Category: 医学と医療

hnRNPA2B1とhnRNPA1

By , 2013年3月25日 8:23 AM

2013年 3月 3日、Nature誌にまた筋萎縮性側索硬化症 (ALS) での遺伝子変異が報告されました。次から次へと出てきて、何が何だか分からなくなりますね (^^;

Mutations in prion-like domains in hnRNPA2B1 and hnRNPA1 cause multisystem proteinopathy and ALS

Hong Joo Kim, Nam Chul Kim, Yong-Dong Wang, Emily A. Scarborough, Jennifer Moore, Zamia Diaz, Kyle S. MacLea, Brian Freibaum, Songqing Li, Amandine Molliex, Anderson P. Kanagaraj, Robert Carter, Kevin B. Boylan, Aleksandra M. Wojtas, Rosa Rademakers, Jack L. Pinkus, Steven A. Greenberg, John Q. Trojanowski, Bryan J. Traynor, Bradley N. Smith, Simon Topp, Athina-Soragia Gkazi, Jack Miller, Christopher E. Shaw, Michael Kottlors et al.

Nature (2013) doi:10.1038/nature11922
Received 05 January 2012 Accepted 17 January 2013 Published online 03 March 2013

Abstract

Algorithms designed to identify canonical yeast prions predict that around 250 human proteins, including several RNA-binding proteins associated with neurodegenerative disease, harbour a distinctive prion-like domain (PrLD) enriched in uncharged polar amino acids and glycine. PrLDs in RNA-binding proteins are essential for the assembly of ribonucleoprotein granules. However, the interplay between human PrLD function and disease is not understood. Here we define pathogenic mutations in PrLDs of heterogeneous nuclear ribonucleoproteins (hnRNPs) A2B1 and A1 in families with inherited degeneration affecting muscle, brain, motor neuron and bone, and in one case of familial amyotrophic lateral sclerosis. Wild-type hnRNPA2 (the most abundant isoform of hnRNPA2B1) and hnRNPA1 show an intrinsic tendency to assemble into self-seeding fibrils, which is exacerbated by the disease mutations. Indeed, the pathogenic mutations strengthen a ‘steric zipper’ motif in the PrLD, which accelerates the formation of self-seeding fibrils that cross-seed polymerization of wild-type hnRNP. Notably, the disease mutations promote excess incorporation of hnRNPA2 and hnRNPA1 into stress granules and drive the formation of cytoplasmic inclusions in animal models that recapitulate the human pathology. Thus, dysregulated polymerization caused by a potent mutant steric zipper motif in a PrLD can initiate degenerative disease. Related proteins with PrLDs should therefore be considered candidates for initiating and perhaps propagating proteinopathies of muscle, brain, motor neuron and bone.

骨 Pagetと前頭側頭型認知症を伴った封入体筋炎 (inclusion body myopathy associated with Paget’s disease of the bone and fronto-temporal dementia; IBMPFD) とその原因遺伝子 VCPについて、2010年12月のブログ記事で紹介したことがありました。VCPは ALSの原因遺伝子でもあります。ちなみに、IBMPFD/ALSは広い表現型や特徴的な病理を反映して、最近では multisystem proteinopathy (MSP) と呼ばれるようです。

著者らは、まず VCP関連 MSPと同じような臨床像を呈する家系 (family 1) を調べました。この家系の患者は VCP変異はなく、エクソーム配列解析および連鎖解析により、hnRNPA2B1に変異 (c.869/905A>T, p.D290V/D302V) が見つかりました。hnRNPA2B1は RNA結合タンパクで、A2, B1という isoformがあります。hnRNPA2の方がアミノ末端の 12アミノ酸短く、isoformの存在のせいで、変異部位は 2ヶ所表記となっています。このアミノ酸は進化的に保存されています。

さらに過去に VCP陰性-MSPとして報告された家系 (family 2) を遺伝子解析しました。その結果、hnRNPA1に変異 (c785/941A>T, p.D262V/D314V) が見つかりました。

次に、212名の家族性 ALS患者で hnRNPA2B1と hnRNPA1変異を調べると、1例で hnRNPA1変異 (c.784/940G>A: p.D262N/D314N) が見つかりました。

これらの変異は、3つの意味で著者らの興味を引きました。

①hnRNPA2B1と hnRNPA1が直接 TDP-43と相互作用し、RNA代謝を協調して制御すること

②VCP関連変性を抑制する因子として TDP-43, hnRNPA2B1と hnRNPA1のハエホモログが同定されたこと

③hnRNPA2B1が過去に神経変性との関係を指摘されていること (hnRNPA2B1は脆弱X関連振戦/運動失調症候群 (fragile-X-associated tremor ataxia syndrome; FXTAS) の RNA foci中にあり、riboCGG repeatと結合する)

さらに、著者らは、筋病理の分析を行いました。正常では、hnRNPA2B1や hnRNPA1は核に存在しますが、family 1の患者では、hnRNPA2B1が核から消失し、約 10%の筋線維で細胞質封入体に凝集しているのがわかりました。この患者では、VCP関連封入体筋炎および孤発性封入体筋炎がそうであるように、TDP-43病理も見られました。また、hnRNPA2B1病理は、VCP関連封入体筋炎および孤発性封入体筋炎でも見られました。

family 2の患者では、約 10%の筋線維において、hnRNPA1が核から消失し、約 10%の筋線維で hnRNPA1の細胞質封入体が見られました。hnRNPA2B1病理、TDP-43病理も同時に見られました。さらに、hnRNPA1病理は VCP関連封入体筋炎や孤発性封入体筋炎でも見られました。これらの症例では FUS/TLS病理は見られませんでした。二重染色では、TDP-43病理を伴った筋線維では通常 hnRNPA2B1病理や hnRNPA1病理を伴っており、部分的には共局在していました。一部、ユビキチンや p62も陽性でした。

hnRNPA2B1と hnRNPA1はいずれも C末端に glycine-richドメインを持ち、この部位は活性の保持や TDP-43との相互作用を介在するのに必須です。これらのドメインは、蛋白質の三次構造として折りたたまれずに存在すると予想されており、また酵母のプリオン・ドメインとアミノ酸組成が似通っています。このようなドメインは prion-like domain (PrLD) と呼ばれ、TDP-43や FUSを含む多くの hnRNPに存在します。疾患の原因となる変異は、PrLDの中心近くに存在し、プリオン様の振る舞いを強めるのではないかと考えられます。さらに、ZipperDBで調べたところ、hnRNPA2B1と hnRNPA1の PrLDにおける変異は、アミロイド線維の背骨構造を作る “steric zippers” という自己相補的な β-strandをより形成しやすくすることが予想されました。

そこで、著者らは hnRNPA2と hnRNPA1が線維形成しやすいのかどうか、またそれが疾患の原因となる変異で促進されるかを調べました。まず、 hnRNPA2B1 D290V, hnRNPA2 D262Vをそれぞれ含む 6アミノ酸ペプチドを合成したところ、容易に線維形成しました。次に GSTタグをつけて沈降分析と電子顕微鏡で評価したところ、hnRNPA2B1, hnRNPA2は変異を導入しなくても、凝集する傾向があることがわかりました。その律速段階は核生成のようでした。また、hnRNPA2B1のシードは hnRNPA2B1の凝集は起こすものの hnRNPA1の凝集を起こさず、逆もまたそうであることがわかりました。疾患変異を導入すると、hnRNPA2B1, hnRNPA1の線維形成は著明に促進しました。また、変異 hnRNPA2B1は野生型 hnRNPA2B1の、変異 hnRNPA1は野生型 hnRNPA1の線維形成をも促進しました。一方で、これらが TDP-43のような PrLDを持った他の RNA結合タンパクの凝集を促進することはありませんでした。”steric zipper” モチーフの 6アミノ酸を欠失させると、このような凝集は起きなくなりました。そのため、PrLDの中央に位置する “steric zipper”モチーフが線維形成に重要であると言えます。

