Category: 医学と医療

風疹予防接種啓発動画

By , 2013年6月15日 10:19 AM

少し前から、風疹の流行がニュースになっています。特に妊婦が感染すると、胎児が多奇形を伴う先天性風疹症候群に罹患するリスクがあります。

プライマリ・ケア連合学会が、風疹予防接種啓発動画を作成しました。演者は、秋田での当直などプライマリ・ケアを中心とした場面で私が普段から色々相談させて頂いてる守屋章成先生です。現在ホットな話題ですので是非御覧ください。微妙な関西訛りが良い味出しています (^^;

 日本プライマリ・ケア連合学会

 ワクチンに関するワーキンググループ

 風疹予防接種啓発動画 前半 後半

※この動画は医療従事者向けです。

2013.6.21追記

この動画の発表と同じタイミングで、ワクチン不足が明らかになったそうです。

風疹ワクチン、夏に不足の可能性…流行が影響

妊婦がかかると胎児に障害が出る恐れのある風疹が流行している中、厚生労働省は14日、風疹のワクチンが夏に不足する可能性があるとして、妊婦の周りの人や妊娠希望者らが優先して接種を受けられるよう、全国の自治体に通知した。

大人が受ける風疹の任意接種の接種者数は、例年は年にのべ約30万人だが、流行を受けて今年5月は1か月でのべ約32万人に上った。同省は、現在の在庫数やメーカーの出荷計画などから今後の在庫数を推計した。

その結果、6~9月に月にのべ35万人が接種した場合、1人の接種回数を一定程度の免疫を獲得できるとされる1回とすると、8月末に3万1700人分、9月末に1万8200人分が不足するとみられた。

(2013年6月15日 読売新聞)

ということで、プラクティスを変える必要があります。岩田健太郎先生が書かれているブログが参考になります。当面はこのような方法をとるしかないのではないかと思います。

(今なら)MRワクチンは1回だけでよい

風疹ワクチン不足については、こちらの記事も御参照ください。

平成のワクチン行政、最大のピンチの夜(という電報、いやメールが)

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Find the perfect journal for your article

By , 2013年6月13日 7:47 AM

科学雑誌を出版する Elsevier社が無料の新サービスを始めました。論文のタイトルと要約を入力すると、投稿に適した雑誌を教えてくれるそうです。

Find the perfect journal for your article

結果は一覧表で出力され、Impact factorとかも載っていて使いやすいです。周囲の医師たちの評判も上々です。

最近アクセプトされた自分の論文で試してみたところ、名前も聞いたことのない雑誌と共に Molecular Cellとか超 1流誌も出ていて、「いくらなんでもそれは無理だろ~」と思いました。参考程度に使うのが良さそうです。

こうしたサービスは確かに素晴らしいものですが、Elsevierが過去にやろうとしていたことを考えると、この会社に対するネガティブなイメージはなかなか払拭できません。

(参考)

医学雑誌の偽善─死の商人が売りさばくトップジャーナル

医学雑誌の偽善:死の商人が売りさばくトップジャーナル─続報

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ALS trio

By , 2013年6月6日 6:50 AM

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) で話題になっていた論文を医局の抄読会で読みました。

Exome sequencing to identify de novo mutations in sporadic ALS trios

Nature Neuroscience (2013) doi:10.1038/nn.3412
Received 05 March 2013 Accepted 01 May 2013 Published online 26 May 2013

Source

Department of Genetics, Stanford University School of Medicine, Stanford, California, USA.

Abstract

Amyotrophic lateral sclerosis (ALS) is a devastating neurodegenerative disease whose causes are still poorly understood. To identify additional genetic risk factors, we assessed the role of de novo mutations in ALS by sequencing the exomes of 47 ALS patients and both of their unaffected parents (n = 141 exomes). We found that amino acid-altering de novo mutations were enriched in genes encoding chromatin regulators, including the neuronal chromatin remodeling complex (nBAF) component SS18L1 (also known as CREST). CREST mutations inhibited activity-dependent neurite outgrowth in primary neurons, and CREST associated with the ALS protein FUS. These findings expand our understanding of the ALS genetic landscape and provide a resource for future studies into the pathogenic mechanisms contributing to sporadic ALS.

