Category: 医学と医療

ポーランドを知るための60章

By , 2008年10月2日 11:46 PM

「ポーランドを知るための60章 (渡辺克義編著・明石書店)」を読み終えました。

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第7回MS研究会

By , 2008年9月13日 11:00 AM

昨日、第7回東京MS研究会がありました。

第7回東京MS研究会

2008年9月12日(金) 18:50~
パレスホテル2階 チェリールーム

講演1 抗アクアポリン4抗体陽性例の臨床的特徴と治療
国立精神・神経センター病院 神経内科 岡本智子先生

講演2 動物モデルから観るMSの病態
国立精神・神経センター神経研究所 免疫研究部 室長 三宅幸子先生

特別講演 新多発性硬化症ガイドラインについて
九州大学病院 神経内科 講師 越智博文先生

仕事が終わるのが遅かったので、着いたのが20時30分頃でした。しかし進行が遅れており、特別講演を聞くことが出来ました。会場は一杯に神経内科医で埋まっており、大盛況でした。

特別講演は多発性硬化症 (MS) の新ガイドラインについてでした。新ガイドラインといいながら、結局は視神経脊髄型 (OSMS)、Neuromyelitis Optica (NMO) をどう扱うかという話でした。

内容は、まずガイドラインの作成方法、それから OSMSが NMOと同じ疾患なのか、それとも違う疾患なのか、違うとすればどのくらい over lapするのかについての議論。最後に治療の話でした。OSMSの治療として急性期はステロイドパルス療法が有効ですが、無効例は速やかに血漿交換を行うべきとされました。再発予防には、少なくとも 10 mg以上のステロイド内服を行った方が良く、難治例ではアザチオプリンの併用を検討すべきであるとされました。OSMSでのインターフェロンの単剤投与は、初回治療としては出来るだけ行わないことも示されました。通常型 MS (CMS) については、特に新しい知見はありませんでした。

この秋に新ガイドラインが正式に発表されるので、メモは特にとらずに聞きました。詳細は、正式発表されたものを御覧ください。一緒に聞きに行った先輩が、「これって、俺が今までやってた治療と全部同じじゃん」と言っていたのが印象的でした。会が終わった後、世話人をされた教授と、高級 Barに飲みに行きました。そこで話したことも非常に面白かったです。

この研究会とは直接関係ないのですが、最近 MS関連の論文を何本か読んだので紹介しておきたいと思います。

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疲労

By , 2008年9月5日 7:45 AM

慈恵医大の先生が、良いお仕事をされたようです。

 疲労感じる原因たんぱく質を発見 慈恵医大教授ら

2008年9月4日3時0分

疲れを感じる原因となるたんぱく質を、東京慈恵会医科大がマウスを使った研究で突き止めた。このたんぱく質は、徹夜や運動の直後に心臓や肝臓、脳などで急激に増え、休むと減る。元気なマウスに注射すると、急に疲れた。疲労の謎を解く鍵として、科学的な疲労回復法の開発につながりそうだ。沖縄県名護市で開かれている国際疲労学会で4日、発表する。

近藤一博教授と大学院生の小林伸行さんは、人が疲れると体内で増殖するヘルペスウイルスに関係するたんぱく質に注目、疲労因子を意味する英語からFFと名付けた。水があると眠れないマウスを、底に1センチほど水を張った水槽に一晩入れて徹夜状態にし、その直後に臓器を取り出し、FFの量を調べた。

その結果、睡眠をとったマウスに比べ、徹夜マウスでは、FFが脳、膵臓(すいぞう)、血液で3~5倍、心臓と肝臓では10倍以上も増えていた。2時間泳がせた場合も、同様に変化した。どちらも休息後は平常値に戻った。

さらに、FFを元気なマウスに注射すると、大好きな車輪回し運動をほとんどしなくなった。疲れの程度に応じて増減し、かつ、外から与えると疲れが出現するという「疲労原因物質」の二つの条件を満たした。

