Foot dropは神経内科では時々みかけます。日本語では「下垂足」と言いますが、言いにくいので「垂れ足」と呼ぶことが多いです。Polyneuropathyの一症状としてみられることもあれば、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の症状としてみられることもあります。しかし、まとまって記載した教科書はあまりないように思います。今回、非常によく纏まった論文があったので紹介します。論文は「Stewart JD. Foot drop: where, why and what to do. Pract Neurol. 8: 158-169, 2008」です。イギリス英語なので少し読みにくいところがありますが、平易に書かれています。
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風邪はイソジンで予防できるのかという研究結果が、Yahoo!ニュースで紹介されました。あいにくそのニュースは削除されてしまっていますが、いくつか扱ったブログがあります。
・内科開業医のお勉強日-うがいのエビデンス-
・医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン-風邪の予防には水でうがいを イソジンでは予防効果なし-
まだ、原著にあたっていないので何ともいえないのですが、上記ブログを見る限り、水うがいが良いようです。私も咽頭痛に対してや、解熱剤として良く処方しますが、ロキソニンは治癒を遅らせることがあるという結論ですね。こうした研究がなされることで、風邪の予防や治療は変わっていくことでしょう。
外来をしていると、無駄に風邪薬を飲んでいる人が多いのが目立ちます。風邪でもないのに「何となく体調が悪いから風邪薬が欲しい」という、風邪薬依存症の老人が多いことは肌で感じますし、風邪薬の種類の多さが処方した医者の優しさであるかのように、10種類くらいの薬を処方している医者もいます。たくさん飲んだから治るわけでもないし、風邪であることがわかっているのなら、辛い症状に最低限の薬だけ飲んで、家でゆっくり休むのが一番だと思いますけどね (風邪であることが確実ならムリに病院を受診する必要も無いわけですが、風邪以外の可能性も考えられる場合は、念のため受診しておいた方が良いように思います) 。
風邪はウイルス感染であり、(インフルエンザなどを除き) 原因ウイルスに効果のある薬がないため、どんなに薬を飲んだとしてもすぐ治ることはないことも知っておくことがあります。夜中、風邪の患者に叩き起こされて、「昼貰った薬を1回飲んだけど治らない」と言われることがあり、どっと疲れが出るのですが、こうしたある程度の知識は持っていてもいいのではないかと思います。国語の授業で「作者の気持ち」とかいう訳のわからないこと考えさせる暇があったら、義務教育で最低限の医学的知識を教育して損はないと思いますけどね。夜中に、「昼間に近くのクリニックで貰った薬をまだ飲んでいないけど、大きい病院から貰った薬を飲みたいから来ました」とか言われたことも1度や2度ではありません。
あと、当然風邪薬には副作用があります。アレルギーを起こすこともありますし、消炎鎮痛剤で胃潰瘍を起こすこともあります (私は昨日の当直でも、風邪薬として消炎鎮痛剤を貰って急性胃炎を起こした患者を診ましたが、別に珍しいことではありません)。こうしたことを考えて、薬をどうするかは総合的に考えるべきですね。ただし、医者の立場からすれば、せっかく来院した患者に、「風邪ですね。薬は出しませんのでゆっくり家で寝ていてください。」とは言いづらいので、やっぱり何かしら薬は出してしまうのですけれど。
風邪に対する研究は遅れているので、まだまだ研究の余地があるように思います。また、医療従事者、患者双方に啓発すべき点があるように思います。
あるウイルス研究者のサイトがあります。
横田智之氏のサイト
福島のウイルス研究者らしいのですが、「ナポレオン遠征とウイルス性結膜炎」について調べているときに、偶然見つけました。研究業績を見ると、英文 83本とありますから、相当な数です。御自分は「平凡な」とおっしゃっていますが、大変なことだと思います。
氏は全身に転移した前立腺癌を告知されて以降、自分を振り返り、感じたことをサイトに記載されています。社会に関することや、医学に関すること、アフリカでの思い出など、感嘆したり相づちを打たされることがたくさんです。