まず抄読会での配布資料 (PDF file) を下にアップします。

抄読会 ALS

内容を簡単に要約すると、「孤発性 ALSで de novo mutationを起こした遺伝子を調べるため、47 人の患者とその健常な両親の遺伝子解析をした結果、SS18L1 (CREST) を同定した。CRESTは、FUSとも関係がありそうだ」ということになります。Figure 2dの免沈の結果の解釈など、少し理解が難しいところはありますが、大筋としては納得できる内容でした。

今回の解析では、SRCAPにも de novo mutationがみられました。SRCAPも CREST同様 CBP-interaction transcriptional co-activatorであり、考察では ALSにおけるヒストンアセチル化蛋白 CBPを介した転写制御の重要性が指摘されています。実際、FUSも CBPを介して転写制御を行なっているそうです。

ちなみに FUSは BAF複合体 (CRESTはこの複合体を形成するサブユニットの一つ) の表面と結合していることが推測されていますが、BAF複合体 15のサブユニットのうち、8つの変異で Coffin-Sirisという先天性奇形 (発達障害、精神発達遅滞、小脳症、coarse facial features、てんかん、形態異常) が起こるそうです。

著者らは、今回のようなアプローチ法 (「健常な両親と病気の子供の組み合わせ=trio」 を解析することで、de novoの変異を探す方法) がパーキンソン病やアルツハイマー病でも応用出来るのでないかとしています。

最後に、本研究で私が特に興味深かった点を列挙しておきます。

①ALSの原因として今回見つかった遺伝子 CRESTが転写制御に関与していること

ALS原因遺伝子の多くが RNA代謝に関与していることが知られています。そのため、ALS研究のなかで現在最もアツく研究されている領域の一つが RNA代謝で、「RNA代謝」という概念には転写制御が含まれます。今回転写制御に関する遺伝子 CRESTが同定され、さらに別の ALS原因遺伝子 (※RNA代謝に関係することが知られている) である FUSと関係しているというのは、重要な意義があると思います。

②CRESTが prion-like domainを有すること

ALSの原因遺伝子のいくつかが prion-like domainを持ち、プリオンのように凝集しやすいことが指摘されています。どうやら CRESTも prion-like domainを持つようです。逆に考えると、prion-like domainを持つ遺伝子を網羅的に解析すれば、ALSを含む変性疾患の原因遺伝子がたくさん同定できるのかもしれない・・・という妄想が湧いてきます。

③trioを解析するという手法

著者らが指摘しているように、原因不明の様々な疾患で、この手法が応用できる可能性があります。

(参考)

TDP-43とFUS/TLS

hnRNPA2B1とhnRNPA1

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ACP日本支部年次総会 2013

By , 2013年5月30日 4:07 PM

ACP日本支部年次総会 2013に行って来ました。製薬会社が一切タッチしない手作りの学会運営で、内容も素晴らしく、とても有意義な時間を過ごすことが出来ました。

 

5月24日 (金)

外来を終えて京都へ。22時頃 methyl先生と合流してまず京都国際ホテルにチェックイン。オステリア・エ・バールに食事に出かけました。深夜まで空いていたので助かりました。

5月25日 (土)

「臨床推論ケースカンファレンス~~綜合内科医の思考プロセスを探る~」 徳田安春

症例は、化膿性関節炎→敗血症性ショック+DKA→意識消失→交通外傷。小出しに集まる情報を元に、小グループでディスカッションしながら診断を進めていきました。小グループに学生がいて、学生の頃から勉強に来て意識が高いなと思いました。といいつつ、一緒のグループの研修医が可愛かったことが私にとっての一番の関心事だったのですが・・・ (^^;

Tipsとして、最近では糖尿病ベースの group G streptococcus感染症を診断することが多い、関節炎は 6Kと覚えると良い・・・というのがありました。

急性の 3K:化膿性 (細菌、ウイルス、真菌)、結晶誘発性 (痛風、偽痛風), 血腫 (関節内骨折、血友病などの出血傾向)

慢性の 3K:膠原病 (SLE), 関節リウマチ, 血清反応陰性 (ライター症候群、強直性脊椎炎、ベーチェット病、炎症性腸疾患)

講義が終わった後、桿状核球、分葉核球を知らない高齢の先生に、隣の席の医師が丁寧に教えてあげていて、アットホームな雰囲気を感じました。

 