さらに、酵母でも調べてみました。酵母プリオン蛋白 Sup35の核生成ドメインを野生型ないし変異 hnRNPA2B1の PrLDに置換した場合でもプリオン形成は行われ、変異 hnRNPA2B1で著明に促進されました。また全長 hnRNPA1および hnRNPA2は細胞質内凝集体を形成し、酵母に対して毒性を持ちました。

hnRNPA2B1や hnRNPA1の PrLDは、RNA顆粒を作るのに必須である (TDP-43や FUSを含む) hnRNPの “low-complexity sequence (LC配列)” に相当します。ストレス顆粒 (stress granule) は、翻訳複合体の抑制によって形成される細胞質リボ核蛋白です。TDP-43や FUSはストレス顆粒に誘導され、疾患変異によりそれが促進されます。著書らは培養細胞を用いた実験で、arsenite処理により、hnRNPA2も stress顆粒に誘導され、疾患変異があるとそれがより速やかに行われることを見つけました。患者由来の線維芽細胞では、変異 hnRNPA2が TDP-43, VCP及び eIF4G (翻訳のため mRNAをリボソームに運ぶ役割と関係がある蛋白質) 陽性のストレス顆粒内に凝集していました。

著者らは更に、ショウジョウバエの間接飛翔筋に hnRNPA2を発現させました。野生型 hnRNPA2を発現させると、いくつかの筋の吻側に軽度の変性がみられましたが、D29V変異を導入すると全ての筋で強い変性が生じました。また、PrLDを削除した Δ287-292変異を持つ hnRNPA2を過剰発現した場合、筋肉の異常はみられませんでした。免疫組織学的検討では、野生型 hnRNPA2および hnRNPA2 Δ287-292では hnRNPA2は核に存在しましたが、hnRNPA2 D29Vでは細胞質封入体への凝集がみられました。蛋白質の溶解度をしらべたところ、野生型 hnRNPA2と hnRNPA2 Δ287-292は可溶性画分に存在しましたが、hnRNPA2 D290Vは不溶性画分に存在しました。これらの結果から、hnRNPA2を発現したショウジョウバエの筋変性の程度は、細胞内封入体と hnRNPA2の溶解度に関連していることがわかりました。最後に、マウスの前脛骨筋に hnRNPA2を発現させたところ、野生型 hnRNPA2は核に存在するのに対し、 hnRNPA2 D290Vは核から排除され、MSP患者のように細胞質封入体に存在することを確認しました。

ALSアルツハイマー病パーキンソン病などいくつかの神経変性疾患では、seed 仮説という学説が議論されています。これは、seedという 種のような物ができて、それを元に蛋白質が重合し、安定化して排除されなくなってしまうことで細胞に傷害を及ぼすというものです。seedは伝播することもあります。

今回の論文では、hnRNPA2B1および hnRNPA1が細胞質内で seed仮説の原因蛋白質によくみられるように線維形成をすること (これは疾患変異で促進される)、それがプリオン様ドメインによること、いくつかの ALS関連蛋白質が同じような振る舞い (RNA顆粒を形成する) をしていることが明らかになりました。Natureに掲載されるのに相応しい、画期的な論文と言えます。

ALSの原因蛋白質はいくつもありますが、hnRNPA2B1, hnRNPA1, TDP-43, FUSなどのように RNA顆粒を形成する蛋白質は一つの系として纏められる時代がくるかもしれません。また、線維形成を引き起こすドメインに対するアプローチも色々考えられそうです。今後、RNA顆粒を形成する蛋白質の研究は、競争が激化するでしょう。個人的には、こうした RNA顆粒を形成する蛋白質が、C9orf72と関係あるのかないのかも興味をそそるところです。

最後に、RNA顆粒形成について Cell誌に掲載された論文が日本語で読めますので、紹介しておきます。hnRNPや FUSが登場します。

試験管内におけるRNA粒子の形成

Post to Twitter


TPPと医療

By , 2013年3月22日 8:55 AM

安倍首相が TPPへの参加を正式に表明しました。

安倍首相、TPP交渉参加を表明=「経済全体にプラス」―農業の競争力強化に全力

時事通信 3月15日(金)18時3分配信

安倍晋三首相は15日夕、首相官邸で記者会見し、米国やオーストラリアなど11カ国が参加している環太平洋連携協定(TPP)について「交渉に参加する決断をした」と正式に表明した。首相は「今がラストチャンスだ。このチャンスを逃すと世界のルール作りから取り残される」と述べるとともに、「全ての関税をゼロとした場合でも、わが国経済全体としてプラスの効果がある」と強調。また「あらゆる努力で日本の農を守り、食を守ることを誓う」と訴え、参加への理解を求めた。
日本の参加は、米議会の承認手続きに90日程度かかることに加え、先行参加国が7月の交渉会合開催を検討していることから、早くても7月以降になる見通し。先行国は10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせた会合での合意を目指しており、コメなど関税撤廃の例外品目確保に向けた調整や、自動車や保険などをめぐる米国との協議が焦点となる。
首相は会見で、交渉参加を決断した理由について「世界経済の約3分の1を占める大きな経済圏が生まれつつある。韓国やアジアの新興国が次々と開放経済へと転換していて、日本だけが内向きになってしまっては成長の可能性もない」と説明した。
また、「経済的な相互依存関係を深めていくことは、わが国の安全保障にとっても、またアジア太平洋地域の安定にも大きく寄与する」と指摘。経済・軍事双方で台頭する中国を念頭に、同盟国の米国はじめ、民主主義や基本的人権などの価値観を共有する参加国との連携が日本の安全保障環境に資すると語り、「交渉参加はまさに国家百年の計だ」と断じた。
TPPに加盟した場合、影響が予想される農業分野に関しては「攻めの政策により、競争力を高め、輸出を拡大し、成長産業にする」と表明した。

TPPは、別の見方をすれば「中国包囲網」です。露骨に領土拡大を主張する中国の脅威に対抗するには、参加する以外の選択肢はなかったと思います。

ほとんど報道はされませんが、われわれ医療従事者が懸念するのは、”金持ちしかまともな医療を受けられない” アメリカの医療政策が輸入されるとどうなるかという点です。最近、李啓充先生が興味深い連載をしていました。マサチューセッツ州では、皆保険制度導入後に医療費抑制政策が始まり、状況が変わりつつあるようです。

 最終回 (連載第 11回) にまとめがあります。

〔連載〕続 アメリカ医療の光と影  第241回

「最先端」医療費抑制策 マサチューセッツ州の試み(11)

「医療費抑制法」のポイント

ここまで10回にわたって,2006年の「皆保険制」実施後,マサチューセッツ州で医療費抑制の気運が高まった経緯を紹介した。2012年8月に同州が成立させた「医療費抑制法」はその「集大成」ともいうべきものであったが,以下に同法の内容を概観する(ポイントとなる語句を下線で示した)。

1)医療費の伸びを州総生産額(gross state product:GSP)に連動させ,2013-17年はGSPの伸び以下,2018-2022年はGSPの伸びより0.5%低く,2023年以降は再びGSPの伸び以下に抑える。
2)低所得者用公的保険(メディケイド)・州職員用保険等,州が管轄する医療保険について「出来高払い」に代わる支払い制度を導入する。
3)ケアの統合と,予防,プライマリ・ケアへのアクセスを改善するためにACO(註1)設立を推進し,州が運営する医療保険においてはACOとの契約を優先する
4)医療費動向の監視:「医療政策委員会」を設立,医療費動向および新たに導入される医療サービス供給体制・支払い制度について統監させる。
5)供給者間の価格差について報告する特別委員会を設立する。
6)医療費抑制目標値が達成できなかった医療施設に対する罰則:改善計画の提出・実施を義務付けるとともに,50万ドル以下の罰金を科すことを可能とする。
7)通常のケアについて医療施設ごとのデータをオンラインで公開,価格・質についての透明性を高める
8)医療過誤訴訟コスト軽減:乱訴を防止するために182日間の「冷却期間」を設けるとともに,医療側の謝罪は法廷で証拠扱いしない。
9)経営難病院救済用に1億3500万ドルの基金を設立する。
10)3000万ドルの予算で「eHealth Institute」を創設し,電子カルテ普及を促進する。
11)6000万ドルの予算で健康増進活動を推進するとともに,職場における健康増進活動を実施した企業に対する減税措置を講じる。
12)新法実施費用の「当事者」負担:保険会社から1億6500万ドル,大病院から6000万ドルを徴収,新法実施の費用とする。

