Category: 医学と医療

ALSへのPerampanel

By , 2016年7月6日 5:46 PM

2014年10月26日のブログ記事で、私は次のように書きました。

ALSと陰性徴候

余談ですが、グルタミン酸受容体のなかで AMPA受容体と ALSの関係について最近多くの論文が発表されています。そんな中、2014年10月20日に、AMPA受容体拮抗薬 “Perampanel” が抗てんかん薬として FDAから承認されました。この薬が、ALSでの AMPA受容体が関与した細胞毒性を抑えてくれることはないのか・・・ふと思いました。論文検索してみても誰も研究していないみたいですし、何の根拠もない全くの妄想ですけれど・・・(^^; (開示すべき COIはありません)

なんと、東京大学神経内科らのグループが Perampanelを ALSのマウスモデルに使って有効性を示した論文が 2016年6月28日に発表されました。

The AMPA receptor antagonist perampanel robustly rescues amyotrophic lateral sclerosis (ALS) pathology in sporadic ALS model mice

俺って、センスあるじゃん」と、この論文の存在を知って嬉しくなりました。

ALSの進行、抗てんかん薬で抑制 東大、マウスで実験

瀬川茂子

2016年6月28日19時37分

全身の筋肉が衰えていく難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の進行を抗てんかん薬の一種で止められる可能性を東京大などのグループがマウスの実験で示した。英科学誌サイエンティフィック・リポーツ電子版で28日、発表した。

グループは、筋肉の運動神経細胞にカルシウムが過剰に流入して細胞死を起こすことがALSの進行にかかわることを動物実験で確認してきた。そこで、細胞へのカルシウム流入を抑える作用のある抗てんかん薬「ペランパネル」に注目した。

ALSに似た症状をもつように遺伝子操作したマウスに、90日間、この薬を与えた。薬を与えなかったマウスは、次第に運動神経の細胞死が起こったが、薬を与えたマウスでは細胞死が抑えられた。回し車に乗る運動能力や、ものをつかむ力も実験開始時の状態を保つことができたという。

グループの郭伸(かくしん)・国際医療福祉大特任教授(神経内科)は、既存薬なので安全性は確認されているとして、「医師主導の臨床試験を始めたい」としている。(瀬川茂子)

今後は臨床試験を予定しているようですが、すでに海外で承認されている抗てんかん薬なので、比較的やりやすいと思います。ALSの場合は、マウスで効いても人では効かない・・・ということの繰り返しなので、実際にどういう結果がでるかはやってみないとわかりません (・・・個人的には五分五分よりは分が悪いと思っています) が、良い結果を期待したいと思います。

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食塩表記

By , 2016年6月29日 6:22 PM

講演を依頼されたため、一般の方を対象とした脳卒中予防のためのスライドを作っています。危険因子である高血圧の食事療法について、「カップラーメンの塩分はナトリウム表記なので、実際の食塩に換算するには 2.54を掛けましょう」というのを作ろうと思って、カップラーメンのパッケージの写真を撮ろうと思ったら・・・ちゃんと食塩量が書いてあるんですね。数年前、ラボでカップラーメンを食べていた時にはそんな表記なかったのに。

カップラーメン

カップラーメンの塩分表記

調べてみたら、日本高血圧学会の努力が実ったみたいです。Good Job!

 「食塩相当量」の表示義務化が決定!(2015年4月1日食品表示法施行)

日本高血圧学会減塩委員会では,以前から食品の栄養成分表示の義務化と「ナトリウム量」の表示を「食塩相当量」の表示とするよう,関係省庁(消費者庁,内閣府,厚生労働省)に要望書を提出していました。こうした活動が実り,2015年3月に食品表示基準が制定され,食品の栄養成分表示は2020年までには,原則として,「ナトリウム」は「食塩相当量」で表示されることになります。

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最近の医学ネタ

By , 2016年6月29日 6:13 PM

ニュース感覚で論文チェックはしていますが、なかなか詳しく紹介する時間がありません。とりあえず、最近面白かった論文等の触りだけ紹介しておきます。

Delayed diagnosis of extraovarian teratoma in relapsing anti-NMDA receptor encephalitis

