ジェラール・プーレの演奏を聴いて来ました。ジェラール・プーレは世界的なヴァイオリニストである一方、ヴァイオリンの名教師としても知られています。
2012年7月11日 (水) 午後 7時 日仏会館 1Fホール
櫻木枝里子
ラモー:新クラヴサン組曲より アルマンド、クラント、サラバンド
ラヴェル:夜のガスパール オンディーヌ、絞首台、スカルボ
夜船彩奈
白山智丈: 前奏曲(初演)、幻想曲(再演)
ジェラール・プーレ/金澤希伊子
ラヴェル:フォーレの名による子守唄、ハバネラの形式による小品、ヴァイオリンとピアノのためのソナタ
一曲目の新クラヴサン舞曲は拍感に乏しい演奏で、舞曲としての雰囲気が感じられませんでした。この手の曲では和声に従って音の軽重をつけることがかなり重要になってきますが、軽く演奏すべき箇所に変なアクセントがついていたり、あるいはその逆だったりして、ドタドタした印象を与えました。多分専門外の曲だったのだと思いますが、残念でした。
一方で、二曲目のラヴェルは素晴らしかったです。漂うようなリズムの中、旋律が綺麗に描かれていました。
白山智丈氏が作曲した曲は、普段現代曲を聴かない私でも非常に聴きやすく楽しめました。その一方で、例えば前奏曲では左手バスが鍵盤の 12音すべてを使うようになっていたり、見えない工夫が多く凝らされているようです。白山氏は銀行員だったのに、退社して作曲を志したようで、安定した地位を捨てて音楽に打ち込めるところが凄いなと思いました。夜船さんの演奏も素晴らしかったです。
さて、休憩を挟んで後半はプーレ氏の演奏。フォーレの名による子守唄、ハバネラの形式による小品は素晴らしかったのです。ヴァイオリンとピアノのためのソナタはヴァイオリニストとピアニストの対話があまりなくて若干期待はずれでした。プーレ氏はこのことにかなり苛立たった雰囲気で、「俺の音も聞けよ」的なジェスチャーで、ピアニストの耳元で弾いたり、弓で指揮のような真似をしていましたが、ピアニストは黙々と演奏し、自分のスタイルを崩しませんでした。一方で、アンコールは涙が浮かぶほど美しい曲、美しい演奏でした。曲名を失念したのが残念。
初めて生で演奏を聴いたプーレ氏について、ボウイングが非常に軽やかであること (しかし音は軽薄ではない)、音の繋ぎ目が滑らかであること、ヴィブラートの幅が広く美しいこと・・・といった記憶が強く残りました。彼の音を一言で形容すると、「シルクの肌触りのような音」と表現できると思います。CDをいくつか購入しましたので、聴くのが楽しみです。
「歌を忘れてカナリヤが (原口隆一・麗子著、文芸社)」を読み終えました。
著者の原口隆一氏は武蔵野音大の教員であり、声楽家としても活動を続けていました。ところが、 1993年 9月 24日に脳梗塞を発症しました。後遺症として失語症が強く残り、著者は地道にリハビリを続けました。実際の彼のノートの一部が印刷されているのですが、「お父さん=男→父→パパ」と書いてあります。さらにルビまで振ってあるのです。このレベルの単語が失われてからのリハビリだったので、大変な努力が必要だったのではないかと思います。
しかし、彼は歌手としての復帰を目指し、2000年にその夢を叶えました。その努力の奇跡が本に描かれています。
私は神経内科医として脳梗塞の患者さんを多く見ていますが、患者さんの思いというものが伝わってきて、非常に感動しました。
同じように脳梗塞の後遺症で苦しんでいる方、リハビリ関係の方、脳卒中診療に関わる方などに読んで欲しいと思いました。また、音楽家が内面を綴った文章ですので、音楽関係の方にも興味を持っていただけるのではないかと思います。
「唄を忘れたカナリヤ」(西條八十「砂金」より)
唄を忘れた金糸雀(かなりや)は
後の山に棄てましよか
いえいえ それはなりませぬ
唄を忘れた金糸雀は
背戸の小藪に埋(い)けましょか
いえいえ それはなりませぬ
唄を忘れた金糸雀は
柳の鞭でぶちましよか
いえいえ それはかわいそう
唄を忘れた金糸雀は
象牙(ぞうげ)の船に銀の櫂(かい)
月夜の海に浮べれば
忘れた唄をおもいだす |
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(参考)
第35回日本神経心理学会総会
古い話になってしまいましたが・・・。1月24日にルーマニア国際音楽コンクール入賞者披露演奏会を聴きに行って来ました。
2012年1月24日 会場18:00 開演 18:30
サントリーホールブルーローズ
1. ピアノ部門奨励賞:高橋健一郎
2. 管楽器部門第1位 (サックス):荒木絵美
3. 声楽部門第1位・ルーマニア大使館賞:善国亜由子
4. アンサンブル部門第1位・日本ルーマニア音楽協会理事会賞・オーディエンス賞 箏三重奏:内藤美和・本間貴志・マクイーン時田深山
5. 打楽器部門第1位(マリンバ):渡邉弥生
6. 管楽器部門第1位・本濱寿明
7. 弦楽器部門第一位(ヴァイオリン)・コンチェルトデビュー賞・最優秀賞:石神真由子