“Snap diagnosis” Hiroshi Sudo

全て英語での講演。最初に、”The art of medicine is observation” というオスラーの言葉が紹介されました。爪についての話が多かったです。爪については、「爪 -基礎から臨床まで」という本が詳しいそうです。

1. Spoon nail: iron deficient anemia

2. Terry’s nail: hepatic cirrhosis, “Ground glass” like nail bed, no lunula

3. Lidsay nail: chronic kidney disease

4. Bean’s line: severe systemic disease (severe infection, myocardiac infarction), history of chemotherapy

5. Osler’s node, Roth spot, petechia, Janeway lesion, etc: peripheral stigma of endocarditis

6. Palmar crease pallor: shock vital

7. conjunctival rim pallor: anemia, sensitivity 10%, specificity 99%, LR +16.7

8. severe anemia looks like icterus.

9. asterixis: ≒metabolic encephalitis, CO2上昇でも出現しうる。baseline PaCO2 + 15 torr以上の CO2貯留で出現しうる。

10. Look at Jugular veneous wave: クラシカルには胸骨前面 (angle of Louis) より頸静脈を 5 cm挙上して怒張しているかどうか

11. Tachycardia: 鎖骨上部で拍動が見える (NEJM, 1998)

12. Goiter/Hyperthyroidemia: 喉を横から見て、正常では線状、goiterがあると前方に凸。

13. Hypothyroid speech:「 調子の悪い酔った人が風邪にかかり口の中にスモモを含んでの声を調子の悪い蓄音機で聴くような・・・」

14. Delayed ankle reflex (hypo thyroid, sensitive), Brisk ankle reflex (hyper thyroid, specific)

15. 血糖値チェックの針跡: endocarditisの peripheral stigmaと間違えないように

16. Auscultatory percussion of the bladder

17. Visible peristalsis: small bowel obstruction

18. “Sippu” indication most painful area: 湿布は患者さんが最も痛い場所を教えてくれる

19. ズボン膝部が破れている/汚れている: sudden loss of consciousness→cardiac syncope

20. 尿の色 (確か、ダ・ヴィンチのカルテに載っていたような尿の色調からの鑑別)

須藤先生の turning pointは、”on the bedside teaching” という論文だったそうです。あと、Sapiraの「身体診察のアートとサイエンス」はお薦めです。

 

「綜合内科医が知っておくべき膠原病診療のピットフォール~身体診察から鑑別疾患まで」 高杉潔

高杉先生の講談のように “聞かせる” 講演。関節所見の取り方は、高杉先生が作った DVDが入手可能なので、中外製薬の MRに聞くと良いそうです。Tocilizumabの治験で、診察所見の標準化をする時に作ったもの。以下、個々の関節について。

1. 頚椎: 口の中に指を入れて、硬口蓋に沿って示指先を伸ばせば自然に環椎の前結節に突き当たる筈。ただし患者さんにやるときは要マウスピース (噛まれないように)

2. 顎関節: 顎関節発症 RAは非常に稀。でもとても痛い。

3. 輪状披裂関節

4. 肩関節: 肩峰下・三角筋下滑液包の炎症が多い。hanging down stretchが有用。またbiceps long headの腱鞘炎も多い。

5. 肘関節: ① dimpleの触診大事。②肘頭滑液包炎, ③olecranon bursitisは肘をつくと起こる。関節との交通はない。④テニス肘、ゴルフ肘はステロイドを使わなくても、手で強く圧迫すると良くなる。阻血性?

6. 手関節: ①de Quervain diseaseは APL/EPBの腱鞘炎, ②MCP/PIP関節の腫脹は視診で確認可能なことが多い。

7. 股関節: 内旋運動が障害される

8. 膝関節: ①鵞足炎 (Anserine Bursitisは盲点になりやすい), ②膝窩部も診る, ③ Hamstringsの拘縮で歩容がおかしくなることがあり、ストレッチすると良くなる

9. 足関節:①Chopart’s joint, Lisfranc jointは部位を知っていれば正面から触れる, ②MTP 罹患頻度が極めて高い

次いで、岸本暢将先生、萩野昇先生による症例提示。サルコイドーシス、PANと紛らわしかった結核性動脈瘤, PMR (PMRの 15%は赤沈正常), 掌蹠膿疱症など。

血管炎の国際分類が変わったことなども話題にのぼりました (2012 Revised International Chapel Hill Consensus Conference Nomenclature of Vasculitides)。

