Category: 医学と医療

ボツリヌス毒素の対側への拡散

By , 2012年9月19日 12:40 AM

不定期チェックしている “Muscle & Nerve” という医学雑誌の 2012年 9月号に、面白い論文が出ていました。

Contralateral weakness following botulinum toxin for poststroke spasticity

脳卒中後の痙縮に対して、ボツリヌス毒素は有効とされています (※ 2010年10月から日本でも保険適応となっています)。ところが、ボツリヌス治療後に対側上肢の麻痺を生じた症例が 2例ありました。

Case. 1

43歳女性。2009年2月発症の出血性脳卒中により右痙性片麻痺が後遺症として残りました。そこで同年 6月からボツリヌス治療を開始しました。2011年1月に第 6回目の治療 (①Triceps (lateral head) 50 U, triceps (long head) 50 U, gastrocnemius 100 U, soleus 100 U, posterior tibial 100 U (400 U/4ml溶解), ②Flexor digitorum sublimis 75 U, flexor digitorum profndus 50 U, lumbricals 25 U, opponens pollicis 25 U, flexor pollicis brevis 25 U, flexor pollicis longus 25 U, extensor hallucis longus 75 U (300 U/2 ml溶解), Total 700 U) を行いました。上腕の筋には Botox 100単位を注射しました (斜体部分)。3週間後に再受診した際、正確な時期はわからないものの、彼女は対側の左上肢に麻痺が出現していたことを告げました。神経伝導検査は正常でした。低頻度反復刺激で 23%の振幅低下 (いわゆる Waning) がありましたが、その 2ヶ月後の再検では正常でした。ボツリヌス治療は、症状が完全に改善するまで延期することにしました。

Case. 2

21歳女性。先天性心疾患のため、2歳時に脳卒中を起こしました。脳卒中による痙性とジストニアがあり、12歳時からボツリヌス毒素による治療を開始しました。当初はボツリヌス 600単位を 3ヶ月ごとに注射していましたが、2009年に著者らのセンターで治療することになりました。2010年9月に 4回目の治療 (①Deltoid 50 U, triceps (long head) 50 U, triceps (lateral head) 75 U, trapezius 50 U, gastrocnemius 150 U, soleus 150 U (525 U/4ml溶解), ②Flexor carpi ulnaris 50 U, lumbricals 50 U, flexor longus 25 U, flexor digitorum brevis 50 U (175/2 ml溶解), Total 600 U) を行いました。左上腕の筋には Botox 225単位を注射しました (斜体部分)。その数日後、彼女は右手の筋力低下を自覚しました。(後になって振り返ると、2010年6月の注射の時にも同様の筋力低下があったようですが、1-2ヶ月で改善していたようです)。神経伝導検査は正常でしたが、低頻度反復刺激では 16%の振幅低下がありました。2ヶ月後くらいから筋力は改善してきたようです。2011年1月にボツリヌス治療をした際は、上腕の筋へは Triceps 50単位にとどめましたが、それでも対側の右上肢の筋力低下が出現しました。そこで、次からは左肘より中枢への注射はやめたところ、筋力低下は見られなくなりました。

Discussion

今回、脳卒中後の痙性に対するボツリヌス治療で、対側の筋力低下をきたした報告は過去に 1例あり、それぞれ 800単位、500単位を Botox注射したことによるものでした。

(※続いて、電気生理学的な検討 (needle EMG, 反復刺激, 過去の single-fiber EMGの報告など) がなされていますが、ちょっとマニアックなので割愛します)

対側上肢の筋力低下をきたした原因は「ボツリヌス毒素の拡散」が最も考えやすいようです。つまり、ボツリヌス毒素が正中を超えて直接浸潤していったものと推測されます。過去には血行性や神経行性とした報告はあるようですが、説得力に欠けます。

今回の症例で使用したボツリヌス毒素の量は、過去の randomized controlled trials (RCT) で用いられた量より多いのですが、これには理由があります。”We Move revised guideline” での成人へのボツリヌスの量は、特に熟練したエキスパートが行った場合、total 600単位以上が推奨されています。きちんと多い量を使うのが最近の流れです。

ボツリヌス毒素の対側への拡散で留意すべきは次の点です。

①高容量を用いた方が、対側への拡散が起こりやすい。

②大量の溶解液に少量のボツリヌス製剤を溶解 (20 U/ml) する方が、少量の溶解液に大量のボツリヌス製剤を溶解 (100 U/ml) するより終板まで拡散させやすい。特に大きな筋肉で終板が同定しづらい場合、効果的である。しかし、その分、対側への拡散のリスクがある。