このコンクール、ルーマニアの方々の演奏を聴けるかと思ったら、過去の入賞者はほぼ全員日本人、日本で行われるという、正真正銘の日本のコンクールだったんですね。コンサートの終わりにルーマニア大使が挨拶したりという演出はありましたが・・・。
演奏はというと、普段聴けない楽器の演奏が非常に新鮮でした。特に、箏やマリンバが素晴らしかったですね。一方で、確かに上手いのだけどソリストとして食べていくにはちょっと難しいかなと思う方もいました。
最後にヴァイオリンということで、石上真由子さんの演奏 (無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番:イザイ) について。彼女は京都府立医大の学生で、私が注目していたヴァイオリニストの一人です。でも、今回の演奏は、メタメタでした。妹が聴いた最近の別の演奏会でも、出来が悪かったらしいです。上杉春雄先生のように、医業と音楽を両立させた稀有な例はありますが、彼女のような「未完の大器」的な荒削りなスタイルでは、難しいのではないかと感じました。
6月2日にライプツィヒ弦楽四重奏団を聴きに行って来ました。
東京藝術大学 室内楽コンサート 2012
2nd Day 6.8 [金] 19:00開演
会場:東京藝術大学奏楽堂
ハイドン:<弦楽四重奏曲 第77番> ハ長調 作品 76-3 「皇帝」
モーツァルト:<弦楽四重奏曲 第19番> ハ長調 K.465 「不協和音」
メンデルスゾーン:<弦楽四重奏曲 第5番> 変ホ長調 作品 44-3
実験が長引いたので、会場に到着したのは 2曲目の第 3楽章でした。演奏中は中に入れないので、会場前でワインを頼み、モニターを見ながら、スピーカーから流れる音を聴いていたのですが、これが絶品でした。アンサンブルもさることながら、アルバン・ベルク弦楽四重奏団を彷彿とさせるような豊かな響き。洗練されていない音はありませんでした。
後半、メンデルスゾーンは中に入って聴くことができました。この室内楽は、ビオラが非常にしっかりしていたのが印象的でした。昔、ヴァイオリンの師に「弦楽四重奏は第一ヴァイオリンとチェロが上手いのは当たり前、第二ヴァイオリンとビオラが上手なのが一流のカルテット」と言われたことがあるのですが、まさにそれを実感しました。
さらに、パンフレットを見ていて、第二ヴァイオリンのティルマン・ビュニングと、ヴィオラのイーヴォ・バウアーが、ゲルハルト・ボッセさんの弟子であることを知り、びっくりしました。ボッセ先生は残念ながら亡くなってしまいましたが、弟子たちが素晴らしい演奏を続けているのを見えて、何かを受け継いでいくというのはこういうことなのだなぁと思いました。
–関連記事
①ライプツィヒ・ゲヴァントハウス弦楽四重奏団
②ゲルハルト・ボッセ氏
2012年5月30日にクリスティアン・テツラフを聴いてきました。本当は、前日の協奏曲の方のチケットを取っていたのだけれど、医局の新歓とぶつかり泣く泣く妹夫婦にあげ、こちらのチケットを取り直したのです。
プログラム
①シマノフスキ:神話 Op.30 1. アレトゥーサの泉, 2. ナルキッソス, 3. ドリュアースとバーン
②イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番ト短調 Op. 27-1
③パガニーニ:24の奇想曲 Op.1より 第16番、第6番、第15番、第1番
④クルターク:<サイン、ゲーム、メッセージ>より J.S.バッハへのオマージュ、タマージュ・ブルムの思い出に、Video、カレンツァの舞曲、哀しみ、Zank-Chromatisch
⑤エネスク:ヴァイオリン・ソナタ第2番より <半音階的切り返し>
ヴァイオリン:クリスティアン・テツラフ、ピアノ:児玉桃
クリスティアン・テツラフはバッハの無伴奏ソナタ/パルティータ、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲の録音が素晴らしく、またベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲では自作のカデンツァを披露していたりして、昔からファンでした。今回は、ドイツで聴いて以来 3年振りいうことで、楽しみにしていました。
パガニーニのカプリスでは前半やや音がうわずるところがあったけれど、今回のハイレベルな技巧が要求されるなプログラムに対し、テクニック的に安定した演奏を見せました。彼の素晴らしいところは、小さい音量での空気の作り方だと思います。そこが非常に繊細である一方、盛り上げるべきところではしっかりと盛り上げます。音楽的な解釈も素晴らしく、イザイでは涙が出るくらい感動しました。
演奏後はサイン会の列に並び、プログラムと、買った CD両方にサインしてもらいました。ちなみに、CDを大量に買い占めて握手してもらおうとしている人はいませんでした (違
日仏学会で、岩田誠先生の講演が行われます。
(科学講演会) 描画の神経科学
