Category: 医学と医療

Parkinson病のニュース

By , 2012年8月22日 8:40 AM

Parkinson病についての研究がニュースになっていました。2年前にお伝えしたニュースの続報です。

パーキンソン病:発症抑える仕組み解明 都医学総研所長ら

毎日新聞 2012年08月22日 00時37分

 神経難病「パーキンソン病」の発症を抑える仕組みを、田中啓二・東京都医学総合研究所長らのチームが解明し、21日の英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」電子版に発表した。パーキンソン病の原因となる細胞内の小器官「ミトコンドリア」の異常を早期に見つけることが可能になり、病気の早期発見、治療に役立つという。

パーキンソン病のうち20〜30代で発症する「若年性パーキンソン病」は、二つの遺伝子が働かないことでミトコンドリアの異常が蓄積し、運動障害が起きる。

チームは、二つの遺伝子のうち「ピンク1」の働き方を調べた。その結果、ヒトの正常なピンク1遺伝子は、ミトコンドリアに異常が起きるとリン酸と結び付いて働き始め、異常ミトコンドリアが分解された。一方、若年性パーキンソン病患者のピンク1遺伝子は、リン酸と結び付かず機能しなかった。

チームの松田憲之主席研究員は「異常ミトコンドリアの増加や分解が進まないときに、リン酸と結びついたピンク1遺伝子を検出する方法を開発すれば、病気の早期発見につながる」と話す。【永山悦子】

論文リンクはこちら。

PINK1 autophosphorylation upon membrane potential dissipation is essential for Parkin recruitment to damaged mitochondria

ここで論文にされた Parkin-PINK1系については、次々と新しいことがわかってきているので、今後の課題は Parkin, PINK1変異による遺伝性 Parkinson病で得られた知見を孤発性 Parkinson病にどこまで活かせるか、ですね。

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学会の見解

By , 2012年8月21日 6:46 AM

「脳過敏症候群」といった聞き慣れない名前が世の中で広まっているそうです。「私、”脳過敏症候群” かもしれません」という患者さんが、上司の外来を受診したと聞きました。

日本頭痛学会は、看過できないとして、見解を発表しました。

「脳過敏症候群について」日本頭痛学会理事会の見解

最近、マスコミで「脳過敏症候群」が何回か取り上げられましたが、その際に、「頭痛」と関連してまちがった情報が視聴者に伝わり、また医療現場でも混乱が生じました。日本頭痛学会理事会も、この状況を放置できないと憂慮しています。

ことの発端は、清水俊彦医師が、「耳鳴り・頭鳴りは脳過敏症候群によることが多く、脳波をとれば診断がつき、抗けいれん薬を飲めば治る。片頭痛などの慢性頭痛を適切な処置なしに放置したことによって発症するので、日本頭痛学会のホーム・ページに掲載されている頭痛専門医を受診すると良い。」という趣旨をテレビで繰り返し主張したことにあります。

この説は多くの視聴者に期待を持たせたようです。しかし、「脳過敏症候群」なる説を信じている日本頭痛学会の専門医はほとんどいません。「現時点では科学的根拠のない、個人的な考え」とみなされています。清水医師が強調する脳波の所見は正常人に日常的に見られる脳波である、と多くの研究者が考えています。また、過去に片頭痛のあった人が頑固な耳鳴りを起こしやすい、という説にも根拠がありません。

「脳過敏症候群」は清水医師により日本頭痛学会学術総会に報告され、議論されています。ただ、研究者の多くが清水医師の考えは科学的根拠に乏しいと指摘しているのが現状です。その点、一部のテレビ番組での「日本頭痛学会の会員の多くが認めている学説」とのコメントは正しくありません。日本頭痛学会が清水医師の治療法を「信憑性のあるもの」として是認しているかの誤解が、国民の皆様に伝わり、医療情報の混乱を招いたことは極めて遺憾です。

学問の進歩は日進月歩であり、頭痛関連の分野でも新たな研究成果と治療法の開発が強く望まれています。日本頭痛学会では、引き続き、頭痛について幅広く、また科学的な議論を会員全体で推進します。今後も正しい医学情報を社会に提供し、常に国民の皆様の健康増進に貢献する努力を続けてまいります。

