Category: 医学と医療

Jolt accentuation

By , 2014年3月6日 7:17 AM

髄膜炎の診断法として、Jolt accentuationというものがあります。首をイヤイヤするように、自発的に 1秒間に 2~3回水平方向に回旋させ、頭痛の増強をみるものです。

1991年のUchiharaらの報告では、感度 97.1%、特異度 60%であり、非常に有用とされました。2010年の Aminzadehらの報告でも、感度 100%, 特異度 71.5%です。しかし、2010年の Waghdhareらの報告では、感度 6.06%, 特異度 98.9%でした。Waghdhareらの論文を読んだ時、「この感度の差は何?」とビックリしたのを覚えています。Waghdhareらの報告は、精神症状のある症例を含んでいたし、結核性髄膜炎も多かったから、そういうのが影響したのかなと勝手に推測していました。報告によるばらつきについては、2012年の内輪の抄読会で比較検討をして、資料をこのブログにアップしたことがあります。

2014年1月に、さらに Jolt accentuationの感度を調べた論文が発表されました。この研究では、精神症状のある症例は除外してあります。

Jolt accentuation of headache and other clinical signs: poor predictors of meningitis in adults

Jolt accentuation

Jolt accentuation

結果を見ると、感度 21%, 特異度 82%です。やはり、Jolt accentuationを信頼し過ぎると危険かもしれないと感じました。

ちなみに、この研究では、医師の impressionの感度も調べていて、 44%でした。意外と低いんですね (^^;;

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Lancet Neurology の総説

By , 2014年3月2日 10:43 AM

少し時間がとれたので過去 3年分くらいの Lancet neurology誌の総説をチェックしました。まずタイトルを見て、関心の湧いた論文をダウンロードして冒頭読んでみて、それで面白かったら通読しました。結構御薦め論文が多かったので、いくつか紹介しておきます。お気に入りには☆をつけました。

Huntington’s disease: from molecular pathogenesis to clinical treatment

Table 1に、ハンチントン病の症状別の治療薬と副作用の一覧表があって、見やすかったです。あと、CAGリピート数は発症年齢などを 50~70%しか説明しなくて、HAP1や GRIK2 (GLUR6), TCER1 (CA150) といった 修飾遺伝子が関与している可能性があるらしいということは初めて知りました。修飾遺伝子は、治療ターゲットとしても注目されているらしいです。疾患の詳細な分子メカニズムが後半解説されていましたが、あまりにマニアックすぎて、ここは読み飛ばしました。

Treatment of patients with essential tremor

本態性振戦の治療として、Drugs with established efficacy (level A) が Primidone (12.5~25 mgとごく少量で開始するのが一般的) と Propranolol, Drugs with probable efficacy (level B) が Atenolol, Sotalol, Alprazolam, Topiramate, Gabapentin monotherapy, Drugs with possible (level C) が Clonazepam, Clozapine, Nadolol, Nimodipine, Botulinum toxinとされていました。私は昔先輩に教わって Propranololや Primidone (保険適応外) が第一選択薬, 前者が喘息や徐脈性不整脈、後者が眠気などで使えない時に Topiramate (保険適応外) を検討・・・としてきましたが、この文献を読んで治療が間違っていなかったことを確認しました。

The pharmacological treatment of epilepsy in adults (☆)

この論文は掲載されてすぐに読み、以来私のてんかん診療に大きな影響を与えています。また、昔勉強した「てんかん診療のクリニカルクエスチョン194」という本は良い本でしたが、新規抗てんかん薬についてはあまり書いていなくて、それをこの論文が補ってくれました。てんかん診療をしている多くの医師に読んで欲しい総説です。直接この論文とは関係ありませんが、妊娠と抗てんかん薬については、Neurology誌の “Comparative safety of antiepileptic drugs during pregnancy.” という論文がわかりやすかったです。あと、まだざっとしか目を通していませんが、2014年2月28日に発表された、BMJの “Drug treatment of epilepsy in adults” という総説は素晴らしいと思います。

Emerging targets and treatments in amyotrophic lateral sclerosis

今のところ有効な根本的治療法のない筋萎縮性側索硬化症 (ALS) に対して、さまざまなアプローチが行われています。その治療ターゲットと、行われている臨床試験の一覧が Table.1に纏まっていました。いくつもの臨床試験が行われていますが、こういう表があると、わかりやすいです。

