Category: クラシック音楽

音楽家たちに囲まれて

By , 2013年9月5日 7:14 AM

9月1日に、ヴァイオリニストの成田達輝さん、作曲家の酒井健治さん達と数人で、リヨン料理の店で飲みました。

なんとその日、酒井健治さんは芥川作曲賞授賞が決定し、レセプションに参加してから駆けつけることになったのでした。

芥川作曲賞:酒井健治さんに決まる

毎日新聞 2013年09月01日 19時49分

 第23回芥川作曲賞(サントリー芸術財団制定)の公開演奏・選考会が1日、東京都港区のサントリーホールで開かれ、酒井健治さん(36)の「ヴァイオリンとオーケストラのための協奏曲」に決まった。同賞は国内外で昨年初演された若手の管弦楽作品を対象とし、最終候補3曲を大井剛史さんの指揮で新日本フィルが演奏。酒井作品は審査員の伊藤弘之ら3氏により「完成度の高さと芸術性の豊かさ」が評価された。同曲はエリザベート王妃国際コンクール作曲部門でもグランプリに輝いている。酒井さんは大阪府出身で、武満徹作曲賞第1位など受賞多数。

受賞作品を成田達輝さんがエリザベートコンクールで演奏したときの動画が Youtubeで見られます。「あるシンプルなメロディーがオーケストラに伝播していき、形を変えて戻ってきて、それがハーモニーになる」というのが一つのコンセプトらしいです。

・Tatsuki Narita | Sakai Kenji Violin Concerto | Queen Elisabeth Competition | 2012

私はこの手の現代音楽をほとんど聴かないので、色々初歩的な質問をぶつけたのですが、酒井健治氏は色々丁寧に教えてくださいました。現代音楽におけるオクターブの位置づけや、微分音についてなど興味深かったです。彼は、「バッハも好きだしベートーヴェンも好きだし、こうした曲もよく聴くけれど、たまたま今の自分の表現したいことを伝えているのが、こういうスタイルなんだ」みたいなことをおっしゃっていました。同席した医師は、「作曲する上で、リズム、ハーモニー、メロディーの中で何を最も重視するか?」などとマニアックな質問をしていましたが、酒井氏は「ハーモニーだと思う。メロディーはあまり重要じゃなくて、出てきても断片的」と答えていました。他にもマニアックなトークたっぷりの、充実した飲み会でした。サインを御願いしたところ、即興で私のために作曲したものを書いてくださいました。多分、歴史的に貴重なサインです (^^)

成田達輝さんとは、10月にパリで会う予定で、その旅行中に酒井健治さんとベルギーで会えるように日程調整中です。

彼らはこれからはクラシック音楽業界をリードすること確実な、というか既にリードしている、日本人若手音楽家達です。クラシック音楽マニアじゃなくても、いずれ名前をよく耳にする時代がくるでしょう。

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川の流れはバイオリンの音

By , 2013年8月4日 1:29 PM

秋田で当直明けに病棟当番を任されて、待機中に当直室でボーっとテレビを見ていたら、NHKで「アンダルシアの虹」という古いテレビドラマを放映していました。そのドラマ紹介の場面で、「川の流れはバイオリンの音」というフレーズが気になったので、ネットで調べてみました。

川の流れはバイオリンの音 (Wikipedia)

1983年のドラマのようです。クレモナのヴァイオリン工房を訪れる話ですね。Youtubeに動画が上がっていました。

・「川の流れはバイオリンの音」

クレモナと聞いて昔訪れたときのことを思い出しました。続きが是非見たいです。NHK, 復刻版として DVD出してくれないかなぁ・・・。こんな良質の番組がお蔵入りとはもったいないと思います。

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アッコルド

By , 2013年7月30日 8:09 AM

昔、弦楽器専門の「ストリング」という雑誌がありました。私は定期購読していて 15年分の雑誌が自室にありますが、2012年11月号をもって廃刊になってしまいました。しかし、ストリング誌の編集者たちが、Webベースのサービスとして「アッコルド」というのを始めるらしいです。

