんが、同じ NEJMの “D Is for Delay” も神経内科医にとって教訓的でした。

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髄膜炎と髄液細胞数増多

By , 2015年2月7日 10:50 AM

髄膜炎の診断の gold standardは、髄液検査で細胞数増多を証明することです。

少し前のことですが、発熱、意識障害の患者が搬送されてきました。血小板が 40000 /μlまで低下し、D-dimerも 3桁。敗血症→DICがありそうでした。身体診察では、項部硬直陽性、Kernig徴候陽性でした。敗血症に細菌性髄膜炎を合併したものでしょう。髄液検査をしてみると、何と細胞数 5 /μlと、ほぼ正常なのです (ただし多核球優位、髄液蛋白上昇あり、糖は髄液/血液=0.5程度)。「あれっ?」と思いましたが、臨床的には髄膜炎であることは明らかでした。迅速診断キット「PASTOREXメニンジャイティス」は全て陰性でした。前医で抗菌薬を中途半端に数日使っていたこともあって、髄液も血液も培養は陰性。

「髄膜炎でも細胞数増多がないことがある」というのは、過去に知り合いの感染症科医と話した時に知っていましたが、論文を読んだことはありませんでした。そこで探してみると、2014年9月に亀田総合病院から論文が出ていました。

Bacterial meningitis in the absence of cerebrospinal fluid pleocytosis: A case report and review of the literature.

上記論文は症例報告ですが、過去の論文と併せて 26例を考察しています。論文は無料公開されていますので、興味のある方は読んでみてください。著者らは、髄液細胞数増多がないというだけでいつも髄膜炎を否定できるわけではなくて、敗血症や髄膜炎の徴候があるときは、すぐに抗菌薬を開始しなければならないと結んでいます。

亀田総合病院の症例は、検査したタイミングが早いと髄液細胞数増多がみられないことがあるとしていて、確かにそういう一面はあると思います。実際に、再検査で髄液細胞数増多が確認できることはあるようです。一方で、髄液細胞数が低いほうが予後が悪いという論文が、2006年の New England Journal of Medicineに掲載されています。細菌性髄膜炎では重要論文の一つです。重症細菌感染症では血液検査で白血球が低下することがあるので、それと似た現象が髄液で起きているのかなぁ・・・と私は勝手に推測しています。

Clinical features and prognostic factors in adults with bacterial meningitis.

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多発筋炎と皮膚筋炎

By , 2015年2月5日 6:45 PM

Muscle & Nerve誌の accepted articleを見ていると、多発筋炎および皮膚筋炎の総説が掲載されていました。2015年1月11日に受理された論文です。

An overview of polymyositis and dermatomyositis

まだ、正式に出版されたわけではないのできちんと段組されてはいませんが、いち早く読むことが可能です。 治療は膠原病科に御願いすることが多いので、最近知識のアップデートを怠っていた分野でしたが、素晴らしい内容でした。特に勉強になった部分を備忘録的に書いておきます。

・炎症性ミオパチーには、皮膚筋炎 (dermatomyositis; DM)、多発筋炎 (polymyositis; PM)、孤発性封入体筋炎 (sporadic inclusion body myositis; sIBM)、非特異的筋炎 (nonspecific myositis)、免疫介在性壊死性ミオパチー (immune mediated necrotizing myopathy; IMNM) がある。

・皮膚筋炎の 6%は皮膚病変を欠く。典型的な皮膚筋炎の筋病理を示す 20%は皮膚所見を呈するものの筋力低下を欠く (amyopathic dermatomyositis; ADM)。

・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎は、多発筋炎に合併する間質性肺炎より臨床的に重症である。MDA5 (anti-melanoma differentiation associated gene 5) 抗体の存在が関係しているのではないかと言われている。

・皮膚筋炎の筋病理には二つのタイプがある。一つは筋周膜病理を伴った免疫性ミオパチー(immune myopathy with perimysial pathology) で、成人に多く、間質性肺炎を合併しやすい。もう一つは筋血管障害 (myovasculopathy) である。

・孤発性封入体筋炎は封入体を欠くことがあるので、多発筋炎と病理学的に区別するのは困難なことがある。孤発性封入体筋炎は遠位筋筋力低下が見られやすいといった臨床的特徴が重要である。

