Category: 医学と医療

前頭側頭葉変性症

By , 2015年4月9日 6:27 AM

2015年3月19日の New England Journal of Medicine (NEJM) の MGH case recordsが、前頭側頭葉変性症 (FTLD) でした。

Case 9-2015 — A 31-Year-Old Man with Personality Changes and Progressive Neurologic Decline

認知症の診断を進める際の基本的事項と、前頭側頭型認知症について良く纏まっていました。

・初発症状から、最初に脳のどの部位が侵されたかわかる。症状や、脳のどの部位が侵されたかを調べれば、病因が推測できる。

・認知症の鑑別として、うつ病、統合失調症、Creutzfeldt-Jakob病、貧血、ビタミンB12欠乏、甲状腺機能異常、肝障害、腎障害、梅毒、感染症 (Lyme病など), Huntington病、Wilson病、脂質代謝異常症、他の晩発性先天性代謝異常症、白質変性症などが挙げられる。

・前頭側頭型認知症が左脳から発症するときは、原発性進行性失語症を呈する。右脳から発症するときは、精神症状を呈する (behavior variant; 行動型)。”disinhibition”, “apathy”, “loss of sympathy and empathy”, “repetitive behaviors”, “hyperorality”, “loss of executive function” のうち、3つの症状が存在すれば、前頭側頭型認知症の疑い診断を下すことができる。

・前頭側頭型認知症のほとんどは孤発性だが、 10~15%に常染色体優性遺伝を示すものがある。

・前頭側頭型認知症の 3つのサブタイプは、tau, TDP-43, FUSという 3つタイプの封入体に基づく。

・Tauは、しばしばパーキンソニズムを合併するが、ALSは合併しない。一方で、TDP-43や FUSは前頭側頭型認知症と ALSをより合併しやすい。

・Pick病は Tau病理 (tau-3R) を呈する。典型的には 50~70歳代に発症し緩徐に進行する。稀に家族性である。

・前頭側頭型認知症のいくつかの型が、progranulin遺伝子変異と運動ニューロン疾患を伴うものを含め、TDP-43と関連している。前頭側頭型認知症行動型の TDP-43サブタイプは一般的である。発症は通常 70歳代始めである。

・前頭側頭型認知症と ALSで家族性のものはしばしば C9ORF72の 6塩基反復による。この型は、TDP43 type Bと関連している。カリフォルニア大学で治療された常染色体優性の前頭側頭型認知症の 53%にこの変異がみられた。この変異の患者では、前頭側頭型認知症より ALSが一般的で、通常 MAPT変異や progranulin変異の患者より高齢発症である。MAPT変異は浸透率が高い。

・FUSサブタイプは、前頭側頭型認知症の約 5%程度である。FUS変異は、前頭側頭型認知症よりも ALSを発症しやすい。若くして発症する前頭側頭型認知症はしばしば FUSサブタイプである。発症は 30~40歳代で、30%に精神病を合併する。

この論文の症例が前頭側頭型認知症であることは、神経内科医であればひと目と思いますが、表現型から遺伝子を考察していくプロセスが、(それが的中するかどうかは別として) とても勉強になりました。また、論文中に “sagging brain syndrome” という用語が登場しましたが、初耳だったので押さえて置こうと思います。

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Tauroursodeoxycholic acid

By , 2015年4月2日 6:14 AM

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の新規治療薬 Tauroursodeoxycholic acid (タウロウルソデオキシコール酸, TUDCA) のパイロット研究の結果が、European Journal of Neurology誌に掲載されました (2015年2月9日 published online)。ウルソデオキシコール酸 (商品名 ウルソ) は胆汁うっ滞、肝機能障害の治療で良く用いますが、タウロ・ウルソデオキシコール酸の名前は初めて聞きました。肝臓で産生される親水性の胆汁酸で、脂肪肝の治療に用いられる薬剤なのだそうです。細胞保護や抗アポトーシス作用があるそうです。

Tauroursodeoxycholic acid in the treatment of patients with amyotrophic lateral sclerosis.

