Category: 医学と医療

Gadolinium-associated plaques

By , 2014年11月18日 6:19 AM

MRIの造影剤であるガドリニウムは腎障害がある患者では腎性全身性線維症 (nephrogenic systemic fibrosis ;NSF) が副作用として問題になることがあります。そのため、数年前から腎不全の患者に対するガドリニウムの使用は禁忌とされています。

腎障害がない患者においては比較的安全に使用できるはずなのですが、今回 JAMA Dermatology誌に副作用で発症しうる新たな疾患概念が報告されました (2014.11.12 Published Online)。著者らは「Gadolinium-associated plaques (GAP)」と呼ぶことを提唱しており、この副作用は、なんと腎障害がなくても起きうるようです。

Gadolinium-Associated Plaques

上記の論文で報告されたのは 2症例です。1例目は 80歳代の男性で、2008年8月から 2011年1月まで計 5回造影MRI検査を受けました。使用したガドリニウム造影剤はオムニスキャンで、1回当たり 20 ml投与されました。その後、両側手背に掻痒感、灼熱感のある径 0.5-2 cmの皮疹が出現し、clotrimazole及び detamethasone dipropionate cream、clobetasol diproprionate creamで治療しましたが改善がなく、18ヶ月間症状は続きました。腎障害はなく、臨床像も腎性全身性線維症と異なっていました。生検により “sclerotic bodies” と診断されました。患者は triamcinoloneacetonide 20 mg/ml, 0.5-1.0 ml/plaqueの局所投与を受け、3ヶ月後には完全に改善しました。2例目は 70歳代の女性です。2年間かけて徐々に拡大する下腿前面の径 2.5-2.0 cmの皮疹を呈しました。この患者には慢性腎不全の既往があり、かつ何度か造影MRIを施行されたことがありました (造影剤の種類や量は不明)。生検により “sclerotic bodies” と診断されました。

論文中の tableにサマリーがあり、臨床像や病理所見が纏められています。

 

Table.1

Table.1

これらの症例における “sclerotic bodies” とガドリニウム暴露との関連は次のように考察されています。

1.  “sclerotic bodies” はガドリニウム暴露に特徴的である。事実、今回の患者―1例では確認できた―は同じタイプのガドリニウム造影剤を使用していた(オムニスキャン)。興味深いことに、オムニスキャンは直鎖状のガドリニウムキレート剤である。直鎖状のキレート剤は環状キレート剤よりガドリニウムと結合しにくく (※ガドリニウム造影剤は、ガドリニウムとキレート剤の化合物である)、理論上組織に沈着しうる。

2. 腎性全身性線維症は FDAに承認された 5種類のガドリニウム造影剤全てで報告されている。曝露量は 15~90 mlである。腎性全身性線維症は腎障害と関連があり、(腎排泄能が低下しているため) 少量投与でさえもガドリニウム血中濃度が比較的高値になるのだろう。

3. 文献的根拠から推測すると、腎性全身性線維症における sclerotic bodiesは、ガドリニウムキレートの不安定化に直接関連しており、それが炎症の元となる線維の増殖や結合組織の合成を促進する。事実、腎性全身性線維症患者の組織を電子顕微鏡で調べると、ガドリニウムが検出される。腎障害はガドリニウムの排泄を遅延させ、体内での半減期を延長すると目されている。これは 100 mlのガドリニウム暴露を受けた 1例目や腎障害があった 2例目の Gadolinium-associated plaques患者の原因の説明になるかもしれない。

4. Sclerotic bodiesの石灰化傾向は際立った特徴である一方で、腎性全身性線維症の患者においては石灰化は 2~5%にしかみられない。これまで慢性腎不全に伴う二次性副甲状腺機能亢進症が、sclerotic bodyや別の組織への異所性石灰化の原因かもしれないと考えられてきた。 事実、今回の 2例目の患者は副甲状腺切除術の既往があった。しかし、1例目の患者には腎不全も副甲状腺の異常もなかった。