Postural deformities in Parkinson’s disease

パーキンソン病ではさまざまな姿勢の異常がみられます。腰曲がりや首下がり、Pisa症候群などの臨床的特徴や治療法などが解説されています。後半は、病態生理が解説されていました。例えば、中枢性メカニズムの項で、pallidotomyで Pisa症候群になることがあるとか、脳卒中で腰曲がりを発症した患者がいるとか、へーっと思いながら読みました。

Atypical presentations of acute cerebrovascular syndromes (☆)

急性期脳卒中で、非典型的な症状を呈することがあります。こうした症状の頻度や責任病巣をまとめた総説です。例えば、Limb-shaking transient ischaemic attacksとか、有名ですけど知らないと診断は難しいですよね。片麻痺だったら素人にでも診断できるけど、非典型的な症状を抑えておくのが、見逃しを防ぐのに役立つと思います。

Lambert–Eaton myasthenic syndrome: from clinical characteristics to therapeutic strategies

Lambert-Eaton myasthenic syndrome (LEMS) に関する一般的な総説。海外の治療アルゴリズムだと最初に用いることになる 3,4-diaminopyridineが日本で認可されていないのは残念ですね。

HIV-associated opportunistic infections of the CNS

HIV患者において、CD4数別に考えるべき疾患、起こりうる疾患の診断/治療について概説されています。トキソプラズマやクリプトコッカス、サイトメガロウイルスや単純ヘルペスウイルスなどにおける、諸検査の感度が勉強になりました。

Neurological complications of dengue virus infection

デング熱について。以前、当ブログで内容をお伝えした通りです。

Axonal Guillain-Barré syndrome: concepts and controversies (☆)

千葉大学の桑原先生による非常にためになる総説。

Vasculitic neuropathies (☆)

原発性全身性血管炎 ( 顕微鏡的多発血管炎, 結節性多発動脈炎, Churg-Strauss症候群, Wegener肉芽腫など), 二次性全身性血管炎 (関節リウマチ、シェーグレン症候群, 全身性エリテマトーデスなど) について、末梢神経障害の頻度や特徴がわかりやすくまとめられていました。あと、非全身性血管炎である diabetic lumbosacral radiculoplexus neuropathy (DLPRN), non-diabetic lumbosacral radiculoplexus neuropathy (LRPN), diabetic cervical radiculoplexus neuropathy (DCPRN) などの解説があったのも良かったです。DLPRNは、以前電気生理診断学を専門にしている医師から鑑別として挙げられたことがありましたが、この総説を読んで勉強になりました。

Secondary stroke prevention (☆)

脳梗塞二次予防についての総説です。脳梗塞二次予防は、神経内科医だけでなく、プライマリ・ケアレベルでも必要とされますので、是非様々な方に読んで頂きたい総説です。抗血小板療法、新規抗凝固薬、血行再建術、リスク因子の管理について基本的な事柄がわかりやすくまとめられていました。当然のように、日本の製薬会社が力を入れて宣伝してきた、エビデンスに乏しいローカルドラッグについては見向きもされていません。

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神経免疫セミナー in 千葉

By , 2014年3月1日 10:09 PM

2014年2月27日、神経免疫セミナーを聴きに行ってきました。

神経免疫セミナー in 千葉

平成26年2月27日 (木) 18:50~20:30 ホテル ザ・マンハッタン

SESSION 1 CIDPの多様性:患者さんから教えて頂いたこと

千葉大学大学院医学研究院 神経内科学 三澤園子先生

SESSION 2 ヒステリーの症候学と MMT

帝京大学医学部 神経内科学 教授 園生雅弘先生

SESSION 1は、EFNS/PNS criteriaに基づいた typical CIDP, atypical CIDP (MADSAMなど) の一般的な臨床経過 (発症様式、治療反応性、寛解率など) が主な内容でした。演者の方は講演に非常に慣れている感じで、聴きやすかったです。

SESSION 2は、神経内科医にとって非常に大事なヒステリーの話でした。園生先生の新患外来患者の 1割くらいがヒステリー患者とのことで、過去の報告ともほぼ似た数字のようです。症候学のスペシャリストの話で、非常に勉強になりました。ただ、時間の都合で MMTの話は今回なしでした。残念・・・。