FFは、細胞に対する毒性が強い。心臓、肝臓で特に増えるため、過労に陥ると心不全や肝障害が起きやすくなる、という現象に関係している可能性が高い。

人が疲れを感じる仕組みは、まだ十分解明されていない。運動疲労の原因とされていた乳酸は、運動すると筋肉中に増えるが、疲労の程度とは関係せず、筋肉に注射しても疲れが出現しないため、原因物質ではないことが数年前に実証されている。

近藤教授は「FFは、疲労が起きるとすぐに反応するため、疲労に対し最初に働く回路だろう。正確な疲労の測定装置や、科学的な疲労回復法の開発につながる」と話す。(編集委員・中村通子)

「FF」だけだとなんの略かわかりません。Final Fantasyじゃないだろうし。でも、多分「Fatigue (疲労)」「Factor (因子)」なんだろーなーと考えて、文献検索してみました。上の研究は、まだ論文にはなっていないようですね。

血液でも FFは上昇するようですね。これが検査出来るようになったら、過労死のメカニズムの研究が進むでしょう。疲労を定量できるようになる可能性があり、疲労と作業効率の関係も証明されるかもしれません。

疲労を改善する薬も開発競争が起こるのかも知れませんが、疲労は人間の体を守るための警告なのだと考えれば、安易に使用しない方がよいのかもしれません。

個人的には、疲労とうつ病発症の関係、各種神経疾患 (筋萎縮性側索硬化症、重症筋無力症など) や精神疾患 (うつ病など) での易疲労性の原因、慢性疲労症候群の病態の解明などに役立つことを期待しています。

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不確実性

By , 2008年9月3日 7:21 AM

今週の東洋経済は、「『不確実性』の経済学入門」でした。経済学は、「取引を行う/行わない」、「どの程度の取引を行う」など、人の行動が根本にあるためか、心理学的側面が非常に強いように思います。

生物学における多くの現象は正規分布に従うのに対し、経済現象はベキ分布に従い、平均に意味を持たないというのは興味深いことです。経済の専門家の予想が多くの場合外れるのは、標準的なファイナンス理論が正規分布を前提に理論を構築していますが、現実世界で問題になるのは、こうした理論を外れた異常値なわけです。サブプライムローンも金融市場に大影響を与えましたが、これまでの理論では予想できない”異常”でしたものね。

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Ice test

By , 2008年8月25日 9:26 PM

暑い夏にはアイスが食べたくなりますね。とはいっても、だいぶ涼しくなってきましたが。

重症筋無力症に対する「Ice test」についての論文を読んでみました。この検査、何故か神経内科の教科書にはあまり書いてありません。でも、最初に報告されたのは 1979年の Neurologyであるそうです。

重症筋無力症は、神経筋接合部での自己抗体 (抗アセチルコリンレセプター抗体、抗 Musk抗体など) の作用により、神経から筋肉に命令が伝わりにくくなり、筋力低下を主体とする諸症状を起こす疾患です。自己抗体の測定や、電気生理学的検査 (反復刺激試験、single fiber EMG)、テンシロンテスト、筋生検といった方法で診断をつけます。しかし、なかなかクリアカットには診断出来ない症例が存在することが事実です。また、患者の多くが「だるさ」を訴えるため、うつ病などの精神疾患や詐病と鑑別が必要になることがあります。

今回取り上げる Ice testは、眼瞼下垂を訴える重症筋無力症に対する、ごくシンプルな検査です。やり方は、閉眼した眼瞼の上に、袋に入れた氷を2分間置きます。眼瞼下垂が 2mm以上改善すれば陽性とします (文献によって、やり方に多少の違いはあります)。感度 90-95%、特異度 100%とされています (Fisher症候群で陽性を示した報告もあり、実際には特異度100%とはいかないようです)。冷却することによって症状が改善する機序は、おそらくアセチルコリンエステラーゼの機能を阻害するからではないかと考えられています。

