Category: 医学と医療

描画の神経科学

By , 2012年5月19日 10:17 AM

日仏学会で、岩田誠先生の講演が行われます。

(科学講演会) 描画の神経科学

日時: 2012年07月06日(金曜) 18:00
会場: 日仏会館ホール – 渋谷区恵比寿3丁目
入場無料

● 岩田誠 (日仏医学会会長、東京女子医科大学名誉教授)

主催: 公益財団法人日仏会館、日仏医学会、日仏海洋学会、日仏工業技術会、日仏生物学会、日仏獣医学会、日仏農学会、日仏薬学会、日仏理工科会
後援: ABSIF (科学部門フランス政府給ひ留学生の会)

生物の進化史上、自然発生的に絵を描くことを始めたのは、われわれHomo sapiensのみです。既にある程度の話し言葉の能力を持っていたと考えられ、我々に最も近い存在であったとされる旧人(Homo neanderthalensis)でさえ、絵を描くことはしなかったようです。その意味で,ヒトはHomo pictorと呼んでも良い存在であると言えます。それでは、ヒトは何故絵を描くのでしょうか。また、どうしてヒトだけが絵を描く能力を持っているのでしょうか。それらの諸問題を、認知考古学、動物行動学、神経心理学、発達神経心理学などの多方面からのアプローチで探ってみましょう。また、様々な病気が、画家の描く作品に与える影響についても、考えてみたいと思います。

岩田先生の講演は、いつ聴いても感動を覚えます。早速申し込みました。

似たような内容の講演をされたことがあるようで、日本子ども学会のサイトに文章が載っていました。講演を聴きに行けない方は、こちらで雰囲気を味わってみて下さい。

描画の発達と進化」 (pdfファイル)

ちなみに、ジェラール・プーレ氏のコンサートが別の日に行われるようで、こちらも申し込みました。ジェラール・プーレ氏の父、ガストン・プーレはドビュッシーと親交があり、以前ブログで紹介したことがあります。非常に優れた音楽家ですので、クラシック音楽好きの方は是非申し込まれることをお勧めします。

(フランス音楽の夕べ) フランス音楽の夕べ

日時:2012年07月11日(水曜) 19:00 (18:30開場)
会場:日仏会館ホール – 渋谷区恵比寿3丁目
演奏 櫻木枝里子(p)、夜船彩奈(p)、白山 智丈 (p)、金澤希伊子(p)、ジェラール・プーレ(Vn) Soirée de musique française – SAKURAGI Eriko (p), YOFUNE Ayana (p), Gérard POULET (vn), KANAZAWA Keiko (p),/
参加費:
● 日仏会館会員 3.000 円
● 一般 2.000 円、学生 1.500 円
・ピアノ
櫻木枝里子
ラモー  新クラヴサン組曲より
ラヴェル 夜のガスパール

・ピアノ
夜船 彩奈

白山 智丈
前奏曲【初演】

幻想曲【再演】

・ヴァイオリン
ジェラール・プーレ
・ピアノ
金澤 希伊子

ラヴェル
フォーレの名による 子守唄
ハバネラの形式による小品
バイオリンとピアノのためのソナタ

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医学のともしび

By , 2012年5月9日 9:03 AM

「医学のともしび (遠城寺宗徳、前川孫一郎、松田道雄著、学生社版)」を読み終えました。科学随筆文庫の一冊です。

遠城寺先生は、九州大学小児科教授だった方です。先生が小児科医として過ごしたのがどういう時代であったかを象徴するような記載があるので、一部紹介します。

小児科四十年。その間に、小児科は大いに変わった。私が小児科医になったころ、わが国の乳児の死亡率は出生千人に対し百四十二.四(一九二五年)で、世界の大関位であった。当時、世界の楽園をほこる世界のニュージーランドが四〇で、早くニュージーランド並みにというのが私たちの合言葉であった。