私もこの疾患概念には否定的な意見を持っています。そのことは置くとして、一番の問題は、一部の医師が思いついた疾患概念を ”学問的なコンセンサスがないまま” マスコミに垂れ流し、マスコミもよく裏を取らないで報道したことにあります。医学は、「言ったもの勝ち」「声が大きい方が勝つ」というのではいけません。

似たようなことで、「新型うつ」も話題先行ですが、こちらの日本うつ病学会のサイトが参考になります。

Q4.新型うつ病が増えていると聞きます。新型うつ病とはどのようなものでしょうか? (PDF)

【追記 (2012.9.8)】

学会声明文が削除されてしまったようです。コンセンサスのないことがマスコミ越しに話題になって現場に混乱を与えているのは事実ですし、学会がきちんと発した声が、理由の記載なく削除になったのは残念なことです。

「脳過敏症候群」に関する頭痛学会コメント後日譚

 

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内科学会誌

By , 2012年8月20日 9:02 PM

日本内科学会のサイトにアクセスすると、会員は「日本内科学会アーカイブ」で過去の内科学会誌を全てオンラインで読めることに気づきました。

記念すべき第一号第一頁は、腎臓病という論文です。

論説

腎臓病

第十回日本内科學會総會宿題報告

醫學博士 佐々木 隆興述

我ハ昨年五月下旬頃前會長ヨリノ御命令ニヨリ、本年ノ内科學會宿題腎盂炎ニ就ヲ御報告致スハ光栄ニ存ジマス

このような冒頭で始まります。1913年の文章なのですが、時代を感じますね。

第一号の二本目の論文は、周期性四肢麻痺についてです。1913年当時、国内での報告は 7-8例であったことがわかります。

定期性四肢麻痺ニ就テ

醫學士 北村 勝藏述

或ハ發作性麻痺トモ云フ Schachnowicz, Westphal等ガ獨立ノ疾患トシテ報告セシ以来西洋ニ於テハ可ナリ多クノ報告出テ日本ニ於テモ既に七八例報告セラル、然レドモ猶ホ未ダ稀有ナル疾患に属スルモノナレバ吾人ガ經驗セシ三例ヲ上グベシ

同じ号で腱反射についての記述がなされているのが、神経内科にとっては興味深いところです。

 反射作用ノ臨牀的意義

第十回日本内科學會総會演説

金澤醫學専門学校  那谷 與一述

反射作用ガ疾病ノ診断ニ對シテ大ナル意味ヲ有スル事ハ論ヲ待タザル所ニシテ、殊ニ神經系統ノ疾病ノ診斷上甚ダ重要ナル價値アルヲ認ム。

この論文には、ヒステリーの話がよく出てきました。 Babinskiが「器質性片麻痺とヒステリー性片麻痺の鑑別診断」という論文を書いたのが 1900年ですから、時代的には非常に近いですね。

一方で、第一号には、びっくりするようなタイトルの論文があるのです。それは「血中ニ注入セラレタル墨汁ノ運命」という論文。本文を読むと、家兎を用いた動物実験の話でした。

1916年は梅毒に関する報告が多く、「「サルワルサン」及免疫血性注射試驗ヲ經タル海〓臟器内ノ黄疸出血性「スピロヘータ」ノ所見 附血清療法ヲ施セル黄疸出血性「スピロヘータ」病患者ノ解剖例ノ病原「スピロヘータ」ノ所見ニ就テ」という論文も書かれていました。

このように古い論文のタイトルをパラパラ眺めていると、歴史を肌で感じることができます。医学史好きの内科学会の会員の先生にはオススメです。

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描画の神経学

By , 2012年8月18日 8:53 AM

尊敬する岩田誠先生による「描画の神経科学」という講演を聴きに行って来ました。

日時:
2012年07月06日(金曜) 18:00
会場:
日仏会館ホール – 渋谷区恵比寿3丁目

物の進化史上、自然発生的に絵を描くことを始めたのは、われわれHomo sapiensのみです。既にある程度の話し言葉の能力を持っていたと考えられ、我々に最も近い存在であったとされる旧人(Homo neanderthalensis)でさえ、絵を描くことはしなかったようです。その意味で,ヒトはHomo pictorと呼んでも良い存在であると言えます。それでは、ヒトは何故絵を描くのでしょうか。また、どうしてヒトだけが絵を描く能力を持っているのでしょうか。それらの諸問題を、認知考古学、動物行動学、神経心理学、発達神経心理学などの多方面からのアプローチで探ってみましょう。また、様々な病気が、画家の描く作品に与える影響についても、考えてみたいと思います。

