知り合いの神経内科の先生から面白い話を聞きました。
第二次世界大戦中、満州開発のため、多くの日本人が満州に渡りました。望んで渡ったのかというと、各村に割り当てがあって、その数の若者を出さないといけなかったという話があります。
同様に、中国での病院で働くことが、日本人医師に課せられました。
戦争が終わって、多くの日本人が中国やロシアに抑留されました。中でも悲惨だったのはシベリア抑留 された方だったといいます。
こうした事情の中、ある日本人医師がシベリアに抑留されることになりました。しかし、その日本人医師は、シベリアに抑留されている間に、ロシア語をマスターしてしまったんですね。そして、帰国後、某有名病院の神経内科部長となったそうです。
ピアニストのスヴャトスラフ・リヒテル が来日した際、ある症状を訴えました。「ロシア語を話せる医師はいないか」と大騒ぎになった結果、その医師に白羽の矢が立ちました。
その医師がそつなく診療をこなすと、リヒテルは医師に全幅の信頼を寄せるようになりました。そして来日の毎に、その医師を受診し、健康チェックを受けるようになったのです。
その医師は音楽に詳しくなかったのですが、リヒテルは音楽についての相談もしたことがあります。「演奏していて、楽譜を忘れていないか不安でしょうがなくなることがある」と。
その医師は、「だったら楽譜を置いて弾けばいいじゃないですか?」と答えました。
リヒテルは、はたと膝を打ち、「何で今までこんな簡単なことに気が付かなかったんだろう・・・」と言い、以後楽譜を置いて弾くようになったそうです。
天下のリヒテルが、こんな相談をしていたなんて、興味深いですね。
「チャルダーシュ」というのは、曲の形式です。そして、ロマ(ジプシー)音楽での舞曲の一つです。ラッシュと呼ばれるゆったりした部分と、フリッシュと呼ばれる速い部分から構成されます。
ラッシュは迫害をうけてきたロマ民族の悲しみをたたえているともいわれ、フリッシュはそれを振り払うかのような激しい踊りを連想させます。
「チャルダーシュ」自体が曲の形式なので、「チャルダーシュ形式」でかかれていれば、どんな曲だって「チャルダーシュ」なのです。実際、ロマ音楽には、多くの「チャルダーシュ」があります。
ロマ音楽は、本来、代々口伝のような形で伝えられ、楽譜は存在しないと言われています。従って、同一の曲でも、演奏家によって、あるいは家系によって全然アレンジが違います。まさに「俺には俺のチャルダーシュがあるのさ」状態です。演奏家にとって、自分のチャルダーシュはアイデンティティでもあります。更に、即興の要素も大事とされますので、演奏毎にかなり違いがあって、そこが魅力です。
クラシック音楽とは全然違うロマ音楽ですが、ベートーヴェンもロマ音楽を聴いていたという情報が残っています。ベートーヴェンの曲の盛り上がりには、意外とロマ音楽が意識されていたりして・・・。
こうした「チャルダーシュ」に、クラシックの側からアプローチした例がいくつもあります。例えば、リストやエネスコ、バルトークなどは、ハンガリーの民謡をモチーフに用いています。もっと露骨なのは、モンティが作曲した「チャルダーシュ」です。モンティ自身はイタリア人で、別にロマの方ではないのですが、典型的な「チャルダーシュ形式」の曲を作曲したのでした。タイトルはずばり「チャルダーシュ」(^^;
モンティのチャルダーシュは、浅田真央選手が演技に用いたりして一般の方にも有名になりましたが、ヴァイオリンでは昔から結構アンコールピースの定番だったりします。クラシックとして作曲されたので楽譜は簡単に手に入るのですが、前述のように演奏家毎にアレンジしているので、聴き比べが楽しめます(私も自分なりにアレンジして弾いています)。
Youtubeで、なかなか面白い演奏があったので、紹介しておきます。尚、ソリストの後ろにあるチェンバロのような楽器が、「ツィンバロン」という民族楽器です。猫じゃらしのようなバチで弦を叩いて演奏します。
・József Lendvay – Monti: Csárdás
※このサイトのトップページの「Gypsy」のリンク先で、ロマ音楽のCDについてまとめています。研修医の頃に作ったきりで、以後更新していませんが、参考にしてください。
8月中旬にある発表会の練習をしています。
場所は、池袋シャロンゴスペルチャーチという教会らしいです。教会と知っていたら、バッハの無伴奏でも演奏すれば良かったかなぁ・・・なんて思ったりもしますが、今年はベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ第 1番を演奏する予定です。
・Menuhin plays Beethoven Violin Sonata No.1 (第一楽章)