講演が終わってから、夜のレセプションまで京都大学周辺を散策しました。レセプションでは、研修医時代にお世話になった先生 (今ではすっかり大御所) に会うことが出来て話し込みました。終わってからは、6名くらいで佳久に移動して飲み直しました。ACP日本支部年次総会で講演される先生が何名かいて、濃い飲み会でした。

5月26日(日)

「臨床研究デザインの指標~研究デザイン 7つのステップ~」 栗田宜明, 福間真悟, 渡邉 崇

臨床研究の道標(みちしるべ)―7つのステップで学ぶ研究デザイン」という本とほぼ同じ内容。小グループでリサーチクエスチョンを実際に研究デザインしてみて、やってみるといかに難しいかよく分かりました。知識より、それが収穫でした。

 

 「膠原病の検査の見方~乱れ打ちは今日からやめよう!~」 萩野昇, 岸本暢将

流れるような講義でした。いくつか備忘録としてメモしたのが下記。でも、一覧表をさっと示された時とかメモが取れませんでした。やっぱり乱れ打ちはしちゃいそうです (-_-;)

・抗核抗体の検査法としては Immunofluorescenceが最も優れている。EIAは勧められない。

・抗核抗体のパターンによって、対応する疾患が異なる

・中年女性の 1/4が抗核抗体陽性になる (健常人で 1:40が 32%, 1:80が 13%, 1:320が 3%)

・抗核抗体陽性のときは、抗ds-DNA抗体、抗RNP抗体, 抗Sm抗体, 抗SS-A抗体, 抗SS-B抗体をチェック。

・抗核抗体陰性のときは、抗 ds-DNA抗体は必ず陰性。抗SS-A抗体, 抗SS-B抗体陽性は時として存在する。

・抗Sm抗体はだいたい抗 U1-RNP抗体と共に陽性となる、抗SS-B抗体はだいたい抗 SS-A抗体と共に陽性となる。

・1987年の関節リウマチ (RA) 分類基準では、早期関節リウマチの 13%しか陽性にならない。そこで ACR/EULAR 2010 Criteria for RAが出来たが、適応するには明らかな滑膜炎の存在、他の疾患によらない・・・というのが前提。

・リウマチ因子を測定する時は、RF定量を選ぶ。IgG-リウマトイド因子は選ばない。

・リウマチ因子の陽性率は、RA発症 3ヶ月 33%, 4-12ヶ月 70~80%, Sjogren 90%, 健常人 (60歳以上) 24%・・・であり、特異度が問題になる。

・リウマチ因子は疾患活動性の指標。ただし、リウマチ性血管炎では別。

・抗CCP抗体は、感度は RFと同じだが、特異度が高い。でも他の collagen diseaseや結核などで陽性になることもある。

・急性 B型肝炎の前黄疸期に関節炎をきたすことがある。

・血管炎での ANCAの陽性率は、GPA (旧 Wagner症候群) 90%, EGPA 40~50%, MPA 70%くらい。

・免疫抑制剤を使う前は Tbの家族歴を聞く。

・赤沈の基準値 (上限) は、男性 年齢/2, 女性 (年齢 + 10)/2

・ヘパリン、経口避妊薬で赤沈が上がることがある。

・赤沈高値、CRP低値では、高ガンマグロブリン血症 (多発性骨髄腫、クリオグロブリン血症、IgG4関連疾患)、SLE, Sjogren症候群などを考える。

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鼻の先から尻尾まで

By , 2013年5月28日 8:00 AM

鼻の先から尻尾まで 神経内科医の生物学 (岩田誠著、中山書店)」を読み終えました。

「チンパンジーとヒトの嚥下の違い」とか、「4億年前のケファラスピス (Cephalaspis) からヒトの頭はどのように進化を遂げたか」という視点で人体を考えたことがなかった私にとっては非常に衝撃的な内容でした。様々な表現型が提示されながら、ゲーテが言う所の『』が解き明かされていくのを読みながら、感動を覚えました。こういう眼でヒトが見られれば、日々の臨床がもっと楽しくなることは間違いないと思います。