③身体の正中に近い筋肉の方が、対側への拡散が起こりやすい。

上記を踏まえて、ボツリヌス毒素の投与計画を設計する必要があります。

これらの症例は、日本で一般的に使用するよりかなりの高投与量ですが、上腕の筋に 100単位注射するのは日本の保険適応の範囲内で出来てしまうので、稀な副作用ではありますが注意しておかないといけません。

対側への拡散については、2011年 5月に参加した角館の研究会で既に坂本崇先生が講演されており、改めて研究会のレベルの高さを感じました。

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ALSの治療ターゲット候補 EPHA4

By , 2012年9月16日 8:40 AM

2012年 9月 1日に筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の新規遺伝子 profilin1についての論文をお伝えしました。その論文が発表されたのは 7月15日でしたが、約 1ヶ月後の 8月 26日に、Epha4というタンパク質が ALSの予後と関係していて治療ターゲットになりうることが Nature Medicineに発表されました。

これまでの ALS研究の経緯について簡単に触れると、1993年に家族性 ALSの原因遺伝子として SOD1が同定されて以降、活性酸素除去システムの障害が注目されてきましたが、TDP-43発見が孤発性 ALSを考える上で一つのターニングポイントになりました 。生化学的、あるいは病理学的に大きなブームとして研究される一方で、 FUS/TLS, Optineurin, DAOVCP, Ubiquilin2などの ALS原因遺伝子が立て続けに見つかり、TDP-43との関連が議論されています。2012年にはフィンランドの孤発性 ALSの約 2割に C9orf72の異常が見つかり、非常に大きなインパクトを与えました (日本人には少ないとされています)。また、孤発性 ALSに対して、ADAR2活性低下と RNA編集異常といった切り口での研究も説得力を持って行われています。しかし、残念なことに、まだこれらは治療に結びつく段階ではなく、「どうやったら病気が良くなるのか、進行を遅らせられるか」についての情報は非常に少ないのが現状です。挙げるとすれば、HGF (2012年 6月に臨床試験への参加条件が変更になっています) や Dexpramipexioleなどが、現時点で注目されるところでしょう。

こうした中、「治療」という観点で、Epha4は今後注目されてくることが予想されるので、前述の Nature medicine論文を紹介しておきたいと思います。

EPHA4 is a disease modifier of amyotrophic lateral sclerosis in animal models and in humans

ALSは症例によって予後がかなり違います。家系内での同じ遺伝子変異であってさえ、ばらつきがあります。また、発症年齢も 20~90歳代と幅広く分布しており、遺伝的修飾因子が関係しているものと推測されています。その修飾経路が同定できれば、治療介入のターゲットになるかもしれません。

著者らは、まず SOD1変異遺伝子を発現したゼブラフィッシュで、 morpholinoというアンチセンスオリゴを用いて、ライブラリーに含まれる 303個の遺伝子の翻訳をブロックする実験を行いました。その結果、 SOD1変異による軸索変性をレスキューする遺伝子が 13個見つかりました。最も効果の強かったのが Rtk2でした。Rtk2は ヒトの EPHA4と 67%の相同性があります。Molpholinoで Rtk2のスプライスをブロックする実験でも、SOD1変異による軸索変性レスキューには再現性がありました。また、ヒト EPHA4と 83%の相同性があるサカナ Rtk1パラログを morpholinoにより抑制すると、変異 SOD-1による軸索変性をレスキューしました。

次に、G93A変異を入れたヒト SOD1をマウスに過剰発現させ、Epha4を欠損による効果を調べました。作製した Epha4ヘテロ及びホモ欠損マウスは、脊髄前角細胞数や神経筋接合部の神経支配、筋構造などは正常でした。ただ、Epha4ホモ欠損マウスは、出生第 1週の体重が少なく、出生してくる数も少なかった (※胎生期に問題を起こしている可能性がある) ので、ヘテロ欠損マウスを解析することにしました。その結果、SOD1 G93A+Epha4ヘテロ欠損マウスでは、ただの SOD G93Aマウスと比べ、ALS発症時期や運動機能は変わらなかったものの、生存期間は延長しました。前角細胞や神経筋接合部の正常な神経支配の割合の評価から、 Epha4のヘテロ欠損は、SOD1 G93Aマウスの運動ニューロン変性を遅らせることが示されました。全生存期間の延長はわずかでしたが、発症後の生存期間は 57%延長し、運動能力の増悪は緩やかでした。

実際に遺伝子ノックダウンをしなくても、2,5-dimethylpyrrolyl benzoic acid という薬剤は、morpholinoを用いたゼブラフィッシュでの Rtk1ノックダウンと同等の効果があり、SOD-1変異による軸索変性をレスキューしました。また、SOD1 G93A変異 ALSラットモデルに Epha4阻害ペプチドを脳室内投与すると、疾患の発症が遅くなり、生存期間も延長しました。

