Category: 医学と医療

LRRK2

By , 2012年11月15日 6:38 AM

先日紹介した “FIRST AUTHOR’S” というブログに、パーキンソン病の原因遺伝子 LRRK2 (ラーク2) についての Nature論文が紹介されていました。

パーキンソン病の原因遺伝子LRRK2の変異によりひき起こされるヒトの神経幹細胞における進行性の変性

それが原因なのか結果なのかはわかりませんが、Parkinson病研究で、核膜の変形というのは聞いたことがありませんでした。興味深いですね。LRRK2異常では、Parkin-PINK1系と違ってミトコンドリア異常が見られなかったという事実は、Parkinson病が単一の原因ではなく、複数の原因によることを示唆しているのかもしれません。孤発性 Parkinson病だとどうなのか、今後の研究に注目したいと思います。

また、これまでの Parkinson病研究は HeLaなどの一般的な培養細胞での論文が多かったと思いますが、この論文のように「iPS細胞から神経系に分化させた細胞を用いる手法」は、今後増えていくでしょう。

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FIRST AUTHOR’S

By , 2012年11月11日 8:45 AM

FIRST AUTHOR’Sというブログを見つけました。日本人の論文著者が、自身の論文を要約したものをまとめたサイトのようです。そのせいか、論文の内容がかなり詳細に記述されています。

FIRST AUTHOR’S

読もうと思っていた、球脊髄性筋萎縮症に対するナラトリプタンの効果を示した論文の要約もありました。

ナラトリプタンはCGRP1の発現抑制を介し球脊髄性筋萎縮症を抑止する

専門外で内容が難しい論文も多いけれど、自分の専門分野の論文もたまに登場するので、定期的にチェックしていきたいと思います。

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脳からみた心

By , 2012年10月27日 11:24 AM

「悩からみた心 (山鳥重著、NHKブックス)」をアメリカ旅行中に読み終えました。山鳥重先生は、神経心理学の権威です。

本書は「言葉の世界」「知覚の世界」「記憶の世界」「心のかたち」の四部構成からなっています。Aさんから Zさんまで、脳損傷によってある機能が失われた患者さんを分析することで、脳の働きを掘り下げていきます。非常に詳細な専門的分析をしているにも関わらず、平易な文章で、解剖学用語もほぼ登場しません。音楽家の原口隆一・麗子氏が著書「歌を忘れてカナリヤが」の中で本書を紹介していたことからわかるように、医療関係者以外の方にも読みやすい本なのではないかと思います。また、ソシュール記号論なんかも登場するので、文学や哲学が好きな方が読んだら面白いかもしれません。