5. 今回の症例における Gadolinium-associated plaquesは、ガドリニウム暴露から約 3.5年で発症しており、腎性全身性線維症を欠いて sclerotic bodiesを来したとする別の報告での 5年と同程度である。その報告の著者らは、sclerotic bodiesを腎性全身性線維症の遅発性の所見かもしれないと推測していたが、今回の報告の著者らは sclerotic bodiesの存在がガドリニウムのタイプに依存し、発症のタイミングが腎性全身性線維症を発症した日ではなくガドリニウムに暴露された日に依存すると考えている。

 Gadolinium-associated plaquesは、これまで注目されていなかった MRI造影剤の副作用であるようです。しかし、どうやら重篤なものではなく、治療により完全治癒しうるもののようです。発症頻度も極めて低いようですし、あまり懸念するものではないと思います。ただし、造影剤を数年後に発症するというのは要注意で、問診で疑えないと診断は難しいのかもしれません。論文の figure 1には皮疹の写真が、figure 2には病理写真が掲載されているので、興味のある方は御覧ください。

ポイント:

①MRI造影剤を使用してから数年後に、副作用として皮疹が出現することがある。

②臨床像は腎性全身性線維症とは異なるが、同様の発症機序が想定されている。

③腎障害がなくても出現しうる。

④適切な治療で治癒しうる。

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ACE阻害薬と ALSのリスク

By , 2014年11月16日 3:21 AM

JAMA neurologyに、降圧薬である ACE阻害薬と ALSのリスクについての論文が掲載されていました (2014年11月10日 online published)。

Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors and Amyotrophic Lateral Sclerosis Risk: A Total Population-Based Case-Control Study.

背景:アルツハイマー病やパーキンソン病などで、ACE阻害薬による神経保護効果が報告されている。ALSにおいても、temocaprilによるラットの運動神経保護効果が報告されている。

方法:台湾の 国民健康保険 (National Health Insurance; NHI) 調査データベース等を用いて、台湾の全人口を対象とした case-control studyを行った。2002年1月1日~2008年12月31日までの間に新しく診断されて認定を受けた ALS患者は 729名で、年齢や性別等をマッチさせた control群は 14580名であった。

結果:ACE阻害薬を使用した群の ALS発症調整オッズ比は低用量群 (cDDD<449.5) 0.83で、高用量群 (cDDD>449.5) で 0.43であった。55歳以上の男性で、ACE阻害薬と ALS発症リスク減少に、より相関があった。(用量について:体重 70 kg成人の一日用量を 1 DDDとする。captoprilなら 1DDD = 50 mg, enalaprilなら 1DDD = 10 mgとなる。cDDDはその累積投与量)

考察:ACE阻害薬と ALS発症リスクには用量依存性の負の相関があった。ただし、ACE阻害薬の中で ALSリスク減少に有意差があったのは、 captoprilと enalaprilのみだった。これは、個々の群でのサンプルサイズ不足による βエラーの可能性がある。また、アスピリン/NSAIDs使用と ALS発症率の低下に相関が見られた。過去の報告では関連はないとされており、本研究は検出力が高い試験デザインだったので検出できたのかもしれない。今後はアスピリン/NSAIDsをターゲットとした研究も必要である。本研究の limiationとして、ビタミンEや喫煙、アルコール摂取の影響を考慮していないことが挙げられる。

興味深い研究とは思います。ただ、機序がはっきりしないので、「よくわからない」というのが正直な感想です。基礎研究は一報ありますが、追試がされておらず、そのまま鵜呑みにするのは危険です。

この研究結果には何らかの交絡因子が関与している可能性が否定できないと思いますし、もし仮に ACE阻害薬が ALS発症を 57% (高用量群) 減らしているとしても、NNT (Number Needed to Treat) はおそらく数万になります。医療経済や副作用のことを考えると、ACE阻害薬を ALS予防のためだけに内服するというのは、現実的ではないでしょう (下記参照)。ただ、もし実際にリスク減少効果があるのなら、分子生物学的な研究を積み重ねることで、より有効な治療法の開発につながるかもしれません。