日時: 2012年07月06日(金曜) 18:00
会場: 日仏会館ホール – 渋谷区恵比寿3丁目
入場無料
● 岩田誠 (日仏医学会会長、東京女子医科大学名誉教授)
主催: 公益財団法人日仏会館、日仏医学会、日仏海洋学会、日仏工業技術会、日仏生物学会、日仏獣医学会、日仏農学会、日仏薬学会、日仏理工科会
後援: ABSIF (科学部門フランス政府給ひ留学生の会)
生物の進化史上、自然発生的に絵を描くことを始めたのは、われわれHomo sapiensのみです。既にある程度の話し言葉の能力を持っていたと考えられ、我々に最も近い存在であったとされる旧人(Homo neanderthalensis)でさえ、絵を描くことはしなかったようです。その意味で,ヒトはHomo pictorと呼んでも良い存在であると言えます。それでは、ヒトは何故絵を描くのでしょうか。また、どうしてヒトだけが絵を描く能力を持っているのでしょうか。それらの諸問題を、認知考古学、動物行動学、神経心理学、発達神経心理学などの多方面からのアプローチで探ってみましょう。また、様々な病気が、画家の描く作品に与える影響についても、考えてみたいと思います。
岩田先生の講演は、いつ聴いても感動を覚えます。早速申し込みました。
似たような内容の講演をされたことがあるようで、日本子ども学会のサイトに文章が載っていました。講演を聴きに行けない方は、こちらで雰囲気を味わってみて下さい。
「描画の発達と進化」 (pdfファイル)
ちなみに、ジェラール・プーレ氏のコンサートが別の日に行われるようで、こちらも申し込みました。ジェラール・プーレ氏の父、ガストン・プーレはドビュッシーと親交があり、以前ブログで紹介したことがあります。非常に優れた音楽家ですので、クラシック音楽好きの方は是非申し込まれることをお勧めします。
(フランス音楽の夕べ) フランス音楽の夕べ
日時:2012年07月11日(水曜) 19:00 (18:30開場)
会場:日仏会館ホール – 渋谷区恵比寿3丁目
演奏 櫻木枝里子(p)、夜船彩奈(p)、白山 智丈 (p)、金澤希伊子(p)、ジェラール・プーレ(Vn) Soirée de musique française – SAKURAGI Eriko (p), YOFUNE Ayana (p), Gérard POULET (vn), KANAZAWA Keiko (p),/
参加費:
● 日仏会館会員 3.000 円
● 一般 2.000 円、学生 1.500 円
・ピアノ
櫻木枝里子
ラモー 新クラヴサン組曲より
ラヴェル 夜のガスパール
・ピアノ
夜船 彩奈
白山 智丈
前奏曲【初演】
幻想曲【再演】
・ヴァイオリン
ジェラール・プーレ
・ピアノ
金澤 希伊子
ラヴェル
フォーレの名による 子守唄
ハバネラの形式による小品
バイオリンとピアノのためのソナタ
少し古いニュースになってしまいましたが・・・。
何億円もすることで有名なバイオリンの名器「ストラディバリウス」や「ガルネリ」は、現代のバイオリンと大差ないとする意外な実験結果を仏パリ大学の研究者らが3日、米科学アカデミー紀要で発表した。
研究チームは、2010年、米インディアナ州で開かれた国際コンテストに集まった21人のバイオリニストに協力してもらい、楽器がよく見えないよう眼鏡をかけたうえで、18世紀に作られたストラディバリウスや、現代の最高級バイオリンなど計6丁を演奏してもらった。どれが一番いい音か尋ねたところ、安い現代のバイオリンの方が評価が高く、ストラディバリウスなどはむしろ評価が低かった。
研究チームは「今後は、演奏者が楽器をどう評価しているかの研究に集中した方が得策」と、名器の歴史や値段が影響している可能性を指摘している。
論文の abstractを提示します。
Most violinists believe that instruments by Stradivari and Guarneri “del Gesu” are tonally superior to other violins—and to new violins in particular. Many mechanical and acoustical factors have been proposed to account for this superiority; however, the fundamental premise of tonal superiority has not yet been properly investigated. Player’s judgments about a Stradivari’s sound may be biased by the violin’s extraordinary monetary value and historical importance, but no studies designed to preclude such biasing factors have