Category: 医学と医療

クリスマスBMJ

By , 2013年4月10日 7:53 AM

British Medical Journal (BMJ) は、超一流医学雑誌ですが、毎年クリスマス特集号でネタ系論文を掲載しています。一例として下記に紹介します。

BMJクリスマス号

医師の中で一番ハンサムなのは外科医

減塩を推奨する政府・医療機関は、減塩ができていない

最近、2011年のクリスマス BMJにベートーヴェンの難聴と作曲スタイルの論文が掲載されていることを知り、読んでみました。

Beethoven’s deafness and his three styles

論文を読んだ後、AFPニュースで詳細に紹介されているのを見つけました。

難聴が生み出したベートーベンの名曲たち、オランダ研究

2011年12月22日 18:37
【12月22日 AFP】ドイツの作曲家ベートーベン(Ludwig van Beethoven)が生み出した名曲の数々に、聴力の衰えが深く反映されているというオランダの研究チームによる論文が、20日の英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(British Medical JournalBMJ)」に掲載された。

ベートーベンが楽器や人の話し声の高音が聞こえづらいと最初に訴えたのは1801年、30歳のときだった。1812年には、ほとんど叫ぶように話さないとベートーベンには聞き取れなくなり、1818年には筆談でのコミュニケーションを始めている。1827年に死去したが、晩年には聴力はほぼ完全に失われていたとみられる。

ライデン(Leiden)にあるオランダ・メタボロミクスセンター(Netherlands Metabolomics Centr)のエドアルド・サセンティ(Edoardo Saccenti)氏ら3人の研究者は、ベートーベンの作曲活動を初期(1798~1800年)から後期(1824~26年)まで4つの年代に区切り、それぞれの時期に作曲された弦楽四重奏曲を分析した。

研究チームが着目したのは、各曲の第1楽章で第1バイオリンのパートが奏でる「G6」より高い音の数だ。「G6」は、周波数では1568ヘルツに相当する。

難聴の進行とともに、G6音よりも高音域の音符の使用は減っていた。そしてこれを補うかのように、中音域や低音域の音が増えていた。これらの音域は、実際に曲が演奏されたときにベートーベンが聞き取りやすかった音域帯だ。

ところが、ベートーベンが完全に聴力を失った晩年に作られた曲では、高音域が復活している。これは、内耳(骨伝道)でしか音を聞けなくなったベートーベンが作曲の際、演奏された音に頼ることをやめ、かつての作曲経験や自身の内側にある音楽世界に回帰していったためだと、研究は推測している。(c)AFP

【参考】サセンティ氏らによる実演付きの研究結果説明の動画(ユーチューブ)(英語)

論文の内容はこの通りです。少し補足すると、ベートーヴェンのカルテットは通常 3つの時期 (前期、中期、後期) に分けられますが、この論文では 4つに分けています。すなわち前期 1798-1800年 (作品 18), 中期1 1805-1806年 (作品 59), 中期2 1810-1811年 (作品 74, 95), 後期 1824-1826年です。中期の作品 59と、作品 74, 95はスタイルが異なり、作曲時期も違うため、分けたようです。 

論文にある Figure 2を見ると、著者らの主張が一目瞭然です。

Fig 2

Fig 2

(追記) 昔、ベートーヴェンの耳疾についてブログに書いたことがありますので、興味のある方は御覧ください。

耳の話

さらに、ロマン・ロランが書いた本に、ベートーヴェンが伝音性難聴であったことを示唆する記述がありました。併せてどうぞ。

ベートーヴェンの生涯

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TDP-43とFUS/TLS

By , 2013年4月8日 8:08 AM

2013年 3月 25日のブログで、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の原因蛋白質 hnRNPA2B1と hnRNPA1についてお伝えしました。これらは RNA代謝に関係した蛋白質です。

同じように ALSの原因かつ RNA代謝に関係した蛋白質で、ここ数年で知見が研究が急速に進歩している TDP-43, FUS/TLSについての総説が Muscle & Nerve誌 3月号に掲載されていたので読んでみました。非常によくまとまった論文だったので、紹介します。

ちなみに著者 ASHOK VERMAの肩書きは MD, DM, MBAです。MDはDoctor of Medicineで、MBAは Master of Business Administrationなのは良いとして、DMという称号は初めて見ました。よくわからない肩書きなのですが、Wikipediaで “Doctor of Medicine” のインドの項に、”The DM and MCh degrees are super-specialties and are very high ranked/prestigious” と書いてあります。専門医では “DM in xxx” と名乗ることができるようなので、同じ “Doctor of Medicine” ではあっても、他国で言う MDとはおそらく違う扱いなのだと思われます。もう一人の著者 RUP TANDANは MD, FRCPです。FRCPは Fellow of Royal College of Physiciansの略らしいです。

RNA quality control and protein aggregates in amyotrophic lateral sclerosis: a review.