ネット上に講演の内容をまとめた pdfを見つけました。非常に面白い内容ですので、興味のある方は読んでみてください。

 描画の発達と進化

 

余談です。上記リンクの pdfでも触れられていますが、Rhoda Kellog氏が膨大な数の小児の絵を体系化して、どのように発達していくか纏めているらしいです。子供ができたら Kellog氏が纏めた発達の表と、自分の子供の描く絵を比べてみたいと思っています。問題は、私に画才がないのが遺伝するかもしれないのと、そもそも相手がいないので子供が出来るアテがないことですね (^^;

 

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南相馬市のクリニックより

By , 2012年8月17日 9:32 AM

南相馬市医師会長の先生のサイトを最近知りました。

原町中央婦人科医院

サイトの右側に震災以降の状況が、不定期に綴られています。

2012年7月12日に、かなり深刻な文章が掲載されました。

停滞する復興
平成24年7月12日
原町中央産婦人科医院院長
高 橋 亨 平
東日本大震災及び原発事故後、1年4カ月になるが、除染も、復興らしき事
も、何も進展はしていない。前に進むべき法律が微妙に邪魔して、役人の権限、
解釈を複雑化し、前に進めない仕組になっている。予算が決まっても、縛りが
強く、何も出来ない地方自治体、結局、国に再度、まる投げ、待ってましたと
ばかりに、国と自治体は自信を持って、原発を作る企業側に又、 まる投げす
る。こんな事を繰り返しながら、いつの間にか、大きな予算が動き、検証しな
いまま消えていっている。地域住民は全く、相手にはされていないし、相変わ
らず、仕事もない。

現地での閉塞感は如何許と思っていたら、さらに深刻な文章が、8月12日に掲載されました。

私の体の現状と医師募集のお願い
平成24年8月12日
医療法人誠愛会
原町中央産婦人科医院
理事長 高橋 亨平
外なる敵と戦っている間にも、癌という内部の敵は決して手加減はしてくれ
なかった。そして又、抗がん剤の副作用に耐えられなく、もう治療はやめよう
と思い、やめてしまった人もたくさんいると聴いた。確かにその理由も分かっ
た。自分でも、何のためにこんな苦しみに耐える必要があるのかと、ふと思う
時がある。しかし、この地域に生まれてくる子供達は、賢く生きるならば絶対
に安全であり、危険だと大騒ぎしている馬鹿者どもから守ってやらなければな
らない。そんな事を思いながら、もう少しと思い、原発巣付近の痛み、出血、
の緩和のため、7月25日から、毎日放射線治療を開始、通院している。午前
9時から12時まで自医院の外来診療、その後、直ちに車に乗り1時間20分
かけて、福島医科大学放射線治療科へ、そこでリニアック照射を受け、直ちに
帰り、3時から再び自医院の外来診療を6時まで、しかし、遅れる事が多かっ
たので、最近は3時から4時に変更した。そんな私の我侭に対しても、患者さ
ん達は何も言わずに、ちゃんと待っていてくれた。それでも、多い日は100
人以上、少ない日でも70人は下らない。(略)

癌との闘いながら、頑張ってきたが、あまくは無いなと感じることが多くなっ
てきた。何時まで生かられるか分からない・・神の思し召すままに・・と覚悟
は決めていても、苦しみが増すたびに、もし、後継者がいてくれればと願って
やみません。私の最後のお願い、どうか宜しくお願い致します。

胸が張り裂けそうになる文章です。言葉がありません。

(追記)