(略)

そもそもの問題は市場原理主義にあり

以上,11回にわたって,マサチューセッツ州で医療費抑制法が成立するまでの「ドタバタ」を概観したが,同州で診療報酬が高騰したり,病院間の診療報酬格差が拡大したりした根本の原因は,1992年に,「公的機関が診療報酬を決めることを止め,診療報酬は保険会社と医療機関が個別交渉で自由に決める」とする「規制緩和」を実施したことにあった。「市場原理を導入すれば価格は下がるはずだ」とする前提の下での規制緩和であったが,もくろみとは反対にマサチューセッツ州で医療費が高騰し続けたことはここまで何度も述べた通りである。換言すると,マサチューセッツ州がこの間一所懸命取り組んできた「無保険者の問題」も「診療報酬高騰の問題」も,医療を「民(=市場原理)」に委ねたことが根本の原因だったのであり,社会にしっかりした「公」の保険が存在しさえすれば起こるはずのなかった問題だったのである。

(略)

いったい,いつになったら,「医療ほど市場原理に不向きなものはない」ことがわかってもらえるのだろうか

私は現在の日本の医療制度はアメリカとくらべて優れたものであると思っています。TPP参加によりアメリカ型の医療制度が持ち込まれることで、日本の医療制度が破綻する可能性を危惧していましたが、どうやら最近のアメリカの医療政策は日本のそれに近づいてきているようです。かつてアメリカのような酷い医療制度が持ち込まれる可能性は低いのかもしれません。

Post to Twitter


Parkin Disease

By , 2013年3月17日 8:09 AM

2013年2月23日のパーキンソン病の原因遺伝子 LRRK2, RAB7L1, VPS35についての記事で、私は次のように記しました。

家族性パーキンソン病の原因遺伝子はこれまで 20近く同定されています。これらの遺伝子がコードするタンパク質には、協調して働いているものがあるらしいことが最近明らかになってきました。例えば、Parkin, PINK1は一つの系として、異常ミトコンドリアを検出し、ミトコンドリア外膜タンパク質をユビキチン-プロテアソーム系で分解したり、ミトコンドリアのオートファジーである mitophagyを誘導する役割を担っています。DJ-1もどうやらこの系に含まれるようです。

それから日を置かずして、2013年3月4日の Archives of Neurology (JAMA Neurology) 誌に “Parkin Disease” という論文が掲載されました。その論文は Parkin変異によるいわゆる “Parkin病” と、一般的な Parkinson病との違いを比較しています。同じ号の “Editorial” で簡単な解説がありますので、まずはそちらを紹介します。

Lessons for Parkinson Disease From the Parkin Genotype

J. Eric Ahlskog, PhD, MD
JAMA Neurol. 2013;():1-2. doi:10.1001/jamaneurol.2013.104.
Published online March 4, 2013
Monogenetic forms of parkinsonism now include 16 established loci in the “ PARK ” nomenclature. In this issue of JAMA Neurology, Doherty and colleagues1 describe details of the most common autosomal recessive parkinsonism, PARK2, which is associated with parkin gene mutations. In the most comprehensive description of PARK2, these investigators detail the clinical phenotype of 5 patients, who were observed for decades, plus their neuropathology.1 Notably, the pathology was a non–Lewy body pathology. Although parkin is uncommon in Parkinson disease (PD) clinics, this report1 should be of interest to general neurologists once it is put into a broader context.

Park2遺伝子 (遺伝子産物は parkin) 変異のある患者は、一般的な孤発性パーキンソン病といくつかの違いがあります。

①発症年齢:parkin変異の患者の多くは、40歳までに発症する若年発症です。しばしば 20歳前での発症もみられます。一方で、ある研究では、パーキンソン病のうち 50歳以下で発症するのは 3%にすぎず、40歳以前に発症することはありませんでした。

②臨床的特徴:parkin変異の患者では、障害がほぼドパミン欠乏による症状に限局します。一方で、孤発性パーキンソン病では、ドパミン欠乏以外による症状 -認知症、自律神経症状、レボドパ不応性運動症状- などがみられます。

③障害部位:parkin変異の患者では、障害がほぼ黒質および青斑核に限局します。これは臨床的特徴に合致した所見です。一方で、一般的なパーキンソン病では、Braakのstaging に基いたLewy病理の進行がみられます。

常染色体劣性遺伝である PINK1, DJ-1も、若年性パーキンソニズムの原因遺伝子です。これらの遺伝子変異でも、parkin変異同様に黒質 (substantia nigra) の障害が見られ、レボドパ反応性のパーキンソニズムのみを呈します。これら 3つの遺伝子による病態は、”nigropathies” と呼べるかもしれません。

Parkinはユビキチン・リガーゼ (ユビキチンを基質に結合させる) としての機能を持ち、ミトコンドリアのオートファジーである mitophagyを誘導します。黒質は代謝的要求が大きいので、ミトコンドリアの易傷害性があるのかもしれません。近年、parkin, PINK1, DJ-1は同じ系で相互作用し、ミトコンドリアの機能や形態を維持していると考えられています。

parkin変異患者ではレボドパへの反応性がよく、ジスキネジアや変動があるにせよ、数十年に渡って保たれます。一方で、一般的なパーキンソン病では徐々にレボドパへの反応性は乏しくなります。Lewy病理が脳の様々な部位に出現することと関係しているのかもしれません。

また、parkin変異患者では、レボドパ誘発性ジスキネジアが出現しやすいことが知られています。一方で、一般的なパーキンソン病患者は淡蒼球も侵されるので、ジスキネジアに有効である淡蒼球切除術と似たような効果のためジスキネジアが出にくいのかもしれません。

論文 “Parkin Disease” では、parkin変異患者の臨床的、病理学的特徴を検討しています。

Parkin Disease
A Clinicopathologic Entity?

Karen M. Doherty, MRCP; Laura Silveira-Moriyama, PhD; Laura Parkkinen, PhD; Daniel G. Healy, PhD; Michael Farrell, FRCPath; Niccolo E. Mencacci, MD; Zeshan Ahmed, PhD; Francesca M. Brett, FRCPath; John Hardy, PhD; Niall Quinn, MD; Timothy J. Counihan, FRCPI; Timothy Lynch, FRCPI; Zoe V. Fox, PhD; Tamas Revesz, FRCPath; Andrew J. Lees, MD; Janice L. Holton, FRCPath
JAMA Neurol. 2013;():1-9. doi:10.1001/jamaneurol.2013.172.
Published online March 4, 2013
Importance Mutations in the gene encoding parkin (PARK2) are the most common cause of autosomal recessive juvenile-onset and young-onset parkinsonism. The few available detailed neuropathologic reports suggest that homozygous and compound heterozygous parkin mutations are characterized by severe substantia nigra pars compacta neuronal loss.

Objective To investigate whether parkin -linked parkinsonism is a different clinicopathologic entity to Parkinson disease (PD).

Design, Setting, and Participants We describe the clinical, genetic, and neuropathologic findings of 5 unrelated cases of parkin disease and compare them with 5 pathologically confirmed PD cases and 4 control subjects. The PD control cases and normal control subjects were matched first for age at death then disease duration (PD only) for comparison.

Results Presenting signs in the parkin disease cases were hand or leg tremor often combined with dystonia. Mean age at onset was 34 years; all cases were compound heterozygous for mutations of parkin. Freezing of gait, postural deformity, and motor fluctuations were common late features. No patients had any evidence of cognitive impairment or dementia. Neuronal counts in the substantia nigra pars compacta revealed that neuronal loss in the parkin cases was as severe as that seen in PD, but relative preservation of the dorsal tier was seen in comparison with PD (P = .04). Mild neuronal loss was identified in the locus coeruleus and dorsal motor nucleus of the vagus, but not in the nucleus basalis of Meynert, raphe nucleus, or other brain regions. Sparse Lewy bodies were identified in 2 cases (brainstem and cortex).