・15年前には、SOD1 (Cu-Zn superoxide dismutase 1) が ALSの原因遺伝子であり、その変異が家族性 ALSの 20%を占めることしかわかっていなかった。しかし、SOD1変異の同定は、ALSの分子生物学的研究が行われる草分けとなる出来事であった (1993, Nature)。

・ALS病因研究の大きな転換点は、2006年の TDP-43 (43-kDa transactive response DNA-binding protein) の同定による (Science, 2006, Biochem Biophys Res Commun, 2006)。2008年には、TDP-43変異を伴った ALS症例が報告された(Science, 2008) 。2009年には、RNA/DNA結合蛋白質である FUS/TLSの変異が ALSの原因として同定された (Science, 2009)。 TDP-43および FUS/TLS変異の表現形は、特徴的な病理所見を伴った古典型 ALSであ る。ALS研究の過程でその他、survival motor neuron (Cell, 1995), senataxin (Am J Hum Genet, 2004 ), angiogenin (Nat Genet, 2006 ), optineurin (Nature, 2010), TAF15 (Nat Rev Neurol 2011, Proc Natl Acad Sci U S A, 2011 ) など、いくつかの RNA結合蛋白質の変異が明らかになっている。

・最近、C9orf72のイントロン領域 6塩基リピートが、家族性 ALSの一般的な遺伝型であることが明らかになった。これは似たようにイントロン領域で 3塩基リピートを起こす Friedreich失調症や筋強直性ジストロフィーを思い起こさせるが、これらはすべて RNAスプライシング、mRNA翻訳、mRNA安定性制御の変化が疾患プロセスに関与している。さらに、プロテアソームやオートファジーによる凝集蛋白の排除に関連した遺伝子、UBQLN2 (Nature, 2011) や SQSTM1 (Arch Neuro, 2011) も家族性 ALSに関係していることがわかった。さらに酵母モデルおよび in vitroレベルでは、TDP-43, FUS/TLS, TAF15のプリオン様 “prinoid” ドメインが、これらの蛋白質の自己凝集や疾患プロセスの神経内伝播の中核をなすのではないかと言われている。

・TDP-43は 414アミノ酸で、RNA recognition motif (RRM) 1, RRM2, C-terminal glycine-rich regionを有する。ALSに関連した変異はすべて常染色体優性遺伝で、glycine-rich regionに存在する。TDP-43変異 ALS患者の脳や脊髄の剖検では、孤発性 ALSに似た TDP-43細胞質内封入体が見られた。正常脳では TDP-43は主に核内に存在しているが、ALS患者では神経細胞の細胞質、変形神経突起、グリア細胞の細胞質を中心に局在するようになる。

・FUS/TLSは 526アミノ酸で、グルタミン、グリシン、セリン、チロシンが豊富な QGSY region, RRM, arginine-rich region, アルギニン及びグリシンが豊富な RG region, C-terminal zinc finger motifを有する。TDP-43同様、変異部位は glycine-rich regionであり、常染色体優性遺伝である。正常では TDP-43同様、主として核に存在しているが、FUS/TLS変異を持つ ALS患者では神経細胞やグリア細胞に FUS/TLS細胞質封入体を形成する。この封入体は TDP-43と反応しないので、FUS/TLSによる神経変性プロセスは TDP-43の局在異常とは独立に存在するのではないかと推測されている。

・TDP-43は、HIV-1の TAR DNAに結合する転写抑制因子として同定されたので、そのような名前が付いた。したがって RNAの転写に関与している。FUS/TLSも間接的にではあるが、転写開始に影響する因子を介して、転写に関与している。

・TDP-43はスプライシングの制御に重要な hnRNPA2と相互作用する。FUS/TLSの RNAスプライシングにおける役割はわかっていないが、in vitroにおいて 、pre-RNAの 5’スプライス部位に結合する転写スプライシング複合体に関与することがわかっている。