若い女性に好発する抗NMDA受容体脳炎の症例報告 (この疾患を知らない方はこちらを参照)。15歳の女性。意識障害/精神症状/てんかんや自律神経障害による心停止 4回などあり。抗NMDA受容体抗体陽性で診断し、ステロイドパルス、IVIg, 血漿交換, リツキシマブなどで治療。卵巣奇形腫はなかったが、FDG-PETをおこなってみたら、甲状腺に腫瘍があり、摘出すると奇形腫だった。血清 β-HCGや AFPは異常なかった。奇形腫は、NeuNや抗NR1抗体で染色された。

著者らによる、この症例のキモは次の通り。 “This case illustrates 2 important points in NMDAR encephalitis: (1) exclusion of ovarian teratomas with MRI or ultrasound is not sufficient in some patients as extragonadal teratomas may occur; and (2) tumors should be considered in patients with a prolonged relapsing disease course and persistent CSF NMDAR antibody titers, including the IgA isotype.”

Association of Progressive Cerebellar Atrophy With Long-term Outcome in Patients With Anti-N-Methyl-d-Aspartate Receptor Encephalitis

北里大学からの報告。抗NMDA受容体脳炎の長期予後について、15例を 5~6年 follow upしてみた。5例にびまん性脳萎縮があり、うち 2例に進行性小脳萎縮がみられた。進行性小脳萎縮のない症例では、びまん性脳萎縮は可逆性であり、基本的に予後は良好であった (1例を除き mRS 0-2;1例は下肢切断のため回復良好だったものの mRS 4と評価)。進行性小脳萎縮ある症例では、脳萎縮は一部可逆性であったが、予後不良 (mRS 4-5) と関連があった。

症例の一覧表はこちら

Association Between Gun Law Reforms and Intentional Firearm Deaths in Australia, 1979-2013

オーストラリアで 1996年に銃規制の法律が強化されたこと影響を見るため、銃による死亡、銃による大量殺人 (犠牲者 5名以上) を調べた。銃規制の法律が強化される前 (1979-1996年) は、大量殺人が 13件あったが、強化された後(1996~2016年) には 1件もなかった。法律が強化される前 (1979-1996年) には、銃による死亡は平均 3.6/人口10万人であったが、強化された後 (1996~2013年) は平均 1.2/人口10万人であった。

もともと、銃による死亡は年々減っていたので、どこまで銃規制が影響しているか判断するのは難しいけれど、少なくとも大量殺人はなくなった。この論文が、2016年6月12日のアメリカでの銃乱射事件の直後 (2016年6月22日) に発表されていることに、感じるものがある。さすが、JAMA!

Screening for Colorectal Cancer

USPSTFによる大腸癌のスクリーニングの推奨ステートメント。”The USPSTF recommends screening for colorectal cancer starting at age 50 years and continuing until age 75 years (A recommendation). The decision to screen for colorectal cancer in adults aged 76 to 85 years should be an individual one, taking into account the patient’s overall health and prior screening history (C recommendation).” ということで、50~75歳は要スクリーニング、76~85歳は個々の症例に応じて判断。ただし、これは平均的なリスクの患者についてであって、家族性大腸腺腫症などでは話は別。スクリーニング法やスクリーニングの間隔については本文参照。

Pharmaceutical Industry–Sponsored Meals and Physician Prescribing Patterns for Medicare Beneficiaries

製薬会社からの食事提供と処方には正の相関がある。

もう、こういう風習やめればよいのに。ちなみに、私は学会参加時、製薬会社の資金提供のあるランチョンセミナーには数年間行っていない (学会を運営する側からすると、この資金提供はとても助かるらしいんですけれどね・・・)。最近では、ほかに製薬会社が共著者にいる研究はポジティブな結果が多いという研究もあり。

Association Between CYP2C19 Loss-of-Function Allele Status and Efficacy of Clopidogrel for Risk Reduction Among Patients With Minor Stroke or Transient Ischemic Attack