内容が少しでも伝わるように、目次を紹介しておきます。

目次

はじめに-脳と心の関係

I 言葉の世界

(1)言葉は意味の裾野をもつ

言葉に対するでたらめともいえない反応の仕方 言葉は意味の骨格のまわりに広い裾野をもっている

(2)語の成立基盤

名前と物が重ならない ソシュールの理論を裏づける

(3)語は範疇化機能をもつ

一つの物にしか名前をいえない 人間は物の一般的属性を切り出す能力をもつ

(4)「意味野」の構造

物の名前を言えない 語は意味野の部分である

(5)「語」から「文」への意味転換

語はわかるが「文」が理解できない 「文」は語の単純加算ではない

(6)自動的な言葉と意識的な言葉

日常的な言葉は壊れにくい 注意を集中すると言葉が理解できない

(7)言語理解における能動的な心の構え

文脈を理解していて内容を理解していない 言葉の受動的理解から能動的理解へ

(8)状況と密着した言葉

目的意識をもつとうまくいえない 言葉は習慣性の高い自動的な能力

(9)言葉はかってに走りだす

とりとめのない言葉が延々と続く 言葉は常に内容を伴うとはかぎらない

(10)過去の言葉が顔を出す

意図に反して同じ言葉がでてしまう 過去が過剰に持続する

(11)言葉の反響現象

意味の理解を伴わない言葉の自動的繰り返し 状況が大枠で適切な言葉を引きだす

(12)言葉の世界は有機体-まとめ

II 知覚の世界

(1)知覚の背景-「注意」ということ

注意を維持できない 正確な知覚には注意機能が必要

(2)注意の方向性

左側の空間に気づかない 注意がその方向に向いて知覚が成立する

(3)「見えない」のに「見えている」ということ

見えていないはずの光源の方向が分かる 「見える」、「見えない」が視覚のすべてではない

(4)「かたち」を見ること-その一

かたちの区別がつけられない 視覚的要素が「かたち」に転化する

(5)「かたち」を見ること-そのニ

文字は読めるが顔は分からない 顔が分かるには線の知覚が重要

(6)「かたち」の意味

触ると分かるが見ると分からない 知覚された形と意味が結びつく段階

(7)二つの形を同時に見ること

二つのものが同時に見えない まとまりのあるものを見ようとする過程

(8)「対象を見る」とは何か

対象が消えても眼前にありありと再現する 神経活動の過程を「見て」いる

(9)視覚イメージの分類過程

見えない視野に出現するまぼろし 視覚情報は基本パターンに分類される

(10)対象を掴む

眼前の物を掴めない 「形」ではなく「関係」の知覚能力が必要

(11)私はどこにいるのか?

方角がわからない 動かない空間を基準に自己の動きを見ること

(12)知覚の世界は宇宙空間-まとめ

III 記憶の世界

(1)刹那に生きる

昨日、今日のことを覚えていない 記憶のない行動は恐い

(2)短期記憶から長期記憶へ

新しい出来事を覚えられない 短期記憶を長期記憶へ移していく特別の機構

(3)長期記憶が作られる過程

過去へ遡る記憶の消滅 じょじょに長期記憶として固められていく

(4)記憶の意味カテゴリー

時間性を失った記憶 記憶の歴史性と状況性

(5)記憶と感情の関わり

記憶が自分のものでないように思える 感情と記憶の濃淡が時間体験の背景

(6)短期記憶はなぜ必要か

数字の復唱ができない その場の一時的な働きを支える短期記憶

(7)記憶の世界の広大な拡がり-まとめ

IV 心のかたち

(1)言語と音楽能力は関係あるか

強い言語障害でもすばらしい曲を作る 音楽的世界は言語世界から自立している

(2)言語と絵画能力は関係あるか

強い言語障害でもすばらしい絵をかく 絵画的能力と言語能力は別でありうる

(3)左大脳半球と言語 左右大脳半球を分離する-その一

右手は正しいが左手は不正確 言語機能は左大脳半球に偏っている

(4)右大脳半球の世界 左右大脳半球を分離する-そのニ

脳梁全切断患者への画期的な実験 右大脳半球は視知覚能力がすぐれる

(5)人は複数の心をもつ

複数の心の同時並列的な関係 意識が心の一つを選びとる

(6)心のかたち

参考・引用文献

あとがき

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プレゼン

By , 2012年10月25日 8:05 AM

現在のラボが今月いっぱいなので、追い込みの時期で、ブログ更新の時間がほとんど取れていません。更新がないと、死んだんじゃないかと心配してくれる人がいるかもしれませんが、無事生きていますのでご心配なく。

これまで、学会で散々発表してきましたが、Power Pointを使ったプレゼンテーションをするときに大学でよく言われたのが、「1枚のスライドに 10行まで」の制約でした。学会発表を見ていて、確かに busyなスライドは見にくいですね。

最近、プレゼンテーションについて、面白いサイトを見つけたので紹介します。

しょぼいプレゼンをパワポのせいにするな!