本研究とは関係ありませんが、この論文の引用文献に ALS発症リスクの人種差の systematic reviewがあったので、後でチェックしておこうと思いました。

(参考)

ALS発症予防における ACE阻害薬の NNTについて (わかりやすくするために単純化してあります)。

①一般的に、ALSは 10万人あたり 1~2人発症する病気です。仮に 10万人あたり 2人発症するとして、約 50% (高用量群で 57%) のリスク減少効果のあるACE阻害薬を 10万人が飲めば、10万人あたり 1人発症まで減らすことができます。しかし裏を返すと、発症患者 1人を減らすために、10万人が 内服をしないといけないわけです。

②台湾での ALS新規発症は、7年間で 729人でした。この研究による ACE阻害薬のリスク減少効果は 57%なので、台湾国民全員が ACE阻害薬を飲めば、数百人発症を減らせるかもしれません。しかし、台湾の人口が 2300万人であることを考えると、2300万人内服を続けてやっと数百人発症が減る・・・と言うのは効率が悪いですね (仮に 2300万人内服して 460人発症が減るとすると、NNTは 50000です)。もっとも、成人に限定すればもう少しマシな数字にはなるかもしれませんが、それでも数万という数字になるでしょう。

③上記より、ALS予防目的に ACE阻害薬を内服するのは現実的ではないことがわかると思います。しかし、「ACE阻害薬で ALS発症が半分になる」と言われてしまうと、違う印象を持ってしまう人は多いのではないでしょうか。

④今回の論文では ACE阻害薬と ALSリスク減少の間に「相関がある」としていますが、「相関がある」いうのは必ずしも因果関係があることを意味しないことには注意が必要です。

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視神経脊髄炎とリツキシマブ

By , 2014年11月11日 8:17 PM

神経の難病に抗がん剤治験 医師主導、世界初の承認目指す

産経新聞 11月5日(水)7時55分配信

 難病の「視神経脊髄炎」に特定の抗がん剤が効くとして、国立病院機構宇多野病院(京都市右京区)の田原将行医師(神経内科)が、患者に投与して効果を確かめる治験を進めている。視神経脊髄炎の医薬品として承認されれば、世界初となる見通し。副作用が知られた既存の医薬品を活用することで、安全性の高い治療法の確立につながることも期待される。

治験中の薬は抗がん剤「リツキシマブ」で、血液のがんといわれる悪性リンパ腫の治療薬。視神経脊髄炎に対しては日本だけでなく欧米でも未承認だが、効果を実証した臨床研究は複数あるという。

田原医師は、米国でリツキシマブを投与された視神経脊髄炎の患者に平成18年から、宇多野病院で投与を継続。この患者を含む6人への臨床研究を通じ、1回の点滴で約9カ月間、発症を抑えられることを突き止めた。

大学病院の教授らと研究チームを作り、国の科学研究費の助成を受けて今年6月に治験を開始。患者4人が協力しており、今後は40人を目標に患者を集める。データを分析して効果が確認されれば、視神経脊髄炎の治療薬として承認を目指す。

田原医師は、「再発を心配して暮らす慢性期の患者さんが、生活の質を向上させられる予防薬になる。視神経脊髄炎の治療法がダイナミックに変わる可能性も秘めている」と話している。

約 1週間前にニュースで取り上げられた視神経脊髄炎に対するリツキシマブですが、日本でも臨床試験が始まるんですね。未承認とはいえ、日本の診療ガイドラインで紹介されているくらいの治療法で、効果もアザチオンプリンなど一般的な免疫抑制剤と比較して強いとされています。高額な上に保険適応がないので、日本では視神経脊髄炎にはほとんど使われていませんが、こうした臨床試験を通して、保険適応となれば良いですね。

さて、リツキシマブは Wegener肉芽腫症や顕微鏡的多発血管炎では公知申請により保険適応になっているようです。いくつかの臨床研究もありますし、視神経脊髄炎でも公知申請をしてみては・・・と思いましたが、現状では難しいのでしょうか。