・抗体は二つに分けられる。一つは筋炎関連自己抗体 (myositis-associated autoantibodies; MAAs) で、anti-Ro, anti-La, anti-PM-Scl, anti-nuclear ribonucleoproteins (snRNPs) U1, U2, U4/6, U5, U3, anti-Ku, anti-KJ, anti-Fer, anti-Mas, anti-hPMS1抗体などがある。もう一つは筋炎特異的自己抗体 (myositis-specific autoantibodies; MSAs) で、anti-EJ (antisynthetase syndrome), anti-Ha (antisynthetase syndrome), anti-HMGCR (IMNM (statin使用と関連)), anti-Jo-1 (antisynthetase syndrome), anti-K5 (antisynthetase syndrome), anti-MDA5 (DM/ADM), anti-Mi-2 (DM), anti-MJ/NXP2 (juvenile DM>adult DM), anti-NT5C1A (sIBM), anti-OJ (antisynthetase syndrome), anti-TIF-γ/α (adult/juvenile DM), anti-PL-12 (antisynthetase syndrome), anti-PL-7 (PM/DM), anti-SUMO-1 (DM), anti-SRP (IMNM), anti-Zo (antisynthetase syndrome) が知られている (antisynthetase syndromeは抗Jo-1抗体など抗antisynthetase抗体陽性を示す疾患群)。DM, PM, IMNMの成人患者の 60~80%でいずれかの MSAが陽性となる。

・2011年、炎症性筋疾患を 6つの新しいクラスに分類することが提唱された。(1) immune myopathies with perimysial pathology, (2) myovasculopathies, (3) immune polymyopathies, (4) immune myopathies with endomysial pathology, (5) histiocytis inflammatory myopathy, (6) inflammatory myopathies with vacuoles, aggregates, and mitochondrial pathologyである。ただし、評価は定まっていない。

・International Myositis Assessment and Clinical Studies (IMACS) などが、現在新しい分類基準の作成を開始した。

・虚血が皮膚筋炎や多発筋炎の筋力低下に関与しているかもしれない。

・接着因子である KAL-1が皮膚筋炎の病態生理に重要な関与をしているという考え方が出てきた。免疫グロブリン大量投与で改善した患者では、この分子が有意に減少している。

・炎症性ミオパチーの遺伝的要因として、HLA-DRB1*0301は抗Jo-1抗体に関与している。アフリカ系アメリカ人では、HLA-DRB1*11:011は抗HMGCRに関与している。Caucasianでは、HLA-DRB1*0301は孤発性封入体筋炎に関与している。HLA-DRB4は保護効果があり、HLA-DRB1*0301のリスクをゼロにする。その他、いくつかの遺伝子多型も指摘されている。

・治療の第一選択はステロイドで、治療抵抗性やステロイドが使えない時、減量が困難なときなどに他の治療を考慮する。第二選択として、アザチオプリン、メソトレキセート、免疫グロブリン大量投与が一般的に用いられる。他には、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス、リツキシマブ、シクロスポリン、サイクロフォスファミドも用いる。ステロイド抵抗性の間質性肺炎では、ミコフェノール酸モフェチルやシクロスポリン、タクロリムスなどが有効である。アザチオプリンは効果発現に 4~8ヶ月かかり、1~2年でピークとなる。ミコフェノール酸モフェチルやシクロスポリンは 6ヶ月以内に効果があるが、毒性が強い。メソトレキセートは間質性肺炎の原因となるので、間質性肺炎を伴った筋炎や抗Jo-1抗体陽性患者では使用を避ける。重症の炎症性ミオパチーでは、アザチオプリンとメソトレキセートの併用が有効である。免疫グロブリン大量投与は前向きRCTを欠くが、単剤での治療で効果があり、ステロイドの使用を避けられることもある。リツキシマブは第三選択の扱いだが、エビデンスが蓄積しつつある。その他新薬として、アバタセプトは、第2相研究が行なわれている。アナキンラはパイロット研究が行なわれた。TNF阻害薬であるインフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブは有効性が示せなかった。シファリムマブは第2相試験が行なわれている。 ・エクササイズは安全であり、有効である。

・昔の研究では 5年生存率は 50%以下であったが、2012年の研究では 10年生存率が 62%だった。死因は心疾患 22%, 肺疾患 22%, 感染症 15%, 癌 11%だった。皮膚筋炎と多発筋炎患者の 20%が寛解し、5年以内にステロイドを離脱できた。

この論文を読んで疑問に思った点を、2月4日に電気生理学の師匠「はりやこいしかわ」先生と酒を飲んだ時に聞いたら、次のように教えてくれました。 ①著者は “Paraspinal muscles show the most prominent features on EMG examination and should be included routinely.” って書いていて、針筋電図ではルーチンに傍脊柱筋を検査すべきであると書いてあるけれどそうなのですか?

はりやこいしかわ先生: 皮膚筋炎や多発筋炎では、感度の良い筋とそうではない筋があって、傍脊柱筋は感度が良い筋の一つなので、好んで検査する医師もいる。でも、加齢の影響を受けやすい (偽陽性となりやすい) ので、僕はやってない。

②14%の患者では、筋生検をしても異常が検出できないことがあるって本当ですか?

