胸部X線診断に自信がつく本
「胸部X線診断に自信がつく本 (群義明著、カイ書林)」を読み終えました。
本書は 講義と実際の読影を繰り返す形式になっています。
講義はレベルが高く、非常によく纏まっていて勉強になりました。この部分を読むだけでも、本書を購入する価値があると思います。一方で、読影の方は、簡単過ぎて講義とのギャップが大きすぎました。「講義を読んで初めて異常所見を拾えるようになった」とかだと満足感がありますが、講義部分が読影部分にあまり反映されていなかったは残念でした。
「胸部X線診断に自信がつく本 (群義明著、カイ書林)」を読み終えました。
本書は 講義と実際の読影を繰り返す形式になっています。
講義はレベルが高く、非常によく纏まっていて勉強になりました。この部分を読むだけでも、本書を購入する価値があると思います。一方で、読影の方は、簡単過ぎて講義とのギャップが大きすぎました。「講義を読んで初めて異常所見を拾えるようになった」とかだと満足感がありますが、講義部分が読影部分にあまり反映されていなかったは残念でした。
2013年 1月 18日に多発性硬化症治療薬 Natalizumab (タイサブリ) についてお伝えしました。現在、多発性硬化症の第一選択薬として FDAと European Medicines Agencyで審査されている薬剤です。その時、私は下記のようなコメントをしました。
タイサブリ
JC virusが検出限界以下のコピー数だった患者さんが、薬の使用のせいでウイルスが増殖して PMLを発症することがあるかどうかの知見は未知数だと思いますが、現実的には meritと riskを天秤にかけて判断されるべきことでしょう。
何というタイミングか、2013年 1月 21日の Archives of Neurology誌に教訓的な症例が掲載されました。
Lessons Learned From Fatal Progressive Multifocal Leukoencephalopathy in a Patient With Multiple Sclerosis Treated With Natalizumab
Objective To describe the clinical, radiological, and histopathological features of a fatal case of progressive multifocal leukoencephalopathy (PML) in a patient with multiple sclerosis treated with natalizumab. We will use this case to review PML risk stratification and diagnosis.
Design Case report.
Setting Tertiary referral center hospitalized care.
Patient A 55-year-old, JC virus (JCV) antibody–positive patient with multiple sclerosis who died of PML after receiving 45 infusions of natalizumab.
Main Outcome Measures Brain magnetic resonance imaging and cerebrospinal fluid JCV DNA polymerase chain reaction results.
Results The patient developed subacute onset of bilateral blindness following his 44th dose of natalizumab. Ophthalmologic examination was normal, the brain magnetic resonance imaging was not suggestive of PML, and cerebrospinal fluid analysis did not reveal the presence of JCV DNA. The patient was subsequently treated for a presumed multiple sclerosis relapse with high-dose corticosteroids. Two weeks after his 45th dose of natalizumab, he developed hemiplegia that evolved into quadriparesis. Repeated magnetic resonance imaging and cerebrospinal fluid studies were diagnostic for PML. Postmortem histopathological analysis demonstrated PML-associated white matter and cortical demyelination.
Conclusions The risks and benefits of natalizumab must be reassessed with continued therapy duration. When there is high clinical suspicion for PML in the setting of negative test results, close clinical vigilance is indicated, natalizumab treatment should be suspended, and JCV polymerase chain reaction testing and brain magnetic resonance imaging scans should be repeated.