yet been published. We asked 21 experienced violinists to compare violins by Stradivari and Guarneri del Gesu with high-quality new instruments. The resulting preferences were based on the violinists’ individual experiences of playing the instruments under double-blind conditions in a room with relatively dry acoustics. We found that (i) the most-preferred violin was new; (ii) the least-preferred was by Stradivari; (iii) there was scant correlation between an instrument’s age and monetary value and its perceived quality; and (iv) most players seemed unable to tell whether their most-preferred instrument was new or old. These results present a striking challenge to conventional wisdom. Differences in taste among individual players, along with differences in playing qualities among individual instruments, appear more important than any general differences between new and old violins. Rather than searching for the “secret” of Stradivari, future research might best focused on how violinists evaluate instruments, on which specific playing qualities are most important to them, and on how these qualities relate to measurable attributes of the instruments, whether old or new.
この研究は、大きな波紋を呼びました。俗に「オールド」と呼ばれる楽器に、客観的な評価が行われるのは素晴らしいことだと思います。しかし、場末のヴァイオリン弾きから言わせて貰えば、この研究にはいくつかの疑問点が存在します。論文の内容を紹介し、最後に感じたことを書きたいと思います。
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バッハ・コレギウム・ジャパンが演奏する「J.S. バッハ:カンタータ集」を購入して聴きました。
バッハ・コレギウム・ジャパン:震災義援プロジェクト作品 – J.S. バッハ:カンタータ集 (BACH FOR JAPAN / Bach Collegium Japan, Masaaki Suzuki) [日本語帯・解説付輸入盤] [CD]
聴いてみた感想は、良く言えば「落ち着いた演奏」、悪く言えば「ドキドキ感があまりない」といったものですが、この辺は好みでしょうね。カンタータなのでこう演奏されるべきものかもしれません。
この CDは震災義援プロジェクト作品で、印税収入が義援金として寄付されます。音楽を聴いて寄付まで出来る、一石二鳥の CDです (^^)
何度かお話したことがあり、以前入院されたときはお見舞いにも行ったことがあります。残念でなりません。ご冥福をお祈り致します。
2012.2.1 13:20
ゲルハルト・ボッセ氏
世界的指揮者で、平成6年から日本に在住、12年から神戸市室内合奏団の音楽監督を務めるドイツ人バイオリニスト、ゲルハルト・ボッセ氏が1日、大腸がんのため亡くなった。90歳。通夜、葬儀・告別式は家族のみで行う。喪主は妻、美智子(みちこ)さん。後日、お別れの会を行う。
1922年、ドイツ出身。第2次世界大戦後の東ドイツ政権下で、世界屈指のオーケストラ、ゲヴァントハウス管弦楽団の第1コンサートマスターを長年務めた。一方、昭和55年に鹿児島県で、創始者として「霧島国際音楽祭」を開催、平成13年から名誉音楽監督を務めた。平成6年、東京芸術大学の招聘で、ドイツから活動の拠点を日本に移し、現在は大阪府高槻市に在住。14年から新日本フィルハーモニー交響楽団ミュージック・アドヴァイザーなども務める。