VIDEO
第 1番はベートーヴェンがサリエリに献呈した 3つのヴァイオリン・ソナタの第 1曲ですが、ほぼ純粋に古典派に属すると言って良く、彼が最終的に指向したロマン派的な要素はまだあまり感じられません。今回は第 1, 3楽章を演奏します。
第 2楽章は変奏曲です。モーツァルト的な「恋人の音楽」との表現がぴったりなこの楽章が一番好きです。特に第 2主題の美しさは、天国の音楽のようにも思えます。今回は時間の関係で、本番では第 2楽章を演奏できないようです。残念ですが、その分、第 1, 3楽章を頑張りたいと思います。
「Ludwig van Beethoven SPRING & KREUTZER SONATAS (ANDaNTE great composers)」を聴きました。
この 3枚組の CDはベートーヴェンのスプリング・ソナタとクロイツェル・ソナタを何人かの演奏家が演奏し、録音したものです。1935~41年の録音なのですが、巨匠達がずらり。
Ludwig van Beethoven SPRING & KREUTZER SONATAS
CD.1 Violin Sonata No.5 “Spring”
Kreisler / Rupp
Goldberg / Kraus
Milstein / Balsam
CD.2 Violin Sonata No.9 “Kreutzer”
Kreisler / Rupp
Kulenkampff / Kempff
CD.3 Violin Sonata No.9 “Kreutzer”
Szigeti / Bartok
Busch / Serkin
みんな、巨匠としての地位を確立している演奏家ばかりで、誰の演奏が良いかというのは、好みの問題でしかないと思います。個人的にはミルシタインが好きですけれど、みんな好きです。
何人か簡単に触れておくと、クライスラーはヴァイオリニストとして以外に、作曲家としても有名で、さらに軍医でもあったことが知られています。ブッシュ/ゼルキンは、ベートーヴェン演奏の古典的な名演として今でも語られますね。シゲティは「ベートーヴェンのヴァイオリン作品集 演奏家と聴衆のために」という本を書いていますが、作曲家のバルトークと組んで演奏しているのが興味深いです。バルトーク演奏のベートーヴェンも味があります。ちなみにバルトークは慢性骨髄性白血病で亡くなりましたが、現在ではグリベックという分子標的治療薬が開発され、治療成績が大幅に向上しています。
これらの個々の録音はそれぞれ販売されていますが、まとめて聞き比べができるのが、この CDの良いところです。機会があったら聴いてみてください。
「Szymon Goldberg, Netherlands Chamber Orchestra, The Philips Recording」という CDを聴きました。
シモン・ゴールドベルク はヴァイオリンの名教師カール・フレッシュ門下でしたが、フルトヴェングラーの招きで20歳でベルリン・フィルのコンマスになり演奏活動を続けました。ところがナチスに追われベルリン・フィルを退団。太平洋戦争では日本軍の捕虜となりました。終戦後はアメリカで活躍されたらしいです。奥様は山根美代子という日本人ピアニストで、夫婦で録音も出しています。
ゴールドベルクは、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタをリリー・クラウス、その後ルプーと録音していて、特にルプーとの録音が私は好きです。
今回聴いたCDは、指揮者としての演奏が大半で、一部弾き振りもしています。演奏には、暖かみと凛とした気高さが共存していて、ゴールドベルクの魅力がしっかり出ていると思います。
この8枚組のCDの中には、モーツァルトのピアノ協奏曲も録音されていたのですが、ソリストのヘブラー の演奏も素晴らしかったです。様式感がしっかりしていて、繊細な所までこだわりもみてとれます。ヘブラーの他の録音も聴いてみたいと思いました。
仕事を早めに切り上げて、「路上のソリスト 」を見に行きました。一人でね。
面白かった~♪
この映画は実話を元にしています。L.A.タイムズ紙の記者が路上で2本の弦のヴァイオリンを弾くホームレスを見つけ、調べてみると昔ジュリアード音楽院に在籍していたチェリストでした。
路上で2本の弦で弾くヴァイオリンは、D線とG線が切れていて、E線とA線で演奏しているのですが、遠くから流れる音にD線が鳴っているのはちょっとした御愛敬(^^;
記者は何とかそのホームレスを救おうとするのですが、そのホームレスにもホームレスなりの価値観があるのですね。