症例は 49歳の男性です。多発性硬化症の再発予防に対し、当初は Interferon-beta Iaを使用していましたが、忍容性の問題で、natalizumab治療に変更しました。抗 JCV抗体が陽性であることが判明した後も、彼は natalizumabによる治療を選びました。第 44回目の natalizumab投与後、彼は視力障害を訴えましたが、頭部 MRI所見は 1年前と変化なく、JC virus DNA-PCRも陰性でした。眼科医による診察でも異常はありませんでした。そこで、ステロイドの静脈投与及び 45回目の natalizumab治療が行われました。しかし視覚症状の改善はなく、3週間後に新たに右片麻痺が出現しました。入院して血漿交換が行われましたが増悪し、更に脳症及び四肢麻痺を発症しました。その時点で施行された MRI検査で PMLに合致した所見があり、髄液の JC virus DNA-PCRは陽性となっていました。入院 5日後に患者は死亡しました。剖検による診断も PMLとされました。レトロスペクティブに視覚症状出現直後の頭部 MRIを見ると、PMLに合致した病巣が確認されました。
本症例で教訓的なのは、JC virus DNA-PCRが陰性でも PMLの可能性は残り、またMRIでの PML病巣は経験を積んだ神経放射線科医でも見逃され得るということです。
Natalizumabによる PML発症リスクは最初の 12回まででは 1000人に対して 0.04人なので稀であることがわかります。治療 1~24回目まででは 1000人に対して 1人以下ですが、24回目以降では 1000人に対して 2.5人と上昇することが知られています。元々患者の状態が良く (EDSS 2点), 再発も少なかったため、24回以上 natalizumabを投与するのは、benefitより riskの方が高かったのではないかと著者らは指摘しています。
この報告は、FDAと European Medicines Agencyでの審査に影響を与えるかもしれません。効果は優れた薬剤ですが、こうした報告を読むと、第一選択薬で使用するのには躊躇します。症例を選んで使用すべきだと思います。
2012年8月に紹介した南相馬のクリニックの院長が、亡くなられたそうです。
「子育てのできる南相馬に」がん抱えつつ被災地支えた産婦人科医 高橋亨平さん死去
2013.1.23 23:04
「やり残したことがある」と被災地にとどまり、地域医療の屋台骨となった医師が亡くなった。東日本大震災で大きな被害を受けた福島県南相馬市で、末期がんのため「余命半年」と告げられながら診療を続けた「原町中央産婦人科医院」院長、高橋亨平(きょうへい)さんが22日午後、肝機能障害のため南相馬市内の病院で死去。74歳だった。高橋さんは福島県立医科大を卒業後、昭和46年から原町市立病院(当時)で産婦人科医を務めた。55年に開業し、取り上げた赤ちゃんは1万人を超える。
「自分のやれることをやらなければ」。多くの市民が避難し、医師不足が顕著になった南相馬市。それでも地元に残り、診療を続けた。
強い意志の宿った体は病魔にむしばまれていた。平成23年5月に大腸がんが発覚。転移も判明し、「余命半年」の宣告を受けた。しかし、「子育てのできる南相馬に」との思いを胸に新しい生命を取り上げ、被災地の医療を支えた。
数週間に1回、福島市の病院で治療を受け、痛みや吐き気などの症状と闘いながら、「南相馬、そして日本の復興のため、まだまだやり残したことがある」と、昨年12月に入院するまで診療を続けた。
南相馬市のよつば保育園の副園長、近藤能之さん(46)は、高橋さんらと保育園の除染を行うなど、子供たちのための活動を展開。昨年12月17日に開かれた74歳の誕生会で会ったのが最後となった。
ご冥福をお祈りします。
気仙沼市立病院脳神経外科から非常に興味深い論文が発表されました。
Increase in the number of patients with seizures following the Great East-Japan Earthquake
In the afternoon of March 11, 2011, Kesennuma City was hit by the Great East-Japan Earthquake and a devastating tsunami. The purpose of this retrospective study is to document possible changes in the number of patients with distinct neurologic diseases seeking treatment following this disaster. Because of Kesennuma’s unique geographical location, the city was isolated by the disaster, allowing for a study with relatively limited population selection bias. Patients admitted for neurologic emergencies from January 14 to May 5 in 2011 (n = 117) were compared with patients in the corresponding 16-week periods in 2008–2010 (n = 323). The number of patients with unprovoked seizures was significantly higher during the 8-week period after the earthquake (n = 13) than during the same periods in 2008 (n = 6), 2009 (n = 3), and 2010 (no patients) (p = 0.0062). In contrast, the number of patients treated for other neurologic diseases such as stroke, trauma, and tumors remained unchanged. To our knowledge, this is the first report of an increase in the number of patients with seizures following a life-threatening natural disaster. We suggest that stress associated with life-threatening situations may enhance seizure generation.