はりやこいしかわ先生: そうだよ。針筋電図 positive, 筋病理 negativeってのはたまにある。

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A 40-Year-Old Woman with Difficulty Going Down Stairs in High-Heeled Shoes

By , 2015年2月4日 5:32 AM

Annals of Neurologyの -NEUROLOGY GRAND ROUNDS- に掲載されていた論文ですが、病歴から疾患を推測していくプロセスがロジカルで面白かったです。SCA3と飲酒の話は初耳でした。

A 40-Year-Old Woman with Difficulty Going Down Stairs in High-Heeled Shoes

症例はハイヒールで階段を降りるのが難しくなってきた 40歳台の女性です。Arnulf Koeppen医師は次のように推論を進めていきます。

・家族歴から、常染色体優性遺伝であることがわかる。

・失調のある父親から生まれて小児期に発症した者がいる。表現促進現象があることから、CAG  3塩基リピート病が疑わしい。そして、常染色体優性遺伝の失調症だと、脊髄小脳失調症 (SCA) ということになる。→調べる遺伝子を絞るために、もう少し診断を絞る必要がある。

・複視は SCA3で良く見られる。しかし、この症例ではかなり進行してから出現しているので、SCA3ではなさそう (余談だが、SCA3は少量の飲酒で症状が悪化するので、SCA3の大家系で 1杯ビールやワインを飲んだ後の歩行能力をチェックして、自分たちで診断した人たちがいたらしい)。

・OPCAの表現型を取るのは、SCA1, SCA2, SCA7, MSAである。

・Friedreich ataxiaで視力障害を来すことがあるが、劣性遺伝なので否定的。その他、視力障害を来す SCA7が本症例に合致する。

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多系統萎縮症

By , 2015年1月20日 6:06 AM

2015年1月15日、New England Journal of Medicineに多系統萎縮症の総説が掲載されていました。原因遺伝子に関する最新の知見が織り込まれ、病因や予後などについて、非常に見やすい図や表を用いて説明されていました。何よりも素晴らしかったのは、非運動症状に対する治療の記載が充実していたことです。実臨床に非常に役立つ論文だと思います。神経内科医は実際に呼んでおいた方が良いと思います。多分、若い神経内科医にとっては、専門医試験対策にもなるでしょう。内容を抜粋して紹介します (でも、特に関心があった部分は量が多くなってしまいました (^_^;))。

Multiple-System Atrophy

・疫学

10万人あたり 0.6~0.7人の平均発症率。パーキンソニズム型 (MSA-p) : 小脳型 (MSA-c)  = 2:1~4:1

・原因

不明。いくつか原因遺伝子が候補として報告されているが、別人種で調べると再現性がなかったりする。例えば、COQ2遺伝子 (コエンザイムQ10をコードする遺伝子) 変異は、日本では孤発性と家族性で報告があるが、北アメリカやヨーロッパでは検出されていない。α-synucleinの遺伝子多型が関連しているというヨーロッパの研究がある。

・病理学

オリーブ橋小脳萎縮や線条体萎縮、自律神経に関与する部位の変化が見られる。希突起神経膠細胞質内封入体 (oligodendroglial cytoplasmic inclusions, 別名 Papp-Lantos bodies) の存在が組織学的特徴である。頻度は低いが、希突起神経膠細胞核内、神経軸索内、神経細胞質内、神経核内封入体も見られる。膠細胞の細胞質内封入体 (glial cytoplasmic inclusions; GCI) の主要構成成分は、フォールディング異常を起こした α-synucleinである。そのため、多系統萎縮症は”oligodendroglial α-synucleinopathy” に分類される。一方で、パーキンソン病、レヴィー小体病、pure autonomic failureは、(膠細胞ではなく) 神経細胞内への α-synucleinの蓄積が特徴的である (レヴィー小体)。

・発症機序

よくわかっていないが、希突起神経膠細胞の障害 “oligodendrogliopathy” と推測されている。

ミエリンの安定化に重要な役割を果たしている p25αが、希突起神経膠細胞の細胞体にまず再局在する。p25αとα-synucleinの相互作用は、最初に不溶性オリゴマーの蓄積、後に膠細胞の細胞質内封入体となる α-synucleinのリン酸化と凝集を促進する。結果として、機能不全となった希突起神経膠細胞は細胞外スペースにミスフォールドした α-synucleinを放出する。こうして放出されたα-synucleinは、周囲の神経細胞に取り込まれ、神経細胞質内封入体を形成するかもしれない。そして α-synuclein封入体によって細胞死やアストログリアの増殖が起きている可能性がある。毒性を持ったα-synucleinは、脳内にプリオンのように広がっていくのかもしれない。 (figure 1)

・臨床所見

パーキンソン病と同じように、運動症状が出る前の前駆期が 20~75%にみられ、性機能障害、排尿障害、起立性低血圧、吸気性喘鳴、REM睡眠行動異常などである。

(1)運動症状

Parkinson病でみられるような静止時振戦はあまりみられず、不規則な姿勢時振戦、動作性振戦が 50%にみられる。線条体の変性のせいで、L-dopaは効果に乏しい。それにもかかわらず、初期には 40%の症例で L-dopaへの一過性の反応がみられる。