Conclusions and Relevance These findings support the notion that parkin disease is characterized by a more restricted morphologic abnormality than is found in PD, with predominantly ventral nigral degeneration and absent or rare Lewy bodies.

常染色体劣性若年性パーキンソニズムは約 20年前に日本で報告されました。これらの患者は比較的良性の経過をとり、睡眠効果、低容量レボドパの効果持続、服用の合間の chorea-athetosisの早期出現がみられました。連鎖解析では6番染色体長腕 (6q25. 2q27) に遺伝子座があり、parkin遺伝子が同定されました。特徴的な症状として下肢に目立つ振戦、下肢ジストニア、正常嗅覚、著明な行動障害が報告されていますが、parkin変異のためというよりむしろ若年発症であることがこうした臨床像の決定因子なのではないかと考えられています。

今回著者らが 5例の parkin変異によるパーキンソニズム患者を検討したところ、振戦や筋強剛、局所性ジストニアなどはありましたが、認知症を伴った患者はいませんでした。

パーキンソン病は、黒質ドーパミン作動性ニューロンが脱落し、生き残ったニューロンにα-シヌクレインを含む Lewy小体が見られるのが病理学的特徴です。本研究の剖検による検討では、パーキンソン病患者と parkin変異によるパーキンソニズム両者で黒質緻密部の細胞は高度に脱落していましたが、parkin変異によるパーキンソニズムでは黒質背側部 (dorsal tier) の細胞は比較的保たれるという特徴が確認されました。また、parkin変異によるパーキンソニズムでは青斑核、迷走神経背側運動核で軽度の神経脱落があったものの、他の部位ではこうした所見はなく、Lewy小体は 2例でわずかに散見されるのみでした。 

parkin変異によるパーキンソニズムは、臨床像や病理所見が一般的なパーキンソン病とは異なるようですね。”parkin disease” とはよく言ったものです。私はこういう呼び方は初めて聞いたのですが、2003年の Brain誌論文を皮切りに、いくつかの論文で用いられているようです。

Post to Twitter


動画による不随意運動検討会 2013

By , 2013年3月10日 10:03 AM

3月7日に、「動画による不随意運動検討会 2013」に行ってきました。特別講演の演者は京都大学医学部名誉教授の柴崎浩先生でした。

動画による症例提示をしながら、4つの核となるポイントをわかりやすく教えてくださり、非常に勉強になりました。以下、簡単にポイントを記しておきます。

 

①複数の不随意運動の特徴を兼ね備た症例もあるので、必ずしも既成の概念に当てはめて分類する必要はない 

・見たまま記載するのが大事。同じ不随意運動を見せてどの用語を当てはめるか、専門家でも意見が分かれることは珍しくなかった。

・ほとんどの不随意運動は 100年以上前に詳細な観察に基いて記載されている。分類は必ずしも電気生理学的機序に基づかなくてもよいのかもしれない。

・不随意運動は触るのが大事。筋の動きが良く分かる。

・不随意運動分類のアルゴリズム

不随意運動

不随意運動

Case.1 BAFME (良性成人型家族性ミオクローヌスてんかん): 律動性ミオクローヌス

Case.2 CBD (皮質基底核変性症): 律動性ミオクローヌス

Case.3 書痙:ジストニー、ミオクローヌス、振戦・・・複雑に混ざっている

Case.4 CJD (クロイツフェルト・ヤコブ病):捻れた姿勢 (ジストニー) に周期性の運動 (ミオクローヌス) が乗っかる→ジストニー+ミオクローヌス or ジストニー性ミオクローヌス (PSDと筋放電は 1:1ではない)

Case.5 SSPE:周期性ジストニー (PSDと筋放電は 1:1である)

Case.6 軟口蓋振戦:軟口蓋ミオクローヌスは軟口蓋振戦という用語が用いられるようになったが、この症例のように同期して口唇のミオクローヌスが見られる症例も見られる。

Case.7 Diaphragmatic flutter (respiratory myoclonus):レーウェンフックが罹患していた。myorythmiaとも呼ばれる

Case.8 低酸素脳症:ミオクローヌス、刺激過敏性があり反射で誘発される。表面筋電図では、胸鎖乳突筋 (延髄支配) の直後に眼輪筋 (橋支配)、上腕二頭筋 (頚髄支配) が収縮し、延髄由来だとわかった。

Case.9 Painful leg moving toe

Case.10 Myoclonus-dystonia syndrome (DYT11 mutation):ジストニーにミオクローヌスが独立して乗っかる。皮質性ミオクローヌスは遠位筋に出やすいが、Myoclonus-dystonia syndromeでは近位筋に出やすい (皮質由来ではない)

Case.11 本態性振戦:一見、静止時+姿勢時に振戦がみられる。近位筋が姿勢性に収縮しているので、静止時に手が震えているように見える (静止時振戦と間違いやすい)。動作時にはない。

 

②内科疾患の部分症候としてあらわれることがある

Case.12 Wilson病:仰臥位で上肢を挙上して、下肢を屈曲しないと出現しない不随意運動。そういう姿勢をとらせるのが大事。

Case.13 肝性脳症:アステリクシス。腎不全でも出現する。手に出てもあまり困らないが、下肢や体幹に出ると転倒の原因になる。

Case.14 リウマチ熱に伴う舞踏病:一定の筋肉に繰り返すより migrationがみられる。癖のようにも見える。マネが出来る。

 

③しばしば薬剤によって誘発される

・L-Dopa→ジスキネジー、抗精神病薬→ジストニー、が有名

Case.15 アマンタジン投与中にみられたアステリクシス

Case.16 ガバペンチン投与中にみられたアステリクシス

Case.17 シスプラチン投与中にみられたアステリクシス

 

④心因性の不随意運動がまれではない

・心因性不随意運動の特徴

1. 一般的に知られている不随意運動では説明しにくい

2. 正常、パターン、分布が変動しやすい

3. 注意を他の課題に向けることによって軽減するか消失する

4. 振戦の場合、他方の手で一定周波数の随意運動を反復させると振戦の律動がその律動に置き換わる (entrainment)

5. 本人の性格や環境に心因性要素が存在する

Case.18 シャルコーの有名な講義写真:閉眼で後屈→心因性に多い

Case.19 下顎・口唇が右に偏奇

Case.20 Orthostatic myoclonus: 観察していないときの態度が決め手になって診断できた

Case.21 心因性ジスキネジー:対側の手でリズムを取ると改善

Case.22 心因性振戦:中学3年生の受験生。下肢の振戦。臥位になると変動し、膝を左右に動かす。座位で足を浮かせると上下に動かす。足の運動の周波数が手の運動の周波数に置き換わる。

Case.23 spinal myoclonus?: C4-5に限局。s-EMGでは自分で肩を挙上させると周波数が早くなる。肩を叩いて誘発すると、700 msの不応期が観察された。最終的に心因性と診断。

Case.24 propriospinal myoclonus: paraspinalの筋が収縮することで、腹部の筋が動く→心因性ではない

Case.25 reflex propriospinal myoclonus (心因性):腹部の前屈には心因性が多い。propriospinal myoclonusでは diffusion tensor tractographyで神経線維の乱れが見えたとする報告がある。

Case.26 mimicking-propriospinal myoclonus:練習したら propriospinal myoclonusの動きはマネできる→心因性多いのでは?

Case.27 Abdominal tic

Case.28 fixed dystonia

心因性不随意運動

心因性不随意運動

[Q&A]

Q: dystonia, tremorの違いは、拮抗運動の有無ではないのか?持続時間で説明して良いのか?