自然災害は精神的、身体的健康に影響を与えます。ノースリッジ地震では心臓突然死が増加し、阪神大震災では血糖コントロールが悪化したとの報告があります。ストレスでてんかん発作が増えるとの報告はありますが、自然災害がてんかんのような神経疾患にどう影響を与えるかはよくわかっていません。
著者らは、2011年 3月 11日の東日本大震災の前後 8週間の期間、すなわち 1月 14日~5月 5日までに気仙沼市立病院脳神経外科に入院した患者について調べ、2008~2010年と比較しました。患者はてんかん、脳卒中、外傷、腫瘍、その他に分類しました。その結果、震災後てんかん患者は有意に増加していましたが、脳卒中患者数に変化はありませんでした (下記 Figure 2)。
2011年3月11日以降に入院したてんかん患者 13例のうち、11例はもともと脳の疾患を持っていました (特発性/症候性てんかん 5例, 外傷後 4例, 髄膜腫術後 1例, 陳旧性脳梗塞 1例)。てんかんの発作型は、13名中 9名が単純部分発作でした (9例のうち 8例が全般化しました)。 3例は複雑部分発作で、1例は診療録から発作型は不明でした。
その他、採血結果で 2008-2010年と 2011年で違いがあったのは、総タンパク質でしたが、パンやコメ食を余儀なくされたからかもしれません。実際、この大震災の後に行われた別の研究では、不適切な食事によって糖尿病患者の血糖値や血圧が悪化したとされています (Ogawa et al., 2012)。
著者らは、自然災害によるストレスがてんかんに影響を与えたのではないかとしています。ただし、こうしたストレスは誰にでもてんかんのリスクを高めるのではなく、もともと脳病変がある人でリスクを高めるのかもしれません。また、おそらく震災により抗てんかん薬を入手できなかったせいで、てんかん発作を起こした人が一人いました。
今後、近いうちに関東や東南海で大地震が起こると予測されていますが、その際てんかん発作を起こす患者が増えるだろうというのは、頭に入れておいた方が良さそうです。そして、抗てんかん薬の供給をどうするかも考える必要があります (抗てんかん薬を内服している患者さんは、手元にある程度予備の薬を持っておいた方が良いでしょう)。
2012年2月号の Annals of Neurology誌の “POINT OF VIEW” に 、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) と臓器移植についての報告がありました。
Organ Donation After Cardiac Death in Amyotrophic Lateral Sclerosis
Patients with amyotrophic lateral sclerosis (ALS) are often told that solid organ donation is not possible following death, although the reasons for exclusion are not evidence based. Because ALS patients typically remain sentient until death, organs may be procured under donation after cardiac death protocols. Anticipating this need, our institution created a process for organ donation in ventilator-dependent ALS patients that was subsequently implemented. To our knowledge, this is the first report of organ donation in a patient with rapidly progressive ventilator-dependent ALS.
ALSは運動ニューロンが侵されて徐々に動けなくなる疾患です。最終的に呼吸筋麻痺を起こして人工呼吸器がなければ生きられなくなります。前頭側頭型認知症を合併した場合は別として、基本的に認知機能は保たれます。そこで著者らは、人工呼吸器に依存するようになった患者さんからの同意を元に、手術室で苦痛を緩和する薬剤を使用してから人工呼吸器を外し、直後に死体腎移植を行いました。他にいくつかこうした事例はあり、摘出された臓器は腎臓、肝臓が多いようです。
この報告を受けて、2012年12月の Annals of Neurology誌の “POINT OF VIEW” に 、ALSと臓器移植についての議論が掲載されました。
Amyotrophic lateral sclerosis and organ donation: Is there risk of disease transmission?
