精神医学の歴史(1)
今、読んでいる本が「精神医学の歴史(小俣和一郎著、レグルス文庫)」です。まだ四分の一くらいしか読んでいないので、全てを把握した訳ではありませんが、これが実に面白い本です。
出だしは、人類の歴史から始まります。それから言語の起源に触れます。なぜかというと、言語なくして精神病を診断することは非常に困難であるし、言語の中に昔の精神病に関する表現が残っているからです。一方で、文字のない言葉も存在し、インディオ文化、アイヌ語、ポリネシア語などが該当することを初めて知りました。神経内科では痴呆(dementia)を扱いますが、「dementia」はラテン語の「de=逸脱」「mens=心」から派生しており、他に「amentia」という単語があるそうです。
次に、宗教との関わりに進みます。ここでヒポクラテスの誓いに関する面白い記述があります。当時はヒポクラテスらの自然療法主義よりも、宗教的な治療であるアスクレピオス信仰の方が人気が圧倒的に高く、両者は対立していた可能性があります。攻撃を避けるため、ヒポクラテスがアスクレピオス信仰に対して帰順の意を示したのが、「誓い」であると考えられるのです。従って、「誓い」は「医神アポロン、(中略)その他すべての神々の前で、私は誓います。」と始まります。その事実を示されると、文章の受け止め方が少し変わってきます。
また古代ギリシャには、精神の在処を横隔膜(Phrenos)に求める考え方があり、これが転じて「統合失調症(schizo-phrenia)」という語が出来たそうです。
これからも通勤時間に読み進めていくつもりですが、筆者はとても論理的で説得力があります。言語を中心とした文化論や芸術にも造詣が深く、本書は名著と思います。
医学史についても触れながら話が展開していきますが、昔読んだ「医学の歴史(梶田昭著、講談社学術文庫)」の復習にもなり、楽しめました。