小脳型では小脳失調がみられる。痙性や錐体路症状があれば、診断が違うことを疑うべきであるが、腱反射亢進、Babinski反射は 30~50%の症例で見られるかもしれない。

腰曲がり、頸下がり、四肢のジストニアといった姿勢の異常が 16~42%にみられる。

(2)  非運動症状

初期の、そして重度の自律神経障害が重要な特徴である。具体的には、性機能障害 (男性では勃起障害、女性では性器の感度不良)、排尿障害、起立性低血圧 (臥位から立位になって 3分以内に収縮期 30 mmHgもしくは拡張期 15 mmHgの血圧低下が定義)、呼吸障害 (吸気時喘鳴、睡眠時無呼吸)、便秘、瞳孔異常、血管運動調節および体温調節障害がある。

認知症や幻視は通常みられないので、これらがみられた場合はレヴィー小体病の可能性を考えるべきである。一方で、前頭葉機能低下が 1/3の症例にみられる。感情失禁、性格変化などは起こりうる。50%くらいの症例で、動けないほどの痛みを訴える。(figure 2)

(3)予後

運動症状や非運動症状が 10年くらいの期間で絶え間なく進行していく。約 50%が運動症状出現後 3年以内に歩行に介助を要する。60%が 5年以内に車椅子を要する。寝たきりになるまでの平均期間は 6~8年である。死因は通常、気管支肺炎、尿路感染症からの敗血症、突然死である。突然死は、しばしば夜間に両側声門麻痺や、脳幹部の心肺調節機能の急性障害の結果として起こる。3年以内に急速に進行する症例や、良性で長期の経過をとる症例があるので、予後の推測は難しい。高齢発症、パーキンソニズム型、初期からの重度な自律神経症状は予後不良因子である。小脳型、進行してから自律神経症状が出現した場合は、進行が遅いと予想される。(figure 3)

・診断

診断基準を table 1、補助的な検査を table 2に示す。 (論文の表を参照)

・治療原則

(1) 運動症状

起立性低血圧、浮腫、吐気を最小限にするため、L-dopaは徐々に増量するべきである。一過性の L-dopaへの反応は 40%にみられる。反応不良例で L-dopaを中止すると、時に突然不可逆的な運動症状の悪化がみられることがある。そのため、副作用がなければ中止は推奨されない。ドパミンアゴニストは運動症状の改善がほとんどないが、L-dopa誘発性ジストニアの症例では試されるかもしれない。アマンタジン、NMDA受容体選択的阻害薬については議論がある。

小脳症状には特異的な治療法がない。ミオクローヌスや動作性振戦にはクロナゼパムが効くかもしれない。神経リハビリは、窒息や転倒を防ぎ、コミュニケーション能力を高める上で有用である。

(2) 非運動症状

排尿障害があれば、定期的に尿路感染症のスクリーニングをすべきである。

過活動性膀胱による切迫性尿失禁は、抗ムスカリン受容体薬で治療できるが、認知機能障害などの抗コリン作用はモニターしないといけない。薬物治療に抵抗性の場合、排尿筋へのボツリヌス治療が試されるかもしれない。夜尿症には、睡眠中に頭を 10~20°挙上したり、就寝前にデスモプレシンを投与すると改善する。残尿 100 ml以上の尿貯留は間欠的自己導尿が第一選択である。ただし、長期に渡ると尿道潰瘍を起こすことがあり、恥骨上に留置カテーテルが必要になるかもしれない。予備的な根拠だが、膀胱刺激装置が自己導尿の代わりになるという知見がある。尿貯留に対する補助的な薬物治療としては、膀胱収縮薬 (コリン作動性薬剤) や尿道括約筋弛緩薬 (α1アドレナリン受容体拮抗薬) を用いる。シルデナフィルは勃起障害を改善するが、副作用に起立性低血圧がある。女性の性機能障害に対して有効性を示したデータはない。

起立性低血圧は気付くように訓練し、急速な姿勢変化、満腹、咳や便でいきむこと、高い温度への暴露を避けるようにすべきである。もしふらつきを感じたら、足を組んだり、蹲踞をしたり、筋肉を緊張させたりといった手技で失神を防げるかもしれない。その他の非薬物療法として、水分や塩分を多くとる、睡眠中にベッドの頭部を高くする、弾性ストッキングや腹帯を巻くといった方法がある。