そこで、Epha4欠損が運動ニューロンの変性を抑制するメカニズムを調べました。 Epha4は、SOD1を過剰発現したマウスの脊髄運動ニューロンでは検出されますが、アストロサイトやミクログリアでは検出されません。著者らは、マウスの脊髄運動ニューロンでの Epha4を mRNAレベルで定量しました。すると、SOD1 G93A変異で末期まで残存するような傷害されにくい運動ニューロンでは、Epha4の mRNAレベルが通常の運動ニューロンより低いことがわかりました。また、大きな運動ニューロンは小さな運動ニューロンより傷害されやすいとされますが、大きな運動ニューロンは小さな運動ニューロンより Epha4の発現レベルが高いことがわかりました。マウスでの軸索切断実験では、神経再支配は Epha4の発現量依存的に抑制されました。どうやら Epha4は ALSの神経に対して傷害性に働いているようです。

今度は、ヒトの患者ベースで調べることにしました。2925名の ALSの患者と 9605名の正常コントロールを用いた SNP解析では、EPHA locus周囲 900 kbにある 654の SNPsと ALSの感受性に関係は見い出せませんでした。また、生存率、発症年齢に関連した SNPも見つけることはできませんでした。患者血液の解析では、EPHA4の発現が低いほど発症年齢は高かった一方で、 正常コントロールでは EPHA4のmRNAレベルと年齢に相関はありませんでした。重回帰解析では、EPHA4の発現量が低いほうが罹病期間が長そうだということがわかりました。このことから、EPHA4の発現量が低いと、発症年齢や疾患の進行に影響を与えるようです。

家族性 ALS 96名、孤発性 ALS 96名の Direct sequencingでの解析では、21個の変異がみつかり、9個は既知のもので、12個は新規に見つかったものでした。このうち、種によって保存されている R514X (C1540T), R571Q (G1712A) の 2つを更に調べると、これらは正常コントロールには存在しないものだとわかりました。そして興味深いことに、これらの変異は ALSでの例外的な長期生存に関係しているとわかりました (症例1: 56歳で発症して 89ヶ月生存した孤発性 ALS患者は R514X変異あり, 症例2: 43歳で発症して 149ヶ月生存した家族性 ALS患者は R571Q変異あり)。NSC-43という運動ニューロンの不死化培養細胞に 変異EPHA4を遺伝子導入して解析した結果では、nonsense mutationである R514Xは nonsense mutationのため発現がみられず、missense mutationである R571Qではシグナル伝達機能に異常があり、自己リン酸化の障害がありました。

ここまでの知見から、魚、マウス、ラット、ヒト、全てにおいて EPHA4の発現低下は疾患の重篤性を軽減することが示唆されます。著者らは、疾患修飾因子の SNP解析でこの変異が見つからなかったのは、発現がさまざまな要因で制御されているからだと考えています。

TAR DNA-binding protein 43 (TDP-43) をコードする TARDBPは、まれではありますが家族性 ALSの原因遺伝子であり、TDP-43が神経変性に果たす役割には関心が集まるところです。そこで、Epha4とTDP-43の関連を調べました。ゼブラフィッシュの TDP-43 A315T変異による軸索変性に対する実験で、Epha4ノックダウンあるいは Epha4阻害薬は、軸索の伸長障害や異常な枝分かれをレスキューしました。

最後に、ゼブラフィッシュを用いて、Smn1遺伝子ノックダウンでの運動ニューロン軸索異常に対する Epha4の効果について調べました。Smn1ノックダウンは、下位運動ニューロンを侵す脊髄性筋萎縮症 (spinal muscular atrophy; SMA) のモデルとされています。Epha4欠損および Epha4阻害薬は、Smn1ノックダウンによる軸索の表現型をレスキューしました。これらの知見から、Epha4の阻害による保護効果は神経変性の原因によらないものと推測されます。

Epha4阻害薬については更なる研究が必要です。副作用として現在のところ懸念されるのは、Epha4ホモ欠損マウスで見られたような、長期記憶の障害です。

Ephという受容体型チロシン型キナーゼには、A typeとして Epha 1~10, B typeとして Ephb 1~6が存在することが知られています。ここで紹介した Epha4は Eph A typeのうちの一つです。Eph受容体ファミリーには様々な役割がありますが、今回の論文では、どうやら「軸索反発因子」としての作用を抑制することがキーになってくるようです。

Scientists identify new gene that influences survival in ALS

In an exciting, related development, a new ALS gene (profilin-1) identified last month by UMMS scientists works in conjunction with EphA4 in neurons to control outgrowth of motor nerve terminals. In effect, gene variants at both the top and the bottom of the same signaling pathway are shown to effect ALS progression. Together these discoveries highlight a new molecular pathway in neurons that is directly related to ALS susceptibility and severity and suggests that other components of the pathway may be implicated in ALS.

