最近、アンチエイジングなどで抗酸化治療が一部の人達にもてはやされています。ところが、こんなニュースが出ました。
とはいっても、数年前から話題になっていることです。例えば、2014年には nature newsで触れられています (リンクは日本語の紹介ブログ)。
2013年の日経サイエンスでも、フリーラジカルは悪玉とは限らないということが紹介されています。
昔、Charcot-Marie-Tooth病 1A型の臨床研究でビタミンCを投与したとき、女性の患者さんから「化粧ののりが良くなりました」と言われたことがあるので、ひょっとすると美容には良いのかもしれません。しかし、未知の部分が多いことも事実で、抗酸化治療を無批判にもてはやすことは危険なのかもしれません。
2015年12月9日の高畠英昭先生の講演は興味深いものでした。脳卒中急性期から食事させることの重要性。
・特別養護老人ホーム利用者で職員がブラッシング指導し、歯科医師が週1回介入すると、2年間で肺炎が 19→11%になる (YoneyamaT et al, Lancet 1999.)。
・反復嚥下テストも水飲みテストも意味がない。「自発開眼、簡単な指示に従う、全身状態安定」となったら、必要に応じて嚥下内視鏡(VE)、嚥下造影(VF)を行いゼリー摂取開始。
・発症直後からの口腔ケアが大事。仰臥位~半側臥位 30°頭部横向きブラッシング・リンシング(100 ml程度の水道水で洗い流し、吸引)
・栄養管理について。FOOD trial:発症1週間以内の経腸栄養は勧められる。(Lancet2005; 365: 764 -72.)、EPaNICtrial:発症早期の静脈栄養は勧められない。(NEJM 2011; 365:506-517. )
・早期から食事摂取を開始し、胃ろうを避けられれば予後も改善するし、大幅に医療費を減らせるのではないか?
・経管栄養を減らせば、無駄な身体抑制をしなくてすむ。
口腔ケアや嚥下内視鏡や嚥下造影などの嚥下評価のことを考えると、神経内科医単独で行うことは難しく、実際には歯科医師、リハビリ科医師、看護師、STなどとのチームを作って行う必要があるのでしょう。
MRIでガドリニウム造影剤を繰り返し使っていると脳へ沈着することがあるという安全性情報が 2015年の夏に FDAから出されました。
このブログのコメント欄に、神田先生がコメントをくださったことがあります。
はじめまして。講演のネタ探ししていて偶然みかけ勉強になりました。
僕自身「正常腎機能でもMRI造影剤が徐々に脳に残っていて画像でも見えるようになってくるよ」という論文を報告していたのですが、この報告もひょっとしたら残留している造影剤と関連するかもしれないですね。大変興味惹かれました。ありがとうございます。
2016年1月号の JAMA Neurology誌にこの問題が取り上げられ、なんと神田先生の論文が引用されていました。
論文中の表がまとまっています。
Gadolinium
これまで膨大な数の検査が行われつつ大きな問題になったことがないので、おそらくそんなに心配しなくてよいとは思っています。造影検査を行わないと診断がつかなかったり、重大な見逃しに繋がるケースはあるので、必要な際は躊躇なく行うべきでしょう。とはいえ、未知数な要素もありますので、「造影検査は必要なときのみ行う」という原則は従来通り貫かれるべきだと思います。
若者に原因のはっきりしない筋炎が流行したのを経験したことがあります。数年前にさいたまで外来をしていた頃で、その時は電気生理検査をしてくれた先生から「何らかのウイルスによる流行性の筋炎だと思う。たまに見かけるよ」と教わりましたが、何のウイルスが原因なのか気にかかっていました。
2015年10月頃、Idatenという感染症のメーリングリストに似たような筋炎の話題が流れ、パレコウイルスではないかと議論されていました。
先日、旧職場の先輩にその話をしたところ、「流行った年に山形の先生が学会で発表していたので、自験例についてアプローチしたことがあるよ。確か、山形の先生達は立派な論文を書いていたよ」と教えてくれました。論文は下記になります。勉強になりました。
筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は原因遺伝子が多く見つかってきていますが、遺伝子変異が同定されていない孤発性の方が圧倒的に多く、現時点では原因は未知と言って良いと思います。
2015年10月1日の Neurology Todayに、ALSの原因がウイルスなのではないかという説が掲載されました。