重度の起立性低血圧の場合、転倒のリスクを避けるため、薬物療法が勧められる。低血圧の副作用がある薬剤 (長時間作用型カルシウムチャネル拮抗薬、狭心症治療薬など) は避け、使うのであれば少なくとも夕方に投与すべきである。ミドドリンやドロキシドパは細動脈の緊張を高め、神経原性起立性低血圧に対して FDAから認可されている。認可はされていないがフルドロコルチゾンも有用で、血管内の水分ボリュームを増加させる。臥位での高血圧が副作用としてしばしばみられるので注意する。臥位高血圧では、日中横になることを避け、寝る前に間食をするとか、睡眠中に頭部を挙上することで、軽度の夜間高血圧は避けられるかもしれない。非薬物療法で改善しない場合は、就寝前の短時間作用型降圧薬を考慮する。食後低血圧を避けるためには、アルコールやドカ食いを避けるたり、水分やカフェインを摂取することが有効である。重篤な症例では、食前にカフェインや octreotide, acarboseの投与をすると良いかもしれない。

夜間の吸気性喘鳴や睡眠時無呼吸には、cPAPや biPAPが選択される。より重症の患者では、片側声帯内転筋へのボツリヌス注射が考慮されるかもしれない。気管切開は気道狭窄に有効で、両側声門外転筋麻痺による呼吸不全を防ぐが、致死性の睡眠時無呼吸による突然死のリスクは回避できない。

嚥下障害に伴う流涎は、glycopyrrolate内服や唾液腺へのボツリヌス毒素注射で軽減できる。

とろみや、嚥下時に顎を引いた姿勢も嚥下障害患者での窒息を避けるのに有効である。より進行した場合、胃瘻を行うことが認められているが、予め患者と良く話し合う必要がある。

便秘はとても治療が難しいことがある。

重度のレム睡眠行動異常では、クロナゼパムの少量投与が考慮されるが、夜間の喘鳴や睡眠時無呼吸を悪化させることがある。予備的な知見だが、メラトニンの内服は代わりになるかもしれない。

認知機能障害は通常治療を必要としないが、もし重度のうつやイライラ、感情失禁がある場合は、起立性低血圧や尿閉を悪化させないために、三環系抗うつ薬より SSRIが望ましい。

・疾患そのものに対する治療

神経保護効果が観察された前臨床試験と異なり、臨床試験でリルゾール、ミノサイクリン、リファンピシン、ラザギリンの効果は示せなかった。前臨床モデルは多系統萎縮症の病的な複雑さを反映していない、前臨床介入プロトコルは本質的にヒトを対象としたものと異なる、臨床試験でのエンドポイントの設定が不適切であるなどの可能性がその説明とされるかもしれない。

間葉系幹細胞を経動脈注射したプラセボ対象無作為試験があり、進行が抑制された。しかし、実薬群でもプラセボ群でも脳虚血病巣がみられた (無症候性だが、1例を除いて全例)。薬剤を投与する手技そのもので生じたのかもしれないが、幹細胞による脳卒中の可能性も除外できない。また、幹細胞がどのように働いているのかも現時点ではわかっていない。もし失われた神経細胞に置き換わっていないのであれば、神経栄養因子を放出しているとか、神経の炎症を弱めているのかもしれない。

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多発性硬化症と緯度の話

By , 2015年1月6日 6:52 AM

2014年12月号の Annals of Neurology誌に興味深い論文が掲載されていました。ごく簡単に紹介します。

Seasonal variation of relapse rate in multiple sclerosis is latitude dependent

多発性硬化症は高緯度地域に多いことが知られています。その原因はよくわかっていませんが、日光への暴露依存性ビタミンD代謝産物である血清 25-hydroxyvitamin D (25(OH)D) 濃度が関係しているのではないかと言われています。一方で、再発に季節性があるかどうかは、2000年の meta-analysisではあるとされたものの、研究によってばらつきがあります。

そこで、著者らは MSBase Restryという多発性硬化症のデータベースを用いて、これらについて調べました。

その結果、再発には、北半球南半球いずれも年間を通じた周期性があり、春に多く秋に少ないことがわかりました (Figure 1: ちなみに、北半球と南半球で再発した人数が大きく違うのは分母が違うためで、北半球は 8411名、南半球は 1400名のデータを解析しています)。この季節性変動は統計学的に有意であり、再発ピークは北半球で 3月7日、南半球で 9月5日でした。また、紫外線放射が最も低くなる時期と再発がピークとなる時期のタイムラグは、高緯度ほど短くなっていました。

著者らは、高緯度地域に住んでいる患者ほど年間を通じてビタミンDレベルが低く、冬になって紫外線放射が低下すると、25(OH)Dレベルやその他紫外線放射が介在した半減期の長い免疫調整効果が、早く閾値まで低下してしまうためではないかと推測しています。

 

Figure 1

Figure 1

この研究の Figure 1を見ると、多発性硬化症の再発にはっきりとした季節性変動があることがわかります。この季節性は、紫外線に依存するビタミンDが次のように関与していると考えられるようです。