そして、驚くべきことに、Epha4は先日お伝えした profilin1と協力して働くそうです。今後、Epha4-profilinの系は、目が話せませんね。

今回は内容が難解だったので、専門外の方にもわかるように、まとめをしておきます。

①Epha4というタンパク質が、ALSにおいて悪影響を及ぼしているらしく、ALSでの様々な動物モデル (SOD1, TDP-43異常) で Epha4を働かなくすると神経保護作用が見られた。ALS以外の神経変性疾患モデル (Smn1異常) でも、Epha4をノックダウンすると同様の神経保護効果が見られた。

②ALSで進行の遅い患者を調べたら、Epha4に変異が入って、機能しなくなっていた。

③Epha4は、最近新たに見つかった ALSの原因遺伝子 Profilin1と同じ系で働いているらしい。

④Epha4を抑制する作用のある薬剤 (2,5-dimethylpyrrolyl benzoic acid) は既に知られていて、動物実験にも用いられている。

⑤ただし、Epha4を抑制した場合、長期記憶の障害などが問題になるかもしれない。

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バンコマイシン誘発振戦

By , 2012年9月11日 8:22 AM

手足が震える病気というと、一般の方は Parkinson病を思い浮かべるかもしれません。他にも、本態性振戦や甲状腺機能亢進症といった病気が知られています。

しかし、意外と見落とされやすく、忘れてはいけないのが薬剤性です。食思不振などで時折処方されるスルピリド (ドグマチール) や、喘息で処方される β刺激薬など、比較的よく見かけます。

International Journal of Infectious Diseaseという雑誌の 2012年8月号に、抗菌薬 バンコマイシンで、重篤な振戦が出現した症例が掲載されていました。

Severe tremor due to vancomycin therapy: a case report and literature review

Vancomycin is a popular antimicrobial used to treat a variety of Gram-positive infections. Its side effect profile has been well defined due to its high global utilization as a result of the emergence of antimicrobial-resistant organisms in recent decades. Despite its widespread use, however, various idiosyncratic reactions may occur without adequate or universal reporting. We present a case of severe tremor due to vancomycin that has not been previously reported in the literature. Our patient might have been prone to this adverse effect given an underlying essential tremor. Causality is presumed based on the temporal association, while the pathophysiological link remains elusive.

この患者さんは、ベースに本態性振戦があったようです。バンコマイシン点滴で心内膜炎/膿瘍を治療していたところ、2週間くらいして急に全身に激しい振戦を発症しました。その際、リファンピシン、セフトリアキソンが併用されており、バンコマイシン血中濃度は治療域でした。バンコマイシンを中止し、30分ほどで振戦はよくなりました。その後もバンコマイシンを継続しましたが、2回とも同様のイベントが起こりました。

ジフェンヒドラミンを前投薬とし、症状に対してロラゼパムを用いてみましたが、無効でした。イベント 3回とも、バンコマイシンを中止すると症状は改善しました。バンコマイシンをダプトマイシンに変えると、このようなイベントはなくなりました。

考察では、最初にバンコマイシンの副作用がまとめられています。

Common reactions due to vancomycin include ‘red man syndrome’ (an erythematous rash on the face and upper body with or without associated hypotension; a result of histamine release due to rapid drug administration), eosinophilia, reversible neutropenia, and phlebitis. Less common reactions include DRESS syndrome (drug rash with eosinophilia and systemic symptoms), drug fever, Stevens–Johnson syndrome, thrombocytopenia, and vasculitis. Vancomycin-associated nephrotoxicity appears to be dose-related, with increased incidence occurring with high trough levels,2 or when combined with other nephrotoxic agents (e.g., aminoglycosides).

そして、バンコマイシンが原因と推測される振戦について、過去の知見をまとめています。何故振戦がみられるのか、機序については不明とされています。

A subsequent search of the Health Canada adverse events database (Canada Vigilance Summary of Reported Adverse Reactions) searched September 1, 2011, yielded six cases of tremor potentially related to vancomycin therapy. The Summary is a spontaneous voluntary reporting system aimed at detecting signals of potential health product safety issues during the post-market period. Of the six cases identified, the median patient age was 73 years, 67% were female, 33% were documented as serious reactions, and all but one case suspected vancomycin as the sole drug responsible for the adverse event. Associated symptoms included chills, pyrexia, rash, flushing, vomiting, dizziness, and abdominal pain. Doses ranged from 0.5 to 2g every 6–24h, and the duration of therapy ranged from 1 to 14 days. Data on prevalence of renal dysfunction/failure and trough levels were not available.