プレゼンテーションのやり方を解説するプレゼンテーションが素晴らしいです。

そういえば、先日ノーベル賞を受賞した山中教授は、プレゼンテーションが上手なことで有名です。

ノーベル賞・山中教授から学ぶプレゼンテーションの秘訣

その能力は、研究費を取るにも役立ったようです。「下手なイラスト」と言いながら、私より全然上手 (^^;

教授の「下手な」イラスト、研究進める決め手に

山中教授が自作したイラスト。ES細胞が直面している課題を「涙を流す胚」(上)、「腫瘍ができて涙を流すマウス」(下)で表現した(山中教授提供)

ノーベル生理学・医学賞の受賞決定から一夜明けた9日朝、山中伸弥・京都大教授(50)はいつも通り研究室に顔を出した後、夫妻で記者会見に臨んだ。

研究者として最高の栄誉に浴する喜びを語りつつ、世界の期待に応える重責への決意もにじませた。授賞理由となったiPS細胞(新型万能細胞)の研究を飛躍させた原動力は、研究の重要性を粘り強くアピールする山中教授自身の「プレゼンテーションの力」。自分で作成した個性的なイラストが、約3億円(5年分)という巨額の研究費を獲得するきっかけとなった。

山中教授は2003年8月、iPS細胞の基礎研究に手応えを感じ、国の大型研究費を申請した。しかし、当時は本人の強い自負とは裏腹に、iPS細胞研究はまだ模索の段階だった。そこで、研究費配分の審査では、世界的に研究が先行していたES細胞(胚性幹細胞)の問題点をイラストにまとめ、「ES細胞に代わる新たな細胞を作る必要がある」と訴えた。

イラストの図柄は、人の胚(受精卵が成長したもの)や腫瘍のできたマウスが涙を流す様子を描いていた。ES細胞の研究では、人間への応用を考えた場合、母胎で赤ちゃんに育つ胚を壊し、作らなければならないという倫理的な難問が立ちはだかっていた。移植した時に腫瘍ができやすい弱点もあり、それらが分かりやすく伝わった。

山中教授は「今考えたら、よくこんな下手なイラストをお見せしたものだと冷や汗が出ます」と苦笑するが、審査担当だった岸本忠三・元大阪大学長は「イラストを使った説明には(説得する)迫力があった。(iPS細胞は)できるわけがないとは思ったが、『百に一つも当たればいい。こういう人から何か出てくるかもしれん。よし、応援したれ』という気になった」と高く評価した。

(2012年10月9日14時42分  読売新聞)
 ※朝まで酒を飲んでその勢いのままプレゼンテーションしようとするとか、そうしようとして二日酔いでプレゼンテーションの 3分前までトイレに閉じこもって吐き続けているとかいうのは論外です。「こいつがトイレから出てこなかったらオレがやらなきゃ・・・」と焦らせた指導医の先生、すみませんでした。

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どうして弾けなくなるの? <音楽家のジストニア>の正しい知識のために

By , 2012年10月19日 8:15 AM

紹介が遅くなりましたが、9月中旬に「どうして弾けなくなるの? 音楽家の<ジストニア>の正しい知識のために (ジャウメ・ロセー・リョベー、シルビア・ファブレガス・イ・モラス編、平孝臣・堀内正浩監修、NPO法人ジストニア友の会)」を読み終えました。

ジストニアは運動障害の一種で、筋緊張の異常のため、異常姿勢をとったり、さまざまな運動のコントロールが困難になります。ある種の熟練者に見られる特殊なジストニアもあり、音楽家に生じるものを “musician’s dystonia” と呼びます。

音楽家のジストニアで最も有名な患者は、ロベルト・シューマンでしょう。過去にロベルト・シューマンの手に関する論文を少し紹介しました (シューマンの手<1>, <2>) が、その後、シューマンはジストニアであったという説が最も有力になっています。つまり、ロベルト・シューマンは、ジストニアのために演奏家を諦め、作曲家を目指したらしいのです。シューマン以外にも多くの演奏家がその道を諦めています。どのくらい多いかというと、音楽家のジストニアはプロの音楽家の 5%に見られ、その半数で音楽家の道を諦めなければいけない事実が、本書の序文に記されています。

音楽家のジストニアは、ヴァイオリニストやピアニスト、ギタリストの手に見られるだけではなく、声楽家の喉、管楽器奏者の口などにもみられます。こうしたジストニアの診療には、楽器演奏に対するある程度の知識がないと難しいようです。例えば、演奏家の手にジストニアが生じ、第 III指が屈曲した形になると、第 II指が伸展して第 III指の屈曲を代償しようとします。このとき、患指がどの指か見極めないといけません。そして、代償のため伸展した第 II指を患指と誤りボツリヌス治療をすると、第 III指の屈曲はますますひどいものになります。