少し話は逸れますが、なんとタイムリーなことに 2014年11月6日に公開された New England Journal of Medicineの論文のタイトルが、”Rituximab versus Azathioprine for Maintenance in ANCA-Associated Vasculitis” でした。リツキシマブの方がアザチオプリンより ANCA関連血管炎に対する寛解維持効果が強かったそうです。血管炎は末梢神経障害などを起こしますし、神経内科でリツキシマブを使う機会も、今後増えてくるのではないかと思います。

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モーツァルトとベートーヴェン その音楽と病

By , 2014年11月7日 6:29 AM

モーツァルトとベートーヴェン その音楽と病-慢性腎臓病と肝臓病 (小林修三著, 医薬ジャーナル社)」を読み終えました。

第一章はモーツァルトの病についてです。モーツァルトの診断を下すにあたって、病歴上いくつもの大きなヒントがあります。

・死の直前まで、ベッドで身体を起こして作曲していた (=起座呼吸)

・モーツァルト 6歳時に父親が手紙に「息子の咽頭がやられて、熱を出したあと痛いというので診ると、足のすねにやや盛り上がった、銅貨ほどの大きさの赤く腫れ上がった発疹がいくつかできていました (扁桃炎+結節性紅斑?)」と記載。咽頭の腫れは何度か繰り返した。

・「水腫」という記述

・オペラ「魔笛」上演後に呼吸困難で倒れた

・死の約 2時間前に痙攣を起こし昏睡状態となった。両頬は膨らんでいた。熱のために体は汗でびっしょりぬれていた。

こうした病歴より、著者の診断は、直接の死因は心不全となります。原因疾患は原発性慢性糸球体腎炎、もしくはへノッホ・シェーンライン紫斑病、あるいは水銀中毒による間質性腎炎からの慢性腎臓病。その終末疾患としての尿毒症で死亡。併発疾患は大動脈弁狭窄・・・としています。

溶連菌感染→心臓弁膜症、糸球体腎炎というのは、もっとも合理的な説明ですね。起座呼吸や水腫という病歴もこれらの疾患に合致します。モーツァルトの病としてはとても有力な説です。へノッホ・シェーンライン紫斑病説は、確か私が学生の頃、2000年頃に論文を読んだことがあり、これも有力な説の一つかなと思っていました。

第二章はベートーヴェンの病についてです。ベートーヴェンについては腹水の病歴があり、病理解剖で肝臓に萎縮と表面に結節があったそうですから、肝硬変はほぼ確定診断です。その他、虹彩炎と思われる症状、繰り返す消化器症状、関節炎もあったようです。著者は鉛により誘発されたベーチェット病と診断しました。やや踏み込み過ぎの感はありますが、積極的に否定する証拠もないように思います。

話は脱線しますが、ベーチェット病では HLA-B51 typeが多いことが知られています。一方で、欧米人では HLA-B51は少ないそうです。2009年の Lancet Neurologyの総説を読むと、日本人やトルコ人のベーチェット病患者で HLA-B51 がみられるのは 60-70%である一方で、ヨーロッパ人では 10~20%に過ぎないと記載されていました (ただし、その論文は “Behçet’s syndrome: disease manifestations, management, and advances in treatment.” を引用したものです)。欧米人の診断をつけるときは要注意ですね。

本書は、一般人が読んでもわかりやすく書いていますし、医学的にもまっとうな内容だと思います。唯一残念なのは参考文献が示されていないことです。著者が下した診断は過去に別の研究者が論文にしているのと同じですし、そのことは明記すべきと思いました。また、診断根拠となる所見がどの文献に書かれていたのかによっても信ぴょう性は変わってくるので、その辺りは記しておくべきでしょう。

(参考)

Beethovenの耳の話

楽聖ベートーヴェンの遺体鑑定

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ALSの臨床試験の問題点

By , 2014年11月6日 7:45 AM

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の臨床試験で、なぜネガティブな結果が多いのか、どう改善すべきなのかを議論した論文が、Lancet Neurologyに掲載されました。

Clinical trials in amyotrophic lateral sclerosis: why so many negative trials and how can trials be improved?