A: 表面筋電図で、振戦は backgroundがない、ミオクローヌスは backgroundがある。ただし早いと鑑別が難しいことが多い。振戦は必ずしも reciprocalではなく、同時に出ることもある。右手は reciprocal、左は同時ということもある。

Post to Twitter


Xa阻害の阻害なのだ

By , 2013年3月9日 6:52 PM

非弁膜症性心房細動による脳塞栓症予防には、ワルファリンという薬剤が良く使われます。しかし、頻回に採血をして量を調節する必要があったり、薬物や食事の相互作用を気にしなければならないといった欠点から、近年第 Xa因子阻害薬という新しいタイプの抗凝固薬が開発されました。リバロキサバン (イグザレルト) 、アピキサバン (エリキュース) といったの薬剤が立て続けに登場し、多くの患者さんが恩恵を受けています。これらの薬剤は、高齢者、腎障害、低体重、抗血小板薬との併用などでは重篤な出血性合併症がみられることがあるので注意が必要ですが、一般的にはワルファリンに比べて出血性合併症は若干少ないと言われています。

第 Xa因子阻害薬の欠点として、拮抗薬がないというのが挙げられます。古典的な薬剤だと、例えばヘパリンならプロタミン、ワルファリンならビタミンKで拮抗できるので、内服している患者さんが出血しても直ぐに効果をキャンセルすることができます。ところが Xa阻害薬はそれが出来ないのです。

しかし、2013年3月3日の Nature Medicineに、その第 Xa因子阻害薬の作用を “解毒” できる組み換え蛋白質 (r-Antidote, PRT064445) が報告されました。

A specific antidote for reversal of anticoagulation by direct and indirect inhibitors of coagulation factor Xa

Genmin Lu, Francis R DeGuzman, Stanley J Hollenbach, Mark J Karbarz, Keith Abe, Gail Lee, Peng Luan, Athiwat Hutchaleelaha, Mayuko Inagaki, Pamela B Conley, David R Phillips & Uma Sinha
AffiliationsContributionsCorresponding author
Nature Medicine (2013) doi:10.1038/nm.3102
Received 02 December 2012 Accepted 23 January 2013 Published online 03 March 2013

Abstract
Inhibitors of coagulation factor Xa (fXa) have emerged as a new class of antithrombotics but lack effective antidotes for patients experiencing serious bleeding. We designed and expressed a modified form of fXa as an antidote for fXa inhibitors. This recombinant protein (r-Antidote, PRT064445) is catalytically inactive and lacks the membrane-binding γ-carboxyglutamic acid domain of native fXa but retains the ability of native fXa to bind direct fXa inhibitors as well as low molecular weight heparin–activated antithrombin III (ATIII). r-Antidote dose-dependently reversed the inhibition of fXa by direct fXa inhibitors and corrected the prolongation of ex vivo clotting times by such inhibitors. In rabbits treated with the direct fXa inhibitor rivaroxaban, r-Antidote restored hemostasis in a liver laceration model. The effect of r-Antidote was mediated by reducing plasma anti-fXa activity and the non–protein bound fraction of the fXa inhibitor in plasma. In rats, r-Antidote administration dose-dependently and completely corrected increases in blood loss resulting from ATIII-dependent anticoagulation by enoxaparin or fondaparinux. r-Antidote has the potential to be used as a universal antidote for a broad range of fXa inhibitors.

著者らは第 Xa因子阻害薬を “解毒” するために、第 Xa因子に似ているけれど活性のない蛋白質を作製しました。この組み換え蛋白質 r-Antidote (PRT064445) は、46-78番目のアミノ酸を欠失させたことにより膜結合 γ-カルボキシグルタミン酸 (γ-carboxyglutamic acid; GLA) ドメインを欠き、プロテアーゼ触媒三残基のセリン残基をアラニンに置換 (S419A) したことで触媒的に不活性になっています。また、活性化ペプチド ArgLysArg (RKR) を RKRRKRに置換してあります。

Figure1A

Figure1A

この組み換え蛋白質はそれ自体活性を持ちませんが、第 Xa因子に似ているので第 Xa因子阻害薬とは結合します。第 Xa因子阻害薬は r-Antidoteにくっついてしまうせいで、r-Antidoteの用量依存的に作用が減弱することになります。動物実験では、マウス、ラット、ウサギでこれらの効果を確認することができました。またそればかりではなく、r-Antidoteは低分子ヘパリンや活性化 AT-IIIとも結合し、間接的に第 Xa因子を阻害する薬剤の活性にも影響を与えるようです。実際にラットを用いた実験では、enoxaparin (低分子ヘパリン) や fondaparinuxといった AT-III依存的抗凝固薬による出血を抑制することができました。

このように第 Xa因子阻害薬の作用を減弱する薬が開発されれば、薬剤をより安全に使用できることになります。第 Xa因子阻害薬を飲んでいる患者が出血してしまった時に効果を打ち消すことができるからです。また、抗凝固薬をずっと使用しておいて手術直前に作用を拮抗させるといった使い方も可能になるでしょう。第 Xa因子に間接的に作用する薬剤でも効果がありそう、というのも見逃せない点です。

いつ臨床の舞台に登場するかは不明ですが、安全に使用出来ることが確認できれば、登場が待ち遠しい薬剤です。

Post to Twitter


Kyoto Heart Study

By , 2013年3月6日 7:49 AM

2012年末~2013年初旬にかけて、バルサルタン (商品名ディオバン) に関する臨床研究 “Kyoto Heart Study” についての論文が立て続けに撤回されました。

Journal retracts two papers by Japanese cardiologist under investigation

Study of blood pressure drug valsartan retracted

日本循環器学会は京都府立医大に調査を依頼したようですが、大学側は 3教授による内部調査のみで済ませたようです。3教授にしてみても、他科の教授のクビを切ることになる報告書を作れるわけないですよね・・・。玉虫色の調査結果となりました。

しかし、このスキャンダルは一般紙でも取り上げられることになりました。

降圧剤論文撤回:学会が再調査要請 京都府立医大に不信

毎日新聞 2013年02月20日 15時00分

京都府立医大のチームによる降圧剤「バルサルタン」に関する臨床試験の論文3本が、「重大な問題がある」との指摘を受け撤回された問題で、日本循環器学会が吉川敏一・同大学長に対し再調査を求めていたことが20日分かった。大学側は今年1月、捏造(ねつぞう)などの不正を否定する調査結果を学会に出していたが、学会は納得せず不信感を抱いている。

問題になっているのは松原弘明教授(55)が責任著者を務め、09〜12年に日欧の2学会誌に掲載された3論文。患者約3000人で血圧を下げる効果などが確かめられたとする内容だ。昨年末、3本中2本を掲載した日本循環器学会が「深刻な誤りが多数ある」として撤回を決めるとともに、学長に事実関係を調査するよう依頼した。

しかし大学は調査委員会を作らず、学内の3教授に調査を指示。「心拍数など計12件にデータの間違いがあったが、論文の結論に影響を及ぼさない」との見解を学会に報告し、松原研究室のホームページにも同じ内容の声明文を掲載した。

学会はこれに対し、永井良三代表理事と下川宏明・編集委員長の連名で2月15日付の書面を吉川学長に郵送した。(1)調査委員会を設け、詳細で公正な調査をする(2)結論が出るまで、松原教授の声明文をホームページから削除する−−ことを要請している。

毎日新聞の取材に、学会側は「あまりにもデータ解析のミスが多く、医学論文として成立していないうえ、調査期間も短い。大学の社会的責任が問われる」と説明。大学は「対応を今後検討したい」とコメントを出した。

バルサルタンの薬の売り上げは薬価ベースで年1000億円以上。多くの高血圧患者が服用している。【河内敏康、八田浩輔】

騒ぎが大きくなったためか、最終的には、責任者の教授は辞任に追い込まれました。

京都府立医大:責任著者の教授、辞職へ 降圧剤論文撤回で

毎日新聞 2013年02月28日 02時30分

京都府立医大のチームによる降圧剤「バルサルタン」に関する臨床試験の論文3本が、「重大な問題がある」との指摘を受けて撤回された問題で27日、論文の責任著者の松原弘明教授(55)が大学側に月末での辞職を申し出、受理されたことが大学への取材で分かった。松原教授は大学に対し、「大学や関係者に迷惑をかけた」と説明したという。