CHANCE trial (過去のブログ記事に簡単な紹介あり:対象患者は高リスク TIA (ABCSD2 >4点), Minor stroke (NIHSS score ≦3点), 感覚障害のみ/視野障害のみ/めまいのみ/MRI正常を除外。介入群:初日クロピドグレル 300 mg+アスピリン 75~300 mg, 2~21日クロピドグレル 75 mg+アスピリン 75 mg, 22~90 日 クロピドグレル 75 mg, コントロール群:初日アスピリン 75~300 mg, 2~90日アスピリン 75 mgとしたところ、介入群で脳卒中再発は減少したが、出血性イベントは増えなかった。) に参加した患者を解析。クロピドグレルとアスピリンの併用で新規脳梗塞リスクが減少したのは、CYP2C19の機能喪失変異がない患者群のみであった。

クロピドグレルはプロドラッグであり、CYP2YC19等の代謝を受けて効果を発現するため効く患者と効かない患者がいるのが問題で、それが端的に現れた結果だと思う。

Alemtuzumab and Multiple Sclerosis

多発性硬化症の治療薬アレムツズマブでノカルジアの中枢神経感染を起こした症例報告に対しての editorial論文。アレムツズマブの副作用が網羅されていて、参考になる (アレムツズマブに関する過去のブログ記事はこちらから)。約30~40%に自己免疫性甲状腺疾患、1~3%に自己免疫性血小板減少症、0.3%に糸球体腎炎 (Goodpasture syndrome or membranous glomerulonephritis)。ほかの免疫調整薬同様、悪性腫瘍と感染症には注意が必要だが、悪性腫瘍は数が少ない。特にヘルペス感染には注意が必要。その他、スピロヘータ歯肉炎、化膿性肉芽腫、食道カンジダ、結核、リステリア髄膜炎など。

Associations of urinary sodium excretion with cardiovascular events in individuals with and without hypertension: a pooled analysis of data from four studies

高血圧患者は塩分摂取量が多い (Na排泄量 7 g/day以上) と心血管イベントや総死亡が増えるが、正常血圧者では増えない。一方、塩分摂取量が少ない (Na排泄量 3 g/day未満) と、高血圧があろうがなかろうが、心血管イベントや総死亡は増える。

Characteristic Pulvinar Sign in Pseudo-α-galactosidase Deficiency Syndrome

視床枕の T1強調像高信号 (Pulvinar Sign) はファブリー病に特徴的な所見であることが知られている。細胞内での活性が正常であるにも関わらず、遺伝子変異のため in vitroでは α-ガラクトシダーゼの酵素活性が低下していた Pseudo-α-galactosidase Deficiency Syndrome (PAGD) でも Pulvinar Signが見られたという症例報告。この症例のキモは下記。”This unique instance of Fabry disease raises 3 important points: (1) the finding of pulvinar hyperintensity on T1-weighted images (also known as pulvinar sign) can be seen in patients with pseudo-α-galactosidase deficiency syndrome; (2) this finding may occur in the absence of renal or cardiac manifestations; and (3) neurocognitive function in patients with PAGD is proportionally less affected than brain structure by imaging, even given the unusual finding of diffuse atrophy.”

Roche anticipates quicker U.S. approval for new MS drug

FDAの fast track reviewのため、Ocrelizumabが年内にも承認される可能性。多発性硬化症の治療薬はたくさん開発なので、フォローするのが大変。下のスライドは、私が今年の春に某所で講演した時に簡単にまとめたもの。講演の後、ジメチルフマル酸 (商品名:テクフィデラ) が 2016年4月19日に本邦で承認申請と発表あり。

多発性硬化症 disease modifying therapy

多発性硬化症 disease modifying therapy

子宮頸がんワクチン薬害研究班に捏造行為が発覚

村中璃子氏によるセンセーショナルな記事。村中氏の仕事は評価するけれど、一点だけ気になるのは、村中璃子氏はワクチンを開発している会社の元社員じゃないかという噂がネット上で散見されていることで、もし本当にそうであれば COI (conflict of interest; 利益相反) を開示すべき。HPVワクチンの問題は、時間が経つにつれて、どんどん混迷を極めているように見える (HPVワクチンの問題については過去のブログ記事も参考に)。