A new protocol suggests that patients with amyotrophic lateral sclerosis (ALS) are a viable source of tissue for organ transplantation. However, multiple lines of evidence suggest that many neurodegenerative diseases, including ALS, might progress due to transcellular propagation of protein aggregation among neurons. Transmission of the disease state from donor to host thus may be possible under the permissive circumstances of graft transplantation. We argue for careful patient selection and close longitudinal follow-up of recipients when harvesting organs from individuals with neurodegenerative disease, especially dominantly inherited forms. ANN NEUROL 2012;72:832-836.
近年、神経変性疾患の研究では シード (Seed) 仮説という言葉を聞く機会が増えています。多くの神経変性疾患は、異常な構造を持ったタンパク質が毒性を持ち、蓄積することが原因だと考えられています。シード仮説によると、シードと呼ばれる種により、タンパク質の異常な折りたたみが促進するそうです。いくつかの神経変性疾患では、このことは細胞あるいは動物実験レベルで確認されています。アルツハイマー病でのアミロイドβ、パーキンソン病での αシヌクレインなどがそれに相当します。こうして重合したタンパク質は壊れにくく、細胞に対して害となります。
シードという形式をとるかどうかはともかく、「変性疾患の原因蛋白質が臓器移植で伝わってしまうことがないだろうか?」というのが著者らの懸念です。
現に、胎児ドパミンニューロン移植を受けたパーキンソン病患者の移植片を後に調べると、Lewy body病理がみられることが、相次いで報告されました (Li JY, et al. Nat Med, 2008; Kordower JH, et al. J Biol Chem, 2010)。健康な細胞を患者に移植したにも関わらず、移植された細胞が病気になったというもので、疾患が伝播しうることが示唆されました。
また、プリオン病患者の組織を移植された多くの患者が、医原性のプリオン病を発症したのも記憶に新しいところです。最初の報告は 1974年の角膜移植ですが、その後、硬膜移植、ヒト成長ホルモン投与での感染が報告されました。
ALSではどうか?実は実験室レベルでは SOD1や TDP-43というタンパク質がシードによって凝集することが報告されています。ALSは運動神経しか侵さないので大丈夫という意見もありそうですが、SOD1変異患者において、SOD1陽性封入体は肝臓や腎臓でも検出されています。これまで実際に ALSが伝染したという報告は無いものの、riskは払拭できません。急性肝不全などで緊急に移植を行わければならない場合は議論の余地がありますが、そうでない場合はリスクとベネフィットを慎重に見極める必要があります。それと同時に、臓器移植を行う場合には、レシピエントに ALSの危険因子がないかスクリーニングがされるべきで、ALS患者から移植を行った場合には慎重な経過観察が必要だというのが著者らの意見です。
現在の日本では一度つけた人工呼吸器を外すというシチュエーションが考えにくいので、こうした移植は行われないかもしれませんが、海外を中心に議論が盛んになりそうです。
片頭痛で面白そうな治療が FDAに承認されました。
パッチを貼って、薬剤を投与したいときにボタンを押すと、持続的に皮膚抵抗を感知しながら 4時間に渡り、スマトリプタン 6.5 mgを経皮的に注入してくれるのだそうです。高そうなパッチに見えますが、単回使用で使い捨てです。
このニュースを読んで感じたのは、群発頭痛の患者さんに使えないかなということです。私は群発期の明け方の激しい頭痛に対し、半減期の長いナラトリプタン (アマージ) を眠前に飲んでもらって翌朝の頭痛を軽減することがありますが、それでも寝る前に飲んだナラトリプタンの薬効が切れてから頭痛発作が始まる場合があります。そうした患者さんでは、頭痛を避けるために夜中に一回起きて薬を飲んでから再度寝たりしています (ナラトリプタンは群発頭痛に対して保険適応はありませんが、頭痛を専門に診ている医師なら、このような使い方を試した医師は少なくないのではないかと思います)。このパッチにタイマーをつけて、午前 4時くらいからスマトリプタンが徐々に注入されるようにすれば、明け方の発作が軽減できる可能性があるのではないかと思うのです。このパッチが日本で使えるようになれば、検討してみると面白いかも・・・。どっかの会社がやってみないかなぁ。
あと、記事にはなかったけれど、生物学的利用率はどのくらいなのでしょうか。スマトリプタンは、経口だと 15%, 皮下注射だと 96%と、大きく異なりますので、パッチだとどうなのか気になります。
January 17, 2013 18:17 ET
NuPathe’s Zecuity Approved by the FDA for the Acute Treatment of Migraine
First FDA-Approved Migraine Patch
Conference Call Scheduled January 18 at 8:30 a.m. EST
CONSHOHOCKEN, PA–(Marketwire – Jan 17, 2013) – NuPathe Inc. (NASDAQ: PATH) today announced that the U.S. Food and Drug Administration (FDA) has approved Zecuity™ (sumatriptan iontophoretic transdermal system) for the acute treatment of migraine with or without aura in adults. Zecuity is a single-use, battery-powered patch that actively delivers sumatriptan, the most widely prescribed migraine medication, through the skin. Zecuity provides relief of both migraine headache pain and migraine-related nausea (MRN).”The approval of Zecuity represents a major milestone for