そのチェリストが何故ホームレスになったかというと、統合失調症になったからなのです。統合失調症の幻聴をこの映画は非常に上手に描いています。こんな幻聴が聞こえたら、私でも統合失調症の患者さんのような振る舞いをしますね。
記者は自分の価値観を押しつけるようなことをしながら、最後にチェリストの持っている価値観、そして人格を尊重するようになりますが、その心の移り変わりが自然なもので、抵抗なく受け入れられました。
音楽好きにたまらないのは、ベートーヴェンの音楽が大音量で流れること。ベートーヴェンの交響曲が、カルテットが、全身が震えるようなボリュームで流されるのは圧巻ですよ。この映画は映画館で楽しむべきです。
最近のアメリカの映画というと、爆弾が爆発するか、飛行機が落ちるか、人が死ぬか・・・で盛り上げるのが多いイメージがあって辟易とするのですが、人の内面を描きあげてこれほどの映画が出来上がるとは思っていませんでした。途中、涙が出そうになったり、鳥肌が立ったり・・・。
上映している映画館は少ないですが、お勧めです。
6月18日19時42分配信 読売新聞
ドイツ在住のバイオリニスト、樫本大進さん(30)が、世界トップクラスのオーケストラ、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスター(第1バイオリンの首席奏者)に内定したことが18日、明らかになった。
近く契約を結び、正式に発表される見通し。樫本さんは9月から一定期間の試用を経た後、楽団員の3分の2以上の賛同を得られれば、正式に就任する。
ベルリン・フィルには3人のコンサートマスターがおり、安永徹さん(57)が1983年から今年3月に退団するまで、そのうちの1人を務めていた。同楽団の日本人はほかにもビオラ首席奏者の清水直子さん、バイオリン奏者の町田琴和さんがいる。
樫本さんはロンドン生まれ。3歳からバイオリンを始め、ドイツ・リューベック音楽院に入学してザハール・ブロン氏に師事した。1996年にロン・ティボー国際音楽コンクールなどで優勝し、ドイツを拠点にヨーロッパ、アジアでソリストとして活躍している。
樫本大進 さんの演奏会には私も何回か行ったことがありますが、正確なテクニックと豊かな表現力、音の柔らかさが魅力です。
彼を知る演奏家は、皆彼の性格の良さを挙げます。誰からも好かれる人柄であるようです。これはコンサートマスターをする上では絶対の条件です。彼ならば適任なのではないでしょうか。
最近の楽曲には、コンサートマスター(コンマス)のソロ・パートが多いのですが、彼の技量があれば、聞かせ所として観客を魅了できるでしょう。
それにしても、天下のベルリン・フィル のコンマスとは凄いですね。応援しています。
今回紹介するのは、ヴァイオリニストのレオニダス・カヴァコス です。
私は、以前カザルス・ホールで行われた JTアートシリーズで演奏を一度聴いたことがあります。確か、カルテットでモーツァルトを弾いたのだったと思います。
音が凄く洗練されていて、ボウイングの綺麗な方だなと思っていたのですが、曲によっては全然荒々しい一面もみせてくれます。
Youtubeにカヴァコスがパガニーニを演奏する動画がいくつかあったので紹介しておきます。パガニーニかくあり・・・です。
Continue reading 'レオニダス・カヴァコス'»
映画「ラフマニノフ ある愛の調べ 」を見ました。
いや~、マニアックな内容でした。
ラフマニノフに関わるエピソード、「ズヴェーレフによる作曲の禁止」「交響曲第1番初演の失敗」「ダーリによる精神分析」「従妹ナターリアとの結婚」「ライラック」「スタンウェイとの蜜月」「作曲への情熱の喪失」などが散りばめられていましたが、元のエピソードを知らないと何の話をしてるのかわからなくて、 Wikipedia で調べながら見ました。それぞれのエピソードの関連性も希薄で、ただエピソードがランダムに配置されているような印象を持ちました。冒頭はすごく面白かったのですけどね。
この映画には「ある愛の調べ」と副題がついており、女性が3人出てくるのですが、表面的な描写が多く、もっとラフマニノフの内面が描かれていたらなと思いました。例えば、従妹に対しては、大した愛情表現がないままに、いきなりプロポーズするのですが、そこまでの過程がイマイチ理解出来ませんでした。
とはいっても、音楽は綺麗ですし、一度予習してから見ると楽しめるかもしれません。
ベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタは傑作ばかりです。いかに傑作か、名教師カール・フレッシュ の言葉をシゲティが本の中に引用しています。
Continue reading 'ヴァイオリン・ソナタ第10番'»