A similar search of the Federal Drug Administration (FDA) Adverse Drug Events Database (AERS/Medwatch) from 1997 to 2011 yielded a total of 34 reports of tremor in which vancomycin was the primary suspect drug. Thirty-one (91%) cases were in adults, of which 26 (76%) were male. The highest incidence (26%) was observed in those aged 80–89 years. Seventeen (50%) patients required hospitalization, and five (15%) cases were considered to be life-threatening. The most common associated symptoms included chills, pyrexia, dyspnea, and rigors.

また、バンコマイシン同様 MRSAまでカバーするスペクトラムを持つ抗菌薬テイコプラニンでも、軽いものの振戦が出現した報告があるそうです。

One case of tremor was reported in an open efficacy and safety study of teicoplanin – a related glycopeptide.5 Although the tremor was described as mild, therapy was discontinued.

バンコマイシンは、MRSAをカバーしないといけないシチュエーションなどでしばしば使用される抗菌薬ですから、診療科にかかわらず、このような副作用情報は知っておいた方が良いと思います。

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President

By , 2012年9月9日 1:38 PM

オバマ大統領の検診結果が whitehouseのサイトで公開されているのを知りました。2010年2月28日付のレポートです。結果が正常だったので、強い大統領をアピールしたかったのでしょうか。「アメリカの大統領って、こうした結果が公開になるんだなぁ・・・」と思いました

Release of the President’s Medical Exam (実際のレポートはPDF参照)

検診に必要なのか科学的に疑問視される項目もいくつかありますが、金の心配がなければ、色々測ってしまって文句は出ないのでしょう (でも、PSAはもし異常値を示した場合、必要のない検査/治療がなされる危険性が指摘されていますが・・・)。下部消化管の検査は、内視鏡ではなく、CTによるバーチャル内視鏡で行ったようです (参考:医療ガバナンス学会:オバマ大統領はなぜ内視鏡ではなくCTで大腸検査を受けたのか?)。

上記リリースでは、

Dr. Kulhman recommends his next physical take place when he turns 50 in August 2011.

となっていますが、whitehouseのサイトを探しても、現時点では 2010年2月28日より新しいレポートは見つかりませんでした。忙しいのか、強い大統領をアピールする必要がなくなったのか、何か公表できない事情があるのか・・・ちょっと勘ぐってしまいます (^^;

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免疫グロブリン大量療法と貧血

By , 2012年9月8日 10:18 AM

2012年9月6日の New England Journal of Medicineに、Guillain-Barré症候群に対する免疫グロブリン大量療法 (IVIg) に合併した重度貧血の 2症例が報告されました。IVIgは溶血性貧血のリスクとして知られています。

IVIG — A Hemolytic Culprit

The administration of intravenous immune globulin (IVIG) is an established treatment for deficiency states and other immune-mediated disorders. It is used extensively in patients with neurologic diseases and is licensed for the treatment of Guillain–Barré syndrome.

Large doses of IVIG have been recognized as a cause of hemolytic anemia, which occurs by means of passive transfusion; this rare complication has been given little attention. We report here on two patients with Guillain–Barré syndrome who were seen in consultation because of acute severe anemia. The patients presented within 1 week of each other.

(略)

Adverse reactions to treatment with IVIG include headache, renal insufficiency, hepatitis C, meningeal irritation, and thrombosis. The passive transfer of anti-A or anti-B antibodies in IVIG has been well recognized,1 as has the transfer of anti-Rh antibodies; passive transfer of antibodies to viral infection, without transmittal of the virus, also occurs. Many clinicians are little aware of this complication and are usually bewildered by the sequelae. It is impractical to evaluate a patient’s serologic state before administering IVIG.

(略)

Hemolysis is self-limiting, and the transfusion of type O packed red cells should be used to treat the anemia.

IVIG contains multiple antibodies that can have unexpected consequences, including hemolysis and false positive results on serologic tests. Physicians should be aware of these rare sequelae so they will be prepared to manage them.

個人的には IVIgでの合併症はまだ経験がありませんが、IVIgは神経内科領域では比較的よく行いますし、こうした合併症の情報は押さえておかないといけませんね。

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在宅医療と凝固異常症

By , 2012年9月2日 7:54 PM

少し古い話ですが、2011年12月28日の通知で、ヘパリンの自己注射が保険診療で行えることになりました。

この保険適応拡大は、不育症に関してはかなり話題になったようです。神経内科領域だとあまり使う機会はないかなぁと思っていたら、2012年早々、私が往診の手伝いをしている神経内科クリニックで、その恩恵を受けることになった患者さんを経験しました。