続・だいたいウンコになるので専門家に通称DU薬(DAITAI UNKO)とすら呼ばれる抗菌薬について知っておきたいこと

経口第三世代セフェムの批判記事。その通りと思う。(過去のブログ記事「妊婦の尿路感染症」も参考に)

Acute bacterial meningitis in adults

Lancet Neurologyの細菌性髄膜炎の総説。よくまとまっている。

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町立松前病院

By , 2016年6月18日 8:26 PM

ここ数年、医療崩壊という言葉を目にする機会はめっきりなくなり、「大野病院事件」や「大淀病院事件」についてほとんど知らない初期研修医も出てきました。

そんな中、町立松前病院で医師の大量離職が起きそうな雰囲気です。井関先生の記事を読むと、これまでの経緯がよくわかります。

町立松前病院の3年間の経緯について

勤務している医師のブログがあり、心情が伝わってきます。

週末はプライマリケア学会学術集会

そして、2016年6月17日の記事、とても切ないです。

次へのステップ

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GRADEワークショップ

By , 2016年6月18日 8:06 PM

現在、ガイドライン作成で国際的に主流となりつつあるのが GRADEシステムです。

診療ガイドラインのための GRADEシステム

私が現在関わっているガイドラインも、一部 GRADEシステムを導入しています。そんな GRADEシステムですが、参加費無料のワークショップが東京で開催されます。

2016.10.20 開催 『GRADEガイドラインワークショップ』のお知らせ

講師の Holger Schünemann氏の紹介には、「GRADEワーキンググループの共同責任者。コクラン共同計画の適用可能性・推奨方法論グループの共同招集者。WHOの診療ガイドライン作成方法改訂の中心的な貢献者。診療ガイドラインの作成、適用、活用を促進させることを目的とした国際団体のG-I-N(Guidelines International Network)の運営委員会メンバー」と書いてあります。早速申し込みを済ませました。興味ある方は貴重な機会ですので是非申し込んでみてください。先着 60名です。

あと宣伝ですが、2016年9月24日に尼崎でおこなわれる診断精度研究のワークショップのお手伝いをします。お申し込みは、下記からできます。御参加お待ちしております。

診断精度の系統的レビュー1日ワークショップ@尼崎総合医療センター

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JAMA論文撤回

By , 2016年6月18日 7:47 PM

2015年5月22日のブログ記事で、脳卒中後の患者にビタミンB12と葉酸を投与すると大腿骨頚部骨折が減少するという論文に関する疑念について書きました。この論文が本当に正しいのか、JAMA誌が疑念を寄せていた問題です。

JAMAから寄せられた疑念

その論文が、2016年6月14日に撤回されたそうです。

Notice of Retraction: Sato Y, et al. Effect of Folate and Mecobalamin on Hip Fractures in Patients With Stroke: A Randomized Controlled Trial. JAMA. 2005;293(9):1082-1088.

撤回となった理由は “acknowledgment of scientific misconduct resulting in concerns regarding data integrity and inappropriate assignment of authorship” と書いてありますが、それ以上は不明です。

日本の臨床研究の信頼性を損なったという意味で、残念な結果です。

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認知機能低下,運転は大丈夫?

By , 2016年6月17日 6:22 AM

いつも楽しく勉強させていただいている「ここが知りたい!高齢者診療のエビデンス」シリーズの第三話は認知機能低下と運転についてでした。

[第3回]認知機能低下,運転は大丈夫?

認知機能と運転能力は必ずしも相関しないんですね。警察からの指示で、高齢者の認知機能を評価しなければならないことがあるので、色々と考えさせられます。2016年6月2日に発表された論文にも、同じようなことが書いてありました。

Cognitive Tests and Determining Fitness to Drive in Dementia: A Systematic Review

The findings from this review support the use of composite batteries comprising multiple individual tests from different cognitive domains in predicting driving performance for individuals with dementia. Scores on individual tests or tests of a single cognitive domain did not predict driver safety. The composite batteries that researchers have examined are not clinically usable because they lack the ability to discriminate sufficiently between safe and unsafe drivers. Researchers need to develop a reliable, valid composite battery that can correctly determine driver safety in individuals with dementia.