 アッコルド

紙媒体に比べれば経費はかなり削減出来るとは思いますが、店頭に雑誌が並ばない分知名度は劣るので、有料化したとしてどのくらいの顧客を獲得できるかが問題になると思います。ストリング誌も昔は巨匠の薫陶を受けた演奏家が巨匠を語るインタビュー記事などワクワクしながら読んだものですが、廃刊前数年間は興味を引く記事が減っていたので、これからどういうコンテンツを提供するか編集者の手腕が問われますね。今後は、Webベースなので、動画配信など新しい試みもやりやすいでしょうから、色々と期待しています。

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ロビーコンサート

By , 2013年7月27日 10:45 PM

2013年7月25日ホテルオークラでのロビーコンサートを聴きに行って来ました。

第 320回ロビーコンサート 25

1. 華麗なるポロネーズ第 1番 (ヴィエニアフスキ)

2. ツィガーヌ (ラヴェル)

3. カプリス第 1番 & 第 5番 (パガニーニ)

4. 序奏とロンド・カプリチオーソ (サン=サーンス)

ヴァイオリン:成田達輝

ホテルオークラ 本館 第 5階 メインロビー

なんと、無料コンサートで、さらに無料でシャンパンも振舞われました。

ロビーのガヤガヤとした雰囲気の中、華麗なるポロネーズが始まりました。技巧的な曲ですが、余裕綽々な雰囲気で演奏していて、軽やなタッチのボウイングが、素晴らしかったです。2曲目、ツィガーヌは随所に「聴かせる」ための工夫がされていて、魅了されました。また、やや音が deadな環境ではあったと思うのですが、低音の響きの豊かさが印象に残りました。パガニーニのカプリスは圧巻、特に第 5番は、カヴァコスを彷彿とさせる凄まじいテンポでした。最後のロン・カプは先日のリサイタルで聴いた曲ですが、雰囲気の作り方が、何度聴いても感動モノでした。

成田達輝氏は、11月6日に浜離宮でリサイタルをされるとのことで、今から楽しみにしています。

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焼肉

By , 2013年7月10日 7:47 AM

7月7日にヴァイオリニストの成田達輝氏たちと 4人ほどで食事しました (神経内科医 2人、intensivist 1人)。場所は前回に引き続き翔山亭

私がベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲の自筆譜ファクシミリを持参すると、成田氏が非常に喜んでくださり、みんなで口ずさみながら、「あ、このページはこのページを書きなおしたものだ」とか、「この音符は書き直した後がある」とか、盛り上がりました。楽譜にはインクの染みが沢山あり、「ベートーヴェンが焼肉のタレこぼしたじゃないの?」という冗談も飛び出しました。楽譜は成田氏にお貸しし、何か気付いたことがあったら教えていただくことにしました。

2013年6月に仙台コンクールのガラ・コンサートでヴァイオリンの弦が切れた時、成田氏が「人生には3つの坂があります」と舞台上で説明した話題を振ると、「あれは中学の先生に習った言葉です」と言っていました。ちなみにその中学の先生は体育を教えており、intensivistの先生と中学校、高校が同級生で、大学も学部は違うものの同じだったそうです。指揮者のヴェロ氏に成田氏が格言の意味をフランス語でどうやって説明したか、実際に見せてくれました。

あとは、今流行りのブループTSUKEMENの話題を振ると、メンバーの一人がさだまさしの息子であること、その方とかつてのヴァイオリンの師が同じ藤原浜雄氏であることを教えてくださいました (というか、今回の飲み会のメンバーが既にそのことを知っていました)。

他には、作曲家の酒井健治氏の話や、現代音楽がどこに向かうのか・・・など、語り合いました。至福のひとときでした。

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まさか

By , 2013年6月14日 8:11 AM

2011年4月23日のブログで、「弦が切れたとき」という話を書きましたが、第 5回仙台音楽国際コンクールの入賞者記念ガラ・コンサートで、成田達輝氏の弦が切れるハプニングがありました。Youtubeで動画が見られます。

・NARITA Tatsuki, Violin Section Prizewinners’ Gala Concert of the 5th SIMC

動画の 10分くらいのところで弦が切れます。彼は爽やかに「3分ください」と言い残し、弦を張り替えるため楽屋に消えました。

SIMC 仙台国際音楽コンクールボランティアブログにこの時の話が載っています。

成田さんの演奏中、弦が切れるアクシデントが・・・・・・・・。
3分後、ステージに戻ってきた彼は少しも慌てず、恩師の言葉でフォローしました。
「人生、上り坂と下り坂。そして、もうひとつ “まさか” があります。」
うーん、大物!これからが楽しみな逸材です。
成田さんはその言葉を指揮者のヴェロさんにも説明していました。
ヴェロさんは理解したのでしょうか・・・・・・・・余計なお世話ですが・・・・・・・・・。