なぜネガティブな結果が多いのかという理由の考察は、panel 1に纏められています。

panel1

panel. 1

・理論的根拠

例えば、ALSの治療薬開発時には SOD1変異マウスを用いて動物実験を行う。SOD1変異マウスは、仮にヒト SOD1変異の家族性 ALSではよくても、ヒト孤発性 ALSの代わりにはならないのではないか。また、動物実験は病初期から治療が始められるが、ヒトでは病気が進行してから治療が始められるという違いがある。

・薬理学

薬の投与量が少なすぎる、中枢神経に薬剤が到達していない、あるいは薬物動態や薬力学的解析がされていないのではないか。また、最近の臨床試験ではリルゾールを併用されていることが多いが、リルゾールと試験薬剤との相互作用はよくわかっていない。さらに、ヨーロッパの臨床試験ではリルゾールへの上乗せとなっているが、アメリカでは経済的な理由によりリルゾールを内服していない患者が多い。

・試験デザインと方法論的問題

高い治療効果を求めすぎるため、小さな効果を見落としている可能性がある。 疾患の多様性や進行した患者の登録、短い試験期間が問題になっている可能性がある (昔より生存期間は伸びているので、観察期間も延長する必要がある)。また、臨床的効果のみをアウトカムとしていて、バイオマーカーを測定していないので、治療ターゲットに効果があるのかどうかわからない。

これらの問題点を解決することが重要だと著者らは考えているようです。具体的にどうするべきかも論文に書いてありました。

この総説では、幹細胞治療に触れた部分があり、興味深かったので簡単に紹介しておきます。幹細胞治療はとても期待されてはいますが、いくつかクリアしなければならない壁があります。広く宣伝されてしまっているため、金銭的にも、健康面でも高くつくことがあります。例えば中国に行って嗅神経鞘を用いた幹細胞を用いた患者らが、深刻な副作用を受けたことが報告されました (, )。幹細胞治療では、神経保護及び変性した運動神経の置換という 2つのメカニズムが想定されており、下記のような臨床試験が行なわれているそうです。結果を期待したいと思います。

Mesenchymal stem cell transplantation in amyotrophic lateral sclerosis: A Phase I clinical trial.

Autologous Cultured Mesenchymal Bone Marrow Stromal Cells Secreting Neurotrophic Factors (MSC-NTF), in ALS Patients.

Intraspinal neural stem cell transplantation in amyotrophic lateral sclerosis: phase 1 trial outcomes.

Intraspinal stem cell transplantation in amyotrophic lateral sclerosis: a phase I trial, cervical microinjection, and final surgical safety outcomes.

Amyotrophic lateral sclerosis: applications of stem cells – an update. (臨床試験ではないが、この論文中に 運動ニューロンもしくはグリア細胞由来の iPS細胞による治療の進歩が紹介されている)

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脳卒中一次予防ガイドライン

By , 2014年11月3日 11:23 AM

AHA/ASAによる脳卒中一次予防ガイドラインが改訂されました。無料公開されています (2014年10月28日 online published)。

Guidelines for the Primary Prevention of Stroke

脳卒中診療に携わる医師はチェックしておく必要がありますね。脳卒中診療に関わる医師のみならず、プライマリ・ケア医も是非読むべきと思います。

PDFの 81ページから要約が、87ページから、今回改訂された点のまとめがあります。

(参考)

Stroke Rounds: New Prevention Guidelines Favor Mediterranean Diet

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脳卒中急性期の降圧

By , 2014年10月30日 7:53 AM

Lancet誌に、脳卒中急性期患者に対するニトログリセリン貼付薬の効果と安全性に関する ENOS研究が掲載されました (2014年10月22日 published online)。同じ研究で、脳卒中急性期に、それまで飲んでいた降圧薬を中止すべきかどうかも調べています。

Efficacy of nitric oxide, with or without continuing antihypertensive treatment, for management of high blood pressure in acute stroke (ENOS): a partial-factorial randomised controlled trial

興味深い論文だったので、簡単にまとめてみました。

背景:

高血圧は、急性期脳梗塞や脳出血の 70%にみられる。このような患者では、急性期再発率や死亡率が高い。そのため、急性期に血圧を下げようという試みがあり、降圧の有効性と安全性を調べた大規模研究がいくつかある。

・良くない:SCAST, IMAGES

・良くも悪くもない:CATIS,

・どちかというと良い:INTERACT2 (ただし、脳出血が対象の研究)

一酸化窒素 (NO) は、前臨床研究で梗塞巣を小さくし、局所の血流や機能予後を改善することが示されている (※ニトログリセリンは分解されて NOとなる)。ニトログリセリンに関しては、パイロット研究を含め 5つの小規模研究があり、安全性は確認されている。

発症までに飲んでいた降圧薬を急性期に継続した方が良いかどうかは、COSSACS研究ではどちらも差がなかったが、よくわかっていない。

方法:

国際多施設共同、プラセボ対照、並行群間比較試験を行った。患者とアウトカム評価者には盲検化が行われた。患者は 7日間ニトログリセリン貼付薬 (5 mg) を使用する群と、それを使用しない群にランダムに振り分けられた。さらに、降圧薬を内服していた患者は、継続するかどうかを無作為に振り分けられた。

対象は、臨床的な脳卒中症候群として入院した 18歳以上で、四肢のいずれかに麻痺があり、収縮期血圧 140-220 mmHg, かつ 48時間以内に治療が始められた患者とした。診断は、CTもしくは MRIで行われた。次の患者は除外した:血栓溶解療法などで降圧薬を絶対開始する必要がある、降圧薬を絶対に続ける必要がある、降圧薬を絶対に中止する必要がある、ニトログリセリンを必要とする、ニトログリセリンに副作用がある、昏睡 (GCS<8), 純感覚脳卒中、失語症、元々の modified Rankin Scale (mRS) 3-5点、神経ないし精神疾患の併存、脳卒中と紛らわしい病態 (低血糖や Todd麻痺など)、肝障害、腎障害、内科疾患の合併、妊娠ないし授乳中、過去の ENOS研究への参加、外科的介入が予定されている、2週間以内の別の研究への参加。

ニトログリセリン貼付薬は患者に見えないように覆った。降圧薬の内服ができない患者には、経鼻胃管から投与した。薬剤投与の 7日間が過ぎた後は、脳卒中二次予防のため、降圧薬、抗凝固薬、脂質異常症治療薬の投与が推奨された。

一次エンドポイントは試験開始 90日後の機能予後 (mRSで評価) とした。二次エンドポイントは、Barthel indexで評価された ADL、電話を用いてスケーリングされた認知機能、EQ-5Dで評価された QOL, short Zungうつ評価で評価された感情とした。安全性は、全ての死亡、初期の神経学的悪化、7日以内の脳卒中再発、7日目までの治療介入を必要とする高血圧/低血圧、重篤な副作用を評価した。

結果:

4011名がエントリーした。2097名 (52%)が発症前に降圧薬を内服しており、1053名が降圧薬継続群、1044名が降圧薬中止群に割り当てられた。3995名 (>99%) で 90日後までフォローアップすることができた。ベースラインの血圧の平均値は 167/90 mmHgであった。ニトログリセリン貼付薬の初回投与後、貼付群は非貼付群に比べて血圧が 7.0/3.5 mmHg低くかったが、この差は 3日目に消失した。

一次エンドポイントである 90日後の機能予後は、ニトログリセリン貼付群は非貼付群に対して、降圧薬継続群は非継続群に対して、いずれも差がなかった。サブグループ解析の結果、ニトログリセリン貼付群は発症 6時間以内に開始した場合もしくは女性において、非貼付群と比較して有意に機能予後が良かった (出血/梗塞、OCSP分類では差がなかった)。サブグループ解析の評価項目全てで、降圧剤継続群と降圧薬中止群の間に有意差はなかった。また、サブグループ解析の結果、頸動脈狭窄患者で降圧による悪影響は検出されなかったが、サンプルサイズが小さいことを考慮する必要がある。