Ice testの利点は、何より簡便であり、テンシロンテストと違って副作用がないことです。そして、ある程度の感度・特異度が保証されます。

欠点をあげるとすれば、氷を眼瞼に置くと、患者にわかってしまうため、プラセボが使えないことでしょう。そのため、詐病の患者が演じようと思えば、疑陽性を生み出すことは可能です。一方、テンシロンテストではプラセボと組み合わせたりします。すなわち、詐病の患者だと、生理食塩水などでも効いたようなふりをしてしまうので、詐病を見破れる場合があります。

Ice testは、上記のような欠点はありますが、簡便ですし、他の検査と組み合わせると有用なのかもしれません。

(参考文献)
・Reddy AR, et al. “Ice-on-eyes”, a simple test for myasthenia gravis presenting with ocular symptoms. Pract Neurol 7: 109-111, 2007
・Kubis KC, et al. The ice test versus the rest test in myathenia gravis. Ophthalmology 107: 1995-1998, 2000
・Golnik KC, et al. An ice test for the diagnosis of myasthenia gravis. Ophthalmology 106: 1282-1286, 1999
・Reid JM, et al. Positive “ice-on-eyes” test in Miller Fisher syndrome. Pract Neurol 8: 193-194, 2008

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ドーピング

By , 2008年8月16日 8:10 AM

β blockerってドーピングになるんですね。初めて知りました。競馬だとβ stimulantが禁止薬物なのに、作用が逆の薬が人間では規制されるのは興味深いです。

 北朝鮮キム・ジョンス、ドーピング違反でメダルはく奪
8月15日14時25分配信 YONHAP NEWS

【北京15日聯合】北京オリンピックの射撃で銀メダルと銅メダルを獲得した北朝鮮のキム・ジョンスが、禁止薬物検査で陽性反応を示したとしてメダルをはく奪された。国際オリンピック委員会(IOC)が15日、記者会見で発表した。
キム・ジョンスのサンプルからは、ベータ遮断剤の一種であるプロプラノロールの陽性反応が現れたという。ベータ遮断剤は心臓への負担を減らし血圧を下げるのに有用な薬物だ。

キムは9日に男子エアピストルで3位、12日の50メートルピストルでは韓国のチン・ジョンオに次いで2位だった。キムの失格で、エアピストルの銅メダルはターナー(米国)が、50メートルピストルの銀メダルは譚宗亮(中国)が受け取ることになった。

β blockerは慢性心不全や高血圧の治療で比較的良く使います。脈拍数を落としたり血圧を下げるという作用の他に、気管支を収縮させる副作用があるので、一般的にはスポーツには利がなさそうです。しかし、この選手の競技種目を見て納得しました。手が震えては的に当たらないので、それを防ぐ目的で使用したのですね。実は、β blockerには震えを止める作用があるのです。私は、本態性振戦という震えの病気で、しばしばこの薬を処方します(というか、一般的に第一選択薬です)。

ちなみに緊張したときの震えに、どのβ blockerも有効なのではなく、β2作用が大事なのです。したがって、β1選択性が高いメインテートやセロケン、テノーミンなどは、心不全の治療には有用でも、震えを止める作用はほとんどありません。むしろ、震えに対してはアルマールやインデラルといったβ2遮断作用を持つ薬剤を用いるべきです。ドーピング(?)豆知識でした。

徐脈性不整脈や喘息の方には、命に関わる副作用を起こすので、禁忌であることを忘れてはいけません。また、気管支を収縮させる作用もあるので、マラソンなどの競技にはマイナスの影響を及ぼすことは容易に想像できます。


(注)医療関係者以外の方へ
blocker=遮断薬
stimulant=刺激薬
それぞれ受容体に対する作用を意味しています。

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長寿国

By , 2008年8月2日 11:09 AM

平均寿命が更に延びているようです。

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シューマンの手<1>

By , 2008年7月1日 11:10 PM

数々の名曲を残したロベルト・シューマン。

彼は最初はピアニストを目指していたのですが、手の障害のために、その夢を断念せざるを得ませんでした。しかし、彼の手の障害に関する詳細には不明な点が多くあります。彼の病歴に対する医学的アプローチも、ほとんどが精神疾患に対するものです。