このサイトが、2006年を最後に更新されておりませんので、病気の進行が早かったのかもしれません。
ただ、サイトはずっと残っていますので、是非見てみてください。
純粋な医療ミスのようです。
11月19日22時57分配信 読売新聞
徳島県鳴門市の健康保険鳴門病院で、肺気腫の疑いで入院していた男性患者(70)に、抗炎症剤ではなく、誤って名前の似ている筋弛緩(しかん)剤を点滴し、急性薬物中毒で死亡させていたことが19日、わかった。
病院側はミスを認めており、県警は業務上過失致死容疑で調べている。
病院や遺族によると、男性は今月17日夜に容体が急変し、体温が40度近くになった。当直の30歳代の女性医師は、抗炎症剤「サクシゾン」を出そうとしたが、データベースでヒットした筋弛緩剤「サクシン」をサクシゾンと思いこんだ。サクシンを受け取った看護師から「本当にサクシンでいいのですか?」との問い合わせがあったが、医師には「サクシゾン」と聞こえたため、「いいよ」と答えたという。
サクシンは、麻酔時や気管に管を挿入する際などに使用。使用を誤ると、呼吸停止を起こす場合がある。
30歳代の医師ですから、サクシンとサクシゾンが違うことを知らないことはあり得ず、コンピューターへの入力ミスだと思います。
電子カルテやオーダーリングシステムでは薬剤の最初の3文字を入れると薬剤の選択肢が表示されるので、「サクシ」と入れたときに誤ってサクシンを選んでしまったのだと思います。サクシンは筋弛緩薬でサクシゾンはステロイドです。
問題はいくつもあります。
①似た名前の薬剤が多い
例えば、抗癌剤のタキソールとタキソテールは電子カルテでは誤って入力される可能性があります。また、βブロッカーのアルマールと血糖降下薬のアマリールは名前が似ています。ややこしい薬名はジェネリック薬品の普及などで薬剤名の急激な増加と相まって、非常に増えています。今回のサクシンとサクシゾンも似てますね。
②危険な薬が簡単に出せる
その場で生命に直結する薬には、薬剤の冒頭に特殊な記号などを入力してからではないと出せないようにするべきです。抗癌剤、血糖降下薬、筋弛緩薬、静脈麻酔薬などが該当すると思います。
③気付いていたのに看護師が投与した
肺気腫の発熱に筋弛緩薬を投与することはありえません。死ぬとわかっていた筈です。医師に確認したそうですが、しつこく食いつくべきです。「どうして筋弛緩をかけるのですか?」とか。
緊張感がないとの指摘がありますが、この問題を精神論で片づけようとする人は、システムについての認識が足りないと思います。ミスというのは、思考のエアポケットやボタンの掛け違いで起こります。緊張感があればミスをしないのであれば、世の中からミスはほぼ駆逐できますが、それができないのが人間です。ミスをしようとしても出来ないシステムの構築こそが重要です。
11月 7日に埼玉 MS研究会に行ってきました。東北大学大学院医学系研究科多発性硬化症治療学寄附講座の藤原一男教授の講演を聴きました。抗アクアポリン (AQP)-4抗体陽性の疾患概念を独立して捉えようという趣旨。
以前、報道で視神経脊髄型の多発性硬化症 (MS) に IFN-βは望ましくないと報道されたそうですが、実は抗 AQP-4抗体が陽性となる Neuromyelitis optica (NMO) では無効例が多かったり再発回数が増加する事例があったにしても、抗AQP-4抗体陰性の視神経脊髄型ではIFN-βが有効なのです。両者は分けて考える必要があります。この報道を見た患者の中に「多発性硬化症に IFN-βは有害なんだ」と誤解している方が少なからずいます。NMOと MSを別の病気として確立すれば、このような誤解は避けられるでしょう。NMOと MSでは治療法が異なるので、別の病気としてしまう方が、患者には理解しやすいのかもしれません。
また、病理学的にも髄鞘の障害が目立つ多発性硬化症に対して、Astrocyteの障害を主体とする NMOは別の概念と言えるのかもしれません。
更に学問的には、抗 AQP-4抗体陽性の脳病変も色々知られるようになってきており、延髄の線状の病変であったり、視床下部両側性の病変であったり意識障害を伴う広範な白質病変であったりします。これらは、AQP-4Ab associated CNS syndromeとして捉えるべきなのではないかと考えられています。