「人生、上り坂と下り坂。そして、もうひとつ “まさか” があります」というセリフは、残念ながら Youtube動画ではカットされていました。7月に、成田達輝氏と会う予定があるので、この話は聞いてみたいと思います。

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仙台国際コンクール

By , 2013年6月8日 11:13 PM

第 5回仙台国際コンクールのヴァイオリン部門が終わりました。

クラシック音楽情報誌 月刊「ぶらあぼ」

第5回仙台国際音楽コンクールヴァイオリン部門の入賞者が決まりました。

第1位 16 リチャード・リン Richard LIN 男 アメリカ/台湾
第2位 21 成田 達輝 NARITA Tatsuki 男 日本
第3位 33 富井 ちえり TOMII Chieri 女 日本
第4位 26 アンナ・サフキナ Anna SAVKINA 女 ロシア
第5位 10 キム・ボムソリ KIM Bomsori 女 韓国
第6位 32 スリマン・テカッリ Suliman TEKALLI 男 アメリカ

聴衆賞
1日目 16 リチャード・リン Richard LIN 男 アメリカ/台湾
2日目 26 アンナ・サフキナ Anna SAVKINA 女 ロシア
3日目 10 キム・ボムソリ KIM Bomsori 女 韓国

審査員特別賞
15 リ・ゼユ・ヴィクター LI Zeyu Victor 男 中国

応援していた成田達輝氏が優勝を逃して残念です。でも、彼くらいの実力なら、コンクールのお墨付きは必要ないでしょう。お疲れ様でしたと伝えたいです。

嬉しいことに、このコンクール、Youtubeで演奏を聴くことが出来ます。

コンクール動画 YouTube 配信

成田達輝氏、特に予選でのヴァイオリン協奏曲(モーツァルト)、ロマンス(ベートーヴェン)は素晴らしい出来栄えでした。このコンクールに出場した、ほとんどの演奏家を聴きましたが、個人的には成田氏の演奏が一番好きです。

ページの作りを見ると、ガラ・コンサートも動画がアップされそうな雰囲気ですね。今から楽しみにしています。

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成田達輝リサイタル

By , 2013年5月24日 8:23 AM

某医師とともに御招待いただき、成田達輝氏のヴァイオリン・リサイタルを聴いてきました。

ベートーヴェン:ヴァオイリン・ソナタ第 8番 ト長調 Op.30-3

フォーレ:ヴァイオリン・ソナタ第 2番 ホ短調 Op.108

シマノフスキ:<神話>Op.30より <アレトゥーサの泉>

フランク:ヴァイオリン・ソナタ イ長調

成田達輝 (Vn) / テオ・フシュヌレ (Pf)

2013年 5月 10日 19:00開演 トッパンホール

ベートーヴェンは、現代風の演奏。淀むところなく、駆け抜けていきました。こういうスタイルには好感が持てます。ただし、フランス音楽を聴いているような軽さが少しだけ気になりました。

フォーレ、シマノフスキ、フランクの演奏は、聴いていて何も不満な点はなく、ただただ音楽に浸って楽しみました。成田氏の演奏は、意図が伝わってくるので、聴いていて面白いです。また、卓越した技術があり、安心して聴くことができます。

私がこの日一番衝撃を受けたのは、アンコール曲、サン=サーンス作曲「序奏とロンド・カプリチオーソ (通称ロン・カプ)」です。中学校 2年生の時、この曲を発表会で弾いて一時ヴァイオリンをやめたので、私にとって思い出の曲です。成田氏の演奏は私の持っていた曲のイメージを良い意味で覆しました。この曲としては、私が過去に聴いた中で最も素晴らしい演奏だったと思います。