ヒステリーの診断において重要なのは、陽性徴候を見つけること (除外診断ではない) というのが強調され、ヒステリーでは拮抗筋や遠隔筋に必要以上力を入れる、わかりやすい運動が麻痺しやすい、giving-away weakness (ただし GBS/CIDPでも出現しうる) を呈する、筋力低下の分布が錐体路性と逆という話などがありました。ヒステリーで侵されやすい筋、侵されにくい筋を判断するためには、きちんと MMTがとれないといけませんね。それだけに、時間的に MMTの講演がなかったのが残念でした。最も勉強になったのが、synergyを利用した診察でした。口笛や広頚筋徴候、大腿躯幹屈曲運動は Babinskiの原著の翻訳で読んだことがありました。しかし、器質的疾患では大殿筋の筋力が落ちにくいため、大腿躯幹屈曲運動が実際には使いにくいというのは知りませんでした。そして、お馴染みの Hoover’s test、さらに園生先生が発見された Sonoo abductor testについて説明がありました。Sonoo abductor testは最近出版された園生先生の総説で読んだときは良く理解できませんでしたが、講演で提示された動画が非常にわかりやすかったです。

もう一つ勉強になったのが、ヒステリーという用語についてです。語源的に女性の子宮に由来する語であり、ヒステリーは男性にも起こるので好ましくない用語であるとして、精神医学の DSM分類では別の用語が用いられています。しかし園生先生は、DSM分類での呼び名が版によって変わる問題点を指摘し、ヒステリーという呼び名を用いることは仕方がないのではないかとおっしゃっていました。私も同感です。コロコロ呼び名が変わる方が混乱の元ですよね。ヒステリーの語は歴史的にも長く使用されてきたものですし、今更変更する必要性も感じません。

懇親会では、園生先生と、もう一人の先生と三人でずっと語っていました。もう一人の先生が誰かわからなくて、帰りに別の人に聞いたら、「桑原先生ですよ」と。尊敬する、雲の上の存在だったのに、知らずにベラベラと “文学部唯野教授” のように喋っていました。ごめんなさい、ごめんなさい。この日は、桑原先生は園生先生の講演で座長をされていたのですが、初対面の人を覚えるのが苦手なのです・・・ (T_T)

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Daclizumabの副作用

By , 2014年2月26日 6:08 AM

2013年4月14日に多発性硬化症治療薬 Daclizumabについてお伝えしました。その際、「時に重篤な感染症がネックになってくるかもしれません」と書きましたが、2014年2月14日、Neurology誌に Johns Hopkins MS Clinicから別の副作用について報告がありました。

Daclizumab-induced adverse events in multiple organ systems in multiple sclerosis.

Daclizumabによる治療を受けた 20名のうち、3名に daclizumabによると推測される副作用として皮疹、脱毛、びまん性リンパ節腫脹、乳房結節がみられました (Zenapax 1 mg/kg monthly IV, 平均治療期間 20ヶ月, いずれも臨床試験外の患者)。2名の患者ではリンパ節、乳房結節に、組織学的に CD56発現細胞を伴ったリンパ球浸潤が見られました (※DaclizumabはIL-2受容体のサブユニット CD25に対するモノクローナル抗体であり、CD25の減少は免疫調節性 CD56 bright ナチュラルキラー細胞の増殖を起こすことが知られています)。Daclizumabを中止することで、皮疹、脱毛、びまん性リンパ節腫脹は改善しましたが、乳房結節は残存しました。

他に代替薬がないなら別ですが、副作用という観点から、臨床的に daclizumabは使いづらいのではないかという印象を持ちました。

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KIR4.1

By , 2014年2月25日 5:50 AM

2012年7月12日の New England Journal of Medicine誌に、多発性硬化症の患者血清中に存在する抗体を検索し、抗 KIR4.1抗体が同定されたという論文が掲載されました。

Potassium Channel KIR4.1 as an Immune Target in Multiple Sclerosis

この抗体は、調べた多発性硬化症患者の 46.9% (397名中 186名) で検出されるという驚きの結果でした。多発性硬化症の原因についてはこれまで議論のあるところでしたが、その解明に大きな影響を与える研究であることは間違いありません。