著者が主張するのは観察すること、体験することの重要性です。

私がこんなお遊びのようなことを教室で行ったのは、自分の身体機能の観察こそが臨床観察の基本だということを、学生たちに知ってほしかったからであり、患者さんの診察に入る前に、まずは自分の体はどうなっているのか、自分の体の働きはどうなっているかを、とことん観察する習慣を持ってほしいと思ったからである。物事をじっと観察すると、いくらでも面白い事実に気づくことが出来る。教科書に書かれている知識としてではなく、自らが体験した事実としての知識を身につけるような教育を行わなくては、良医は育てられないというのが、私の教育の信条だ。

本書は各項数ページの読みやすいエッセイ集です。多少の医学的、生物学的知識は必要ですが、理解できる範囲で読んでも、楽しめると思います。読むと「神経内科ってこんな面白いものを見ているんだ」と感じて頂けると思います。お薦めの一冊です。

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医学統計ライブスタイル

By , 2013年5月23日 7:37 AM

医学統計ライブスタイル (山崎力著、SCICUS)」を読み終えました。

山崎力先生の講演は以前一度聴いたことがあり、過去のブログでも紹介したことがあります。

よく製薬会社のパンフレットで見かけるような臨床試験が批判的に吟味されており、「こうやって解釈するのか」というのがすごく勉強になりました。

臨床試験は医師の判断に大きな影響を与えるため、その結果の解釈は非常に大事です。臨床医必読の本だと思います。

最後に、個人的経験談から。現在悪い意味で話題の JIKEI HEART Studyですが、数年前、ノバルティス社の医薬情報担当者 (MR) に、「JIKEI HEART Studyは途中で primary end point変えているし、実薬/プラセボどっち飲んでいるか知っていてエンドイントが入院だから、ちょっと信用出来ないんじゃないの?」と聞いたことがあります。その時、MRが自信満々に「○○という理由です。これ以上は、当社の統計解析の専門家が説明できますけど、機会をセッティングしますか?」と答えました。私はそこまで確信を持って質問したわけではなく、統計解析の専門家と議論しても丸め込まれるだけなので断りましたが、本書ではかなり厳しく批判されており、当時本書を読んでいればもう少し自信を持って主張出来たのになぁと思いました。

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CMT1BとGadd34

By , 2013年5月16日 7:59 AM

遺伝性末梢神経障害にはなかなか有効な治療法がありませんが、、2013年4月1日の Journal Experimental Medicine誌に興味深い論文が掲載されていました。

Resetting translational homeostasis restores myelination in Charcot-Marie-Tooth disease type 1B mice

Maurizio D’Antonio1, Nicolò Musner1, Cristina Scapin1, Daniela Ungaro2, Ubaldo Del Carro2, David Ron3,4, M. Laura Feltri1, and Lawrence Wrabetz1

P0 glycoprotein is an abundant product of terminal differentiation in myelinating Schwann cells. The mutant P0S63del causes Charcot-Marie-Tooth 1B neuropathy in humans, and a very similar demyelinating neuropathy in transgenic mice. P0S63del is retained in the endoplasmic reticulum of Schwann cells, where it promotes unfolded protein stress and elicits an unfolded protein response (UPR) associated with translational attenuation. Ablation of Chop, a UPR mediator, from S63del mice completely rescues their motor deficit and reduces active demyelination by half. Here, we show that Gadd34 is a detrimental effector of CHOP that reactivates translation too aggressively in myelinating Schwann cells. Genetic or pharmacological limitation of Gadd34 function moderates translational reactivation, improves myelination in S63del nerves, and reduces accumulation of P0S63del in the ER. Resetting translational homeostasis may provide a therapeutic strategy in tissues impaired by misfolded proteins that are synthesized during terminal differentiation.

Charcot-Marie-Tooth病 (CMT) は遺伝性末梢神経障害です。遺伝形式、障害のタイプ (軸索型/脱髄型) によりいくつかの subtypeに分類されます。人種差はありますが、一般的には常染色体優性遺伝の脱髄型である CMT1Aの頻度が最も高いことが知られています。今回の論文で取り上げられているのは、同じく常染色体遺伝の脱髄型である CMT1Bです。

CMT1Bは Myelin protein zero (MPZ; P0) の異常で発症します。P0はミエリンを形成するシュワン細胞の最終分化の間に合成される蛋白質です。ミエリン蛋白の 20~50%を占めます。膜同士の密着化、機能維持に関与するとされています。