そんな成田達輝氏がファースト・アルバムを出すことになりました。何と、ロン・カプが収録されています。これは絶対「買い」ですね。

成田達輝 CD

成田達輝 CD

発売日の 9月 21日まで待てない方、エリザベート・コンクールの記念 CDに、成田達輝氏の演奏が収録されています。こちらを楽しみましょう。

2012年エリザベート王妃国際コンクール・ヴァイオリン部門 (Queen Elisabeth Competition of Belgium – violin) (3CD+bonus CD) [輸入盤] [CD]

(関連記事)

ポリーニ・パースペクティヴ 2012
YAKINIKU

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Fiddler’s neck

By , 2013年5月1日 7:43 AM

首筋フェチのヴァイオリン弾きには外せない論文を見つけたので紹介します。 2012年9月の Dermatology online journalからです。

Fiddler’s neck: Chin rest-associated irritant contact dermatitis and allergic contact dermatitis in a violin player

Jennifer E Caero1 BA, Philip R Cohen2,3,4 MD
Dermatology Online Journal 18 (9): 10
1. The University of Texas Medical School at Houston, Houston, Texas
2. Department of Dermatology, University of Texas Health Science Center, Houston, Texas
3. Department of Dermatology, University of Texas MD Anderson Cancer Center, Houston, Texas
4. Health Center, University of Houston, Houston, Texas

Abstract

Fiddler’s neck refers to an irritant contact dermatitis on the submandibular neck of violin and viola players and an allergic contact dermatitis to nickel from the bracket attaching the violin to the chin rest on the violinist’s supraclavicular neck. A 26-year-old woman developed submandibular and supraclavicular left neck lesions corresponding to the locations of the chin rest and bracket that was attached to her violin that held it against her neck when she played. Substitution of a composite chin rest, which did not contain nickel, and the short-term application of a low potency topical corticosteroid cream, resulted in complete resolution of the allergic contact dermatitis supraclavicular neck lesion. The irritant contact dermatitis submandibular neck lesion persisted. In conclusion, violin players are predisposed to developing irritant contact dermatitis or allergic contact dermatitis from the chin rest. We respectfully suggest that the submandibular neck lesions from contact with the chin rest be referred to as ‘fiddler’s neck – type 1,’ whereas the supraclavicular neck lesions resulting from contact of the bracket holding the chin rest in place be called ‘fiddler’s neck – type 2.’ A composite chin rest should be considered in patients with a preceding history of allergic contact dermatitis to nickel.

ヴァイオリンの顎当てによる接触性皮膚炎を fiddler’s neckと呼びます。

今回の症例は 26歳女性です。ニッケルのイヤリングで湿疹の既往があります。左顎下部に 15 x 15 mmの高色素斑、左鎖骨上部に掻痒感のある、紅斑、湿疹の隣接があり、これらは融合傾向を示しました。楽器を構えてもらうと、左顎下部は楽器の顎当てが当たる場所で、鎖骨上部は顎当てを固定するニッケル製の器具が当たる場所でした。fiddler’s neckと診断し、desconide 0.05%クリームの塗布による治療を行いました。顎当てを固定する器具に金属を含まないヴァイオリンを使用することで鎖骨上部の皮疹は改善しましたが、顎下部の皮疹は残存しました。

Onderらが 97名のオーケストラ奏者、20名の歌手を調べたところでは、最も皮膚疾患の多かったのはヴァイオリン奏者で、33名のヴァイオリン奏者中 6名で fiddler’s neckを認めました。また、Gamblicherらによると、ドイツの音大生 412名のうち、21.6%に楽器関連皮膚疾患があり、最もリスクが高かったのが弦楽器奏者及び撥弦楽器奏者でした。

Fiddler’s neckには下記の 2つの病態があります。

①type 1: 一次接触性皮膚炎 (irritant contact dermatitis) で主として顎当ての当たる顎下部左側に見られるものです。色素沈着を伴う、或いは伴わない苔癬化として記載されます。病因としては、頸部における楽器の圧迫、顎当てと皮膚の摩擦、衛生、楽器自体が挙げられます (これらは fiddler’s neck type 2も増悪させるかもしれません)。治療は原因から遠ざかることです。楽器を弾く限り原因から遠ざかることは難しいですが、顎当てと首の間にクッションを置くのは一つの方法です。