8月17日夜、このことが CBニュースで報道されたようです。また、8月21日、読売新聞でも報道されたという情報を知りました。

勇気ある医師よ 南相馬の開業医が後継募集-原町中央産婦人科の高橋氏

医療介護CBニュース 8月17日(金)20時34分配信

東京電力福島第1原子力発電所の事故が起きた直後から、がんと闘いながら浜通り地域の産婦人科医療を支えてきた開業医が、後継者を募集している。現在では、午前と午後の診療をこなしながら、自身も放射線治療を受けているといい、「もし後継者がいてくれればと願ってやみません」と、全国のドクターに呼び掛けている。

後継者を募集しているのは、南相馬市で「原町中央産婦人科医院」を運営する医療法人誠愛会の高橋亨平理事長。
原発から近い県浜通り地域では事故の後、一時はお産のための場所がなくなったが、高橋氏はすぐに現場に戻り、診療を再開。地域の産婦人科医療を支えてきた。ところが昨年6月、高橋氏に大腸がんが見つかり、現在では、がん治療のため遠方の大学病院に通いながら診療を続けている。多い日には100人以上の患者を診療するという。
東日本大震災の発生から1年を機に、キャリアブレインが3月に行った取材では、診療に追われる合間に地域の現状を語ってくれた。

現在では、地域の複数の医療機関がお産の受け入れを再開しているが、高橋氏は今月12日付のブログの中で、「私の役割は終わったと思ったが、どうしてもという患者さんは断れない。もういいかなと、ふと頭をよぎる誘惑に、頑張っている20名の職員の笑顔がよぎる」と綴り、「全国のドクターにお願いがしたい。こんな診療所ですが、勤務していただける勇気あるドクターを募集します」と呼び掛けている。

専門の診療科は問わず、「広く学ぼうとする意思と実践があれば充分」としている。【兼松昭夫】

 

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トーク認知症

By , 2012年8月13日 9:56 AM

「トーク 認知症 (小阪憲司、田邉敬貴、医学書院)」を読み終えました。シリーズ「神経心理学コレクション」の一冊です。小阪憲司先生は、Lewy小体病の提唱者としても有名ですね。序文に本書のコンセプトが書かれています。

単なる臨床の症例集、あるいは神経病理の教科書でもなく、臨床をじっくり見た上で剖検脳を調べるという、Charcot以来の神経精神医学の基本に立ち返り、加えて近年の画像診断法の粋をも取り入れた、類を見ない試みである。

エキスパートがどのような点に着目して診療をしているかがわかり、それが画像、病理所見とどのようにリンクしているのか非常に勉強になりました。アルツハイマー病や前頭側頭型認知症など比較的 commonな疾患が大部分でしたが、diffuse neurofibrillary tangle with calcification (DNTC) や limbic neurofibrillary tangle dementia (LNTD) といったマイナーな疾患は、本書で初めて詳しく知りました。近年、画像検査でわかることがどんどん多くなり、それとともに「わかった気になって」剖検を行わずに済ませることが多くなっていますが、剖検してみないとわからないことも多いというのが印象的でした。そして、剖検所見を活かすには、生前の詳細な観察が必要なのですね。

もう一冊、神経心理学コレクションから「痴呆の症候学 (田邉敬貴、医学書院)」も読み終えましたが、こちらは初学者向け。よく纏まっていると思いました。

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南相馬にて

By , 2012年8月12日 12:15 PM

大学病院の職を辞して南相馬市立総合病院での勤務を始めた神経内科医小鷹先生の近況が、医療ガバナンス学会に寄稿されていました。考えさせられた言葉、心を動かされる言葉が多くありました。一部引用しますが、是非リンク先を読んでいただきたいと思います。

Vol.507 福島の医療現場から見えてきたもの

離職する看護師の夫は末期癌であった。そして、多発性硬化症の患者の母親は、震災後に自ら命を絶っていた。現状を目の当たりして、私は考えを是正せざるを得なかった。「何かを始めたい」と意気込んでは来たものの、”医療復興”というのは、システムを創造したり、パラダイムを変換したりすることではなかった。

むしろ丁寧に修繕するとか、再度緻密化するとか、改めて体系化するとか、有機的に規模を拡大するとか、人を集めてそれらを繋ぐとか、そういうことが医療の復興であった。

 