冬になって紫外線低下→ビタミンDから紫外線依存性に合成される 25(OH)Dレベル低下→25(OH)Dレベルや紫外線が関与した免疫調整効果がある閾値を下回る→多発性硬化症再発

言われてみると、そうかなと思わされますが、まだ仮説の段階です。多発性硬化症とビタミン Dについては注目を集めている分野でもあり、今後の研究を待ちたいと思います。

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L-dopa

By , 2014年12月30日 10:34 AM

パーキンソン病の第一選択薬の L-dopaが臨床的に用いられるようになって約 50年ということで、Movement disorders誌で特集が組まれていました (2014年12月30日現在、early viewで読むことができます)。L-dopa開発において、歴史的に重要な 4名の研究者についての文献を紹介したあと、興味を持った論文にリンクを貼っておきます。

Four Pioneers of L-dopa Treatment: Arvid Carlsson, Oleh Hornykiewicz, George Cotzias, and Melvin Yahr

L-dopa治療の 4人のパイオニアについて。四人とも medical doctorであり、最初の 3人は薬理学のトレーニングを受け、研究も薬理学におけるものであった。4人目は臨床神経内科医である。

1. Arvid Carlsson
インドシャボクの根は、市場で寄生虫、下痢、精神病の治療薬として売られていた。Siddquiらは 1939年に降圧作用を報告し、それは Vakilにより確認された。1950年代初旬には、Ciba研究所がインドシャボクの根からレセルピン、ヨヒンビン、アジュマリンなど多くのアルカノイドを分離し、レセルピンを降圧薬 Serpasilとして販売した。レセルピンは統合失調症や躁うつ病のような精神疾患にも臨床研究が行なわれ、用いられるようになった。それらが一般的に用いられるようになってから時を経ず、自殺やパーキンソン病様症候群の報告が相次いだ。
Carlssonはレセルピンの鎮静作用に興味を持ち研究を始めた。彼はドパミンが脳内に十分な量存在し、それがレセルピンで著明に減少すること、ドーパが正常レベルまで回復させることを確認した。1957年にレボドパがレセルピンによる寡動を改善することを動物実験で示したのは、彼の最も重要な実験である。彼はドパミンが神経伝達物質であることを主張した。彼の元で学んでいた学生 Bertlerと Rosengrenはウサギの線条体に多量のドパミンが存在することを示した。Carlssonは 2002年にノーベル賞を受賞した。

2. Oleh Hornykiewicz
Hornykiewiczは医学部卒業後、薬理学の研究に向かった。彼は Carlssonらの研究に刺激を受け、パーキンソン病患者のドパミンレベルを研究した。彼は遺体の脳を得て、パーキンソン病患者の線条体ではドパミンが著明に減少していることを 1960年に報告した。彼はパーキンソン病患者の重症度と、線条体のドパミン消失の程度が相関することを報告した。1960年11月に Hornykiewicsは内科医の Walther Birkmayerに連絡を取り、Hoffmann La Rocheから提供された L-dopaを投与する研究を1961年7月から開始することにした。Birkmayerは L-dopa 50~150 mgを生理食塩水に溶解し、パーキンソン病及び脳炎後パーキンソニズムのボランティア 20名に投与した。結果は印象的であり、Birkmayerと Hornykiewiczは、後に次のように書き残している。
「L-dopaの単回静脈内投与で無動は完全に消失するか、大幅に改善した。起き上がることのできなかった寝たきりの患者、座った時に立てなかった患者、立った時に歩けなかった患者が、L-dopaを投与すると楽に出来るようになった。彼らは正常な動きで歩きまわり、走ったりジャンプしたりさえ出来た。小声でよく聞き取れない発語は、正常者のように力強く明瞭になった。短時間の間、彼らは運動をすることができたが、これは他のどのような薬剤でも出来なかったことである。」
L-dopaは初回量から効果があり、寡動に対する効果は 3~24時間継続したと報告された。振戦や筋強剛に対する効果は明らかではなかった。MAO阻害薬 isocarboxazidの前投与で、抗無動効果は延長した。これらは最終的に、遺体の脳における線条体のドパミン欠乏の報告の 11ヶ月後に報告された。
その後、Rudolf Degkwitzもレセルピンによるパーキンソニズムに対する L-dopaの効果を報告し、ほぼ同じ時期に Barbeau, Sourkes, Murphyが L-dopa 100~200 mg経口投与 2時間後の筋強剛が改善すること、D-dopaでは改善しないことを報告した。
2000年に Arvid Carlsson, Paul Greengard, Erick Kandelにノーベル賞が贈られた後、250名以上の著名な科学者が Hornykiewiczが外れていることについてノーベル賞委員会に公開質問状を送った。