・TDP-43と FUS/TLSは核と細胞質をシャトルしている。細胞質では、TDP-43と FUS/TLSは RNA-transporting granule内に見られる。

・TDP-43と FUS/TLSは micro-RNA (miRNA) processingに関与している。miRNAは pre-miRNAから 2段階のプロセッシングを受ける。最初のステップは、核内における pre-miRNAの RNAse “Drosa” による切断である。次のステップは、細胞質内での RNAse “Dicer” による miRNAの切断である。切断された miRNAは、最終的に約 21塩基の 2本鎖 RNAとして RISC (RNA-induced silencing complex) に組み込まれる。TDP-43や FUS/TLSは Drosaおよび Dicer複合体に関与している。(※ Droshaが一般的な呼称と思われ、引用文献でも Droshaとなっているが、、本論文中では Drosaで統一されている)

・TDP-43と FUS/TLSは RNA processingに関与しているとする知見はあるが、神経細胞での特異的な RNAターゲットは完全には同定されていない。TDP-43に結合する RNAを免疫沈降法で調べた実験は、実験手技によって結果が異なる。

・マウスやヒトで TDP-43により、スプライシングやプロセッシングレベルに 影響を受ける RNAターゲットには、神経の発達や機能に関連した蛋白質をコードしたものがある。後者には NMDA受容体、イオンチャネル型グルタミン受容体、neurexions-1 ,3など、シナプス活動に関与した蛋白質が関係している。TDP-43はさらに ataxinに結合し、発現やスプライシングを制御する (ataxin-2の中等度伸長は孤発性 ALSのリスクとされる)。また、TDP-43の mRNAのターゲットには、HDAC6 (histone deacetylase 6) や ニューロフィラメントの NF-L subunitがあるが、いずれも ALS患者において減少していることが報告されている。

・FUS/TLSの RNA結合パートナーとして、最初に報告されたのが、樹状突起のアクチン安定化を司るアクチン安定化蛋白 Nd1-Lである。TDP-43同様、HDAC6も FUS/TLSのターゲット mRNAであるため、FUS/TLSと TDP-43は同じ系で働いているのかもしれない。

・変異 SOD-1, TDP-43, FUS/TLSはプリオン様メカニズムで伝播するシード凝集を起こしうる。TDP-43, FUS/TLSにはグルタミン/アスパラギンの豊富な Q/N rich domainがあり、”yeast prion (酵母プリオン)” と呼ばれるホモログを含む。TDP-43の疾患変異のほとんどは Q/N rich domainに集中している。

・SOD-1, TDP-43, FUS/TLSは試験管内では直ちに凝集するが、正常細胞内では起こらない。おそらくシャペロンの働きによるのだろう。”yeast prion domain” は、 intrinsic unfolded stateと、aggregated folded stateの 2つの状態がある。どのようにして凝集体の蓄積が始まるのかはわかっていないが、SOD-1, TDP-43, FUS/TLS変異による ALSではこれらの蛋白質の自己凝集性が増していること、高齢発症の孤発性 ALSでは保護システムが弱くなっていること、未知の環境的ないし遺伝的要因がトリガーとなるのかもしれない。培養細胞の実験では、いくつかの “hit” が組み合わされることが必要なのではないかと推測されている。

・ALSの発症機序が、TDP-43, FUS/TLSが核から失われる (loss of function) ことなのか、細胞質凝集体をつくる (toxic gain of function) ことなのか、その両者なのかはよくわかっていない。

・多くの動物モデルでは TDP-43を knock downしても、ヒト野生型 TDP-43を過剰発現しても、表現型として悪影響が出る。変異型 TDP-43ではそれがより顕著となる。しかし。それが神経系に限局するかどうかはわかっていない。

・ヒトALSでは、TDP-43の copy numberや脳での TDP-43 mRNAレベルは変化がないことが示唆されている。

・ゼブラフィッシュモデルでは、ヒト野生型ないし変異 FUS/TLSの過剰発現で表現型は正常であった。ラットモデルでは中枢神経細胞の脱落がみられ、正常型より変異 FUS/TLSで顕著であったが、single transgenic lineのため、別のメカニズムによる影響を受けている可能性も否定はできない。