Vol.517 福島での意味

そういうことを考えると、世の中というものも「偶然その場に遭遇し、意外にも手を差し伸べることになり、行きがかり上そうなった」という行為の集まりで成 り立って欲しいと願う。「たまたまそこに出くわしてしまったが故に、巻き込まれて、なんだか知らないけどいろいろやってしまった」という、言ってみれば、 そういう合理的でないものに人は動かされるし、意味付けは後からなされるものである。

“意味”とは、ある価値に則った合理性のことだが、意味があることの方が正しくて、そうした価値観でしか物事が動かない世の中よりも、偶然居合わせてしまった状況で、意味を度外視して行動できる世の中の方が、ずっと暮らしやすいような気がする。(略)

医師の私が言うのも気が引けるが、人助けや人命救助なんてものに、さしたる意味など考えない方がいいのかもしれない。意味を超えた行為だから、人はどんな現場でも、それを実行することができるし、理由など考えずに仕事に没頭できるのである。

 

Vol.541 福島で足りないもの

離職する看護師の夫は末期癌であった。そして、多発性硬化症の患者の母親は、震災後に自ら命を絶っていた。
私の想像を遙かに凌駕する凄まじい、あまりにも壮絶な現実があった。苦悩を表に出さない態度の一方で、自暴自棄や抑うつ状態を理解して余りある圧倒的惨劇が、この地には横たわっていた。
私は想いを修正せざるを得なかった。不運に直面する人たちを前に、他人任せで悠長なことを言っていられるのか。この地で起こり得る心身の衰弱に対して、どう反応していけばいいのか。

 

Vol.556 福島での暮らし

勝手な言い方をすれば、福島に限らず社会というものは、そもそも劣悪である。しかし、どれほど劣悪であれ、私たちはその中で生き延びていかなくてはなら ず、その中で社会を再生・構築していくしかない。できることなら誠実に、前向きに、着実に。重要な真実や意義は、むしろそこにある。

 

Vol.565 福島の病院が、初めての研修医を迎えて

私たちの医療には解答がない。だから、正解を学ぶことはできないし、規範を教える術もない。
ここで学ぶことは、もちろん、医療技術を向上させるとか、医学的知識を増幅させるとか、そういうことを目指すことに異論はないが、それよりも”自分は何が できないか”を理解し、自分にできないことは、誰にどのように支援されればそれが達成できるのか。「そういう人に支持されなければ、有効に自分の学びが活 かされることはない」ということを体感することなのである。
一手先、二手先を見据えて「自分にできないこと」と、「自分にできること」とを、きちんとリンケージすることなのである。

 

(関連記事)

被災地の病院へ

 

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第5回上肢の機能回復セミナー

By , 2012年7月26日 7:55 AM

第5回上肢の神経機能回復セミナーに参加してきました。

6月29日は前夜祭で、Evening seminarが行われました。京都大学の福山秀直教授による SPECTを用いた歩行中枢の検討では、立位で小脳虫部が、歩行に運動野と補足運動野が、パーキンソン病での Kinesie paradoxaleに前頭前野が重要な働きを働きをしていることが示されました。Larry B. Goldstein先生は米国脳卒中学会理事で、米国の脳卒中ガイドラインを作った方ですが、アメリカ東海岸の stroke beltと呼ばれる地域の話をしてくださいました。Primary Stroke Center (PSC) を作って専門的な管理をするようにしてみたものの、劇的な改善には至らなかったそうです。質疑応答で、「米国での脳卒中専門施設の数は限られ、そこにアクセスするには時間がかかると思うけれど、t-PAは間に合うのか?」と問われ、Goldstein先生は「Drip and ship」と答えていました。最初の医療機関で t-PAを注射してから搬送する方法がとられるらしいです。

夜のレセプションでは、Everlyの演奏を聴くことが出来ました。Everlyのブログでもこの日の演奏に少し触れられていますね。なかなか素晴らしかったです。

6月30日は 10時30分~20時10分までみっちりと講演がありました。特に印象に残っている話をいくつか抜粋して紹介します。

・岡山大学阿部康二教授「脳梗塞の脳保護療法と再生医療」では、基礎医学の話を色々聞くことができました。脳卒中後の rat脳に iPS細胞を入れると腫瘍化するらしいのですが、ratの骨髄をとっておいて脳梗塞の ratに投与すると効果があることから G-CSFを用いた脳梗塞治療が研究されていて、現在第3相試験が行われているそうです。