そして 2014年2月21日に、アメリカ神経学会のサイトにプレスリリースが掲載されました。

Antibody May Be Detectable in Blood Years Before MS Symptoms Appear

なんと、多発性硬化症を後に発症する患者では、臨床症状が出現する数年前から抗 KIR 4.1抗体の抗体価が上昇しているそうです。この研究は 2014年4月26日~5月3日にフィラデルフィアで行われる第 66回アメリカ神経学会年次総会で発表される予定とのことです。

多発性硬化症の治療薬は開発ラッシュが続いていますが、病因研究においても breakthroughが来ているのかなと思います。

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多系統萎縮症とリファンピシン

By , 2014年2月23日 4:14 PM

多系統萎縮症 (multiple system atrophy; MSA) は、神経内科外来ではそれほど珍しくない、進行性の神経変性疾患です。

根本的な治療法はありませんが、MSAモデルマウスに抗菌薬リファンピシンを用いた実験で、この疾患と関係の深い α-synuclein fibrilsの形成を抑制されることが示され、臨床試験が行われました。2014年2月5日、Lancet neurology誌の online版に論文が公開されています。

Efficacy and safety of rifampicin for multiple system atrophy: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial

結果は・・・残念。進行抑制効果は示せませんでした。続く研究に期待します。

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Restless legs syndrome

By , 2014年2月22日 7:55 AM

Restless legs syndrome (下肢静止不能症候群, むずむず脚症候群) は、下記診断基準にあるような特徴を有する疾患です。さまざまな媒体で話題になり、その臨床的特徴とインパクトのある名称で、現在ではかなり一般に知られた疾患になっていると思います。

Table 1 診断基準
1. 脚を動かしたいという強い欲求が存在し,また通常その欲求
が,不快な下肢の異常感覚に伴って生じる
2.静かに横になったり座ったりしている状態で出現,増悪する
3.歩いたり下肢を伸ばすなどの運動によって改善する
4.日中より夕方・夜間に増強する

治療には pramipexole (ビ・シフロール) や L-Dopa製剤などが用いられますが、2014年2月13日の New England Journal of Medicine誌に、Pregabalin (リリカ) と pramipexoleの比較試験が掲載されていました。

Comparison of Pregabalin with Pramipexole for Restless Legs Syndrome

Patients were randomly assigned to receive 52 weeks of treatment with pregabalin at a dose of 300 mg per day or pramipexole at a dose of 0.25 mg or 0.5 mg per day or 12 weeks of placebo followed by 40 weeks of randomly assigned active treatment. (略)

A total of 719 participants received daily treatment, 182 with 300 mg of pregabalin, 178 with 0.25 mg of pramipexole, 180 with 0.5 mg of pramipexole, and 179 with placebo. Over a period of 12 weeks, the improvement (reduction) in mean scores on the IRLS scale was greater, by 4.5 points, among participants receiving pregabalin than among those receiving placebo (P<0.001), and the proportion of patients with symptoms that were very much improved or much improved was also greater with pregabalin than with placebo (71.4% vs. 46.8%, P<0.001). The rate of augmentation over a period of 40 or 52 weeks was significantly lower with pregabalin than with pramipexole at a dose of 0.5 mg (2.1% vs. 7.7%, P=0.001) but not at a dose of 0.25 mg (2.1% vs. 5.3%, P=0.08).(略)

最初の 12週間はプラセボ群、pramipexole 0.25 mg群, pramipexole 0.5 mg群, pregabalin 300 mg群にランダムに割付け、その後プラセボ群を抜き出してランダムに薬剤を割付けるという試験デザインでした。Primary endpointは、12週の時点での pregabalinとプラセボの比較と、40ないし 52週時点での pregabalinと pramipexoleの比較でした。

結果ですが、12週の時点で、pregabalin 300 mg群は、プラセボ群と比較して、IRLS score並びに CGI-evaluationを有意に改善を示しました。一方で、pramipexole 0.25 mg群では有意な改善はなく、pramipexole 0.5 mg群で改善を認めました。非劣性評価において、12週及び 52週時点での IRLS scoreは、pramipexole 0.25 mg群ないし 0.5 mg群と比較して、pregabalin 300 mg群で大きな改善を認めました。