また、”musician’s dystonia” は、診た瞬間診断が確定するわけではなく、ジストニアと紛らわしい他の疾患 (末梢神経障害など) の除外をしないといけません。ジストニアがある疾患に続発しておこる場合があるので、その基礎疾患 (神経変性疾患など) を見逃さないことも重要です。

これらの事を考えると、音楽家のジストニアの診療には、ある程度楽器の演奏に精通した神経内科医に求められる部分が大きい気がします。実は私の知り合いの先生が、こうした診療をしている医師を紹介してくれるとおっしゃってくださったので、折を見て勉強しに行こうか模索しています。音楽家のジストニアの専門的な治療が出来る医師は極めて少ないので、ヴァイオリンを弾く神経内科医として、少しでも力になれればと思います。

さて、音楽家の側から見て、演奏していて楽器を扱う部位に違和感を感じた時、それを克服するために無理をすると、ジストニアを発症ないし増悪させる可能性があります。一旦安静をとり、改善がないようなら、音楽家のジストニア診療に精通した医師の診断を受ける必要があると思います。音楽家生命に関わる疾患であり、適切な対処が求められる疾患でもあるので、もっと広くこの疾患の事が知られることを望みます。

[目次]
本書の必要性

第1章  音楽家のジストニアとは何か?
書痙と同じ疾患か?
音楽家のジストニアはいつ頃から知られていたか?

第2章  音楽家のジストニアとは
初期症状
もっとも特徴的な症状
どのような音楽家が発症するか?
どのような種類の楽器で発症するか?
発症しやすい身体部位はどこか?
症状が現れたときに音楽家はどのように対処したか?
感覚トリック
手のジストニアの特徴
楽器の種類による症状の特徴はあるか?
口唇(アンブシュア)ジストニアの特徴
声楽ジストニアの特徴
どのように進行するのか?
他の動作と副楽器演奏への症状の拡大
ジストニアの進行を防ぐことは可能か?

第3章  どのように診断するか?
病歴
診察所見
楽器演奏中の症状の評価
ジストニアの患指と代償指の診断
除外すべき疾患は?
その他の特発性ジストニアとの鑑別診断
偽性ジストニア
口唇ジストニアの鑑別診断における注意点
喉頭ジストニアの鑑別診断における注意点
どのような補足検査が必要か?

第4章  ジストニアの原因は何か?
精度の高い定型的反復動作、困難と動機づけ、基本的要素
なぜ一部の熟練した音楽家だけがジストニアになるのか?
発見された変化

第5章  ジストニアの心理学的側面
ジストニアの発症を促す心理学的要素は存在するか?
音楽家のジストニアへの対処法は?
ジストニアは心理的な問題を引き起こすか?
心理的な要因によりジストニアの回復が難しくなるか?
周囲の人々はジストニアを理解しているか?
ジストニアが回復すると、感情のバランスも安定するか?

第6章  予防対策

第7章  ジストニアの症状が出たときに何をすべきか?
ジストニアを改善させるための一般的な注意
内服薬
ボツリヌス毒素
神経リハビリテーション
興奮性の調整
外科手術

付録1 私のジストニア闘病記
マルコ・デ・ビアージ:ギタリスト
ジャンニ・ヴィエロ:オーボエ奏者
ジュリアーノ・ダイウト:ギタリスト
フランシスコ・サン・エメテリオ・サントス:ピアニスト

付録2 ジストニアをとりまく法律および労働に関する状況

あとがき
文献
一覧
索引

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祝!ノーベル医学生理学賞

By , 2012年10月10日 8:23 AM

10月8日、ラボでノーベル賞のサイトを見ていて、山中伸弥教授がノーベル医学生理学賞を受賞したことを知りました。彼の業績については今更説明の必要はないでしょう。

ノーベル賞のサイトの Press releaseを見ると、key publicationsは、この論文になっています。雑誌の購読契約をしていなくても、無料でアクセス出来るみたいですね。

 Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defined Factors

Youtubeでは、 2010年に NIHで山中先生が行った講義を見ることができます。当初、APOBEC1の研究をされていたみたいです。それから ES細胞の研究をされていたと話しています。ES細胞の研究の後は、奈良先端科学技術大学院大学での iPS細胞の研究の話です。

・Induction of Pluripotency by Defined Factors

ギャグが面白いですね。英語が苦手で、ヒヤリング全くダメな私でも、引きこまれて聞いてしまいました。例として、前半部分のギャグを挙げると・・・

①当時はもっと髪がありました (6:00)

②テクニシャンが言ってきたのです。マウスが妊娠している。でも、オスのマウスなんだ!(8:35)

③APOBEC1が癌遺伝子だとわかった。だからこの遺伝子は遺伝子治療に使えない。(9:30) (※妊娠したと思っていたのは腫瘍化した肝臓だった)

④(3つのことがわかった) 一番重要なこと、「ボスの仮説を信じちゃいけない」 (10:15)

⑤日本に戻って、 私は PADっていう心の病気になりました。PADというのは私が名付けた病気で、”Post America Depression (アメリカ後鬱)” です。 (16:16) (※このあと、金もテクニシャンもなく、自分で数百匹のマウスを世話していたことを語る)

といった感じです。

47分10秒からの、「iPS細胞バンクを作る資金を獲得しようとしたけど、新しい政権 (民主党) は、我々に friendlyじゃない」っていうトークには笑いました。多分、「京大・山中教授「希望奪わないで」事業仕分けの科学予算削減で」とか「最先端研究:支援プログラムの配分額 18~50億円に減」っていう記事と関係がありますね。

さて、体細胞を一気に多能性幹細胞まで戻せる “山中の 4因子” ですが、化学物質を使うことで、4因子の数を減らす試みがされています。我々神経内科医にとってお馴染みのバルプロ酸という抗てんかん薬を使えば、Oct4遺伝子とSox2遺伝子だけで iPS細胞が作れるらしいです。資本が集中投資されているだけあって、凄い勢いで研究が進んでいます。

一方で、この技術、悪用しようと思うと色々できちゃいます。早速色々妄想してる方々がいらっしゃいます (^^;

(追記)

下記のサイトから、山中伸弥教授に寄付が続々と寄せられているようです。

JustGivingJapan

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多発性硬化症の新薬

By , 2012年9月28日 9:00 AM

インターフェロンβの自己注射が主な治療であった多発性硬化症の治療選択肢が広がりつつあります。

初の経口治療薬フィンゴリモドが 2011年 11月 25日に薬価収載され、日本国内でも保険適応となったのは記憶に新しいところです。

2012年 9月 12日に、FDAが経口治療薬 teriflunomideを承認しました。1日 1回の内服で治療できるというのは便利ですね。2011年 10月のNew England Journal of Medicine (NEJM) に Randomized trialの結果が載っています。

Randomized Trial of Oral Teriflunomide for Relapsing Multiple Sclerosis

Teriflunomide reduced the annualized relapse rate (0.54 for placebo vs. 0.37 for teriflunomide at either 7 or 14 mg), with relative risk reductions of 31.2% and 31.5%, respectively (P<0.001 for both comparisons with placebo). The proportion of patients with confirmed disability progression was 27.3% with placebo, 21.7% with teriflunomide at 7 mg (P=0.08), and 20.2% with teriflunomide at 14 mg (P=0.03). Both teriflunomide doses were superior to placebo on a range of end points measured by magnetic resonance imaging (MRI). Diarrhea, nausea, and hair thinning were more common with teriflunomide than with placebo. The incidence of elevated alanine aminotransferase levels (≥1 times the upper limit of the normal range) was higher with teriflunomide at 7 mg and 14 mg (54.0% and 57.3%, respectively) than with placebo (35.9%); the incidence of levels that were at least 3 times the upper limit of the normal range was similar in the lower- and higher-dose teriflunomide groups and the placebo group (6.3%, 6.7%, and 6.7%, respectively). Serious infections were reported in 1.6%, 2.5%, and 2.2% of patients in the three groups, respectively. No deaths occurred.

