Category: 医学と医療

ビリーズブートキャンプ

By , 2007年8月23日 7:31 AM

はり屋こいしかわ先生から、ビリーズブートキャンプのやりすぎで肋骨骨折した人の話を聞きました。

何事もほどほどに。

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Chopin

By , 2007年8月18日 12:35 PM

音楽仲間と話をしていると、男性ではバッハやベートーヴェンが好きな人が多い反面、女性ではショパンが好きな人が多い傾向にあることに気付きます。

ということで、今日紹介するのは、ショパンの肺疾患についてです。何故、彼はそんなに短命 (39歳で死亡) だったのでしょうか?

医学論文検索システムである Pubmedで、「Chopin」「cystic fibrosis」と入れると 10本の論文に Hitします。今日は、その中で、Lucyna Majkaらによる論文を紹介します。

Cystic fibrosisは Caucasian (コーカサス人) では、2500人出生に 1人くらいで見られる比較的ありふれた病気で、常染色体劣性遺伝です。最初に記述されたのが 1930年代と、割と新しい概念です。つまり、それ以前に罹患していても診断がつかなかったことを意味します。

従来、ショパンの死因は結核とされていて、「ショパン年報」でのチェスラーフ・セルジッキ博士の論文でも、結核説が支持されています。ショパンは、同時代の有名な医師「ジャン・バティスト・クリュヴェイエ」の診察を受け、「結核」の診断を得て、偽薬による治療を受けています。クリュヴェイエ医師は、ショパンの最期を看取り、解剖報告書(火事で失われたと言われている)も作成したそうです。解剖はショパンの希望だったようです。ただ、解剖の結果、肺結核は証明されませんでした。クリュヴェイエ医師が、「a disease not previously encountered」と述べたと伝えられています。

クリュヴェイエといえば、我々医師は「Cruveihier-Baumgarten症候群」を思い出します。これは、肝硬変で怒張した腹壁皮下静脈が出す雑音を呈する症候群です。おそらく、同症候群の Cruveihierはショパンの主治医と同人物と思いますが、余談です。ショパンと同症候群は何の関係もありません。

ショパンの結核説に関しては、反論があります。オシエーは、「合併症を起こさない結核という診断にも曖昧な点がある。マジョルカ島での病気も結核が原因とは思えない。もしそうであれば、一時的な呼吸不全、体重の激減、多量の肺出血が自然に治るとは到底考えられないからである。」

では彼を苦しめた病気は何だったのか?そこで、Cystic fibrosisという診断が浮かびます。この説は、オシエーらの1987年の報告 (O’Shea JG, Was Frederic Chopin’s illness actually cystic fibrosis? Med J Aust 147: 586-9, 1987) で最初に提唱されたものです。その診断根拠を示します。まず、表を見てください。Majkaらの論文から引用したものです。

Family history Symptoms Signs
Two sisters with similar symptoms and premature death Chronic pulmonary symptoms (productive cough, hemoptysis, shortness of breath) since childhood. Recurrent gastrointestinal symptoms (diarrhoea, fatty food intolerance, hematemesis). General complains (effort intolerance, fatigue, failure to gain weight). Inferility. Heatstroke. Atralgia (osteoarthropathy?) Short (170cm) and skinny (48kg), Barrel-chested, waisted limbs (later in life peripheral oedema). Cyanosis? No finger clubbing?

一つずつ見ていきましょう。まず、家族歴です。ショパンの両親は天寿を全うしました。父は73歳 (1770-1844)、母は77歳 (1784-1861) まで生きました。母親の Justynaは生涯健康でしたが、父親の Nicolasは生涯呼吸器症状を繰り返していたと言われています。ショパンの 3人の姉妹のうち、Isabella (1811-1881) のみ健康上の問題がありませんでした。長女のLudwika (1807-1855) は呼吸器症状に苦しみ、それが原因で 47歳で死亡しました。末の妹のEmilia (1813-1827) は病弱で、痩せていました。彼女は咳や喀血に苦しみ、肺炎を繰り返しました。彼女は 14歳で上部消化管出血で死亡しました。

次に、症状です。彼の残した文章から、彼が幼少時より多臓器にわたる症状を抱えていたことがわかります。彼は下痢などの消化器症状を繰り返し、頻回に気道感染も起こしてました。そのため、体重減少がありました。16歳の時には、病気が 6ヶ月続き、呼吸器症状や頭痛などの症状に苛まれたようです (一説には頸部アデノパシー)。また、その 5年後には、パリで喀血し、高熱に苦しみました。この時のみならず、呼吸器症状や消化器症状は慢性的にショパンを苦しめました。