ヒトゲノムの 8%は数百万年前に感染したヒト内因性レトロウイルス遺伝子 (human endogenous retroviral genes;HERV)、いわゆる「ジャンク DNA」だと言われています。Wenxue Liらは、ALS患者 10名の脳で HERV-Kの転写産物が増えており、アルツハイマー病患者の脳ではそれがみられないことを指摘しました。そして培養細胞に HERV-Kを感染させると、量依存的に細胞毒性や細胞死がみられました。マウスモデルでも、進行する運動ニューロンの障害をきたし、50%のマウスは月齢 10ヶ月で死亡しました。HERV-Kの発現が ALSに関連した遺伝子でもある TDP-43によって制御されていることもわかりました。
本当であれば素晴らしい発見ですが、まだマイナーな説です。他の研究者らの追試の結果を待ちたいと思います。もしこれが正しければ、来年くらいには有名誌にたくさん似たような論文が掲載されるはずです。
栄養障害が原因の脊髄障害としては、ビタミンB12欠乏による亜急性連合性脊髄変性症が良く知られています。一方で、銅欠乏による脊髄障害も稀ながら知られています。
Neurology Clinical Practice誌の2015年8月号のに、銅欠乏による脊髄障害が報告されていることをアブストラクト・ジャーナルで知りました。。
食道/胃部分切除の既往のある男性が、1年の経過で進行する歩行時のふらつきと四肢の末梢神経障害のため受診しました。後索障害を指摘され、Vit.B12、銅、セルロプラスミンが低値でした。ビタミンB12の補充では改善せず、銅の補充で改善しました。この患者はサプリメントとして亜鉛を 1日 80 mg内服していました。そして亜鉛の過剰摂取による銅の吸収阻害と推測されました。
亜鉛の過剰摂取で銅欠乏をきたすこともあるんですね。後索障害の時の問診には注意しなければいけないと思いました。
ちなみに、亜鉛含有の内服薬といえば胃薬のポラプレジンク (プロマック) が有名で、投与が簡単なので亜鉛欠乏のときにはよく処方しますが、こちらの亜鉛含有量は 1日 2回内服で 34 mgのようです。亜鉛欠乏のない患者にルーチンに投与するのは、多少リスクがあるのかもしれないと感じました。
なお、昔はポリグリップにも亜鉛が含有されており、それが原因の脊髄障害も報告されているようですが、2010年からは亜鉛を含有しないようにされているようです。
グラクソ・スミスクラインは4日、入れ歯安定剤「ポリグリップ」シリーズのうち、「新ポリグリップEX」(40g、70g)の販売を中止し、店頭から自主回収することを発表した。
同品には粘着性を高める目的で、亜鉛が含有されている。人体に必要な栄養素ではあるが、長年にわたって過剰に亜鉛を含有した入れ歯安定剤を使用することで、亜鉛の過剰摂取による貧血や神経症状を起こすことが、最近の文献で報告されている。
定められた使用方法(1日1回3cmまで)に基づき使用する限りは、安全性に問題がないものの、中には長期間にわたって過剰に使用するケースもあることを踏まえ、「健康被害への潜在的なリスクを最小化することを最優先し、予防的な措置として販売の中止を決めた」(同社)としている。
なお、入れ歯安定剤で亜鉛を使用していない「新ポリグリップ無添加」「新ポリグリップS」「ポリグリップパウダー無添加」「ポリデント入れ歯安定剤」については、従来通り継続して販売する。今後、これら製品群には亜鉛を含んでいないことを、パッケージに表記していくという。
筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病では、最近 seed仮説というのが唱えられています。疾患の原因タンパク質がプリオンタンパクのように個体間や個体内で伝播し、正常なタンパク質を変性させていくもので、注目を集めています。
2015年9月9日の “Neurology Now” に恐ろしい事例が掲載されていました。
1985年以前には、ヒト成長ホルモンは人工合成でなく、死体の下垂体から抽出されていました。しかし、プリオンタンパクの混入があり、2000年までに 1848名中 38名がクロイツフェルト・ヤコブ病を発症しています。今回、このうち 8名の脳が調べられました。年齢は 36~51歳でした。すると、6名にアルツハイマー病にみられるようなアミロイドβの沈着がみられたのです。4名は広範囲であり、2名は斑状に分布していました。一方で、アルツハイマー病でみられる neurofibrillary tau gangleはみられませんでした。これらの患者には若年性アルツハイマー病の遺伝的背景はありませんでした。また、ヒト成長ホルモンの投与を受けていないクロイツフェルト・ヤコブ病でアミロイドβが検出された患者はいませんでした。
研究者らは、死体から抽出したヒト成長ホルモンの中に、プリオンタンパクと共に βアミロイド含まれており、それが伝播したのではないかと考えているようです。アミロイドは下垂体に凝集しやすいこと、アルツハイマー病で死亡した患者の脳組織をマウスに投与するとアルツハイマー病様の病理を呈することが知られていますが、それを支持するものです。