リルゾールを内服中の 34名の ALS患者に、TCDUAないしは プラセボを上乗せした。3ヶ月後に評価し、一次アウトカムは ALSFRS-Rスコアのスロープの 15%以上改善、二次アウトカムは群間比較 (ALSFRS-Rスコア、ALSFRS-Rスコアの線形回帰スロープ、有害事象) とした。両群間の有害事象に差はなく、効果があったのは、TUDCA 87%, プラセボ 43% (P=0.021) だった。ベースラインを調整した試験終了時の ALSFRS-Rは、TUDCA群で有意に高かった (p=0.007)。線形回帰スロープでは、TUDCA群の方が有意に進行が遅かった (P<0.01)。

この結果だけ見るとかなり期待が持てそうですが、まだパイロット研究の段階に過ぎないので、この知見を基に今後の臨床研究につなげていく必要があります。ちなみに、このパイロット研究は、Nature Reviewsでも紹介されているようです。

TUDCA shows early promise for the treatment of amyotrophic lateral sclerosis

ALSの新規治療薬の話題でもう一つ。チロシンキナーゼ阻害薬 Masitinib (マシチニブ) の第三相試験が現在行なわれており、FDAから希少疾患薬の指定 (Orphan Drug Designation) を受けたそうです。

AB Science: Masitinib Receives Orphan Drug Designation for Amyotrophic Lateral Sclerosis from FDA

良い結果が出て欲しいですね。Masitinibは、ネットで検索すると犬や猫の肥満細胞腫でも用いられている薬剤のようで、薬というのは一見関係なさそうに見える疾患で効果が期待されたりするのが面白いところです。関係なさそうな疾患で効果があった事例としては、パーキンソン病に対する抗てんかん薬ゾニサミド、びまん性汎細気管支炎に対するマクロライド系抗菌薬など、枚挙に暇がありません。

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音楽大学生における音楽家のジストニアの実態調査

By , 2015年4月1日 6:10 AM

ロベルト・シューマンがピアニストの道を諦め、作曲家になったのは「音楽家のジストニア」のためだったと言われています。現代だと、レオン・フライシャー が有名ですね。

海外のデータでは、音楽家の数% (約 1~5%) が罹患し、その半数が演奏家の道を諦めるといわれています。早期の治療開始が重要なのですが、この疾患が比較的良く知られているヨーロッパですら、音楽家のジストニアを正しく診断できたのは整形外科医 7.2%, 神経内科医 70.2%, 一般医 3.2%だったという報告があります。患者側、医療関係者側双方に啓蒙活動が必要ですね。ちなみに、現在ではリハビリを中心とした治療法が発達しつつあり、以前と比べるとかなり予後が改善してきているようです。

さて、今回臨床神経学 55巻 4号に掲載された論文。日本でも音楽家におけるジストニアの有病率は海外とほぼ同じということが明らかにされました。ヨーロッパと比べて「音楽家のジストニア」の知名度が低い日本で、こういう情報を発信していくことは、とても重要なことだと思います。

音楽大学生における音楽家のジストニアの実態調査

(概要) 日本での音楽家のジストニアについての調査。音大生 580名にアンケート用紙を送り、有効回答率 97.9%であった。本調査では「音楽家のジストニア」との疾患を認識している学生は対象者の 29%であった.また 1.25%の学生にジストニアの経験があることが示された.

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ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2015

By , 2015年3月25日 8:42 AM

毎年参加している、米国内科学会日本支部年次総会まで後 2ヶ月となり、事前登録しました。

ACP (米国内科学会) 日本支部 年次総会 2015

A Paradigm Shift in Internal Medicine:From Diagnosis / Treatment to Prevention

内科のパラダイムシフト – 診断・治療から予防

今年は下記の講演を申し込みました。製薬会社がスポンサーについていない会ため多少費用はかかりますが、学問的な話が利害関係で歪められるリスクが少なく、好感が持てます。

講師の中に数名知り合いがおり、一緒に飲む約束をしていて、そちらも楽しみです。

非常に勉強になる会なので、興味のある方は、是非登録を。

<セッション等事前登録>
5月30日
10:00–11:30 1-1-1 第1会場 明日から外来・ 病棟で実践できる エビデンスに基づく 成人の予防医療(八重樫 牧人)  (2,000円)
11:45–12:45 1-4-2LS 第4会場 (昼食付) Antimicrobial stewardshipと感染症診療(細川 直登)  (3,000円)
13:00–14:30 1-1-3 第1会場 最新論文30選2015年度版:忙しいあなたのために(平岡 栄治)  (2,000円)
19:00–20:30 レセプション  (7,000円)
5月31日
10:00–11:30 2-2-1 第2会場 ACP臨床研究WSシリーズ 3「論文執筆に活かせるFIRM2NESSチェック」(福原 俊一・栗田 宜明)  (2,000円)
12:15–13:15 2-6-2LS (昼食付) 第6会場 がんの予防・検診のエビデンスはどれだけあるのでしょうか?(勝俣 範之)  (3,000円)
13:30–15:00 2-3-3 第3会場 Medical eponyms for clinician(清田 雅智)  (2,000円)