また、彼は 170cmの身長に対して体重 48kg (一説には 45kg以下) と痩せており、お世辞にも健康そうには見えなかったようです。

こうした家族歴、症状、経過は、Cystic fibrosisに合致します。Cystic fibrosisは外分泌腺の障害による病気で、呼吸器症状と消化器症状がメインとなります。彼は生涯呼吸器症状と消化器症状に苦しみました。また、Cystic fibrosisは遺伝性疾患です。家族歴に見られるように、彼の姉妹の同様の症状は、本疾患の可能性を強くします。また、ショパンは多くの女性と関係を持ったにもかかわらず、子供を持ちませんでした。オシエーは、ショパンに生殖能力がなかったことと、Cystic fibrosisの関係について考察しています。Cystic fibrosisは高頻度に不妊症を起こします。

その他、ショパンの死因として存在する説を紹介しておきます。肺気腫、気管支拡張症、低γ-グロブリン血症、僧冒弁狭窄症、アレルギー性肺アスペルギルス症、三尖弁閉鎖不全症、Churge-Strauss症候群、肺胞ヘモジデローシス、肺動静脈奇形。α1-アンチトリプシン欠損症という説もある程度有力で、1994年にKuzemko JAらにより報告されていますが、膵障害による慢性下痢の存在、黄疸や腹水を欠くことなどが反論として挙げられます。

個人的には、Cystic fibrosisという説に強い説得力を感じます。

(参考文献)
・Majka L, et al. Cystic fibrosis – a probable cause of Frederic Chopin’s suffering and death. J Appl Gnet 44: 77-84, 2003
・「音楽と病(ジョン・オシエー著,菅野弘久訳,法政大学出版局)」
・「ミューズの病跡学Ⅰ音楽家篇(早川智著、診断と治療社)」

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神経学講義

By , 2007年8月13日 9:46 PM

「シャルコー 神経学講義 (Christopher G. Goetz編著, 加我牧子・鈴木文晴監訳、白揚舎)」を読み終えました。

シャルコーの業績はこちらをご覧ください。
神経学の歴史2-40. シャルコーがサルペトリエール病院にやってきた。-
神経学の歴史2-41. シャルコーの業績その1。多発性硬化症の発見-
神経学の歴史2-42. シャルコーの業績その2。筋萎縮性側索硬化症の発見-

シャルコーは、シャルコー・マリー・トゥース病に名を残し、また筋萎縮性側索硬化症はシャルコー病と呼ばれます。彼は多発性硬化症を発見し、パーキンソン病を再評価しました。彼は臨床と病理を対比し、いくつもの病気の本態を明らかにしました。また、喘息患者の痰の中に見られる「シャルコー・ライデン結晶」にも名を残しています。

シャルコーは、デジェリーヌ、ババンスキー、フロイトらの師でもあります。教育に情熱をかけていたことも知られています。

彼は金曜日に講義を行い、これは「金曜講義」として有名です。一方、臨床教育としては、火曜日に実際の診察を公開し、「火曜講義」としました。

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white collar worker

By , 2007年8月8日 7:37 AM

Lancetという超有名医学雑誌があります。呼吸器の N先生から面白い論文が掲載されているとメールを頂きました。Brain of a white-collar workerという論文です。

実際に読んでみると、新生児期、並びにその後の水頭症のために画像で正常な脳の構造がほとんど観察できないにもかかわらず、IQが75もあり、civil servantの職にあるというのです。画像と高次機能を対比してびっくりしました。

実際の MRI画像を載せているサイトもあるようです。

頭の中がほとんど空洞化、脳がわずかしか存在しないのに44歳まで普通に暮らしてきた男性

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第6回抄読会

By , 2007年7月31日 6:05 AM

7月24日に、有志で第6回抄読会を行いました。

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痴呆…認知症…言葉狩り?

By , 2007年7月21日 6:26 AM

「痴呆」という用語が「認知症」に変わり、いまだにとまどいがあります。「認知症」という用語について、興味深い論文を読みましたので紹介します。

岩田誠. 認知症をどう診るか? 認知症診療の実際 誌上ディベート 認知症への呼称変更の功罪 間違った用語は受け入れ難い. Cognition and Dementia 5: 340-343, 2006

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選挙

By , 2007年7月20日 9:34 PM

昨日の外来。診察中に、患者が「先生は、どこの選挙区ですか?誰に入れるのですか?」と勧誘。

政策の至らぬ点を議論してやろうかとも思いましたが、後ろに大量の患者がまだ待っていたため、

「あはは、私選挙権持ってないんですよ~」

と、丸川アナの真似をして軽く流しました。

普通、診療中に選挙活動するかなぁ?まぁ、一生このような政党にいれることはないけれど。

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静脈注射

By , 2007年7月16日 7:53 AM

大学病院の特殊性。

看護師が注射をしないというのがあります。民間の病院は大部分看護師が点滴ライン確保、静脈注射しているのですけどね。医師達はどこの大学も同じようなテクニックで、乗り切っているのだなと思いました。