もし今回の報告が事実なら、アルツハイマー病の原因タンパク質である βアミロイドが seed仮説に従うという大きな根拠となりそうです。現在、別の研究機関で再現性を調べているらしく、結果を待ちたいと思います。
(参考)
最近、定期購読している JAMA neurology誌に血栓溶解療法 rt-PAと症候性脳出血について 2本ほど論文が掲載されていました。興味深い内容だったのでさわりだけ紹介します。
脳梗塞発症 4.5時間以内に血栓溶解療法が行われた患者 3894名のうち、3.3%に症候性の頭蓋内出血がみられた。血栓溶解療法が行われた時間の中央値は 470分で、症候性頭蓋内出血が診断された時間の中央値は 112分だった。院内死亡率は 52.8%で、26.8%に 33%以上の血腫拡大があった。血小板輸血や低フィブリノゲン血症が血腫拡大と相関していた。いかなる治療 (評価項目:Vitamin K, Cryoprecipitate, Aminocapronic acid, Fresh frozen plasma, Prothrombin complex concentrate, Recombinant factor VIIa, Plantelet transfusion, Surgical decompressive craniotomy or hematoma evacuation, Any treatment) も生命予後を改善しなかった。(2015年10月26日 published online)
症候性脳出血の発症率は先行研究より少ないですが、死亡率が約 50%というのは他の報告とほぼ一緒の結果ですね。一回出血してしまうと、何をしても厳しいようです。
血栓溶解療法を受けた 85072名のうち、45.7%が治療前に抗血小板薬を内服していた。交絡因子を調整した後、血栓溶解療法前に抗血小板薬を内服していた患者が症候性脳出血を起こすリスクは、内服していない患者と比べて有意に高かった (adjusted odds ratio [AOR], 1.18 [95% CI, 1.10-1.28]; absolute difference, +0.68% [95% CI, 0.36%-1.01%]; number needed to harm [NNH], 147)。最もリスクが高かったのは、アスピリン単独と (AOR, 1.19 [1.06- 1.34]; absolute difference [95% CI], +0.68% [0.21%-1.20%]; NNH, 147) とアスピリン+クロピドグレル併用療法 (AOR, 1.47 [1.16-1.86]; absolute difference, +1.67% [0.58%-3.00%]; NNH, 60) だった。院内死亡については、抗血小板薬内服の有無で有意差はなかった。しかしながら、抗血小板薬の内服は、交絡因子を調整すると、自立歩行 (42.1% vs 46.6%; AOR, 1.13 [1.08-1.17]; absolute difference, +2.23% [1.55%-2.92%]; number needed to treat, 43) や退院時の機能予後 (退院時の mRS 0-1: 障害がない) (24.1% vs 27.8%; AOR, 1.14; 1.07-1.22; absolute difference, +1.99% [0.78%-3.22%]; number needed to treat, 50) という点で優れていた。(2015年11月9日 published online)
以前、同僚と下記のような議論を同僚としたことがあります。
「抗血小板薬の効果は切れるのに数日かかるので、脳梗塞発症前に抗血小板薬を飲んでいた患者の場合、その効果が持続した状態で血栓溶解療法が行われる。これは、血栓溶解療法後と同時に血小板薬を投与するのと違わないんじゃないか?ガイドラインでは血栓溶解療法を行ったあとに 24時間以内は抗血小板薬を投与しないことになっているけどね・・・。」
今回の研究を見ると、やはり抗血小板薬は血栓溶解療法における症候性出血の増加と関連があったのですね。一方で、抗血小板薬が入っていた方が、機能予後としては良いというのは驚きでした。
英論文を書くときに、文法や文章の構成でとても勉強になるサイトを知りました。こういうルールを勉強して、可能な限り洗練された英語で論文を書きたいものです。
2014年、「神経難病における音楽療法を考える会」に参加しました。
素晴らしい会だったので、今年も参加しようと思います。締め切りは 11月17日までです。参加される方はお早めに。