・Brain Motor Control Assessment (BMCA) では、multi-channelの表面筋電図を用いて運動制御の障害を評価します。現在行われている臨床試験を検索するサイトで複数登録されることからもわかるように、注目を集めてきているようです。

・国立精神・神経医療研究センター神経内科の坂本崇先生の「ジストニア・痙縮のボツリヌス治療」では、「適切な量を 適切な間隔で 適切な筋に」をモットーに、ボツリヌス注射についての実践的な話を聞くことができました。興味深かったのは、ジストニアでの sensory trickについて。ジストニアのある患者さんが患部を触ると症状が改善する現象ですが、触れる前から効くし、他人の手を使ったり逆の手を使うと効かないらしいのです。このことから、どうやら肩の位置覚が関与しているのではないかと推察されていました。

・前日にも講演された Goldstein先生が、「Current Guideline-Based treatment of Acute  Ischemic Stroke in the United States」 という演題で講演されました。アメリカの脳卒中ガイドラインについての話でした。例えば、AHAのガイドラインでは、発症3時間以内の t-PA療法は class I, LOE A, 発症4.5時間以内の t-PA療法は class I, LOE Bとされています (80歳以上やワルファリン内服は除外基準)。発症4.5時間以内での t-PAの NNH or NNTは Mortality 143, ICH 29, good outcome 11となります。その他、抗凝固療法について、アスピリンについて、開頭減圧術についてガイドラインの根拠となった論文が示されました。また、Goldstein先生が教授を務める Duke大学に脳卒中疑いで搬送されてきた患者のうち 21%が脳卒中ではなく、脳卒中患者のうち出血性脳卒中が 15-20%, 虚血性脳卒中が 80-85%であったデータが示されました。t-PAの meta analysis脳卒中の初期対応についても触れられました。興味深かったのは、篠原先生からのコメントで、「アメリカでは Class I, IIa, IIb, III (Benefit/Risk). Level A~C (Evidence) で分けているけれど、それだと systematic reviewっぽくなってしまうので、日本では C1, C2といったクラスを設定して、提言的な意味を持たせている」ということでした。

・篠原幸人先生は、「私の Serendipity」というタイトルで講演されました。優れた臨床家であり、かつ研究者でもあった篠原先生の Serendipityについての話です。抄録がよくまとまっていますので是非御覧ください。抄録には論文名しか書いていませんが、Routed protein migrationは実験中に病棟に呼ばれ、タイムスケジュールが狂ってしまったので、いっそのことと思って 24時間置いておいてからネズミを解剖してみたら、タンパクが広がって流れていたことで発見されたそうです。また、排便失神の患者さんにValsalva手技をしてみたら血圧が下がったことで閃きを得て、Shy-Drager症候群の 3例に Tilt試験をして脳血流を検査してみたそうです。そうしたら脳血管の自動調節能が失われていることがわかりました。つまり自動調節能には自律神経が関係しているということです。一方、Shy-Drager症候群でも二酸化炭素への反応性 (血中二酸化炭素濃度が上がると血管が開く) は保たれており、自律神経とは別のメカニズムによることがわかりました。こうした発見のエピソードを興味深く聞きました。

・桑山直也先生はサテライトシンポジウムで頸動脈狭窄症への血管内治療の話をされました。動画を使ってのビジュアル的な講演で、とてもインパクトがありました。ステント設置の際に血管を拡張しすぎるとフィルターが機能しないことがあるので注意しなければいけないとか、術者からの生きた話が聞けました。また狭窄部位を解除した後の過還流での出血はしばしば問題になり、CEAだと血圧コントロールである程度防げますが、CASだと血圧コントロールしてもダメなのだそうです。しかし、最近 staged CASという方法が開発され、PTAで (2 mmのバルーンを用いて) 予め少し拡張しておき、2週間~2ヶ月後に CASを行うと予防出来る場合があるのだそうです。

講演が終わってからは、打ち上げがあり、地元の伝統芸能保存会の方が、歌と踊りを披露してくださいました。なぜか、私が指名され、即興で締めの挨拶をさせられましたが、やっぱりこういうのは経験がないと、とっさに良い挨拶は出来ませんね。思い出すと赤面モノです。