いつか書こうと思っていたネタですけど、ブログで見かけたので紹介します。思っていたこと全部書いてくださっています。コメント欄も読まれることをお薦めします。

NATROMの日記-大学病院の看護師が静脈注射をしない理由-

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禁煙について

By , 2007年7月10日 10:18 PM

脳梗塞慢性期の患者の外来管理では、抗血小板薬 (血液をサラサラにする薬) の他に、リスクファクター (高血圧、脂質異常症、糖尿病、タバコなど) のコントロールを行わなければいけません。

禁煙は実際に困難なことが多いのが現状です。ところが、禁煙治療が保険診療で行えるようになっています。

そこで、自分が神経内科外来をしている病院で、呼吸器外来医に相談してみたのですが、保険適応外と言われてしまいました。

昔一緒に働いていた呼吸器の N先生に同じ質問をしたところ、大変勉強になる話を教えて頂いたので紹介します。

禁煙外来ですが、保険適応はどの医療機関でも可能なわけではなく、
①施設基準と②患者基準の双方のすべてを満たす必要があります。

一般に禁煙外来を従来から持っていたところには施設基準を満たしていないことがあるようです。

まず、施設基準については

1. 禁煙治療を行っている旨を医療機関内に掲示していること
2. 禁煙治療の経験を有する医師が1名以上勤務していること
3. 禁煙治療に係る専任の看護職員を1名以上配置していることと 呼気一酸化炭素濃度測定器を備えていること
4. 医療機関の構内が禁煙であること

が満たされている必要があります。
この場合、大学病院などでは病院内だけではなく、庭・大学 (教育施設)・附属研究施設のすべて (病院と同一の敷地にあるものすべて) で禁煙が徹底されている必要があります。
(つまり、たとえ屋外であっても喫煙所がある場合や灰皿が設置されている場合は施設基準を満たさないことになります。)

上記のような点から総合病院などの施設では禁煙外来を掲げているものの、自由診療を継続しているところも多いようです。

患者基準に関しては

1. ニコチン依存症と診断されていること (タバコ依存スクリーニングテストで5点以上)
2. ブリンクマン指数 (=1日の喫煙本数×喫煙年数)が200以上
3. 標準治療プログラム (12週間で5回の受診が必要)に文書による同意を得ている
4. 外来患者 (入院中は不可)
5. 前回の禁煙指導から1年以上空いていること

が必要とされています。

これについては患者の自己申告によるものが大きいので基準は満たせると思います。

タバコ依存スクリーニングテストは以下のようなものです。

1. 自分が吸うつもりよりも、ずっと多くタバコを吸ってしまうことがありましたか。
2. 禁煙や本数を減らそうと試みてできなかったことがありましたか。
3. 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、タバコがほしくてほしくてたまらなくなることがありましたか。
4. 禁煙したり本数を減らそうとしたときに、次のどれかがありましたか。(イライラ、神経質、落ちつかない、集中しにくい、ゆううつ、頭痛、眠気、胃のむかつき、脈が遅い、手のふるえ、食欲または体重増加)
5. 上の症状を消すために、またタバコを吸い始めることがありましたか。
6. 重い病気にかかって、タバコはよくないとわかっているのに吸うことがありましたか。
7. タバコのために健康問題が起きていることがわかっていても吸うことがありましたか。
8. タバコのために精神的問題が起きているとわかっていても吸うことがありましたか。
9. 自分はタバコに依存していると感じることがありましたか。
10. タバコが吸えないような仕事やつきあいを避けることが何度かありましたか。

上記の質問で 「はい」を1点 「いいえ」を0点として計算
判定方法:10点満点のうち5点以上の場合、ICD-10診断によるタバコ依存症である可能性が高い(約 80%)
感度:ICD-10タバコ依存症の 95%が 5点以上を示す。 特異度:ICD-10タバコ依存症でない喫煙者の81%が4点以下を示す。 得点が高い者ほど禁煙成功の確率が低い傾向にある。

その他の医療機関についてはノバルティスが協賛している
http://www.e-kinen.jp/index.html
で調べてみてください。(施設基準が通っているかについても記載があります。)

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虐待

By , 2007年7月9日 11:38 PM

小児科医からの相談。

頭部MRIを見ると、多発する脳挫傷、脳出血。小児には麻痺がみられました。

放射線科の教授が、「親は高いところから落ちたというけれど、1歳の子供が、これだけの外傷になるような高さまで登れる筈がないし、まぁ虐待だね」と。

放射線科では良くみかける光景だと。

教授は続けて「絶対に親は認めないけどね」

いつも非常に優しい女医さんが、「私も、自分が子育てしてみて、初めて虐待する親の気持ちがわかった・・・。周りの人のおかげでしなかったけれど・・・。」と、しみじみ。

難しい問題です。

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