NuPathe and migraine sufferers,” said Armando Anido, CEO of NuPathe. “As the first and only FDA-approved migraine patch, we believe Zecuity will be a game-changing treatment option for millions of migraine patients, especially those with migraine-related nausea. We thank the patients and physicians who participated in our clinical trials as well as our employees for their support throughout the development of Zecuity. We now intensify our focus to securing commercial partners and preparing for the launch of Zecuity expected in the fourth quarter of this year.”“In addition to severe headache pain, migraine patients present with other significant symptoms, which commonly includes migraine-related nausea,” said Lawrence C. Newman, MD, FAHS, FAAN, Director of the Headache Institute at St. Luke’s-Roosevelt Hospital in New York. “For these patients, physicians need to assess and offer treatments tailored to each individual patient’s array of migraine symptoms. In fact, the American Academy of Neurology guidelines recommend a non-oral route of administration for migraineurs who experience nausea or vomiting as significant symptoms.”
“Migraine-related nausea can be as debilitating as migraine headache pain itself,” said study investigator Stephen D. Silberstein, MD, FACP, FAHS, FAAN, Professor of Neurology and Director of the Jefferson Headache Center in Philadelphia. “Treatments bypassing the GI tract may be the best way to treat these patients.”
Zecuity was approved based upon an extensive development program with phase 3 trials that included 800 patients using more than 10,000 Zecuity patches. In these trials, Zecuity was proven safe and effective at treating migraine and relieving its cardinal symptoms (headache pain, migraine-related nausea and sensitivity to light and sound) two hours after patch activation.
In the phase 3 pivotal study, twice as many patients treated with Zecuity achieved freedom from headache pain at two hours compared with placebo (18% and 9%, respectively). Additionally, 53% of patients treated with Zecuity achieved relief from headache pain and 84% were nausea free at two hours (29% and 63%, respectively, with placebo). The incidence of triptan-associated adverse events known as “atypical sensations” and “pain and other pressure sensations” was 2% each in Zecuity-treated patients. The most common (greater than 5%) side effects of Zecuity were application site pain, tingling, itching, warmth and discomfort.
About Zecuity
ZECUITY™ (sumatriptan iontophoretic transdermal system) is indicated for the acute treatment of migraine with or without aura in adults. Zecuity is a single-use, battery-powered patch applied to the upper arm or thigh during a migraine. Following application and with a press of a button, Zecuity initiates transdermal delivery (through the skin), bypassing the gastrointestinal tract. Throughout the four-hour dosing period, the microprocessor within Zecuity continuously monitors skin resistance and adjusts drug delivery accordingly to ensure delivery of 6.5 mg of sumatriptan, the most widely prescribed migraine medication, with minimal patient-to-patient variability.