ちなみに、私が 2013年、2014年に参加したときに聴いた講演の内容は下記になります。

ACP日本支部年次総会 2013

ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2014

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頭内爆発音症候群 (exploding head syndrome)

By , 2015年3月23日 5:47 PM

仕事の合間に、図書館で国内の医学雑誌をパラパラ眺めていたら、2010年1月号の Brain Nerve誌に、面白い症例報告が載っていました。その名も、「頭内爆発音症候群」。「夜間、うとうとしている際に頭の中で急激な爆発音を感じるもしくは頭蓋内で爆発が起こった感覚を持つという病態」なのだそうです。非常に稀らしく、病因は不明であるものの片頭痛との関連が示唆されているそうです。世の中には、まだまだ知らない病気がたくさんあるんだなぁ・・・と思った次第でした。

以下、診断基準を引用。

Diagnostic criteria of exploding head syndrome ICSD, 2nd edition (AASM)

A. The patient complains of a sudden loud noise or sense of explosion in the head either at wake-sleep transition or upon waking during the night.

B. The experience is not associated with significant pain complaints.

C. The patient rouses immediately after the event, usually with a sense of fright.

Note: In a minority of cases, a flash light or myoclonic-jerk may accompany the event.

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アスピリン、NSAIDsと結腸直腸癌リスク

By , 2015年3月22日 12:48 AM

以前、アスピリンの癌予防効果について書きました。2015年3月17日の JAMAに、そのテーマで遺伝学的なアプローチをした論文が掲載されました。遺伝子多型により、癌予防の恩恵を強く受ける人と、恩恵があまりない人、逆にリスクが増加してしまう人がいるようです。

Association of Aspirin and NSAID Use With Risk of Colorectal Cancer According to Genetic Variants

アスピリンや NSAIDsの常用は、常用しない場合と比較して、結腸直腸癌のリスク低下に関連していた (有病率 28% vs 38%, オッズ比 0.69)。

rs2965667 TT genotypeを持つ人びとでは、アスピリンや NSAIDsにより結腸直腸癌のリスク低下がみられた (有病率 28% vs 38%, オッズ比 0.66) が、稀 (4%) なTAあるいは AA genotypeを持つ人びとでは、結腸直腸癌のリスク上昇がみられた (有病率 35% vs 29%, オッズ比 1.89倍)。

rs16973225 AA genotypeを持つ人びとでは、結腸直腸癌のリスク低下がみられた (有病率 28% vs 38%, オッズ比 0.66)。しかし、より頻度の少ない (9%) ACあるいは CC genotypeを持つ人びとでは、リスクとの相関はなかった (有病率 36% vs 39%, オッズ比 0.97)。

このように、アスピリンや NSAIDsの結腸直腸癌に対するリスク減少は、rs2965667 (chromosome 12p12.3) や 16973225 (chromosome 15q25.2) 遺伝子多型の影響を受けるようです。将来、こういう遺伝子多型をチェックしてから薬の選択をする時代がくるのでしょうか。

ちなみに、先行研究では、PIK3CA変異があると、アスピリンの恩恵をうけやすいことが示されているそうです。

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脳梗塞発症 3-4.5時間における rt-PA療法

By , 2015年3月19日 7:43 AM

2015年3月17日の British Medical Journal (BMJ) に興味深い論文が掲載されていました。

Thrombolysis in acute ischaemic stroke: time for a rethink?