患者さんは、Trousseau (トルーソー) 症候群という病気でした。総合病院で働く神経内科医であれば、年に数例見かけることのある病気です。悪性腫瘍にともなって凝固異常を来たし、脳梗塞のような血栓症を繰り返します。余談ですが、1865年にこの病気を発見した Trousseau自身、奇しくもその 2年後に胃がんでこの病気になりました。

Trousseau症候群については、2007年の blood誌の総説によくまとまっています。

Trousseau’s syndrome: multiple definitions and multiple mechanisms

さて、この疾患にかかると、血栓症を繰り返し、予後は非常に不良です。マニアックな話をすると、腫瘍マーカー CA125高値の方が脳梗塞を繰り返しやすいと推測されていますが、循環するムチン物質と関係があるようです。

根本的な治療として、癌を取り除くことができれば良いのですが、それが困難なことがしばしばです。結局、多くの場合「血液をサラサラする薬を使って、血栓症を予防する」ことが治療の中心になります。しかし残念なことに、そのための薬剤はヘパリン注射薬が望ましいとされているため、他の問題をクリアして帰宅出来るようになっても、患者さんはヘパリン注射のためだけに入院継続が必要とされるケースがありました。

ところが、今回ヘパリン製剤を自己注射出来るようになったことで、このような患者さんで自宅での治療が可能になりました。癌患者さんの、「できるだけ自宅で過ごしたい」という希望を叶えるのは非常に大事なことです (厳密には、病院で点滴で用いる未分画ヘパリン製剤と、在宅診療で用いる低分子ヘパリンが全く同等に有効かは議論があります)。

私が勤務するクリニックで治療されていた方は、残念ながら最終的に癌のため亡くなられてしまいましたが、最期は自己注射をしながら自宅で過ごすことが出来ました。保険適応拡大になった直後に患者さんに活かせて、非常に記憶に残る症例でした。

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ALSの原因遺伝子 profilin1

By , 2012年9月1日 12:09 PM

2012年 7月 15日の Nature誌に筋萎縮性側索硬化症 (amyotriphic lateral sclerosis; ALS) の新規遺伝子の論文が掲載されました。興味深い内容だったので、論文の内容を紹介します。

Mutation in the profilin 1 gene cause familial amyotrophic lateral sclerosis

ALSの約 10%が家族性で、そのうち約半数は遺伝子が未同定です。著者らは、優性遺伝を示し、既知の ALS原因遺伝子に変異のない、白人とセファルディムの家族性 ALS家系をそれぞれエキソーム解析で調べました。その結果、白人家系で PFN1 (Profilin 1), XPOT (Exportin-T; tRNA exportin) 変異を、セファルディム家系で FMO2 (Dimethylaniline monooxygenase 2), KIF1C (Kinesin-like protein KIF1C), PFN1変異を同定しました。両者の家系で PFN1変異が共通しており、白人家系での変異は C71G、セファルディム家系での変異は M114Tでした。

次に、一般的な ALS原因遺伝子変異が除外されている 272家系の家族性 ALSで、この PFN1変異があるか調べました。 すると 5家系に PFN1変異を認めました。5家系の変異の内訳は、C71Gが 2家系、M114Tが 1家系、G118Vが 1家系、E117Gが 1家系でした。ハプロタイプ解析の結果、C71G家系は共通の祖先を持つらしいことがわかりました。ちなみに PFN1の C71, M114 G118, E117は進化的に保存されています。PFN1変異 (22例) の臨床的特徴としては、発症が 44.7± 7.4歳で、全て limb onsetで、球麻痺型は 1例もいませんでした。

これらの変異が良性の多型ではないことを確認するため、7560例の正常対照群で調べたところ、C71G, M114T, G118V変異は見つかりませんでした。しかし、E117G変異は 3例見つかりました。E117Gが病的かどうかは議論が残りますが、残る 3つは病的な変異と言えます。

続いて、培養細胞に変異を導入して解析を行いました。C71G, M114T, G118V変異を導入された Neuro-2A細胞では、PFN1は NP-40で不溶性画分優位でした。一方で、PFN1 E117G及び wild typeでは可溶性画分優位でした。この SDS抵抗性不溶性画分は PFN1 oligomerであると推測されます。

さらに、Neuro-2A細胞に変異を導入して免疫染色を行ったところ、E117Gを含む全ての変異で細胞質内凝集体が検出されました。これらの凝集体はユビキチン化されていました。Primary motor neuronでは、E117Gでユビキチン化は検出できなかったものの、他の 3つの変異体ではユビキチン化が確認できました。