②type2:アレルギー性接触性皮膚炎 (allergic contact dermatitis) で、多くは顎当てを固定する器具に含まれるニッケルによって起こります。通常、鎖骨上部左側に起こります。掻痒感のある紅斑で、不明瞭なあるいは水疱性のあるいは両者を伴った浸潤性、落屑性皮疹であるかもしれません。治療は原因から遠ざかることです。顎当てを固定する金属の器具を覆うように包帯を用いることや、根本的には器具を金属を含まないものに交換するといった方法があります。

 そういえば、私の妹にもあった気がします。わりと頻度が高いようなので、次からはヴァイオリン或いはヴィオラ奏者の首筋をもっと注意深く観察しておきたいと思います。若い女性ヴァイオリン奏者の首を眺めすぎて通報されないようには気をつけます (^^;

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クリスマスBMJ

By , 2013年4月10日 7:53 AM

British Medical Journal (BMJ) は、超一流医学雑誌ですが、毎年クリスマス特集号でネタ系論文を掲載しています。一例として下記に紹介します。

BMJクリスマス号

医師の中で一番ハンサムなのは外科医

減塩を推奨する政府・医療機関は、減塩ができていない

最近、2011年のクリスマス BMJにベートーヴェンの難聴と作曲スタイルの論文が掲載されていることを知り、読んでみました。

Beethoven’s deafness and his three styles

論文を読んだ後、AFPニュースで詳細に紹介されているのを見つけました。

難聴が生み出したベートーベンの名曲たち、オランダ研究

2011年12月22日 18:37
【12月22日 AFP】ドイツの作曲家ベートーベン(Ludwig van Beethoven)が生み出した名曲の数々に、聴力の衰えが深く反映されているというオランダの研究チームによる論文が、20日の英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(British Medical JournalBMJ)」に掲載された。

ベートーベンが楽器や人の話し声の高音が聞こえづらいと最初に訴えたのは1801年、30歳のときだった。1812年には、ほとんど叫ぶように話さないとベートーベンには聞き取れなくなり、1818年には筆談でのコミュニケーションを始めている。1827年に死去したが、晩年には聴力はほぼ完全に失われていたとみられる。

ライデン(Leiden)にあるオランダ・メタボロミクスセンター(Netherlands Metabolomics Centr)のエドアルド・サセンティ(Edoardo Saccenti)氏ら3人の研究者は、ベートーベンの作曲活動を初期(1798~1800年)から後期(1824~26年)まで4つの年代に区切り、それぞれの時期に作曲された弦楽四重奏曲を分析した。

研究チームが着目したのは、各曲の第1楽章で第1バイオリンのパートが奏でる「G6」より高い音の数だ。「G6」は、周波数では1568ヘルツに相当する。

難聴の進行とともに、G6音よりも高音域の音符の使用は減っていた。そしてこれを補うかのように、中音域や低音域の音が増えていた。これらの音域は、実際に曲が演奏されたときにベートーベンが聞き取りやすかった音域帯だ。

ところが、ベートーベンが完全に聴力を失った晩年に作られた曲では、高音域が復活している。これは、内耳(骨伝道)でしか音を聞けなくなったベートーベンが作曲の際、演奏された音に頼ることをやめ、かつての作曲経験や自身の内側にある音楽世界に回帰していったためだと、研究は推測している。(c)AFP

【参考】サセンティ氏らによる実演付きの研究結果説明の動画(ユーチューブ)(英語)

論文の内容はこの通りです。少し補足すると、ベートーヴェンのカルテットは通常 3つの時期 (前期、中期、後期) に分けられますが、この論文では 4つに分けています。すなわち前期 1798-1800年 (作品 18), 中期1 1805-1806年 (作品 59), 中期2 1810-1811年 (作品 74, 95), 後期 1824-1826年です。中期の作品 59と、作品 74, 95はスタイルが異なり、作曲時期も違うため、分けたようです。 

論文にある Figure 2を見ると、著者らの主張が一目瞭然です。

Fig 2

Fig 2

(追記) 昔、ベートーヴェンの耳疾についてブログに書いたことがありますので、興味のある方は御覧ください。

耳の話

さらに、ロマン・ロランが書いた本に、ベートーヴェンが伝音性難聴であったことを示唆する記述がありました。併せてどうぞ。

ベートーヴェンの生涯

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