脳梗塞に対する血栓溶解療法 (rt-PA) は、最初に 3時間以内で認可され、後に 4.5時間以内に拡大された経緯があります。現在、日本アメリカ AHA/ASAのガイドラインでは、発症 4.5時間以内の血栓溶解療法を強く推奨しています。ところが、発症 3-4.5時間での rt-PA療法については未だに議論があるところで、ガイドラインによっては、弱い推奨だったり、通常考慮すべきではないという扱いだったりするようです。

この BMJ論文では、発症 3-4.5時間での rt-PA療法の安全性や有効性について再検討しています。まず、「強く推奨する」AHA/ASAガイドラインの根拠になった ECASS-IIIはベースラインの群間の違いがバイアスを生んでいるのではないかという意見があります。また、AHA/ASAガイドラインでは、IST-3について言及していますが、そのトライアルの 3-4.5時間でのデータについては言及していません。著者らが発症 3-4.5時間での rt-PA療法についてサブグループ解析をしてみると、信頼区間 95%で機能予後悪化は Odds比 0.76, NNH 16でした。また、2014年の meta-analysisについては、機能予後を改善するという結果を信用するには問題点が多く、一方で致死的な脳出血などの害は確実に存在するとしています (NNH 44)。

このように、脳梗塞発症 3-4.5時間以内における rt-PA療法については未だに難しい問題を孕んでおり、臨床医にとって「ガイドラインに書いてあるからやればいい」という単純な問題ではないことがよくわかります。大事なのは、発症 3時間以内であれば可能な限り早く血栓溶解療法を開始すること、3-4.5時間については議論があることを前提に適応を検討する、ということなのでしょうね。

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髄液検査とマスク

By , 2015年3月12日 7:28 AM

髄液検査をするとき、検査を行う医師のマスク着用は基本です。マスクを着用しなかったことによる、医原性髄膜炎が複数報告されているそうです。詳しくは、下記ブログ記事と、そこに紹介された論文リンクを御覧ください。

医療者の口や鼻からの感染予防

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レジデントのための感染症診療マニュアル

By , 2015年3月5日 7:36 AM

「レジデントのための感染症診療マニュアル」といえば、知らない医師がいない程の名著です。日本語で読める感染症診療の本としては、最も有名な本だと思います。

私が医師になったばかりの頃は、第1版が売られており、それを読んで感染症診療の原則を学びました。当時臨床病理学教室におられた先生が、この本を持って血液培養陽性患者のラウンドをされていたのが記憶に残っています。その後、2007年に第2版が出版され、すぐに購入しました。

そして、2月25日に医学界新聞から気になるツイートが・・・。

ついに第3版が出るようです。

先月 Amazonをチェックしたときは見当たらなかったのですが、昨日 Facebookで知人が第3版を予約できることを書き込みされていました。これは即予約ですね。

レジデントのための感染症診療マニュアル 第3版

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Neurological complications of cardiac surgery

By , 2015年2月24日 10:06 PM

心臓血管外科のある病院で働いていると、心臓手術の合併症としての脳梗塞に遭遇することがたまにあります。脳卒中自体は普段の診療で慣れていても、心臓手術に合併した脳卒中について勉強したことはありませんでした。2014年4月2日に Published onlineとなった Lancet neurologyの総説がよく纏まっています。

Neurological complications of cardiac surgery

・Management of perioperative risk for ischemic stroke

<Assessment of risk (stroke)>

周術期の脳卒中リスクは、①弁置換 (短期間のリスク) 大動脈弁 4.8%, 僧帽弁 8.8%, 複数弁 9.7%, ②CABG CABG単独 3.8%, CABG+弁手術 7.4%, CABG後脳卒中 1-5% (ただし糖尿病があると 5年間で 5.2%)

<Planning of interventions for coronary artery disease: CABG versus PCI>

CABGと PCIの合併症を比較した 3つの臨床試験がある。

①SYNTAX trial (3-vessel disease or left main disease): 脳卒中は CABG>PCI (drug-eluting stent), 心血管+脳血管イベントは PCI (drug-eluting stent)>CABG

②FREEDOM trial (diabetes and multivessel coronary disease): 脳卒中 CABG (5.2%)>PCI (2.4%),5年後のエンドポイントにおける死亡・脳卒中・心筋梗塞は PCI>CABG

③ASCENT study: 4年間の死亡率 PCI>CABG, 脳卒中は不明

→Meta-analysis: benefitは CABG>PCI, ただし個々の症例に応じて判断されるべき

<Off-pump surgery versus cardiopulmonary bypass>

手術 30日後の脳卒中や死亡は、on-pump=off-pump (systematic review)

そのほかいくつかの研究で、 stroke rate, neurocognitive outcome, composite outcome (mortality含む) で on-pumpと off-pumpの差はない。