3. Geroge C. Cotzias
1966年に George Cotziasはパーキンソニズムのある患者に、最初は D, L-dopaを、最終的に L-dopaを漸増して経口投与した。この実験は、D, L-dopaの 2時間毎の内服を少量で開始し、数週間かけて認容可能な上限まで漸増することで、患者の運動症状や障害の改善に著明な効果がある、という素晴らしい結果に終わった。結果は 1967年の New England Journal of Medicineに掲載された。Nutritional Biochemicals Corporationは、 D-dopaは毒性がラセミ体混合物 (D-dopaとL-dopa)の 50%だが、治療効果がないことを発見した。D-dopaに効果がないのであれば L-dopaのみとすることで投与量を半分にすることができ、その分副作用を軽減させることができる。Cotziasらは、パーキンソン病における L-dopaの長期治療効果を発表した。これらの発見により、1970年に FDAは L-dopaをパーキンソン病の治療薬として承認した。Guggenheimがこのアミノ酸を空豆から分離した約 60年後のことであった。
ちなみに、この研究は試行錯誤の末に生まれたもので、パーキンソン病患者の黒質緻密部ではメラニンを欠くので、それを補充しようとして beta melanophre-stimulating hormoneを投与して、患者の皮膚が黒くなった失敗もあった。
1963年に Bartholiniらが Ro 4-4602が少量で末梢でのドーパ脱炭酸酵素を選択的に阻害し、それをドパミン前駆体 L-dopaと共に投与することでドーパの脳への移行を高めることを見出していた。Corziasらは、alpha-methyldopa hydrazine (carbidopa) を 1968年に使い始めた。Alpha-methyldopa hydrazineを併用することで、症状をコントロールするための L-dopaは少量でよく、効果発現も早く、心血管や胃腸への副作用も少なかった。しかし、L-dopa誘発性低血圧、不随意運動、精神症状には効果がなかった。1972年の Corzias の New England Journal of Medicine論文 “Levodopa in Parkinsonism: potentiation of central effects with peripheral inhibitor” により、L-dopaを末梢ドーパ脱炭酸酵素阻害薬と併用することが一般的になり、現在でもそうされている。彼は L-dopaの効果を高めるため、末梢組織で O-methyltransferase を阻害することも提唱し、現在使用されている Catechol-O-Methyl transferase阻害薬が開発されることとなった。
Cotziasらはまた、L-dopa誘発ジストニアの最初の報告をしている。彼らは L-dopaをやめるとジスキネジアが消失し、再導入するとまた出現することを見出した。
Cotziasらは、apomorphineの研究も行い、その数年後の apomorphine皮下注射製剤開発につながった。この製剤を通じて、Cotziasは最初の経口 apomorphine、ついで N-propylnoraporphineの研究を行うようになった。
Cotziasは James Ginosと共に、合成ドパミンと同じようにドパミン受容体に作用するドパミン類似物を研究した。これらの研究は、別の研究者による piribedilや bromocriptine、その他のドパミンアゴニストの開発につながった。

4. Melvin D. Yahr
Yahrはモンテフィオーレ病院の Houston Merrittのもとで神経学を学んだ。そしてMerrittがコロンビア大学の神経内科部門の責任者になったとき、Yahrはそれに加わった。Yahrがコロンビア大学で fellowshipプログラムを始めたときの臨床 fellowが Margaret Hoehnで、Hoehnはコロンビア大学で治療を受けているパーキンソン病患者数百人の臨床データの評価を命じられた。Hoehnと Yahrは L-dopa前時代におけるパーキンソン病患者の自然経過と死亡率を記載した。その論文で彼らが紹介した、パーキンソン病のステージ分類である Hoehn-Yahr scaleは、今日でも広く使用されている。
Yahrは Ehringerと Hornykiewiczによるパーキンソン病患者での線条体ドパミンレベルの低下について、また Birkmayerと Hornykiewiczによる L-dopa投与でのパーキンソン病患者の劇的な改善についての報告を知っていた。しかし、効果が無いという報告も複数あるなど、L-dopaの効果については意見が分かれていた。Cotziasらが 1967年に報告した研究は、印象的な抗パーキンソン病効果を示したが、D, L-dopaを 4-18 g/day内服するなど高用量であり、吐気や血液学的異常やアテトーシスなどの副作用のある治療レジメンであった。この結果にも関わらず、Yahrは自分の目で確認するまでは懐疑的であり続け、その後 L-dopaに対する治療の潜在的な重要性を確信するようになった。Cotziasらの研究はオープンラベル試験であり、Yahrはその限界に良く気付いていて、プラセボ効果や効果判定へのバイアスがあるのではないかと思った。この問題を解決するために、Yahrは二重盲検法プラセボ対象前向き臨床試験を行うことにした (※パーキンソン病における最初のプラセボ対照試験)。この試験では、60名のパーキンソン病患者 (56名の特発性パーキンソン病患者と 4名の症候性パーキンソニズム) が4~12週間入院し、プラセボないしはプラセボ+L-dopaを投与量毎に毎日 5~10錠内服した。その後、プラセボ錠は、至適効果が得られるまで 24~48時間毎に 0.5 gの L-dopaに置き換えられた。患者は、L-dopaは総量 8 g/日、もしくは認容できない副作用が生じるまでの量を内服した。治療効果のあった 9名のサブグループでは、L-dopaが急に中止されてプラセボに置き換えられた。入院中、患者は各種評価を受けた。また、退院後、4~12ヶ月間外来でフォローされた。
この研究では、49名 (81%) が二重盲検期間中に著明な治療効果を経験し、4名を除く全員 (91%) が 4ヶ月の治療で少なくとも 20%の改善を認めた (平均 59%の改善)。改善は、パーキンソン病の全ての運動症状に及んだ。治療効果は治療約 2~3週間後に投与量が 5 g/日となったところで始まり、投与量、治療期間と共に増した。L-dopaからプラセボに置き換えられて約 2日間で治療効果は消失した。吐気、嘔吐、不整脈、低血圧が主な急性期の副作用であったが、これらは通常自然に消失した。対照的に、慢性的な治療は 37名に不随意運動を引き起こした。著者らは、L-dopaはパーキンソン病に対して効果的であり、それまで行なわれていた他のどんな内服治療や手術療法にも優ると結論づけた (Yahr MD, Duvoisin RC, Schear MJ, Barrett RE, Hoehn MM. Treatment of parkinsonism with levodopa. Arch Neurol 1969;21:343-354)。
こうして、L-dopaの時代が到来した。臨床医は、Cotziasの 1967年と 1969年の報告、Yahrの 1969年の報告を元に、パーキンソン病の治療に L-dopaを使い始めた。数年以内に、ほとんどの患者が L-dopa治療を受けるようになり、現在世界で数百万人のパーキンソン病患者がこの治療の恩恵を受けている。