話は変わりますが、認知症といえば、最近下記の論文を知って驚きました。この研究によると、脳出血後なんと 5人に1人が半年以内に認知症を発症するんですね。平均 74.3歳ですが、明らかに高頻度だと思います。なお、脳出血後の半年間に認知症を発症しなかった場合の認知症発症リスクは年間 5.8%だったそうです。(JAMA Neurology, 2016.6.13 published online)

Risk Factors Associated With Early vs Delayed Dementia After Intracerebral Hemorrhage

Among 738 patients who had experienced ICH (mean [SD] age, 74.3 [12.1] years; 384 men [52.0%]), 140 (19.0%) developed dementia within 6 months. A total of 435 patients without dementia at 6 months were followed up longitudinally (median follow-up, 47.4 months; interquartile range, 43.4-52.1 months), with an estimated yearly incidence of dementia of 5.8% (95% CI, 5.1%-7.0%). Larger hematoma size (hazard ratio [HR], 1.47 per 10-mL increase; 95% CI, 1.09-1.97; P < .001 for heterogeneity) and lobar location of ICH (HR, 2.04; 95% CI, 1.06-3.91; P = .02 for heterogeneity) were associated with EPID but not with DPID. Educational level (HR, 0.60; 95% CI, 0.40-0.89; P < .001 for heterogeneity), incident mood symptoms (HR, 1.29; 95% CI, 1.02-1.63; P = .01 for heterogeneity), and white matter disease as defined via computed tomography (HR, 1.70; 95% CI, 1.07-2.71; P = .04 for heterogeneity) were associated with DPID but not EPID.

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シリア野戦病院の地獄

By , 2016年6月9日 6:39 PM

2016年6月9日の New England Journal of Medicine誌に、胸が締め付けられるような論文が載っていました。

The Hell of Syria’s Field Hospitals

“Where’s my mom?” a boy asked as he woke from surgery. Both his legs had been amputated when a missile hit his home in Aleppo, Syria. His mother had died in the blast. It didn’t take him long to realize the answer.
「お母さんはどこ?」と手術後目覚めた少年は尋ねた。シリアのアレッポにある彼の自宅にミサイルが直撃し、彼の両下肢は切断されていた。彼の母親は爆発で死亡した。彼がそれに気づくのに時間はかからなかった。
If we have two critically wounded patients and only enough blood to save one, we decide which one to save and which to watch die. What do we say to the family whose child we let die, knowing that we could have saved that life?
もし、重症の外傷患者が二人いて、輸血が一人分しかなかったら、われわれはどちらを助け、どちらを見殺しにするかを決める。助けられたことを知っていて、死なせた子供の家族になんと言えば良いのか?

このように切ない逸話がたくさん出てきます。シリアで何が起きているのか、是非読んでみてください。

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ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2016

By , 2016年6月8日 8:05 PM

ACP(米国内科学会)日本支部年次総会2016に参加してきました。

6月3日(金) は前日入りして、昨年同様祇園の「なか原」で methyl先生と食事をしました。ここは、妹と methyl先生の馴れ初めの店なのです。

6月4日(土) は次の講義を聴きました。

10:00~11:30 第1会場  Shockのトリセツ (林寛之)

・心タンポナーデは、心嚢液の量は関係ない。ゆっくり溜まれば量が多くても心タンポナーデにならない。心臓超音波検査で右房の虚脱は感度が高く、右室の虚脱は特異度が高い。

・血性心嚢液は大動脈解離、左室自由壁破裂、癌の心膜転移を考える。

肺エコーについて。基本的にアーチファクトを見たいので、THIボタンを押して、アーチファクトを減弱させるための設定を外す。肺水腫では B line (縦方向にはいるアーチファクト) がたくさんみえる。ポータブルエコーを持参しての往診で consolidationを探すことで、肺炎を見つけられることもある。

