知り合いの神経内科の先生から面白い話を聞きました。
第二次世界大戦中、満州開発のため、多くの日本人が満州に渡りました。望んで渡ったのかというと、各村に割り当てがあって、その数の若者を出さないといけなかったという話があります。
同様に、中国での病院で働くことが、日本人医師に課せられました。
戦争が終わって、多くの日本人が中国やロシアに抑留されました。中でも悲惨だったのはシベリア抑留された方だったといいます。
こうした事情の中、ある日本人医師がシベリアに抑留されることになりました。しかし、その日本人医師は、シベリアに抑留されている間に、ロシア語をマスターしてしまったんですね。そして、帰国後、某有名病院の神経内科部長となったそうです。
ピアニストのスヴャトスラフ・リヒテルが来日した際、ある症状を訴えました。「ロシア語を話せる医師はいないか」と大騒ぎになった結果、その医師に白羽の矢が立ちました。
その医師がそつなく診療をこなすと、リヒテルは医師に全幅の信頼を寄せるようになりました。そして来日の毎に、その医師を受診し、健康チェックを受けるようになったのです。
その医師は音楽に詳しくなかったのですが、リヒテルは音楽についての相談もしたことがあります。「演奏していて、楽譜を忘れていないか不安でしょうがなくなることがある」と。
その医師は、「だったら楽譜を置いて弾けばいいじゃないですか?」と答えました。
リヒテルは、はたと膝を打ち、「何で今までこんな簡単なことに気が付かなかったんだろう・・・」と言い、以後楽譜を置いて弾くようになったそうです。
天下のリヒテルが、こんな相談をしていたなんて、興味深いですね。
感染症診療の大御所として、医師が最も最初に名前を思い出すのが、青木眞先生だと思います。青木先生が著した「レジデントのための感染症診療マニュアル」は名著で、感染症診療を志す医師の殆どが読んでいる筈です。本書には、幅広い感染症に対して、エビデンスに基づく抗菌薬の使用法、投与量が書いてあり、我々はそれを元に診療を行っています。
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StaGen情報解析研究所長の鎌谷直之先生の講演を聞きました。SNP (single nucleotide polymorphism) に関する話が主体でした。
以前、「遺伝子解析超基本講座」のエントリーで紹介しましたが、次世代シークエンサはゲノム・リーディングの速度が飛躍的に上昇していて、フル・ゲノムを読むことが現実的になりました。こうしたゲノム・リーディングが簡単にできるようになり、それらの遺伝子を比較することで新たな知見を得られるようになりました(人のフル・ゲノムは、30万塩基対あるとはいっても、iPodに入るくらいの情報量らしいです)。
これまでの臨床研究では、大規模研究が最も信頼される研究手法であった面はあると思います。しかし、関節リウマチで大規模スタディを組んだとしても、バリアンスの問題で、患者の 3%くらいしかデザインにマッチしないというような問題がありました。そして、選ばれた患者が全患者を代表しているかどうかは不明でした。そうしたスタディで知見が得られても、目の前の患者にそれが当てはまるかはわかりません。
そこで注目を集めているのが、SNPです。SNPはどんな患者でも調べることができます。それは目の前の患者個人の情報です。上記の大規模スタディの問題点を克服していると言えます。
そして、一塩基多型で薬の効果はかなり違うことがわかってきました。つまり、SNPを調べれば、それに応じた薬の使い方ができるので、テーラーメイド医療が可能になるということです。また、高尿酸血症にSNPが関与していることなど、病気の発症に関する情報も得られるケースが出てきました。研究のトピックスでもあって、Pubmedで「single nucleotide polymorphism」というキーワードと何らかの疾患のキーワードで検索すると、かなりの件数がヒットしますね。
これからの時代は、ゲノム・リーディングをして SNPの情報を得て、それに応じた薬の選択がなされるようになるのではないかと思います。
ただ、SNPで病因がわかるわけではないので、従来の研究手法も重要で、研究のオプションが一つ加わったと解釈するのが良いのではないかと思います。
7月3日0時26分配信 時事通信
厚生労働省は2日、大阪府内に住む新型インフルエンザ患者から、抗インフルエンザ治療薬「タミフル」に耐性を示すウイルスを検出したと発表した。新型インフルエンザで耐性ウイルスが明らかとなったのは国内で初めてで、世界2例目。同省は「重篤度に直接影響を及ぼすものではない」としている。
同省や大阪府によると、耐性ウイルスが見つかったのは、5月29日に新型インフルエンザに感染していると診断され、現在は回復した患者。
府公衆衛生研究所でウイルスの遺伝子配列を調べたところ、6月18日にタミフル耐性を示す遺伝子の変異が確認された。
時間の問題ではありましたが、タミフル耐性の新型インフルエンザウイルスが国内で検出されました。リレンザの耐性ウイルスが発見される日も近いでしょう。
この冬の大流行は不可避でしょうが、感染者数が多くなりすぎると新型かどうかは検査できなくなるかもしれません。通常のインフルエンザと同様の対応をすれば良いという意見もありますが、致死率が上がっているとの意見もあり、もう少し情報が欲しいところです。致死率が上がったというのは、ウイルスが変異して毒性が強くなったのからでしょうか、それとも重篤化した症例しか検査しなくなったので見かけ上致死率が高く見えただけなのでしょうか?