Primary motor neuronに PFN1変異を導入して形成された凝集体に、他の ALS原因遺伝子産物 FUS, TDP-43及び、脊髄性筋萎縮症関連蛋白 (Spinal muscular atrophy-related protein) SMNが含まれるかも解析しました。凝集体には、FUS及び SMN (※ SMNは PFN1結合能があることが過去に報告されている) は検出されませんでしたが、30~40%の細胞で細胞質に TDP-43陽性 PFN1凝集体が検出されました。TDP-43病理を示した孤発性 ALSの脊髄では、PFN1の異常病理を示さなかったことから、TDP-43の凝集が PFN1の凝集を誘導しているわけではなさそうです。

PFN1はアクチン結合タンパク質なので、アクチン結合能のない変異体 PFN1 H120Eを病的コントロールとして、様々な解析を追加しました。HEK293細胞に PFN1変異を導入したところ、PFN1 C71G, M114T, G118V, H120Eでアクチン結合能が失われているのが確認できました。また、primary motor neuronに変異を導入したところ、C71G, M114T, G118V, H120Eで神経突起及び軸索の伸長が阻害されました。E117Gでも軸索の伸長は阻害されましたが、wild typeとの統計学的な有意差はありませんでした。

軸索の伸長にとって、成長円錐における actin dynamicsの制御は重要であることが知られています。そこで成長円錐に注目してみると、PFN1変異を導入された primary motor neuronでは成長円錐のサイズが約半分になっていました。さらに F actin (fibrous actin: アクチポリマー) と G actin (globular actin: アクチンモノマー) の比を調べたところ、C71Gでは F/G actin比が wild typeの 24.4%まで減少していました。このことから、成長円錐における G-actinから F-actinへの変換の抑制が、PFN1変異での形態学的異常に影響していることが示唆されました。

最後に、他の profilinについても調べました。PFN1は筋肉以外に ubiquitousに発現しています。一方で、PFN2は脳と神経細胞に発現し、PFN3は精巣に発現しています。274例の家族性 ALSについて調べたところ、PFN2, PFN3変異は見つかりませんでした。

まとめです。著者らは ALSの新規遺伝子 PFN1を同定し、変異遺伝子を導入した培養細胞における凝集体について解析し、変異体では軸索の伸長が抑制され成長円錐のサイズが減少することを突き止めました。 これらの知見は、細胞骨格経路の障害が、ALS発症において重要であることを示しています。

プロフィリンは 140アミノ酸からなり、G-アクチンへの結合を介して、F-アクチンの伸長制御に関係しています。もう少し詳しく説明するために、「タンパク質科学イラストレイテッド (竹縄忠臣編、羊土社)」から、プロフィリンに関する部分を抜粋します。

プロフィリン、チモシンβ4は細胞中でアクチンモノマーのプールを作る。プロフィリンは分子量 15000ほどでアクチンの ADP-ATP交換活性ももち、脱重合した ADP-Gアクチンを ATP-Gアクチンに変換することにより重合しやすくする働きももつと考えられている。プロフィリン-Gアクチン複合体は膜のリン脂質 PIP2によって解離されるとされている。酵母から動植物にいたるまで存在する。

これを読むと、プロフィリンの障害により、アクチンが重合しにくくなるのが理解できます。細胞骨格であるアクチンが重合できないと、当然軸索も伸長できません。今回の論文は、「PFN1は ubiquitousに発現しているのに、何故 motor neuronのみを侵す ALSを発症するのか?」という疑問には答えていませんが、PFN1が ALS研究において重要な役者であることは確かなようです。PFN1は VCP, MSN, Huntingtinと直接相互作用することが知られているので、ALSのみならず変性疾患という大きな枠組でも注目を集めることになるかもしれません。

驚くべきことに、PFN1と協調して働く分子が、ALSの治療ターゲットとして 8月26日に報告されました。その論文に関しては、また後日触れたいと思います。

【補足】 C71Gは、71番目の C (システイン) が G (グリシン)  に変異したことを示します。他の変異も、同様に記載しています。これらの記載法が理解できない方は、「変異遺伝子の記述法」から「II. タンパク質レベルでの記載法」をご覧ください。また、アミノ酸の一文字表記については「アミノ酸の名称と略記法」を御覧ください。

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眠れない一族

By , 2012年8月27日 11:13 PM

「眠れない一族 (ダニエル T.マックス著, 柴田 裕之 翻訳, 紀伊國屋書店)」を読み終えました。

Neurology 興味を持った「神経内科」論文 「眠れない一族 (最高にスリリングなプリオン病の本)」

本の内容については、上記リンク先をごらんください。

本書はジャーナリストが書いた本なので、医学知識がなくても読めます。一方で、参考文献は膨大で、きちんと医学雑誌も読み込んで書いています (この辺が日本のジャーナリストとの違い)。医療関係者にも非医療関係者 (特に牛肉を食べる機会のある人) にもオススメ。神経内科医は多分必読です。