「科学ニュースの森」というブログで、「ヒトをヒトたらしめている遺伝子」というエントリーがありました。
ヒトをヒトたらしめている遺伝子
科学の世界での最も大きな疑問の1つに、ヒトをヒトたらしめるものは何かというものがある。この度、エディンバラ大学のMartin Taylor博士率いる研究チームによって、脳の働きに重要な役割を持つヒト特有の遺伝子が発見された。この発見によって、初めてヒトの体内で特定の役割を有している、ヒトだけが持つ遺伝子が特定されたことになるという。
この遺伝子はmiR-941と呼ばれ、脳内の意思決定や言語能力をつかさどる部分で活性化するため、ヒト特有の高度な脳機能に深く関わっていると考えられる。この遺伝子はヒトが類人猿から進化した後の、100~600万年前の間に現れたと考えられるという。彼らは、チンパンジー、ゴリラ、マウスなどを含む11種の哺乳類とヒトのゲノムを比べることで、これらの結果を得た。
種ごとの違いは遺伝子の変異によって現れることはよく知られている。それらは既存の遺伝子が変化したり、遺伝子が複製、または消失することによって起こる。しかしmiR-941遺伝子は、以前までジャンクDNAと呼ばれていたタンパク質をコードしない部分から、短期間のうちに突然機能を持つ遺伝子として現れたのだという。
そこで、実際に Nature communications論文を読んでみました。
Evolution of the human-specific microRNA miR-941
MicroRNA-mediated gene regulation is important in many physiological processes. Here we explore the roles of a microRNA, miR-941, in human evolution. We find that miR-941 emerged de novo in the human lineage, between six and one million years ago, from an evolutionarily volatile tandem repeat sequence. Its copy-number remains polymorphic in humans and shows a trend for decreasing copy-number with migration out of Africa. Emergence of miR-941 was accompanied by accelerated loss of miR-941-binding sites, presumably to escape regulation. We further show that miR-941 is highly expressed in pluripotent cells, repressed upon differentiation and preferentially targets genes in hedgehog- and insulin-signalling pathways, thus suggesting roles in cellular differentiation. Human-specific effects of miR-941 regulation are detectable in the brain and affect genes involved in neurotransmitter signalling. Taken together, these results implicate miR-941 in human evolution, and provide an example of rapid regulatory evolution in the human linage.
転写因子や micro RNA (miRNAs) といった制御因子の変異は、数百もの遺伝子の制御異常の原因となり、そのためヒトの進化に大きな影響を与えている可能性があります。過去の研究では、転写因子の発現の違いが、ヒト特有の遺伝子の発現に関係するのではないかと考えられてきました。今回、著者らは miRNAに注目しました。miRNAは 20-24塩基の内因性の一本鎖 RNAで、転写後の遺伝子サイレンシングに関与しています。
ヒトゲノム特異的な miRNAを調べるために、1733個の miRNAのオルソログを網羅的に調べました。比較したのはチンパンジー、ゴリラ、オランウータン、マカクザル、マーモセット、マウス、ラット、犬、牛、フクロネズミ、鶏です。結果として、10個の miRNAでは、他の動物でのオルソログが存在しないことがわかりました。そして、前頭葉皮質および小脳での発現レベルを調べた所、ヒトでは miR-941以外のヒト特異的 miRNAがほとんど検出されないことがわかりました。そして、miR-941はチンパンジーやマカクザルの脳では発現していませんでした。miR-941はヒトの脳以外の組織や培養細胞でも検出されました。そして Argonature (AGO) 蛋白と RNA-induced silencing complex (RISC) を形成することが確認され、miR-941が実際に機能的な miRNAであることがわかりました。
miR-941は 20番染色体の q13.33にある DNAJC5遺伝子の最初のイントロンに存在しています。miR-941 前駆コピーは、それぞれ相補鎖である mature miR-941, miR-941-star配列を含む安定したヘアピン構造持ちます。この配列はヒトでは検出できますが、チンパンジーやマカクザルでは検出できません。