今やそのついに実現するどころか昨年(一九六六年)になっては、ついに一八.五と、先進国を凌駕した。全国各地では「乳児死亡減少を祝う会」という名のほがらかな催しが開かれて、私もその記念講演によばれたのである。これは、小児科学の進歩と努力ばかりではない。一般社会生活の向上と相まって、乳幼児の栄養がよくなったのと、抗生物質や予防接種の発達出現によって感染症が激減したからであるが、ともかく隔世の感である。

これまで助からなかった命がどんどん助かるようになっていた時代で、本当にやったことが報われる機会が多かったのだろうなと思います。

遠城寺先生の留学中の話が面白くて、ベルリンでは何と湯川秀樹博士と同宿だったそうです。

一九三九年八月、ドイツ軍は、突如、ポーランドに侵入した。われわれベルリンにいた日本人には大島大使から引き揚げ命令がでた。「明日、ハンブルグ港出帆の靖国丸に乗船せよ」という急な通知であった。同宿には湯川秀樹博士もいた。ほんとうに、そうこうして、ハンブルグへかけつけ、婦女子をふくめた日本人三〇〇余人が、靖国丸に乗り込んで、まずノルウェーのベルゲンに向った。

(略)

ベルゲンには、一週間くらい停舶したが、毎日散歩に上陸した。道々の話題はドイツに引き返すことへの幻想ばかりであった。湯川さんが「遠城寺さん、ここにしばらく残ってドイツに帰れる時期を、待とうではないか あなたは医師をやれば食えるでしょう。私は数学の先生でもやりますよ」など、たわいのないこともなかば本気であった。湯川博士は、たしかスイスで開かれるはずの世界物理学会に出席のため、ベルリンに待機していたところを、引き揚げ船に乗せられたのである。このとき戦争が起こらなかったら、彼のノーベル賞も、もっと早くもらえたであろうと、いまに思っている。

医師のこうした随筆集で、こんな歴史の裏話が読めるとは思っていなかったのでびっくりしました。

前川孫二郎先生は変わった経歴の持ち主です。京都大学卒業後、一時期小説を書いていたそうです。結局医学の道に戻ってきたそうですが、巻末の著者略年譜にその経緯が書いてあります。

免許証をもらい、真下内科に入局したが、当時わたしは医者になる気持は毛頭なかった。医学部の全課程をおえて、医学の幼稚さ加減にすっかり失望、このような貧弱な知識と技術で、わたしは到底医者としての職責を全うする自信がなかったし、それに私は非常に感じ易いので、手の施しようもない患者の枕頭に無為で侍するなど、とても出来そうにもなかった。それで兄の紹介で第九次?の「新新潮」の同人になり、盛んに小説を書いた。野晒紀行の芭蕉と捨子を題材に劇や自伝風の「京都の夫婦」など評判がよかったようである。それが何時しか創作を忘れ、次第に医学の道に深入りするようになったのは、全く真下先生の感化による。先生もまたあやまって医者になられた一人であった。勝れた機械に対するセンスをもち、機械を愛し、機械に明け暮れした。我が国における医学工学の先駆者である。

孫川先生の随筆は、医学的な内容が多い一方で、現代の医師目線から見ると首をかしげるような部分が目に付いたりして、あまり私の好みではありませんでした。

松田道雄先生は、結核などを専門とし、最終的には小児科で開業されました。祖先は徳川家の侍医であったそうです。

昭和 28年に書かれた、松田先生の「三等教授」という随筆は、就職難の話から始まり、この問題はいつの時代も人々を悩ませていたのだなぁと思いました。松田先生の考えでは、大学が増えたから失業が増えたというのは逆で、失業が増えて就職を有利にするために大学の需要が増えたのだとしています。そうなると、設備や機能が不備な大学が増えます。教授あるいは学部長は老人であるし、学問以外はよくわからないので、大学の運営も事務長の独占となってしまいます。大学は学問としてより役所として機能することに重点がおかれます。以下、教授達の恨み節溢れる記載が長々と記載されています。