Teriflunomideは再発寛解型における年間再発リスクを約 30%減少させる効果が期待されます (ただし、年間再発リスク 30%程度減少が満足できる成績かどうかには議論があるところです・・・)。インターフェロンβと併用して使っている症例が結構あるのが面白いですね。副作用としては、消化器症状、肝機能障害、感染症などに注意する必要があります。

FDAの Teriflunomide承認のニュースが注目を集める一方で、2012年 9月 20日の NEJMに興味深い論文が掲載されました。

Placebo-Controlled Phase 3 Study of Oral BG-12 or Glatiramer in Multiple Sclerosis

At 2 years, the annualized relapse rate was significantly lower with twice-daily BG-12 (0.22), thrice-daily BG-12 (0.20), and glatiramer acetate (0.29) than with placebo (0.40) (relative reductions: twice-daily BG-12, 44%, P<0.001; thrice-daily BG-12, 51%, P<0.001; glatiramer acetate, 29%, P=0.01). Reductions in disability progression with twice-daily BG-12, thrice-daily BG-12, and glatiramer acetate versus placebo (21%, 24%, and 7%, respectively) were not significant. As compared with placebo, twice-daily BG-12, thrice-daily BG-12, and glatiramer acetate significantly reduced the numbers of new or enlarging T2-weighted hyperintense lesions (all P<0.001) and new T1-weighted hypointense lesions (P<0.001, P<0.001, and P=0.002, respectively). In post hoc comparisons of BG-12 versus glatiramer acetate, differences were not significant except for the annualized relapse rate (thrice-daily BG-12), new or enlarging T2-weighted hyperintense lesions (both BG-12 doses), and new T1-weighted hypointense lesions (thrice-daily BG-12) (nominal P<0.05 for each comparison). Adverse events occurring at a higher incidence with an active treatment than with placebo included flushing and gastrointestinal events (with BG-12) and injection-related events (with glatiramer acetate). There were no malignant neoplasms or opportunistic infections reported with BG-12. Lymphocyte counts decreased with BG-12.

新しい経口治療薬 BG-12の第 3相試験の結果です。再発寛解型の多発性硬化症患者に対し、1日 2~3回の BG-12内服、 glatiramer acetate, プラセボを比較しています。BG-12内服で年間再発リスクが 44~51%減少というのは、なかなかの成績だと思います (患者背景、試験デザインが違うので、前記の teriflunomideと単純比較はできません)。副作用としては顔面紅潮、消化器症状、リンパ球減少などが挙げられています。

新薬というのは後に思わぬ副作用が明らかになることがあるので、実際に使用するには慎重でなくてはいけませんが、このように経口で治療できる薬剤の開発がどんどん進んでいるのは、患者さんにとっては朗報です。

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神経病理学に魅せられて

By , 2012年9月26日 7:19 PM

神経病理学に魅せられて (平野朝雄著, 星和書店)」を読み終えました。神経内科医であれば平野先生の名前を聞いた人はいないと思います。神経病理学の日本人パイオニアの一人で、 多くの業績を残しています。毎年、神経病理学の初学者向けにセミナーを開催しており、参加した神経内科医は多いと思います (私は毎回当直でまだ参加できていません・・・)。

平野先生は京都大学第一外科 (荒木脳外科) に入局した後、30ドルと片道切符を持ってニューヨークに向かいました。そこで師事したのが Zimmermanでした。Zimmermanはドイツのエール大学に神経病理部門を創立した後、ニューヨークの Montefiore病院の基礎部門全体のディレークター及びコロンビア大学の病理学教授となった神経病理学の大御所です。Zimmermanは Albert Einstein医科大学の新設に際して、 Einsteinの元を訪れて彼の名を冠する承諾を得て、その大学の初代ディレクターにも就任しているそうです。

