少し時間がとれたので過去 3年分くらいの Lancet neurology誌の総説をチェックしました。まずタイトルを見て、関心の湧いた論文をダウンロードして冒頭読んでみて、それで面白かったら通読しました。結構御薦め論文が多かったので、いくつか紹介しておきます。お気に入りには☆をつけました。
・Huntington’s disease: from molecular pathogenesis to clinical treatment
Table 1に、ハンチントン病の症状別の治療薬と副作用の一覧表があって、見やすかったです。あと、CAGリピート数は発症年齢などを 50~70%しか説明しなくて、HAP1や GRIK2 (GLUR6), TCER1 (CA150) といった 修飾遺伝子が関与している可能性があるらしいということは初めて知りました。修飾遺伝子は、治療ターゲットとしても注目されているらしいです。疾患の詳細な分子メカニズムが後半解説されていましたが、あまりにマニアックすぎて、ここは読み飛ばしました。
・Treatment of patients with essential tremor
本態性振戦の治療として、Drugs with established efficacy (level A) が Primidone (12.5~25 mgとごく少量で開始するのが一般的) と Propranolol, Drugs with probable efficacy (level B) が Atenolol, Sotalol, Alprazolam, Topiramate, Gabapentin monotherapy, Drugs with possible (level C) が Clonazepam, Clozapine, Nadolol, Nimodipine, Botulinum toxinとされていました。私は昔先輩に教わって Propranololや Primidone (保険適応外) が第一選択薬, 前者が喘息や徐脈性不整脈、後者が眠気などで使えない時に Topiramate (保険適応外) を検討・・・としてきましたが、この文献を読んで治療が間違っていなかったことを確認しました。
・The pharmacological treatment of epilepsy in adults (☆)
この論文は掲載されてすぐに読み、以来私のてんかん診療に大きな影響を与えています。また、昔勉強した「てんかん診療のクリニカルクエスチョン194」という本は良い本でしたが、新規抗てんかん薬についてはあまり書いていなくて、それをこの論文が補ってくれました。てんかん診療をしている多くの医師に読んで欲しい総説です。直接この論文とは関係ありませんが、妊娠と抗てんかん薬については、Neurology誌の “Comparative safety of antiepileptic drugs during pregnancy.” という論文がわかりやすかったです。あと、まだざっとしか目を通していませんが、2014年2月28日に発表された、BMJの “Drug treatment of epilepsy in adults” という総説は素晴らしいと思います。
・Emerging targets and treatments in amyotrophic lateral sclerosis
今のところ有効な根本的治療法のない筋萎縮性側索硬化症 (ALS) に対して、さまざまなアプローチが行われています。その治療ターゲットと、行われている臨床試験の一覧が Table.1に纏まっていました。いくつもの臨床試験が行われていますが、こういう表があると、わかりやすいです。
・Postural deformities in Parkinson’s disease
パーキンソン病ではさまざまな姿勢の異常がみられます。腰曲がりや首下がり、Pisa症候群などの臨床的特徴や治療法などが解説されています。後半は、病態生理が解説されていました。例えば、中枢性メカニズムの項で、pallidotomyで Pisa症候群になることがあるとか、脳卒中で腰曲がりを発症した患者がいるとか、へーっと思いながら読みました。
・Atypical presentations of acute cerebrovascular syndromes (☆)
急性期脳卒中で、非典型的な症状を呈することがあります。こうした症状の頻度や責任病巣をまとめた総説です。例えば、Limb-shaking transient ischaemic attacksとか、有名ですけど知らないと診断は難しいですよね。片麻痺だったら素人にでも診断できるけど、非典型的な症状を抑えておくのが、見逃しを防ぐのに役立つと思います。
・Lambert–Eaton myasthenic syndrome: from clinical characteristics to therapeutic strategies
Lambert-Eaton myasthenic syndrome (LEMS) に関する一般的な総説。海外の治療アルゴリズムだと最初に用いることになる 3,4-diaminopyridineが日本で認可されていないのは残念ですね。
・HIV-associated opportunistic infections of the CNS
HIV患者において、CD4数別に考えるべき疾患、起こりうる疾患の診断/治療について概説されています。トキソプラズマやクリプトコッカス、サイトメガロウイルスや単純ヘルペスウイルスなどにおける、諸検査の感度が勉強になりました。
・Neurological complications of dengue virus infection
デング熱について。以前、当ブログで内容をお伝えした通りです。
・Axonal Guillain-Barré syndrome: concepts and controversies (☆)
千葉大学の桑原先生による非常にためになる総説。
・Vasculitic neuropathies (☆)
原発性全身性血管炎 ( 顕微鏡的多発血管炎, 結節性多発動脈炎, Churg-Strauss症候群, Wegener肉芽腫など), 二次性全身性血管炎 (関節リウマチ、シェーグレン症候群, 全身性エリテマトーデスなど) について、末梢神経障害の頻度や特徴がわかりやすくまとめられていました。あと、非全身性血管炎である diabetic lumbosacral radiculoplexus neuropathy (DLPRN), non-diabetic lumbosacral radiculoplexus neuropathy (LRPN), diabetic cervical radiculoplexus neuropathy (DCPRN) などの解説があったのも良かったです。DLPRNは、以前電気生理診断学を専門にしている医師から鑑別として挙げられたことがありましたが、この総説を読んで勉強になりました。
・Secondary stroke prevention (☆)
脳梗塞二次予防についての総説です。脳梗塞二次予防は、神経内科医だけでなく、プライマリ・ケアレベルでも必要とされますので、是非様々な方に読んで頂きたい総説です。抗血小板療法、新規抗凝固薬、血行再建術、リスク因子の管理について基本的な事柄がわかりやすくまとめられていました。当然のように、日本の製薬会社が力を入れて宣伝してきた、エビデンスに乏しいローカルドラッグについては見向きもされていません。