残念なことに医学部は病院だけではやっていけない。解剖、生理、医化学などの基礎医学を教えるところがなくてはならない。新しい建物をつくるゆとりはないと、よく目をつけられるのは、昔の連隊あとである。兵舎は講堂だ。馬小屋は解剖教室だ。炊事場は医化学実験室だ。兵器庫は教授室だ。

基礎医学のほうはなるべく世帯を小さくする。教授一人に助手一人というところが珍しくない。

臨床の教室は連隊あとからは半時間も電車にのっていく市民病院であったり、県立病院であったりとする。もともと学生を教えるようになっていないから、とてもせまい。建てましということになるとまず病室だ。研究室などという収入がなくて支出ばかりのあるところは、なるべくあとまわしにされる。病舎についている検尿室でも、ガスがあるんだから、実験はできるでしょうなどと言われる。

教授は毎日、病院へ来る病人をみなければならない。昔からの官立の大学病院では教授は一週に二回、午前中に特にえらばれた病人を五、六人みればよかったのに、ここでは一日四十人みなければならない。その間に見学に来ている学生に臨床を教えなければならない。その上、毎週二時間の講義の準備もしなければならない。病舎に県会議員の身うちでもはいっていると、事務室からの催促で、何のかわりもないのに一日に二度も三度もみなければならない。それでいて教授だから学会には報告をもっていかなければならない。学問はきらいでないにしても、こう追いつかわれていては、なかなか、まとまった研究にとりかかれない。研究はただではできない。研究費として使えるのは一つの講座で一年十万円もあればいいほうで、五万円以下のところもある。外国から雑誌を二種類、教科書を二冊も買うと、そのあとの実験は自分のポケットから出してやらなければならない。

著者はこうした境遇を三等教授とさげすむ教授達に、「君たちは一等教授だ。君たちがいるからこそ、日本の大学は多すぎはしないといえるのだ」と激励しています。戦後の地方大学置かれた環境を知ることができ、ためになる随筆でした。

忘れてはいけないのが「晩年の平井毓太郎先生」という随筆。平井先生は京都大学小児科教授でしたが、素晴らしい人物であったそうです。退官後、有名医学雑誌をいくつも自ら購読し、医師達に講義、抄読していました。開業している医師が診断のつかない病人にぶつかると、よく平井先生の往診を頼みましたが、頼んだ医者の顔を立てて往診は拒みませんでした。一方で、報酬は拒み、無理においていくと、ほんの一部をとってあとは結核予防協会に寄附しました。寄付額は、京都の富豪達の寄付額と比べても、上の方だったといいます。医師として格好良すぎます!

この随筆は次のように締めくくられています。

治療では過剰治療にたいする嫌悪をかくされなかった。今まで注射しなければ無効とされていた治療が、それ以外の方法でも治しうるという種類の報告は見のがされることがなかった。治療としてなされている行為で有害であるということが判明したものは、どんな小さな記事でも紹介された。病人を不必要に苦しめることは、非道徳的であり、それによって利益を求めようとするのは、犯罪であるという信念を先生は、かつてゆるがされることがなかった。

けれども先生は雑誌会の講義でも、倫理を倫理として説かれたことはなかった。人を指導してやっているのだという意識は先生には絶えてなかった。本を読むことが好きな老人が、読んだことを繰り返して記憶をつようめることをたのしんでいるという風であった。八十歳に近い老人が、十五、六人の医者が座席の前のほうにばらばらに並んでいる、粗末な教室で、汗を拭いながら、ドイツの雑誌をよみ、フランスの教科書を示し、軍医団雑誌をひらいて語り、ああもう時間が来てしまったとつぶやく姿は、むしろ崇高であった。これほど倫理的な教育が他のどこにあったか。

先生は学問に酩酊していられたのである。私たちは、その酔いのかおりをかいで、すこしばかり興奮した。人をしてこれほどまで酔わしめる学問にたいして熱心でなかったことに慚愧し、それでいて、生ける古典の弟子であることに誇りを覚えるのだった。