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アンダンテ

By , 2013年4月5日 7:49 AM

医療ニュースを色々見ていたら、Parkinson病治療薬である MAO-B阻害薬 rasagilineの臨床試験の結果がニュースになっていました。日本国内で使用出来る MAO-B阻害薬としては selegirineがありますが、rasagilineは海外でしか販売されていません。面白かったのが臨床試験の名前。なんと、ANDANTE (Add oN to Dopamine AgoNists in the TrEatment of Parkinson’s disease) というらしいのです。音楽好きとして、食いついたのはその一点。アンダンテは「歩く速さで」という意味の音楽記号です。

これまで、L-Dopaに上乗せして rasagilineの有効性を評価した臨床試験はあったようなのですが、ドパミンアゴニストへの上乗せは初めての試験だったようです。試験内容をごく簡単に説明すると、ドパミンアゴニスト単剤での治療で効果不十分の早期パーキンソン病患者に、rasagiline ないしはプラセボを上乗せしました。18週間後、rasagiline投与群では、プラセボ群に対して有意に UPDRS (Unified Parkinson’s Disease Rating Scale) Parts I~IIIの改善を認めました。プラセボと比べて有害事象の有意な差はありませんでした。

New Data Show Azilect® (rasagiline tablets) Provided Clinical Benefit in Patients with Early Parkinson’s When Added to Sub-Optimally Controlled Patients on Dopamine Agonist Therapy

Results Add to Evidence for Azilect as an Effective and Well-Tolerated Treatment Option at Different Stages of the Progression of Parkinson’s Disease (PD)

JERUSALEM–(BUSINESS WIRE)–Teva Pharmaceutical Industries Ltd. (NYSE: TEVA) and H. Lundbeck A/S announced today that a double-blind, placebo controlled, randomized, multicenter study of Azilect® (rasagiline tablets) met its primary endpoint. The study, known as ANDANTE (Add oN to Dopamine AgoNists in the TrEatment of Parkinson’s disease), assessed the efficacy and tolerability of Azilect as add-on treatment to dopamine agonists compared to placebo. While the efficacy of Azilect as adjunct to levodopa has been established in previous studies (leading to its indication as adjunct therapy to levodopa), its efficacy in combination with dopamine agonist monotherapy has not previously been studied.

Results from the study demonstrated that the addition of Azilect 1mg/day provided a statistically significant improvement (Primary endpoint: treatment effect ± SE -2.4 ± 0.95 [95% CI -4.3,-0.5, p=0.012]) in total Unified Parkinson’s Disease Rating Scale (UPDRS) score (Parts I, II and III, version three) from baseline to week 18 in patients sub-optimally controlled with dopamine agonist monotherapy compared to placebo. Azilect was well-tolerated with no significant difference in adverse events compared to placebo.

(略)

STUDY DETAILS

ANDANTE was an 18-week, double-blind, placebo controlled, randomized, multi-center study assessing the safety and clinical benefit of rasagiline compared to placebo as add-on therapy to stable dose of dopamine agonists (DAs) in the treatment of early PD.

In addition to the above stated primary endpoint results, data from the secondary endpoint analysis showed the addition of Azilect® resulted in a statistically significant improvement in the UPDRS motor examination subscale (Part III) (p=0.007). There were no significant differences between groups for the UPDRS activities of daily living (ADL) (p=0.301) or CGI-I scores. Azilect was well-tolerated in the study.

ANDANTE was conducted at 50 research sites in the United States. A total of 328 patients on sub-optimal DA monotherapy randomized into the study to add-on treatment with Azilect (N=163) or placebo (N=165). Volunteers returned to the clinic at nine weeks for an interim visit and again at 18 weeks, for an end of study visit.

To be enrolled patients needed to be on a stable DA monotherapy for ≥ 30 days. Patients included could not receive an optimal therapeutic dose of DAs due to intolerable side effects or were no longer experiencing sufficient control of their PD symptoms and required an additional therapeutic agent. Rescue treatment with levodopa was allowed once the patient had started treatment with study drug and had completed four weeks of treatment. DA therapy could not be adjusted during the study.

The side effect profile of Azilect as add-on to DA therapy was evaluated for changes in nature and frequency of dopaminergic adverse events.

ABOUT AZILECT® (UNITED STATES)

AZILECT® (rasagiline tablets) is indicated for the treatment of the signs and symptoms of Parkinson’s disease (PD) both as initial therapy alone and to be added to levodopa later in the disease.