・英語でエコーとは心臓超音波検査のことを指す。それ以外の超音波検査はすべて ultrasoundという。

・元気な心臓は、僧帽弁が良く動くので中隔に近づく。正常での EPSS <7 mm

・IVCを測定するとき、プローベを腹部の軟らかいところから上に向けても当たりにくい。心窩部右側の骨に当てて、斜めに見る。IVCは肝静脈 1 cm尾側で測定。

・E line, EF<40%, IVC虚脱率<20%の組み合わせで心不全の診断精度が極めて高くなる。

・心不全の原因、A (ACS), B (BP/HTN), C (cardiomypathy), D (damaged valve) で、ショックならほとんど AMIである。

・敗血症性ショックでは、IVCで volumeを評価し、呼吸性変動 ≧50%なら 5~6 Lを 5~6時間で輸液。平均血圧 65~90 mmHgになるようにノルアドレナリン、バゾプレッシンなど使用。酸素利用は Lactateで評価。Lactate > 4 mmol/lが目安。適宜ドブタミンや輸血を検討。

・肺エコーで、sliding sign (肋間の肋骨レベルより少し下にはいる横方向のアーチファクト) があれば正常、なければ気胸。Lung point (気胸と肺との境目) があれば気胸。

・意識清明の緊張性気胸で致死的なのは 0.3%なので、それほど焦らなくても良い。呼吸音左右差はかなりわかりにくい。脇の下で比較するとよい。穿刺は第 5肋間腋窩前線がお勧め。4.5 cm以上必要。

・腹部大動脈の径≧ 5 cmで破れやすい。径だけで破れているかどうかはわからないが、血腫の検出でわかることがある。

・自分が読めない心電図を見たら、高K血症を考える。

・治療は、カルチコール/CaCl2の効果出現は 1-3分で効果出現 (Kは下げないが心臓を保護してくれる)、グルコース・インスリン (レギュラーインスリン 10単位+ 50%ブドウ糖 50 mlを静注) は 30分で出現し効果最強、β刺激薬吸入は 1-3分で効果出現 (喘息だと 0.3 mlくらいだが、β刺激薬 2~4 ml+生食 4 mlを吸入する)、アシドーシスあるときのみメイロンを使用するが効果出現は 5-10分、ケイキサレートの効果出現は遅い。その他透析など。治療は CABG (カルシウム、β刺激薬、グルコース ) と覚える。

肺エコーなど、最近のトピックスを押さえることができました。エコーについては、経験を積んで覚えていかないといけませんね。神経エコーや頸動脈エコーというのはありますが、多くの神経内科医にとって苦手な分野です。

11:45~12:30 第1会場  急性気道感染症診療の原則を再考する (山本舜悟)

最近、扁桃炎の起炎菌として A群溶連菌だけではなく、B群あるいは G群溶連菌、Fusobacteriumなどがかなりあるのではないかと言われている。これらは、迅速キットでは検出できない。Centor criteriaで点数が高ければこれらの起炎菌も想定して治療を開始すべきなのかどうか?

とても興味深い講演でした。「かぜ診療マニュアル」の改訂版 (今後発売予定) で扱うようなので、ネタバレにならないよう、これ以上は書かずにおきます。皆さん買ってください。

12:45~14:15 第1会場  Snap Diagnosis ver.4 日常診療でどのように身体所見を学びつづけるか (須藤博)

これまでの米国内科学会日本支部総会で須藤先生が話されてきたことの纏め。この記事の末尾にリンクを張っておくので、それを参照。新しく知ったのは、「眼瞼結膜での貧血 (conjuctival rim pallon) は、眼瞼結膜のコントラストの消失で判断する。感度 10%, 特異度 90%, LR + 16.7」「座位だと鎖骨は右房より 10 cm以上高いところにあるので、鎖骨より上で外頸静脈の拍動が見られれば CVP>10 cmである。座位ではっきり見えたら異常。心不全による中心静脈圧上昇の他、心タンポナーデ、SVC syndrome, 緊張性気胸など考える。仰臥位でまったく見えないのも異常である」「肝濁音界は検者によって個人差があるので、正常人で 300人打診して自分なりの正常の高さを覚えておく」「心音の S4は聴診よりも触診の方がわかりやすく、心尖部で触れることがある (palpable S4)」「前胸部に手を当てれば右室圧>50 mmHgの時はわかる。傍胸骨拍動でググッとくる」「pelvic appendictisでは唯一の圧痛が直腸にあることがある」「先端巨大症ではグーをして爪が隠れない」「エビデンスは他人の経験である。自分の経験も大事」など。