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論文不正に関わるあれこれ

By , 2012年8月26日 9:19 AM

論文というのは、研究者にとって最大の評価対象です。ポストや生活がかかっているだけに、捏造など不正を試みる研究者も、わずかですが存在します。

最近、海外で斬新な手口での論文不正が立て続けに明らかになりました。

まずは中国から・・・。

「史上最強のねつ造教授」、同姓同名の著名学者の論文を勝手に自分の経歴に―中国

2012年7月28日、中国・北京化工大学の陸駿(ルー・ジュン)教授が同姓同名の学者が書いた複数の論文をすべて自分のものと偽り、経歴をねつ造していたことが発覚した。京華時報が伝えた。

論文盗作や経歴詐称の摘発で有名な方舟子(ファンジョウズ)氏が告発した。発覚のきっかけは陸教授の「助手募集広告」。そこに書かれていた経歴と代表的な7本の論文に矛盾が存在することをネットユーザーが発見した。例えば、そのうちの1本はイェール大学の「ルー・ジュン博士」が書いたものと全く同じだったが、ルー博士はボストン大学卒であるのに対し、陸教授はトロント大学卒。2人の写真を照合しても、似ても似つかない別人だった。

7本の論文はいずれも欧米の一流学術誌に発表されている。方舟子氏によると、「これほどの論文が書けるなら、世界トップクラスの大学で教授になれる」というほど輝かしいもの。だが、実は「ルー・ジュン」という同姓同名の3人の学者の論文を寄せ集め、すべて自分のものと称して経歴に載せていただけだったようだ。

告発後、北京化工大学のウェブサイト上の陸教授に関する経歴がすべて削除されていることから、方舟氏は「学歴も含め、経歴はすべてウソだったのでは」との見方を示している。ネット上では陸教授の新たな詐称手口に「史上最強のねつ造教授」と非難ごうごう。方舟子氏も「同姓同名の学者に目を付けるとは。よく考えたものだ。思わず感心してしまう」と話している。

騒ぎを受け、同大では陸教授の経歴ねつ造疑惑に対する調査を開始した、と声明を発表。ねつ造が事実であれば、厳しい処分を下すとしている。中国ではアモイ大学医学院教授の学歴詐称が発覚し、物議を醸したばかり。(翻訳・編集/NN)

データの使い回しや多重投稿といった手口での論文不正は時々見ますが、想像の斜め上を行く手口ですね。

次は韓国から。

これも思いもつかない手口です。 “Acknowledgments: I thank Google for free e-mail address to pretend I am someone else.” という一文が論文に記載してあったとかなかったとか・・・ 。冗談です (^^;

一方、日本でもいくつも論文不正が疑われる事例があり、それを扱ったブログが存在します。

論文不正

同じ管理者の関連ブログ、「東京大学 分子細胞生物学研究所 の論文捏造・改ざん・不正疑惑」でやり玉に上げられた東大分生研の加藤教授について、Twitter経由で近況が伝わって来ました。

一般に、研究分野でネガティブ・イメージがつくと研究者生命は絶たれますが、これだけの人物をそのまま埋もれさせるのはもったいないと思っていました。加藤先生がこういう形で被災地で尽力されていると知り、ちょっと安心しました。


(関連)

論文捏造疑惑 

 

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アメリカでの Dabigatran訴訟

By , 2012年8月22日 9:54 PM

以前お伝えした新薬 Dabigatran (商品名:プラザキサ) は、年間 10億ドル規模の売上を誇る抗凝固薬ですが、アメリカで集団訴訟とのニュースです

Blood-thinner Pradaxa target of mass-claims suit

By Bobby Allyn, The Tennessean

Updated 2d 13h ago

NASHVILLE, Tenn. — After taking the blood-thinning drug Pradaxa for three weeks,Charles Jackson experienced intestinal bleeding. His doctor told him to get off the drug, which he began taking after suffering a stroke last September.

Months later, Jackson, 75, a retired truck driver from the rural railroad community of Hohenwald, saw a television advertisement imploring patients who had complications with Pradaxa to dial 1-800-BAD-DRUG to learn more about joining a lawsuit against the drug company.

Now Jackson is among hundreds of other patients around the country who are teaming against an anti-stroke drug whose sales eclipsed $1 billion last year. Joining the suit thrusts Jackson into the high-dollar stream of product liability lawsuits, a burgeoning world of mass claims in which specialty law firms cast a wide net for injured consumers who represent the pitfalls of marketing risky products. (続きは上記タイトルリンク先参照)

この薬剤には様々なメリットがある一方で、副作用の出血性合併症についても、色々耳にしています (・・・とはいえ、従来使用されてきたワルファリンにも出血性合併症はあります)。アメリカでは、この薬剤のメリットと副作用のバランスをどう取るのか、今後の展開に注目です。

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