L-dopa開発の歴史は、朧気ながらどこかで読んだことがありましたが、このように詳しく読むのは初めてだったので、勉強になりました。Yahrの業績は、Hoehn-Yahr scaleくらいしか知りませんでしたが、この時代にきちんとしたデザインの臨床試験を組んで薬剤の評価をしていたのは素晴らしいことだと思います。

(以下、その他に興味を持った論文)

Mortality in Parkinson’s disease: A 38-Year Follow-up Study
38年間のフォローアップで、パーキンソン病の標準化死亡比は 2.02であった。死因は肺炎、脳血管障害、心血管病が多く、SMRsはそれぞれ 3.55, 1.84, 1.58であった。

Behavioral Effects of Levodopa
近年、L-dopa誘発性行動障害が問題になっている。そのスペクトラムに含まれる、非運動症状の日内変動の神経心理学的側面、反復常同行動、ドパミン調節障害、精神症状と幻覚、軽躁/躁、衝動制御障害についての総説。

Clinical Spectrum of Levodopa-Induced Complication
L-dopaの副作用についての総説。レボドパ誘発性合併症の危険因子、臨床像 (motor fluctuations (wearing-off, sudden offs, dose failure, on-off fluctuations), Levodopa-induced dyskinesia (high-dose dyskinesia, chorea, dystonia, myoclonus, ocular dyskinesia, respiratory dyskinesia), low-dose dyskinesia (off-period dystonia, diphasic dyskinesia), non-motor fluctuations (autonomic symptoms, sensory symptoms))。

Levodopa: Effect on Cell Death and Natural History of Parkinson’s Disease
L-dopaに神経毒性があり、神経変性や臨床症状を促進するのではないかという議論が昔からなされている。確かに in vitroでは L-dopaは神経細胞の変性を引き起こすが、パーキンソン病患者の脳で同じことを起こすかどうかはわかっていない。In vivoにおいては、L-dopaがパーキンソン病動物モデルのドパミン作動性神経へ毒性を持つという結果は観察されていない。しかしながら、これらの動物モデルはパーキンソン病を忠実に再現したものではない。臨床試験では、毒性を示唆するいかなる所見も得られていないが、薬剤の効果が進行している神経変性をマスクしている可能性がある。さらに画像検査において、L-dopaではプラセボやドパミンアゴニストと比較して、ドパミン作動性の機能が大きく低下することが知られており、毒性があるという考えに合致する (ELLDOPA trial) (ただし、受容体のダウンレギュレーションを見ている可能性は否定出来ない)。病理学的には、L-dopaがドパミン作動性神経細胞の脱落を促進するという事実は知られていないが、バイアスを排除したきちんとした試験デザインにより得られた所見ではない。このように、L-dopaに毒性がないという確固たる根拠はないのが現状である。従って、臨床医は (その有用性のため) L-dopaを継続することが推奨されるものの、臨床的に満足にコントロールできる最小の量を用いられるべきである。

The medical treatment of Parkinson disease from James Parkinson to George Cotzias
Parkinson病の治療法開発の歴史。

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