講演が終わってから、この学会の講師達数名とまんざら亭で飲み会をしました。名前は明かしませんが、全国の有名病院の指導医たちで、毎年刺激を受けます。

6月5日 (日) は次の講義を聴きました。

9:30~11:00 第2会場  臨床研究はじめの 2歩目、統計の基本シリーズ ~あなたの研究に必要な対象者は何人?~ (福原俊一)

予め配られた資料を元にパワー計算を行い、パラメーターを動かすとどのくらい必要な対象者が増えるかを学習しました。

前回このシリーズに参加していた人としていなかった人をターゲットにしていたので、レベルの設定が難しい講演だったと思います。事前学習は、福原先生の本を読んでいたり昨年のシリーズに参加していた人間にとっては時間の無駄と思えるくらい初歩的な内容でしたが、動画がスキップできなくてイライラしました。私は「医学研究のデザイン」という本でパワー計算の例題をいくつか解いており、そのレベルでの学習をしたいと思っていたのですが、初学者向けだったので、やや物足りなさが残りました。

12:15~13:00 第5会場  ホスピタリストのための人工呼吸器セミナー in ACP Japan (則末泰博)

・人工呼吸器を使用する上で体格の把握は大事

・気管挿管の適応は MOVESである。すなわち、M (mental status, maintain airway; 気道閉塞、意識障害 (GCS 8点以下)), O (oxygenation; 低酸素), V (ventilation; 低換気), E (expectoration, expected course; 排痰負荷, 想定される臨床経過 (この後悪くなる)), S (shock; ショック) である。

・人工呼吸器管理はあくまで対症療法である。人工呼吸器管理で患者を悪くしないのが大事。絶対に優れているモードがあるわけではない。

・AC: Assist (補助)=患者の自発呼吸があれば患者の呼吸をアシストする、Control (調節換気)=患者の自発呼吸がなければ設定呼吸回数の強制換気で患者の呼吸をコントロールする。

・従量式 (VC) では、サギング (Sagging) に気をつける。これは患者の望んでいる吸気速度に流速が追いつかないもの。Volume controlのみでおこる。設定流速が低すぎるのが原因。モニターでは圧曲線が垂れ下がる。

・従量式で圧が上がりすぎた場合、プラトー圧を 30 cmH2O以下にする。気道抵抗パターン (挿管チューブが痰で詰まる、回路の問題など) では peakと plateauの差が大きくなる。コンプライアンス低下パターンでは、plateau圧が大きくなる。

・AC-VCの初期設定のまとめ:FiO2=SpO2を見ながら, 1回換気量=6-8 ml/kg (理想体重を用いる, 理想体重は、男性だと 50 + 0.9 x (身長 (cm) – 152), 女性だと 45 + 0.9 x (身長 (cm) – 152)), 呼吸回数=10-14回 (PaCO2をみながら), PEEP=SpO2みながら, 流速=40-60 L/min (流速↑だと吸気時間短い, 流速↓だと吸気時間長い, 吸気時間を設定する機種もある), 波形=漸減波 (患者の呼吸パターンに近い), 患者次第で変動するパラメーター=ピーク圧, プラトー圧

・AC-PCの初期設定のまとめ:FiO2=SpO2を見ながら, 吸気圧 5-15 cmH2Oで開始 (1回換気量が 6-8 ml/kg (理想体重) となるように調整, 吸気圧+PEEP≦ 30 cmH2Oになるように設定), 吸気時間=0.8-1.5秒で開始 (吸気のフロー波形が基線に戻ってきたら送気終了するよう調整), 呼吸回数=10-14回 (PaCO2みながら), PEEP=SpO2+ Ppeakみながら, 患者次第で変動するパラメーター=1回換気量, 吸気流速