ヒトやマカクザルのゲノムでは、miR-941前駆領域はタンデム配列から成っています。一方で、チンパンジーではこの領域は失われています。マカクザルのゲノムの反復コピーの一つは、その残りの部分と異なっており、ヒトの反復タンデムに似ています。そのため、ヒトで見られるタンデム反復は、マカクザルのこの反復コピーに由来するのではないかと考えられ、それがコピー数拡大やヒトでの別の反復変異をもたらしました。ヒトで見られるようなタンデム反復がないため、チンパンジーやマカクザルでは安定した miRNAの前駆配列のヘアピン構造を形成出来ないと考えられます。これらの結果から、miR-941前駆配列が、ヒトとチンパンジーの狭間で進化したことがわかります。
次に、100万年前にヒトから分かれ、絶滅したヒト科の Denisova (デニソワ人) のゲノムを調べました。すると Denisova人は miR-941前駆配列を少なくとも 2コピーは持っていることがわかりました。よって、pre-miR-941形成及びコピー数増加は、共通の祖先がチンパンジーに分かれた 600万年前から、デニソワ人が分かれた 100万年前の間に起こったことがわかりました。
pre-miR-941のコピー数はデニソワ人とヒトの間で変化しているようですが、更にヒトにおいてもコピー数やコピー数多型は人種間で差があるようです。いずれもアフリカで高く、東に行くにつれて低くなっています。
更に、miR-941がどのような遺伝子をターゲットにしているかを調べました。まず、3種類の培養細胞 (293T, HEK, HSF2) に miR-941遺伝子をトランスフェクションし、遺伝子発現の変化を調べました。そして、miR-941によって変化がみられる遺伝子は、2つの KEGG pathyway, すなわち hedgehog-signalling pathwayと insulin-signalling pathwayに豊富に存在することがわかりました。miR-941は、hedgehog-signalling pathwayでの SMO, SUFU, GLI1や、insulin-signalling pathwayでの IRS1, PPARGC1Aや FOXO1のように、pathwayでの鍵となる componentをターゲットとしています。
新規に出現した miRNAは有利に働くこともあれば、有害になることもあるはずです。有害に働くのを回避するために、miR-941結合部位の減少や、ターゲット遺伝子の RISC complexからの回避といった手段がとられていることもわかりました。
結論として、著者らは過去の報告を交えた考察を通じ、miR-941のお陰で、ヒトの寿命が伸びて、認知機能も高まったのではないかと推測しています。
この論文は、ヒトをヒトたらしめたものが何なのか、分子生物学的にアプローチした研究でした。
この論文とは直接関係ない話ですが、高次脳機能に関連しては、FOXP2という遺伝子なども注目されています。しかし、ヒトだけではなく、鳥にも見られることが知られているようです。
「医者が裁かれるとき 神経内科医が語る医と法のドラマ (ハロルド・クローアンズ著、長谷川成海訳、白楊社)」を読み終えました。読み始めるとすぐに嵌ってしまい、一気に読了しました。
著者はシカゴのラッシュ-長老派-聖ルカ・メディカルセンター神経内科教授です。多くの裁判で専門鑑定人を務めています。その時の経験を中心に本に綴ったものです。
神経内科医としてはお馴染みの疾患がずらりと並んでおり、実感を持って読むことができました。「ヒステリーは難しい」というのは、改めて感じたところです。
驚いたことに、本書にギブズが登場します。ギブズは脳波研究で世界最高の権威の一人です。まさに歴史的人物です。この本を読んで知ったことですが、ギブズは医学部卒業後、臨床研修は行わず、すぐに研究室にこもってひたすら脳波を読み続けたそうです。患者を診察することはありませんでした。そのためか、訴訟において、「脳波のほうが臨床診断より有効だ」「もし脳波と臨床診断との間で違いが出たら、脳波をとる」と断言しています。現在ではそのような考えをする医師はまずいません。異常脳波で発作がないこともあるし、てんかん患者でも発作前後でなければ脳波で異常が見つからないことが少なくないことは、今日では一般的に知られています。著者は、一卵性双生児における遺伝性の小発作で、脳波所見が重篤な方が臨床症状は軽く、脳波所見が軽い方が臨床症状が重かった症例を経験しています。
本書は、読み物として非常に面白いので、一般の方にも是非読んで欲しいです。また、神経内科医なら読んで嵌ることを約束します。
2013年1月16日、Natalizumab (Tysabri; タイサブリ) が多発性硬化症の first-line therapyとして FDAと European Medicines Agencyに申請されました。
Biogen, Elan seek okay for first-line Tysabri use in MS
LONDON | Wed Jan 16, 2013 5:12am EST
(Reuters) – Biogen Idec and Elan have filed for approval to sell their drug Tysabri as a first-line treatment for multiple sclerosis, a move that could boost sales of the drug.