二次エンドポイントにおいて、ニトログリセリン貼付群は非貼付群と全ての評価項目で差がなかった。降圧剤継続群は非継続群と比較して死亡率はほぼ同じであったが、病院での死亡や施設への退院が多く、寝たきりが多い傾向にあった。また、認知機能スコアも降圧薬中止群に比べて低かった。降圧薬継続群は、降圧薬中止群に比べて重症高血圧となる割合は少なかった。有害事象の発生総数は降圧薬継続の有無で差がなかったが、肺炎は降圧薬継続群で有意に多かった。肺炎は、多くは嚥下障害がある患者で、降圧薬を飲むときに起きていた。その他の二次エンドポイントは降圧薬継続群と中止群で差がなかった。

安全性評価では、ニトログリセリン貼付薬投与群では非投与群群と比べて頭痛と低血圧が多い傾向にあった。

考察:

ニトログリセリン貼付薬による急性期の降圧も、発症前の降圧薬の内服継続も、有効性を示せなかった。その理由として、①降圧不十分、②脳出血のみ降圧が有効、③薬剤を開始するタイミングが遅すぎた、④数日でニトログリセリンへの耐性が生じて効果が不十分だった、という可能性があるのかもしれない。

降圧薬継続群で、二次エンドポイントの評価項目いくつかで悪化がみられたが、真の結果か偶然の効果かはわからなかった。

読んだ感想・・・。

脳梗塞について、

①過去の研究とこの研究を併せてみて、多分脳梗塞急性期の降圧は効果がないか、あってもわずか、さらには有害である可能性もあるのだから、急性期は降圧しなくて良いのでは。薬は、副作用の観点から、また経済的にも少ないほうが良いし。

②脳梗塞急性期に高血圧である患者の予後が悪いのは、ひょっとしたら高血圧が原因ではないのかもしれません。例えば、より脳循環が悪くて、血流を改善しようとして代償的に血圧をあげているのであれば、高血圧となっている患者の方が条件が悪いと予想されます。降圧すると、もっと条件が悪くなるかもしれません (血圧を下げた方が予後が悪いという研究結果に合致)。また、脳梗塞などのイベントで血圧が高くなりやすい患者というのは、もともと血圧の変動が大きく、脳血管の動脈硬化が進んでいた可能性も否定できません。

③脳梗塞急性期に血圧が放置できないくらい高くなる患者さんがいて、我々は慣習的にニトログリセリン貼付薬 (ニトロダームテープなど) を使ってきました。理由として、キレの良い薬を使って急激に血圧が下がり過ぎると脳循環を悪くしそうだけど、ニトログリセリン貼付薬ならマイルドな降圧効果が得られるからというのが一点、貼り薬なので嚥下障害があっても使えるのが一点です。この研究結果は、慣習的なプラクティスで重篤な副作用がないことを再確認させてくれました。

この話に関連して、Clinical neuroscience誌の 10月号に、脳卒中関連の RCTが多数批判的吟味されていて、降圧関連の臨床研究もいくつか含まれていました。まとめて読めるので、結構オススメと思います。

Clinical Neuroscience Vol.32 (14年) 10月号 脳卒中EBMカタログII

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診断精度研究のメタ分析

By , 2014年10月28日 5:13 PM

2014年10月25日に、「診断精度研究のメタ分析」という研究会に行ってきました。

第17回 診断精度研究のメタ分析

この分野の本は数冊読みましたが、実際に講演を聞いて非常に勉強になりました。質疑応答でも質問させて頂きました。臨床疫学の様々な分野に渡って開催されている研究会のようですので、また別のテーマでも参加したいと思います。

今回の講演の中には “SlideShare” でスライドが公開されているものがあります。下記にリンクを貼っておきますので、興味のある方は御覧ください。

「診断精度研究のメタ分析」の入門

「診断精度研究のメタ分析」の書き方

「診断精度研究のメタ分析」の報告事例

なお、この研究会を主催した「臨床疫学研究における報告の質向上のための統計学の研究会 (REQUIRE)」 のサイトでは、それ以外の講演会の内容も一部オープンになっているようです。