Patients should not take AZILECT® if they are taking meperidine, tramadol, methadone, propoxyphene, dextromethorphan, St. John’s wort, cyclobenzaprine, or other monoamine oxidase inhibitors (MAOIs), as it could result in a serious reaction. Patients should inform their physician if they are taking, or planning to take, any prescription or over-the-counter drugs, especially antidepressants and ciprofloxacin. Patients with moderate to severe liver disease should not take AZILECT®. Patients should not exceed a dose of 1 mg per day of AZILECT® in order to prevent a possibly dangerous increase in blood pressure.

Side effects seen with AZILECT® alone are flu syndrome, joint pain, depression, and indigestion; and when taken with levodopa are uncontrolled movements (dyskinesia), accidental injury, weight loss, low blood pressure when standing, vomiting, anorexia, joint pain, abdominal pain, nausea, constipation, dry mouth, rash, abnormal dreams, and fall.

See additional important information at http://www.azilect.com/Resources/PDFs/PrescribingInformation-pdf.aspx. For hardcopy releases, please see enclosed full prescribing information.

(略)

rasagilineは使ったことのない薬剤 (日本では保険適応外) なので特にコメントはありませんが、自分が臨床試験を組むことがあるとしたら、このように略語が音楽用語になるようにしてみたいものだと思いました。

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床上手

By , 2013年4月4日 7:50 AM

2013年4月から半年間、医局のベッド係になりました。病棟を持たず、外来と、ベッドコントロール専従です。大きな組織ならではの仕事です。

週一回、医局員全員に患者氏名の入ったベッド表を配布しているのですが、個人情報保護の観点から、持ち主がわかるように医局員の名前が入った判子をそれぞれ押していました。なんと数十人分の判子を押すのがベッド係の仕事の一つ。前任者が「医師の仕事に非ず」として、医局秘書の仕事にしました。しかし、その話を聞いた時、仕事を押し付けた感があって、何とかしたいと思っていました。

そこで、ベッド表をプリントするときに、自動で各医局員の名前が印刷されるようにプログラムを書くことにしました。医局員の名前を変数にして、セルに埋め込めれば良いわけです。知り合いに相談したら、エクセルでマクロ+ Visual Basicが良いのではないかとのことでした。さっそく Visual Basicをダウンロードし、インストール。

まず、エクセルでベッド表を立ち上げ、「マクロの記録」をクリックし、そのままプリント動作を行い、マクロの記録を終了します。そして “Macro1” という名前でマクロを登録します。マクロの編集を行うようにすると、Visual Basicのプログラミング画面が立ち上がります。

プログラムは下記 (先ほどの “マクロの記録” で出来たプログラムに上書きすれば大丈夫)。

Sub Macro1()

Dim LastRow As Long
Dim i As Long
Dim myNo As String

With Worksheets(“printmember”)

LastRow = .Cells(Application.Rows.Count, “A”).End(xlUp).Row

For i = 2 To LastRow

myNo = .Range(“A” & i).Value


With Worksheets(“print”)

.Range(“O3”).Value = myNo
.PrintOut Copies:=1, Collate:=True

End With

Next i

End With

End Sub

 

エクセル側でやることは次のとおりです。

①「名前をつけて保存」を選択、必要なデータを「マクロ有効ブック (*.xlsm)」形式で保存。

②基本設定で「開発タブ」をリボンに追加。「挿入」→「ボタン」で、必要な位置にボタンを設置。ボタンを押すと「Macro1」が実行されるように設定。ボタンには「医局員配布用プリント」と記しておく。

③医局員の名前を「printmember」というシートのセルA列に列挙 (A1にはタイトルを入れて、データは A2以下)。もし B列にしたいときは、上記プログラムの “A” を “B” に変更。

④配布用資料を「print」というシートに保存。医局員名簿がセル “O3” に印刷されるようにレイアウトを調整する。プログラムの “O3” を書き換えれば、別のセルに表示させることも可能。

⑤実行のため、必要に応じてセキュリティレベルを変更。

勉強したサイトでは、変数が数字になっていたのでプログラム 4行目「As String」が「As Long」になっていました。それを真似したためプログラムが動かず 1時間近く試行錯誤しました。しかし、デバックしたときに ”実行時エラー13” と表示されて,セルからデータがきちんと読み込めていないことがわかり,「セルの内容が文字列だから As Longでは読み込めないのだ」と判明してからは一瞬で解決でした.今回は医局員の名前が変数なので “As String” ですが、数字にしたいときはそれを “As Long” に書き換えればよいということです。