→人工心肺そのものは stroke riskではない

<Pharmacological therapies to reduce risk>

心臓手術では、術前か術後 6ヶ月以内にアスピリンを開始するのが一般的。Revascularisationの 48時間以内にアスピリンを開始した場合、周術期の stroke riskは 2.6%→1.3%に低下する。

2013年の meta-analysisでは、CABGに対する statinの使用は、心房細動、病院滞在期間、stroke, 死亡を減少する (2012年の Cochrane reviewではstroke, 死亡は減少しない)。

→周術期の strokeと非神経的学的合併症を減らすためstatinを投与すべき (class 1, level A)

<Atrial fibrillation>

CABG後、約半数の患者に心房細動が起こる (術後 2日目が最も多い, 2011ACCF/AHA Guideline)。術前の心房細動は、術後早期と晩期の stroke riskとなる。術後心房細動は、術後晩期の stroke riskとなる。

心房細動予防には、posterior pericardiotomyや薬物治療などがある。β-blockerが class I, level Bであり、amiodaroneが第二選択である。Metoprorol, sotalol, magnesium, amiodarone, statin, atrial pacing, posterior pericardiotomyは全て心房細動を減らすが、strokeは減らさない。

その他、左心耳に対する様々な実験的アプローチが行なわれている。

<Occlusive cerebrovascular disease>

脳動脈硬化の合併は心臓手術患者の脳卒中リスクを上げる。頸動脈の 50-99%狭窄もしくは閉塞があると、周術期脳卒中リスクは 7.4%になる (meta-analysis)。そのうち、症候性もしくは頸動脈閉塞を除くと脳卒中リスクは 3.8%になる。

2011ACCF/AHA guidelineでは、頸動脈狭窄患者への術前の総合的評価 (class I, level C)、ハイリスク患者への頸動脈超音波検査 (class IIa, level C)、症候性頸動脈疾患患者に対する頸動脈及び冠動脈血行再建術の組み合わせ (class IIa, level C) を推奨している。脳卒中の既往がない両側高度狭窄、もしくは片側の高度狭窄と対側の閉塞がある無症候性患者は、頸動脈血行再建術を考慮されるかもしれない (class II, level C)。

<Aortic valve surgery>

経カテーテル的大動脈弁置換術と開胸大動脈弁置換術比較した PARTNER trialが行われた。死亡率は約25% (1 year), 35% (2 year) だった。

all TIA/stroke (2 year) 経カテーテル的大動脈弁置換術 11.2%, 開胸大動脈弁置換術 6.5%

only stroke (1 year) 経カテーテル的大動脈弁置換術 6.0%, 開胸大動脈弁置換術 3.2%

・Intraoperative management to minimize stroke

<Optimisation of blood pressure>

術中の平均動脈圧を 80 mmHg以上に保つと神経学的合併症の減らせるかもしれない。

<Intraoperative cerebral monitoring>

持続的に脳血流をモニタリングすることはできないので、さまざまなもので代用されている。脳波は広範にモニターできるが、局所の虚血を検出できないのと、術中の低体温の影響を受ける。脳波の他には、近赤外線分光法などの方法がある。

<Hypothermic versus normothermic cardiopulmonary>

人工心肺中の低体温療法による脳卒中予防効果は証明されていない。急速な復温は脳損傷のリスクになるかもしれないので、緩徐な復温が推奨される。

<Transoesophageal echocardiography and epiaortic ultrasound>

経大動脈壁エコーは、徒手触診法や経食道心臓超音波検査より動脈硬化の評価に有用である。経大動脈壁エコーは、大動脈のアテローマを検出する直感的方法として class II, level Bとされているが、神経学的予後を改善するかどうかの研究はほとんど行なわれていない。

<Neuraxial analgesia>

硬膜外麻酔は、心臓手術中の上室性不整脈や呼吸器合併症を減らすが、神経認知的合併症を減らさなかった (meta-analysis)。最も大きなRCTでは効果を示せなかった。結局、人工心肺中に高用量のヘパリンを用いる心臓手術では血腫形成のリスクもあり、稀にしか用いられない。

<Haemodilution and transfusion>

かつては輸血による合併症の防止の為、極端な術中血液希釈 (Hct<18%) が行なわれていたが、脳卒中や術後認知機能障害が増加したので一般的には行なわれなくなった。