実は、「Shumannn’s hand injury」という論文が、1978年の British medical journal (BMJ) という雑誌の 4月 8日号に登場し、以後論争が誌上で繰り広げられています。その論争を紹介しつつ、ピアニストとしての道を絶った「手の障害」について考えてみたいと思います。長くなりそうなので、何回かに分けます(これでも、十分長いですけど)。

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Parkinson病の音楽療法

By , 2008年6月29日 3:23 PM

普段、勉強させて頂いている「Neurology」という blogで、「Parkinson病の音楽療法」が取り上げられていました。

Parkinson病の方には「内的リズム形成障害」があるという考えは、Parkinson病の研究会では、毎回必ずと言って良いほど議題になります。この考えを支持する現象として、Parkinson病の方の歩行に合わせて「1,2,1,2」とかけ声をかけてあげると歩きが良くなることがあります。

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NHKスペシャル

By , 2008年6月15日 9:40 PM

今、NHKスペシャルで中国の医療について特集しています。驚きの連続です。

救急車は自腹。病院に着いたらすぐに、料金が請求されます(放送された事例では2100円)。それを払って診察室に入ると、今度は看護師が診察料を請求します。医療は現金と引き換えで、前金が鉄則です。未払いを防ぐためなのだそうです。

また、救急車を呼ばない場合、診察には診察券が必要で、診察券を買うのに2日間並ばなければなりません。病気であっても徹夜で並ぶのです。周辺にはダフ屋がいて、診察券を20倍(200円→4500円)の値段で売っています。

中国は医療費無料政策が廃止されたため、医療費が払えないせいで、必要な患者の半数しか病院を受診できません。脳梗塞で入院した、ある老人は、年収の2倍の医療費がかかったため、途中で治療を断念しました。入院患者について、取材した病院の一番安い部屋(部屋代450円)では、暖房もありませんでした。

農村部では貧困が問題になっていて、番組で取り上げられた男性は、年収15万円でした。数万円の医療費が工面出来ない場合も多いようです。また、治療のために多額の借金を背負うことになる場合も少なくありません。

一方で、高度な医療を希望して、都市部の病院に患者が殺到しています。都市部にはVIP病院があり、金持ち相手の高度医療を行っています。民間病院の参入もはじまりました。民間病院は、国の許可がなくても医療機器を導入出来、医師の数も規定より増やせるので、進んだ医療が行えます。1つのビジネスです。

激流中国
病人大行列 ~13億人の医療~

市場経済化が加速する中国で、今、政府自ら、最も取り組まねばならない課題としているのが「医療」問題である。激流中国では、北京の大型病院に密着し、その現実を浮き彫りにする。

私たちが取材した公立病院には、連日、全国から大勢の患者が押し寄せる。診察を受けるのは二日がかり、徹夜で並ばなければならない。なぜそうまでしなければ、診察を受けられないのか?医療制度はどうなっているのか?

かつて中国は、国家が医療費を負担し、医療サービスは無料だった。しかし制度の見直しで、利用者負担へと変わり、保険制度の整備も遅れているため、医療費が患者に重くのしかかるようになった。一般の人々が病院に行くのは、いよいよ症状が悪化してからで、地方の病院等ではとても手に負えず、こうした大型病院で診てもらうしか手がないのだ。しかも医療費が、患者家族にとって“破産する”ほど高額となるケースも頻繁に起きている。一方、制度見直しによって、病院は独立採算となり、優れた医師や医療設備を導入し、大勢の患者を集めることのできる病院だけが生き残れるようになっている。

こうした“医療格差”がますます拡大する中、患者家族、そして病院、「それぞれ」をつぶさに記録した。

再放送予定は、「2008年6月17日(火) 深夜 【水曜午前】0時55分~1時44分 総合」です。是非、ご覧下さい。カルチャー・ショックですよ。印象としては、金持ちのみが良い医療を受けられる、アメリカ型医療に似ている気がしました。

四川大地震って、こんな貧弱な医療基盤の中、起きたのですね。

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