プログラムは、大学 2年生のときに HTMLを覚えて以来でしたが、数行の簡単なプログラムでも、動いた時の感動はたまらないですね。やみつきになりそうです。

それとともに、普段から、こんな難解な言語を書いているプログラマの皆様を尊敬します。

(参考)

定型の用紙に名簿から番号などを読み込み印刷するマクロ

 

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津山洋学

By , 2013年4月2日 8:16 AM

2013年3月24日、岡山県津山市にある津山洋学資料館に行ってきました。これまで実家に帰省した際に何度か訪れたのですが、正月だったり、リニューアル中だったりして、中を見ることができなかったので、やっと念願がかないました。

津山洋学資料館

展示品が結構充実していて、それを解説する動画も上映されていました。さらに、館内の図書館には洋学の資料が豊富にあるので、時間があれば読書も楽しめます。入館料は 300円でした。受付に津山洋学についての本がたくさん売っており、「素晴らしき津山洋学の足跡 2004」「きらめく洋学の星々」「津山洋学資料館常設展示図録 資料が語る津山の洋学」の 3冊を買って帰りました。津山洋学は日本の洋学に多大な貢献をしていますが、その中で特に有名なのはこれらの方々です。

宇田川玄随

津山藩江戸屋敷の漢方医の息子。元々は洋学嫌いだったが、桂川甫周らと交わるうちに蘭学に転じた。日本で最初の西洋内科学書である「(西説) 内科撰要」を翻訳、自費出版。ちなみに半分まで出版した所で死去し、残りは宇田川家を継いだ安岡玄真、すなわち宇田川玄真が完成した。

宇田川玄真 (安岡玄真)

宇田川玄随および桂川甫周門下。杉田玄白とも交わる。杉田玄白の娘と結婚する流れであったが、女遊びを始め、杉田家を追い出された。稲村三伯が日本で最初となる蘭日辞書「ハルマ和解」を編纂するのを手伝う。また「医範提綱」を著し、「腺」や「膵」という字を作る。その他、解体新書に「厚腸」「薄腸」とされていたのを「大腸」「小腸」に改めた。教育者として宇田川榕菴や、坪井信道、箕作阮甫、緒方洪庵らを育てた。江沢養樹の長男榕を養子に貰い受ける (のちの宇田川榕菴)。

宇田川榕菴 (江沢榕)

植物学を修め、「植物啓原」や「菩多尼訶経」を刊行。「葯」「柱頭」「花柱」といった語を作った。またラヴォアジェの学説を紹介したイギリス人の著書の蘭語版を「舎密開宗」として出版。「酸素」「窒素」「炭素」「水素」「酸化」「還元」などの語を作った。「細胞」という日本語も宇田川榕菴による。コーヒーについての書を残したり、音楽理論の研究をしたりもしている。

箕作阮甫

24歳で藩主の侍医となり、翌年藩主の供をして江戸に出て、宇田川玄真に学び、江戸で開業するも大火ですべてを失った。余談だが、彼には更に喘息の持病があったとのこと。58歳で蕃書調所の教授となった。蕃書調所はその後洋書調所・開成所、開成学校・大学南校と名を変えて、最終的に東京大学となる。そのため、彼は日本人初の大学教授とされる。著書ないしは訳書として「外科必読」「医療正始 (伊東玄朴の名で出版)」といった医学書、「泰西名医彙講」という医学専門雑誌、科学技術書である「水蒸気船説略」、「海上砲術書」、世界地理書である「海国図志」など多数。蕃薯和解御用として、宇田川興斎と共に、ペリーが持ってきたアメリカの国書を翻訳する他、外交問題に尽くす。天然痘が流行していたため、請願して神田お玉ヶ池の種痘所が出来るきっかけを作った (請願者の筆頭が箕作阮甫)。娘の「せき」は呉黄石の元に嫁ぎ、その末子である呉秀三は我が国の精神医学の創始者となった。

これ以外にも多くの優秀な学者達を輩出しています。「素晴らしき津山洋学の足跡」に系譜が載っていますので、下に示します。興味を持った方は是非津山に博物館を訪ねてみてください。ちなみに、2 kmくらい離れたところに B’z稲葉さんの実家があり、B’zグッズがたくさんあるそうです。