40週ないし 52週の時点における augmentation (薬剤内服中の症状の増悪) は、pregabalin 300 mg群で pramipexole 0.5 mg群とくらべて有意に優れていましたが、pramipexole 0.25 mg群と比較すると有意差はありませんでした。

副作用は、pramipexole 0.25 mg群の 18.5%, 0.5 mg群の 23.9%、pregabain 300 mg群の 27.5%で見られました。pregabalin 300 mg群の一般的な副作用は、浮動性めまい、眠気、倦怠感、頭痛であり、pramipexole群の一般的な副作用は頭痛、吐き気、倦怠感でした。

上記のような論文の記載を見ると、効果及び augmentationの予防において、pregabalinの方が優れた治療法に思えます。

但し注意が必要で、この臨床研究は、pregabalinを発売するファイザー社がスポンサーです。

もう一点気になるのが投与量です。高齢者に pregabalin 300 mgという量は、副作用を起こしやすいと多いと思います。何故このような投与量なのか?実は 2010年の neurology誌に載ったプラセボ対照試験は、”flexible-dose schedule” という容量設定で行われ、治療効果は平均 139 mg/dayから既に認められたものの、322.50 mg/day (±98.77) という量が最も効果的であったそうです。こうしたこともあり、このような投与量で臨床試験がなされたのではないかと思います。ちなみに Neurology論文については、物言いが付いており、“量が多くて副作用が出やすいから、もっと少ない量で検討すべき (The mean effective dose was 337.5 (105.6) mg/day, which is high and could result in sedation, weight gain, and ataxia. A lower dose should have been considered)” と letterが寄せられていました。余談ですが、その letterには、”Level A evidence is available for cabergoline, levodopa, transdermal rotigotine, and gabapentin. Level B evidence is available for pramipexole, bromocriptine, valproate, carbamazepine, clonidine, oxycodone, and clonazepam.” と治療薬のエビデンスレベルが簡単に紹介されています。

さて、 話が脱線しますが、pregabalinは最近では神経障害性疼痛のみならず、てんかん治療薬としても臨床研究が行われ、2014年2月18日に neurology誌に掲載された論文でも、それなりの成績を残しているようです。もともと神経障害性疼痛に用いられていたカルバマゼピン (テグレトール)、ガバペンチン (ガバペン)も抗てんかん薬であったことを考えると、さもありなんという感じです。

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teriflunomideと cladribine

By , 2014年2月14日 6:10 AM

2014年1月23日、Lancet neurology誌に、以前紹介した多発性硬化症 (MS) の経口薬 teriflunomideの第三相試験の結果が出たようです。

Oral teriflunomide for patients with relapsing multiple sclerosis (TOWER): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial

 18~55歳、EDSS 5.5以下の再発寛解型多発性硬化症患者 1169名に対して、placebo, teriflunomide 7 mg, 14 mgをそれぞれ割付け、主要エンドポイントを年間再発率として評価しました。年間再発率はプラセボ群 (0.50) の方が、teriflunomide群 (14 mg 0.32, 7 mg 0.39) より高いという結果でした。二次エンドポイントである障害の蓄積は、teriflunomide 14 mgでリスク減少がみられましたが、 7 mg群では placebo群と比較してリスク減少効果はみられませんでした。最も多い副作用は肝機能障害、脱毛、頭痛でした。4名の死亡がありましたが、薬剤との関連はないと判断されました。

 個人的には、teriflunomide 14 mg群で腸結核を発症した患者がいること、 teriflunomide 14 mg群での死因が自殺、敗血症であること (論文では薬剤との因果関係はないと結論づけられている) ことは少し引っかかります。この手の薬は沢山開発されていて、どれも効果は大差ないように思うので、できるだけ副作用のない薬を選びたいものです。

2014年2月4日の Lancet neurology誌には、多発性硬化症の経口薬 cladribineの第三相試験の結果も出ていました。とはいっても、clinically isolated syndromeの段階での介入試験のようです。

Effect of oral cladribine on time to conversion to clinically definite multiple sclerosis in patients with a first demyelinating event (ORACLE MS): a phase 3 randomised trial