平野先生はニューヨークで多くの業績を積み重ねましたが、グアムに滞在し Guam ALS, Parkinsonism-dementia complex (PDC) の疾患概念確立に貢献しました。戦後初めてグアムの地を踏んだ日本人は平野夫妻だったと言われています。その時の仕事は Brain誌に掲載され、米国神経病理学会最優秀論文賞を受賞しましたが、いずれも日本人として初めての快挙でした。またニューヨーク時代、中枢神経の髄鞘構築を明らかにした Journal of Cell Biology論文は、多くの研究者から引用されています。

平野先生について、先輩から聞いた面白い逸話があります。平野先生は教育にも定評があり、多くの日本人が彼のもとに留学しています。ある日本人医師が「神経病理は全くの初心者で何もわかりませんが、勉強しに伺いたいのですが・・・」と問い合わせると、「経験がないのは問題ありません。(「何もわからない」ことに対して、) わかっているなら来る必要はありません」と言われたそうです。

本書は著者が回想するという形式をとっているため、教科書とは違って読みやすいです。神経内科専門医試験を受験するくらいの知識があれば楽しく読めると思います。最後に目次を紹介しておきます。

目次

まえがき

神経病理回想五十年

神経病理学入門までの思い出

  1. 学生時代
  2. 米国でのインターンと neurology residency
  3. 神経病理学に

グアムでの研究 (前編)

  1. グアム島へ
  2. Guam ALS
  3. Parkinsonism-dementia complex (PDC) on Guam

グアムでの研究 (後編)

  1. PDCの神経病理
  2. おわりに

脳浮腫の電顕による考察の回想

中枢神経の髄鞘の構造解析についての回想

  1. はじめに
  2. 末梢性髄鞘
  3. 中枢性髄鞘
  4. 脳浮腫に伴う有髄線維の変化の解析

小脳における異常シナプスの研究を振り返って

  1. Purkinje細胞の unattached spine
  2. 小脳腫瘍

筋萎縮性側索硬化症の神経病理学的研究についての思い出

  1. Bunina小体
  2. Spheroid

家族性 ALSの神経病理

  1. 後索型
  2. Lewy小体様封入体
  3. SOD1

神経系腫瘍の病理診断についての思い出

  1. 内胚葉性上皮性嚢胞
  2. 馬尾部の傍神経節腫
  3. Weibel-Palade小体

AIDSの神経病理についての思い出

あとがき

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EBM

By , 2012年9月26日 12:42 AM

Evidence Based Medicine (EBM)」は、現代医療を象徴する言葉の一つです。日本語では「根拠に基づいた医療」と訳します。

一方で、「EBM」という言葉を誤解して振りかざす人を時々みかけます。

先日、知り合いの先生のサイトを覗いたら、「EBMに対する誤解」について、凄く面白いことが書いてあったので、紹介します。こうした誤解に陥らないように気をつけないといけませんね。

EBMに対する誤解
誤解1:「EBMに基づいた医療」なる医療がある という誤解
誤解2:研究結果に統計学的有意差があれば,治療効果はあり,患者にその治療をすべきである という誤解
誤解3:EBMを実践することと,エビデンスを患者に当てはめることは同じことである という誤解
誤解4:EBMとは,エビデンスを偏重する行動様式であり,医療者の臨床経験を否定するものである という誤解
誤解5:最強のエビデンスはRCTである(RCTがなければエビデンスはない) という誤解
誤解6:エビデンスがなければ,EBMは実践できない という誤解

上記リンク先で詳しい説明がされています。是非様々な医療従事者に読んで欲しいです。

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Google Scholar

By , 2012年9月21日 12:40 PM

Googleが “Google Scholar” という論文検索システムを提供しています。 その “My Citations” 機能を使うと、自分の論文を誰が引用したかがわかるのでやってみました。

Google Schalorの機能を使って自分の論文の引用状況を調べる

すると、私の書いた日本語論文 (abstractは英語) が、ロシア語や中国語の論文に引用されていてびっくりしました。「本当に読んで引用したのかな???」と思って引用論文を読もうとしたら、当然意味不明でした。中国語は漢字でニュアンスが通じるけれど、ロシア語難しすぎますね。

励みになるので、被引用状況は今後ちょこちょこチェックしていこうと思います。

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