それは、もろもろの雑草が夕やみのなかに没し去ったあとに、ただ一つ喬木が落日に鞘をかがやかせている風景に似ていた。

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XNA

By , 2012年4月26日 7:37 AM

DNAや RNAの話だけでお腹いっぱいなのに、XNAっていうのが出てきたらしいですね。

DNAでも RNAでもない新たな遺伝物質 XNAについて

DNAや RNAの五炭糖 (デオキシリボースや リボースの部分) を人工物質に置き換えたのが XNAで、塩基部分を人工物質に置き換えたのが 人工 DNAなのだそうです。DNAからXNAを、或いは XNAから DNAを合成出来る酵素があり、DNA-XNA二重鎖も可能らしい・・・というのはなにやら恐ろしい気もします。研究が進めば話題に取り上げられることが多くなるネタかもしれませんね。

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脳の歴史

By , 2012年4月25日 8:24 AM

Neurology という blogで紹介されていた「脳の歴史」を読み終えました。

脳の歴史 ―脳はどのように視覚化されてきたか―

古典的な研究、最先端の技法が豊富な写真で紹介されており、眺めて楽しい本でした。解説の文章もコンパクトで非常に読みやすかったです。脳研究の基礎知識がなくても読むことの出来るお勧めの本です。

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Player preferences among new and old violins.

By , 2012年4月19日 10:01 PM

少し古いニュースになってしまいましたが・・・。

バイオリン名器の音色、現代モノと大差なし?ストラディバリウスなどより現代のバイオリンが高評価

何億円もすることで有名なバイオリンの名器「ストラディバリウス」や「ガルネリ」は、現代のバイオリンと大差ないとする意外な実験結果を仏パリ大学の研究者らが3日、米科学アカデミー紀要で発表した。

研究チームは、2010年、米インディアナ州で開かれた国際コンテストに集まった21人のバイオリニストに協力してもらい、楽器がよく見えないよう眼鏡をかけたうえで、18世紀に作られたストラディバリウスや、現代の最高級バイオリンなど計6丁を演奏してもらった。どれが一番いい音か尋ねたところ、安い現代のバイオリンの方が評価が高く、ストラディバリウスなどはむしろ評価が低かった。

研究チームは「今後は、演奏者が楽器をどう評価しているかの研究に集中した方が得策」と、名器の歴史や値段が影響している可能性を指摘している。

論文の abstractを提示します。

Player preferences among new and old violins.

Most violinists believe that instruments by Stradivari and Guarneri “del Gesu” are tonally superior to other violins—and to new violins in particular. Many mechanical and acoustical factors have been proposed to account for this superiority; however, the fundamental premise of tonal superiority has not yet been properly investigated. Player’s judgments about a Stradivari’s sound may be biased by the violin’s extraordinary monetary value and historical importance, but no studies designed to preclude such biasing factors have yet been published. We asked 21 experienced violinists to compare violins by Stradivari and Guarneri del Gesu with high-quality new instruments. The resulting preferences were based on the violinists’ individual experiences of playing the instruments under double-blind conditions in a room with relatively dry acoustics. We found that (i) the most-preferred violin was new; (ii) the least-preferred was by Stradivari; (iii) there was scant correlation between an instrument’s age and monetary value and its perceived quality; and (iv) most players seemed unable to tell whether their most-preferred instrument was new or old. These results present a striking challenge to conventional wisdom. Differences in taste among individual players, along with differences in playing qualities among individual instruments, appear more important than any general differences between new and old violins. Rather than searching for the “secret” of Stradivari, future research might best focused on how violinists evaluate instruments, on which specific playing qualities are most important to them, and on how these qualities relate to measurable attributes of the instruments, whether old or new.