TRACS trialでは、Hct 24%以上と 30%以上での神経学的合併症は有意差がなかった。胸部外科学会のガイドラインでは、人工心肺使用時ヘモグロビン 6 g/dl以上、術後ヘモグロビン 7 g/dl、臨床的な必要に応じて個別に調整して用いるように推奨している。

<Glycaemic control>

術中の高血糖は脳卒中を含む予後不良と相関する。ただし、術中の厳格な血糖コントロールが神経学的な予後を改善するわけではなく、低血糖や死亡率が増えるので、術中術後の血糖値はせいぜい 9.99 mmol/l以下で維持することが推奨される。

・Treatment of acute ischemic stroke in the perioperative setting

Strokeガイドラインは、大手術から 14日以内の全身性血栓溶解療法 (アルテプラーゼなど) を認めていない。

<Clot or embolus extraction>

血栓除去機器は、Merci Retriever, Penumbra System, Trevo, Provue Retriever, Solitaire Deviceが FDAから認可されている。これらの治療は発症から 8時間以内に遂行されなければならない。SWIFT trialの結果、Solitaire stent retrieverは helical Merci deviceよりも血栓除去や神経学的予後において優れていた。また、TREVO2 studyでは、Trevo Pro stentは Merci retrieverよりも再開通率が優れていた。Stent retriever deviceは helical deviceより優れているようだ。

血栓除去療法では全身麻酔が好んで用いられるが、急性期脳梗塞治療時の全身麻酔は予後悪化と関連している。これはおそらく脳還流低下 (収縮期血圧 140 mmHg未満) によるものかもしれない。

・Therapeutic hypothermia for global hypoxic-ischaemic cerebral injury

人工心肺や急性期脳梗塞での低体温療法では証明されていないが、院外心肺停止後での治療には強いエビデンスがある。多くの施設では深部体温 32-34℃, 24時間を目標にしている。33℃の低体温と 36℃での通常温管理では、死亡や神経学的予後に差がなかったとする研究もあるが、このような患者ではどちらの体温を選ぶにせよ体温管理が必要であり続けることははっきりしている。

・Neurocognitive complications: delirium and cognitive decline

周術期予後は改善されてきたが、幻覚や認知機能障害といった術後合併症はいまだに一般的にみられ、半数以上の患者に影響を与えうる。

<Postoperative delirium>

術後幻覚は、高齢、女性、低教育歴、認知機能スコア低値、高共存疾患指数の患者で起こりやすい。MMSEは、術後 2日目で著明に低下し、3~5日目に上昇してくる。最初の半年間でゆるやかに改善し、6~12ヶ月で安定する。術後幻覚のない患者は術後 1ヶ月以内に認知機能がベースラインに戻るが、術後幻覚があると 1年でももとに戻らない。術後幻覚は、死亡率上昇、認知機能低下、QOL低下と関係している。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬のリバスチグミンは、幻覚を予防せず、死亡率を上昇させた。精神安定剤による予防は有効である。リスペリドンは、亜症候性幻覚がはっきりとした幻覚になるのを抑制した。人工呼吸器患者へのプロポフォールも幻覚を減らす。

<Postoperative cognitive decline>

術後認知機能障害にはいくつかの議論がある。

  1. 異なった研究で異なったスコア閾値を用いている
  2. 術後認知機能障害というのは臨床診断ではなく、正式な高次脳機能検査をしないと診断できない。
  3. いくつかの研究では、手術を受けていないコントロール患者との比較がなされておらず、手術を受けなくても認知機能が落ちていた可能性がある。

<Mechanisms of neurocognitive injury>

遺伝子/タンパク質解析:CRP, P-selectinの遺伝子多型あり。APOE4の遺伝子多型は予測因子ではなかった。

髄液:S100β, tau, amyloid βとの関連がある

MRI:拡散強調像で多発微小塞栓がみられる。いわゆる無症候性脳卒中は 70%の患者にみられるが、これらの所見は臨床的脳卒中や認知機能低下と関連はなさそうである。心臓手術を別として、脳還流の低下と認知機能障害には関係があるようだ。

結構奥深い分野なのだなと思いました。心臓血管外科医と神経内科医の狭間の領域で、あまりお互いが手を出していない分野なのかもしれません。特に、術後の認知症の分野などは、まだ未知のことが多くあるように思います。

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