30-50歳台を中心とした約 2%の症例が急速進行性に予後の悪い肺炎を合併しているという知見を聞くと、免疫がしっかりした若者にもタミフルを処方せざるを得ないのかなぁという気もするし、そうするとますますウイルスの耐性化に拍車がかかる気がしています。
「認知症診療のこれまでとこれから(長谷川和夫著、永井書店)」を読みました。
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6月22日23時50分配信 毎日新聞
さいたま市立病院(同市緑区)は22日、臨床研修医の女性(24)が新型インフルエンザに感染したと発表した。海外渡航歴はなく、既に判明している感染者との接触もなかったが、18日夕~19日朝、救急外来の当直を担当した際、簡易検査でA型陽性が出た女性患者を診察していた。村山晃院長は「診察時に感染した可能性がある」と話している。埼玉県内の感染者は17人目。
研修医は20日からのどが痛み始め、21日午後に39度の発熱があった。22日夜に遺伝子検査で感染が確認され、入院した。研修医は20、21日に計3回、担当する内科の入院患者計6人を回診している。病院は、研修医と接触したとみられる職員と患者計24人に予防的にタミフルを投与した。A型陽性だった女性患者も追跡調査している。
勤務医は病棟担当医でありつつ外来や当直をしているので、インフルエンザに罹患してしまうと病棟中に広めるリスクがあります。かといって、日常診療をしないわけにはいかないですし、難しいですね。
この冬には新型インフルエンザ流行がほぼ確実視されています。医療従事者の感染や、感染した患者家族の面会を考えると、院内感染を防ぐのは甚だ困難な気がします。潜伏期間があるので、初期には隔離できないですからね。
その時にどんな論調で報道されるかに、興味があります。
高次脳機能を専門としている先生が、研修医向けに Dementia (いわゆる認知症) の講義をしてくださっていたのですが、非常にまとまっていたので、紹介しておくことにします。たまにはこんな話もしておかないとね。
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対訳医学史というサイトに、医学史からみて重要ないくつかの本の翻訳が載っています。
なかなか読み応えがありますので、紹介しておきます。
6月 13日に学際企画による遺伝子解析超基本講座に参加してきました。10時から 16時までみっちり講義で、結構疲れました。
場所は信濃町の東医保険会館。信濃町駅には初めて行ったのですが、怪しい教団施設が乱立していました。宗教って金になるんですね。
今回は超基本講座でしたが、PCR法の原理程度の内容は知っていることが前提で、実際に行うにあたってという話が主体でした。簡単に内容を書いておきます。
遺伝子解析超基本講座
1. 遺伝子解析実験を上手く運ぶための基礎知識
2. DNA解析実験の立ち上げ入門
3. DNA・RNAの抽出
4. PCRによる断片の増幅
5. 電気泳動
6. 変異・多型解析
7. シークエンシング
最初の方は基本的な内容でしたが、特に PCRにおけるプライマーの設計は勉強になりました。プライマーの長さだとか、GC含量だとか、Tm値の計算なんてのは、実際にまだ実験をしたことがない者にとっては、新鮮でした。
シークエンシングの話も面白かったです。所謂、古典的な方法だと Sanger法を用いていたのですが、ヒト DNA 30万塩基を 1回読むのにかかる時間は、1996年の機械で約 5000年、2002年の機械で約 5年。ところが 2006年に超高速シークエンサーが登場し、2006年に約 15日、2007年に約 6日と飛躍的に時間が短縮されました。数年以内には、何時間かで読むことが出来るようになりそうです。技術の進歩は凄いですね。
講師の大藤道衛先生は著書をたくさん執筆されていて、話が整理されていました。また、実践的でした。講習が終わってから、質問コーナーには実験ノートを持った研究生達が集まりました。大藤先生は、その結果を見ながら、どうして上手くいかないかを的確に指摘し、失敗を回避する方法を指導されていました。私は、Nested PCRについて質問しました。「神経内科の分野では、髄液からの結核菌の検出には Nested PCRを用いるべきだと良く言われるのですが、かなり感度が違うのでしょうか?」と質問したのですが、大藤先生によると、Nested PCRは古い方法だし、Real time PCRでも感度が十分なので、無理に Nested PCRにこだわる必要はないのではないかとの話でした。
散々勉強して、頭から湯気が出ていたため、練馬の「海峡」で一杯飲んで帰りました。鮎の塩焼きが美味しかったし、「田酒」「司牡丹」も最高でした。
最近、研修医向けに感染症診療の手引きを作って配布しました。わかりやすくまとめたつもりです。日本での使用が許された抗菌薬の量は、国際的に使用される量よりかなり少ないのです。最も効果的に使用すると、かなり保険で切られて赤字になってしまいます。
とはいっても、学問的な抗菌薬の使い方は大切ですので、研修医レベルで読んでおくと良い本を紹介しておきます。
<推薦図書>
① レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版, 青木眞著, 医学書院
定番です。辞書的にも使えますので、必ず持っておくようにしましょう。私の手引きもほとんどこの本を参考にしていますし、困ったケースでは、この本が必ず使える筈です。
② 抗菌薬の考え方、使い方 Ver. 2, 岩田健太郎/宮入烈著, 中外医学社
「レジデントのための感染症診療マニュアル」より簡単に書かれています。
③ 結核診療プラクティカルガイドブック, 伊藤邦彦, 南江堂
結核のことなら、ほぼ何でも書いてあります。
<推薦サイト>
感染症ブログ:感染症診療の手引きが公開されています。
<推薦メーリングリスト>
Idaten:日々、感染症専門医からのメールが届くので、読むだけで勉強出来ます。
最近見つけたのですが、大野先生の「レジデントのための
日々の疑問に答える感染症入門セミナー」が結構面白いです。大野先生は、Idatenで積極的に発言されていて、勉強させて頂いています。