この研究は、大きな波紋を呼びました。俗に「オールド」と呼ばれる楽器に、客観的な評価が行われるのは素晴らしいことだと思います。しかし、場末のヴァイオリン弾きから言わせて貰えば、この研究にはいくつかの疑問点が存在します。論文の内容を紹介し、最後に感じたことを書きたいと思います。

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漢方薬

By , 2012年4月16日 11:43 PM

先日、救急当直中にてんかん発作の患者さんが搬送されてきました。検査をすると、代謝性アルカローシス+低カリウム血症が見つかりました (てんかん発作との因果関係は不明です)。内服薬を確認すると、「甘麦大棗湯エキス顆粒」を飲んでいました。甘麦大棗湯は甘草を 5 g含有しており、漢方薬による偽性アルドステロン症が疑われました。90歳代の患者さんにこの処方は、少し強すぎたのではないかと思います。

個人的には、このほかに他院で処方されていた抑肝散で偽性アルドステロン症の経験があります。抑肝散は認知症の周辺症状に効果があるとされ、治療によく使われています。甘草は 1.5g含有で、比較的偽性アルドステロン症を起こしにくい薬剤ですが、2011年の論文をみると、ここ 10年に 8例くらい論文で報告されているようです。

このように、漢方薬も重篤な副作用を起こすことがあり、正しい知識を持って使わないといけません。そんなことを話していたら、漢方薬に詳しい医師から役立つサイトを教えて頂いたので紹介しておきます。

e-Kampo.com

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論文作成穴埋めシート

By , 2012年4月11日 8:30 AM

論文に何を書くべきか→これだけは埋めろ→論文作成穴埋めシート」というブログ記事を見つけました。

確かにこれはわかりやすいです。論文に求められることが一目瞭然だと思いました。

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C9orf72

By , 2012年4月10日 8:14 AM

筋萎縮性側索硬化症 (ALS) における C9orf72遺伝子イントロン領域の GGGGCC 6塩基リピートについて以前紹介しましたが、Lancet Neurlogy 2012年4月号に興味深い論文が出ていました。

Frequency of the C9orf72 hexanucleotide repeat expansion in patients with amyotrophic lateral sclerosis and frontotemporal dementia: a cross-sectional study

C9orf72遺伝子変異にはかなり人種差があるようで、フィンランド人 (Finnish) では孤発性 ALSの 21.1%を占めますが、その他ヨーロッパや米国の白人では 7%, ヒスパニックでは 8%, 黒人では 4%程度に変異がみられるそうです。一方で、米国原住民、アジア人の孤発性 ALSにはこれらの変異は見つかりませんでした。家族性 ALSについては日本人で 1例遺伝子変異が同定された症例があるようです。

ハプロタイプ解析の結果から、どうやらこの遺伝子変異には約 1500年前 (おそらく 100世代前) に共通の祖先が存在することが明らかになりました。

この遺伝子変異の浸透率は、35歳以下ではほぼ 0%, 58歳では約 50%, 80歳ではほぼ 100%と年齢依存性があるようです。原因は不明ですが、論文中では「年齢依存性の遺伝子座のメチル化」「何らかの遺伝因子」を推測しています。

C90rf72遺伝子キャリアの臨床像としては、やや女性に多く、家族性で、球麻痺型が多いようです。

この論文の limitationとしては、いくつかの地域でサンプルサイズが小さいこと、今回調べた症例で染色体 9p21以外のハプロタイプも見つかる可能性があること、浸透率を過大評価した可能性があること、家族性と孤発性の判断が問診によること、などが挙げられます。

今回の論文で、日本人にはこの遺伝子異常が少ないと推測されます。日本人における孤発性 ALSの原因探しの道程は、まだ長そうです。また、研究が遺伝子解析先行なので、分子レベルでの疾患メカニズムの解明も待たれます。

ちなみに、同じく Lancet neurology 2012年4月号の “Comment” で、この論文を扱っていました。

C9orf72 repeat expansions in patients with ALS and FTD

注目を集めている分野であることは間違いないと思います。

(今回のブログ記事では、同じ遺伝子変異が原因となる前頭側頭型認知症 (Frontotemporal dementia; FTD) については触れませんでした。興味のある方は、論文本文を読んで頂ければと思います)