・ARDSにおける呼吸器管理では、過伸展防止→low tidal stratetgy (院内死亡率減少 NNT 11 (NEJM 2000;342:1301-8)), 虚脱の防止→PEEPが大事。初期モードは AC-VCか AC-PC, 1回換気量を 6 ml/kg以下にする, プラトー圧を 30 cmH2O以下にする (PCの場合は Pi+PEEPが 30 cmH2O以下になるように), これらに伴う高二酸化炭素血症は許容する (pH 7.15以下になるまで), 肺を虚脱させないように適切な PEEPをかける

・二段トリガー (Double trigger) は、呼気が始まる前に次の吸気がトリガーされるもの。原因は一回換気量や吸気時間のミスマッチ。具体的には、設定換気量<<<患者の望む換気量, 設定吸気時間<<患者の望む吸気時間。

・1回換気量を制限したいが患者の自発呼吸がある場合、AC-VCでの非同調, AC-PCでの換気量の増量が問題となりやすい。まず鎮静、無理なら筋弛緩薬。

・COPDでは呼気に時間がかかり、吐ききる前に次の呼吸が始まってしまう。肺の中に空気が残っているのに呼吸が始まることで auto PEEPがかかる。Auto PEEPを測定するには、吸気ポーズボタンを押す。

・Auto PEEPの解決方法としては、気管支拡張薬による治療、吸気時間を短くすることで相対的に呼気時間を長くするなど。ミストリガーを改善するのであれば、人工呼吸器の感度をあげる、Counter PEEPなど。

・喘息発作の場合は、AC-VCが betterである。気道抵抗↑↑のため、AC-PCは圧設定が難しく換気量が入りにくい、AC-VCでプラトー圧をモニターしつつ換気量を確保。

・Take Home Message:患者が最も楽でかつ安全な設定にしよう。一回換気量は 6~8 ml/kg (理想体重) に。プラトー圧を 30 cmH2O以下に。COPD/喘息では呼気時間を長く保ち、auto PEEPを防ぐ。

私はこれまで従圧式ばかり使用してきたので、従量式についてとても勉強になりました。この講演の後、講堂を出たら、某伊豆地域の病院の先生から、講演依頼をされたのでした。「神経内科医も歩けば仕事が増える」という感じですが、光栄なことなので、精一杯準備させて頂きます。

13:15~14:45 第2会場  診断戦略カンファレンス (志水太郎)

アルコール多飲歴のある中年男性が 1週間前に一時的に左胸痛を自覚した。呼吸苦あり来院。何を考えるか?病歴と身体所見を元にグループで診断推論をする。肺塞栓症、気胸などオーソドックスなものから、特発性食道破裂など鑑別が上がった。解答は、慢性膵炎→仮性膵嚢胞 (圧が高まり左胸痛出現)→左胸腔内に瘻孔形成 (圧が逃げて胸痛消失)→左胸水貯留。だった。胸水穿刺では black pleural effusionが得られた。胸水 AMYが高値だった。Clinical pearlとしては、”左胸水をみたら膵性胸水も考える”。

須藤先生が、「酒飲みが酒を飲まなくなったら、重大な疾患が隠れている」とおっしゃっていて、私はるろうに剣心の「春は夜桜 夏には星 秋には満月 冬には雪 それで十分酒は美味い それでも不味いんなら それは自分自身の何かが 病んでる証拠だ」という台詞を思い出したのでした。

新幹線待ちの間、葵茶屋で一杯飲んでから帰りました。十分酒は美味かったので、健康であることを確認しました。

(参考)

ACP日本支部年次総会 2013

ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2014

ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2015 【1日目】

ACP(米国内科学会)日本支部 年次総会2015 【2日目】

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Nuclear receptor NR1H3 in familial multiple sclerosis

By , 2016年6月3日 6:15 AM

Neuron誌に驚きの論文が掲載されました (2016.6.1 published online)。家族性多発性硬化症の exome sequenceで NR1H3変異が証明されたというのです。表現型は急速進行型多発性硬化症でした。単一遺伝子変異でも多発性硬化症を発症することがあるのですね。ビックリしました。興味のある方は論文をどうぞ (締め切り直前の仕事が立て込んでおり、詳しく解説している余裕がなくてすみません)。

Nuclear Receptor NR1H3 in Familial Multiple Sclerosis

 

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