大学によると、辞職申し出は2月下旬。大学を所管する府公立大学法人が受理した。

問題になっているのは、09〜12年に日欧2学会誌に掲載された3論文。血圧を下げる効果に加え、脳卒中のリスクを下げる効果もあるかなどを約3000人の患者で検証した。

3論文のうちの2本を掲載した日本循環器学会は昨年末、「深刻な誤りが多数ある」として撤回を決め、吉川敏一学長に調査を依頼。これに対し、大学は学内3教授による「予備調査」で、捏造(ねつぞう)などの不正を否定する結果を学会に報告した。その後、学会は再調査を求めており、大学は「対応を検討中」としている。【八田浩輔】

ここにきてやっと、京都府立医大は 3月 1日付けで調査本部を設置しました。

「Kyoto Heart Study」に係る研究発表論文に関する対応について

 本学大学院医学研究科の研究グループが実施した臨床研究「Kyoto Heart Study」の発表論文に係る学会誌からの撤回案件につきましては、次のとおり対応することとしましたので、お知らせします。
  なお、本学の研究活動につきましては、今後とも、なお一層、研究者の行動規範等の徹底を図っていくこととします。
 1  本学研究者が行う研究活動の「知の品質管理」を常に行うことにより、本学の研究活動の質を確保するために、学長を本部長とする「京都府立医科大学研究活動に関する品質管理推進本部」を平成25年3月1日付けで設置したこと。
  具体的な取組内容
   (1)研究活動の質を確保するための支援
   (2)研究活動上の不正を防止するための指導、啓発
   (3)研究論文内容の精査力向上のための研修、支援 など
 2 「京都府立医科大学研究活動に関する品質管理推進本部」の中に「Kyoto Heart Study精度検証チーム」(外部の有識者を含む6~7名程度のチーム員で構成)を早急に設置し、「Kyoto Heart Study」の臨床研究の精度の検証を行うこととしたこと。

多くの患者さんたちが研究に協力してくれていたのに、この医師たちはどういう気持でずさんなデータ処理をしていたのでしょうか?そればかりでなく、医師は臨床研究の結果が記された論文を治療の根拠にするため、誤った論文はそのまま患者さんの不利益になります。

こうなった以上は、(場合によっては生データを開示して) 何が問題だったか徹底的に膿を出してほしいものです。もしここで中途半端な報告が出ると、「京都府立医大の臨床研究は、こんな杜撰にやっても咎められない環境で行われているのか」と周囲から見られることになります。

責任者の教授は、論文不正ではなくデータの解析ミスを主張していますが、彼は過去に研究不正の疑惑が取りざたされており、信憑性に欠けます (最近さらに別の論文が撤回されています)。本当に不正がなかったか追求する必要があります。

もっとも、今回の研究に関しては、研究結果が医師の実感や欧米での研究と解離 (ARBにそこまでの脳卒中予防効果はない) していたため、勘の良い医師たちは信じていなかったのも事実です。この問題が話題になる前に、既に論文に問題があることを指摘していた人もいます。

余談ですが、バルサルタンには他にも怪しげな研究があり、かなり手厳しい批判がされています。では悪い薬かというとそういう訳ではありません。脳卒中予防において、一番大事なのは、血圧を下げることです。副作用なく血圧を下げられれば、とりあえずの目標達成といえます (ただし、どこまで下げれば良いかには諸説あり、最近ではあまりにも下げすぎるのは逆に良くないともされています)。バルサルタンは、そういう意味では優れた薬剤です。しかし、その上で同系統の薬剤に対する優位性を出すには、血圧を下げるプラスアルファの効果 (pleiotropic effect) が大事になります。”Kyoto Heart Study” はこういう状況下で、背伸びをした結果を出そうとして、おそらくデータを都合よく解釈してしまったのでしょう。普通は、あまりに常識から離れたデータが出たら、データを疑って解析し直してみるものだとは思いますけれど、そのまま発表されたのには、恣意的な何かがあったのかもしれません。

今回の件が研究の不正だったかどうかは今後の調査結果を待つ必要がありますが、研究不正についてノーベル賞学者の野依良治先生の論文を元に、安西祐一郎氏が素晴らしい文章を書いていますので、是非御覧ください。

科学研究の目的はトップジャーナルに論文を載せることなのか?

その他、研究不正について書かれたいくつかのリンクを貼っておきます。

医学論文の捏造

Vol.128 論文捏造疑惑

研究不正が起きる根本原因について

Post to Twitter


C9orf72での RANTing

By , 2013年3月5日 10:08 PM

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) 研究で、現在最もホットな遺伝子は C9orf72かもしれません。このブログでも何度か紹介しています。

2011年9月、C9orf72のイントロン領域における GGGGCC 6塩基リピートがフィンランド人 (Finnish) において孤発性 ALS患者の 21.1%を占めることが報告され、大きな衝撃を与えました。その後、さまざまな国における遺伝子変異の頻度の報告が相次いでいますが、国によりかなり状況は異なるようです。

C9orf72について、2013年 2月 20日の Neuron誌に興味深い論文が掲載されました。その論文は同誌の “Previews” で注目の論文として紹介されています。まずは紹介記事を示します。

RANTing about C9orf72

Neuron, Volume 77, Issue 4, 597-598, 20 February 2013
10.1016/j.neuron.2013.02.009

Refers to: Unconventional Translation of C9ORF72 GG…

Authors

Tammaryn Lashley,John Hardy,Adrian M. Isaacssend emailSee Affiliations

Summary

A noncoding repeat expansion in the C9orf72 gene is the most common genetic cause of frontotemporal dementia and amyotrophic lateral sclerosis. In this issue of NeuronAsh et al., 2013 show that despite being noncoding the repeats are translated, leading to widespread neuronal aggregates of the translated proteins.

C9orf72がどのようにして ALSの発症に関与しているかはわかっていませんが、これまで 2つのメカニズムが推測されていました。

① gain of function

筋緊張性ジストロフィーのように noncoding lesionの異常な反復配列がみられる疾患では、機能獲得を起こすことが知られています。こうした疾患では、転写された repeat RNAが核に RNA fociという凝集体を形成します。RNA fociは RNA結合蛋白を独占してしまい、RNA結合蛋白の喪失が最終的に疾患を発症させます。C9orf72患者において RNA fociの存在が報告されています。

② loss of function

C9orf72は、Rab-GTPaseを活性化する GDP/GTP exchange factors (GEFs) である DENN蛋白との構造上の類似性から、小胞輸送に関与しているのではないかと推測されています。C9orf72の機能喪失を支持する知見として、 GGGGCC反復配列を含む転写産物レベルが患者の脳で低下していることが挙げられます。

今回、Ashらにより、第 3の仮説が登場しました。

③ RAN translation

Huntington病や一部の脊髄小脳失調症のように CAGリピートがみられる疾患において、開始コドンを介さないリピート関連翻訳 (repeat-associated non-ATG translation; RAN translation) がみられることが近年報告されました。RAN translationが起きるには、最低 58個の CAGリピートが必要で、RAN翻訳産物は凝集体を形成します。

Ashらは、C9orf72の CCCCGG配列で RAN translationが起こっているか調べるため、poly-(glycine-proline), poly-(glycine-alanine), poly-(glycine-arginine) に対する抗体を作製し、C9orf72変異 ALS患者の神経組織で免疫染色しました。すると、しばしば Cporf72変異 ALS患者で認められる p62陽性/TDP-43陰性封入体と似たような形状・分布で C9RANT陽性神経凝集体が染色されました。

“Previews” ではこのように、非常にわかりやくポイントが示されていました。そして実際の論文は下記です。

Unconventional Translation of C9ORF72 GGGGCC Expansion Generates Insoluble Polypeptides Specific to c9FTD/ALS

Neuron, Volume 77, Issue 4, 639-646, 12 February 2013
10.1016/j.neuron.2013.02.004