18~55歳、最初の脱髄イベントから 75日以内で、かつ臨床的に無症候性の病変 (3 mm以上) が 2個以上ある、EDSS 5点以下の患者 616名が対象でした。患者はそれぞれ cladribine 5.25 mg/kg, 3.5 mg/kg, placeboに割り付けられました。主要エンドポイントは 96週後に臨床的に確実な多発性硬化症 (clinically definite MS) になっているかどうかとしました。cladribineによるリスク減少 (ハザード比) は、cladribine 5.25 mg/kgで 0.38, 3.5 mg/kgで 0.33でした。副作用としては、cladribine群で placebo群と比較してリンパ球減少症がみられました。

 多発性硬化症の経口薬は次から次へと開発が進んでいて、もう把握しきれないくらいです。いくつかの薬剤は、近いうちに日本に入ってくるものと思われます。患者さんにとって BESTの選択ができるように、論文を批判的にチェックしながら、使用可能になる日を待ちたいと思います。

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血液ガスをめぐる物語

By , 2014年2月13日 7:55 AM

血液ガスをめぐる物語 (諏訪邦夫著、中外医学社)」を読み終えました。諏訪邦夫の血液ガス博物館というサイトをベースにした本です。

体内の酸素をいかに測定するか?古くはクロード・ベルナールが、 1851年に、一酸化炭素が血液と結合して、酸素運搬能を失わせて動物を殺す作用を発見し、この事実を用いて血液から酸素を遊離させて測定する方法を提案したことがあるそうです。しかし実際に測定できるようになるには多くの研究が必要でした。フィック (拡散の法則)、ボーア (ボーア効果: 酸素解離曲線への二酸化炭素の影響)、ヒル (酸素解離曲線)、クロー (マイクロトノメター)、ヴァン=ストライク (酸素と二酸化炭素の含量測定法)、ライリー (気泡法 PO2測定)、ホールデン (ホールデン効果:二酸化炭素解離曲線への酸素の影響) らが研究を繰り広げました。この頃は、遊離させた酸素や二酸化炭素を抽出して含量を測定する方法などがとられていました。

その後は、溶液に電流を流して性質を推定する方法を用いて、pH, 酸素、二酸化炭素の測定が行われました (例えば、電流変化は酸素分圧変化にほぼ比例するため、これにより分圧測定が広まることにもなりました)。そのためには電極が重要で、「分極を防ぐ」「較正可能にする」ことに努力が注がれたようです。最初は水素電極や水素ガス/プラチナ電極など、最終的には酸素電極、二酸化炭素電極が開発されました。信頼出来る二酸化炭素電極の開発には時間がかかり、それまでもっぱらアストラップ法が用いられていました。こうして電極が揃ってきて、セブリングハウスらにより、血液ガス分析装置が完成しました。その機械は、現在ワシントンにあるアメリカ自然博物館の地階に展示されているそうです (商品化へはまだ道のりあり)。

また、忘れてはいけないのがパルスオキシメーターです。この機械は、酸素飽和度を持続的にモニターするものですが、日本人が開発したことを知る人はあまりいないかもしれません。1970年、日本光電の青柳卓雄氏は色素希釈法による心拍出量測定装置の開発で、色素の拍動に悩まされたのがきっかけで、パルスオキシメーターの原理に思い至り、特許を申請しました(青柳氏本人による開発秘話)。日本光電の試作機は、耳朶で信号を得るものでした。ミノルタの山西昭夫氏は、指尖容積脈波の波高値の物理的意味の考察から同様の着想に達し、1ヶ月遅れで類似特許を申請し、こちらは国際特許のみ成立しました。ミノルタの商品は、指先で信号を得るものでした。麻酔科医のニュー氏は、この装置の有用性に気付き、麻酔科医の立場を放棄して、ネルコア社を立ち上げ、装置の普及に尽力しました。著者は、この何万人もの命を救ってきた装置の開発と普及に対し、青柳氏とニュー氏にノーベル賞を与えるべきだと考えているようです。

ざっと血液ガス測定の歴史を紹介しましたが、本書にはもっともっと詳しく書いてあります。著者が歴史的論文の多くを読み込んでいることに感服しました。本書には 1870年のフィックの論文の全訳など、他ではお目にかかれないものも収載されています。麻酔科医など、血液ガス分析に関心のある方は是非読んでみてください。