著者らは P0の 63番目のセリンを欠失させた S63delマウスを用いた実験を行いました。S63del変異は、脱髄型ニューロパチーである CMT1Bの原因となります。変異マウスでは、P0 S63delがミエリン鞘で検出されず、小胞体に留まり、そこで凝集して小胞体ストレス応答 (UPR) の原因となっていました。これは、この変異が “toxic gain of function” であることを示唆しています。小胞体ストレス応答のメディエーターである Chop遺伝子を欠損させると、S63delマウスの運動機能が完全に回復し、脱髄も改善します

著者らは、小胞体ストレス応答と CHOPが果たす役割を調べるため、生後 28日の時点で、Chopノックアウトマウスに対して tunicamycin (UPRの activator) 投与後の転写解析を行い、CHOPの標的遺伝子として最終的に Gadd34を同定しました。小胞体ストレス応答が起こると、eIF2αがリン酸化され、mRNA翻訳が低下しますが、Gadd34は eIF2αを逆に脱リン酸化して翻訳の低下を防ぐ役割をしています (Gadd34は PP1-phosphatase複合体の活性化サブユニット)。

Chop遺伝子を欠失させると S63delマウスの運動機能が回復することはわかっていましたが、Gadd34をノックアウトしても同じようにS63delマウスの表現型が回復することが、神経伝導検査や病理学的評価で確認されました。また、Gadd34による eIF2αの脱リン酸化を阻害する Salubrinalという小分子が、S63delマウス胎児由来の後根神経節培養細胞の脱髄を抑制し、S63delマウスの表現型を回復することもわかりました。eIF2αのリン酸化は misfolded protein (うまく折りたたまれず、きちんとした 三次構造がとれない蛋白質) に関連したニューロパチーの治療ターゲットになりそうです。

ちなみに、Saxenaらが筋萎縮性側索硬化症 (ALS) のモデルマウスに対して Salubarinalを用いた実験を行った際、それなりの効果が認められたそうです。一方で、Morenoらは、Gadd34の過剰発現はプリオンによる神経変性に保護効果を示し、salubrinal処理をしたマウスでは神経の生存に悪影響がでることを報告しています。また、eIF2αの脱リン酸化をターゲットとした薬剤では、salubrinalより guanabenzのような薬剤の方が毒性が少ないかもしれないとも言われているそうです。

この論文は、有効な治療法が存在しない遺伝性ニューロパチーにおいて、ごく一部ではありますが治療法が開発できる可能性があることを示した意味で意義のあるものだと思います。CMT1B以外の末梢神経障害において、salubrinalや guanabenzによる神経保護効果が見られるのかも興味があります。

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失われた世界

By , 2013年5月11日 9:48 PM

失われた世界 -脳損傷者の手記- (A.R.ルリヤ著, 杉下守弘・堀口健治訳, 海鳴社)」を読み終えました。ルリヤの本は、以前「偉大な記憶力の物語」を紹介したことがありましたね。

この本は、ドイツ軍との戦争で銃弾によって優位半球の頭頂葉を中心に破壊されてしまった男性及びその日記を扱っています。彼には視野障害、失語、左右失認、失算などの後遺症が残存しました。しかし彼は想像を絶する努力をして忘れたことを再学習し、直ぐに消えてしまう単語を探しながら少しずつ日記を付けました。彼が失った能力は多かったものの、おそらく前頭葉に損傷がなかったため人間らしさが失われることはありませんでした。ルリヤは次のように記しています。

負傷によって彼の脳は回復しえない損害をこうむった。彼の記憶力はことごとく抹殺された。彼の知識は無数の断片に細分されてしまった。治療によって、また時の経過によって、彼の生活を取り戻し、そして彼は無数の断片を集めて、ある記憶をとり戻す仕事を始めた。「忘れられた世界」と自分で呼んでいた彼一人の世界に彼は置かれていたが、彼は今までの生活をとり戻し、社会にとっても有益な人間にもどろうと、不変の希望をもって仕事を続けた。

しかし負傷は思いがけない結果ももっていた。それは、彼が体験してきた世界はこわされずにそのまま残されているということであり、彼の熱心さも失われず、彼の人間として市民としての個性を保持させていたことである。

彼は「忘れられた世界」 (物忘れする世界) から自分をとり戻すべく闘った。前進することはときおりきわめて困難であり、自分の無力さを感じることもあった。しかし彼には想像力が残されていた。幼年時代のときと同じように、彼は森も湖もその像を描くことができる。