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秋田

By , 2012年4月8日 3:14 PM

4月2~7日、秋田県の医師不足の病院で勤務してきました。総合病院の病棟内科医がゼロになってしまい、応援の医師が勤務するまでのつなぎとして、院長から頼まれて行ってきました。

いなくなった内科医の穴をどう埋めるか、診療態勢が定まらぬ中だったので、思わぬ暇が出来たりして、読書の時間がもてたのは収穫でした。読んだ本をいくつか紹介したいと思います。

ドクター夏井の外傷治療「裏」マニュアル―すぐに役立つHints&Tips

ここ 10年くらいで、外傷治療の常識が覆されています。外傷での消毒は意味がなく、組織を傷害するだけで却って有害であることが明らかになりました。秋田では内科外科問わず全科の患者さんの対応をしなければいけないので、こうした外科系の最新の知識も必須であると思い読みましたが、眼から鱗でした。

ドクター夏井の熱傷治療裏マニュアル―すぐに役立つHints&Tips

熱傷の治療も、外傷治療同様、近年大きく変わってきています。以前は消毒をして乾燥させて・・・でしたが、最近では全く逆であることが常識になりつつあります。熱傷創にはサイトカインや組織栄養因子が存在し、それを乾かすのは培養細胞の入った培地を乾燥させるのに等しいそうです。湿潤を保ち皮膚の再生を促すことが治療への最善で、さらに消毒は有害 (菌を殺す効果がほとんどなく、組織を傷害する結果に終わる) であるというのは、知らないと患者さんに不利益を与えることになりますね。学生時代に習ったことと常識が 180度変わってしまっているのを感じながら読みました。

帰してはいけない外来患者

救急をやっていると、「地雷」と呼ばれる症例にぶつかることがあります。例えば「喉が痛い」と来院した患者が心筋梗塞だった・・・など、通常の診断アルゴリズムでは予期できない疾患に遭遇するものです。もちろんほとんどの患者さんではこういうことがないのが、「地雷」たる所以で、全く意外なタイミングで、意外な疾患が隠れていたりします。それを見抜く目を養うのが本書の狙いです。第一章:外来で使える general rule、第二章:症候別 general rule、第三章:ケースブックとなっています。ケースブックではいくつかのケースで「これは見逃しそうだなぁ・・・」などと思いながら読みました。救急に従事する医師は一度眼を通しておいた方がよいかもしれません。

ダ・ヴィンチのカルテ―Snap Diagnosisを鍛える99症例

Snap Diagnosisとは、「知っていれば一目」の診断ですが、知らないと正しい診断に辿り着くまでひどい遠回りになります。臨床の場での実践的な知識が身に付きますので、読んでおいて損のない本です。

3分間 神経診察法 ―最も簡単で効率のよい考え方・進め方

3分間で読了しました。学生の知識の整理に丁度良いですが、臨床の場ではあまり実践的ではないかもしれません。

手軽にとれる神経所見―カラーイラスト図解

薄い本ですが、かなり実践的な本です。研修医、救急医、プライマリ・ケア医などにオススメ出来ると思いました。

秋田では、上記の本を読んだほか、論文もいくつか読みました。機会があれば紹介したいと思います。

今回は早めに秋田入りしたので、4月1日に乗馬クラブに行くことが出来ました。乗馬クラブの名前は「エクセラ」です。非常に親切にして頂いたので、また行きたいと思いました。今回は巻乗り、半巻乗り、脚の使い方、尻鞭、馬装具の外し方・・・などを学びました。

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椿忠雄

By , 2012年3月28日 8:32 AM

新潟大学初代神経内科教授、椿忠雄先生について Brain medicalに書かれた文章をネット上で読むことが出来ます。日本の神経学の成り立ち、慢性水銀中毒、SMON, 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の話題が中心です。東京都立神経病院の林秀明先生が書かれた文章です。

日本の脳研究者たち 椿忠雄 (pdf)

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