Referred to by: RANTing about C9orf72

Authors

  • Highlights
  • C9ORF72-expanded GGGGCC repeat RNA undergoes unconventional translation
  • C9ORF72 RAN translation product accumulates in insoluble inclusions in the brain
  • Inclusions are specific to c9FTD/ALS and not in other neurodegenerative disorders
  • C9ORF72 RAN translation peptides maybe a potential biomarker and therapeutic target

Summary

Frontotemporal dementia (FTD) and amyotrophic lateral sclerosis (ALS) are devastating neurodegenerative disorders with clinical, genetic, and neuropathological overlap. Hexanucleotide (GGGGCC) repeat expansions in a noncoding region of C9ORF72 are the major genetic cause of FTD and ALS (c9FTD/ALS). The RNA structure of GGGGCC repeats renders these transcripts susceptible to an unconventional mechanism of translation—repeat-associated non-ATG (RAN) translation. Antibodies generated against putative GGGGCC repeat RAN-translated peptides (anti-C9RANT) detected high molecular weight, insoluble material in brain homogenates, and neuronal inclusions throughout the CNS of c9FTD/ALS cases. C9RANT immunoreactivity was not found in other neurodegenerative diseases, including CAG repeat disorders, or in peripheral tissues of c9FTD/ALS. The specificity of C9RANT for c9FTD/ALS is a potential biomarker for this most common cause of FTD and ALS. These findings have significant implications for treatment strategies directed at RAN-translated peptides and their aggregation and the RNA structures necessary for their production.

C9orf72において RAN translationがないか調べるため、著者らはまず poly-(glycine-proline), poly-(glycine-alanine), poly-(glycine-arginine) に対するポリクローナル抗体 (抗C9RANT抗体) を作製しました。論文の figure 1Aを見ると、なぜこの組み合わせのポリアミノ酸を調べなければいけないかがよくわかります。”GGGGCC” 反復のフレームシフトによって出来るアミノ酸が変わってくるからですね。。

figure1A

Figure. 1A

次に、著者らは作製された抗体を検定し、poly-(glycine-proline) peptideに対する抗体を用いるのが最も良いことを確認しました。

それから、ALSないし前頭側頭葉変性症 (FTLD) 患者の小脳組織を抽出し、Western blot及び dot blotを行いました。その結果、C9orf72変異のある患者ではバンドが検出された一方で、変異のない患者ではバンドは検出されませんでした。

さらに小脳組織から得られた pre-mRNAの塩基配列を調べると、開始コドンと GGGGCC配列の間に複数の終止コドンがあることがわかりました。したがって、GGGGCC配列は開始コドン (ATG) によって翻訳されていないことがわかりました。つまり、GGGGCCは開始コドンを介さない翻訳 (=リピート関連翻訳) が行われていることになります。

続けて免疫組織化学的評価をしました。C9orf72変異 ALSでは、TDP-43陰性ユビキチン陽性ないしユビキチン結合蛋白 (p62, ubiquilin-2) 陽性封入体が出現することが知られています。これらの封入体と、C9RANT抗体陽性の神経細胞質/核内封入体は形態的に似通っていました。抗 C9RANT抗体に反応したのは、灰白質および神経内封入体のみで、血管内皮細胞、平滑筋細胞、白質、グリアでは反応しませんでした。

C9RANT陽性封入体が脳内のどこに出やすいか、30症例で調べたのが Figure 2Qです。

Figure. 2Q

Figure. 2Q

C9RANT陽性封入体が最も豊富に見られたのは、p62陽性封入体がみられる小脳でした。しかし、p62陽性封入体とは異なり、外側膝状体や内側膝状体でも検出されました。

C9RANT陽性封入体は、C9orf72変異を伴わない FTLD/ALSや他の変性疾患 (アルツハイマー病、レビー小体病、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、皮質基底核変性症) では検出されませんでした。トリプレットリピート病 (ハンチントン病、脊髄小脳失調症 3型、球脊髄性筋萎縮症) では、p62陽性封入体が検出された一方で、C9RANT陽性封入体は検出されませんでした。

また、C9orf72変異を伴う患者において、骨格筋、末梢神経、後根神経節、心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓、精巣を調べましたが、精巣のセルトリ細胞を除いて、C9RANT陽性封入体は検出されませんでした。

 著者らは、C9orf72に対する髄液の immunoassayが進歩すれば、疾患の活動性や進行に対するマーカーとして使えるのではないかと考えております。

C9orf72は ALSにおけるホットトピックスということもあり、どんどんと知見が積み重なっています。今回の C9RANTは、分子メカニズムという観点からはかなり意義のある報告です。しかし、知見が積み重なるにつれてますます問題が複雑化している感もあります。

(2013.3.8 追記 )

ブログ “First Author’s” に、この領域の研究著者による解説が載っていましたので紹介しておきます。

前頭側頭葉変性症および筋萎縮性側索硬化症の原因である非翻訳領域のGGGGCCリピート配列はジペプチドリピートタンパク質に翻訳され脳に蓄積する

Post to Twitter


ALSの新規遺伝子

By , 2013年3月4日 8:30 AM

2013年 1月に、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)  の遺伝子関連で、興味深い報告が 2報ありました。

まずは、2013年 1月 4日の Amyotrophic Lateral Sclerosis and Frontotemporal Degeneration誌に報告された新規原因遺伝子です。 

Detection of a novel frameshift mutation and regions with homozygosis within ARHGEF28 gene in familial amyotrophic lateral sclerosis

Rho guanine nucleotide exchange factor (RGNEF) is a novel NFL mRNA destabilizing factor that forms neuronal cytoplasmic inclusions in spinal motor neurons in both sporadic (SALS) and familial (FALS) ALS patients. Given the observation of genetic mutations in a number of mRNA binding proteins associated with ALS, including TDP-43, FUS/TLS and mtSOD1, we analysed the ARHGEF28 gene (approx. 316 kb) that encodes for RGNEF in FALS cases to determine if mutations were present. We performed genomic sequencing, copy number variation analysis using TaqMan real-time PCR and spinal motor neuron immunohistochemistry using a novel RGNEF antibody. In this limited sample of FALS cases (n=7) we identified a heterozygous mutation that is predicted to generate a premature truncated gene product. We also observed extensive regions of homozygosity in the ARHGEF28 gene in two FALS patients. In conclusion, our findings of genetic alterations in the ARHGEF28 gene in cases of FALS suggest that a more comprehensive genetic analysis would be warranted.

その遺伝子の名前は ARHGEF28といいます。その遺伝子産物は Rho guanine nucleotide exchange factor (RGNEF)  というタンパク質です。RGNEFの役割を知るためには、まずニューロフィラメント (Neurofilament; NF) を理解する必要があります。

細胞は、形態を維持したり、細胞内輸送を行うために ”細胞骨格” と呼ばれる構造物を持ちます。細胞骨格はアクチンフィラメント、中間径フィラメント、微小管に分類されます。ニューロフィラメントは神経細胞に広く分布している中間径フィラメントです。分子量が 68 kDaの低分子量ニューロフィラメント (low molecular weight NF; NFL), 160 kDaの中分子量ニューロフィラメント (middle molecular weight NF; NFM), 200 kDaの高分子量ニューフィラメント (high molecular weight NF; NFH) があり、ヘテロ多量体を構成します。

RGNEFは NFLの mRNAに結合し、3’末端非翻訳領域の不安定化を介して、mRNAの安定性に影響を与え、細胞の NFLレベルを調節します。中間径フィラメントの化学量論的異常は運動ニューロン死を起こすことが過去に報告されていますし、NFL量の調節は ALSの NF陽性封入体の出現にも関与しているのではないかと言われています。

今回著者らは、既知の SOD1, FUS/TLS, TARDBP変異のない 7例の家族性 ALS患者 (男性 5名, 女性 2名, 年齢 54-71歳) を調べました。ただし、4例 (ALS-3, ALS-5, ALS-6, ALS-7) では C9orf72変異がありました。