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ALSと陰性徴候

By , 2014年10月26日 9:35 AM

感覚障害、 膀胱・直腸障害、眼球運動障害、褥瘡は “ALSの陰性徴候” と呼ばれ、ALS患者では何故かこの症状がみられません。その理由はメジャーな症候学の教科書を読んでも書いておらず、私は知らなかったのですが、2014年10月16日付の Scientific Americanに凄く興味深い記事が載っていました。

Why Do Eye Muscles Function in ALS as Other Muscles Waste Away?

An important clue may lie in the wiring of the motor neurons. Those vulnerable to ALS connect to specialized sensory neurons and “receive continuous excitation from other neurons that release glutamate,” an important neurotransmitter that excites motor neurons and triggers muscle movement, explains neuroscientist George Mentis of the Center for Motor Neuron Biology and Disease at Columbia University.

Eye and sphincter motor neurons, however, do not receive synaptic connections from these specialized sensory neurons and instead get their signals from different neurons. They also “receive less glutamate from yet different sources, ultimately triggering muscle movement in a different way,” Mentis says. Specifically, the ALS-resistant neurons  receive more discrete, specific bursts of the chemical instead of a continuous flow. Sustained exposure to glutamate may cause an over-accumulation of calcium, which harms cells.

つまり、ALSで膀胱直腸障害や眼球運動障害が起きないのは、眼筋や括約筋を支配する神経が、他の運動神経と異なった特徴を持つ神経回路を形成しており、グルタミン酸が関与した持続的な興奮入力を受けにくいことで説明できそうです。グルタミン酸が関与した持続的な興奮入力は、過剰なカルシウム流入を介して細胞毒性をきたす可能性があると考えられています。上記に書いてはありませんが、感覚神経が障害されないのも、運動神経のようにこのような持続的興奮入力を受けないことで説明できるのかもしれません。長年頭を悩ませてきた疑問が、少し解けた気になりました。

余談ですが、グルタミン酸受容体のなかで AMPA受容体と ALSの関係について最近多くの論文が発表されています。そんな中、2014年10月20日に、AMPA受容体拮抗薬 “Perampanel” が抗てんかん薬として FDAから承認されました。この薬が、ALSでの AMPA受容体が関与した細胞毒性を抑えてくれることはないのか・・・ふと思いました。論文検索してみても誰も研究していないみたいですし、何の根拠もない全くの妄想ですけれど・・・(^^; (開示すべき COIはありません)

全く話は変わりますが、ALSに対してセフトリアキソンは有効性を示せなかったという第三相試験の結果が、Lancet Neurologyに掲載されました (2014年10月6日 online published)。うーん、残念。

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TUBA4A

By , 2014年10月25日 8:08 AM

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の原因遺伝子がまた新たに同定されました。2014年10月22日の Neuron誌に論文が掲載されています。

Exome-wide Rare Variant Analysis Identifies TUBA4A Mutations Associated with Familial ALS

著者らは、Exome-wide rare variant analysisという手法を用い、363例の家族性 ALS患者を調べました。そして、チューブリン Alpha 4Aをコードする TUBA4Aを原因遺伝子として同定しました。TUBA4Aの変異部位は、G43V, T145P, R215C, R320C/H, A383T, W407X, K430Nでした。TUBA4Aの変異は、微小管ネットワークを不安定化させ、再重合能を低下させるそうです。微小管というと、国立精神神経センターなどが研究している軸索輸送などにも関わってくる話でしょうか。

今回の論文は、患者検体を用いた遺伝子解析と、生化学的な機能解析のみが記載されています。今後 TUBA4A変異がある ALS患者の臨床像を記した論文が出てくるのを楽しみに待ちたいと思います。

なお、TUBA4Aのように細胞骨格に関連した ALS原因遺伝子だと、以前紹介した ARHGEF28を思い出します。現在、ALS研究では RNA代謝の話題がホットですが、こちらの方面での研究も加熱しそうです。

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