以下、備忘録

・ボーアの死腔に関する論文は有名だが、ボーアの意図は違って、死腔を予め解剖学的に計測しておいて、それを逆に使って肺胞気組成を出そうとした。

・ヘンダーソン (ヘンダーソンーハッセルバルフ式でお馴染み) が動物小屋を研究室に改造して運営するのに 5000ドルくらい必要だった時、ヴァン=ストライクがロックフェラー二世に無心したら、「5000ドル程度ならヘンダーソン教授が自分で何とかするさ。もし 500万ドル必要というのなら考えよう」と答えたらしい。

・ホールデンは酸素療法を開始した人としても評価されている。ホールデンは戦時中の 1917年に毒ガスに対する酸素療法の有効性を唱え、実行した。

・pHという単位を提唱したソーレンセンは、水素電極を用いて体液の水素イオン濃度を測定して、50 x 10-9モルという値をだした。この数値は、pH 7.3に相当する。

・ハーバーが開発したハーバー法により、窒素肥料が手に入りやすくなり農業に大きな影響を与えた。そのハーバーがガラス電極を開発し、水素電極にとってかわった。ハーバーは毒ガスの研究にも携わり、反対した妻を自殺で失った。ノーベル賞の受賞講演では「戦争に勝者はいない。犠牲者だけが残る」という言葉を残している。

・セブリングハウスは、第二次大戦中は MITでレーダーの研究を行っていて、原爆投下を機会に医師になる最終決断をした。コロンビア大学医学部の学生時代に、横隔神経刺激装置を製作して数台販売した。

・急性に CO2が上昇する場合、PCO2 10 mmHgあたり [HCO3-] 1 mEq/l上昇すると概算できる。ここから大きく外れていたら、非呼吸性の要素が加わっていると解釈する。慢性に CO2が上昇する場合、PCO2 10 mmHgあたり [HCO3-] 4 mEq/lの上昇と概算できる。[HCO3-] の上昇の 3 mEq/l分は腎臓が働いたと解釈できる。

・1987年の昭和天皇の手術の際、東京大学病院の手術室にはパルスオキシメーターが 4台しかなく、それを持ち出すのは躊躇されて手術時には使わなかったが、結局術後に必要と判断して 1台を宮内庁病院に移動した。

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Fahr病の遺伝子

By , 2014年2月4日 5:56 AM

Fahr病特徴的な CT画像は、一度見ると忘れません。研修医の頃見たときは結構衝撃的でした。Movement disorders誌をパラパラ眺めていたら (とは言っても online siteですが)、 2014年1月3日付で Fahr病の新規遺伝子 PDGF-Bが HOT TOPICSとして紹介されていました。

A New Gene for Fahr’s Syndrome – PDGF-B

Fahr病 (Familial idiopathic basal ganglia calcification; IBGC) は、1850年に Delacourが最初に報告し、1930年が Fahrが病理学的に基底核を中心とした脳石灰化を記載しました。14q11.2 (IBGC1), 2q37 (IBGC2), 8p21.1-q11.13 (IBGC3), 5q32 (IBGC4) に遺伝子座が報告されています。

2013年1月、exome sequencingを用いて、IBGC4に platelet-derived growth factor receptor β (PDGF-Rβ) をコードする PDGFRB遺伝子が報告されました。さらに同年8月、PDGF-Bをコードする Pdgfb遺伝子 (22q13.1) のナンセンス及びミスセンス変異が報告され Pdgfbの低機能対立遺伝子を持つマウスで、脳石灰化が確認されました。面白いことに、PDGF-Bは PDGFRβの主要 ligandであるとのことです。

2013年2月に報告されたのが IBGC3の SLC20A2遺伝子です。家族性 IBGCの 41%に SLC20A2変異があるそうです。

気になるメカニズムですが、内皮の PDGF-B欠乏は周皮細胞と血液脳関門の異常を引き起こすとされています。また、SLC20A2はナトリウム依存性リン輸送体ファミリーであり、無機リン酸塩の局所的な凝集がリン酸カルシウム沈着の原因となるようです。両者のメカニズムは違っても、石灰化のパターンに違いはなさそうだということです。

私が研修医時代には原因不明であった疾患も、徐々に分子メカニズムが解明されてきていることを初めて知り、新鮮でした。

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