遺伝子検査の結果、下記の 3例で ARHGEF28変異を認めました。

・ALS-2 : Homozygosis

・ALS-4 : Homozygosis

・ALS-5 : Exon 6と Intron 6の境界に一塩基欠失あり、frameshift もしくは spilicing異常の原因となっている。結果として遺伝子産物は非常に短くなる。

病理学的に RGNEF陽性細胞質封入体は ALS-1, ALS-2, ALS-4~6で確認されました。RGNEF陽性細胞質封入体と C9orf72遺伝子変異の間に明らかな関連はなさそうでした。

ALSでは RNA代謝の障害が話題になっていますが、RNA結合蛋白質である RGNEF、それもニューロフィラメントに関係した蛋白質の発現に関与する遺伝子が同定されたというのは、興味深いことだと思います。

2013年 1月に興味を引いたもう一つの報告は、p62という蛋白質をコードする SQSTM1 (squestosome 1) 遺伝子についてです。p62はユビキチン会合ドメインと LC3認識配列を持ち、不良蛋白質を処理するユビキチン・プロテアソーム系、オートファジー両者に関係した蛋白質として近年注目されています。2011年 11月の archives of neurology誌に、SQSTM1米国で孤発性 ALSの約 4.4%を占める原因遺伝子として報告されました。今回、2013年 1月 29日号の Neurology誌には日本人での 解析結果が掲載されています。

Mutations in the gene encoding p62 in Japanese patients with amyotrophic lateral sclerosis

Neurology January 29, 201380:458-463
Hirano M, Nakamura Y, Saigoh K, Sakamoto H, Ueno S, Isono C, Miyamoto K, Akamatsu M, Mitsui Y, Kusunoki S.

Abstract
OBJECTIVE:
The purpose of this study was to find mutations in the SQSTM1 gene encoding p62 in Japanese patients with amyotrophic lateral sclerosis (ALS), since this gene has been recently identified as a causative gene for familial and sporadic ALS in the United States.
METHODS:
We sequenced this gene in 61 Japanese patients with sporadic and familial ALS. To our knowledge, we describe for the first time the clinical information of such mutation-positive patients.
RESULTS:
We found novel mutations, p.Ala53Thr and p.Pro439Leu, in 2 patients with sporadic ALS. The clinical picture of the mutation-positive patients was that of typical ALS with varied upper motor neuron signs. Although this gene is causative for another disease, Paget disease of bone (PDB), none of our patients showed evidence of concomitant PDB.
CONCLUSION:
The presence of mutations in this racial population suggests worldwide, common involvement of the SQSTM1 gene in ALS.

孤発性及び家族性 ALS 61例の遺伝子を調べた所、2例に p.Ala53Thr, p.Pro439Leu変異が見つかりました。SQSTM1遺伝子は骨 Paget病の原因遺伝子としても知られていますが、今回の症例の中に骨 Paget病の存在を示唆する患者はいませんでした。

ALSの原因遺伝子はこのように続々と見つかってきていますが、それらがどうやって疾患を引き起こしているか、詳細なメカニズムの解明が待たれます。

Post to Twitter


参考文献

By , 2013年2月27日 7:38 AM

論文を書く時、参考文献のリストも記載しなければなりません。しかし、手入力するとミスしやすいし、Endnoteは使い方が結構難しい・・・というときに使えそうなサイトを見つけました。

参考文献表にそのままコピペ可能な文献情報を出力するウェブサービス

例えば、上記リンク先で紹介されているMedical & Scientific Citation Generatorを使ってみましょう。2013年2月19日のブログで紹介した Nature論文で試してみました。この論文の DOIは “10.1038/nature11647″ なので、入力フォームに DOIをそのまま入力します。すると下記のように表示されました。

Tachibana M, Amato P, Sparman M, et al. Towards germline gene therapy of inherited mitochondrial diseases. Nature. 2013;493(7434):627-31.

投稿する雑誌によっては、少し整形が必要なものの、手でチマチマと入力していくより圧倒的に楽です。まだ試してはいませんが、上記リンクで Medical & Scientific Citation Generator以外のサービスを使うと、もう少し表示形式を変えることもできそうです。

その他、Facebook経由で得た情報だと、下記のサービスを使っている方もいるようです (その方から聞いた話では Wordへの引用も、参考文献一覧作成もワンクリックとのことですが、未確認です)。

MENDELEY

Post to Twitter


MUSICOPHILIA

By , 2013年2月24日 10:19 AM

音楽嗜好症 (オリヴァー・サックス著、大田直子訳、早川書房)」を読み終えました。

オリヴァー・サックスの書いた本を読むのは初めてでしたが、彼は独特の研究スタイルを持っていると感じました。多くの科学者は、間違いないと確認されたことを足がかりに次のステップに進んでいきますが、彼の場合はとりあえず正確かどうかは二の次にして手に入る限りの情報を集めて、その中からエッセンスを抽出する方法を取っているようでした。そのため、所々「本当にそう言い切れるのかな?」と感じさせる部分はありましたが、独自の視点で音楽について論じることが出来ていました。

本書は、音楽に対して医学的にあらゆる角度からアプローチしています。症例が豊富ですし、論理を裏づけるために引用した科学論文も膨大な量です (末尾に文献集があります)。

特に印象に残ったのはパーキンソン病と音楽療法についてです。日本では林明人先生が「パーキンソン病に効く音楽療法CDブック」を出されていますが、L-Dopa登場前に既に行われていて、大きな効果を上げていたことは初めて知りました。

また「誘惑と無関心」と題された、失音楽に関する章でイザベル・ペレッツの名前を見た時は驚きました。メールのやり取りをしたことがある研究者だったからです。この業界では有名人なので、登場してもおかしくはないのですが。

それと、ウイリアムズ症候群の患者達がバンドを組んでデビューしている話も興味深かったです。Youtubeで動画が見られます。

The Williams Five

5足す 3が出来ないくらいの mental retardationがありながら、プロの音楽家として立派に活躍しているというのは、音楽がそういうことは別に存在していることを示しています。

このように興味深い話題が豊富なのですが、内容をすべては紹介できないので、代わりに目次を紹介しておきます。本書がどれだけ広範な角度から音楽にアプローチしているか、伝われば幸いです。

序章

第1部 音楽に憑かれて

第1章 青天の霹靂―突発性音楽嗜好症

第2章 妙に憶えがある感覚―音楽発作

第3章 音楽への恐怖―音楽誘発性癲癇

第4章 脳のなかの音楽―心象と想像

第5章 脳の虫、しつこい音楽、耳に残るメロディー

第6章 音楽幻聴

第2部 さまざまな音楽の才能

第7章 感覚と感性―さまざまな音楽の才能

第8章 ばらばらの世界―失音楽症と不調和

第9章 パパはソの音ではなをかむ―絶対音感

第10章 不完全な音感―蝸牛失音楽症

第11章 生きたステレオ装置―なぜ耳は二つあるのか

第12章 二〇〇〇曲のオペラ―音楽サヴァン症候群

第13章 聴覚の世界―音楽と視覚障害

第14章 鮮やかなグリーンの調―共感覚と音楽

第3部 記憶、行動、そして音楽

第15章 瞬間を生きる―音楽と記憶喪失

第16章 話すことと、歌うこと―失語症と音楽療法

第17章 偶然の祈り―運動障害と朗唱

第18章 団結―音楽とトゥレット症候群

第19章 拍子をとる―リズムと動き

第20章 運動メロディー―パーキンソン病と音楽療法

第21章 幻の指―片腕のピアニストの場合

第22章 小筋肉のアスリート―音楽家のジストニー

第4部 感情、アイデンティティ、そして音楽

第23章 目覚めと眠り―音楽の夢

第24章 誘惑と無関心

第25章 哀歌―音楽と狂喜と憂鬱

第26章 ハリー・Sの場合―音楽と感情

第27章 抑制不能―音楽と側頭葉

第28章 病的に音楽好きな人々―ウィリアムズ症候群

第29章 音楽とアイデンティティ―認知症と音楽療法

謝辞

訳者あとがき

参考文献

Post to Twitter


Panorama Theme by Themocracy