最後に、角館にこれだけの名士が集まったのは、ひとえに主催された西野院長の人徳だと思います。この会が素晴らしいのは、分野が全く違った人たちがアットホームな雰囲気の中勉強できることだと思います。神経内科、脳神経外科、リハビリ、基礎医学、様々な分野の専門家が集い、多面的に見ることで、知的な刺激を受けます。医学生や医学部を志望する高校生まで参加していたそうで、若者たちにとっても得がたい経験になったのではないかと思います。このセミナーがこれからも続くことを願います。

(参考)

上肢の機能回復セミナー1

上肢の機能回復セミナー2

上肢の機能回復セミナー3

第3回上肢の機能回復セミナー1

第3回上肢の機能回復セミナー2

第4回上肢の機能回復セミナー

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江戸の病気ランキング

By , 2012年7月19日 7:48 AM

製薬会社のエーザイが作るサイトに、くすりの博物館というのがあります。 

その中に、面白いコラムを見つけました。

江戸の病気ランキング

江戸時代の病気ランキングが、番付表形式で残されています。といっても深刻さは表に出さず、「ひびの判官しミ升」「前頭  眩暈之四郎倉々」「頭痛之助鉢巻」など、思わずクスリと笑ってしまう番付になっています。

神経内科医の目から見て、「頭痛之助鉢巻」で取り上げられている頭痛は片頭痛じゃないかなと思いました。片頭痛はこめかみを抑えると症状が多少和らぐことがあり、一部の患者さんたちは経験的にそうしています。押さえる代わりに鉢巻を巻いて圧迫して症状を和らげるという方法もあり、「頭痛之助鉢巻」はそれを表していたのかもしれません。

「溜飲を下げる」の語源となった「溜飲」もランキングにありました。眺めていると色々と発見のある番付だと思います。

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BLOWIN’

By , 2012年7月16日 8:37 AM

川崎病の原因について、非常に面白い論文が、2011年11月に出ました。

Association of Kawasaki disease with tropospheric wind patterns

論文の Figure 4が凄いと思うのですが、日本での中央アジアからの北西の風、あるいはサンディエゴやハワイでの東西風 (pacific zonal wind) の強さと川崎病の発生率が綺麗に相関しているのです。風に乗って何らかの病原体が運ばれてきて、それに対する免疫応答で川崎病を発症するのではないかという推測が成り立ちます。

それに関連して、Nature 2012年4月5日号の News Featureに興味深い記事が掲載されました。

Infectious disease: Blowing in the wind

この記事の本題は病原体が何なのかの犯人探しです。

2011年3月上旬、汚染を防ぐための防護服を装着したスペインのエンジニアが、Barcelonaの Rondoのラボで作られたフィルターを乗せて飛行機で飛び立ちました。飛行機はリアルタイムの風データを用いて進路を取りました。飛行機が戻ってきた時にサンプルはドライアイスに梱包され、コロンビアにある Lipkinのラボに送られました。Lipkinはフィルターに引っかかった DNAを網羅的に解析しました (metagenomics)。

タイミング的にはある意味幸運でした。なぜなら、サンプル回収のため飛行機が飛んだルートは福島を横切っており、もし 1週間遅ければ福島の原発事故があり、風に放射能が紛れてしまっただろうからです。

コロンビアでの解析はゆっくりと進んでいます。高高度の大気中で採取された DNAは極めて微量だからです。まだ論文になっていないため Lipkinは詳細を語りませんが、既に Kawasaki病の原因候補がいくつか見つかってきており、今後は免疫学的検定が行われるのではないかと考えられています。候補 DNAへの抗体を作成し、川崎病患者の血清に加えて、もしコントロールより強く免疫応答が起これば、候補 DNAの信憑性が高くなります。次のステップは、患者からの血液サンプル中に、air filterから見つかったのと同じ DNAを探すことです。

このように川崎病の犯人探しはかなり容疑者が絞られてきているようです。もう少し捜査が進めば犯人が捕まるかもしれません。

記事の最後には、インフルエンザウイルスなど、他にもこのように風で運ばれてくる病原体があるのではないかという台湾の研究者のコメントを載せています。

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