Demand for Tysabri has been curtailed due to concerns over its association with a potentially fatal infection known as progressive multifocal leukoencephalopathy, or PML, which is caused by the JC virus.
Now, however, there is a test for the virus to predict if patients are at risk of developing PML, opening the possibility that Tysabri could be used more widely and at an earlier stage of treatment.
Biogen and Elan said on Wednesday they had submitted applications to the U.S. Food and Drug Administration and the European Medicines Agency seeking approval for first-line use in patients with relapsing forms of multiple sclerosis (MS) who have tested negative for antibodies to the JC virus.
The JC virus is generally harmless, but in people with weakened immune systems, such as those using immune system-suppressing drugs like Tysabri, it can lead to an increased chance of developing PML.
Tysabri use is currently limited to between 10 and 12 percent of treated MS patients, due to the risk of PML, and analysts said the hoped-for wider approval would improve uptake and send a positive signal to doctors.
Berenberg analysts said Tysabri’s share of the MS market could increase to about 15 percent by 2015, representing sales of $2.9 billion, while today’s share price for Elan implied peak sales of only some $2 billion.
Tysabri was briefly pulled from the market over PML concerns – but it was considered to be so effective, compared with other available treatments, that MS patients argued the risk was worth taking and demanded its return.
Health regulators bowed to the pressure and allowed the drug’s relaunch with restrictions.
“A first-line approval would allow people with MS access to a highly efficacious treatment earlier in the course of the disease, potentially leading to better outcomes,” said Alfred Sandrock, Biogen’s chief medical officer.
“This is an important consideration for people with MS who may want or need more efficacy.”
Both the U.S. and European regulators are expected to decide on the applications for first-line use later this year.
(Reporting by Ben Hirschler; Editing by Louise Heavens)
タイサブリは、AFFIRM trialや SENTINEL tiralなどで高い有効性が示されている薬剤です。一方で稀ながら進行性多巣性白質脳症 (PML) の副作用が指摘されています。PMLは免疫抑制による JC virusの増殖が原因で起こる疾患です (AIDS及び免疫抑制剤使用により発症した患者をそれぞれ担当したことがあります)。
これらのジレンマを解決するため、JC virusを検査して陰性であれば、タイサブリを第一選択薬として使っても良いのではないかというのは自然な考え方だと思います。JC virusが検出限界以下のコピー数だった患者さんが、薬の使用のせいでウイルスが増殖して PMLを発症することがあるかどうかの知見は未知数だと思いますが、現実的には meritと riskを天秤にかけて判断されるべきことでしょう。
なお、日本では 2010年2月から治験がされています。国内においても、多発性硬化症の治療選択肢は今後どんどん増えていきそうです。
(参考)
下記のサイトに、多発性硬化症の新薬が紹介されています。多発性硬化症については、様々な新薬が登場し混乱しそうですが、すっきりと纏められています。
定期的にチェックしている “FIRST AUTHOR’S” というブログに、多発性硬化症の傾向治療薬フィンゴリモド (FTY720, 商品名 ジレニア) が、炎症性腸疾患を軽減し、大腸炎関連腫瘍を抑制するという論文が紹介されていました。
スフィンゴシン1-リン酸はSTAT3の恒常的な活性化により慢性腸炎と大腸炎関連腫瘍の発症とを結びつける
まだ動物実験の段階ですが、興味深い結果です。先日お伝えした関節リウマチの治療薬アクテムラが視神経脊髄炎に効果をしめした論文もそうですが、関係無さそうに見える病気に、同じ薬が効きそうなのが、自己免疫の関与した疾患の面白いところです (もっとも、糖尿病治療薬メトフォルミンと抗癌作用のように、自己免疫疾患以外でもこうした現象はみられることがありますが・・・)。
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