これは、脳の他の機能は完全に破壊されたが、ある種の機能がそのまま残ったゆえになしえた例であった。

その結果、簡単な会話や、多くの文法構造については理解できないが、彼の歩んできた人生の驚くほど正確な記述を私達に残したのである。この日記を一ページ書くことは、彼にとっては超人的な努力を要することであるが、彼はそれを何千ページも書いたのである。彼は基本的な問題に対処することはできなかったが、自分の過去を生き生きと記述することができたのである。さらに、彼は強力な想像力、つまりきわ立った空想力や感情移入の能力を持っていた。

(略)

彼の内部にある力は完全に保持されているといえよう。この人を特色づける、道徳的な個性、生き生きとした想像力といったものは今も十分に価値があり、精彩をはなっている。それは、けがによってもなくならなかった。

この人の脳には、未だわれわれの器官では見分けることのできない、驚くべきものがある。一方の脳の部分は徹底的に破壊されながら、精神的な生活は残っている。弾の破片は他の部分を破壊せずに残し、彼が今までもっていた可能性は完全に保持させている。

この力が残っていたことが、彼に、理解できなくなってしまった世界に取り組む闘いを可能にし、精神的な強い個性を彼に与えたのであった。

ロシア語が元なので、日本語に訳した結果わかりにくくなってしまった部分はありますが、比較的読みやすい本です。訳者はあとがきを「本書は、軽度の失語症患者の音読練習の資料としても使用できるように、翻訳は平易になるように努め、また読みやすくするため行間を若干広くとった」と結んでいます。専門家にとって失語症の患者さん残した貴重な資料であることは勿論ですが、彼と同じように高次脳機能障害と戦う患者さんにも勧められる本です (少し難しいかもしれないけれど・・・)。

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鮠乃薬品

By , 2013年5月10日 7:01 AM

精神神経疾患治療薬を愛でたり語ったり擬人化するブログの存在を知りました。

 ハヤノヤクヒン

なかなか面白いです。

神経内科でよく使う薬についてのエントリーはこちら。

テグレトール

デパケン

リボトリール

マイスリー

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おもしろ遺伝子の氏名と使命

By , 2013年5月8日 4:00 AM

おもしろ遺伝子の氏名と使命 (島田祥輔著、オーム社)」 を読み終えました。遺伝子には変な名前がついたものがあり、命名の由来を紹介した本です。勉強になることに、全て元文献が記されており、遺伝子の機能も概説してあります。

下記のリンク先に書評があります。私はこれを読んで購入を決めました。届いてから読み終えるまで、あっという間でした。お薦めの本です。

『おもしろ遺伝子の氏名と使命』 新刊超速レビュー

ちなみに、この本には載っていない遺伝子名のトリビアを一つ。

『回り回っても,一途に挑む事』

当時,日常的に細胞癌化アッセイ(Focus formation assay)を行っていたが,ある日たまたまアッセイ用細胞が余ったので,この遺伝子を導入してみた。2週間後驚いた事に,廃棄予定遺伝子が,繊維芽細胞の癌化を著しく促進した。自らの腕を疑ったわけではないが,実験が一番上手だった女子学生に,先入観を与えないために何の情報も教えず同じ実験を行ってもらった。彼女も,全く同じ結果を出した。この時は,廃棄ゴミの中から宝物を探し出した気分だった。その遺伝子は,脳,精巣,心臓で発現が高かったが,癌化促進機構は理解できなかった。しかしながら新規遺伝子であった事から,簡単なレポートを投稿する事にした。
新規遺伝子の場合,論文投稿前に,話しやすく,他人にも印象深い名前を登録する必要があった。そこで,当時この実験に従事していた大学院生Daisuke君とJunkoさん二人に敬意を込め二人の頭文字をとり「DJ-1」と名付けた。実は漫才コンビ名に触発されこの名前が思い浮かんだ。

この通り、パーキンソン病の原因遺伝子の一つ “DJ-1” は、Daisuke & Junkoの頭文字から命名されました。

DJ-1が初めて報告された論文の筆頭著者は Daisuke Nagakubo氏。ところが論文では著者名、本文中、どこにも Junkoさんの名前は出て来ません。Junkoさん、遺伝子に名前を貸してあげたのに表に名前が出ないのが、ちょっと可哀想・・・ 。いや、むしろ遺伝子に名前が残ったから、これで良いとすべきか?

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