これらの知見から、NMOを独立した特定疾患として厚生労働省に認めさせ、治療法に免疫抑制剤などを保険適応で認めさせるというのが藤原教授の願望の一つです。NMOには免疫抑制剤が有効で治療ガイドラインにも定められているのですが、現状ではその免疫抑制剤が保険適応ですらないのです。高額な薬なのに・・・(保険は詳記を書けば通りますが、切られるリスクもあります)。
この分野のオピニオン・リーダーの講演で、わかりやすい講義でした。眼科では「視神経炎にはステロイドは必要ない」という考えがスタンダードです。しかし、視神経炎が NMOの初発症状であることも多く、眼科医もこのような知識が必要だと思います。今回は、眼科の先生を連れて行ったのですが、非常に感激してもらえました。視神経炎の段階で NMOと診断して治療を開始できれば、脳病変や脊髄病変、失明を防げるようになる可能性があります。眼科界でも一大センセーションが起こるかもしれませんね。ただ、眼科では視神経炎という分野は非常にマイナーで、研究者が少ないので、一般に認知されるようになるには少し時間がかかるかもしれません。
さて、講演の最後に藤原先生の教室の Web pageが紹介されました。特にブログは数日おきに更新するので是非見て欲しいということでした。実際に覗いてみると、私が聞いた講演の内容の多くが載っていました。抗 AQP-4抗体の検体の送り方なども書いてありますので、是非見てみてください。
東北大学大学院医学系研究科多発性硬化症治療学寄附講座
針治療後に血圧が低下して脳梗塞を起こしたり、カイロプラクティック後に椎骨動脈解離(頚部を急激に回旋するため)を起こして来院した症例の経験があります。前者は非常に特殊な症例なので、ほとんど報告はないかもしれませんが。
あらゆる治療には、それなりの合併症が存在することは免れないので、そのこと自体をとやかくいうつもりはありません。しかし、治療に関する情報を把握して、メリット・デメリットを勘案して選択するべきだと思います。
あるサイトに鍼治療に関する合併症の報告がまとめられていたので、紹介しておきます。
Medlineによる鍼の有害作用に関する調査報告の紹介
医療従事者にとっても、「鍼治療を受けた後症状が出て・・・」という訴えで来院された方に、上記のような知識があると対応しやすいかもしれません。
昨日は勉強会に行ってきました。
開催日時:2008年11月2日(日) 9:00~
開催場所:品川コンファレンスセンター東京
〒108-0075 東京都港区港南1-9-36 アレア品川
電話 03-6717-7000 FAX 03-6717-7001
参加費用:¥10,000-
脳変性疾患:柳下 章(都立神経病院)
脳動脈支配の画像診断 脳底穿通動脈を中心に:高橋 昭喜(東北大学)
脳血管障害:井田 正博(都立荏原病院)
脱髄性疾患:早川 克己(京都市立病院)
感染症:田岡 俊昭(奈良県立医大)
非感染性炎症性疾患:前田 正幸(三重大学)
代謝性・中毒性疾患:大場 洋(帝京大学)
3連休のためか、全国の神経内科医、放射線科医が集まり、会場には人が入り切らなくなって、急遽別会場で中継講義も併設されました。会場に入りきらないことに対して、2000円のキャッシュバックもあるなど、多少混乱がありました。
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最近、ある脱髄疾患の論文を書くために、脱髄疾患関係の論文をいくつか読んでいます。そんな中、面白い論文があったので、紹介です。
多発性硬化症は白質の病気と考えられてきましたが、灰白質病変の重要性が近年議論されるようになりました。Lancet Neurology誌に Reviewが掲載されていました。引用文献のほぼ全てが最近の論文なのは、最近になって議論されるようになってきた概念だからでしょうね。これから注目される分野だと思います。
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英文校正 editage社のサイトにある「投稿用英語論文執筆に役立つ記事」が良くまとまっています。論文を書かれる方のために紹介しておきます。
投稿用英語論文執筆に役立つ記事
以前、このブログでショパンの死因について検討したことがありました。
そこで、ショパンが「Cystic fibrosis」に罹患していたと紹介しました。それについて、最近興味深いニュースを見つけました。
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