美作洋学者系譜・学統図

美作洋学者系譜・学統図

箕作家系譜

箕作家系譜

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政治家殺すに拳銃は不要、博士論文あればいい

By , 2013年3月31日 6:53 PM

JB Pressでびっくりするような記事を読みました。

政治家殺すに拳銃は不要、博士論文あればいい

ドイツで変なことが起こっている。2月9日、連邦教育大臣のシャヴァーン氏が辞任した。彼女が1980年に書いた博士論文が盗作であると指摘され、去年、母校のデュッセルドルフ大学が調査に入っていた。

そして、大学は2月5日にその結果を発表し、博士号を剥奪したのである。多くの引用を使いながら、参考文献を明示しなかったというのが剥奪の理由である。

この出来事だけで驚きなのですが、もっと凄かったのがこの部分。

グッテンベルク辞任を仕留めた1カ月後、この博士号狩りのグループは、ヴロニプラグという会社を設立した。顧客の依頼により博士論文を調べる会社だ。

要するに、盗作だと証明するのが仕事だが、これが途方もなくお金になることが分かったのだろう。今回のシャヴァーン大臣の博士論文を調べて、盗作だと言い出したのも、もちろんこの組織だ。

(略)

調べる方法は、同社のホームページに書いてあるところによれば、論文をあるソフトに掛けるらしい。すると、75%の盗作が認められる部分、50%の盗作が認められる部分などと、自動的にカラーの見取図となって出てくる。以下はインタビュー記事からの抜粋。

ハンブルガー・モルゲンポスト(以下、H・M):「あなたは、博士論文の盗作を探す仕事で生活しているのか?」

M・ハイディンクスフェルダー(以下、H):「2011年11月からはそうだ。まだオンライン研究者という職もあるが、それは目下のところ休業中」

H・M:「他人の論文を調べさせたければ、あなたに依頼することができるが、その条件は?」

H:「2つの方法がある。金を払って依頼する。あるいは、興味深い物件であること。値段は数百ユーロから始まり、ちゃんと調べる場合は数千ユーロとなる」

H・M:「メルケル首相の博士論文に欠陥を見つけたら、報奨金を出すという申し出を受けているという話は本当か?」

H:「本当だ。しかし、それについては話したくない」

盗作を見抜くためのソフトというのがあるんですね。論文の査読のときに使えたら、論文不正を未然に見つけることが出来るのではないかと思いますが、政争に使われているなんて、使用用途が怖すぎです。そしてそれを商売にしている人達がいるというのも凄い話です。

本文中より「政敵を追い落とすには、ハニートラップ以外に、博士論文攻撃という方法があるということに、皆が気付いたのである」ということですが、私の論文で特にやましいところはないので、私に仕掛けるならハニートラップの方が良いです。というか、むしろハニートラップを仕掛けてくださる女性の方々、情事常時募集中ですm(_ _)m

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研究的態度の養成

By , 2013年3月30日 9:22 AM

これまで何度か寺田寅彦の随筆を紹介してきましたが、Twitterで随筆「研究的態度の養成」の存在を知りました。短い随筆ですが、素晴らしい文章だと思います。結びの文章、「現在の知識の終点を究めた後でなければ、手が出せないという事をよく呑み込まさないと、従来の知識を無視して無闇むやみに突飛とっぴな事を考えるような傾向を生ずる恐れがある」と言われると、結構耳が痛いです (^^;

結びの部分のみ引用しますが、下記リンク先から全文が読めます。

研究的態度の養成

これらの歴史を幾分でも児童に了解させるように教授する事はそれほど困難ではあるまい。かようにしていって、科学は絶対のものでない、なおいくらも研究の余地はある、諸子の研究を待っているという風にしたいと思うのである。ただ一つ児童に誤解を起させてはならぬ事がある。それは新しい研究という事はいくらも出来るが、しかしそれをするには現在の知識の終点を究めた後でなければ、手が出せないという事をよく呑み込まさないと、従来の知識を無視して無闇むやみに突飛とっぴな事を考えるような傾向を生ずる恐れがある。この種の人は正式の教育を受けない独創的気分の勝った人に往々見受ける事で甚だ惜しむべき事である。とにかく簡単なことについて歴史的に教えることも幾分加味した方が有益だと確信するのである。

(参考)

津浪と人間

科学者と芸術家

物理学者の心

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偉大な記憶力の物語

By , 2013年3月29日 8:25 AM

偉大な記憶力の物語 ある記憶術者の精神生活 (A.R.ルリヤ著、天野清訳、岩波現代文庫)」を読み終えました。ルリヤは歴史的に有名な神経心理学者です。

ここに登場するシィーは、著者が「文献に述べられたなかで最もすぐれた記憶力の持ち主」と評した人物です。シィーの記憶力は凄まじいものでした。例えば、次のような表を 3分間見せたとします。

024571218670X

8383390562621

6469280479950

651743132125X

この表を彼は軽々と再生しました。そればかりでなく、逆から再生、斜めに再生も問題なくできました。そして、数カ月後にも同じように再生しました。

その他、イタリア語を理解しない彼にイタリア語で「神曲 (ダンテ)」を読み聞かせたときも、彼はイタリア語で再生しました。15年後に予告なく再生を促した時も、それをそのまま再生したのでした。数学のでたらめな長い公式も、簡単に暗記し、15年後に聞いた時、そのまま再生できました。

このように忘却を知らない彼の記憶力の裏付けは、鮮明な直観像と共感覚でした。見たものを像として通りに配置し、その風景を覚えると、あとは脳内の通りを歩くだけで再生できたのです。音を味として感じ、数字が像として見える共感覚は、このような方法で覚えた記憶を強化するのに役立ちました。

ただし、彼のこの能力には欠点がありました。読むものが直ぐに像に置き換わってしまうため、抽象的な文章や詩が解釈できないのです。また、「無」のようにイメージ出来ない言葉が苦手で、「無限」という言葉も実感を持って理解できませんでした。

最初には超人のように見えた彼の能力をルリヤは鮮やかに解き明かしていきます。専門的な内容を平易に書いていますので、神経心理学に興味がある方は、是非読んでみてください。200ページくらいの薄い本です。

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BG-12承認

By , 2013年3月28日 7:43 AM

以前、多発性硬化症治療薬 BG-12についてお伝えしました。

多発性硬化症の新薬

ライバルからのクレーム

FDA approves Biogen’s oral MS drug, Tecfidera

(Reuters) – U.S. regulators on Wednesday approved a new multiple sclerosis drug made by Biogen Idec Inc that is widely expected to become the No. 1 oral treatment for the disease, with annual sales topping $3 billion.

2013年3月27日に、BG-12が FDAによって承認されたようです。経口薬であり、臨床試験では再発を半分近く抑える一方で重篤な副作用は少ないとされており、多発性硬化症治療薬として今後主流の薬剤の一つになっていくものと思われます。日本でも近いうちに使えるようになることを期待しています。動物実験での副作用について他社から物言いは付いているようですが、日本に入ってくる頃には副作用に関する情報も今より増えていることでしょう。

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antidote

By , 2013年3月27日 7:57 AM

2013年3月3日の Nature Medicineに、第X因子阻害薬の “解毒剤” についての論文が掲載されたことを以前お伝えしました。その後、3月6日の Nature Medicineの Newsが、この論文について報じていました。追加情報がいくつかあったので、簡単に記します。

Antidotes edge closer to reversing effects of new blood thinners

注射薬である PRT064445は、抗凝固療法を受けていない健常人を対象にした第 1相臨床試験で安全性が証明された (論文未発表)。リバロキサバン (商品名;イグザレルト)を内服している健常ボランティアを対象に、第 2相試験が行われることで、Portola Therapeutics社と他の製薬会社間で契約が結ばれている。

また別の “解毒剤” も臨床試験が予定されている。例えば、第 IIa因子阻害薬であるダビガトラン (商品名:プラザキサ) に対する抗体は、販売するベーリンガーインゲルハイム社が自社開発している。ラット実験では効果と安全性が示され、現在第 1相臨床試験が行われている。

さらに、Perosphere社は、PER977と呼ばれる “解毒剤” を開発している。この薬剤は第 Xa因子に対する抗凝固薬の効果も、第 IIa因子に対する抗凝固薬の効果も打ち消すことが出来る薬剤で、PRT064445と異なり常温でも安定である。動物実験では、リバロキサバン、ダビガトラン、アピキサバン、エドキサバンを投与されたラットの出血量を減少させ、ビーグル犬で副作用が無いことを示した。2013年後半に第 1相臨床試験が予定されている。

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